ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。 作:ソン
後書きの小話ですが、分からない方は「フリーダムウォーズ」と「アーマードコア For Answer」で検索すると幸せになれます。
僕はブラッドから提出されたミッションのレポートを読み直し、満足げに頷いた。
後は報告書を本部へ送れば晴れて、感応種討伐結果が正式に認められることになる。
「あー、疲れた」
だらりと背中を椅子に預けた。うん、これは仕方がない事だ。
マルドゥーク討伐――要するに感応種との交戦及び討伐まで果たしたのは、ブラッドが初めてとなる。本来ならば、そのデータを本部に送るのだがそこでグレム局長が待ったをかけた。
戦闘データに料金を掛けたのだ。簡単に言うと、『戦闘データはやるから見返りに金寄越せや』と言う事である。しかも相当吹っかけていて、感応種に加え、大型アラガミとの乱戦内容を加えおまけと言わんばかりに『普通のゴッドイーターが感応種と交戦可能』と言う証拠まで含めたデータである。そのおかげで、本部に対しても相当強気に出れたらしい。
無論、本部も渋ってはいたが、これもまたグレム局長が上手くやった物で上手く丸め込ませたのである。そうして現在、フライアの資金はそのおかげで潤っており、僕やブラッドにはかなりの給料が払われた。でも使う時間無いんだけどね。
背中を伸ばし、暇な時間をどうしようかと考えに耽る。現在、ブラッドや僕には特別休暇として三日分の猶予があるのだ。そしてその三日後には、目的地である極東に到達する。
「あら、セン。いたのね」
「……ここ、僕の研究室ですから」
相変わらずの微笑みを浮かべながら、ラケル博士が現れる。うん、何か嫌な予感しかしない。
恐ろしくて頼もしい。それがラケル博士の特徴である。
「ねぇ、セン。そういえば前からずいぶん時間が経ったわよね?」
「……前?」
「そう、神機兵の広報でセンが提案した事。そろそろ続きを出すべきだと思うのだけれど?」
「……あー」
嫌な予感的中。もう逃げたくても逃げれません。ラケル博士の微笑みに加わったらたまったもんじゃない。
分かる人には分かるように言うと、「ムドブースター+死んでくれる?」みたいなコンボ。あれでほとんど即死だし。そういえばラケル博士、そのコスプレも行けそうですね。
「今度は、神機兵無しで行きたいと思うの」
「は、はい。そうですか」
「だから、作曲お願いね」
そう言いながらラケル博士が僕に手渡してきたのは、一枚のディスク。しかもご丁寧に、厳重に密封されている。まずはプロテクトから解除しないと……。
あー、また編集の日々だ。
「……そういえば博士、気になってたこと聞いていいですか?」
「どうかしたの?」
「作詞って誰がやってるんですか?」
「フフッ、お姉様に決まってるじゃない」
レア博士が怯えていたのはそういう事だったのか。
僕も同犯なんですけどねー。
と、そんな訳で編集はAIに任せ―このために組んでおいた―僕はフライアのロビーへ降りていた。
何か前よりも違って見えるね。床とか壁とか機材とか凄く綺麗になってるし。やっぱり局長は、そういう所にお金を掛けるのか。
「あの、セン博士」
僕にそう話しかけて来たのは新人オペレーターのフランちゃんだ。
まだ新人で月日も浅いのに、任務の始終まで大方個人でこなせると言う実力者。近頃は想定外の事態にも何とかなれてきているらしい。
「フランちゃん。どうかした?」
「感応種の際、オペレートお見事でした」
「うん、ありがとう」
実際凄いのはジュリウス達なんだけど、それを言ってしまったら多分フランちゃんとの会話もぎこちない事になってしまう。謙虚や謙遜は時に、困る事もある。
「もしよろしければ今度、オペレートのご教示を願えないでしょうか」
「ご教示……。僕、説明するのはそんなに上手じゃないよ?」
うむ、パワーポイントでも作って資料でも纏めようか……。
