ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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今回は最初地の文が続きます。


45.崩壊

 治安維持と大規模な暴動抑止のため、俺は今後の残った時間を東京エリアのパトロールに充てるつもりだ。今朝のカザネのように囚われ、理不尽な暴力を受けている少女も決して少なくないはずだし、そんな彼女たちを救えるのなら己が身を危険に晒してでも強行する価値は十二分にある。

 

 相方の蓮太郎も同じく民警の駐屯地から出ており、木更を連れ立って松崎に頼まれた子どもたちの教師役を買って出ていた。マンホールの地下には俺が作った巨大広間があるので、そこを教室として使えば全員を集めた授業も不可能ではないだろう。

 

 そして、その日の夜。モノリス倒壊はおよそ三日後....明々後日にまで短縮される予想が出たとの報道が流れた。

 

 最初期に発表された予定日より一日早まるということは、モノリスが失われた空白の期間もそれだけ延長されることになる。つまり、自衛隊と民警の混成部隊は、四日間にわたって二千のガストレア、そしてアルデバランの前に壁を築き続けなければならない。

 

 厳しい戦いになることは最早必定。それを見越した上で、圧倒的な火力で敵の戦力を削いで後退させ、あくまでこちらが優勢のまま時間を稼ぐという従来の戦法から、兵士の消耗を極力抑え、侵攻を妨げるための牽制をしつつ深追いしないという戦法に切り替えるという予感があった。

 

 俺は、その激動の時の中で静かに覚悟を決める。....このままでは、確実に東京エリアは滅ぶ。その結果を明確に変えられるのは、きっと己なのだろう、と。

 

 謎の飛翔物によるミサイル迎撃、戦闘機撃墜。そして通常より強力なバラニウム侵食液。こんな分かりやすい不安要素が足元まで転がってきたというのに、尚も民警側に緊密な提携を申し出てこない自衛隊は、第二次関東大戦の勝利時から思考が止まっているに違いない。

 

 そのような状態の自衛隊では、恐らくアルデバラン率いるガストレアを止められない。何故か?当然だろう。数億年の歴史の中で生物とは絶えず進化を続けて自然の壁を乗り越えているのだから。

 

 人間という圧倒的な地上の支配者がいながら、従来の生物種では数百年かかるクラスの変異を数か月単位で繰り返し、ここまで勢力を伸ばしたガストレアが、たった数十年で進化という最大の強化手段を棄てるなど楽観が過ぎる。

 

 ......いざというときは、()()を使う可能性も考慮せねばなるまい。

 

 

 

 次の日の明朝。我堂による簡単な訓練と座学が催され、緊張感のない午前中を過ごす。壇上に立った彼は、激変した戦況分析に対する代替方案を練っていたのだろう。目に見えて心労が溜まっていた。

 

 訓練では、複数のアジュバントを統率する中隊長による現場指揮訓練を行い、想定される状況下で、正確かつ素早く各アジュバントへ指示を送れるよう、繰り返しの練習が施行された。

 

 それで判明したのだが、蓮太郎率いる俺たちのアジュバント直属の中隊長である我堂英彦(ひでひこ)は、実の父である長正と相反し、率直に言って無能であった。彼には悪いが、単独行動の具申をしておいて心から良かったと思う。

 

 一方、座学では身振りを使ったハンドサインの意味、戦場にて使われる特殊な機器の説明など、終始基礎的な内容に留まり、受講していた民警らの多くは欠伸を噛み殺していた。案の定、少し離れた席で玉樹が豪快にいびきをかきながら寝ていて気が気ではなかったが、居所がかなり後方であったこともあってバレずに済んだ。

 

 全ての説明を終えると、我堂は一度瞑目し、それから初めて(まみ)えたときの大喝をもう一度放ち、気の抜けていた多くの民警の背筋を伸ばさせる。そして、普段より一層濃密な覇気を纏いながら叫んだ。

 

 

