ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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推敲が上手くいきません。……上手く行かないなぁ。
本日22時頃にもう一話投稿します。リアルの状況から、恐らく来年の春まで更新が止まります。
いつか完結……するといいなぁ。


破壊の胎動

 

 

「ジュリウス・ヴィスコンティ、帰還しました」

「同じくセン・ディアンス、帰還しました」

 

 出張を終えてから一ヶ月、帰って来た僕らに伝えられたのはアラガミによる一斉行進だった。その進路の先には極東支部があり、現在アラガミの戦力の低下を目的としたミッションが神機使い達に発行されている。本隊からはぐれたアラガミを討ち、少しでも戦力を減らそうと言う目論見である。

 そして帰還した僕らは、現状の確認を榊博士と共に行うために、支部長室へ来たと言う訳だ。

 

「ふむ、長旅の疲れで申し訳ないが一大事だ。少しでも話しは纏めておきたいからね」

「はい」

「一週間ほど前、無数のアラガミ反応が観測された。現在、複数の支部がその行軍によって壊滅状態となっていて、アラガミの進軍行路に我が極東支部がある。ここまではご存じだと思う」

「はい」

「そして今回その中に、複数の感応種が観測された。偵察隊が交戦した所、マルドゥークの比ではない力を持ったアラガミばかりみたいだ。写真があるから何枚か出そう」

 

 榊博士が見せたのは、複数の写真。そこに映っているアラガミは僕も見た事が無い物だった。

 サリエル種に、グポロ・グポロ種。シユウ種、ハンニバル種――そして以前ネルちゃんが倒した物とは別個体であろうマルドゥーク。

 まさしくオンパレードだ。僕達が出張の間に、ネルちゃん達がシユウ種―イェン・ツィー―の討伐に成功したとは聞いていたが、今回はおそらくそれ以上。

 チョウワンと呼ばれるオウガテイル型のアラガミを即席に作り上げるイェン・ツィーと他のアラガミの活性化まで促し攻撃性を増大かつ高い指揮能力を持つマルドゥーク。

 これだけでも十分すぎる脅威だと言うのに、まだ能力も知れぬ感応種が残っているのだ。

 

「極東支部の練度は?」

「うむ、まず神機使いの方だがブラッドの協力のおかげで新兵含め相当の戦力強化かつ補強が出来た。それに加えてオペレーター達も大きく腕を上げているよ。我々も一ヵ月前とは大違いだ」

 

 これがその証拠さ、と榊博士が見せてくれたのはミッション結果をまとめた用紙だった。

 うわ、ネルちゃんヴァジュラを単独で討伐してる。しかもなんかカリギュラ種まで討伐しちゃってるし。

 改めて彼女の凄さを思い知る。まだゴッドイーターになってから日は浅いと聞くけど、この戦果は何と言うか、異常だ。まぁ、彼女の戦い方を見ていたらそれも納得だけど。

 

「ブラッドも全員が血の力に目覚めた。アラガミに死角は無いが、私達も同様だよ。そして君の作ってくれたアイテムのおかげで、部隊の生存率も上昇している」

「ジュリウス、これなら」

「あぁ、俺も本気を出せる」

 

 そう、ジュリウスもまたこの一ヶ月で大きく実力を上げた。

 例えばディアウス・ピターを単独で撃退したり、サリエルとグポロ・グポロの乱戦を単身で鎮圧させたりなど、彼もまた一ヶ月で強くなっている。

 実際にあった一場面としては、応援の部隊が到着する前に全滅させたりなどだ。あの時は僕も唖然とした。

 

「セン君、オラクルリソースの改良は?」

「はい、終わっています。もう技術科の方に資料は提出済みです」

「ふむ、完璧だ。これなら、我々も間に合う。彼らを呼び戻す必要は無いね」

 

 彼ら――恐らく防衛班の事だろう。そういえば極東支部の第二部隊と第三部隊はまだ見た事が無い。

 クレイドルの建設防衛にでも着手しているのだろうか。一度会ってみたいなぁ、と心のどこかで思った。

 

「ブラッドの面々にも、今回配置についてもらっている。ロミオ君とネル君とナナ君は前衛部隊を、ギル君は中継部隊、シエル君は後衛部隊を。そしてジュリウス君には今回、全体の命令を下す総隊長を任せたい。感応種との戦闘経験を持つ部隊の長だからだね」

