ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。 作:ソン
ちなみに登場人物は全員二十歳以上ですハイ。二十歳と言えば二十歳なんだよ!
オペレーター訓練二日目。
榊博士曰く「いきなりゴッドイーターの実戦は厳しいから、まずは別の方法で行こう」との事である。コレは僕も全くの同意だ。
テルオミ君はともかくウララちゃんは実戦と言った本番に弱い。だから、練習として何らかの形でオペレーターに近い業務をこなさせる必要があるのだ。
幸いにもオペレーターは充分足りているから、教育にゆっくりと時間は駆けられる。
「……うん、皆さん似合ってますよ」
「わ、私もそう思います!」
ラウンジは一気に改造されていた。まず丸部屋から一気に広い角部屋に。天井には高級そうなシャンデリアがいくつも並行且つ垂直に吊り下がっている。そして均等に配置された革のソファと大理石のテーブル。
そして集ったのは第一部隊とブラッドの男性メンバー、そして僕である。その制服はジャケットスタイル。
うん、つまりはそう言う事。
「って、どういう事!? 何でオペレーター訓練が、クラブ運営になってるの!?」
「いやー、榊博士は『もうすぐアナグラで催し物があるから、その試運転と言う事で』とお聞きして」
「私とテルオミさんが、この場の指示に徹する事でオペレーターの訓練にもつながるっておっしゃってました。ヒバリ先輩が『この人選なら大丈夫ですよ』って」
「違う事なき人選ミスだ。電気タイプが地面タイプに挑むくらいのミスだ」
「まぁ、そう気を立てるなセン。俺もフェンリル主催のイベントに運営として参加は初めてだ。
これも人々の平穏のためになるなら、俺はいくらでも身を切るさ。身を尽くす事で、お前達ブラッドやラケル博士のためになるならな。だから、セン。お前が行くのなら俺も共に行こう」
「……ジュリウス」
あぁ、良かった。やっぱりジュリウスは安定している。
「ところでセン。――クラブって、何かな?」
「知らなかったのかよ!」
「いや、知っているとも。アレだ、『あわをふく』とか『はさむ』とか『かたくなる』を使うのだろう。進化すると、キングラーになる……」
「確かにクラブだけど、そっちじゃない!」
「何!? せっかくレベル27まで育てたのに……。セン、今度また俺と通信交換をしよう」
「あぁ、今話すテーマじゃないけどね! 明日の昼な!」
前言撤回。彼は天然であった。
テルオミ君が手を叩く。
「じゃあまず、最初に入店してくださったお客様へのフレーズを考えましょう!」
「フレーズってアレだろ? シプレがやってたキャッチコピーみたいなのだろ!?」
うん、まず言葉が僕の心に突き刺さるから余り言わないでロミオ。僕は封印したい過去なの。あの時はレア博士が泣きながら僕の部屋に入ってきて『お願い、やめて。……何でもするから』なんてのたまう物だから、色々と厄介だった。
僕とレア博士の仲が微妙なのも、あの一件が地味に引っかかり続けているからである。
「待て、ロミオ。それではシプレの二の舞だ。俺達には俺達の個性を、中身を活かした文面でなければならない」
「……まぁ、確かにジュリウスの言う通りだな。フレーズやシーンの流用なんてのはな、好むヤツはドハマりするが、寒いヤツにはとことん寒いんだよ」
ギル、もっとやめろ。何か、たくさん敵を作りそうな発言はマジでやめろ。
突き刺さるから。言葉のチャージスピアがクリティカル連発しまくってるから。
「ふむ……ダメだなー。昔はラブレターの文面とかスラスラ浮かんできたんだけどよ。今じゃ、レンとアイツの顔くらいしか浮かばねぇ」
「……ったく、何でオレがこんな事を。んなのは、コウタに押し付けとばいいだろうが」
「それがさ、何故か俺は名づけに参加しちゃダメって通達が来てるんだよな」
「えっと、それに関しては榊博士から通達が来てます。『コウタ君は、ただの人数合わせだから。パネルのパネル、よろしく』との事です」
「パネルのパネルって何だよ! それ、ただの板じゃねぇか! って言うか俺、人数合わせのために呼ばれたの!?」
おぉー、何故かコウタさんのツッコミは頼りになる。まるで職人芸を見ているかのようだ。