「恐怖するな!我らが為すべきことは端から一部たりとも変わってはいない!───ここで!アルデバランを確実に滅する!故に、蹂躙するのは此方だ!勝鬨を挙げるのは此方だ!怒りと空腹に啼く飢狼を心中に飼う我らこそ、この戦場での強者よ!」

 

 

 戦に向かう人間をこれ以上ない程に駆り立たせる我堂の鼓舞。カリスマといっても差支えないほどの立ち振る舞いは、ここにきて常人には到底真似できない境地にあった。

 

 おかげで、はっきりと落ち込んでいた民警の士気は、我堂の苛烈な激励によって取り戻されつつある。

 

 そして、その日の昼過ぎ。俺は当初の予定通りにパトロールへ出かけ、蓮太郎は木更と延珠、飛那たちを連れて松崎のところへ出向いた。玉樹と弓月は武器のメンテナンスや休息、彰磨と翠は鍛錬を行うそうだ。

 

 風の噂では、謎の黒覆面が暴徒たちを見境なく襲っているという情報があちこちに飛び回っているようで、ところによっては大げさな尾ひれがついていることもあり、その活動はかなり鎮静化しているとのことらしい。これに対する大きな反発は考えられたが、その芽も今のところ上手く摘めている。想定通りの事の運びだ。

 

 しかし、こんなことをしているとは知らずとも、蓮太郎にとっては俺の単独行動自体が不満でいるらしい。

 

 

「なぁ、樹万も来てくれよ。お前に会いたいって言ってる奴は沢山いるんだぞ?あの三人だって口には出さねぇがお前のところに居たいはずだしな」

 

 

 蓮太郎は、行くたびに樹万と勘違いされて落ち込まれる俺の気になってみろ、と文句を垂れるが、それでもやることがあるから明日も頼む、と頭を下げて嘆願すると、居心地悪そうに頭を掻きむしり、結局は了承するのだ。俺への借りもあって断りにくいのだろうが、少しはコイツの御し方を分かってきたような気がする。

 

 陽が沈み、宵闇が空を万遍なく覆った頃。俺たちは支給された質素な夕飯を口に運びながら、テント内で顔を突き合わせて語り合っていた。

 

 その内容は各々の明日の予定だ。一応、我堂による最終確認と諸注意を兼ねた訓練が明日の明朝に入る予定だが、午後は今日のように手持ち無沙汰となる見通しだった。

 

 この話題に最初に答えた蓮太郎と木更、延珠はやはり学校に行くつもりらしい。それを楽しそうに語る三者に対し、仏頂面の玉樹は頬杖を突きながら咥えたスプーンを上下運動させ、理解に苦しむ旨を漏らす。そんな彼と妹の弓月は、事務所から娯楽道具をいくつか持ち出して夜までしけこむとのことだ。

 

 この二人とは対照的なのが彰磨と翠だ。相変わらず厳しすぎないほどの鍛錬を行い、十分な休息を取るという隙の無いメニューであり、戦場では一部の妥協も許さないという姿勢が見て取れた。これには蓮太郎と玉樹も苦笑いだ。

 

 そして俺は、昨日、今日とやったパトロール....というよりエリア内の威力偵察を明日も続けるつもりだが、同メンバーにいらぬ心配を掛けぬよう、手持ちの武器をメンテナンスするという言葉にすり変えて伝えた。東京エリア治安悪化の件は非常にデリケートな問題なので、可能な限り口にすることは控えたいのが本音だ。

 

 と、この発言に最初の時と同じく飛那が待ったをかけてくる。その次に放たれた言葉はやはり、手伝うから一緒についていくという提案だった。

 

 しかし、機械いじりに必要な知識に乏しい飛那では、満足な手伝いを行えるとは残念ながら思えない。この反対も以前に繰り返したものと一緒で、それを予期していたらしい彼女は、ならば武器のスペシャリストであるティナを連れて行けばいい、と夕飯を咀嚼している途中で迷惑そうな当人を無理矢理引っ張ってきた。

 

