ラブ鎧武!   作:グラニ

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スクールアイドルとユグドラシル

少子化における学校廃校は、学校のみならずその地域の経済活動などにも影響を及ぼしかねないものであり、そのために活動するスクールアイドルをユグドラシルは全面的に支援している。
しかし、その一方で廃校を付け狙う者達がいるのも否定できない現実であり、ユグドラシルは学校側に内密で武力行使による防衛活動を行っている。
学校存続の為に子供達の場所を巻き込んでいいのか、という点においてはユグドラシル内でも問題視されている



5話:僕らのLIVE 君とのLIFE ~松傘の野獣~

 

 

前回までのラブ鎧武!は……………

 

 

音ノ木坂学院でμ'sが使用している備品が壊されているとの報告を受け、生徒会長の絵里と希、にこはコウタとカイトを連れて夜の学校へ向かう。

 

そこで出会ったのは講堂へ向かうインベス。コウタは絵里の制止も聞かずにアーマードライダー鎧武へ変身し、講堂のインベスを倒そうと向かっていく。

 

それと同時に屋上にもインベスが出現。そこにいたのは今回の騒動を起こした堀部真央がインベスを従えていた。彼女は男子が転校してきた事に不満を持ち、μ'sを敵視している彼女のインベスに生身で立ち向かうカイト。

 

危ないところへ駆けつけたタカトラから戦極ドライバーを受け取ったカイトは、ついにアーマードライダーバロンへと変身する。

 

インベスを倒し真央にわめいているだけでは意味がない、と戦う意味を教え和解に成功する。

 

ついに揃った4人のアーマードライダー。

 

そして、ついにオープンキャンパスが間近に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果。テンポ遅れてるぜ!」

 

「凛さん、少し早いです。もっと周りに揃えて!」

 

オープンキャンパスを翌日に控えた土曜日。通常授業はなく各部活動をしていたり運営に携わる生徒達は休日であるのにも関わらず登校し、最後の準備に取り掛かっていた。

 

μ'sもそれは例外ではなく、初めての9人で踊るという事で今まで以上に複雑な動きで高坂穂乃果は葛葉コウタと呉島ミツザネに協力を要請していた。

 

やはり2人の実力は本物であり、披露する曲と一通りの踊りを見せただけで改善点を見つけ出し、適格にアドバイスをくれる。

 

μ'sの全員が思っただろう。穂乃果の提案は正解だった、と。

 

「うっし。まぁ、今日はこんなもんだろ」

 

「えー。本番は明日なんだし、もっとやった方がいいんじゃない?」

 

水分補給しながら高坂穂乃果が、まだ踊り足りないとやる気に満ち溢れた顔で口を尖らした。

 

音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sを立ち上げた少女であり、リーダー的存在だ。その責任からやれるだけの事はやりたい、という事なのだろう。

 

「気持ちはわかるけど、これ以上やると明日に響くぜ」

 

「ですが、基礎練習を含めて2時間程度しかしてません。練習が午前中しか出来ないのですから、もっと詰め込んだ方が間いいのでは?」

 

そう言ってタオルで汗を拭うのは、穂乃果の幼馴染み園田海未だ。紺の混じった黒髪が、動く度に靡いた。

 

その隣では南ことりも同感といわんばかりに頷いている。

 

穂乃果、海未、ことり。この3人はμ'sの発端となったメンバーだ。なので、オープンキャンパスに対する思い入れは強いのだ。

 

「何言ってるんですか。絵里さんと希さんは午後から生徒会の仕事があるけど、皆さんは仕事があるでしょう?」

 

「あ、そうか」

 

穂乃果が思い出したように言う。

 

μ'sメンバーのうち、生徒会役員である絢瀬絵里と東條希はそちらの事務仕事があるが、残りのメンバーは明日のオープンキャンパスで使うステージの組み立てをしなければならないのだ。

 

力仕事であるがため、タカトラかまアーマードライダー部隊の部下を連れて手伝ってくれるというが、女子であっても任せっきりという訳にもいかない。

 

「ちょっとー、にこ達アイドルなんだから重たい仕事とか無理なんだけどー」

 

話しに割ってくるように入ってきたのは黒髪のツインテール少女、矢澤にこだ。μ'sの便宜上でもあるアイドル研究部の部長をしており、アイドルにも詳しい少女である。

 

「実際の組み立てはユグドラシルの皆さんがしてくれるので、にこさん達は出来具合を確かめるのと休養を取る事。それが一番やるべき事です」

 

「明日は初めて9人揃って、しかも外の人に披露するんだろ? なら万全の体調で挑まないとな」

 

ミツザネとコウタの言葉に、皆は不安そうな顔で互いを見合う。本当にこの踊りや歌の完成度でいいのか、といった気持ちが見てとれた。

 

「大丈夫。皆さんの踊りは十分上手になりましたよ」

 

