ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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 この話かられんたろーやら木更サン本格参戦です。

 原作√に入るのは次話からですね...



二 強者・蛭子影胤
06.邂逅


「プロモーター狩り?」

 

 

「そうよ。....集められた情報によると、どうやら謎のイニシエーターが単独で、それも見境なくプロモーターのみを襲っているらしいわ」

 

 

 真新しい紙の資料をペラペラと捲りながら、我が天童民間警備会社の社長は俺の問いかけに対し、乱れのない長髪の黒髪を揺らしつつ肯定する。

 やがて目的のページへ辿り着いたのか、そこで手を止めてこちらへ差し出した。ご丁寧に赤丸で囲ってあったため、苦も無く探すべき要項が目に入る。

 

 

「印がつけられてる民警が、この近くで襲撃を受けた人たちよ」

 

「この近く....ていうと、会社(ウチ)のか?」

 

「ええ。多いでしょ?」

 

 

 彼女の問に頷くと、ここでようやく己が勾田高校から強制送還された理由を悟る。同時に眉は歪み、口端は下を向き、返答の言葉が喉に閊える。ようするに、俺はとても嫌そうな表情をした。

 

 

「き、木更さん。まさか」

 

「あら、察しがいいわね。里見くん」

 

 

 そう言って端正な白い顔を笑みで綻ばすと、黒髪を翻しながら立ち上がった。そして、ビシッと俺へ人差し指を突きつけながら、否やは許さないとばかりに宣言する。

 

 

「天童民間警備会社社長、天童木更(きさら)の命よ。里見蓮太郎くん、件のプロモーター狩りを一丁捕えてきて頂戴!」

 

「ええー」

 

「ほらそこ、口答えしない!」

 

 

 俺の鈍い返答を聞いた木更は指先を向けたまま、片手で机をバンバン叩きながら憤慨する。その指が向かい合わせで立つ俺の鼻に直撃しているのは余談である。が、途中で思い直したか、一度呼吸を整えて落ち着きを取り戻した。

 ぼふり、と不満顔のままと誰が見ても社長が座るだろう回転椅子に腰を下ろした木更は、今度は別の紙を手繰ってこちらへ渡してくる。俺はその紙片を鼻をさすりながら手に取り、目を落とす。

 

 

「高島飛那....?」

 

 

 紙面には、以前どこかで見聞きしたことのあるような、そんな名前の少女が顔写真付きで載っている。情報項目をさらりと確認したところ、イニシエーターであることが伺えた。

 

 

「目撃者や、襲撃されてから意識を取り戻した民警の話を統合して浮かび上がった犯人が、彼女らしいわ」

 

「.......」

 

「いい、里見くん?....実はね、彼女はプロモーターを亡くしているのと、両親もいないこと、あとは今回の事件とが重なって、交戦に発展した際は已むを得ない殺害も認めるそうよ」

 

「な....!何だよそれは!」

 

 

 今度は俺が頭に血を昇らせる番だった。木更さんが列挙した内容は、少女の背後には擁護する者がいない事を如実に表わしている。だが、だからと言ってそんな不条理が罷り通っていいはずがない。

 そんな俺の怒りは予想していたようで、彼女は高島飛那のプロフィールが載るA4用紙をファイルに戻しながら続けた。

 

 

「だからこそ、よ。他の民警にこの依頼が委託されてしまえば、こちらは一切関与が出来なくなるわ。....助けたいなら、助けられるのは今しかない」

 

「....くっ」

 

 

 このまま放って置けば少女による被害は拡大するだろう。東京エリア内でも決して有名とは言えない天童民間警備会社へ依頼が廻って来たのは、ただ付近の事件数が多いから、土地勘のある分捕捉できる可能性が高いと思われたに過ぎない。

 この調子で二の足を踏んでいては、恐らく他の有力者に依頼が移され、彼女は殺される。絶対とは言えないはずだが、そんな気がするのだ。そう思った瞬間、木更の手から高島飛那の情報が掲載されている紙を手に取っていた。

 

 

「分かったよ木更さん。依頼、受けるぜ」

 

「ふふ、それでこそ里見くんね」

 

 