「分かりました。サポートは?」

「最初はアリサ君に頼んだけれど、彼女の方から候補と推薦があったんだ」

「推薦?」

「うむ、セン君。君が推薦された」

「僕がですか……?」

 

 マジですか。

 あのアリサさんがそこまで買ってくれたのは嬉しいけど、それに十分に応えることが出来ないと、どこかで分かっている自分が嫌だった。

 だって僕が行う事は――ある種の裏切りなのだから。

 

「こちらでも協議したよ。君のオペレート能力を見たところ、その推薦を許可するに値すると判断された。後は君の判断を待つだけだ」

 

 少しだけ迷う。この作戦――それしかないのだ。僕が自分の目的を果たせるチャンスは。

 だけどそれは裏切りになる。僕を信じてくれた人たちへの。でも果たさなければ僕は。

 

「――分かりました。お受けします」

「……ふむ、それは良かった! 作戦開始までは凡そ残りは一週間以内。現在のアラガミの進軍速度から見ても最低四日は掛かる。それまで作戦の打ち合わせや部隊の確認に努めてほしい」

 

 榊博士の言葉に、僕らは合わせて返事をした。

 

 

 

 

 

「……セン、どう思う」

「同じだね。感応種が現れたのなら、その時点でブラッドが要請されるはず。それに感応種に対しては強制解放剤での対抗が可能って証明出来てるし、公表もされた」

 

 僕が納得いかないのはその二つだ。

 恐らく今回のアラガミの進軍には何かが企てられている。その疑問をジュリウスも感じている。

 

「だろうな。……俺達の帰投に合わせてのタイミング。やけに出来過ぎている」

「……だね」

 

 エレベーターに乗り込む。

 前々からタイミングを伺ってはいたけれど、これは予想外だった。ある意味好都合でもあり、ある意味不都合でもある。

 

「セン」

「どうかした?」

「単刀直入に聞く。お前は何を迷っている」

 

 その言葉に、僕は思わず声が漏れそうになる。

 あぁ、やっぱり彼に隠し事は出来ない。

 ジュリウスの真っ直ぐな視線――その視線を受け止めたのはこれが初めてかもしれない。

 

「分かってたんだ」

「あぁ、友だからな」

「そっか」

 

 友達、二年と言う短い中で僕を信頼して、そして共に笑ってくれた親友。

 ――彼には、打ち明けよう。

 僕の事を、全部。

 

「ジュリウス、後でラケル博士の研究室に来て欲しい。時間は僕がメールで指定する。そこで全て話すよ」

「――あぁ、分かった」

 

 少し間を置いて、ジュリウスはいつもと変わらないように頷いた。

 いつも思う。ジュリウスは僕の言う事に対してほとんど理由を聞かない。誤認を無くすためとしての些細な確認程度はあるけど、深い所まで僕に質問してきたことは無い。それはきっと彼にとって信頼と言う形なのだ。

 親友――僕は君の心に応える事が出来るのだろうか。

 

 

 

 

「あっ、センさん!」

「ネルちゃん、久しぶり」

 

 一か月ぶりに見るその姿は変わらない。だけれど纏う気迫は、以前とは桁違いだ。

 何というか、新芽が満開になったと言うか、水溜まりが湖になったと言うか、そんなオーバーな表現が似合う感じ。どれもいまいちしっくりこないけど。

 

「センさん、今お時間ありますか?」

 

 ジュリウスの件も時間指定だし、書類提出もあらかた終えたし、物品の点検も僕が増えた程度で変わらない。

 うん、要するに暇だ。

 

「うん、全然あるよ」

「良かった……! 少し屋上行きませんか? 眺めが凄く綺麗なんですよ。今、赤い雨の予報無いみたいですし」

 

 ネルちゃんに手を引かれて、僕は誘われるがままに屋上へ出た。まだ昼間という事もあって日差しに照らされている。

 手すりの奥に見える外部居住区には、明日を生きようとする人たちが懸命に働いていた。

 屋上で僕がネルちゃんに聞かせたのは、僕がこの一ヶ月で何とか思い出せたところまで。前の世界の記憶は、もう断片的しか無くて。言うなればパズルのピースが欠けたような物だ。

 僕が話す都度、ネルちゃんは楽しそうに笑ってくれていた。どのくらい時間を使ったのかは分からないけれど、気が付けばあっという間だった。

 

