ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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時が流れるのは早いものですね…(遠い目)

資料として原作を読むと、2014年のあの頃を思い出します。


54.解明

 悪夢のようなガストレア地獄から帰投した俺と壬生朝霞は、我がアジュバント一同が確保する廃ホテルに移動した。

 外観はおぞましかったが、中は掃除をしてくれたこともあり、存外に綺麗だった。

 

 各人と交わす感動の再開もそこそこに、すぐ報告しなければならないことがあるため、蓮太郎をとある部屋の一室へ招く。

 

 そして粗方の準備を終えた現在、俺はアジュバントメンバーの集まる食堂から離れた客間の一室で、蓮太郎と向かい合うように立っていた。

 

 そこに、どさり、という音が響く。

 

 それは里見蓮太郎が手に持っていた、水の入るペットボトルだ。落下の拍子に横倒しとなってしまったため、飲み口から我先にと中身が零れ落ちている。

 しかし、今の蓮太郎にはそんなことを気にする余裕などなさそうだ。

 

 

「我堂団長が戦死、しただって?」

 

「ああ」

 

 

 絶対的なリーダーシップと、屈強な戦闘力を併せ持つ、民警軍団にとっての最大戦力を失ったという事実。俺は、それを目前の少年に容赦なく突きつける。

 這う這うの体で戦場から戻って早々の彼にこんな知らせをしなければならないのは、俺だって望むところではない。だからといって、これを後回しにしては後の再起に致命的なタイムラグを生むことになってしまう。

 何故なら、民警が複数のアジュバントを組んで群体を作成するにあたり、それの総指揮を執るのは全戦闘要員の中で最も序列の高い者だからだ。

 東京エリア死守を目標に集った民警らの中で、我堂長正の次に序列が高いのは────、

 

 

「ちょっと待ってくれ!我堂は俺たちの頭だろ!?序列百番台の異次元に片足突っ込んだ人間だ!いくらアルデバランがステージⅣの中で飛びぬけて異質だと言っても、たった一回の衝突で死ぬはずが…!」

 

「確かに、集団を率いて行う戦闘の場数を踏んだ人間は、頭が失われることの重大さは理解しているはずだ。我堂長正がそういう立ち回り方を知らないはずがないし、実力も申し分ない。けど、今回ばかりは条件が最悪だった」

 

「条件?なんだよそれはっ」

 

「敵の情報が、既にある程度存在していたからだ」

 

 

 正確な情報であれば問題は無い。それを元に組み立てた戦術は、その者の才に則した結果をもたらすことだろう。仮に覆されるとしても、全く関連の無い第三者の介入によるものとなるはずだ。

 だが、事前情報が誤っていた場合は、程度にもよるが策の殆どは前提から覆ってしまう。そして、どれほどの才人であろうと、不確定な情報を元に完璧な策は生みだせない。

 

 ()()アルデバランのことを正しく理解していたのなら、迎撃を行うにせよ、己が属するアジュバントたった一つで斬り込むことなどしなかっただろう。

 

 また、俺たちが我堂長正の強さを盲目的に過信し過ぎていたのも、悪条件の一つといえる。

 

 『この人は強い』。『この人なら大丈夫』という類の信頼は、『大抵のことは彼一人でも何とかできる』という言葉に置き換えることができてしまう。

 戦前にあれほど大立ち回りをしてしまったことから、『我堂長正であれば、仮にアルデバランと一騎打ちになろうと対処できるのでは?』といった意識が民警らの間で芽生えてしまったのだ。

 攻め込んで来たアルデバランの侵攻が止まっていることから、当時は我堂団長の状況を把握できている者も幾らかいた筈だが、彼自身が敷いた軍規と、『盲目的な信頼』に邪魔をされ、救援の可能性は完全に途絶えてしまった。

 

 

「情報が間違ってた、だって?…いや、それでもだ!お前が救援に行ったんだろ?我堂のイニシエーターを連れてるってことは間に合ってるはずだよな。お前が加わっても、アルデバランは倒せなかったのかよ」

 

「ああ。一度殺すことはできたが、死ななかった」

 

「…頓知に付き合うつもりはねぇぞ」

 

 

