運命上の魔王   作:a0o

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これより語られる魔王と切嗣の因縁は捏造です。


魔王の名を持つ者(上)

-32:09:00

 

 

 もう直ぐ日付が変わろうとする時、間桐雁夜の死体を処理し遠坂葵を県外の病院に移送した切嗣は拠点である武家屋敷に戻って来た。本来なら聖堂教会に任せるのが筋だが、アサシンが完全に脱落したとはいえ『異物』である言峰綺礼と関わりを持つのは避けたかった。

 そして玄関をくぐるとアイリスフィールと舞弥が待っていて出迎えてくれたが、その表情はとても喜べるようなものでは無かった。

 

「眠れないのかい?セイバーの側に居ないとかなり辛い状態の筈だが?」

 

 聖杯の器であるアイリスフィールは『聖剣の鞘』を埋め込むことで彼女自身を保っている。本来の持ち主であるセイバーの側に居なければ辛いなどと言うレベルでは無いはずだ。そんな夫からの不器用な仮初の気遣いも素直に受け取る余裕は彼女には無かった。

 

「今は、それ以上に心がざわつくのよ。切嗣、貴方、キャスターのマスター『魔王』のこと知っているじゃない?そうであるなら私達にも話してちょうだい」

 

 一人で抱え込むなと言う妻の声と同意見だという弟子の視線を受け溜息をつきながらも答える。

 

「別に隠すつもりは無い。ただ少し込み入った話になるから、居間に移ろう近くにセイバーも待機させて置いてくれ」

 

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

 現代日本の一家団欒の場のイメージが似合う居間に重苦しい空気を醸しながら切嗣は『魔王』について語り始めた。

 

「アイリ、僕が魔術師としてだけでなく傭兵としても世界を渡り歩いていたことは知っているだろう」

 

「ええ、舞弥さんともそういう戦場で知り合ったのでしょう」

 

「ああ、その前の事だ。当時、僕は西側の紛争でイギリスの特殊部隊の軍人と作戦を共にした。そして、そいつがあだ名されていたのが『魔王』だ」

 

「じゃあ、その軍人が――――――」

 

 切嗣は首を振って否定を示す。

 

「いや、僕がアインツベルンに招かれた頃には既に退役して、スイスの民間軍事学校で教官になっていた。それに数年前には人知れず他界したと確かな筋から聞いた」

 

「じゃあ、その人の教え子に魔術師が居て、それが聖杯戦争に?」

 

「その確率は天文学的だが・・・キャスターのマスターが僕の知っている『魔王』の名を貰った者であるは間違い無いだろう」

 

「じゃあ、その線から調べれば・・・・は無理よね」

 

「ああ、それでなくとも守秘義務は徹底しているし、そんな簡単に足が付くような痕跡を残すなんてことは程遠い奴だろう」

 

「ねぇ。切嗣が知っている方の『魔王』はどんな人だったの?」

 

 アイリスフィールの問いに切嗣は目を閉じ回想したことを簡潔に話す。

 

「当初、会った時は『魔王』なんてあだ名が似合わないと言う印象だった。兵士でありながら、イギリスの紳士道なる美徳を説く優男だと、しかし一皮向けば高度な技術と冷酷さと、どこまでも個人で生きている・・・・・今まで会ったどんな魔術師以上に恐ろしい男だった」

 

「今の魔王はどうなのかしら?」

 

「確かなのは、何らかの偶然でサーヴァントと契約した部外者で魔術師ではないという事だ。これまでの経緯を見れば明らかだし、それ故に戦術や戦略もより実戦を下地にした本物のプロと言う事。

それ以上のことは判らないが、魔術師としてではなく兵士としての思考で戦っているなら、それはそれで遣りようはある。明日の最終決戦で一気に逆転させる」

 

 切嗣の目には確かな勝算があった。聖杯に繋がる由縁は見えないままだが、魔王が完璧な勝利を求めていることは間違いない。本来、倒すべき敵すらも思うままに操り、全ての状況を支配下に置いてみせた。策士としては自分よりも上だろうが、聖杯戦争は魔術師の戦い、今まで倒してきた魔術師達とは逆の方向を持って排除するのを意図する。それを可能にするカードも直ぐ側にある。殺人機械としての機能は今、本領を発揮しつつあった。

