ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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 いい加減二字だけでタイトル作るの難しくなってきた.....

 かなり原作内容をトばしています。合間に何があったのか詳しく知りたい方は、原作やアニメを確認してみて下さい。

 


12.始動

「ケースを奪われた上に怪我?」

 

『お、おう。延珠を連れて行ったんだが、影胤と小比奈には全く歯が立たなくてな...』

 

「ったく、本当危なっかしいなお前」

 

 

 あの会議の話を聞いてから以降、影胤と既に会って目を付けられていた事や、この前も己のイニシエーターが行方不明になる事など、日に日に蓮太郎の不幸指数は上昇しているのではなかろうか。

 いや、それらもそうだが、今もっとも話題にしたいのが、

 

 

「お前のイニシエーター...延珠は大丈夫だったのか?」

 

『あぁ、呪われた子どもたちだってことを隠して学校に通わせてたんだが、情報が影胤に流されたらしくてな』

 

「学友親友が、一日にして敵に回った....か」

 

 

 それはショックだったろう。彼女にも仲のよい友人が一人二人いただろうに。しかし、蓮太郎の話ではもう収拾がつかない程に双方の関係は拗れてしまったらしい。

 にしても、こんなことになって尚転校させる意志があるとは。お前は親の鏡だな蓮太郎。

 

 

「で、傷は大丈夫なのか?」

 

『ん。延珠以外にも雇ってる───というより、助っ人みたいなイニシエーターがいるからな。俺が手負いでも、その分をカバーしてくれるさ』

 

「羽振りいいなぁオイ」

 

 

 全く、こちとら死んだことにされてるらしく、碌に外出歩けんのだぞ。

 それにしても、データベースを覗いたら飛那も名前を消されていたのには驚いた。()()()にいたのだから、俺と一緒に死亡扱いされてしまったとしてもおかしくはないが。

 俺と同様に何処かに潜伏しているのだとしたら、候補地としては『あそこ』ぐらいか。

 脳内で考えを巡らしながら、手に持つ携帯の背面を指で叩く。しかし、それが十へ届く前にスピーカーから真剣な蓮太郎の声が響いてきた。

 

 

『樹万、頼みがある』

 

「ん?何だ」

 

『俺たちと一緒に戦って欲しい』

 

 

 その言葉が何を意味するのかは、割と早くに気が付いた。しかし、彼が何故民警をやっていない俺を頼るのかが分からない。イニシエーターもいないのだから、事実上俺は単一かつ一般人としての戦力しか持たない。武装させただけの一般人を二三人参戦させたところで、戦力は全く変わらないと誰でも気づくだろうに。

 そのことを伝えてみるが、蓮太郎は先ほどまでの真剣な声色のまま言った。

 

 

『お前の実力は分かってる───いや、この言い方は違うな。ホントは全く分からないんだが、非凡人の実力がある程度分かるからこそ、底が見えないお前は只者じゃねぇ』

 

「へぇ、中々目が肥えてんな」

 

『これでも、義父の天童菊之丞に連れ回されて色んな奴と会って来たからな』

 

「はっ?人間国宝、天童菊之丞の養子だと!?テメェが?」

 

『...わりぃかよ』

 

 

 悪い事なんて勿論ないが、風格の欠片でも分けて貰えばよかったのに。今の蓮太郎には威圧感など皆無なのだから、もう少しぐらいは付けておかないと小学生にすら馬鹿にされてしまうぞ....。

 

 

『あー!んなことどうだっていい!結局行くのか?行かないのか?!』

 

 

 余計な話題に逸れかかったからか、蓮太郎が電話越しで癇癪を起してしまった。面倒くさいので、早々に返答をすることにしよう。

 

 

「やるさ。最近身体が鈍って仕方ねぇ。でも、随伴はしないからな?こっちは単独でやらせてもらうぞ」

 

『ああ、それで十分だ!...ありがとな』

 

「役に立てるかどうかは保証せんが...でもな、影胤はお前の手で倒せ。延珠の仇だろ?」

 

『アイツはちゃんと生きてるぜ...?まぁ、学校追い出されたってデカい借りはあるが』

 

「なら、それをあの仮面ぶち壊す勢いで叩き付けてこい」

 

 

 俺の言い草に蓮太郎から少し笑い声が漏れる。俺もつられて声を出さずに笑みを浮かばせるが、それをすぐ引っ込めて重い声調で彼へ助言を授けることにした。

 