 仮に、本当に我堂長正が戦死した場合、己がどのような立場に置かれるのか理解しているのだろう。遠まわしな言葉を放つ俺に対し、苛立たし気な表情を隠しもせずに歯を擦らせる蓮太郎。

 が、俺本人としては決して遊んでいるつもりなどない。ただ、彼はこれから先、少なくともこの戦争中は、激情を抑えること、そして状況を正確に、冷徹に俯瞰する能力を発揮して貰わねばならないのだ。

 これしきの謎かけで苛立ち、一々犬歯を向いていては、元来烏合の衆である民警らを『率いて行けない』。

 

 

「我堂団長はアルデバランの首から上を消し飛ばした。確実にな」

 

「首から上…?アルデバランは頭部を失ったのか。なら、流石に不死身の再生力を謳う奴も終わりだろ」

 

「いいや、残念ながら再生を確認したよ。頭であれなら、恐らく心臓も同じだろう」

 

「────」

 

 

 有り得ない、という顔をする蓮太郎。

 如何に超常の再生力を持つガストレアといえど、その再生能自体を発揮させる根本的な部分である心臓部や脳髄などを破壊されれば、命を落とすのが通説なのだ。

 しかし、アルデバランはそれを覆した。同じ生命としてあるまじき、背徳的とも言える行為だ。

 ────さて、次々と状況を悪化させる真実を開示する俺に対し、蓮太郎のストレスもそろそろ限界近い頃だろう。ここらで、反撃の一手を具申することにしよう。

 

 

「心配すんな。頭を失くしても心臓を失くしても死なない奴だろうと、始末できる手立てはある」

 

「何だよ。それは」

 

「一度の衝撃で、アルデバランの肉体全部をフっ飛ばせばいい。無から再生なんてできんからな」

 

 

 その言葉で一度は目を丸くした蓮太郎だったが、すぐに片手でガシガシと頭を掻き、呆れたような声調で吐き捨てた。

 

 

「…出来ると思ってんのかよ。アメリカからICBMでも発射要請掛ける気か?」

 

「なに、方法についちゃコッチにアテがある。指定の場所まで誘導してくれれば、俺が何とかしてやれるぞ」

 

「っ」

 

 

 この場限りの嘘などではない。実際、どうにかできる手立てはある。

 ────ただ、条件はかなり厳しい。俺の予想だが、成功させるにあたって民警の半数は犠牲になると踏んでいる。

 それでも、やらなければ。さもないと、東京エリアは終わりだ。民警半数どころではなく、後方の住民を含めた全員が殺される。

 そうして状況を再確認していた俺の襟首を、無造作に伸びた黒鉄の腕が乱暴に持ち上げる。

 

 

「ッ!」

 

「ストップだ、朝霞」

 

 

 これまで一切言葉を漏らさずに俺の隣で待機していた壬生朝霞が、唐突に動いたはずの蓮太郎の動きを完全に制するタイミングで、鞘を身に着けたままの刀を閃かせる。

 そんな紫電の如き一閃を俺は片手で引っ掴み、このまま奔れば横腹に当たるであろう軌道を阻んだ。

 

 

「覚悟は、あんのかよ」

 

「命を背負う覚悟のことか?」

 

「そうだよ!そうに決まってんだろ!いいか、一つや二つじゃねぇ。数万の命だ。お前の溢した気まぐれみてぇな言葉で、それだけの命が左右されるんだぞッ!」

 

 

 蓮太郎は言っている。失敗など許されないことなのだと。

 恐らく、己が無力であることを承知のうえで、俺を問いただしているのだろう。

 意見が無いから、誰かの提示した意見を濫りに受け入れてしまうのではなく。意見が無いから、状況を打開できる策を持ちえないからこそ、彼はその責任の犠牲となる人間目線から、こちらへ問いかけてくれているのだ。…()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

「俺はいい。成功するんなら囮だろうと捨て駒だろうと演じ切ってやるよ。───けどな」

 

 

 蓮太郎は一度言葉を切ると、一層凄みを増した眼光を作り、俺を射抜いた。

 

 

「延珠と木更さんを同じ役に就かせてみろ。テメェのドタマぶち抜いてでも止めてやる」

 

「…ああ、だろうな。お前はそういうやつだよ、蓮太郎」

 

 