 

 

 

-23:33:48

 

 冬木市深見町――――――

 一晩の休息を経てセイバー陣営は夜に訪れる決戦に向けての最終会議をしていた。傍らには幾分か精神を持ち直したセイバーも控えている。屋敷の結界は幾重にも強化しキャスターであろうとも情報漏洩の心配はないだろう。

 居間のテーブルには冬木市の地図が広がっており、切嗣が考え纏めた事を説明していた。

 

「魔王は柳洞寺にライダーを誘き寄せ、僕達が背後から挟み撃ちにするとう戦法を建てているはずだ。その後、互いのアドバンテージを活かし決着を付けるつもりだろう」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 冬木市新都――――――――

 同じ頃、魔王もキャスターと向かい合い地図を広げ、今夜の決戦のための確認をしていた。

 

「衛宮切嗣は、我々がライダーを誘い込んで挟撃、その後で片を付けようとしていると読むはずだ」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 切嗣は地図から顔を上げ、皆を見る。

 

「だが、それには乗らない。僕等の本当のアドバンテージ、聖杯の器の存在を奴らは知らない。こちらはそれを活かした戦略を取る」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 魔王はアインツベルンの森での言峰綺礼の行動と、その直後にキャスターの調べによって得た情報を思い浮かべる。

 

「奴はこの聖杯戦争(ゲーム)に優位なカードを持っている事に、俺が気付いていることに気付いていない。更にこちらには向うの知らない情報(カード)もある」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 切嗣はアイリスフィールに視線を合わせて説明を続ける。

 

「ライダーとキャスターはそのまま潰し合わせ、僕等は別の霊脈の地で聖杯降臨の儀式を行う」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 魔王はキャスターと顔を合わせる。

 

「決戦の場所は柳洞寺でなく別の場所になる。そこに奴らの知らないカードも含め、全てを使い切り勝ちに行く」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

 切嗣は再び地図に目を落とし、ある場所を指差す。

 

「その霊脈の地は、ここが最適だ」

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 魔王は地図のある一点を示しながら皮肉な笑みを浮かべる。

 

「お前には奇妙に感じるだろうが、奴らはここに現れるはずだ」

 

 

 

 

 

 双方が指差した場所は、キャスター召還の地である『冬木市民会館』と書かれていた。

 

 

 

-18:42:11

 

 

 遠坂葵の無事を確認し、その他に聖杯戦争に支障が出ていない事を確認した言峰綺礼は、昨夜の出来事の帰結をスタッフたちに説明し戦争終結が近いと言って解散させた。

 私室に戻り一息つくのが望ましいのだが、今の綺礼にそんなゆとりはなかった。綺礼の展望では貯水槽でライダーを始末し、バーサーカーを倒した直後に現れるのは自分であり、その場で衛宮切嗣と戦うのが理想だった。しかし結果は漸く目的が叶う期待とライダーを行かせてはならないという焦りでミスを犯し、サーヴァントを失い完全な脱落者となり、今夜起こる決戦にも、どう付け入ればいいのかも浮かばず最悪の一言に尽きた。

 

 そんな不機嫌ばかりが増す思考の中、私室の扉を開けると思わぬモノが目に飛び込んだ。

 

「今日は随分と不機嫌な顔だな。綺礼」

 

 我が物顔でワインを煽りながら、〝それ〟は綺礼の心境をずばり言い当てた。

 

「アーチャー・・・・・」

 

 予想外すぎる相手に思考が一瞬止まってしまったが、直ぐに持ち直して問いかける。

 

「何故、お前が―――――――」

 

「まだ現界している、か?魔王(・・)にやられたとでも思っていたか。まぁ我もそうなる事も考え、色々と対応策を講じていたが結局は杞憂に終わった」

 