 

「だが、影胤は強い。二度対峙したなら分かるだろうが、機械化兵士としての能力以上に奴の考えが危険だ。...呑まれるなよ?」

 

『────分かった。そっちも頑張ってくれよ、樹万』

 

 

 答えに間があったため少し心配だったが、聞こえて来た声は明るいものだった。それに俺は頷くと、命令するように言い放つ。

 

 

「生きて帰って来い」

 

 

 

 

          ****

 

 

 

「蛭子影胤、小比奈ペアは、目にあまる問題行為により、民警ライセンスを剥奪されている。それ以前までのIP序列は百三十四位...その高位序列に見合った実力を持ち、蛭子影胤から出力される斥力フィールドは対戦車ライフルの弾丸、工事用クレーンの鉄球をも止める防御力を持つ」

 

 

 対面に座る室戸菫ドクターは、二枚の紙に目を通しながら言葉を続ける。

 

 

「そして、彼のイニシエーターである小比奈はカマキリの因子を持つ、『モデル・マンティス』。バラニウム製の小太刀を二本腰に下げ、その漆黒の刃から繰り出される神速の斬撃は、接近戦においてほぼ無敵───」

 

 

 彼女は手持ちの紙をめくって一通り言い終えると、それを研究用デスクに放り捨てながら突然肩を震わせ始める。

 

 

「これを蓮太郎くんに言ったら、口を半開きにして動かなくなったよ。フハハハハハ!」

 

「無理ねぇな...てか、他人事のようにバカ笑いしないで下さい」

 

 

 デスクに投げられて奥に飛んで行ってしまった資料を難儀しながら指先で摘み取ると、俺はドクターが羅列した言葉と照らし合わせて、蓮太郎の大まかな勝算を考えてみる。

 影胤は、確かに人間が持つ基本能力を大きく逸脱している。だが、機械化兵士...そのポテンシャルを発揮した時のみ戦力を大きく向上させているので、勿論デフォルトでも強敵ではあるが、蓮太郎には天童式戦闘術という強力な近接戦闘の心得がある。それを駆使して上手く立ち回れば、少なくとも手の内を大きく明かさない間は善戦を演出できる筈だ。

 あとは小比奈だが、彼女は現状影胤よりも危険な存在だと言える。こればっかりは蓮太郎の下に二人いるというイニシエーターに頑張ってもらうしかない。

 

 

「...ドクター、天童式の流派にも色々あるんですか?」

 

「らしいね。ああそうそう、天童木更が抜刀術の免許皆伝だと、蓮太郎くんから聞いているよ」

 

 

 やはり、天童にはかなりの強者が軒を連ねているみたいだ。菊之丞もガストレア戦争の折に刀一本でガストレアを何体も切り殺し、その振るう太刀筋は疾すぎて見えなかったという。

 いや、今は天童ではなく、里見蓮太郎の心配が最優先だろう。

 

 

「てかアイツ、何だか聖天子様にまで期待されてるみたいだし...プレッシャーで動きを鈍くしなけりゃいいが」

 

「いいや、彼には寧ろ押し潰す勢いでプレッシャーをかけた方がいい」

 

「?そりゃまた何で」

 

 

 緊張と焦燥は適度に。そうしなければ思考も行動も碌な結果を生まないだろう。

 しかし、ドクターは口角を吊り上げながら人差し指を立てて言った。

 

 

「逆境の中でこそ、人間は強くなれるのさ。───君は少年漫画を読んだ事がないのかい?」

 

 

 

          ****

 

 

 

「いいですか?蓮太郎さんに拒否権はありません」

 

「は、はい」

 

「私を蛭子影胤追撃作戦に同行させてください」

 

「いや、でもな飛那」

 

「言ったはずですよ?拒否権はありませんと」

 

「うぐっ」

 

 

 俺は現在、病室にて飛那から脅迫を受けている。...とは言っても、この状況を作り出したのは間違いなく己なのだが。

 延珠が家を飛び出した時にも一生懸命捜索に手を貸してくれ、何かあったらちゃんと相談するようにまで言ってくれた。だというのに、木更さんが大金叩いて入手したケース発見の情報に先走り、それを取り込んだガストレアを倒せたものの肝心のブツは影胤に奪われ、ボロクソにやられて病院送り。あれ、視界が滲んで来たぞ?