 この少年は俺とは違う。違うというのは、モノの考え方の話だ。

 主観的な見方での『この世の終わり』とは、己の死だ。死とは、世界を観測する術を失くし、また干渉する手段を剥奪される、とも言い換えられる。

 人一人にできる事など限られているが、確かに己の周囲にあるのは世界の一部だ。そして、その一部に含まれる多くのモノに価値を見出すのが人間と言う生物。

 

 だからこそ、この世界で人間はガストレアと戦い続けている。

 

 しかし、蓮太郎は藍原延珠と天童木更を危険に晒した場合、ガストレアと対する俺を敵として処理するという。己の、そして東京エリア全ての住民の命すら無視した行動だ。

 つまり、彼にとっての両者は、失われれば『この世の終わり』と等しき結末をもたらす存在なのだろう。決して誤った感情ではないが、別の何かを支えに強さを保っている人間は、それが崩されれば呆気なく倒れ込んでしまう。

 

 

「勿論、重責を背負う覚悟はあるさ。さんざやってきたことだからな」

 

「やってきた?じゃあなんだ、お前は大勢の人間を守って戦った経験が、他にわんさかあるってのかよ」

 

「まぁな。『狩人』時代にやってたことだ」

 

「ハ、どうだか」

 

 

 ひとまずは落ち着いてくれたらしく、襟を掴んでいた手を離した蓮太郎。同時に朝霞も刀を引っ込めてくれたので、軽く安堵の溜息を吐く。人間同士が感情をぶつけ合うピリピリした空気は、いつまでたっても慣れそうにない。

 ともあれ、俺がアルデバラン撃滅の作戦立案を行うことにこれ以上の反論はなさそうなので、会話の駒を一つ進めることにする。

 

 

「彰磨、入ってきてくれるか」

 

「ッ?!」

 

 

 唐突に知った名前を口に出された蓮太郎は激しい動揺を見せる。何故ここに?何故このタイミングで?そういった憶測が堂々巡りしていることだろう。

 果たして、軽い返事の言葉を上げてから、薄汚れたホテルのドアを開けて入室してくる薙沢彰磨。そして、そのイニシエーターである布施翠。

 両者とも厳しい顔付きをしていた。

 

 

「彼には、交戦中に現れた『銀の槍』を吐き出すガストレアの討伐を依頼した」

 

「なッ…!」

 

 

 銀の槍。俺が民警軍団から離れてアルデバランの下へ向かおうとしていた最中、戦場を蹂躙していた砲撃の名称だという。言い得て妙だ。

 道中で砲台として機能していたガストレアを発見し、野放しにするのは危険だと判断して動きを止めたのだが、既に砲火による被害は深刻なものであったらしい。

 なので、まずは次の交戦までにコイツを始末しておきたい。長距離射程の支援砲撃を行える敵など、戦時においては真っ先に落とすのが定石だ。

 

 そして、それを為して貰うのが彰磨という訳だ。

 

 だが、そうなれば必然未踏査領域まで足を伸ばさなければならないし、敵方としてもこちらを攻略する上で重要な武器として考えているだろうから、恐らくはアルデバランの取り巻き、その中心にまで踏み込まなければならないだろう。

 端的にいえば、自殺行為だ。

 それが分かっている蓮太郎は、俺の隣に朝霞がいるのも忘れて肉薄する。が、その侵攻は彰磨の腕により阻まれた。

 

 

「これは俺が発案し、美ヶ月に提案したものだ。里見、怒りの矛先を間違えるな」

 

「なッ、何でだよ!分かってんだろ!幾ら彰磨兄でも、こんなの…!」

 

 

 行かせるわけにはいかないのだろう。絶対に。

 しかし、蓮太郎も頭では分かっているのだ。あのガストレアを放って置いた状態で交戦してしまえば、次こそ完膚なきまでに己たちは敗北すると。

 しかし、理性と感情は切り離せない。誰かがやらねばならないとしても、彼である必要はないじゃないか、そう考えてしまう。

 

 

「美ヶ月、里見。お前たちは対アルデバラン戦の要だ。万が一でもポテンシャルに影響の出る傷を負うべきではない」

 

「でも!」

 

「いいのさ。少しは俺の力を役立てさせてほしい。この、壊すしか能の無い拳を、な」

 

 