ミツザネの言葉に安堵の声が上がるが、ふと西木野真姫が手を上げた。

 

「それはそれでいいんだけど………ねぇ、明日のオープンキャンパス。あの志木とかいう都議会議員みたいなやつ、来ないよわよね?」

 

気丈な性格の持ち主である真姫に、星空凛や小泉花陽も顔を上げる。

 

都議会議員の志木がインベスを使って音ノ木坂学院を襲撃し、アーマードライダーが撃退したのは記憶に新しい。

 

しかし、志木のような輩が政界にわんさかいるのは確かであり、かと言ってそれらを検挙する事は出来ない。

 

音ノ木坂学院を廃校へ追いやりたい連中にとって、オープンキャンパスで来場者に何かしらのアクションをして人気を落とす、という絶好の機会のはずだ。

 

「うん。もしオープンキャンパス中に何かしら事件が起きたら、即座に中止するって」

 

理事長の娘であることりが言うからには、即座に中止は本当なのだろう。人命優先なのは当たり前だ。

しかし、もしそうなった場合、せっかく頑張って練習した今回の曲も無駄になってしまう。今回のオープンキャンパスで一定以上の人気を集めなければ廃校が決定してしまうのだから。

 

「大丈夫だよ!」

 

沈みがちになっていた皆を鼓舞するように、穂乃果が言った。

 

「だって、私達には伝説のアーマードライダー、鎧武達がいるんだもん!」

「えっ、俺ら!?」

 

自分を指さすコウタに、穂乃果は心底頼ったように頷く。

 

「そうにゃ! それに、もしもの時はアーマードライダーデュークもいるし!」

 

穂乃果と一緒に言い出した凛に苦笑しながらも、コウタは乗るように腕を上げた。

 

「おうともよっ。明日のステージは、俺達が守るぜ!」

 

まるでヒーロー番組のような鼓舞に、少しは安心感を覚えたのか笑顔が広がるμ'sのメンバー。

 

そんな彼女達を尻目に、困ったような顔をしてコウタとミツザネは互の顔を見合わす。

 

2人の脳裏には、昨日の事が蘇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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九紋カイトが戦極ドライバーを手に入れ、アーマードライダーバロンとして復活を遂げた夜。

 

女子4人を家まで送り届けた葛葉コウタとカイトは、メールの指示通り音ノ木坂学院の宿直室へと向かった。

 

宿直室は主に警備員が滞在し、夜間帯に不審人物がいないか警備のため作られたのだが、人件費や電気代の無駄という事で最近は使われていなかった部屋だ。

 

今回の調査という事で絵里と希が前もって掃除をしてくれていたらしく、比較的綺麗な内装となっていた。

 

中にはすでに制服を着た呉島ミツザネがおり、2人の姿を認めて顔を明るくする。テーブルに乱雑に置かれた文庫の様子では、かなり暇していたらしい。

 

「あ、コウタさん。カイトさん」

 

「よぉ。ミッチもタカトラ先生に呼ばれたのか?」

 

靴を脱いで畳の上に座り、途中で買ってきたお菓子やジュース類を開けながらコウタが尋ねた。

 

「はい。明後日のオープンキャンパスの事で話しがあると。あ、チーズアーモンド頂きます」

 

「おい、何故梅ヨーグルトなどというゲテモノポテチを買った」

 

梅にヨーグルトがぶっかかるという意味不明なイラストのポテトチップスを持ち上げて、カイトが睨んでくるがコウタはどこ吹く風だ。

 

「4人もアーマードライダーが揃ったんだ。志木みたいのが現れても問題ねぇだろ」

 

コウタが煎餅の袋を開けながら言う。楽観的な言いようだが、この4人はそれなりに実力を兼ね備えたメンバーなのだ。もしコウタ達が正規のユグドラシル社員ならばバラバラな地方に飛ばされているはずである。

 

「まぁ、僕達にとっても初めての防衛戦ですからね。念入りに作成を立てとかないと」

 

「で、そのタカトラはどこにいる?」

 

文句を言う割には梅ヨーグルトのポテトチップスを頬張るカイトに、ミツザネは腕時計を見やる。

 

「支部の人達と連絡するって言って出ていったんですけど……遅いですね」

 

そうぼやいていると、タカトラが入ってきた。

 

「すまん。少し買い出しに行って………どうした?」

 

入ってきたタカトラが怪訝そうな顔をするのも無理はない。コウタとカイトが何とも言えない顔をしていたからだ。あえて言葉にするとしたら、「アンタ誰だ」といった具合である。

 

その顔を見て察したミツザネが、苦笑を浮かべた。

 

「きっと兄さんのジャージ姿が凄く珍しかったんだよ」

 

