ラブ鎧武!   作:グラニ

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ツバサの寄った店


かつて、とある地方福祉都市で有名になった洋菓子店。

そこでは屈強な店主がいた事でも有名だったらしいが、秋葉店にはそのような事はまったくない。





8話:戦う理由 ~信念と証明が原動力~

 

志木の手からオープンキャンパスを守る事が出来ずに敗北してしまったアーマードライダー鎧武達。

 

学生の身でありながらライダーという戦闘行為をするのは学生らしからぬ行為である、という南理事長の意向により戦極ドライバーを取り上げられてしまう葛葉コウタに呉島ミツザネ、九紋カイト。コウタは変身出来ないという事に無気力になってしまう。

 

やさぐれるカイトを引っ張って登校したミツザネを待っていたのは、守ったはずの音乃木坂学院の生徒達からの罵倒だった。それを高坂穂乃果がおかしいと諌めると同時にミツザネ達に戦った理由を求めるも説明を拒む2人。

 

その時、星空凛の携帯電話とロックシードを届けに来た幼馴染、啼臥アキトはミツザネに嗤いながら礼を言う。

 

一方、家の食料が尽きたコウタは秋葉の街へ出向く。そこで偶然にもトップスクールアイドル、A-RISEのリーダー綺羅ツバサと出会い、デートに誘われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院の廃坑を阻止を目的として活動しているスクールアイドルμ'sのライブを守る為、襲撃してきたアーマードライダーと戦ったアーマードライダー鎧武こと葛葉コウタは、目の前の少女の発言にあんぐりとしていた。

 

目の前にいる少女は綺羅ツバサ。全国のスクールアイドルの頂点に立っていると誉れ高いA-RISEのリーダーである。そんな人物が軽くデートと口にしようとするものなら、ファンの怒りが有頂天になるのは間違いなしだ。

 

そんなコウタの心情を察してか同情するようにシカインベスが肩を叩いてくるが、そもそも自宅でも手当て出来たのにここへ来たのはこいつが原因である。ツバサがインベスに襲われていた為、シカインベスを召喚して応戦したのだった。

 

コウタはパインロックシードを閉めてシカインベスをヘルヘイムの森へと返し、ツバサへと言った。

 

「で、デートって言ったけど、どこ行くんだ?」

 

「この前、新しいケーキ屋が出来たらしいのよ。そこへ行きましょ」

 

やはりアイドルとはいえ元は甘い物が大好きな女の子か。キラキラと目を輝かすツバサを見ていたら、もうどうとでもなれと投げやりになったコウタであった。

 

少し着替えなどの時間が要る、という事で先程襲われた地下駐車場でコウタは待たされていた。

 

駐車場では要請に応じて出動してきたアーマードライダー部隊が現場検証をしており、中々物々しい雰囲気だ。

 

「お待たせ」

 

その物々しい雰囲気の中に咲いた1輪の花のごとく現れたのは、制服とうって変わってスタイリッシュな服に身を包んだツバサだ。

 

白を基調としていた清楚な制服からうって変わって、赤一色のワイシャツの上に薄手の袖なしジャケットを羽織っている。ベルトに黒いスカートというスタイリッシュな姿は学生というより働くお姉さんという印象を抱きそうになるが、ツバサ自身の低身長が災いして背伸びをしている子供にしか見えなかった。

 

「どうよ、感想は」

 

「ありのーままーの、自分を見せるのよー」

 

「ちょっと、それどういう意味!?」

 

そのまんまの意味だよ、とは言えずにコウタは歩き出す。ふと、自身を顧みてみた。

 

特に意味もなく動きやすい肌色のチノパンに薄い青いシャツというカジュアルな格好だ。

 

思わずツバサの格好と照らし合わせる。

 

「…………普通、逆だよな」

 

「何が?」

 

服の嗜好が、と口の中で呟いてコウタは何でもないとツバサの前を歩く。

 

そこからはただケーキ屋に行くだけなのに、大きな寄り道をする事になった。

 

途中、可愛い洋服があると服屋に立ち寄ったかと思えば、下着を選んでなどとどう考えたって初対面の同い年の男子に振る話しでもない事を言ってのけ、買った下着を見てみる? と挑発してくる始末だ。

 

しかし、ゲームセンターに寄ってダンス勝負を仕掛けられた時は、それなりに楽しかった。点数だけではあるが、あのトップスクールアイドルに勝利したのだ。

 

そして、ようやくお目当てのケーキ屋で一息付けたのだった。

 

「だぁぁー、疲れた……」

 

「ふふっ、でも楽しかったわ。男の子とのデートというのもたまには悪くないわね」

 

本当に楽しいのか、ケーキが来るまでの時間を紅茶を傾けるツバサ。その姿は優雅であり、そこだけが1つの景色に溶け込んでいるようだ。

 

しかし、コウタは済ました顔で言った。

 

「今更優雅なキャラ気取っても無駄たぜ。お前は負けず嫌いで泣きそうになる背伸びした子供っていう面が割れてるんだからな」

 

「なっ……!?」

 

直後、顔をボンッと赤くするツバサ。

 

ダンス対決は完全にコウタが勝ちだった。スクールアイドルという予め決められた動きだけをするツバサと、自由な発想で時にはその場の勢いで踊りを即興してしまうビートライダーズでは自由度で差が出たらしい。

 

しかし、元々負けず嫌いな性格であるツバサは何度も再戦し、終いには泣きそうになるほどだ。

 

スクールアイドルという事を隠してもツバサが美少女である事に変わりはなく、おかげでコウタは周りからの視線に耐えきれずツバサを連れ出し、何故かケーキを奢る羽目になってしまったのだ。

