ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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遅筆にもかかわらず、評価等ありがとうございます…(恐縮)
以降もできる範囲で努力していきます。

今話は冒頭から中盤にかけて第三者視点での地の文となっております。


53.境界

 ────ある、巨躯の怪物は困惑していた。

 

 例え理性が在らずとも、己と同じ形をし、己と同じ目的のもと、大量の『己たち』が一つの『標的』に(たか)ればどうなるか。それは幾度も繰り返した略奪と破壊で身に染みていたことだった。

 そも、あらゆる領域で『己たち』は『標的』より勝っていた。故にこそ、腕を振るえば枯れ枝の如く宙を舞ってひしゃげ、碌な体重を掛けずとも踏みつぶせば、熟した果実の如く身体を崩した。

 

 では、『あれ』は何なのだろうか。と、対象の再定義を試みる怪物。

 

 『あれ』は『己たち』の知る『標的』の特徴と合致する。殺そうとすれば容易く死ぬ弱き生物だ。

 

 なのに、積み上がるのは『己たち』の屍ばかり。

 

 進軍の最中に突如飛び込んできた一個の影。すぐさま百に及ぶ包囲網を築かれ、息つく間もない攻勢を受けて尚、その『標的』は健在だった。

 怪物には、とても理解が及ばないのだ。眼下で展開される結果の意味が捉えられないのだ。

 

 それも当然だろう。()()なのだから。

 

 何の感慨もなく大量に殺してきた『標的』が行う『己たち』の殺戮。

 当事者の振るう暴力を客観視してこなかったガストレアにとって、こうなるに至った原理や原因を特定することなど望むべくもない事だろう。

 

 かつて名のある軍人すら貪り食った蛇型ガストレアが顎を砕かれ、脳天を不可視の一撃で消し飛ばされる。

 かつて一つの都市を半壊させた熊型ガストレアが腹と胸を大きく凹ませたかと思うと、頭部を弾き、赤色の液体を噴出するだけの彫像と化す。

 そして、群がるステージⅠやⅡのガストレアたちは、ただの一発の銃弾で急所に穴を穿たれて絶命する。

 

 槿花一日の栄、という言葉がある。

 巨躯の怪物は、一人の人間が振るう次元の違う暴力を前に、『己たち』の落日を幻視した。

 

 

 ────と、その時。

 

 

 何が引き金だったのか、怪物の中ではとうに終わっていた筈である、()()()()()を可能とする駆動系に稲妻が奔った。

 

 情報が、錯綜する。

 視界が、切り替わる。

 

 電子の運動で明滅する錆びついた蛍光灯。

 照らしだされる劣化したデスク。

 机上に置いてあった手稿は、どうも『己のもの』であるらしい。

 

 ノイズが走った己の身体で、茶けた紙を捲る。

 しかし、書いてある事の何もかもが、理解できない。何かを伝えるためのものだろうが、こうなってしまった以上、解することなど不可能だ。

 だが、何故だろうか。分からない。

 これを見てから、己の中にたった一つだけ、生じた疑問がある。

 

 ────この場だけを切り取るように照らす蛍光灯が、激しく明滅する。

 

 

 

 己も、たしか。

 かつて、あの者のような『■■■■』であった時が、あったのでは、なかったか?

 

 

 

 ────やがて、暗闇が戻る。

 

 

 怪物の意識が立たれると同時期、空を裂いて迫った破断の一撃が、提起した問題ごと()の世へと連れ去って行った。

 

 

 

 

          ****

 

 

 

 無事、アルデバランに致命的な一撃を与えることに成功した美ヶ月樹万は、救出した壬生朝霞を抱え、ひとまず民警軍団の駐屯地へと急ぎ戻ることにした。

 …のだが、現在は数百のガストレアに囲まれ、進むに進めない状況である。

 

 

「よし、デカいの撃破!」

 

「あ、頭が消し飛びましたね」

 

 

 樹万としてはこういう殺し方を出来れば避けたいところだったのだが、幾らなんでも頭数が多すぎるので、一匹ずつ、それも常識的範疇で()()に殺す余裕など流石になかった。