 彰磨は淋しそうな表情で握り拳を作る己の手を見やる。そんな彼を慰めるように、傍に立つ翠がフルフルと首を振った。

 薙沢彰磨の能力。それは俺でさえ驚きを隠せないほどの技を内包するものだ。

 実力披露でみせた、あの破壊力。『内部破壊』に特化した、怖気がするくらいエネルギ―を効率的に対象の内部へ伝える技法。あれで調整を施していたものだとすれば、上手くいけばステージⅣすら屠ることも可能なはずだ。

 彰磨の決意の固さを感じ取った蓮太郎は、瞼をぐっと閉じて奥歯を噛む。

 

 

「あのガストレアは、恐らく鉄砲魚だ。攻撃の規模と性質から考えて、姿はそれにかなり近いと思う」

 

「鉄砲魚…!それがあったか」

 

 

 生物に関しての分析力は相変わらずのようで、俺は思わず舌を巻く。確かに、ガストレア化したとしても、あんな芸当が為せるのは鉄砲魚くらいのものだろう。

 隣に立っていた彰磨も、なるほど、と納得の素振りをみせていた。

 そんな俺たちの反応を気にすることなく、蓮太郎は言葉を続ける。

 

 

「具体的な形態は予想できないが、運動能力は零に等しいはずだ。殆ど陸上を移動する術は持っていないと見ていい」

 

「ふむ。つまり、身体を構成する筋肉のほぼ全てが、砲弾の発射に使われているということか」

 

「そうだ。そうでもないと、流石にガストレアとはいえ長距離の射撃なんて無理だ」

 

 

 モノを発射するガストレアとの交戦経験は星の数ほどあるが、あれほどのものを飛ばすヤツは流石にお目に掛かったことは無い。

 とはいえ、飛ばすにせよせいぜいが数百メートル程度だ。キロメートル単位の飛距離など普通ではない。

 それはガストレアにとっても同じで、無理矢理可能な形態をとろうとしたのであれば、本当に只の砲台と化している可能性が高いのだろう。

 

 

「そう考えれば、勝算はあるように思える。けどな、結局は俺の手前勝手な予想だし、ガストレアだって大量にいる!成功するかも分からない賭けごとに首突っ込む道理なんかねぇだろ!」

 

「いいや、分の悪い賭けじゃないんだよ。これが」

 

「な、に?」

 

 

 俺は頭を掻きながら、口にするか迷っていた事実を明かそうと決める。

 もとより、兄弟子である薙沢彰磨を立てた時点で、碌な対策もなしじゃ蓮太郎が納得しないことなど薄々分かっていたし、早々に腹を括るべきだった。

驚愕の途中である蓮太郎と、疑問の表情をする彰磨たちに向け、俺は口を開く。

 

 

「アルデバラン戦の帰り道に、俺はガストレアの軍団と戦ったんだ」

 

『…?!』

 

 

 二千あまりのガストレアと相対した。何とも滑稽極まる冗談だろう。

 しかし、この場は冗談などを吐いていいところではない。ここで立てた方針は、つまり全ての民警たちの命を左右するのだから。それは、蓮太郎に胸倉を掴まれるまでもなく理解していたことだった。

 蓮太郎も、今更になって虚言を吐くとは思わないだろうが、だからといって『そうですか』と易々頷けるような内容ではない。

 どうしようかと悩んでいたところ、意外な人物から助け舟が出された。

 

 

「美ヶ月さまの仰っていることは真実です。私もその場には居ましたので、この目で確認しています」

 

 

 その声の主は、壬生朝霞。先みたく俺に直接的な危害が及ばない限り静観しているだけかと思ったが、こういった面でも支援はしてくれるらしかった。実にありがたい。

 冗談などとは無縁のような雰囲気を放つ朝霞の言だ。蓮太郎と彰磨は大いに気圧されたようで、出かかっていた反論の言葉を軒並み呑みこむ気配がした。

 しかし、その中でおもむろに挙げられた手が一つ、あった。

 

 

「あ、あのっ。聞きたいんですけどよろしいですか?」

 

「何です?」

 

「ひぅ」

 

 