 

「ふ、ふん! いくらあの伝説のビートライダーズだからって、引退後した君に負けるのはトップスクールアイドルとして我慢ならなかったのよ」

 

そこで、コウタはコーヒーカップへ伸ばしていた手を止めた。

 

「…………知ってたのか。俺の事」

 

あっ、とツバサが声を漏らして失言に気付く。

 

「…………えぇ。君はチーム鎧武という伝説のビートライダーズチームに所属していたし、この前の一件でさらに有名になったしね」

 

そこで紅茶を一飲みし、ツバサは言葉を区切る。

 

「だから、さっき助けられた時はびっくりしたわ。それで、こんなチャンスは滅多にないと思ったからデートに誘ったのよ」

 

コウタを射抜くツバサの視線。それは好奇心などとは違う、羨望の眼差しだ。

 

「君は……葛葉君は、私にとって憧れの人だったから」

 

その言葉を口にした時。

 

そこにはA-RISEのリーダーではなく、1人の女の子としての綺羅ツバサがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

##############

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になるまで、音乃木坂学院は2つの話題で持ち切りだった。

 

1つは4日前のオープンキャンパスを強行したチーム鎧武だが、それには止む終えない事情があったというもの。

 

そしてもう1つは音乃木坂学院スクールアイドルμ'sの猫娘、星空凛に彼氏発覚騒動だ。おかげで休み時間ごとにクラスメートや先輩達からの質問責めで、ダンスの練習があったわけでもないのに凛はぐったりしていた。

 

「つ、疲れたにゃー」

 

「お疲れ様、凛ちゃん」

 

遠巻きに避難していた親友のの小泉花陽が労いの言葉をかけてくるが、凛は猫のごとく睨み付ける。

 

「かよちんも真姫ちゃんずるいにゃ! 凛が皆から弄られてる時助けてくれなかったのに……」

 

「花陽や私にあんな状況どうしろってのよ」

 

髪をくるくると弄りながら西木野真姫が言う。男子がやって来たとはいえ共学には程遠く、女子校という場所での出会いなどあるはずもない。

 

よって、色恋沙汰を好むこの年頃の女子達の恰好の餌食になってしまったのだ。

 

しゃーっと威嚇するを凛を、まぁまぁと宥めたのは先輩でもある南ことりだ。

 

「けど、本当に講堂なんか使っていいのかな?」

 

「いいのよ。あそこまで無理に戦う理由、あるなら聞きたいわ」

 

ことりの背後に立っているのは、母親でもある南理事長だ。

 

一同がいるのは音乃木坂学院自慢の講堂の脇にある控えスペースである。

 

オープンキャンパス強行には理由がある。それを解き明かすから放課後まで待ってろ、と言って凛の幼馴染みである啼臥アキトは去っていった。

 

そのせいで生徒達は混乱し、教師側もあれやこれやと大慌て。

 

さらには全生徒がその理由を知りたいと学校全体を巻き込んでの釈明会となってしまったのだ。

 

「ミッチ達が素直に話してくれたなら、こんな面倒な事にならなくて済むのににゃー」

 

「……………朝から思ってたんですけど」

 

凛のぼやきに、困惑した表情で呉島ミツザネが言った。

 

「凛さんはどうして僕達を責めないんですか?」

 

その発言に同じ気持ちを抱いていたのか、少し離れた所で腕を組んで壁に寄りかかっていた九紋カイトが顔を上げる。消沈していた高坂穂乃果と宥めていた園田海未も凛へと顔を向けてきた。

 

「そういえば、確かに凛はまったくと言っていいほど変わらなかったわよね」

 

μ'sが根幹に関わっているということで呼び出された矢澤にこが言う。

 

言われて確かに、と凛は思い返す。

 

4日前のオープンキャンパスで、ミツザネ達チーム鎧武は襲撃されるとわかっていて強行し、そのせいで音乃木坂学院は世間から批判されることに。

 

凛も凛でインベスゲームに参戦していたため衝撃で気絶してしまい、少し間違えば命を落としていたかもしれない、というだ。

 

しかし、当の凛はというと起きたら真姫の実家が経営している病院だったので、ミツザネ達に当たるほど怖い思いをしていないのだ。

 

「うーん……ぶっちゃけ凛は気を失ってたし、文句もだいたいアキトに吐き出したらすっきりしたし。それに、凛もミッチ達が何の意味もなく強行したとは思えなくて、きっと理由があるはずだって。もちろん理由を話してくれるのが一番だけど、話せない理由もあると思うから…………話してくれるのを待つ事にしたにゃ」

 

凛にしては長い言葉だが、何となくで感じていた事をそのまま言葉にしただけだ。

 

チーム鎧武だとカイトが顕著で、彼は多くを語らない。以前、穂乃果の家に行った時、穂乃果の父も寡黙な人で態度だけで穂乃果の母が察していたのを思い出す。

 

それで思ったのだ。もしかしたら男という人は言葉にするのが苦手なのではないかと。

 

何となくでの発言だったが、それを聞いたミツザネとカイトは呆然となっていた。

 

すぐに返答が返ってくると思っていた女性陣は困惑の表情を浮かべて、どうしたものかと互いの顔を見合わせる。

 

「………星空」

 

沈黙を破ったのはカイトだった。

 

「お前、良い女になるぞ」

 

「にゃっ!?」

 

カイトからのストレートな褒め言葉に、凛の顔は真っ赤になった。

 

「あ、カイトさんもそう思います? ぶっちゃけ僕もキュンと来ちゃいました。アキトさんがいなかったら落ちてたかもしれませんね」

 