 確かに、スナイパーライフルとは使い手に合わせて大規模な換装も可能なため、遠隔操作モジュール等の取り付けを行っていたティナは、自然とその方面の知識も身に付いている可能性は高い。連れて行くことになんらデメリットはないだろう。

 

 しかし、そんなティナは口内のご飯をゆっくりと嚥下した後、助っ人ととして召喚したはずの飛那の肩をガッシと掴むと、お兄さんにはお兄さんのやりたいことがあるんですよ、といって逆に引き摺っていってしまった。『裏切り者~!』という飛那の断末魔が聞こえてくるが、ここはティナに感謝をしておこう。

 

 

 

 そうして、多くの人間がそれぞれ異なる感情を抱えたまま、再び一日が過ぎる。

 

 ────モノリス倒壊まで、あと四十八時間。

 

 

 

          ****

 

 

 

 まだ日が昇り切らない明朝。温い風が吹き抜ける中をゆっくりと歩く。

 

 今日が最後の一日だ。我堂は昨日の訓練の最後に、今日一日を全て自由にするという旨を伝えており、戦争までの空いた時間を思い思いの目的に費やせるよう仕向けた。

 最後といえど、俺の出来る事などたかが知れている。語らう家族などいないし、最期と決めつけてやりたいことを思い切りやるなどという後ろ向き全開な度胸も皆無だ。

 

 

「ん....なるほど。戦場には中々適した地形、だな」

 

 

 現在、俺はアジュバントを形成した民警軍団が立つ予定の戦場にいる。そうはいっても、周囲には控えめに朝を告げる小鳥たちの囀り、そして草間を駆ける小動物くらいしかおらず、とても戦場とは呼べない穏やかさだ。

 明日はきっと、この場には鮮血と臓腑がぶちまけられ、屍山血河の光景となるのだろう。ガストレアと俺たち民警、どちらのものとは敢えて言うまいが、互いに無傷でこの戦を終える事など不可能だ。どちらかが絶滅するまで止められない、凄惨な殺し合いが幕を開ける。

 

 

「だからこそ、少しでも被害を抑える努力をしなきゃな」

 

 

 俺は万遍なく戦場を丘の上から俯瞰し、その先に見える自衛隊の交戦予定地も視界に入れる。地形はなだらかな平地が続いており、重火器や戦車による応戦は目に見えて効果的だろう。ガストレアの大群が歩行する地面の直下に地雷などを埋め、足止めをしつつ前線を崩すという、自衛隊が得意とする戦法も遺憾なく効果を発揮するに違いない。

 

 

「ただし、以前までのガストレアなら。な」

 

 

 そう。数年前までのガストレアの大群にだったら、これで十分対抗できる。思惑通り先遣隊が吹っ飛び、後方の列は乱れ、後はそれを狙って砲撃、射撃を繰り返せばいい。既に敵の弱点を理解しているのだから、何度も繰り返したシミュレーション通りに動き、そして適切な部位に弾丸を撃ち込めば勝てる。所詮は統率の取れていない烏合の衆なのだから、指揮系統の存在する高尚な自分たちに無能な蟲どもが敵うはずがない。そう思っているのだろう。....昔も、今も。

 それはあまりに危険な思考停止だ。一度勝ったのだから次も勝てるなど、ありきたりな慢心も大概にして欲しい。そのパターンで何度も世界各地の強国が滅ぼされたことは、奪われた世代なら誰しもが知っている事実だろうに。

 

 

「ん?.....っと」

 

 

 丘を下りながら歩いていると、ふっと視界に何か不自然な白い飛翔物が映る。木の葉と言うには些か小さく、色素が抜けすぎている。気になった俺は風で後方に流れていくそれを間一髪で掴むが、かなり脆かったらしく手の中で崩れるような感触がした。その感触を別のものに例えるなら、一度だけオッサンに連れられて行ったことがある、海の....砂浜の砂の感じだ。

 それで一つの恐ろしい憶測にたどり着く。まさか、と思いかぶりをふりつつ、手の中のものを確認しようとしたとき。

 

 

「樹万―!」

 