 質問の挙手をしたのは意外や意外、布施翠だった。…のだが、直後に朝霞の鋭い視線に射抜かれ、慌てて彰磨の影に隠れてしまう。

 朝霞としては単に視線を動かしただけで、非難の意は全くないのだろうが、その怜悧ともいえる面持ちのお蔭で、他者を無意識に威圧してしまうきらいがある。

 これ以上、この役回りをさせるのは朝霞にも翠にも悪いので、さっさと俺が矢面へ立つことにする。

 

 

「それで、どんなことを聞きたいと思ったんだ?」

 

「ぁ、ええと、その。交戦した、ということが事実だとして、何で『悪くない』って言えるのか分からなくて。この状況だと、それで沢山のガストレアを倒したわけじゃ、ないんですよね?」

 

「ああ、そうだ。流石に()()()()じゃそんなことできないからな」

 

 

 実際、翠の疑問は尤もだった。

 彼女の意見を端的に表すと───戦ったにせよ、それがどうして直接的な有利に結びつくのか分からない。敵の数を少し削ったからと言って大勢に影響が出るとは思えない。───こういうことだろう。

 中々鋭い指摘だ。上手く靄がかかっていた根拠の穴を突いている。

 それを分かった上で、俺は足りなかった状況説明を付け加える。

 

 

「敵を分散させたんだ。言い換えると、隊を乱したともいえるかな。本来ならアルデバランの尻にくっついて移動するはずだった奴らは、唐突な異分子の乱入で、その行軍が大きく乱れてる。恐らく、まだ陣地に帰れてない連中は相当数いるだろうさ」

 

「…!あれからアルデバランはフェロモンを発散してない。樹万との戦闘中に意識が乱されて、指示系統を失った連中が出てるのか!」

 

「待て里見、フェロモンだと?アルデバランはそれを利用できるのか?」

 

 

 彰磨の指摘に、蓮太郎はしまった、という声を上げて顔半分を片手で覆う。本当は早めに伝える予定だったのだろうが、俺のした我堂団長の戦死報告によるショックで、完全に頭から抜け落ちてしまっていたと見える。

 フェロモン、というと生物間であらゆる意志の伝達を担うことができる物質だ。人間でいうところの言語に近しいとさえ言われている。

 確か、フェロモンには相当数の種類があったはずだ。その中に、仲間を集めるようなものもあったはず。であれば、

 

 

「すっかり言い忘れてたが、そうだ。あれほどガストレアに緻密な動きをさせるには、フェロモンくらいしか方法がねぇ。何せ、解明されてるだけで千六百種類はあるからな。それと、恐らくは解明されてない何らかのものまで合わせて、完璧な統率を演出してるんだろう」

 

「流石は生き物博士だな。蓮太郎先生」

 

「うっせぇ。…で、それだけのフェロモンを使えるとなると、アルデバランは蜂がベースのガストレアかもしれない」

 

 

 次々と明らかになる情報の数々。いずれも根本的な解決には至らないものだが、分かっていることが多いに越したことはない。

 そして、現時点で俺たち民警軍団が真っ先に取るべき手は決定した。

 

 

「よし。なら先ずは向こうの砲台を潰そう。…頼めるか?彰磨、翠」

 

「元より、そのつもりだ。今更断る理由などない」

 

「は、はい!精一杯がんばりましゅ!」

 

 

 翠は噛んだが、大丈夫だ。これが彼女の通常運転なのだから。…当人に言ったら怒られそうな発言だな。

 そして、今度は蓮太郎の方へ確認の意を含ませて問いかける。

 

 

「蓮太郎も、いいな?」

 

「…ああ。分かったよ」

 

 

 渋々、という表情だが、頷いてくれた。

 本当は自分が何とかしたいのだろうが、彼にはこれから大役を担ってもらわねばならないのだ。ここを離れる行為は、残念ながら許されない。

 

 それはこの場にいる誰も、そして、東京エリアにいる誰にも任せられないものなのだから。

 

 里見蓮太郎がこれから帯びる肩書きとは、東京エリア在住の民警総勢によって作成されるアジュバント、その総指揮。

 つまり、我堂長正に代わる、民警軍団の団長である。

 




彰磨と翠が単独行動決定。
オリ主が動かなかったのは、アルデバラン戦の作戦立案をしなければならないからです。

ちなみに原作だと蓮太郎がこの役割を帯びます。我堂団長まだ生きてますしね…。

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