 猶予期間はまだあるし、焦っても仕方ない。彼女の笑顔を前払いとして、犯人捜しを頑張るとしよう。

 

 

 

          ****

 

 

 

 人を探すというのは、簡単に見えて難しい。

 

 範囲が狭ければ虱潰しなどが出来るが、地図上で指定された赤い円形は数キロを示していた。自転車を走らせて廻っているのがせめてもの救いだ。

 

 

「ヤベ....延珠を迎えにいかねぇと」

 

 

 携帯の時刻を確認してから、今度は別の理由でペダルを強く踏み込む。定刻が迫っているということもあるが、俺の心を乱すのはもっと別の要因だ。

 ────やはり、アイツが通う学校まで行く間は気が気じゃない。

 延珠は呪われた子どもたちだ。その身へガストレアの血を宿す、忌み嫌われし存在。それが周囲へ露見してしまえば、親友であった者すら手のひらを返してしまうだろう。アイツは毎日、その恐怖と戦っているのだ。

 

 

「このままじゃ、間に合わねぇな....!」

 

 

 二度目の時刻確認で遅刻を確信した俺は、路肩の狭い道へ滑り込む。近道だ。

 直ぐに細道はある程度開け、広場のような場所へ様変わりする。そこを駆け抜け───ようとしたところで、前方に人影。

 

 

「っ!」

 

 

 咄嗟に急ブレーキをかけて、後輪の跡を残しながらも何とか横滑りして制止させる。突然の減速で前項姿勢になり過ぎたか、俺の腰に掛けたXD拳銃が滑り落ちた。

 からから、と黒い拳銃は軽い音を立てながら滑って行くが、先にあった靴に当たり移動が止まる。不味いと思った時にはもう遅く、拳銃はフードを目深に被った何者かに拾われてしまう。

 

 

「......」

 

 

 黙ったまま銃を弄んでいる謎の人物は、背がかなり低い。更に覗く肌は白く、肉付きも細い事も相まって、呪われた子ども達の一人だと確信した。

 

 

「....貴方は、民警?」

 

 

 手を止めた....少女は、感情の起伏を感じさせない声で、そう聞いてきた。意図は掴めないが、ここで嘘を吐く理由も無いので真実を伝える。

 

 

「ああ。まぁ、一応そうだ」

 

 

 一応ってなんだよ....と、自分で言ってから後悔するアホな俺。どうやら民警としての己の腕によっぽど自信が持てないでいるらしい。

 ともあれ、民警であることは伝えられたはずなので、銃は返してもらえるか....そう踏んでいた矢先、俺の言葉に対する答えは予想外な形で返された。

 

 

「そうですか....では」

 

 

 少女は水際だった動きで、今し方拾った俺のXD拳銃の銃口をこちらに構え、上部フレームを引っ張って弾を装弾、トリガーに指を掛けた。それを見た俺は、考えるよりも先に横へ飛ぶ。

 甲高い銃声と共に、横目でコンクリートへ穴が空くのを確認。今の行動により害意がある事は明確だが、攻撃された理由が全く分からない。

 

 

「....何故撃った?」

 

「貴方が民警で、プロモーターだからです。私は、東京エリアのイニシエーターを守るために戦います」

 

「どういう意味....っ!」

 

 

 銃口が向けられ、立て続けに発砲。しかし、彼女とは背の差があるため、角度調整されていない銃弾は足や腹に集中する。

 思考は後だ。先ずは話ができる状況に持っていかなければどうしようもない。俺はそう考えをすぐに切り替えると、左足で踏み込み、横向きになりながら右肘と右膝を合わせて、顔面や腹を防御しながら突っ込む。

 こんな事をしても意味が無いと大半の人間が思うだろうが、俺だけは別だ。

 

 

「ッ!?」

 

 

 腕、腹に直撃したはずの銃弾は、およそ人間に当たったとは思えない金属音を響かせ、その全てが音に違わぬ硬質さから弾かれる。一部始終を見たフードの少女は予想外の出来事に目に見えて驚愕する。

 俺はその隙に勢いそのまま手首を返し、足、腹に力を込め、少女の懐へ踏み込む。

 

 