「にゃにゃっ………!?」

 

さらにミツザネからの追撃でトマトのごとく紅くなる凛。普段から男の子のように活発で自身も女の子らしくないと自覚している凛が、かなりのイケメンからベタ褒めされているのだ。冷静を保てというのが無理な話しである。

 

「何よー、こんなに美少女が揃ってるのににこ達は無視な訳?」

 

「お前はその自分主義の性格をどうにかしろ」

 

「それ、カイトさんが言いますか………?」

 

にこの言葉にツッコミを入れるも海未のもっともや言葉にぐぅの音も出ないカイト。

 

今の褒め言葉は彼らからしたら本音ではあったが、決して口説いていた訳ではないらしい。

 

それがわかるとほっとする凛だが、何故安堵しているのかわからず首を傾げた。

 

「校門を彷徨いていたのを見つけてきたわ」

 

「あれ、おかしいな。なんで俺講堂に案内され」

 

「にゃぁぁっ!!」

 

生徒会長の絢瀬絵里と東條希に連れてこられる形で現れたアキトだが、凛が朝と同じように蹴り飛ばしたためステージへと吹き飛んだ。

 

その予備動作を感じさせないほどの速さで動いた凛に感嘆するカイトだが、彼を含めてその場にいた全員が批難の目を向けていた。

 

講堂にはすでに全生徒とまでいかずとも、それなりの数の生徒が真実を聞こうとやって来ている。

 

そんな彼女達の前に、ずさーっと吹き飛んで来た件の彼氏。

 

えっ、彼氏が彼女に蹴り飛ばされた?

 

そんな疑問の目が凛達に向けられ、蹴り飛ばした本人もはっとなってアキトへ駆け寄った。

 

「ご、ごめん! アキト、大丈夫かにゃ…………にゃっ!?」

 

駆け寄った凛が覗き込むと、幼馴染みは容赦なく手を伸ばして顔面を鷲掴んできた。

 

「………俺は今、マジで何も言ってないよな…………?」

 

「にゃー………アキト、怖いにゃー………」

 

まったくの正論に返す言葉を持てず、凛は視線を明後日の方向へと向ける。

 

どういう訳は反射的に行動してしまったため、何故アキトを蹴り飛ばしてしまったのか凛自身理解出来ていない。

 

「はいはい、夫婦喧嘩は帰ってからにして下さいね」

 

パンパンと手を叩いてステージ脇からミツザネが姿を現すと、アキトは面倒そうに凛から手を離して言った。

 

「つーか、なんでこんな大事になってんだ?」

 

大勢の生徒達を顎でアキトが指摘すると、ミツザネはいつもの柔らかい笑みを浮かべる。

 

「あれだけ大勢いる前で大見得を切ったんだから、当然気になるよね。だから、生徒会で急遽講堂を貸し切って貰ったんです」

 

「そんな大掛かりにしなくても………」

 

そう言いながらアキトは凛の手を取って立ち上がらせてくれる。

 

「さぁ、聞かせて貰いましょうか。君の推理を……もっとも」

 

瞬間、再び“あの“気配を纏った。息苦しくなるような、優しさとはほど遠い敵意に満ちたミツザネへと変わる。

 

「誰に何と言われようとも、僕達の答えは変わらない。僕達は戦うしかなかったから、戦った。それだけだ」

 

朝から不変しない答え。今度のそれは、他を圧倒する威圧を放っていた。

 

しかし、やはりそれを真正面から向けられても、アキトの表情は涼しいものだ。

 

「わかってるよ。お前達は戦う以外に選択肢はなかったんだからな」

 

ざわりと、アキトが肯定した瞬間に生徒達がざわつく。

 

驚く一同を見て、彼は尋ねる。

 

「そもそも疑問なんだけど、アンタ達は何に怒っているんだ? 勝手にオープンキャンパスを強行して危険に晒した事か? それともその理由を黙っている事?」

 

「………そのどちらもよ」

 

アキトの問いに答えたのは絵里だ。

 

「これは彼らだけの問題ではないわ。私達全員の問題なのよ……私個人的としては、そのことも相談してくれたって、っていう気持ちもある」

 

絵里の言っている事はもっともだ。凛としても途中から気絶したとはいえ、インベスとライダーの戦いに巻き込まれたのだから。

 

「オープンキャンパスをしなければ、μ'sの皆さんはライブは出来なかったんですよ?」

 

「危険より遥かにマシよ。最悪、ネット配信という手もあったのだし、安直に危険な道を取った事にも……」

 

「危険な道を取るしかなかったら?」

 

絵里を遮るようにアキトが言う。

 

「取るしなかった………?」

 

「どういう事よ。それこそ意味わかんないんだけど」

 

怪訝な顔をする海未と困惑の顔をする真姫。

 

「そんのまんまの意味だよ」

 

「どうして? 少なくとも中止したら志木議員の思惑からは失敗したんとちゃう?」

 

今回の襲撃も元都議会議員の志木の仕業である事はユグドラシルや警察の調べでも判明している事だ。

 

希の言う通り、オープンキャンパスさえ無くなってしまえば志木は音乃木坂学院を襲撃するタイミングを失い、しばらくは平和だったはずだ。

 

「甘いね。アンタらは甘い」

 

そう断言して、アキトは真剣味を帯びた声色で言った。

 

「志木がそんな安全策を許す訳ないでしょう。奴はもはや逃亡犯であり、後がないんだからどんな手でも使ってきますよ。卑怯や人道なんて言葉は通じない化け物なんだから」

 

ぞくりと、不自然に凛の背筋が震える。化け物という言葉に、否応なしに嫌予感が吹き出したのだ。

 

