ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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今回は冒頭で投稿期間について謝らなくていいですかね...?
まぁほとんど定型みたいなものですし、いずれにせよ言っておいたほうがいいですね。
では改めて。遅れて申し訳ありません。

今話は飛那ちゃんの治療風景をお届けします。
まさか手術の描写に詰まりまくるとは思ってませんでした。


48.奇跡

「あの馬鹿め!ほんの30時間ほど前にした『全員無事で帰ってくる』という約束を早速違えるつもりか!」

 

 

 怒声を響かせつつも、室戸医師の手の動きは感嘆の溜息が出てしまうほどに精緻だ。思わず見入ってしまっていると、前方から掛けられた開創器を貸せという言葉に半歩遅れてしまった。

 

 現在は飛那さんの手術中だ。執刀医は室戸菫医師、助手は私、千寿夏世が担当している。

 本当はもう一人くらい助手が欲しかったのだが、院内には次々と負傷した自衛隊や民警の方々が運び込まれており、人手が全く足りていないのだ。

 手術をしなければ危ない人たちも当然おり、その中でも敏腕の室戸医師が飛那さんを優先したのは、親しい間柄だから、という訳ではもちろんなく、単純に重傷度の問題だ。治療を施せば助かる見込みはあるが、しなければ一時間も経たずに命を落とす。

 幸い、院内で最も重傷の患者でも意識ははっきりとしていたため、優先度は飛那さんに傾いたのだが、その旨を伝えに言った時は当人に激しく抗議されてしまった。

 それはそうだろう。好き好んで痛みと苦しみを継続させたいなど誰も思わない。ましてや、その人は自衛隊の中でもかなり位が高いらしく、『後回し』というのはプライド的に許せなかったとみえる。

 だが―――――――――――

 

 

『それだけ吼える元気があるなら、少しは血が抜けても安心だな。もう300mlほど抜いておきたまえ』

 

 

 室戸医師はがなり立てる患者にそう冷たく言い放つと、さっさとその場を後にしてしまった。

 慌ててその後を追うと、彼女は『ああいう連中は真面目に取り合うだけ無駄だよ。身の危険を五感で感じ取れてしまっているんだから、大抵の輩は目の前にどれほどの重篤患者がいようと、自分の治療を優先しろと叫ぶのさ』と言い捨て、足早に簡易的な手術室へと入った。

 

 

(命の優先順位....医師にはそんなものを決定する責任が伴う)

 

 

 止血鉗子(かんし)や持針器、ゾンデなどを渡しながら、思考の裏で医療の倫理観について言及する。無駄だと分かっていても、うまく振り切る術がなかなか浮かばなかった。

 これから指数関数的に増加し続ける患者に対しても、私は感情の一切を抜きにして、傷だけを評価し選別することができるのだろうか。泣き叫ぶ声も、怒りに猛る声も、悲しみに咽ぶ声も無視して。

 そんな私の葛藤に気付いたか、室戸医師は手元に視線を固定したまま、マスク越しに抑揚のない声で私の名を呼んだ。

 

 

「夏世ちゃん。気持ちは分かる。死に直面した生物が発声する絶望は、他者に憐憫と同情を抱かせるようにできているからね。....でも、医師にそれを聞き届けることは許されないんだ」

 

「......では、どうすれば」

 

「さぁね。少なくとも私は君が欲している解答を用意はできない。なにせ、ヒトは蟻にすら憐憫の情を持てる生物だ。もし、君がそういう感情を理解し、是としてしまえるのなら、単純に向いていないのだろうさ」

 

 

つまるところ、医師とは酷薄で非情な人間がなる役職なんだ。....皮肉なものだな。かつて医師を志した頃は、きっと病める者すべてを平等に救えるという理想を抱いていたはずなのにね。────そう、室戸医師は言葉を続けた。

 

 本当にどうしようもなさそうに声を落とす彼女は、同時に生々しい傷に向ける視線が一瞬厳しいものになった気がした。すぐに引っ込んでしまったので、大抵の人は気のせいで片付けてしまうだろうが.....先の会話で他者の表わす感情に対して敏感になってしまったので、分かった。分かってしまえた。

 

 きっと、彼女ほどの人でも、未だ苦悩は断ち切れていないのかもしれない。

 

