ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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終末捕喰編、完結です。この後は短編をしばらく連載予定です。
反省は後書きに。


こうして僕は今日も

 

 

 ――僕はゴッドイーターにはなれなかった。それでも決めたんだ。せめて、せめて僕の大切な人達だけは何があっても守り抜くと。

 

 

 

 

「――大丈夫、ネルちゃん。全部、思い出せたよ」

 

 僕はその言葉と共にネルちゃんを抱きしめた。泣きじゃくっていた声が、止まる。

 ネルちゃんは目を腫らしたまま、顔を上げた。

 

「セン……さん」

「ちゃんと届いてたよ、皆の声。もう大丈夫。僕は、一人じゃないって分かったから。皆が傍にいてくれるから」

 

 そういって、僕は背後を見る。

 いくつもの触手―多分、ノヴァの物だろう―が、鎌首をもたげて僕らを囲んでいた。

 

「今度は、僕も一緒に戦うよ」

「――はい!」

 

 ネルちゃんの返事。それと共に、僕は彼女の手を引いて走り出した。

 それと同時に背後から聞こえて来る轟音。

 振り向く時間は無い。

 

「ネルちゃん、神機使える!?」

「勿論っ!」

 

 神機から撃ち出されるオラクル細胞が、触手を直撃しその速度を弱めさせた。

 まだ大丈夫……!

 僕が何度も指示をして、その都度ネルちゃんはOアンプルを使いながら、的確に狙撃をしていく。

 見覚えのある街を掛けていく。生憎風景を懐かしむ暇は無いけれど。

 

「――見えたっ」

 

 転生する前の僕の家。あそこが間違いなく――。

 扉へ辿り着き、開けようとするけれどドアノブは固く、回りすらしない。

 

「ネルちゃん、お願い」

「はい」

 

 はぁ、と息を吐きながらネルちゃんは神機を大きく振り上げる。彼女の神機が紅色の輝きに包まれていく。

 

「せやぁっ!」

 

 彼女の裂帛の一撃と共に、ガラスの砕けるような音が響く。

 そこから見えるのはただ黒い空間だ。そこを抜ければ――。

 

「センさん! 早く!」

 

 ネルちゃんが僕へ手を伸ばす。

 ――思わず後ろ髪を引かれるような感覚がして、僕は背後を振り向いた。

 いつか帰りたいと願っていた世界。けれどもう、迷わない。

 僕はあちらの世界で、セン・ディアンスとして生きていくのだと、決意したから。

 

「さよなら――」

 

 そんな声と共に、僕らは裂け目へと飛び込んだ。

 

 

 

 

「――!」

 

 意識が反転して、気が付けば空中へ放り出されていた。

 周囲の背景から考えるに、神機兵保管庫のどこかへと抜け出したらしい。

 空中で身を躱して、床に着地する。――久々に足が痺れる感覚だ。

 

「セン!」

「ごめん、心配かけたね」

 

 ブラッドの皆が、僕に駆け寄って来る。

 ――今ならはっきりと言える。

 僕は彼らと共に生きていくと。

 

「皆、援護お願い。今度こそ、決める」

 

 僕の言葉に、皆が頷いて触手へ神機を振るっていく。

 ――小さく息を吐いた。

 

「――」

 

 僕はここで生きていく。彼らと共に。

 だからもう迷ったりなんかしない。

 僕は僕として、セン・ディアンスとして生きていく。

 ただそう決めた。

 だから――まずはその約束を果たそう。

 

「――!」

 

 僕の頭上に虹色の球体が再度、出現する。その輝きはさっきよりも遥かに増していて、次々とオラクル細胞を活動停止に追い込みつつあった。

 触手が萎れ、枯れ枝となっていくように、渦巻いていたオラクル細胞は大樹の幹の如く硬質化していく。

 

「――っ」

 

 もう少し、まだもう少し。オラクル細胞の固定は終末捕喰の上層部にまで到達しつつある。

 

「!」

 