 

 後ろから響いて来る聞きなれた声。飛那だ。見ると、その後に続いて夏世とティナも歩いて来ている。朝も早いというのに、随分と闊達なものだ。

 丘の上から此方へ向かって駆けて来た三人は、少し息を弾ませながら俺の下までくると、安心感からくるような笑顔をそれぞれ浮かべる。この分だと、テントから俺がいなくなっていることに深刻さを感じてしまっていたようだ。一言伝えるか、書置きぐらいはしておいた方が良かったなと自省した。

 

 

「お兄さん、こんな場所に来てどうかしたのですか?確か....ガストレアとの交戦地ですよね。ここ」

 

「む....抜け目ない樹万さんのことですから、大まかな行動の予定を立てるため、戦地の下見にきたのでは?」

 

 

 ティナがきょろきょろと周囲を見回しながら疑問を投げ、それを予想する形で代弁したのは夏世だ。流石の分析力に舌を巻きつつ、『正解だ』という褒め言葉とともに夏世の頭を撫でる。そんな彼女の肩をおもむろに掴んだ飛那は、その脳みそ下さい、という猟奇的な発言を真顔で言ってのける。夏世は思わずドン引きの表情だ。

 

 

「?....お兄さん、右手に持ってるものって何ですか?」

 

「ん?あ、ああ。これな」

 

 

 そんな二人を差し置き、隣にいたティナはいち早く俺が右手を不自然に握り込んでいることに気が付いたらしく、首を傾けながら腕を取ると、手の甲を撫でながら何を持っているのか聞いてきた。戦場での勘を培ってきたティナのことだから、恐らく真っ先に聞いて来るだろうと予見してはいたが、さきほどの緊張感を不意に呼び覚まされ、返答の声が僅かに上擦る。

 ....ともあれ、まずは確認だ。飛那と夏世も合わせ、俺の右手に乗るモノの正体を────

 

 

「......粉?」

 

「白い、粉ですね」

 

「これがどうかしたんですか?樹万」

 

「───────────」

 

 

 俺は無言のまま親指でサラリと白塵を撫で、それから直ぐに自衛隊の交戦地へ視線を飛ばす。否、向ける先はそんな場所ではなく、更に先....地平線に佇む巨壁、モノリスだ。漆黒の威容は既に失われ、まるで降雪に見舞われたかの如く白化している。そう、白く、だ。

 俺は今までとは違う意識を持って周囲を見回す。説明を求める三人に構わず、おもむろに近場でしゃがみ込むと、雑草の葉を軽く指でこする。微かにザラリという感触が返答。それでなるほど、と納得しつつ、しかし厳しい顔となっていたのだろう。それまで騒いでいた飛那たちは口を噤んでしまった。

 

 

「ティナ、テント端に防水カバー掛けて置いてあるカールグスタフとパンツァーファウストを用意しておいてくれ。弾薬はそれぞれHPとHEATで頼む。金属の弾薬箱の中にある、灰色の角張ってないケースに入ってる」

 

「────。そういう、ことですか。....わかりました、私も武装を出しておきます」

 

「ああ。話が早くて助かる」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!何がどうなってるのか説明してくれなきゃ私は分かりませんよ!」

 

 

 俺の言わんとしている核心に自力で辿り着き、基地の方へ駆けていくティナ。そんな彼女を余所に俺へ詰め寄ってくるのは飛那だ。流石にこれだけの要素で気付けと言われても難しいか。俺もこれだけ悩んでやっと確信がもてたのだから。

 しかし、俺から説明する必要はなさそうだ。同じように雑草の葉を指で擦っていた夏世が、明らかに理解の色を瞳に滲ませていたからだ。

 

 

「樹万さん....もう、モノリスは崩壊するんですね」

 

「そうだ。ここまで遠くに白化したバラニウムの粉塵が飛んできてるってことは、恐らく真下は雪のように積もってるはず。それだけ大量に剥がれ落ちる段階にまでくれば、もう深部まで侵食は進んでる」

 