 本人はさきほど、『医師とは酷薄で非情な人間がなる役職』といったが、そんなことは有り得ない。順序や手法はどうあれ、人を救うために手と知恵を尽くす人物が、『ひとでなし』な訳はないのだから。

 

 

「─────、なんだ。これは」

 

「?どうかしましたか」

 

 

 響いた声で、離れかけていた現実に目を戻す。それが比較的簡単にできてしまうほど、これまでもっとも聞きなれない、室戸医師の素の『疑問』を呈した発言だった。

 現在は溢れる血液を吸引機で極力抜き、ウイルスによる再生を助けるため、重要な患部の縫合などを行おうとしているところだ。これまでの作業に何か致命的なミスを犯すような難しいものは無かったし、この状態では治療のターゲットを間違えることもない。

 それでも、室戸医師の厳しい表情は変わらない。彼女は素早く止血鉗子、電気メスなどを使ってさらに止血を行い、本人が見たという『それ』を明らかにしていく。

 そして、

 

 

「な......これは」

 

「───夏世ちゃん。一先ずこれを吸引機で摘出、その後、解析と同定をお願いしてもいいかね?」

 

「は、はい!」

 

 

 室戸医師が視線で指し示したそれを吸引機で吸い取り、血液から分離する。そして、この部屋にあるpH測定器や分光光度計などを用い、これが一体何なのかを解析していく。

 もっとも、鈍色で金属質な液体、などという見た目を持つ物質など、相当に限られてくるが。

 疑問なのは、何故こんなものが重傷の飛那さんから出て来たのか、という点だ。事前に樹万さんから大まかな当時の状況を聞いているが、『何かが降って来た』ということぐらいしか覚えていないらしい。

 そして、確信の持てる解析結果が得られた。やはりこれは、

 

 

「室戸医師。飛那さんの体内にあったあれは、水銀です。」

 

「水銀、か。....人体にとって有害である水銀は、体内にあればウイルスの作用で無毒化され、最終的には排出されてしまうはずだ。であれば、元々あったのではなく、傷を負う過程で付着した、と見るのが妥当だろう」

 

「そうですね。では、樹万さんが見たという空からの落下物は」

 

「ああ。水銀を多量に含む何かか、水銀そのものであったと考えていい」

 

 

 水銀を攻撃に使うガストレアなど、これまで聞いたことがない。であれば新種か、それとも目撃されてはいるものの、その攻撃手段が判明していない類のガストレアか。

 それは追々調べるとして、問題はこんなガストレアがいるということを、戦場にいる民警のどれほどが把握しているかだ。一撃でイニシエーターを戦闘不能にしてしまうのだから、もし虚を突いての襲撃をされた場合、その被害は甚大なものとなる。

 

 

「では、まずこの水銀を最優先に除いて行こう。無毒化にウイルスの機能を削がれてはいけないからね。あくまでも、彼らには宿主である飛那ちゃんの肉体の再生を率先して貰おう」

 

「はい」

 

 

 それでも、私はその推測を振り切って、治療を進める室戸医師の対面に立つ。彼女の言葉通りに吸引機を取り、ウイルスが傷の再生だけに腐心できるよう、水銀を除いていく。

 

 この場に在る限り、私は医師なのだ。最優先すべきは目の前にある人命であり、それから目を背けることなどできはしない。

 

 

「....おや、これは」

 

「?」

 

 

 大半の水銀を除去しきった頃、血管や臓器の治療を施していた室戸医師が、再び疑問の声を上げる。今回は声質にそこまでの深刻さはないので、一目で異常と感知できるものではないのかもしれない。

 果たして創傷の断面から有鈎鑷子(ゆうこうせっし)でつまみ上げたそれは、ひしゃげた小さい金属塊だった。それだけだとそこまでだが、室戸医師は手元の水で付着した血液を洗い落とす。

 現れたのは、底冷えのする黒色。ガストレアに対する有効な対抗武具に数えられる、バラニウム弾だ。

 

 

「それは....バラニウム弾ですか?何故そんなものが」

 

「ふむ..............ああ、なるほど」

 

 

 彼女は有鈎鑷子からスケールルーペに持ち変えると、片手にバラニウム弾を持ち、さらりと表面を確認する。と、なにやら発見したらしく、その表情をどこか興味深そうな笑みへと変化させた。

