ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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じっくり進行でいきますよー!
すいません、リアル多忙なだけなんです。
許してください! 何でもしますから!


僕の魂の場所

 

「よし、じゃあお開きにしようか」

「分かった、候補生二名はこの後、受付に行き、訓練所の手配を済ませる事。指導はオレとロミオが入る」

「はい!」

「分かりましたー!」

 

 あの言葉の後、反応はまちまちだった。ネルちゃんとは学校の思い出を話して二人で盛り上がったり、ジュリウスやロミオとナナちゃんがマグノリア・コンパスでの思い出を話し合って。博士は楽しそうに微笑んでいた。

 うん、やっぱり彼らがいてくれてよかった。僕のいる場所は、きっとここに違いない。

 部屋を出ていく彼らを見送りながら、僕はふと二年前を思い出していた。

 

 ――二年前。

 それは僕がフェンリル士官学校を卒業する年で、博士と初めて出会った運命の日だった。

 思えば、僕はあの時から変わる事は出来たのだろうか。

 

 

 

 

 卒業式が終わり、僕ことセン・ディアンスは廊下に立っていた。とはいっても罰ゲームとかでなく、ただ単に卒業後の進路を考え直していたのである。

 周囲の赤服の卒業生から侮蔑と言う別れの言葉を聞き流しながら、僕は溜息を吐いていた。余談ではあるが、赤服とは成績上位の卒業生たちを示す。要するに僕とは遠い存在なのだ。だからあまり気にしない。

 フェンリル士官学校は三年課程であり、僕は言うなればギリギリでそれを潜り抜けて来た。しかし追試は一度も受けた事は無い。こればかりは転生をした者の意地として負けられないのである。

 卒業後、進路は主に複数へ別れる―どれもフェンリル関連施設だが―。神機の整備を行う整備士、フェンリルで働き様々な場面で奮闘する兵士、後はフェンリルで研究を行う研究者の三つ。と言うかこれらしか選択肢が無い。言うなれば、決めた道を三年間で徹底的に仕上げていき、現場へ出るのである。

 必要なのは、学校から認められたと言う推薦と企業の選定。これを突破しなければ職に就くことは出来ない。資格を独学で取る者もいるが、それは余程の努力を積んだ者でない限り、僕は無理だと思っている。

 

「……はぁ」

 

 溜息が出るのも仕方がない。僕は一応、道具開発などが出来る研究者として働きたいと考えたが、何故か学校側からの妨害が来るのだ。

 恐らくはディアンス家からの陰謀だろう。余程、僕は疎ましく思われているらしい。元はと言えば、完全に家――と言うか僕の両親が問題なのだが、そのとばっちりが僕に回って来たのだコンチクショウ。

 僕を妨害すれば学校はディアンス家から資金を貰えるため、嬉々として僕を潰しに来る。今までは成績を完璧以上に仕上げて、何とかギリギリで潜り抜けて来たが今度こそ詰んだらしい。

 今後の進路だが、今のままではまた根無し草の生活に逆戻り。

 ここで一つ、何かアクションを起こさなければマズい。そう、色々とマズいのである。

 

「うーん……」

 

 もう一つは貴族の家で働く事だが、こちらは完全にアウト。ディアンス家よりも強い身分を持つ家でなければ、迷惑を掛けてしまう。逆にディアンス家よりも高い身分と言えば最早数える程だが、それが僕を受け入れてくれるかと言えばまた別の話だ。

 残る道としてはジャーナリストだが、これもまた非常に危ういし多分僕には向いていない。一つ間違えれば消されかねないし、元々ジャーナリストなどこの世界には余る程いる。

 これは少しマズいかもしれない。さすがに、僕とてこういった事に何度か遭遇こそしてきたが今回は中々にマズい。何せ、働けない=死だ。かろうじて食い扶持をつなげることは出来るだろうが、それとて長くは持つまい。働いたら負け? 働けなかったら死ぬよ?

 再度、道を考え直す。まだ何とかする方法はあるはずだ。思考を放棄するという事は、僕にとっては屈服を意味する。例え負け続けの人生でも、決して折れてはいけないものがあるのだ。

 

「困っているようね」

「……!」

 

 周囲がざわつき始めた。今まで僕を無視していた視線が一気にそこに集中し、僕に掛けられていた言葉は静止する。

 見れば車椅子に乗った少女が僕の隣にいた。黒いベールに、傷跡の残る頬。透き通るような瞳。一目で貴族の少女だと分かる。

 彼女の名前は知っている――と言うよりも、知らない方がおかしいほどの著名人である。そういえば僕の学校では、ファンクラブが出来ていた気がする。

 

『お、おい。ラケル博士だ』

『ら、ラケル・クラウディウス博士だ。人類最高の頭脳って言われる……!』

『何で、あんな“無能”の所に……?』

 

 だが僕が驚いたのは彼女の容姿では無い。彼女自身の中にある物だ。同じ匂いがする。僕も彼女も同じなのだろう。一度死にかけた時に何かを得てしまった。

 そうだと本能的に気づいてしまう。

 

「フフッ、気づいたみたいね。嬉しいわ」

「……けど、根本的な所は違うみたいですね」

「えぇ、そうね。私は変わらないけど、貴方は変わる。何にでも変わってしまう。……そうね、貴方がいたら出来るかもしれない」

「……」

 