ミツザネの言う通り、タカトラは珍しくジャージ姿に整えていた髪を崩している。普段からスーツを愛用しているので、ジャージ姿がというわけではなくスーツ以外の格好が新鮮に映ってしまうのだ。

 

さらには右手にはビールの空き缶に人数分のコンビニ弁当が入ったビニール袋が下げられており、考えていた事はコウタ達と同じだったらしい。

 

その袋を見たミツザネが不満そうな顔をした。

 

「兄さん。またコンビニ弁当………」

 

「今日は仕方ないだろう」

 

「いつもは自炊してる、みたいに言わないでよ。知ってるんだよ? 食堂のおばちゃんにも栄養偏っているって指摘されてるって」

 

「くっ、おばちゃんめ……余計な事を余計な奴に………」

 

そう唸りつつ各自にコンビニ弁当を渡して、これから作成会議のはずなのにビールを手にするタカトラ。

 

「って、明日の事について話すんじゃないのかよ?」

 

「いいだろう。1本くらい」

 

真面目そうな堅物に見えるタカトラだがその実、酒豪だったりする。26歳という若さで天下の大企業ユグドラシル・コーポレーションで重役を務めているのだから、のしかかっている責任と負担は半端ではない。

 

酒でも飲んでなければやっていられない、というのが本人談だ。

 

そして、その鬱憤晴らしに巻き込まれるのがこの3人だ。

 

タカトラは3人に弁当を配ってから1枚の紙を広げる。

 

「これは……音ノ木坂学院と周辺の地図だね」

 

「そうだ。その黒く塗り潰されている所にライダー部隊を配置する予定だ」

 

地図に音ノ木坂学院の四方が黒く塗り潰されており、見ただけでも相当な数の人員が導入されるようだ。

 

しかし、その数はあまりにも多過ぎる。さらにコウタ達4人も加わるのだから、過剰戦力にも思えた。

 

「多過ぎやしないか? 必ず来るとも限らんのだろう?」

 

カイトも同意見だったらしく、その点を指摘する。が、タカトラは神妙な顔付きでビールを一飲みした。

 

「これは一般には公開されていない情報なのだが、元都議会議員の志木が保釈され、行方不明となった」

 

その言葉に3人は瞠目した。志木と言えば転入初日にインベスで学校を襲撃するという大事件を巻き起こし、コウタ達の活躍で政界を追い出された男の名だ。

 

「保釈って……どうして?」

 

「通常の倍以上の保釈金を払い、さっさと刑務所を出た後にな」

 

結局、世の中金かよ。コウタはぼやきつつハンバーグ弁当をつつく。

 

「という事は、明後日のオープンキャンパスを……」

 

「間違いなく襲撃してくるだろうな。先日捕まえた錠前ディーラーから、志木が大量のロックシードを購入したという情報が入った」

 

ミツザネに頷き、タカトラが言う。志木のような輩を以前にも相手をした事があるが、あの手の人間は自分を潰してくれた相手を凄まじく恨む。

 

プライドを傷付けたチーム鎧武と音ノ木坂学院に対して激しい怒りを持ち、簡単に復讐鬼となり果てるだろう。

 

「待て。その言い方だと、志木は再び数で押してくるように聞こえるぞ。ならば、オレ達で話し合う事などないはずだ」

 

「それがそうともいかんのだ」

 

カイトの指摘に答え、タカトラは2枚の写真をテーブル上に並べた。

 

写っているのはコウタ達と同じくらいの少年だ。片方は茶髪に眼鏡という爽やかそうな少年だが、その内心は何を考えているのか判別しにくい。もう片方は黒髪を逆立てておりワイルドという4文字を現したような少年である。

 

その2人は、ここにいる全員が知る人物だ。

 

「こいつら……城之内ヒデヤスに初瀬リョウジじゃねぇか!」

 

城之内ヒデヤス。コウタの中学校の同級生であり元ビートライダー、チームインヴィットのリーダーをしていた男だ。もう片方はヒデヤスの親友、チームワイルドのリーダー初瀬リョウジ。

 

2人は地元の沢芽市にいるはずだが、上京してきたらしい。

 

「感動の再会、というわけではなさそうだな」

 

カイトが神妙そうに腕を組む。

 

「志木との直接な関係は認められないが………」

 

「初瀬さんはともかく、城之内さんは間違いなく志木と繋がってますね。そう考えた方が妥当だ」

 

ミツザネも神妙そうに顔をしかめる。城之内ヒデヤスは狡猾な男で、非情になる時は非情で目的のためなら手段は選ばないのだ。

 

「もし城之内が今回の襲撃に参加するならば、当然初瀬も加わるだろう」

 

カイトは初瀬の写真を手に取り呟く。

 

4人がここまで城之内と初瀬を警戒する理由。それはこの2人も独自に戦極ドライバーを所持しており、アーマードライダーへと変身するからである。さらに2人はそれぞれ厄介な強みがある。