「じゃあそろそろ、戻ろうか。もうすぐ作戦決行の日だし」

「そうですね」

 

 ふと僕は首に掛けているゴーグルに触れた。

 どうして触れたのかは分からない。けど気が付けばゴーグルを外していた。

 

「ネルちゃん、これ預かって貰ってもいいかな」

「……えっ」

 

 そう言ったのは僕でもはっきりと分からない。

 ゴーグルを手放す事自体に何の未練も無いのだ。ただの市販の物だし、学生の頃から使ってかなり年期が入っている。

 だからだろう。もし僕が自分の過去を思い出す必要があるのなら、思い出に逃げる事は許されない。

 でも捨てると言うのは、それはそれで虚しい事だ。どうせなら誰かに預けてた方がいい。

 僕が僕を取り戻した時に、また改めて名乗ろう。セン・ディアンスだと。

 

「僕のやる事が終わるまで、ネルちゃんに持っててほしいんだ」

「やる事……ですか」

「うん、僕にしか出来ない事。それがあると、どうしても逃げちゃいそうだから」

 

 ネルちゃんはゴーグルを受け取ると、それを首に掛けた。僕と同じように。

 その方がやっぱり邪魔にも荷物にもならないよね。

 

「分かりました、お預かりします。……センさん」

「どうかした?」

「必ず取りに来てください。約束ですよ」

「……うん、約束する」

 

 いつかまた、受け取りに来よう。彼女の元へ。

 手元の時計を見ると、ジュリウスに指定した時刻へ迫っていた。そろそろ行かないと。

 

 

 空を見上げる。

 いつもと変わらない風景。世界中のどこで見ようが、屋外で真上を向けば嫌でも目に入って来る、蒼穹の彼方。

 前の世界の空と一体何が違うのだろうか。

 ふとそんな事を考えた。

 





 録音テープ1
 発見場所:ラケル・クラウディウス博士の研究室


「これより研究室の捜索を行う。入室次第、速やかに検査と消毒を実施。証拠は跡形も残すな」

「データはコピーしろ。書類は記憶しろ。いいな、入れ」

「――博士、今から掃除を行うのでしばらくこの階への立ち入りはご遠慮頂いたはずなのですが」

「えぇ、そうですわね。でも少し予定が変わりましたの」

「そうですか、ならば事前にご連絡を」

「申し訳ありません。ついさっきの事ですから」

「――我々の内容に不備があるとでも?」

「当たり前ではないですか。私に正しいご質問を呈してくだされば、正しいお返事を出していたのに」

「……」

「だって――私のモノに触れるなんて一言たりともお言葉にされていなかったではありませんか」

「ッ! 構えろ!」

「――だから、貴方がたにはこの末路が相応しい」

 銃声と悲鳴、千切れるような音が響く。

「――彼に途切れる事の無い祝福を」




 録音テープ2
 発見場所:極東支部支部長室


「……なるほど。どうやら、ヒトは似たような事ばかり思いつくようだ。実に興味深い」

「敵はアラガミだけではない。――歴史は変わらない」

「いや、ヒトが変わらないからこそ歴史が繰り返されるのか。それとも歴史が変わらないからこそヒトが繰り返すのか。」

「今、キミ達が生きていたら何と言うのだろうね」

「ふむ。少し、疲れたようだ。ちょっとばかり眠るとしようか、思い出は余り浸るモノじゃないね」

「それにしても『アニーリング計画』……か」



 録音テープ3
 発見場所:不明

「えぇ、はい。今回の事は、大方予想通りです」

「どうやら本部は僕の事を消したいようですね。理由はわかりませんが、目的ははっきりしました。僕の抹殺か、或いはデータの強奪か。僕は、せっせと物を作る人形のような認識をされていたみたいですね」

「……はい、道理で不審な点が多いと思ったんですよ。僕への執拗的な嫌がらせは、余りにも度を過ぎてましたから。目的は分かりました。後は理由を調べるつもりですよ」

「一人を陥れるためにここまで仕組む。さすがは狼。やる事が狡猾です」

「だけど僕は『勝利への讃歌』を捧げられるつもりはありません」

「……はい、出来る限りのことをしてからそちらに」

「それじゃあ、また。よろしくお願いします。先輩――いえ」

「総統」

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