「オープンキャンパスより3日ほど前からか………つまり、今から1週間くらい前。ウチの回りをコソコソと嗅ぎ回る連中がいたのよ」

 

「…………ストーカーかにゃー?」

 

「お前はちょっと黙ってろ」

 

冗談のつもりで言った訳ではないのだが、ぴしゃりと言われ凛は黙る。

 

「ちらっと姿を見てみたけど、あれは極道の人間だったな。どこの組の者かは知らないけど」

 

「それと今回の件、どう関係するのよ?」

 

「急かすなって先輩。時間掛けないとミッチから毒気が抜けないんだよ」

 

言われたにこは思わずミツザネを見やった。指摘されたからか若干、敵意は落ち着くが瞳は敵を見る目そのものだ。

 

「調べてみたら、ヤクザ達が張り込んでいたのはウチだけじゃない。店名は言わないけど、音乃木坂学院に関連する企業や店にはほとんど張り込んでいたね」

 

「……………まさか」

 

消え入りそうな声で呟いたのは、今まで黙っていた南理事長だ。その表情は愕然としたものであり、信じられないと語っている。

「そう。志木はヤクザを通じてユグドラシルを脅迫したんだ……オープンキャンパスを中止するようなら、音乃木坂学院に関わる企業などが無事では済まない、とね」

 

その告白に、場にいた全員の息が詰まる。

それはつまり、企業関連の人々を人質に取られたようなもの。

 

志木という男は、ただ音乃木坂学院を潰すという目的の為だけに無関係の人々を巻き込んだのだ。

 

「……………そりゃ相談なんか出来ねぇわな。言うなれば音乃木坂学院のせいで他の人々が被害を被りそうだったんだから」

 

ミツザネは何も言わない。ただアキトを睨み付けているだけだ。

 

そしてアキトはミツザネ達ではなく、講堂の席に座って絶句している生徒達に言った。

 

「アンタ達が怒りを覚えるのも無理はないよ。でも、頼むからアンタ達だけはこいつらの味方でいてやってくれよ。こいつらはアンタ達の為に戦って傷付いて、血を流したんだ。結果的には負けて不愉快な思いをしたかもしれない」

 

そこで区切って、アキトはミツザネ達を見やる。

 

「でも、こいつらはそれを承知で戦ったんだ! 罵倒される事も覚悟の上で、音乃木坂学院の為に忠義を尽くしてくれたんだ! それなのに、守るべき音乃木坂学院から見放されるなんて……あまりにも残酷じゃないか!」

 

それはまるで、残酷なシナリオを見せつけられている子供のような嘆きだった。いや、実際にアキトが嘆いている。

 

それは必死に血を流して戦った武者達への、世間という敵意の攻撃に。

 

それは同じ学校を居場所にして守ったはずの仲間から罵倒されるという悲劇に。

 

そんなものは認めたくないと子供のように、興奮を隠そうとしないアキトを凛は初めて見た。再開する前も後も、ここまで激しく熱弁した事は記憶になかった。

 

「アンタ達はそんな残酷を良しとする非道な人間達なのか? 自分達の為に頑張ってくれた人間に唾を吐き捨てるのが音乃木坂学院で学んだ事なのかよ!?」

 

「…………君がそこまで熱くなる理由はないだろう」

 

黙っていたミツザネから出た言葉は、真偽ではなくアキト自身の子とだった。

 

熱くなっているアキトとは対照的に、どこまでも冷静な態度を崩さないミツザネは言う。

 

「何がそこまで熱くさせるんだ? 君は音乃木坂学院の生徒じゃないだろう?」

 

ミツザネの質問に、アキトは押黙る。そして、大きく深呼吸をして言った。

 

「…………熱くなり過ぎたな。で、どうなのよ俺の言っている事は当たりか?」

 

再び涼しい態度に戻り訪ねるアキトに、ミツザネは目を伏せた。

 

「…………もし答えにくいようなら惚けてくれて結構だけど?」

 

「…………いや、タカトラ先生からは許可は貰ってる。それに、そこまで熱心になってくれた君には真摯に答えたい」

 

そう言ってミツザネは目を開けると、後ろで我感せずと傍観しているカイトを顧みた。

 

「いいですよね?」

 

「…………好きにしろ」

 

カイトの返答に頷き、ミツザネはアキトではなく南理事長へと言った。

 

「彼の言っている事はだいたい合っています。オープンキャンパスを理事長に相談もせず強行したのは、音乃木坂学院に関連する企業及び無関係な人々に危害が加わえるという暴力団の脅迫があったからです」

 

ざわりと、講堂が揺れ動いた。アキトの立てた仮説が、ユグドラシルが認めたようなものなのだから。

 

「もっとも、彼が推理した以上の酷さでしたが」

 

「もっと酷いとは…………」

 

「関連する企業だけではありません。在校生のご家族や友人、果てには近年の卒業生までその手は及んでいました」

 

今度こそ強い衝撃が走る。自分達の家族や友達が標的になっていた、という絵空事が現実味を帯びてつい最近まであったのだから、それは仕方ない事である。

 

そして、それほどまでに大事になっていた事を知らされていなかった南理事長は、震えた声で呟いた。

 

「どうして……もっと早期に対応出来なかったのですか?」

 

「それについてはこちらの落ち度です。言い訳が許されるなら、僕達はインベスにこだわり過ぎていたんです。インベスに関する事件は近年、増加傾向にあります。それに囚われて、次もインベスだけを使ってくる、と」

 

インベスは生活の共だ。買い物の荷物持ちを頼んだり店員の手伝いや仕事も仕込めば可能で、何より口頭で伝えずとも召喚した時点で指示は伝わっているのだ。

 