 見える。かつての世界の光景が走馬灯のように蘇る。消えてたまるか、死んでたまるか。生きてやる。この世界で、セン・ディアンスとして生きてやる。そう決めたんだ。

 ――そうして僕は、まるで魂から叫ぶかのように強く吼えた。

 

 

 

 

 その瞬間、誰もが動きを止める。見惚れていた。ただ美しいと息を呑む光。創生の閃光なのだと、本能が感じていた。

 終末捕喰が突如輝きを放ち――凄まじい衝撃波がそこを中心として広がっていく。

 それと共に赤乱雲は姿を消して、眩しい光が差し込んで来る。

 ――巨大な大樹。結晶の如き鈍色を持つ其れは雲を貫いて聳え立っていた。

 

 

 

 

「……!」

 

 目が醒める。風に草が揺らされる音がした。少しいい香りもする。

 ――そこまで考えた時に、ふと疑問が芽を出して、そこから弾かれるように起き上がった。

 

「……これは」

 

 息を呑む。

 深緑の草原がどこまでも続いていて、その先には山麓が鮮やかな色彩を見せている。

 アラガミに喰われつつある世界では、こんな光景は滅多にお目に掛かれない。

 周りを見渡すと、僕の傍らで眠っているネルちゃんの姿があった。

 

「ネルちゃん、起きて! ほら!」

 

 ネルちゃんが目を覚まして、僕と同じように見惚れていた。

 それもそうだ。今、僕らの目の前に広がる光景はこの世界では決して見る事の叶わないモノ。僕の前の世界でも、こんな絶景を見れるかどうか分からない。

 

「……綺麗」

「うん、とても」

 

 きっとアラガミが生まれる前よりもずっとずっと前、地球はこのような光景で溢れかえっていたのだろう。

 ずっとずっと、この光景を見ていたい。そう思ってしまう。

 

「そういえば、皆は……」

 

 周りを見る。

 どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返ると、駆けよって来る皆の姿が見えた。

 

「良かったー。てっきり死んじゃったのかと思ってたよ」

「フッ、そうだとしたら、中々喧しい場所だな」

「……セン、これは」

「……うん、この結果は僕の予想を大きく超えてる。僕の予想では、終末捕喰は一個の塔となって、永久に留まり続ける筈だった」

 

 けれど、今の光景を見る限り到底そうとは思えない。

 だとすればその理由は――。

 

「まだ仮説かもしれないけれど、まず理由として血の力が大きく影響したんだと思う」

「血の力が、終末捕喰自体に影響を与えたと?」

「多分。そしてもう一つは僕の意志が長くこの終末捕喰に溶け込んでた事。だからあるそう言った意志に強く反応したのかもしれない」

 

 僕の意志――例えば僕の前の世界での光景。海とか山とか、そういった物がきっとこの樹のあちこちにあると思う。

 

「つまり、終末捕喰自体のシステムが塗り替えられたって事か」

「そう、もう終末捕喰は人類にとって脅威では無くなった。僕達が塗り替えたんだ。この地球自体を」

「――なら、責任があるな」

 

 その通りだ。

 地球のシステムを狂わせてしまった責任がある。

 だから、守って行かなくちゃならない。

 

「一度、お願いがあるんだ」

 

 そう呟いた。

 この世界は、あちらの世界に比較すると少し汚い。血と肉で溢れていて、人々の憎悪なんてあちこちで起きているから。

 だけどきっと、ここでいいんだ。この世界を生きた僕にとって、あちらの世界は綺麗すぎる。僕が行ってしまえば。きっとあちらも汚くなってしまうだろう。

 思い出は、綺麗なままでいいに決まってる。

 住む場所は、少し汚いくらいが僕には丁度いい。それに、汚いと言うのなら僕らが綺麗にすればいいだけの話だから。

 

「今度は僕も一緒に戦う。だから、僕を皆の傍に、一緒にいさせてください」

 

 その言葉に、皆は微笑んで。

 たった一言、迎えの言葉を口にした。

 

『――お帰り』

 

 

 

 