 不穏な笑みを浮かべ綺礼の疑問に先に答えていく。そのまま綺礼はアーチャーの話を黙って聞く。

 

「奴は確かに時臣から令呪を奪ったが、使用した内容は『聖杯戦争の最終局面近くまで霊体化して潜伏』と『その間、自分達を探すことはするな』の二つだ。それが今朝解かれたのだから、今宵辺り決着を付けるのだろう?」

 

 余りにも意外すぎる展開なれど、綺礼は冷静に事態を把握した。魔王と言う言葉が出た以上、アーチャーは昨夜の顛末をどこかで見ていたことに成る。わざわざ聞いて来たのは自分もその事を知っているかを確認するためだろう。

 そして、この英雄王(サーヴァント)は決戦に参じ魔王に挑む気満々であり、現在の彼に必要なものを考えれば何しにここに居るのかも察しが付く。

 それは綺礼にとって渡りに船なだけに、そのまま乗ることに決めた。

 

「その通りだ。そして私も貴様同様に参戦するつもりだ、無意味な腹の探りあいは抜きだ。早々に必要なことを済ませ夜に備えたのだが」

 

「おいおい、性急過ぎるぞ。そう焦らなくともまだ時間はある、のんびり話をしていても別に何も逃げはせんぞ」

 

 そう言って優雅にワインを飲むアーチャーに綺礼は苛立ちを募らせる。

 

「悠長に構えるなら、する事を済ませてからだ」

 

「粋がるな雑種、王の言葉を卑下するなど言語道断だぞ。そもそも選択権は我にあるのを忘れるな」

 

 傲岸な物言いに押し黙る綺礼。それでいいとグラスに新たにワインを注ぎ、芳醇な香りを嗅ぎ笑みを浮かべる。

 

「やはりここの酒は僧侶如きの蔵で腐らせるのは惜しい物ばかり、逸品の酒には相応のつまみが欲しい所だ」

 

「つまみ?」

 

 アーチャーが言っているのは文字通りのつまみではないだろう。

 そういえば、と以前この部屋に来たときに受けた依頼を思い出し、嘆息しながらも説明した。アーチャーに聞かせるだけの材料は揃っているし、不本意に受けたとはいえ隠すことに意味もないからだ。

 ランサーとライダーのマスターは魔術師としての名誉の為。

 バーサーカーは自身の青臭い贖罪とその内容。

 セイバーのマスターはアインツベルンの悲願成就の為と言う捏造。

 キャスターのマスターは、何でも『この国に未だかつて無い地獄絵図を描き出す』との事だが詳細は不明、ただこれまでの経緯や魔王などと名乗っていることから相当途方も無いことを計画しているのは想像に難しくない。そして言うまでも無くホテル事件の犯人はこの魔王である。

 

「未だかつて無い地獄、仮にも王を名乗るだけあって中々に面白い見のありそうだな」

 

 不穏な笑みを浮かべるアーチャーに綺礼は言いようの無い視線を送る。

 

「フン、悪趣味だと言いたげだな綺礼。だが、それはお前とて同じだろう」

 

「どういう意味だ?」

 

「この世の最たる娯楽は〝ヒト〟だ。そして、他のマスターは端的な事実しか述べなかったお前が魔王については想像を語った。つまりは、その願いにお前の無自覚な興味が惹きつけられたということだ」

 

「一度しか聞くチャンスが無かったので考察で補っただけだ」

 

「違うな。お前は一度聞いただけで、それがどういうものになるかと益体の無い妄想に耽ってしまったのだ」

 

「馬鹿を言うな!!貴様等のようなヒトならざる魔性共ならともかく、私の生きる信仰の道において、それは罪人の魂だ」

 

「だから愉悦が罪とぬかしていたのか。だが綺礼よ、もう一人お前が多くを語ったバーサーカーのマスターについても、お前の魂の所在を示しているぞ」

 

 ここに来て綺礼は漸く反撃の糸を掴んだと思った。

 

「その男は昨夜死んだが、私は何の感慨も無かった。見当はずれの甚だしい」

 