 尤も、普通の人間がこの場に放り込まれれば、一秒と経たずに己が死を悟って絶望するのだが。

 殺し方の選択に悩むなど、世界広しとはいえ彼くらいなものだろう───否、あの神父も候補には入るので、世には実質二人といったところか。

 

 

「あんまり急ぎ過ぎても回避精度落ちるからあれなんだが、このままだとアルデバランお付きの連中が全員こっちに来ちまうな!」

 

「に、二千全部がですか!?」

 

「ボスが撤退を始めてるからな!連中は後ろ(ケツ)にくっついて行くだろうから、丁度その地点にいる俺たちは行軍の波をモロに受ける!」

 

 

 なるべく短時間で戻るために迂回しなかったのは選択ミスだったといえる。結果ガストレア全軍を何かしらの方法を用いて統率しているアルデバランの取り巻きと正面衝突してしまったのだ。

 それから樹万と朝霞の両者は、大量の怪物どもとの継続戦闘を余儀なくされている。考え得る中で最悪のケースと言ってもいいだろう。

 朝霞はギリリと奥歯を噛み鳴らしながら、何とかこの状況を打開するための方策を捻り出そうと眉を顰める。

 

 

「く、なら救援要請を!」

 

「無し。犠牲者が増えるだけだからな」

 

「では、遠方からの支援砲撃だけでも!」

 

「自衛隊は最初の衝突で壊滅的な打撃を受けてる。立て直しには一日くらいかかるだろうよ」

 

「ぬぬ、じゃあ…うう」

 

 

 朝霞は樹万の背で縮こまる。その手は悔し気に彼の服を握りしめていた。

 そんな呻きに近い声を聞いた樹万は、苦笑いしながらも戦場を縦横無尽に駆ける。これまでしてきた会話の最中でも、一度たりとて足を止めてはいない。

 

 飛んできた強酸の液体を二歩動いて躱す。その途中でH&K USPを二発発砲して二匹殺す。

 

 後方へ跳躍。前方と左方、上方から飛び掛かってきた五体のガストレアを躱す。その前に背後へH&K USPを三発発砲。弾数と同じ怪物が息絶える。移動後は今し方飛び掛かって来たガストレア全員を片腕に持つバレットナイフで殺す。

 

 上方へ跳躍。その際にワザと踏み込みを強くし、直下に壮絶な衝撃。蜘蛛の巣状に地面がひび割れ、土中に潜んでいたガストレア数体が圧殺、岩石の隙間から大量の血液が噴出する。

 

 跳び上がった先の鳥獣ガストレアの腹へバレットナイフを突き立て、心臓を貫く。抜きざまにバレットナイフで三発発砲。周囲の飛行型ガストレアを弾数分殺す。それより少し早期に片手のH&K USPで四発発砲。陸上のガストレアを同様に弾数だけ殺害。

 

 その際に出来た僅かな間で、右中指を二度折り、左の親指と人差し指の腹同士を三度叩き、それから続けて中指、薬指、小指を一度ずつ親指の腹と合わせる。そして、

 

 

「オッサン直伝・『一を窮めて全を成す(ゾウカサンジン)』」

 

 

 意味不明な行為の後に樹万が口にしたのは、お馴染みのオッサン直伝技だ。

 すると驚いたことに、今まさにステージⅠガストレアを蹴散らしながら猛然と駆け、接近しつつあった大型ガストレアの頭が、()()()()()()()()()()()()()()()()()し、そのまま横倒しになる。

 それと時を同じくして、やはり大型のガストレアばかりが忽然と頭部を失くし、そのまま絶命していく。不思議なのが、その断面から血液が一切漏れていないことだ。まるで、それが元々の状態であったようにも思える様相である。

 樹万の背中にしがみつく朝霞は、想像を超えた事態を目にして完全な混乱状態へと陥っていた。

 

 

「な、なにが起きて…?!」

 

「大丈夫大丈夫。流石の俺もこう来るとは思ってなかったけど、大丈夫だから」

 

「本当に大丈夫なんですかッ!?」

 

 