 兎も角、そんな無様を晒した俺には言い返せるだけの気力などある筈もなく、溜息を吐きながら了承の言葉を垂れるしかなかった。

 

 

「はぁ....わかったよ。ただ、無茶はするなよ」

 

「分かってます。でも、それは私からも言える事ですよ?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 俺が気の無い生返事を返したのを見ると、飛那は窓際に置いてあったパイプ椅子を立ち、白いベッドに座る俺の下へ来てから、膝の上に置いていた片手を取って来た。

 想像以上の手の柔らかさと温かさ、窓から覗く太陽光を弱く反射して煌めく銀髪、寄せた顔の端正さと悲哀に伏せられた睫毛。...俺は無意識に息を呑んでいた。

 

 

「蓮太郎さんが蛭子影胤と交戦し、深手を負ったと聞いた私の気持ち、分かりますか?」

 

 

 飛那の必死に言葉を紡ぐ唇は、震えていた。それを見た俺は思わず手を伸ばしてしまいそうになるが、それを堪えて耳を傾け続ける。

 

 

「仮とはいえ、貴方は私のパートナーです。...ですから、もうちょっとは自分の身を大切にしてください」

 

「ああ、約束するよ。まだ、お前らを一人にさせる訳にはいかないからな」

 

「むっ、あまり子ども扱いしては欲しくないです。....子どもですけど」

 

 

 視線を逸らしながら口をすぼめる飛那が可愛過ぎて、ついさっき触れるのを我慢した己すら忘れて抱きしめかけるが、「俺には延珠が!」という言葉を脳内に響かせ、何とか頭を撫でるにおさめた。

 ...ん?よくよく考えたらさっき自制した言葉おかしくね?

 

 

「ひゃわ!ちょ...言ってる傍からそういうことしますかー!」

 

「ははは!別に子ども扱いしてる気はないからノーカンだぜ!」

 

「その行動が全てを物語ってますってば!」

 

「こら蓮太郎!妾という美少女がおりながら、なんという事をしとるかぁー!」

 

 

 飛那の頭を執拗に撫でていると、突然扉を開け放って飛び込んで来た延珠が乱入。病室は更にカオス化する。しかし、先ほどまでの辛気臭い雰囲気は消え去り、幾分か気持ちにも余裕が持てた。

 きっと、これなら。この三人なら影胤を倒せるはずだ。

 

 ....ちなみに、この騒ぎは後に現れた木更さんの強烈なストレートによって俺がぶっ飛ばされることにより、ようやく終息を迎えたのだった。

 

 

 

          ****

 

 

 

「ホントは、裏で影胤を動かす人物を見つけようと思ったんだが。まさか現場仕事が舞い込んで来るとはねぇ」

 

 

 夜の闇が迫る空を眺めながら、外周区を歩く。

 民警らは輸送ヘリが未踏査領域近郊まで連れて行ってくれるらしいが、俺は勿論それに同乗する訳にはいかないので、こうして一人淋しく荒廃した街中を歩いている。

 そうはいっても実の所、時折見知った外周区住まいの呪われた子どもたちと会ったりして、そこまで孤独ではないのも事実ではあるのだが。

 それにしても、何人か着いて行きたいと言い出しながら引っ付いてきたのは焦った。説得するのに数十分は要したし。

 

 

「ま、その情報収集は天童の社長さんがやってくれるみたいだしな」

 

 

 蓮太郎から聞いた話では、蛭子影胤の狙うステージⅤガストレア召喚の情報が、東京エリアのマスコミにリークされる寸前だったらしい。

 こんな、ひとたび広まればエリア内が間違いなく混乱するであろう情報が、容易に流れる一歩手前まで行ったことに疑問を感じた木更は、独自に調査をする決心をしたらしい。彼女程の手腕なら、恐らく真実を掴んでくれるだろう。

 

 そんなことを考えていると、前方にある建物の影から長髪を大きなリボンで纏めた女の子が、もう一人の女の子の手を引っ張りながら走って来た。

 手を引いている子は知っている顔だったので、どうやら背後でひっぱられている子を俺に紹介したいらしい。

 

 

「みかづきお兄ちゃん!」

 

「おおー。りり、久しぶりだな。皆から俺がここに来てること聞いたのか?」

 