「だからこそだ。その男の苦悶と絶望の生き様は、魔王が作ろうとしている地獄が齎しそうではないか。更なる期待があったからこそ用済みとしたのではないか」

 

 憮然と言い返そうとする綺礼だが、実の所は間桐雁夜が死んだ事を知ったとき奇妙な興奮と更なる何かを感じさせた。そして、その時に思い浮かんだのが魔王の話だった。

 

「これは我の勘に過ぎんが、魔王が作る地獄には狂気も付け足される。奴はそういうのを煽るのが得意そうだ。お前自身もいい証拠だろ」

 

 まるで理解できないアーチャーの言に綺礼は訝る。

 

「魔王はお前の自覚ある関心、さっき伏せた人物についても気付いているぞ。アサシンを失ったようだが、知らない間にそう誘導されたのではないか?」

 

 この指摘に今度こそ綺礼は驚愕した。思い返せばアサシンの事だけでなく、時臣も父も葵も全て魔王の行動と言葉が決定打となって起こった。だとすれば今アーチャーが居るのも魔王の計画に含まれているのか。

 

「やっと其処に辿りついたか」

 

 出来の悪い生徒を見るような目でアーチャーは封筒を綺礼に投げ渡した。遠坂葵が持っていた物と同様の物だ。―――――今夜、衛宮切嗣は冬木市民会館に現れる。二度目の花火が上がれば対峙可能―――――

 中身を確認した綺礼は呆然とアーチャーを見る。

 

「礼拝堂の扉に挟まっていたぞ。王を名乗る輩が全て集まる以上は我も遅れるわけにはいかん。

魔王は既に終局が見えているようだが、早々思い通りにはさせん。綺礼よ、お前も踊らされるだけでなく、最後は神でなく魔王に問うてみてはどうだ?それでも満足できんのなら、聖杯を獲って己の魂の在り方でも問え」

 

 ワインを飲み干し立ち上がる英雄王、その示した道に綺礼は袖を捲くり腕に刻まれた令呪を示し、全力で戦うと無言のまま示した。

 

 

 

-06:59:59

 

 

 

 日付が変わり静まり返った夜に遠坂凛は、その人物と対峙していた。

 彼女は深見町のマンションの一室に軟禁されており、その部屋には大量のお菓子やジュース、テレビゲームや小学生向けの玩具や少女漫画が揃っていたが、余り手を付けられた形跡は無い。

 

 そして自分を誘拐した魔王と名乗る仮面を付けた男は自然な口調で尋ねた。

 

「こういうので遊ぶのは嫌いかな?」

 

 凛は、ほんの一瞬テレビゲームに目をやり憮然としながら答えた。

 

「私はこんな低俗な遊びには興味ないわ」

 

「もしかして、遊び方が分からないとかは言わないよな?」

 

 その一瞬を見逃さなかった魔王は〝まさか〟と言う口調で聞き返した。

 その反応に凛は子供ながらの反発で怒鳴り散らした。

 

「大きなお世話よ!!」

 

 それでハチ切れたのか凛の勢いは止まらず、それまで我慢していた感情を爆発させた。

 

「大体、私はお父様の様な立派な魔術師になるの!お前みたいな卑怯者と馴れ合う気はないわ!!」

 

「お父様が大好きなのだな」

 

「そうよ!お前なんかいずれお父様がやっつけるわ。私を人質にしようたって無駄なんだから!!」

 

「そのお父様、残念ながら既に敗れて死んでいるぞ。間接的に私が殺した」

 

「嘘よ!!」

 

 魔王の言葉に身を乗り出し即答する凛、その目は絶対に騙されないと反抗精神に満ちていた。

 

「まぁ、私もそうである事を少し期待したのだがな」

 

「どういう意味よ?」

 

「今となっては意味のない仮定さ」

 

 そう前置きして魔王は語った。

 魔王は最大の障害であるセイバー陣営(正確にはそのマスター)を始末する為、凛を誘拐しアーチャー陣営が襲撃する様に仕掛けた。そのまま、アーチャーが勝利すれば彼らを狙っているバーサーカーをけしかけ、同時にランサーを使い監督役を退場させ、最後にライダーを戦うよう誘導するつもりだった。