と、そんな事を考えているとフランちゃんがあるケースを取り出した。大きさ的にはDVDが入っているくらい。
「これがあるので、セン博士からご助言を頂ければ……」
「……ちなみにこれは?」
「全三巻。フェンリル総監修の『コンゴウでも出来るオペレーターの道』シリーズです」
何作ってんだよ、フェンリル。
フランちゃんとの約束を取り付け―もちろん、ビデオは使わない―、僕は訓練所へと向かっていた。
ブラッドがロビーに見当たらないし、ミッションにも出ていないのでいるとすれば多分、そこだ。
「やっぱり」
ガラス越しに訓練所を見ると、ブラッドの面々がダミーアラガミに対して上手く連携を取り合っている。
マルドゥーク&ヴァジュラ戦は、どうやらブラッドにも刺激になったらしく、予約表を見ればほとんどブラッドで埋まっていた。
そして何で端っこで反復横飛びしてるんだエミール。
「センか」
「ジュリウス」
いつもの見慣れた服装では無く、珍しくブラッド制服に着替えている。額に軽く汗が滲んでいる事から、ジュリウスも訓練に参加しているみたいだ。
「訓練所に顔を出すとは珍しいな」
「少し息抜きでもしようかなって」
ガラス越しに下の訓練所を見ると、ヴァジュラを模したダミーアラガミとネルちゃんが戦いを繰り広げていた。しかし、どう見てもネルちゃんの一方的な攻勢。と言うか、何か凄い事になってる。
ヴァジュラの顎を剣の腹で打ち上げ、動きを止めさせ、その隙に凄まじい量の斬撃を頭部へ一点集中。最後におまけと言わんばかりにその頭部を蹴り飛ばした。ヴァジュラ、一回転して横転したよ今。何か周り引いているよ。
見れば神機が変わっている。今まではクロガネと言う神機だっただけど、今のネルちゃんの神機はベースが紅色となっている。
「ネルちゃん、神機変わってるね」
「あぁ、マルドゥークの素材を利用した物らしい。だが数が足りないせいか、剣しか新調出来なかったと言っていた」
ネルちゃんを見る。動きのキレも斬撃の速度も、以前より高まっている。多分、マルドゥークとの戦いが彼女をさらに覚醒させたのだろう。
彼女を見る。見る。見る。――あれ。
「……」
「目まぐるしい成長だ。もう俺を超えているかもしれん」
「……」
「? どうした、セン」
途端、ズキンと頭が痛む。音が消えた。視界が消えた。全てが消えた。
白、白。ただ霞が広がるだけ。見覚えの無い風景。
霞が僅かに広がる。その切れ目から何かが見えた。
『――』
人がいる。口元しか見えない。その奥には空がある。
口元が動いていて、何かを言っている。性別は分からない。
ある。見た事がある。
これは――。
「!」
「セン……?」
意識が引き戻された。
見れば、ジュリウスが怪訝そうな表情をしていて、訓練場ではネルちゃんがダミーアラガミを撃破していた。
「あぁ、うん。大丈夫、少し眩暈がしただけだから」
「……そうか。休息は取っているのか?」
「もう問題ないよ。大丈夫」
ただの夢、とするには余りにも不明瞭で突然だった。
だがどう思い出そうとしても、僕の記憶から見つからない。だけどあの光景を、僕はどこかで見た事がある。
もしかすると転生する前の記憶なのかもしれないけど、だとすればどうして今頃になって思い出すのだろう。
僕がこの世界に来た時の事――否、それを全部覚えていない。気が付けばこうなっていた。
「セン博士、お疲れ様ですー!」
訓練を終えた彼女達と話しながら、僕は片隅である事に気づいていた。
僕は何かを忘れている。とても大事な何かを。
本編と関係ない小話
「セン、次の曲のテーマは何かしら?」
「はい、ちょっとシプレの小悪魔さを表現してみようと思いまして」
「ふふっ、なるほど。そのテーマは?」
「レッツ貢献」
「センさんー」
「ん、どうかした?」
「センさんってフライアに来る前は何されていたんですか?」
「人類種の天敵」
「……え?」
「人類種の天敵」
「……えっと」
「人類種の天敵」