「天童式戦闘術一の型八番────『焔火扇』!」

 

 

 穿つような右拳を繰り出し、咄嗟に防御した少女の腕ごと打つと、鉄柵に向かって弾き飛ばした。

 手加減しても常人なら片腕骨折は当たり前だが、流石はイニシエーター。大きな外傷はない。しかし、肩を痛めたらしく、苦悶の呻きを漏らして座り込んでいる。

 俺は地面に落ちていたXD拳銃を拾い上げ、一息吐いてからホルスターへ仕舞う。そんな俺の動作を見た少女は、当惑したような声で聞いてきた。

 

 

「....何故、撃たないのですか?」

 

「お前、俺を殺す気無かっただろ」

 

「っ」

 

 

 図星だったらしく、少女は口元を引き結んで黙り込んでしまう。実際、彼女の言葉、そして行為はすべてが冷え切っていたが、殺意は感じられなかった。....あくまでも俺の予想だが、殺すのではなく、痛めつける。そういう意図があったのかもしれない。

 俺は頭を掻きながら、先ほどの言葉の意味を問いかけることにした。

 

 

「お前の言ってた、イニシエーターを守る....ってのはどういう事なんだ?」

 

「貴方は....いいえ、貴方も。イニシエーターを使い捨ての駒だと思っているのでしょう?私はそんな貴方達を赦さない。だから───この東京エリアに蔓延る屑は、私が全て潰します。守る、というのはそういう意味です」

 

「な....まさか、お前が」

 

 

 プロモーターのみを狙って襲撃している、木更さんの言っていたプロモーター狩り...!

 

 だが、俺は彼女がいうような連中とは断じて違う。だからこそ、俺がイニシエーターを....延珠を駒だと思っているという彼女の発言は聞き捨てならない。

 

 

「力が使えなければ罵倒し、気が利かなければ殴り、要らなくなったら捨てる....!貴方達にとっての私たちは、ガストレアとの殺し合いや、憂さ晴らしに都合のいい、使い捨ての道具でしかない!」

 

「....っ」

 

「己の欲望や負の情念を叩き付け、理不尽な思想でイニシエーターを排斥する人間...そんな奴等は皆、ガストレアに喰われてしまえばいい!」

 

 

 ────その時、風が吹いた。

 

 突風は俺の横をすり抜け、少女....高島飛那のフードを持ち上げる。突如、光沢を帯びた綺麗な白髪が宙を踊り、太陽の光を反射して銀色に輝いた。

 やがて、その顔が露わになった時、俺は胸が突き上げられるような衝動に駆られる。

 

 ....彼女は、泣いていた。今すぐにでも消えてしまうそうな程の、儚さを湛えて。

 

 

「....こんな腐った世でも、たった一人、心の底から愛せた人すら奪ったこの世界を私は、赦さない」

 

「くっ────」

 

 

 俺にはどうしてやる事も出来ないのか。目の前で復讐の慙愧(ざんき)となりかけている幼き少女を、ただ見ているしかないのか。それは違うと、それは間違いだと言うのは簡単だが、彼女の拒絶と憎悪は理性的、倫理的な訴えでは覆らないだろう。

 ....俺の脳裏に浮かんだのは、ガストレアに何もかもを奪われ、己の意志を憎しみに染めた義父の姿だ。

 ふざけるな。目前の少女をあんな風にはさせない。なら、もう己が訴える言葉は決まったようなものだ。

 

 

「負けてんじゃねぇよ」

 

「え────?」

 

「お前は、自分が一番辛い思いをしてるんだと思い込んでいる」

 

「!....そんなこと、私はそんなこと、一度たりとも思ったことはありません!」

 

 

 あくまでもシラを切るつもりか。

 俺はかつての、大切なものの悉くを失って沈み切っていた自分を少女の姿に重ねてしまったからか、思考に熱が廻るのも構わず捲し立てる。

 

 

「何もかもを無くした奴なら沢山いる!家族も、友人も、恋人もだ!そんだけのもの全部を目の前で喰い散らかされた奴らがいるんだよ!....でも!それでも今日を生きている人がいる!」

 