 実は先ほどのオッサン直伝技だが、これは使用者の意図することを『一応、大体は上手く叶えてくれる』という酷く胡乱で大雑把なものなのだ。

 樹万が今回望んだのは、目に映るだけのデカいガストレアの駆逐、である。その結果として展開されたものは、確かにステージⅢからⅣ辺りのガストレアのみが絶命した、当初の彼が望んだ通りの光景であるのだが、それに至るために行われたのが、()()()()()、という酷く雑なものだった。

 つまり、この技は『もっともらしい過程工程をすっとばして、結果に直結する』という技だと思えばいい。ちなみに原理は全くの不明らしい。

 

 

「ホント緊張感ないんだよなぁ、この技はっ、と!」

 

 

 地面に降り立ったと同時、四匹のガストレアをバレットナイフで、二匹のガストレアをH&K USPで殺す。

 

 次に後方へステップ。首を巡らせることなく左右に二発ずつ発砲。崩れ落ちる死体を飛び越えて襲い来るガストレアを駆逐する。前方から飛び掛かった一匹は、さきほど上空で息絶えた鳥獣型ガストレアが()()()()()お蔭で下敷きになり、もろとも地面に転がる。

 

 

「もっと周りを見るんだな」

 

 

 吐き捨てながらの一発。死体の下でもがく兎のような怪物の頭部を撃ち抜き、土壌へ赤色をぶちまける。

 

 右に跳躍、二歩分移動。飛来してきた棘のようなものと長い前脚三本が直前に立っていた場所へ突き立つ。最中にH&K USPの空弾倉を排出、本体を宙に放り、バレットナイフを前後右左に乱射。

 

 その隙に空いた片手でバックパックを素早くまさぐり、装填済みの弾倉を取り出す───

 

 

「ッ、美ヶ月さま!横!」

 

「おうさ」

 

 

 ───その前に右横から突進してきた牛のガストレアの頭部を掴む。同時にバレットナイフで後方と左方、上方から迫ったガストレア一匹ずつを殺害。前方から飛んできた一匹は右足で蹴り上げ、後続の二匹を巻き添えに吹き飛ばす。最中に掴んでいた牛の顔面を地面へ一撃、続けて掌底をめり込ませて5メートルほど先へ放る。

 

 弾倉を投げ、大分落ちて来ていたH&K USPのマガジンへ挿し込み、キャッチ。すぐに右横へ四歩分跳躍し、ガストレア数匹の攻撃を躱す。そのガストレア共はバレットナイフのロックを親指で弾き、取り付けていたナイフを発射。壮絶な音を立てて飛翔し、背後数体を巻き添えに半数ほどを即死させる。

 

 すぐにH&K USPの上部フレームをスライド、装填後すぐに三発発砲。バラニウムナイフで始末し損ねたガストレアを駆逐する。最後一発を火薬とし弾切れとなったバレットナイフは、グリップ上部にあるレバーを指で跳ね上げ、銃身外部に装着していた予備弾倉を接続。迫るガストレア五匹を速射し殺害。

 

 

「お、見えた」

 

「え?」

 

 

 何が、と続けて聞き返したかった朝霞だが、これまで以上に鋭い動きで樹万が動いたため、慌ててしがみつく。

 この戦場では何も出来ない、役立たずな自分が恨めしいところだったが、こんな身体で何かをしようとするほど、彼女は愚かでは無い。しかし、なまじ動けたとしても、彼について行けるだろうか、と本気で考えてしまう。

 

 一方の樹万は、今しがた横目で捉えていた目的地───ステージⅣガストレアの亡骸───へと高く跳躍していた。

 考えは読めずとも、犇めくガストレアがそれを眺めているだけなどある筈もない。ましてや、陸上では前から数列後方に居るまでの者しか樹万を捕捉できなかったが、空中に居るとなれば相当数の敵から視認されることとなる。

 

 故にこれ幸いと、食虫植物であるサラセニアとカマドウマの混成因子のガストレアは消化液を分泌し始める。これまでは遙か前方に居座られたため、全くこちらへお鉢が回ってこなかったのだ。ようやく真面に戦闘へ参加できるというもの。

 そんな意気込みを見せている…のかどうかは定かではない当人の目前に、黒い大型のナイフが重い音を立てて突き立った。

 しかし、ガストレアは己に直接的な害を及ぼさなかった落下物など気にも留めず、大量の同胞を葬り去った元凶に向け、今まさに報復の弾頭を浴びせかけようとする。

 