言い方は悪いが、インベスはに人間にとっていい駒なのである。

 

もっとも、一般人にはそんな認識はない。インベスには愛を持って接するのが常識で、それをきちんとしていればインベスを使って犯罪をしようなどという発想に至るはずがないのだから。

 

「しかし、奴らは違った。一昔のような人間の数に物言わせて………いえ、言い訳してもすでに終わった事です」

「だから、オープンキャンパス当日に校内警護は鎧武だけだったのか?」

 

アキトの言葉に凛はそういえば、と思い出す。あの時、校内の人気のない場所で戦っていたのはアーマードライダー鎧武と黒影。後に現れたデュークだが、その正体は謎に包まれているのだから、ユグドラシルの戦力という訳ではないだろ。

 

という事は、ユグドラシルは鎧武しか配置していなかった事になる。

 

「えぇ……脅迫が届いたのはオープンキャンパスの2日前……カイトさんの戦極ドライバーが直った日だそうです。急ピッチで調べあげてみたけど、すでにどうしようもない所まで来ていましま。だからオープンキャンパス時、僕達と鎧武と斬月、それから数人の黒影部隊で迎撃。残りの黒影はこっちで警察と合同で暴力団組織の鎮圧に当ててました。なので、もう皆さんや御家族、ご友人が襲われる心配は皆無です」

 

と、言っても僕が言っても信憑性もないですが。と自らを嘲笑するミツザネ。

 

ともあれ、何故ユグドラシルがオープンキャンパスを強行したのか、その理由はわかった。無関係な人々を人質に取られていては、如何に天下のユグドラシルといえど従わずにはいられないだろう。

 

「…………その事を、カイトもコウタも知っていたわけ?」

 

「オレは直前に知らされた。葛葉には知らされていないだろう」

 

にこの質問に淡々と答えるカイト。

 

「コウタさんに知らせれば、あの人はオープンキャンパス中止を皆さんに打ち明けたと思います。その上で、たった1人でも暴力団組織や志木と戦う為に翻弄したでしょう」

 

確かに、と一同は頷いた。

アーマードライダー鎧武、葛葉コウタと出会って2週間ほどしか経っていないが、その様が容易に想像出来るくらいに彼は一途で真っ直ぐだ。

 

コウタはきっと、最後までμ'sの皆に黙っているなんてと唸っていたのだろう。

 

「…………どの道、ユグドラシルの不手際で皆さんを危険な目に合わせご迷惑をおかけしました。アーマードライダーとして、謝罪します。申し訳ありませんでした」

 

そう言って、ミツザネは頭を下げた。生徒達は困惑したような顔をしていたが、理由を知ってただ無為に危険な行動をしていたという訳ではなかった事を知り、敵意は無くなっていた。

 

「あの時の事で他に知りたい事はありますか? 無ければ………」

 

「待って」

 

この集まりを終わらせようとした時、穂乃果が言った。慰めていた海未から手を離して、真っ直ぐミツザネを見つめる。

 

その瞳は、何時もの穂乃果だ。

 

「私、聞きたい事がある」

 

「…………僕達に答えられる事なら」

 

ミツザネの言葉に、穂乃果は深呼吸する。そして、はっきりと訪ねた。

 

「どうしてミッチ達は戦うの? 私達と同じ学生なのに」

 

その質問に、ミツザネは露骨に嫌そうな顔をした。それは触れられたくない事なのは明白だが、穂乃果は納得しそうにない。

 

「それがミッチにとって聞かれたくない事なのはわかるよ。でも、誰かが傷付くって知っちゃったら……私、これ以上踊りも歌も出来ない。μ'sとしてスクールアイドルを続けられないよ」

 

「ミッチ、カイトさん。これはオープンキャンパスが終わってから、μ'sの皆と話し合ったんです」

 

穂乃果の後を引き継ぐように、海未が言った。

 

「私達は学校を存続させたくて、スクールアイドルを始めました。けれども、それで誰かが傷付いてまで存続は望みません」

 

「それに、そんな方法で存続された学校に誰も………」

 

「待ってください」

 

ことりの言葉を、強くミツザネが震える声で遮った。

 

「それは、せっかく9人揃ったμ'sを解散させる……学校存続を諦めるっていう事ですか?」

 

「っ、私達だって学校を存続させたいよ? だけど………」

 

「ふざけるなっ!」

 

ミツザネが激高した。いつもは飄々としていたり冷静に物事を見ていたミツザネが、まるで子供のように怒りをぶちまけていた。

 

初めて見る少年の感情発露に唖然となるμ'sと理事長。しかし、ミツザネはそれに気付きながらも続ける。

 

「僕達が………いえ、あの人がどんな思いで戦ったのか……あの人が、どれだけの覚悟を持って傷付いたのか………それをわかってて言っているのか!?」

 

「み、ミッチ………?」

 

普段とはほど遠い少年に、凛は言葉も出ない。しかし、同郷のカイトは特に見慣れているのか態度を変えず、アキトも驚いた様子はなく真剣な表情でミツザネの言葉を聞いていた。

 

「傷付くのが嫌だからダンスを辞める……それはコウタさんに対する裏切りだ!!」

 

「……だったら、皆は怪我したって良いっていうの!? あんな大怪我して、コウタ君学校休んで………!」

 

「あれは単にベルト取り上げられて変身出来なくて欝ってるだけです! いつもの事ですよ!」

 

「ミッチ達は心配じゃないの!? 同じ仲間でしょう!?」

 

「こちらも色々と事情があるんです! あの程度で騒いでたらキリ無いです!」

 