と、そこでハルオミさんが手を叩く。
「話を戻そうや。で、結局フレーズはどうするよ。何だったら俺にいい案があるぜ? ギル、ソーマ。ちょっと来てくれ」
――で、ちょっとして。
「本日はようこそ、クラブ『アナグラ』にお越しいただき、ありがとうございます。
ここに集うは極東から集いし、美男ばかり。その全てはこの一時、貴方だけのモノ。
私の心は、貴方の薔薇の園の中。届かぬ想いに身を焦がし、その指先に滴を垂らす。
どうぞ、心行くまでお楽しみください」
途中から演歌の前節になってるから。どこぞの歌謡バラエティみたいになってるよ、それ。
ちなみに現在、時刻は夜であり照明を落とすと辺りは真っ暗である。
そんな中、スポットライトが付きギルとソーマが姿を現す。
「――アーユーレディ?」
「――こっから先はR指定だぜ?」
……やっぱりイケメンが言うと様になるなぁ。
「オーケー、レッツパーリィ!」
「オーケー、レッツロック!」
ちょっと待って。
何かおかしい。
「うん、ごめん。ギルバート・マクレイン、頼むからフレーズ決める時、テメェが何て言ってたか思い出してくれねぇかな」
で、どこからか榊博士が登場。
あの時といいこの時といい、やっぱりこの人、完全に向ける熱意間違えてる。
「人々をアラガミから守るだけでは無く、人々の心に安らぎを与えるのも、私達の務めだよ。
だからセン君、これは支部長命令だ。今日一日Rock&partyしなさい」
「貴方はいつもどこかでRock&partyしてるでしょうが!」
疲れる、マジで疲れる。
ちなみにコウタさんはもう諦めたのか、DVDプレイヤーでロミオとシプレの動画見てやがる。
「やはり、接客も練習しなくちゃダメだね。協力を取り付けておいて良かったよ。おーい、こっちだ」
とラウンジに入って来たのはアナグラの女性陣。
けれど、僕らと違って服装は普段着だ。――露出度が高い物を普段着と呼んでいいのかはおいといて。
「彼女達を相手に接客の練習をしてもらおうと思ってね。ちなみにこれも二人の出した意見だよ」
うん、確かに道理に適っている。
けれど嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
「じゃあセン君。逝こうか」
「え、ちょっ」
榊博士がどこからか取り出したスイッチを押す。その途端、僕の立っていた床に穴が開く。
底なしの真っ暗な深い穴。
「覚えてろよぉ、狐目がッァ!」
穴はそこまで長くなかった。僕が着いたのは、一つの部屋。
何やら怪しげな行灯と提灯が部屋の片隅に置かれていて、何故か敷布団が一つ堂々と置かれている。
「あ、セ、センさん?」
見れば、布団の上には女の子座りのネルちゃん。しかも大分薄着だ。
え、ちょっと待って。
「――何してんの、アイツら」
「騙して悪いが、これも計画の内なんだよ。セン君」
モニターで混乱するセンとネルを見ながら榊は眼鏡をクイと押しやり、妖しく微笑む。
それは紛れも無く、マッドサイエンティスに分類されるであろう表情であった――と藤木コウタは、後々語っている。
「クラブと言うのは、君とネル君を二人きりの密室に誘い込むための建前に過ぎない。このために、アナグラの女性陣には誰一人として声を掛けずに、男達だけで計画を進めて来たのさ!
……どうしてか、女性は些細な情報すらも耳に入れて来るからね。しかもそれが、色恋沙汰なら尚更だ。……私も昔は酷い目にあった」
「分かるぜェ、博士。オレもケイトから色々言われたからなァ」
「いや、ハルさんは単純に口も頭も軽いからっすよ」
「なぁに、ギル。お前よりは硬い自身はあるぜ? こう見えても結構しぶといからなオレ」
「ハルさんほど、しつこくはないっすからね」
「……お前ら、何か会話かみ合ってなくね?」
背後から聞こえる声をBGMに榊はさらに深く声を押し殺して笑う。
「さらにそこに置いてある酒瓶にはアルコールに加えて、私が開発したラブポーション『照れ隠しバースト』がいれてある。
フフフ……いつまで経っても、君とネル君が進展しないから、あちこちで苦情が殺到していてね。しかもどっちも誠実だから既成事実すらでっちあげる事も困難だ。ならば――事実にしてしまえばいいだけの事!