 

城之内は知力が高くかつては『策士』と周りから呼ばれるほど作戦を考え実行してきた。

 

初瀬はその野生を思わせる戦闘センスを持っており、その力はカイト以上と思われる。その証拠に、かつて鎧武と龍玄を同時に相手して互角に立ち回るほどだ。

 

「厄介な2人が出てきたな……」

 

2人とは直接会った事のないタカトラでさえ、今の話しだけで要注意人物と認定したようだ。悩むように頭をおさえる。

 

「だが、逆に言えば注意すべきはこの2人であり、残りは烏合の衆ということになる」

 

「そうです。目標が絞れたと前向きに考えましょう」

 

カイトとミツザネは励ますように言うが、それはある意味で当たっている。残りはそこら辺のビートライダーズで、ユグドラシル社員でも簡単に対処出来るだろう。

 

「そうだな。ならば俺達の警戒すべきはこの2人という事にしよう。そこで、具体的な作戦だが………」

 

「城之内さんが何を考えているのかさっぱりだから、虱潰しに結局するしかないよね」

 

タカトラの言葉に難しい顔をするミツザネ。わかっているのは、城之内という男は素直に真正面からぶつかって来る事はないという言葉だ。

 

「そこで、だ。3人はこのユグドラシル部隊に混じって周辺を担当。残りの1人は中でもしもの場合に待機というのはどうだ?」

 

タカトラの言葉に3人は異を唱えなかった。相手の出方がわからない以上あれやこれやと策を用意するより、いつでも動けるような配置にしておくのが一番楽だ。

 

「中は誰が務める?」

 

カイトが一番の問題を上げると、即座に首を横に振ったのはタカトラだ。

 

「すまないが、俺はユグドラシル部隊の指揮をしなければならん」

 

「オレはμ'sと関わるのはオープンキャンパス以降と言ったからには、近くにいるのは不自然だ」

 

となると、一番μ'sと関わったコウタかミツザネという事になるが。

 

ミツザネはコウタを見やった。

 

「コウタさん、どうですか?」

 

「俺?」

 

指名されたコウタは目を丸くした。

 

「はい。今回、校内で必要なのは派手に戦わない事です。僕は銃を使うからどうしても目立ってしまう……対して鎧武なら基本接近戦だから、よほどの事がない限り目立たないと思うんです」

 

「うーん、正直半分も理解してねぇけど……」

 

「要するに、この2人を学校内で発見したら誰にも見つからないようにぶちのめして下さい、という事です」

 

「なるほど、わかりやすいな。わかったぜ、ミッチ!」

 

あっさりと引き受けたコウタに、一同は苦笑した。初瀬も直感で生きるタイプだが、コウタもほとんど変わりはしないのかもしれない。

 

けどなぁ、とコウタは唸りながらごはんを胃の中にかき込んだ。

 

音ノ木坂学院は廃校の危機に瀕しており、どうにか存続させようと教師も生徒達も奮闘している。

 

なのに、どうしようもない理不尽な理由で潰そうとしている輩がいる事に、コウタは怒りを禁じえなかった。カイトに言わせれば弱者は滅びるだけというのかもしれないが、そんな簡単な理屈で終わらせていいはずがない話しだ。

 

「…………許さねぇ。絶対に………」

 

汗水垂らして頑張って今を生きて(戦って)いる人々を嘲笑い、邪魔しよとする者は。

 

コウタのつぶやきは誰にも聞かれる事なく、戦を控える未来へと霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの………本当に大丈夫なのかなぁ」

 

心配そうに腕を組みながら、ミツザネと肩を並べてコウタが言う。

 

昨日発案した作戦は、それこそ想定通りに行けば万事解決。無問題だ。しかし、そう簡単に事が運ばないのが現実というものである。

 

「それはまぁ………ですが、今回はコレで行くしかありません。もっと志木の件が早くわかっていれば対策の立てようがあったのですが」

 

本当に志木の件が発覚したのは、昨日の事だという。会議とカイトの戦極ドライバーを取りに行ったユグドラシルで知らされたらしく、タカトラ自身も慌てたとの話しだ。

 

「明日の戦い。一番当事者である穂乃果達にも秘密なんだろ? せめて一言くらい…………」

 

「気持ちはわかりますけど、そんな事を言えばオープンキャパスは中止です。穂乃果さん達がそれを聞いて戦おうなんて言うはずないでしょう」

 

ミツザネの言葉にぐぅの音も出ないコウタ。そんな彼に、後輩は苦笑を浮かべる。

 

「まぁ、今はステージです。どうせコウタさんのお頭じゃ、何考えたって良い案は浮かばないんですし。兄さんに任せっきりという訳にはいきません。早く行きましょう」

 

「そうだな…………って、ソレは俺がバカって事かよ!? ミッチ、ここ最近毒吐き過ぎだろ!」

 