「あの、穂乃果………」

 

「おい、ミッチ………」

 

「ひっどーい! ミッチ最低! 女の子にモテないよ!」

「モテなくて結構です! 僕にはマイさんという心に決めた女性がいますから!」

 

段々と子供のような言い合いに発展していき、海未とアキトの仲裁の声も聞こえていないようだ。

 

さらに自然とされたカミングアウトに周囲から「そんな……ミッチに好きな人がいたなんて………」「私、狙ってたのちなぁ………」などという声が聞こえてくる。

 

「だいたい、穂乃果さんは後先考え無さすぎです!」

 

「学校を存続させたいって思う事がそんなにいけない事なの!? お母さんやお婆ちゃんが通ってたこの音乃木坂学院を、私がいる母校を守りたいって思っちゃいけないの!?」

 

「どうしてッ!」

 

強く言い放ち、ミツザネが握り締めていた拳から力を抜く。

 

「…………穂乃果さんもコウタさんも、どうしようもない大馬鹿なんですか」

 

「なっ、馬鹿って………!」

 

「どうしてそんな単純に、思いだけで動けるんですか…………」

 

独白に近いミツザネの言葉に、穂乃果は言葉を止める。

 

今のミツザネは、まるで迷子のように見えたからだ。親とはぐれてしまった幼子。もしくは居場所を失った少年のようだ。

 

「……………高坂」

今まで沈黙を保っていたカイトが穂乃果を呼び掛ける。ずっと舞台袖にいた為に、その存在を忘れていた生徒達から驚きの声が漏れる。

 

カイトは舞台の中央辺りまで歩むと、振り返らずに穂乃果へ訪ねた。

 

「貴様達はオレ達が戦う理由を聞いてどうする? そこまで執拗に知ろうとするからには、ただの好奇心という訳ではないだろう」

 

「…………突き詰めちゃうと知りたいから、になっちゃうけど………どうして怪我してまでライダーをやるのか、って気になっちゃって…………」

 

穂乃果の様子からすると、本当にただそれだけらしい。

 

「だって、危険な事なんだよ? 私、今まで鎧武が圧勝する所しか見てなかったから、コウタ君は無敵なんだって勝手に思ってた……けど、実際はコウタ君達も危険な目に合ってた……3人は何の為に戦うのか、それが知りたい」

 

理由らしい理由を告げた穂乃果に、カイトは目を伏せて大きく息を吐いた。溜息というよりも肺の空気を入れ替えて、脳に喝を入れているように見えた。

 

「…………………言っておくが、貴様達がどう言おうとオレは戦う事を辞める気はない。たとえドライバーを奪われようとも、ロックシードを失おうとも戦い続ける……どうしてもオレが戦うのを止めるというのなら、オレは貴様を敵と見なすという事を覚えておけ」

 

そう言って目を開いた瞬間、はっきりとした敵意がひろがった。ミツザネのようなねっとりとした遠回しなモノではなく、じわりと身を貫くような苛烈な気迫。

 

激しくはないがはっきりと向けられた敵意に、穂乃果は身が恐怖で震えた。少ししか変わらない目の前の少年は、この敵意を持つようにならなければならない世界にいたのだ。

 

何故、学生であるはずのカイトがこれほどの敵意を抱くようになってしまったのか。

 

「へいへいへーい、カイト先輩や。やり過ぎ、高坂さんが完全に怯えちゃってるよ」

 

この状況下であっても、やはりアキトだけは涼しい顔を崩さなかった。

 

まったく気にしないアキトに何とも言えない表情をしつつも、カイトは語り出す。

 

「…………この世は所詮、弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。それが自然の摂理、その一面だ」

 

弱い者は食われる。どれだけ綺麗事を述べようともそれが現実だ。だからこそ、音乃木坂学院は廃校という危機に直面しているのだから。

 

「この世界では力が全てだ。力がなければ弱者の烙印を押され、蹂躙される……弱者に生きる資格などない」

 

だから音乃木坂学院は滅びる他ない。カイトはそう言っているように感じ、思わず絵里が何かを言おうとする。

 

しかし、それよりも先に彼は口を開く。

 

「だが、人間は決して弱くはない。たとえ拳を握り締めていなくとも、人は必ず何かと戦っている。それは学校を廃校にさせまいとしたり、幼馴染みの為だったり、一番わかりやすいのは人の為に」

 

カイトの言葉に穂乃果達は驚いた顔をする。カイトが今までのように戦いを望んだ獰猛な笑みでも、見下すような冷酷な笑みでもなく、純粋に優しい笑みを浮かべているからだ。

 

「その戦いは、そいつが信念を貫く為に勝たなければならない戦いだ。それは、オレはもちろん、志木のようなクズが邪魔をしていいものではない」

 

だから、とカイトは言った。戦えない人の代わりに拳を強く握る。

 

「それを邪魔するという者がいるなら、オレが代わりに戦う。他者を守って勝利してこそ、オレはオレの強さを証明出来る……その信念を貫く為。それがオレの戦う理由だ」

 

信念を貫く為に戦う。なんともカイトらしくて、凛は思わず口元を緩める。

 

「……………カイトさんが喋ったら、僕まで言わなきゃダメじゃないですか」

 

そう独白したのはミツザネだ。

 

「僕は沢芽シティにいた頃、兄さんに言いなりになっていた自分が嫌で、なんやかんやでコウタさんを裏切っているんです」

 

「いや、そこ端折ったらダメじゃね?」

 

ミツザネの発言に、アキトが呆れる一方でμ's一同は驚いた顔をする。いつもコウタさんと弟のように慕っているミツザネが兄貴分のコウタを裏切る、というのが想像付かなかった。