「そんなのはこじつけです!私の苦しみは、私にしか分からない!....この気持ちを理解してくれる人なんて、もう────」

 

 

 この言葉で、一時脳の神経が焼き切れかけた。言っても理解されなかったのならいい。幾ら憎んでくれても、それこそ銃を向けてくれても構わない。だが、口にもせず一方的に理解されることはないと断じ、殻に閉じこもるのは我慢ならない。

 俺は歯を食いしばって項垂れる彼女の肩を掴み、死にもの狂いで叫ぶ。

 

 

 

「言いもしないで気持ちなんか伝わる訳ねぇだろうがよッ!」

 

 

「っ....なら、なら!貴方は理解してくれるんですか!?私の存在を───私の気持ちを!」

 

 

 俺以上に激昂しながら涙を流す彼女の姿で、少しばかり思考が冷まされた。暴走する己を鎮めるために一度深呼吸をしてから、己を引け合いに出す自己嫌悪に苛まれながらも口を開く。

 

 

「してやれるはずだ....いや、出来る。俺は家族だけじゃ飽き足らず、自分の一部すら奪われたんだからな」

 

「どういう、ことです?」

 

「────こういうことだ」

 

 

 俺は先ほどの攻防で穴を空けた右腕、右足の人工皮膚を見せる。そこから覗いていたのは、黒光りする金属質なフォルムだ。

 

 

「これは、まさか....バラニウム?」

 

「ああ。俺はガストレアに右半身と左目を喰われた。その代わりに取り付けられたのがコイツって訳だ」

 

「左目は....義眼、ですか」

 

「正解だ」

 

 

 苦々しい表情で俺の顔を覗き込んで来た高島飛那は、すぐに目を伏せてしまう。

 ちなみに、これはただのバラニウム製の義手やら義眼ではないのだが、一々説明すると日が暮れてしまうだろう。

 ────ん?日が暮れる?

 

 

「あぁっ!」

 

「ひゃ!?な、何ですかいきなり!」

 

「延珠の迎え忘れてたっ」

 

 

 たまにサプライズで行くこともあるのだが、今回はアイツへ事前に伝えてある。となれば、自分が来るまでの間ずっと校門前に立たせている訳で....

 

 

「ヤベッ!今すぐれんら────ぶほっ!?」

 

 

「ふふ...その必要はないぞ」

 

 

「な....まさか延珠、()からずっと見てたのか?オイ」

 

「そんな筈はなかろう!妾は今しがたここへ着いたばかりだ。だからこの状況を説明するぎむが蓮太郎にはあるぞ」

 

 

 胸を張って言うのはいいのだが、延珠の登場は頭上から降ってくるという過去類を見ない方法であり、着地は俺の肩だった。

 まぁ、そこは百歩譲っていいとしよう。問題は、俺の頭が延珠のスカートの中に埋まっているこの状況だ。早急に降ろさねば、さっきまで心の叫びをぶつけ合っていた高島飛那に変態の汚名を着せられてしまう!

 

 

「え、延珠っ。降りろって!」

 

「やだ。蓮太郎は妾を放って他のオンナと会ってたバツとして、肩車をしなくてはならないのだ!」

 

 

 ────だったらせめて、スカートを頭から外してください!寧ろこれが最大級のバツです!

 そう泣いて懇願しそうになったが、突如響いてきた明るい声に遮られる。....声の主は、高島飛那だった。

 

 

「ふふふ....あははは!」

 

 

 悲しみ打ちひしがれて泣いていた表情とは全くの対。笑顔を浮かべて朗らかに笑い続ける彼女は、とても魅力的だった。

 

 

 

          ***

 

 

 

 

「妾はな、蓮太郎の『つま』なのだぞ!」

 

「そうなんですか!やはり年の差は関係ないのですね」

 

 

 あの緊張感溢れる雰囲気はどこへやら、このように今は二人で仲良く談笑をしている。

 しかし、こうやって見ると改めて分かる。やはり延珠には、人の心を解きほぐす天性の才能があるのだと。また、彼女が早々に高島飛那へ、俺が()()()()()()()()()()ことを伝えてくれたことも大きいのだろう。

 

 