そんな小言を交わしながら2人が校庭に出ると、ある意味で異色な光景が広がっていた。

 

黒いアーマードライダー達はえっせえっせと鉄骨など運び、インベスが設置する小道具にソイヤソイヤとペンキを塗りたくってステージを建設していたのだ。

 

「………黒影部隊、こんな風に使っていいのか?」

 

「さぁ?」

 

黒いアーマードライダーの名は黒影。テストプレイヤーでもある初瀬リョウジが初めて変身した際にそう名乗ったのだが、それが定着したらしくユグドラシル本社でも使われるようになった名前である。

 

基本的にインベス事件以外では変身するのは禁止されているのだが、指揮する立場のタカトラがアーマードライダー斬月に変身しているところを見ると、一番偉いのは上司という事らしい。

 

「むっ……2人とも。練習はどうした?」

 

コウタとミツザネが近付いてきたのを気配で察したのか、斬月はこちらを顧みた。普段なら威厳に満ちているはずのアーマードライダーの頭には『監督』という2文字のハチマキがあるせいでシュール感が倍増しており、思わず2人は笑ってしまった。

 

「兄さん、アーマードライダーをステージ建築に使っていいの?」

 

「問題ない、俺が法律だ。それにアンプなどの音響設備を貸し出しにホームページでの告知も行う……ユグドラシルは全てのスクールアイドルを全面的に応援します。が、売りの1つだからな」

 

世界に名を轟かせる大企業ユグドラシルが、たかだかと言っては失礼かもしれないが学生の部活動にそこまで支援していいのだろうか。

 

「だいたい完成してきましたね。コウタさん、発案者としてはどうですか?」

 

ミツザネがステージを見渡しながらコウタに尋ねる。μ'sをフォローすると決めたからには、コウタ達は役割を分担する事にした。

 

カイトは踊りなどのパフォーマンスを。

 

ミツザネは作詞作曲などのミュージックを。

 

コウタは衣装、演出などのステージを。

 

元々、チーム鎧武の作詞作曲を担当していたのはミツザネで、ステージ関連や踊りの振り付けを考えていたのはコウタだった。チームバロンだったカイトはわからないが、自ら踊りの指導を買って出たという事は彼が担当していたのかもしれない。

 

何分、アイドルステージの構想はコウタも初めてだったので、にこや花陽どいったアイドルオタクかつ女の子の意見を組み込んだ物となった。

 

昼間に行われるという事で照明などの機材は使わない代わりに、ステージの周りを風船で囲って華やかさを演出。さらにはオープンキャンパスといずれ会う先輩達という事でステージの高さはかなり低い。

 

バックにはμ'sの最終目的でもあるラブライブ!のロゴと、協力してくれたユグドラシルのロゴが。どちらも景観を壊さないくらいにポップなデザインで、むしろ可愛さを後押ししているくらいだ。

 

「あぁ、俺としてはばっちりかな。にこと花陽が何て言うかだけど………」

 

コウタが完成度に満足げに頷いたその時、おぉーという歓声が上がった。

 

振り向くと、そこには制服に着替え終わったμ'sの面々が感嘆したように立っていた。

 

「凄ーい。ここまで大掛かりなんだ……」

 

「こ、こんな所で歌うのですか……」

 

「大丈夫だよ、海未ちゃん!」

 

それぞれ喜び(?)を口にする穂乃果、海未、ことりの3人。

 

コウタはにこと花陽を見やった。

 

「どうだ? 出来栄えは。俺はいいと思うんだけど」

 

「いや、というか……」

 

「あまりの完成度の高さに驚嘆というか……」

 

ここまでの物とは思っていたのか、あまりの凄まじさに尻込みしているようだ。

 

それはにこと花陽だけではなく他のメンバーも同じようで、あの希でさえあんぐりと口を開けていた。

 

「あ、あの……こんな大掛かりにしなくても………ウチ、予算が…………」

 

生徒会長としてこれらにかかる費用を考えてしまい、絵里が顔を青くする。

 

しかし、斬月は心配するなと首を横に振る。

 

「学校側にはすでに許可はとってある。代金も請求はしない。代わりにユグドラシルのCMなどの宣伝協力を依頼するがな」

 

「CMって………テレビに出演出来るって事!?」

 

にこが目を輝かせて斬月に詰め寄る。アイドル好きでアイドルになりたいと思っていたにこにとって、テレビ出演は夢の1つなのだろう。

 

「残念ながら地上波ではない。ネット動画での出演だ」

 

「そ、それでも凄いにゃー」

 

ステージ設備などを無償でしてくれて、その請求はCM出演という素晴らしいモノ。どう転んでも音ノ木坂学院を宣伝出来る良いチャンスだ。

 

「だから、皆さんは安心してライブに集中してください」

 