 

しかし、語っているミツザネは真剣そのもので、嘘ではない事は明白だ。

 

「僕はタカトラ兄さんの影となるべく教育されてきた。あの人の右腕、後釜………けれど、それは呉島ミツザネではなくもはや呉島タカトラだ。その事に気付いて自暴自棄になって、皆を傷付けて………でも、コウタさんはそんな僕を殴って止めてくれて、許してくれた。そして、言ってくれたんだ。人は他人になれやしない、真似ているだけの別人だって」

 

気恥ずかしそうにミツザネは笑った。あの時の失態を恥じると同時に嬉しさがこみ上げてきているようだ。

 

「だから、僕は呉島ミツザネである事を世界に刻み続ける事を決めたんです。早い話しが戦い続ければ、僕は呉島ミツザネだって証明する事が出来る…………」

 

ミツザネはそこで、穂乃果を見やった。

 

「ねっ? ありきたりというか、僕達は下らない理由で戦うんです。がっかりしたでしょ?」

 

カイトは自分の信念を貫く為に戦い、ミツザネは自分を証明する為に戦う。

 

それはきっと自分勝手で、正義など考えていない傲慢なものだ。

 

けれども、どういう訳だろうか。

 

「なんか、2人らしいね」

 

その理由で戦う2人が、その為に動く事に違和感を覚えなかった。

 

そう言って穂乃果が笑ったのは、心につっかえていたものが消え去ったからだ。

 

ずっと気になっていた。3人が戦う理由は、傷付いてまで鎧を纏う理由は何なのだろうか。

 

「自分の為、か………そうだね」

 

1人で頷き苦笑する穂乃果を、各々は燻しがるように首を傾げた。

 

「穂乃果………?」

 

「穂乃果ちゃん………?」

 

「…………ごめん、皆。私、気付いちゃった」

 

そうはにかんで、μ'sのリーダーは仲間に言った。

 

「私達スクールアイドルに3人を責める権利なんてないんだ………だって、私達も同じだから」

 

「同じ……?」

 

意味を掴みかねて聞き返してくる絵里に頷き、穂乃果は言った。

 

「私達μ'sもやりたいから学校存続を目的に活動を始めた………それって、私達が学校が廃校になったら嫌だから始めたんだと思うんだ!」

 

それは、カイト達と同じようなほんの少しの我が儘な言葉だ。

 

廃校を阻止したいのは、耀かしい学校生活を守るため。学校が無くなって、悲しむ母親の顔を見たくないが為に。

 

それは、穂乃果だけではない。他の面々だって、自分の為にμ'sに参加していた。どんな綺麗事を言おうと突き詰めてしまえば自分の為だ。

 

ただ、それが傷付くか傷付かないかのちがいだけ。

 

それが穂乃果達には、とても大きな意味を持つ。

 

「…………それでも」

 

それがわかっているからこそ、絵里は言う。

 

「だからこそ、私は戦って欲しくない。私達の為ではなく自分の為であっても、傷付くのは貴方達なのよ………?」

 

「当然だ」

 

間髪入れずにカイトが答える。

 

「この受けた傷みはオレが戦っていた証だ。オレが信念を貫いてきた記憶だ。他の誰にだって理解出来ないし、させない」

 

「怖くないの………?」

 

インベスとの戦いを思い出してか、希の質問する声は若干震えていた。

 

「怖いですよ、もちろん………でも、戦わないと皆が傷付く。戦うのは自分の為であっても、それも耐えられないんです」

 

答えたのはミツザネだ。カイトのツンデレな問答では素直に答えるはずがないと察したのだろう。

 

「だって、大切な仲間が傷付くより自分が傷付いた方がいいですから」

 

「…………ダメだよ、ミッチ」

 

ミッチの覚悟を頭ごなしに否定するのではなく、穂乃果は言い聞かせるように言う。

 

「それはダメだよ」

 

「………ダメ、とは?」

 

「確かにミッチ達はいいかもしれないよ? 誰かを守れる力もあるし、それをしようっていう覚悟もあるかもしれない…………でも、それで残された仲間の私達は、どんな気持ちでいると思う?」

 

ミツザネの顔が、驚きに染まる。

 

ミツザネ達ライダーが戦えば誰かが救われる。だけど、それは彼らという犠牲かあってこそだ。

 

世界に絶対がないのだから、ミツザネ達が最悪な末路を辿らないとも限らない。何より、コウタがすでに大怪我をしているのだから。

 

「…………嫌だよ、皆が傷付くのが。私達のせいじゃなくても、皆が傷付くのは…………」

 

いつの間にか穂乃果の目に涙が浮かぶ。その涙に罪悪感を抱いたのか、思わずミツザネは目をそらす。

 

わかっている。穂乃果達の言い分も正しいが、間違っていたとしてもミツザネ達とて引けない理由がある。

 

しばらく、誰も喋れない沈黙の時間が訪れた。誰にも明確な答えが出せずにいるのだ。

 

ふと、凛はアキトを見やった。特に意味はない、何となくだったのだが、彼は視線に気付いて肩を竦める。

 

「お前まで何を期待してるんだよ」

 

「にゃっ、なんでもないよ……」

 

思わず目を逸らすが、その一言で全員の視線を集めてしまう。

 

アキトは仰仰しく息を吐き、半目で幼馴染を睨んだ。

 

「ほら、部外者が何調子こいてんだ、って顔された」

 

「…………本当ですよね。何調子乗ってるんですか?」

 

「…………お前ホント、ここあらばと攻めてくるよな」

 