 飛那さんの体内からバラニウム弾が発見された時点で驚きだったのに、それを見つけた室戸医師が笑みを浮かべるというのは驚きを超えてもはや意味不明だ。人体から銃弾、それも被弾者は重篤な状態のイニシエーターで、銃弾はバラニウム弾だというのに。

 混乱の境地にある私に向かい、あくまでも笑みを浮かべたままの室戸医師は、『まぁ、見てまたまえ。すぐわかる』と言葉を掛けると、私に例のバラニウム弾とスケールルーペを手渡してきた。

 

 

「........」

 

 

 無言のままそれを受け取り、表面を順繰りに眺めていく。

 銃弾とはご存知、人の体内に音速で侵入し、臓器を損傷させることでダメージを与えるものだ。人が人を殺すために開発した武器の中で、最も発展したといっても差支えないだろう。

 

 そんな銃弾は、人体に留まることでこそ威力を発揮する。

 

 人の身体の構成は、その多くが水である。また、水の中にある物体は大きな抵抗を受ける。これらを踏まえ、音速近い速度で肉と水の塊に銃弾が衝突し、内部を進行した場合、その本体は急激な抵抗を受け、運動エネルギーの分散を行うにあたり膨張し、炸裂。断片化する。

 この一連の流れによって断片化した銃弾の破片が、体内にある多くの臓器を傷付けることによって、重大なダメージを与えることが可能となる。

 勿論、この機構はバラニウム弾にも搭載されている。バラニウムは通常の銃弾に使われる鉛などの金属とは性質が異なるため、再現には多くの失敗と挫折があったそうだが、断片化が発生する確率は悠に90%を超えるほどまでになっており、ヒットすれば余程のことが無い限り発生する。

 だが、この銃弾は違う。衝撃と抵抗を受けたことによる多少の変形と欠損はあるものの、断片化は起きていない。

 

 

「まさか、体内に残ったにも関わらずフラグメンテーションが発生していないなんて」

 

「だろう?まさに奇跡に等しいが....右の表面を見てみるんだ」

 

「右ですか?......ぁ、これは」

 

 

 銃弾の右表面は少し欠損があったところだ。それを発見して終わりにしてしまっていたが、改めて見てみると、何か文字らしきものが刻まれているのが分かる。

 その部分を再度、注意深くスケールルーペで見てみると、

 

 

『Hina Takashima & Tatu      』

 

 

 樹万さんの名前が途中でなくなっているのは、欠損している部分がその箇所から始まっているからだ。

 そう、恐らくは。彼の名前が彫られたこの部分が真っ先に大きく破損したことで、銃弾に宿った大半の運動エネルギーが抜け、断片化を避けられたのだろう。

 そして、この銃弾を打ちこんだのは、樹万さんただ一人。その理由は、着弾時の衝撃で身体の位置をずらし、水銀を使った敵の攻撃から回避させる名目だ。

 結果、被弾は避けられなかったものの、弾が摘出されたのは心臓にほど近い左胸であることから、銃撃による回避は有効に働いていたと判断できる。また、断片化の抑制により、本来なら確実に無事では済まない心臓部の損傷も防がれている。

 

 

「くく....はははは!何だ!何だこれは!全く、マンガの読みすぎだろう!ああ、しかしアレだ。ここまでお膳立てされては、私たちは高島飛那を救わずにはいられなくなった!」

 

 

 笑うしかない。まさにそう形容するに等しい哄笑を漏らす室戸医師は、実に生気に溢れていた。医師に対する在り方と価値観を語っていたときの暗さなど、微塵もない。

 他者の絶望を見てしまった者が、同じく自身も絶望に侵される、という感覚は知っている。だが、希望を見せられた者が、同じく希望を見出す、という感覚は、知らない。

 ────ああ、これがそうなのか。

 

 

(本当に、凄い人です。貴方は)

 

 

 私たちは、美ヶ月樹万が一縷の希望を託した黒い銃弾の先にある、高島飛那を救える可能性の上に立っているのだ。

 

ならば。

 

 

「これまで散々絶望を見せられてきたんだ。....ここいらでそろそろ、世界は私に対して優しくするべきじゃないかね?」

 

 

その先へ、繋ごう。

 

 

 

          ****

 

 

 