「うん、絶対に成功させよう!」

 

気合いを入れ直す穂乃果に吊られて、他のメンバー達もテンションが上がっているようだ。

 

それを見てうんうんとコウタかま頷いていると、ふと思い出したようにミツザネが言った。

 

「そういえばカイトさんの姿が見えませんね」

 

「カイトならユグドラシル本社だ。早速修復出来た戦極ドライバーの性能を確かめるらしい」

 

カイトがドライバーを取り戻したのは昨日だ。明日に大きな戦いを控えているのだから、確認は大切だ。肝心な時に戦えませんでした、では話しにならない。

 

「よし、穂乃果。実際にステージに立って動いてくれ。ミッチ、俺達も軽く慣らすぞ」

 

「わかったよー」

 

「わかりました」

 

2人は頷き、最終調整に入るμ'sとチーム鎧武。

 

音ノ木坂学院の命運を分ける日であると同時に、アーマードライダーと生徒達にとって記憶に残る大きな事件が起こる事は、現時点で知る者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

晴天の下。

 

コウタは緊張した顔で、目の前で準備体操をしている9人の少女達を見つめる。

 

廃校の危機に貧している音ノ木坂学院にとって、入学者を募るチャンスである今日のオープンキャンには、学校全体が取り組んでいるようだった。

 

「いよいよ、か……」

 

「そうだね」

 

コウタの呟きに重々しくうなずき返したのは穂乃果だ。いつも天真爛漫な穂乃果も初めて9人でのライブに緊張が隠せない様子で、表情が固い。

 

それは穂乃果だけでなくその他のメンバーも同じようだ。特に小心者の海未と花陽はガタガタと震えている。緊張というより恐怖している感じだ。

 

「ま、まぁ仕方がないわよね。こんだけ大掛かりなライブ初めてなんでししょうし……」

 

「そう言うにこっちこそ震えてるやん」

 

3年生のにこがカタカタを震え、揺れない胸を張る。それに対して苦笑するのは揺れる胸をお持ちの希だ。これが胸囲の差とでも言うべきか。

 

「緊張するのは誰もが同じよ。けど、私達はしっかり練習してきた。短い間だったけどコーチも付いてくれた」

 

緊張で押され気味な皆に鼓舞するように、絵里が言った。

 

「だから大丈夫。コウタもミッチも大丈夫って言ってくれたから、自信を持って行きましょう!」

 

「……そうね。もうやるしかないんだし。今から怖気付いたって何にもならないもんね」

 

「そうだにゃ! かよちんも覚悟決めて行くよ!」

 

「う、うん……!」

 

その鼓舞に頷いた真姫と凛も、震えている花陽の背中を押した。

 

一同の士気が上がっているところで、ことりがふとコウタを見やった。

 

「ミッチ達は来れないのかな?」

 

「えっ? あぁ……急に男子の見学者が来ちまったからな。そっちの方に走ってるよ」

 

一瞬だけぎくりと肩を震わせたが、何とか誤魔化せたとは思う。

 

男子の見学者の対応にミツザネとカイトは追われている。彼女達にはそう説明してある。

 

実際は来るであろう志木の襲撃に備えて周囲の警戒に当たっているのだが、それを学校側に話す事は出来ない。話せばオープンキャンパスは即中止となり、μ'sのライブも出来なくなる。

 

なので、学校側には悟られずに事を過ごす。つまり、襲撃を学校側などに知られる事なく終わらせるというものだった。

 

人名優先は当然だが、襲撃などを警戒してオープンキャンパスを中止していたら際限がない。それも含めて潰そうとしている輩の望んだ通りになってしまう。

 

その方法は音ノ木坂学院に限らずスクールアイドルがいる学校で行われている事だ。戦いの可能性があると知ってそれでも行事を中止にしない経営者はまともではない。

 

「さて、俺はちと……」

 

「どこに行くのです?」

 

踵を返したコウタに海未が言葉を投げてくる。

 

「厠」

 

「あっ……ご、ごめんなさい」

 

顔を赤くする海未に苦笑して、コウタはステージの簡易控え室から出る。

 

ステージ前には開始10分前にもなってきたからか、多くの観客が集まっていた。

 

「こんだけ多かったら見つけにくいかもしれないな」

 

今回の懸念事項は襲撃してくるインベスのみではない。

 

かつてのコウタ達の同郷。策士・城之内ヒデアキと野獣・初瀬リョウジが襲撃に加わる可能性があるのだ。

 

策士や野獣というのは自称ではなく、勝手に付いた異名だ。実際、2人を表すのに適した言葉はないだろう。

 

その厄介な2人が音ノ木坂学院を襲撃に加担している可能性がある。列記とした犯罪ではあるが、そもそも荒くれ者の多いビートライダーズに犯罪を恐るという概念はない。昔で言う暴走族などに当てはまるからだ。