シリアスのど真ん中にいたのにボケを入れてくるミツザネに妙な感心をしながら、

 

「でもまぁ、こうなったら互いに納得出来る方法は1つしかないんじゃないですかねぇ。ミツザネ先生?」

 

「方法………?」

 

にやにやと笑うアキトに当然のごとく怪訝に問い返すミツザネ。その答えがわからないからこそ、こうなったらやって悩んで大事になってぶつかっているというのに。

 

だが、アキトは頷いて言った。

 

「もうこれは、ミッチ達がこの先怪我をせずに圧倒的な勝利を捧げるしかないって」

 

「…………………」

 

軽い口調でとんでもない事を口走ったアキトに、何を言っているんだこいつは、と全員が唖然となる。

 

「…………いやいやいや。何を言っているんですか、君は。そんな事……」

 

「出来るって」

 

どういう訳か自信満々にアキトは言う。

 

「お前らは曲がりなりにも“ライダー“なんだ、問題ねぇって」

 

「どういう理屈なのよ、それ」

 

アーマードライダーだから、という意味不明な根拠に真姫が呆れたように言う。その表情には些かの畏れは残っているものの、敵意は完全になくなっていた。

 

ここまで大掛かりにした問答はちゃんと意味を成し、μ'sとチーム鎧武の中を取り持ったのだ。

 

「まっ、いずれわかるさ」

 

その成果に一役買ったアキトは、笑いながら続ける。

 

「と、いう訳で……こいつらに戦極ドライバー、返してやってはくれませんかね?」

 

そう言って、今までまったく声を発さない南理事長へ向き直る。

 

南理事長はずっと語っている生徒に耳を傾け、傾聴する側に回っていた。

 

しかし、彼らが生身でも戦うと宣言した以上、ドライバーを没収した南理事長も無関係ではなくなる。

 

彼らには戦う為の力が必要だ。

 

「…………理事長。私からも、私達からもお願いします」

 

そう言い出したのは、カイトの振る舞いに憤慨していた絵里だ。それを皮切りにμ'sメンバーが、何の打ち合わせをした訳でもなく横一列に並んで南理事長と向き合う。

 

「ミッチ達は本気です。このまま変身せずにいたら取り返しの付かないことになりかねません」

 

「理事長先生………!」

 

真剣な少女達の懇願に、南理事長は一度目を伏せてから開ける。

 

「………貴方達が力に拘わる理由はわかりました。自分の為と言いつつも、それが誰かの為という事も…………ですが、音乃木坂学院の理事長として、教師として、1人の母親として、子供を自ら危険に陥ろうとするのを黙っている訳にはいきません」

 

南理事長の放つ正論に、μ'sメンバーは目を伏せる。それはもっととこの場で正論だからである。

 

しかし、カイトは元よりミツザネも引く気はない。恥ずかしい黒歴史を暴露したのだから、退学にされようともアーマードライダーとしての道を突き進むだろう。

 

大団円で終わろうとしていた講堂の舞台に降りかかる暗雲。

 

それを強制的に終わらせたのは、突如響いた鈍い音と、華のごとく飛び散った紅い紋様だった。

 

 

 

 

 

 

九紋カイトが所有するロックシード

 

 

・バナナ

・ローズアタッカー

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は………

 

 

 

かつての憧れと出会い、距離を縮めていくコウタとツバサ。

 

その姿は普通の高校生であり、戦いとは無縁な姿だった。

 

そんな世界でも生きていける、と思っていた矢先に日常は壊される。

 

 

 

一方で、

 

 

 

「あ、アキト君………!?」

 

「ちょっと! アキト、撃たれた癖に何してるにゃ!?」

 

「非常事態なんだ勘弁しろ。あと得したっていいじゃねぇか!」

 

花陽と凛を巻き込んだ痴話喧嘩が勃発。決してカイ凛へ怒った訳ではない。えぇ、怒った訳ではありませんとも!

 

 

 

 

「……………にこ。お前みたいに強い奴がいてくれるのなら、オレは戦える」

 

「…………それは遠回しな告白? 言っとくけど、アイドルは恋愛禁止なんだからね」

 

強者と認めた者にはとことんデレるカイト。

 

 

 

「てっきり強行すると思っていたが、まさか言いなりになるなんてな」

 

再び現れた烏孫くさいDJ。

 

 

 

「絶対に無傷とはいかなくても………なるべく怪我をしないで私達の所に戻ってくる事」

 

「それが約束出来るなら………ううん、今ここでそれを誓いなさい!」

 

真姫とにこの約束に、2人は。

 

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

9話:戦う理由 ~普通と異常は表裏一体~

 

 

 

 

 

 

 




ついに終わってしまいましたね、鎧武。

最終回でドライブ来るかなと思ってたらまさかのお前かよ、的な感じでした。それでもミッチが救われたのはとても良かったです。

さらに城之内がすごくヒーローしてくれた事にも感動した。初瀬ちゃんの事もちゃんと受け入れて、本当に彼は強くなりました。ここでの彼はある意味で完成しちゃってるので成長はないんじゃないかなぁwww

さて、今回はなぜミッチ達は戦わなければならなかったのか、という事を説明する回です。なのに、なぜか大事に。ちなみに当初ではμ'sとの身内だけで済ませる予定だったのに、なぜ出張って来たアキトよ。

コウタとツバサの接点も思いつきです。おや、これで穂乃果達とは別の意味でもライバルに…………?

次回もすでに完成していますが、次の話しが出来上がってから上げようと思いますので、少しだけ時間をください。

鎧武が終わったので、モチベを高く持っていきたいと思います。ドライブに目移りしないようにwww

ではでは、感想よろしくお願いします!

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