 

「我堂団長には悪いが、実は二つほど残してたんだよな、これ。───っし!朝霞、ちょっと掴まってろよ!」

 

「へ?美ヶ月さま、今度は何をなさるおつもりですか?!」

 

 

 樹万は中空で身を捻ってから、手中に忍ばせて置いた起爆装置を容赦なく押下。直後に信号を受け取った信管が反応し、盛大な爆裂を起こす。

 爆発の衝撃を受けた樹万と朝霞は、もろとも前方へと吹き飛ばされるが、直前に身体の位置を入れ替えておいたので、背負う朝霞への被害は軽微だ。一方の樹万は腹と肩に軽い火傷を負うにとどまった。

 それに構わず、樹万はすぐに身体を仰け反らせて180度回転。突然の爆破にどよめくガストレアの一匹、その背に降り立つ。

 続けてそのまま更に跳躍。頭部を失って倒れ伏す巨大なガストレアの遺骸からほど近い場所へと立った。

 

 

「も、もしかして先ほどの『見えた』、というのは()()のことですか?」

 

「ん、そうだ。何をするのかは、まぁ見てからのお楽しみってことで」

 

 

 口を動かしながら手も間断なく動かす樹万。周囲にいたガストレアを次々銃撃して駆逐し、瞬く間に包囲網を後方へ押しやって空間を作り出す。

 そして、H&K USP、バレットナイフ双方の装填を挟んだ後、H&K USPのみを腰のホルスターへ戻し、空いた手をステージⅣガストレアの亡骸へ添え、間もなく腕を引いた。

 次に樹万が動かしたのは、足でも目でもなく、口であった。

 

 

「オッサン直伝・『五月蠅けりゃ青い鳥も撃たれる(アメノワカヒコノカミ)』」

 

 

 

 ────すべてが終わった後。

 その光景は、筆舌に尽くし難いものだった。

 

 

 全長凡そ数十メートル、約数百トンにも及ぶだろう長大な肉の塊が、一人の人間の手から猛烈な速度で射出され、軌道上の怪物を轢殺し、地面を抉りながら進んだのだから。

 

 

「よし、文字通り血路が開けたな。敵方の血だけど」

 

 

 絶句する朝霞を抱えながら、超常の現象によって造りだされた道を直進する美ヶ月樹万。最早、前方に遮るモノなど何に一つとしてない。

 この道を辿ると、小規模の樹林帯を抜けた後、やがて荒廃した市街の一角に出る。そこから北に向かえば、そう時間もかからずに民警軍団の駐屯地に出られるだろう。

 脳内で広げた地図を再確認しながら、樹万はバレットナイフにバラニウムナイフをセットし、ロック。続けて新しい主弾倉を装填しつつ、銃身に予備弾倉を取り付けて畳む。

 

 一方、地獄の具現と錯覚する現象の収束から暫し、尚も自陣に甚大な被害を及ぼした諸悪の根源を追おうと、彼から一歩遅れる形で足を動かし始めたガストレアたち。

 だが、その中の一匹も、彼の足取りを捉えることはできなかった。

 

 

 ────この戦闘で絶命したガストレアの数、推定150。

 

 

 

 

          ****

 

 

 

 

「美ヶ月さま」

 

「おう、どうした」

 

 

 幾つかの追っ手を完全に撒いたあと、森の中を進む中で朝霞が俺の名前を呼んだ。

 少し呼びにくそうな声色であったことから、その後に語られる内容が何であるかは、ある程度予測できた。

 

 

「あの、先刻のガストレアとの戦闘ですが…」

 

「ああ」

 

「どうして、あれほどの力を?」

 

「……」

 

 

 説明は、難しい。扱っている俺でさえ原理不明なものが大半なのだから。付け加えるなら、教授したオッサンでさえ碌に知らないらしい。

 こんな返答では納得など到底できないだろうが、こちらが彼女のために用意できる最善で最高の答えは、これだけだ。

 

 