 

大勢の中学生や保護者が集まってくる中、城之内と初瀬を見逃すまいと観察するコウタ。

 

その時、ふとある2人組と目が合った。1人は穂乃果の家へ遊びに行った時に紹介された穂乃果の妹、雪穂だ。もう1人は初対面だがこちらの事を知っているのか、少し感動したように頭を下げてきた。

 

ライブ間近なので近寄る事は出来ないが、コウタは手を振って答える。

 

その直後、強い視線を感じた。敵意と殺気にも似た獲物を狩る野獣のような闘志に満ちた視線は、雪穂達の背後から向けられていた。

 

黒い影のように錯覚するが、そこに立っていたのは黒髪をワイルドに逆立てている黒いジャケットを着込んだ少年だった。

 

その存在に気付いた時、少年は「やっと気付いたか」と口を動かす。

 

コウタは目を細めて、僅かに視線だけを動かす。それだけで意思は通じたらしく、少年は踵を返して動き出す。

 

コウタは一度、後ろのステージを見やる。簡素ではあるがにこと花陽とで考えた、今のμ'sにとって最高のステージだ。

 

今日の主役はコウタ達アーマードライダーではなく、μ's達音ノ木坂学院だ。

 

「ここからは、お前達のステージだ」

 

小さく呟いたコウタは、ステージから背を向けて戦場へ行く。

 

コウタは歩きながら右耳に装着した小型イヤホンマイクを使い、全アーマードライダーに呼びかけた。

 

「こちら鎧武。初瀬リョウジを確認した」

 

『こちら斬月。馬鹿な……これだけの包囲網をどうやって……』

 

『初瀬リョウジは野獣であり予測が付かない行動をする。音ノ木坂学院の敷地内に穴を掘って潜伏していた、という馬鹿げた行動をしてもおかしくはない』

 

アーマードライダー部隊を指揮するタカトラの呻きに、カイトが答える。そしてそれは冗談ではなく本当にありえる話しだから、初瀬の意外性は厄介なのだ。

 

「けど、初瀬がいるって事は城之内もいるだろ。初瀬は俺が力ずくで抑えるから、そっちはよろし……」

 

『割り込み失礼します! こちら観測班より入電。ヘルヘイムの森にてインベスの大軍を確認。音ノ木坂学院の座標まで距離500!』

 

ミツザネの言葉に、イヤホンから息を飲む声が聞こえる。

 

大量のインベスが目標地点を襲う際、現実世界で進軍すればたちまちユグドラシルに感知される。それを回避する方法として、インベスの世界であるヘルヘイムの森を仲介して来るのだ。

 

それを思い至ったのはミツザネであり、ならば現実世界ではなくヘルヘイムの森で戦えば音ノ木坂学院に被害は出ないという算段だ。

 

『来たか……結界班! 準備はいいな? 反転結界、始動!』

 

その瞬間、空がほんの一瞬だけ変わった。晴天だったはずの空に、僅かに光が走る。

 

反転結界。四方にユグドラシルで開発した特殊な支柱を立て、その範囲内のみを現実世界とヘルヘイムの森を反転させる装置だ。

 

これらは世間に公害されている情報で、それがあるという事はアーマードライダーとインベスが戦闘をしている証であり、手を出せば重罪に課せられるのだ。

 

音ノ木坂学院から離れた場所で展開すれば、音ノ木坂学院とは無関係で戦闘が行える。

 

だから、残された問題は初瀬と城之内のみだ。

 

「城之内はこっちのユグドラシル社員に任せるとして……俺は目の前のこいつを潰す」

 

「おいおい、偉く強気だなぁ侍。1人で勝てる気かよ?」

 

コウタと初瀬が行き着いた場所は、今は使われていない焼却炉があるゴミ集積場だ。オープンキャンパスの間は見学者は立ち入りを禁止されており、一般生徒も訪れはしない。

 

ましてや、今はμ'sのライブという引きつけてくれているモノがある。

 

「大見得を張ったんだ。がっかりさせてくれるなよ、侍」

 

「侍っていうのやめろよ。獣風情が」

 

互いに威嚇しながら、戦極ドライバーを取り出し腰に装着した。

 

コウタが構えるのは当然、使い慣れているオレンジロックシードだ。

 

対して初瀬は一般的にも配布されているマツボックリロックシードである。

 

「安心したぜ。お前の愛用がマツボックリのままで」

 

マツボックリロックシードはランクCの一般的に使われているロックシードだ。音ノ木坂学院も今回の件から配布されたのはマツボックリロックシードで、ユグドラシルのアーマードライダー部隊も使っているのはソレだ。

 

つまり、コウタがこれから相手をするのはアーマードライダー部隊と同じアーマードライダー黒影なのだ。

 