 それが何なのかは聞かない。もう僕も彼女も分かってしまっているから。

 少女は微笑みながら、僕の目線の先を見る。そこには現在の就職を希望している張り紙があちこちにあった。

 

「貴方、名前は?」

「セン。セン・ディアンスです」

「セン・ディアンス……。ディアンス家の子?」

「あー、少し厄介と言いますか、そのせいで苦労してると言いますか……」

 

 僕の家はとにかく面倒臭いのだ。ディアンス家――あまり世間には知られていないマイナーな貴族だが、持つ財力と権力はフェンリルでも指折りである。だが、マイナーなのには理由が存在している。……まぁ、早い話、どうしようもない連中が多いと言う事だ。

 僕を転生させてくれた存在に言うならば、せめてディアンス家の生まれ以外にしてほしかった。

 アイツらが本能に正直過ぎるから僕にとばっちりが来るんだよ、ちくしょう。

 

「そうね、詳しい話は後で聞くわ。セン……貴方、進路はどうするの?」

「まだありません」

「そう」

 

 見れば、彼女が手を差し伸べていた。

 その意味に思わず戸惑ってしまう。

 

「なら、私の所にいらっしゃい、セン。私は貴方を歓迎するわ」

 

 その言葉に一気に周囲のざわつきが加速する。

 ラケル・クラウディウス博士の務める研究所はフライア。僕らの年どころか、士官学校から直接入職した者は今までを通して一人もいない。

 

「ラケル、こんなところにいたのね」

「ふむ、彼は?」

「お姉さま、お父様。紹介しますわ、私の直属の部下になる者です」

 

 ざわめきが最早加速を通り越して爆発する。

 火に油を注ぐとはこの事だろう。博士の姉と父も唖然としてるし。

 まぁ、でも言われたのなら仕方がない。せっかく伸ばされた手なのだ。ならば受け取らない道理など、今の僕には無い。

 

「本日付けで、ラケル・クラウディウス博士の部下となるセン・ディアンスです。以後、よろしくお願いします」

 

 姉さんの方はどうやら固まっているらしい。

 父さんの方は、少しだけ笑っていた。士官学校の教官とは異なる笑み。

 それはもしかしたら、僕がずっと求めていた物だったのだと思う。

 

「そうか……。セン君と言ったかな」

「はい」

「君の成績は?」

 

 質問の本位に気づく。成績など調べればわかっているはずだ。僕が学年最下位である事など隠せるも筈も無い。

 多分、僕が博士の部下に足る人物かどうか見抜こうとしているのだろう。

 

「成績は最下位です。それは変わりようがありません」

「……そうか。君の卒業レポートは読ませてもらったよ。確か『偏食因子の変化』についてだったかな」

「はい。動機としては偏食因子の流れを操作できれば、ゴッドイーター達の助けになると考えました。内容も結局は、理論の追及に過ぎませんが」

 

 恐らく教官達はタイトルと名前だけ見て嘲笑しか出来なかったであろうレポートを、ジェフサ博士は見てくれていた。それが少しだけ嬉しい。

 しかし、それに対する僕の返答は――。うん、我ながらネガティブ過ぎだろう。まぁ、それが案外僕らしいのかもしれない。

 父――確かジェフサ博士だったと思う。

 ジェフサ博士は一頻り笑ってから、僕に手を差し出した。

 

「セン・ディアンス君。私は君を歓迎しよう。実に興味を惹かれる内容だった」

 

 姉――確か、レア博士は未だに呆気に取られていた。まだ状況についていけないのだろうか。それとも何か意外な光景でも見たのだろうか。例えば、僕がラケル博士に声を掛けられる所とか。

 ジェフサ博士の手は、父親と言う物を象徴するように大きくて温かい手だった。

 痛みを伴わない温もり、と言う物は僕が今初めて感じたものだ。

 

 

 こうして僕、セン・ディアンスはフライアで働く事になった。

 

 

 

 

「セン? どうかしたの」

 

 気が付けば、部屋には僕と博士しか残っていない。どうやら思い出に浸っている間に皆、自分の所へ向かってしまったようだ。

 

「すいません、二年前を思い出していました」

「二年前……。あぁ、私とセンが初めての時ね」

 

 その言い方は何か誤解されそうなんでやめてください。

でもそれを言ってしまえば、博士はさらに便乗するだろう。

 伊達に二年、彼女の元で働いてきたわけではないのだ。ここは受け流すのが吉である。

 

「どうかしら。二年と言う月日は、センにとって」

「充実してます。もう今までにないくらい、本当に溢れています」

 

 自分の好きな事を、好きなように出来る。それこそが最上の幸福であると僕は思う。

 だから返すのはこの言葉でいいのだ。この言葉こそが、今の僕を象徴する一言である。

 

「そう、なら良かった」

 

 その言葉と共にラケル・クラウディウスは微笑んだ。

 例え力が得られなくとも、守りたい人たちがいるから僕は――ここにいる事を選んだんだ。

 ここが、僕の魂の場所だ。だから守り抜こう。僕が僕としてやるべき事で。

 

 

 例え、それが命を賭ける事になったとしても。

 


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