「な....ま、まだ今日一日は猶予があったはずじゃ?!」

 

「風だ」

 

「か、ぜ?」

 

 

 血相を変えた飛那は、俺の口から飛び出た予想外の単語に目を白黒させながら問い返す。風がなんだというのか。たかが大気の気圧差で生まれた空気の流れ。そんな四六時中発生している自然現象が、一体モノリスにどのような影響を与えると言うのか。....そう思うのも仕方ない。

 しかし、バラニウム侵食液に侵されたモノリスにとっては風すら脅威となりうる。大河を流れる水流が少しずつ岸壁を削るように、ゆっくりと、それでも確実に白化した巨壁を削ぎ、その命脈を断ち切ってゆく。そして、その風は────

 

 

「風の発生を完璧に予測することは現代科学でも不可能です。故に、その『風』という外的要因による影響が嵩み、およそ一日の誤差として現れてしまったのだと思います」

 

「そんな....じゃあ、どうすればいいんですか」

 

 

 力を失った声で自問する飛那。立て続けに襲い来る想定外の波に翻弄され、精神的にまいってしまってるのだろう。これだけ何度も前提を覆されれば、ありもしない想像だって誰しも抱くと言うものだ。

 それでも俺は飛那の肩を力強く、そして発破するように叩き、驚きつつ此方を振り向いた彼女に不敵な笑みを浮かべる。そして、我堂ほどではないにせよ、精一杯の気持ちを込めて声を張り上げた。

 

 

「戦うんだ!過程は結果じゃないだろ!いくら結果に向かうための過程が覆されても、戦えるならまだ負けじゃない!────守る場所も、守る人も!まだ、俺たちの背後にある!」

 

 

 何も終わっていない。始まってすらいない。全てはこの日のための布石に過ぎないのだ。

 顔を合わせない、水面下での闘争が幕を引けば、後は直接対決のみ。その戦で勝利することができさえすれば、次善の策が通じぬなど後の笑い話にすらできよう。....絶望するには、あまりにも時期尚早だ。

 

 

「樹万....うん、そうですね。まだ、諦めていいところじゃありません」

 

「ええ。諦めてもらっていては困りますよ、飛那さん。樹万さんが作ってくれた私たちの居場所、土足で踏み入ることは決して赦しません」

 

「か、夏世が燃えてます。かつてないほどに」

 

「燃えてるところすまんが、お前さんは民警の救護、治療に回るんだからな?」

 

「..........」

 

「ああ、あっという間に鎮火して灰に....」

 

 

 夏世はパートナーがいないので、戦場には立たず傷付いた民警の応急治療などにその役目を傾けている。博識な彼女のことだ。現場でも適切な指示を出せるだろうし、丁寧な処置にも大きな期待が持てる。しかし、本人は己の役どころに不満そうではあるが。

 

 

 と、一際強い風が吹き抜け、辺りの木々が突風にかき混ぜられてざわめく。

その音に紛れ、『とてつもなく大きな物体がずれる』ような異音が耳に届く。その音源は......

 

 

「────始まったか」

 

 

 黒い身のほとんどが白く染められてしまったモノリス。その表面に大きな亀裂が入ったのだろう。此処からでも目視できるほどの大量のモノリスの残骸が空中に飛散する。それが呼び水となったらしく、下部に集中して連鎖的な亀裂が発生し、至る所で白煙が上がる。奇しくも、俺にはそれが祝福の号砲に見えてしまった。

 そして、十に届くほどの破砕を目にした時、ついに上部の自重に耐えかねた下部のモノリスが倒壊。ビルの爆破解体を何倍にもスケールアップしたような光景が目前に展開し、ヒトの築いた安寧の象徴が、ただの壁の如く崩壊していく様を目に映す。

 

 

 ────間違いなく後の人類史に刻まれるだろう、第三次関東大戦。

 

 その幕が、ついに開かれる。

 




ここからがこの章の本番。
戦闘描写を書くのが割と好きな作者にとっては、結構楽しみにしていた所です。

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