 宵闇に沈む森の中を走る。

 水を多量に含んだ粘質な土壌を足裏で跳ね飛ばし、赤く燃える戦場を敢えて迂回しながら急ぐ。

 ――――その理由は明快だ。

 

 見た。視えてしまったのだ。

 そう。今回真っ先に倒すべき、アルデバランを。

 そして、そいつと真正面からぶつかっている、何者かを。

 

 

「ったく!集まった民警軍団の中で、アルデバランと戦って持ちそうなのは我堂団長くらいか!いくらなんでも早まり過ぎだっての!」

 

 

 実は一度、俺はアルデバランをこの目で目撃したことがある。

 オッサンと一緒に行動してたとき、遠目からゾディアック・タウルスに引っ付いて行動しているところを。

 あの時はまだ()()()()()。体躯も無論そうだが、存在感や威圧感といった、強者には当然備わっているべき要素が微塵も感じられなかった。

 まさに、ボスの取り巻き、という表現がぴったり。それが当初、俺がアルデバランに抱いた印象であった。

 

 

「あれほど変わったってことは何かしらあったんだろうが、なんだろうかね....!」

 

 

 あのアルデバランと、今回東京エリアに進行してきたアルデバランとでは相当な差がある。

 別固体という可能性も考えられるが、不死に近いというトンデモスキルを持つガストレアに対し、個体数を調査しないはずはない。そして、複数体確認されているという項目が記録にないということは、現状、一個体だけなのだろう。

 

 

「くそ、できればアルデバランは単独行動の最中に真っ先に位置を掴んで、単身乗り込みで人知れず決着付けちまいたかったんだが....あんなことが、あったからな」

 

 

 一瞬、脳裏に『あの』飛那の姿がチラつき、動く足が進行方向を迷いかけるが、すぐに意識を持ち直し、真っ直ぐ前を向く。

 今、民警の士気を高める大きな一因となっている我堂長正を失うわけにはいかない。最悪、手足を引っこ抜かれた状態であろうと、無事に戻ってきて貰わねば。

 あの傑物が斃れたと知れば、我堂英彦のような気弱な民警から先に崩れ始め、遠からぬうちに軍は潰走状態へと陥るだろう。そうなれば、最後の砦である民警軍団は敗北。東京エリアは終わってしまう。

 

 

「世の中はアニメのヒーローみたく、巨大な敵を訳わからねぇ凄い力で倒して、民衆から称賛の嵐、でエンドじゃないからな」

 

 

 この戦争は、俺とガストレアとの戦いではない。民警とガストレアとの戦いだ。故に、望まれるのは俺の勝利ではなく、民警の勝利に他ならない。

 だからこそ、先ほどはああ言ったが、アルデバランは東京の民警各位の協力で打ち果たしたということにしたい。

 ────さもなくば、東京に未来はないのだ。

 

 

「....ん?」

 

 

 己の立ち位置、すべきことを再確認していると、視界の端に何かが映った。

 それは鈍色の何かで、凄まじい勢いのまま俺の頭上を通過していく。見覚えのある色で、体感したことのある早さで、そして聞き覚えのある爆音で、それがどういったものだったかを思い出した。

 

 同時に烈火のごとき衝動が鎌首を擡げ、周囲に存在する情報の全てが白く塗りつぶされていく。それは怒りか、殺意か、憎悪か。否、そんな生ぬるいものではない。そんな人間らしい感情が、動機がこの獣性に当てはまるものか。

 

 思い出せ。思い出せ。奪われたものを。何ものにも侵されることを許さなかった『それ』が、惨たらしく踏みつぶされた光景を。赦されるはずがない。赦していいはずがない。

 

 人間であるがままコレを受け容れるなど烏滸がましい。理性を溶かせ。常識、倫理などという杓子定規な思考は棄てろ。お前はそうするに足る理由を手に入れたのだ。

 

 人から外れた獣であれば、誰もお前を止めはしない。誰もお前の行いを否定しない。善悪の定義など下らぬ。唾棄すべき狂った羈絆だ。殺せ、殺せ殺せ。殺────、

 

 

(飛那さんなら、必ず助けます。だから、次は安心して帰ってきてくださいね)

 

(正直、私は君の方も十分心配だが....まぁいい。いち医師として、預かった患者は治療するよ。なぁに、生きているなら死なせんさ)

 

 

「ォ――――――――――――ぁッ!!」

 

 