 アーチャーが続けて勝ち、ライダーと決戦をさせて残った方のマスターの背後をキャスターに襲わせて聖杯を得ると言うのが、魔王が考えていた一番楽なシナリオだった。アサシンも何処かの過程で使い潰されるだろうから、その時に凛も解放するつもりだった。

 もしもバーサーカーが勝ち、ライダーと戦う事になったなら、どちらが残ろうと更に楽に勝てただろう。

 

 説明を聞いていた凛は呆れ顔で、それでいながらハッキリと魔王に宣言した。

 

「まんま他人任せじゃない。そんな方法で聖杯を手に入れたって勝ちとは言わないわ。少なくとも私は認めない」

 

「だから言っただろう、つまらない仮定の話だ。実際は君のお父様は敗れ、私の最大の障害は放った駒を全て打ち破った。予想通りの順当な展開になって今に至るわけだ」

 

 つまらないと言いつつも口元は愉快な笑みを浮かべており、凛はそれが方便であることを悟った。ならば父が死んだと言うのも怒らせる為にワザと言った可能性があると希望的観測によって頭が冷えていった。

 

「自慢してるの?それだって人任せじゃない。聖杯を目指すマスターなら魔術で勝負しなさいよ」

 

「誤解があるようだが私は魔術師ではない。偶然によってマスターになってしまっただけで本来は部外者だ」

 

 この告白に凛は驚き、透かさず反撃に出ようとするが、魔力が上手く練ることが出来無い所か視界がぼやけフラフラと目眩がしてきた。

 

「私は魔術師でないがキャスターは英霊にまでなった魔術師だ。当然、この部屋にも対策は施してある」

 

 凛を眺めながら説明する魔王は余裕で仮面を取った。

 

「だったら此処を出て警察に突き出してやるわ!」

 

「心にもないことを言うものではないぞ。被害届は出されていないし、聖杯戦争の一端であるなら、あらゆる事は黙認されるのがルールなのだろう。仮に君が騒いだとしても信用のある大人が肯定しなければ意味はないぞ」

 

 凛は自分の中にある魔術師の誇りを見抜かれ、弄られていることを感じ取るも遠坂の家訓を思い出し、倒れそうになるのも我慢してそれに則った対応を取った。

 

「一つ聞くわ。お父様が死んだって言うなら貴方は私を――――――」

 

「死んで行く者に話などしないさ。ただ今夜、どんな形になろうと聖杯戦争が終結するのは、ほぼ間違いない」

 

 魔王は封筒を取り出し凛に差し出す。

 

「君の母親が入院している病院までの交通費だ。私が出て行けばタクシーが来ることになっているから、そのまま向ってやれ話はもう通してあるから病院に着けばスタッフが案内してくれる」

 

 凛は意外な申し出に目を丸くする。

 

「入院って・・・・」

 

「勿論、私が巻き込んだからだ。詳しいことは共犯者(グル)だった神父にでも聞け、そいつが全て知っている」

 

 そう言って立ち上がり部屋を出て行く魔王に目眩が治まってきた凛は、慌てて靴を履き追いかけた。エレベーターに乗って降りていく相手に全力で階段を駆け下りて行くが、魔道の恩恵を受けたとは言え小学生の体力で追いつくはずもなく、遥か遠くに行ってしまった魔王に凛は全力で叫んだ。

 

「あんたは、私が絶対倒すんだから!!!」

 

 魔王は振り返り不敵な笑みを浮かべた。まるで〝その言葉が聞きたかったぞ〟と言わんばかりに、遠目ながらもその顔をハッキリと焼き付けた凛は悔しいのか恨めしいのか分からない複雑な気持ちであった。

 そしてその直後にタクシーが到着し、凛は母親が居る病院に向った。

 

 




補足説明、切嗣がアーチャーに気付かなかったのは、キャスターによる記憶操作で意識障害があったのと、聖剣の鞘の効果もあってその程度ですんだと誤認したからです。



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