「うん!だからね、りりの新しい友達をお兄ちゃんに紹介したくて」

 

「情報が廻るの早いなぁ」

 

 

 頭を撫でられたりりは喜色満面に頬を赤らめながら、恥ずかしそうに隣で俯くポニーテールの女の子を俺の前に押し出す。が、かちこちに固まっていたからか、急に押された女の子はバランスを崩してしまう。

 

 

「おっとっと、大丈夫か?そんな緊張しなくてもいいぞ」

 

「ひ、ひゃい...」

 

「ちょっとみう!どさくさに紛れてなに抱き付いてるの!」

 

「り、りりが押したからでしょ!」

 

 

 そこからわいわいとケンカになり始めてしまったので、俺は一つ溜息を吐いて二人に軽い拳骨を落とす。

 

 

「あたっ」「いたっ」

 

「ほれ、ケンカはなしだ。...んで、みうちゃんだったか?」

 

「は、はい」

 

 

 相変わらず固いみうに俺は苦笑いしながらも手招きし、近づいてきたところで両手を彼女の両脇に滑り込ませて持ち上げ、首の後ろへ乗せる。

 

 

「ひゃわわわわわっ」

 

「ちゃんと掴まってろよー?」

 

「いいなぁー、肩車」

 

 

 俺の服の裾を摘みながらぶー垂れるりりにフォローを入れながら、少しして大分落ち着いてきた頭上のみうへ感想聞くことにした。

 

 

「みう、どうだ?」

 

「はい...とても、高いですね」

 

「みかづきお兄ちゃんなんだから当然でしょー?」

 

 

 りりが当たり前だと言わんばかりに両手を腰に当てたのを見て、俺は軽く笑みを溢しながら瑠璃色に彩られる地平線へと目を移す。りりとみうは、そんな俺を不思議そうに眺めて来た。

 

 

「そこから見える景色は、高くて...広いだろ」

 

「うん。とっても広くて、空が近くに感じます」

 

「だろ?ちょっと角度や高さを変えただけで、いつも見てる景色だってここまで変わっちまう。...だからさ、まだみうの知らないことがこの世界には沢山ある」

 

「──────」

 

「いつかこの世界が平和になったら、俺がお前らをいろんなトコへ連れてってやるから。その前に、今から楽しいことを見つける練習をしておくんだ」

 

 

 陽が沈み、闇が降りた地平線を眺めながら、ゆっくりと歩みを進める。暗い闇が蟠るこの地も、いつか夜が明け、朝日が照らすことになるだろう。

 りりも、みうも今は外周区に追いやられ、人外として扱われる暗黒の時を過ごしている。だが、それはいつか終わる。

 そして、その時が来たら、俺が照らされた道の歩き方を皆に教えるのだ。

 

 

「俺も、ちゃんと協力してやるからな」

 

「────美ヶ月さん」

 

「?おう、なんだ」

 

「人間嫌いだったりりが、貴方に心を許した理由....なんとなく分かった気がします」

 

「そうか?...っとと、すまんみう。りりが肩車交代しろってうるさいんだが」

 

「まだ嫌です」

 

「ううー!みう、いいかげん私にもさせてよ!」

 

 

 りりに譲らないと頭にしがみつくみうの手が地味に首元へキマってて苦しいが、彼女が無事に心を開いてくれたことで良しとしよう。

 暫く上と下の両方から幼女に責められる幸福感に浸っていると、背後の上空から連続して空気を裂く音が響いてきた。まだみうを肩車しているため上を向くわけにはいかないので、足を止めてから眼球のみを動かして確認する。

 

 

「輸送ヘリ、か」

 

「凄い数ですね」

 

「何かあるの?みかづきお兄ちゃん」

 

 

 りりの少し怯えたような声を聞いた俺は、安心させるように抱きしめてやってから輸送機の飛んで言った方角を睨みつける。

 あの中で、生きて帰って来れる人間は一体どれほどの数なのだろうか。

 

 

「何もないよ。...だから、普段通りにこの街にいてくれな」

 

 




 幼女分補充です。ホントはもっといちゃこらさせたかった....(本音)

 次回からはオリ主が欠伸をしながら未踏査領域のガストレアを大量虐殺していきます。多分。あと、もしかしたら将監と夏世ちゃん出すかもしれません。

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