 さて、あの後の話なんだけれど。まず極東支部のヘリが迎えに来て、僕とブラッドの皆は、極東支部に帰還した。

 そして僕が降りると同時に、極東支部のメンバーにもみくちゃにされて、エミールとか涙と鼻水で顔が凄い事になってた。そしてブラッドと僕はメディカルチェックを受けて、何も問題なく―寧ろ僕は人間卒業に磨きがかかったらしい―そのまま流れで、『帰還パーティー』と『成功記念パーティー』が行われた。

 エミールの紅茶が振舞われた後、ナナちゃんの手作りアイテムの試食会だったり、ギルのギターだったり、アリサさんが何故か料理を作ろうとして全力でコウタさんに止められてたり。

 そうして気が付けば、日は落ちて、皆酒で潰れてしまっていた。

 

「……」

 

 傍で眠っていたネルちゃんに毛布を掛けてラウンジを出る。

 僕が警備兵相手に大立ち回りした際、破壊した柱はすぐに直されていて、立派な景観を取り戻していた。

 日が落ちたロビーは非常灯の灯りだけが点いていて、どこか落ち着く。

 

「セン」

「……ラケル博士」

「少し屋上に行きましょう」

 

 ラケル博士に促されるままに、エレベーターに乗って屋上までたどり着く。

 僕の気のせいか分からないけど、どこか博士の雰囲気が違っているような気がする。

 

「セン、あれから大いなる神の声は聞こえなくなったわ」

「……」

「そうして初めて気が付いたの。自由に生きるってこんなに素晴らしい物だったのね」

「……博士」

「こんなにも穏やかな気持ちになれたのは初めてかもしれない。

 ――セン、貴方がいてくれなかったら、私はきっとこの感覚に気づけなかった。人である事の意味に気づけないまま、人である事を辞めていたでしょう」

 

 そうだ、元々博士の考えていた計画はそんな物だった。

 僕がその計画を何とか修正したのだ。出来るだけ、犠牲が少なくなるように。

 博士が僕を見て、微笑んだ。

 何の意図的な感情も無い笑顔だった。

 

 

「――ありがとう」

 

 

 僕はゴッドイーターにはなれなかった。だけど、守り抜くことが出来た。この世界で生きる事を、自分の意思で選ぶことが出来た。

 そうして、僕は今も生きている。

 ここで、この話は一端終わり。これからまた新しい話が続いていくのだから。

 

 

 僕はゴッドイーターにはなれなかったけど、何とか今日も生きてます。

 

 

 




何て言うか……自分に話を纏める力と作る力の両方が欠けているなとつくづく実感しました。マジでこの作品終わったら読み専に戻ろうかと思ったくらいです。
おまけに語彙力も足りないと言う反省点まで浮き彫りに。何があるんだオレ。
本編も一段落しましたので、短編と次の章のご予定を。

短編は現在、5つを予定しています。作者の気分次第で減ったり増えたりするかもしれません。ちなみに今作の螺旋の樹ですが、螺旋の樹全体がオラクル細胞不活化地域ですので、螺旋の樹そのものが平和スポットです。あそこに全人類詰め込めば、問題解決するレベル。投稿する順序もランダムです。ちなみに全てギャグ回です。
「海水浴編」
 螺旋の樹に存在する海水浴スポット。ぶっちゃけ、欲望だだ漏れ回にするつもりです。
「ムーブメント編」
 ハルさんメイン。査問会の皆様、出番です。
「格闘の女王編」
 ネルちゃんの無双時代と、センの格闘センス回。対人戦闘が書きたくて仕方ない。
「僕の学生時代編」
 ブレン教官がメイン出演の予定。センの学生生活編です。
「カレーを作ろう!編」
 皆様ご存じ、聖域と言えばコレの出番。ジュリウス回にもする予定。

「英雄の帰還」 ゲーム中ではキュウビ・マガツキュウビに当てはまる話です。
 神薙ユウとリンドウ、雨宮ツバキが極東支部に帰還。セン、キャラ被りの危機。ちなみにこちらは主役をネルちゃんにする予定です。


 ではこれを持ちまして、終末捕喰編完結とさせていただきます。
 これからも応援とお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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