この計画の核は最初から、君達二人だったのさ!」
「ソーマ、いいのかアレ」
「俺に振るな……!」
「とりあえず飲もうか、ネルちゃん。ほら、僕が注ぐから」
「あ、ありがとうございます」
コップ片手に注がれていくお酒―と呼んでいいのか分からない匂いだが、とりあえず無視しておく―を、小刻みに揺らして。それをネルちゃんは一気に飲み干した。
“まぁ、でも色々とあったもんなぁ”
ネルちゃんには結果的に色々な役割を押し付けてしまったように思う。
まだ何の経験も無い筈の少女が、いきなり実戦に送り出され、特殊部隊であるブラッド隊の隊長をなし崩しに引き受ける形になってしまったり。この星との特異点の戦い。様々なアラガミやマガツキュウビとの生存競争。
――本当によく耐えてくれたと思う。
「まだ、いるかい?」
その言葉にネルちゃんはスッとコップを差し出した。
「――ヒック。……注げ」
「……え?」
「注げって言ってんのが、分からねぇのかこの野郎――!」
瞬間、彼女の手は酒瓶を握りしめ、僕の脳天目掛けて振り下ろした――。
そこからしばらく記憶は無い。
モニターを見ていた榊は思わず唖然とする。ネルが突然、酒瓶を握りセンの脳天へフルスイングで叩きつけたからである。
「――え?」
これには思わずスターゲイザーも頭を真っ白にした。
いや、何だねコレは。僕の予想を遥かに超えているよ。
『おい、どうした。寝てんじゃねぇぞ、おい起きろコラァ』
マウントを取り、胸倉を掴みあげて往復ビンタ―フルパワーであろう―を浴びせているその光景は、先ほどまでと同じ少女とは思えない。
「……待って、まさかネル。アイツ酒にあんなに弱かったのか!?」
「まずいぞ、博士。これではセンが死ぬ!」
「待ちたまえ、ジュリウス君。このままいくと被害が増える。とりあえず今のネル君は接触禁忌種に分類しよう」
『ほらぁ、お前も飲めぇ。アタシの酒が飲めないのか、うん? 殺すぞ、このヤロー!』
「つか、どうすんだよ! センの奴、何か口から泡噴き出してるぞ!」
「あ、待てネル。酒瓶無理やり口に突っ込んで捻るな!」
だが無論届くはずも無いのである。
「……そ、そう言えば聞いた事がある。ゴッドイーターになる前にはお酒を飲んでも無害だったのに、ゴッドイーターになってからは突然お酒に弱くなってしまうと言う話を……!
アレは最早ネル君でもブラッド隊長でも無い。アレは、酒に溺れた神喰人の亡霊――
「し、酒羅人……!」
「いや、それただの酔っ払いだろうが。と言うか、そろそろマジで誰か人員送り込め。センの穴と言う穴から、酒が滲み出て来たぞ! どんだけ飲ませてるんだよ!」
『よーし、適度に酒も入ったし、ヤる事ヤるかぁ。おい、コラァ行くぞ紐亭主。
あ、後モニターで盗み見してやるヤツらァ。今から5秒以内にモニターと盗聴器の電源を壊さねぇと、後でぶち抜きにいくから。はいいーち、にー』
瞬間、無数の男達の手がモニターを貫通した。
「博士、これ以上はデッドゾーンだ。分かるな?」
「……そうだね、私とした事が余りにも首を突っ込み過ぎていたようだ」
「……とりあえず、ネルはジュース限定にしておこう。彼女に酒を飲ませるのは代償が大きすぎる」
「……そういえばさ、コウタ一つ聞いていいか」
「どうしたんすか、リンドウさん」
「俺は大分席外してたから分からねぇけどさ――アイツら、あんなに酒に強かったか?」
「……え?」
「――ヒック」
この後、めちゃくちゃ後片付けした。
ちなみに酒乱後のネルの行為の一部は私が実際に見たモノです。男数人がかりで止めようとしましたが、異常な力強さでした……。
その後は夜の街を上半身裸で奇声を上げながら疾走。……ちなみに元の人格はかなり良く出来ている方だったので、ギャップが半端じゃなかったです。
大学生や専門学生になる方々は、これからお酒を飲む機会もあると思いますが、マジで気を付けてください。そしてかなり酔いが酷い方には決して一人で対処しようとはせず、複数人で対処しましょう。酷い酔っ払いはタイマンじゃまず勝てません。思考回路と身体能力がマジでぶっ飛んでます。