 今まさに汚泥の中へ沈みきろうかという時、突如生じた思考の空白。その刹那に垣間見たのは、『俺』へ絶対の親愛と信頼を寄せるヒトの笑顔と言葉だった。

 

 俺は全力で自分の顔面を殴り、歯のほとんどを飛ばし、鼻と顎の骨を砕く。加減ができなかったので近場の樹木まで吹っ飛んだが、それら全ての状況を無視して、ただ必死に致命的な側面まで沈み込んだ元の自分を手繰り寄せる。

 暫くは痛みと、口と鼻から湯水のように溢れる血液も無視し、再び顔を見せた内にある狂気を抑え込んでいたが....やがてそれも終わり、その頃には傷の再生も完了していた。

 

 ────戻って、来れた。本当に危なかった。

 

 

 

「クッソ....ああ、情けねぇな。もう」

 

 

 ガリッ、と地面を掻いた後に長い息を吐き、頭上を通り過ぎていく流星を見る。それらは全て民警とガストレアが抗争を繰り広げる戦場へと飛んでいき、唸るような地響きを轟かせた。

 この先で、一体どれほどの被害が出ている?前方のガストレアに気を取られている中での、唐突な頭上からの砲撃なのだ。防御、回避のいずれも間に合わない。

 

 

「これは....流石に放ってはおけないな」

 

 

 俺は二本の樹木の幹を交互に蹴り、一本の木の頂点へと立つ。できれば、ここから戦場の様子を眺望できればと思ったのだが、流石に高さが足りなかった。

 意識を切り替え、今度は砲弾の発射地点を目視で探る。とはいえ、あれほど目立つ弾頭だ。高台に昇ってしまいさえすれば、その位置を特定することなど造作もない。

 

 

「あれか」

 

 

 砲台がある場所は発見したが、いかんせん遠い。ほぼ直線で突っ走っても五分以上はかかる。

 戦場で発生している被害を考えれば、ここで何としてでも倒しておくべき敵なのだろうが、一度そっちに行ってしまえば、アルデバランと交戦している我堂は確実に死ぬ。先も言ったが、それは避けたい事態だ。

 それでも、天秤を傾けるべきは大多数の民警の命を左右する、正体不明の砲台を撃破する事なのだが....今回は、()()()も取らせて貰おう。

 

 

「オッサン直伝・蛇に睨まれた蚤(ヤマタノオロチ)『六対一』」

 

 

 左右の手で空気を掴むような挙動をし、それで作った両拳を胸の前でぶつける。同時に目を動かし、砲台役のガストレアが潜んでいる場所へ固定すると、軽く呼気を吐き出す。

 直後、()()。と金属が耳元で軽くぶつかったような音が響き、それから間もなく、あれだけ激しかった砲撃がぴたりと止んだ。

 

 

「よし、効いたな」

 

 

 この『蛇に睨まれた蚤』は、自分の内にある力の一端を飛ばし、当たった敵を硬直状態にする、というもの。何とも便利なのが、敵との間に距離があっても、また、敵の姿が実際に見えなくても、当たりさえすれば効果を発揮してくれることだ。

 しかし、ガストレアのステージごとにレベルを上げていかなければならないので、ステージⅠのものをステージⅢに向けて放っても効果はほぼない。そして、今回のガストレアは攻撃の規模からステージⅣと睨んだが、どうやら正解だったらしい。

 

 

「今のうちに、っと!」

 

 

 俺は樹木から飛び降り、アルデバランに向けての疾走を再開させる。

 『蛇に睨まれた蚤』を受けた敵は、種によってまちまちだが、最大で三十分ほどは沈黙してくれるだろう。その間に民警軍団は態勢を立て直し、支援砲撃が止まったことに困惑するガストレア軍を上手に退けてくれればいい。

 課題は、得体の知れない敵により発生した被害で、恐怖心から大きく戦意を削がれてしまった者たちをどうやって扇動するか、だが......

 

 

「あの民警軍団の中に、カエサルみたいなヤツがいることを祈る!」

 

 

 残念ながら、俺にできることはここまでだ。

 




原作では普通のアルデバランの応戦でもいっぱいいっぱいだった我堂のおっちゃん。
本作で登場するのは強化型アルデバランなので、おっちゃんの体力は秒間50くらい減ってます。(全快時HP50000くらい)

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