「あれは、俺がガストレアと戦うために身に着けたものだ。…一応言っておくが、常人のそれとは一線を画している自覚はある」

 

「そう、ですか」

 

 

 朝霞の今の気持ちは、よく分かる。何せ、俺もよくよくぶつかった壁だからだ。

 あんな馬鹿げた力を持っているのなら、助けられる人たちは皆助けられたはず。何故それを最初から振るわず、人力の範疇で事に当たっていたのか。

 直截的な言い方をすれば、だ。

 

 もしかしたら、我堂長正は死なずに済んだのではなかったか。

 

 そういう類の疑念が、朝霞の中では蜷局を巻いていることだろう。

 …疑いとは鎖のようなものだ。一度マイナスの猜疑を抱けば、その人間に関連する同列のマイナスまで繋ぎ、連れて来てしまう。

 厄介なのが、連鎖すればするほど、その先にある疑念は元の疑念の性質とは別物になっていることだ。

 俺は昏い闇に沈む森の中を足早に進みながら、この力を手に入れてからこれまでの行動を顧みる。

 

 

「世の中には、人が一人で成し遂げていいことと、しちゃいけないものがある」

 

「え?」

 

「その最たるものが戦争なんだよ。ちなみに、国のお偉いさん同士が高椅子に腰かけてやる、書類上でのものじゃなく、な」

 

 

 個人同士が行う只の取っ組み合いと戦争は、わざわざ言わずとも天地の差があることは誰しもが理解できることだ。

 数万、数億の人間の命が懸かる、それが戦争だ。であるからこそ、必ずしも注視するのは当事者だけではない。

 

 

「世界に存在するのが、自分の国ともう一つの国だけならいいけど、残念ながら俺たちの動向に目を光らせてる他国が一杯いる」

 

「……そういうことですか」

 

「ん、理解が早いな。助かるよ」

 

 

 強い、というのは単純なポテンシャルとしては最高峰のものだ。ましてや、それが一騎当千に相当するのならば、尚更といえよう。

 

 が、それを聴衆の下で十全に振るえる場など、この世には存在しない。

 

 強い、というのは、同時にそれだけ脅威なのだ。早い話、人型の核弾頭だと思ってくれればいい。

 手元にあるのなら心強いが、別のところにあるのならば恐怖以外の何物でもない。仮に手元にあると想定しても、()()()()()()()()()野放しは危険と判断して枷をつけるだろう。

 

 争いを鎮める力は絶大で、魅力的だ。在るのならば、誰だって手に入れたいと願うだろう。

 故にこそ、争いを起こさせない力を手に入れるための争いが、起こってしまう。

 

 ────全く、人の創る世は矛盾だらけだ。

 

 

「申し訳ありません。その、考えが足りませんでしたね」

 

「いいや、俺の気持ちを分かってくれるヤツなんてそうそう居ないからな。嬉しいよ」

 

「そうです、ね。美ヶ月さまのお気持ちを他者が解するのは、非常に難しいことでしょう」

 

 

 歩行の拍子に身体が上下に揺れ、朝霞の鎧が音を立てる。

 戦場に居たときは気にも止められなかった雑音だが、それが耳に入っていることを情報の一つとして受け取れたということは、それだけ気持ちにも余裕が出て来た、ということか。

 フッと溜息を吐き、片手に持っていたバレットナイフをホルスターに仕舞う。カーボンファイバーと動物皮が擦れる聞きなれた音が控えめに響いた。

 

 

「でも、最初から分かって貰えないと、見限ってしまうのは勿体ないですから───」

 

 

 空いた腕を使い、今まで自力で背に乗っていた朝霞を抱えながら、言葉の続きを促すように手の位置を調整する。

 

 

「貴方を理解してくれるひとを。貴方を助けてくれるひとを、ちゃんと見つけてくださいね」

 

 

 俺は口角が上がるのを自覚しながら、ひとまず朝霞に向かって礼を言ったあと、続けて───

 

 

 もう、十分なほどそいつらに助けて貰ってるよ。

 

 

 そう、答えた。

 




戦闘描写たのしかったです(こなみ)

え?タツマさん控えるとか言って好き放題やってるじゃないかって?
(朝霞以外には)見られてないから平気平気。

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