「おい待て、俺は延珠とそういう関係になった覚えはない。あとな、年の差にも限度ってモンがあるぞ」

 

「ふふ、冗談です」

 

「.......」

 

 

 ────妙に、調子が狂うな。尤も、その原因なら既に分かっているのだが。

 理由の大半として、普段は延珠の年相応の幼稚な言動を眺めているからか、彼女と同じかそれ以下の身長と年齢であるはずの高島飛那の、歳不相応に理知的で落ち着いた雰囲気に圧されてしまってしまっているのだろう。

 

 

「....むむ、何だかそかはくとなく馬鹿にされた気がするぞ?蓮太郎」

 

「気のせいだろ。あと、『そこはかとなく』な。....で、お前はこれからどうするんだ?高島飛那」

 

 

 延珠の隣に立つ銀髪のイニシエーターに、敢えて名指しでそう問いかけると、彼女は少し驚いたような顔をした。

 

 

「知ってたんですか?私のこと」

 

「あんだけ派手にプロモーターを倒してりゃ、顔は割れんだろ。ウチへ顔写真付きの依頼書が届いたんだから、明白だ」

 

「むぅ?どういうことだ蓮太郎。ヒナが何かしたのか?」

 

 

 しまった。そういえば、延珠はこの依頼のことを全く知らないんだった。

 内容が内容なので少し逡巡するが、話をすり替えたり、誤魔化したりしても延珠には通用しないだろう。そもそも、そんな器用な真似は俺には出来ない。危ない所だけ避けて話す事にしよう。

 

 

「───そ、そんな事が....す、すまぬ!妾はヒナの気持ちも知らず」

 

「いいんです。延珠さんの、里見さんを信頼する強い想いが伝わりましたから」

 

「あう....ほ、ほんとか?怒ってない?」

 

 

 コクコク頷く彼女を見た延珠は安心したように笑顔を漏らした。それを確認した飛那は、表情を引き締めて俺の方へ向き直る。

 

 

「私は、自分の家へ戻ります」

 

「え....で、でも」

 

 

 口に出す事が憚られた延珠は、以降口をもごもごさせて黙り込む。そんな心優しき相棒の頭を優しく撫でてから、俺は彼女へ諭すように言う。

 

 

「止めとけ。もう東京エリアの警察連中にはお前の顔が知れ渡ってる。家の方も既に差し押さえられてんだろ」

 

「あ....それもそうです、ね」

 

「むー、何とかならないのか?蓮太郎」

 

 

 延珠は困ったようにそう言うが、実の所八方塞がりだ。唯一まともに暮らせる場所として挙げられる外周区の『子供たち』がいる場所は、勿論警察の手が及んでいるだろう。仮に預けたとしても、彼女らが高島飛那を売るとは思えないが、長期間の滞在は彼女らと本人の心象から見て望めはしない。

 東京エリア内は....言うまでもないだろう。

 

 

「やっぱり、私は....」

 

 

 思いつめたように顔を伏せた彼女は、どこか諦観を滲ませた呟きを漏らす。俺は何かを言おうと声を絞り出そうとするが、言葉が見つからずに歯噛みしてしまった。延珠も必死にとりなそうとするが、俺と同じ結果に終わる。

 

 

「....っ?」

 

 

 突然、痛々しい沈黙を破るように一帯へバイブ音が響き渡った。正体は....俺の右ポケットで震える携帯電話だ。発信元を確認すると、わが社の社長、天童木更であった。まさか、依頼を終わらせたことを察知したのだろうか。だとしたらすごいエスパーだ。

 

 

「木更さん?どうした」

 

『里見くん!今から行って欲しい所があるの!』

 

「はっ?」

 

 

 事態が全く飲み込めないが、どうやら当人は相当焦っているらしい。またスーパーの安売り情報でも手に入れたのだろうか。悲しいことに、木更が焦ることなどこれを除いてほぼないといっていいのだ。

 木更は、そんな風に早々に鷹を括り、呆れていた俺の予測を大きく外す答えを返した。

 

 

『ガストレアが出たわ!すぐに現場へ直行して!』

 

 




 オリ主の行方はちゃんと明らかになりますのでご安心を。

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