アーマードライダー自身の能力を考えれば、ランクAのオレンジロックシードを使っている鎧武の方が圧倒的に有利である。

 

変身するのが、初瀬でなければ。

 

「あぁ、一応全部試したんだよ。チーム鎧武にバロンのやつ………けど、やっぱしっくり来るのは相棒(こいつ)だけでなァ」

 

ぎらりと、初瀬の瞳がコウタを捉える。

 

その性能差でさえ、初瀬は持ち前の戦闘センスで埋めてしまう。その時のテンションで戦うスタイルは野生の本能とも言うべきもので、とてもコウタには真似出来そうにはなかった。

 

「さぁ、始めようぜ。滅茶苦茶にしてやるからよ………変身」

 

「させねぇよ、絶対に。変身!」

 

 

『オレンジ!』

 

 

『マツボックリ!』

 

 

同時にロックシードを開錠し、2人の頭上のクラックが裂けてアーマーパーツが出現する。

 

コウタはいつと同じように天へロックシードを掲げ、勢いよく戦極ドライバーのドライブベイにセットする。対して初瀬は気だるげそうにドライブベイにセットし、スライドシャックルを差し込む。

 

 

『ロック・オン』

 

 

音声と同時に、法螺貝の待機音が高らかに鳴り響く。同時にコウタと初瀬はカッティングブレードをスラッシュしてキャストパットを展開した。

 

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道オンステージ!!』

 

 

『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃インザシャドゥ!!』

 

 

アーマーパーツを頭に被り、互いに人間から鎧武者へと変身する。互いに見慣れた姿ではあるが、こうしてタイマンで戦うのは初めてだ。

 

変身を終えたその時、ステージの方から歓声が沸き上がる。アーマードライダーとなった事で強化されたコウタの聴覚に、別の戦いを始める仲間の声が聞こえる。

 

「みなさん、こんにちわ! 私達は音ノ木坂学園スクールアイドル、μ'sです!」

 

穂乃果の声がが若干震えている。直接顔が見えなくても緊張しているのはすぐにわかり、自然とコウタの頬が緩む。

 

当たり前だ。どれだけ元気で、おっちょこちょいでドジだとしても、穂乃果は女の子でダンスを始めて間もないのだ。

 

「私達は、この音ノ木坂学園が大好きです! この学校だから、このメンバーと出会い、この9人…………いいえ、一緒に頑張ってきてくれた人達とでμ'sになれたんだと思います!」

 

けれども、その言葉には一遍の偽りはない。彼女たち全員の本音だ。そこに自分達も含まれている、という事にコウタの胸は自然と熱くなった。

 

「これからやる曲は、μ'sになれて初めて歌う曲です…………私達の、スタートの曲です!」

 

μ'sと、鎧武が出会って初めての曲。

 

「聞いて下さい………”僕らのLIVE 君とのLIFE”!」

 

メンバー全員の声とともに、曲が始まった。出来れば間近で見たかったが、そうも言っていられない。

 

今するべき事は、彼女たちが安心して戦える(踊れる)ように、目の前の敵と戦う事だ。

 

「あっちも始まったようだな。まぁ俺にはどうでもいい事だけどな」

 

μ’sのライブ曲に反応して、初瀬が顔をあげる。しかしそn態度は本当に興味がないようだ。

 

「あいつらのステージがLIVE(踊り)なら、俺のステージはLIFE(戦い)だ!」

 

コウタは………アーマードライダー鎧武は大橙丸を構え、高らかに告げた。

 

「行くぜ!」

 

「来いよ、蜜柑侍!」

 

それを合図にするかのように、鎧武が駆け出す。

 

迎え撃とうとするアーマードライダー黒影が長槍、影松を振り上げる。

 

刀と槍の刃がぶつかり、火花が散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くから迫ってくるインベスの大軍を肉眼で確認したカイトは、獰猛そうな笑みを浮かべてバナナロックシードを構えた。

 

「変身」

 

 

『バナナ!』

 

 

頭上にアーマーパーツが生成され、カイトはバナナロックシードのスライドシャックルに指をひっかけて回転させて、ドライブベイにセットした。

 

 

『ロック・オン』

 

 

洋風のファンファーレが鳴り響き、カッティングブレードをスラッシュする。

 

 

『カモン! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』

 

 

アーマードライダーバロンへ変身を終え、バナスピアーを構えてインベスに告げる。

 

「さぁ、見せてやろう。オレの戦い方(パフォーマンス)をな!」

 

バロンが大軍へと突っ込むのを皮切りに、後ろに控えていた黒影部隊も駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

 

『ハイィーッ! ブドウアームズ! 龍砲、ハッ、ハッ、ハァッ!!』

 

 

アーマードライダー龍玄へと変身したミツザネは、ブドウ龍砲を構える。その背後では同じように黒影部隊が花器を構えて、迫り来るインベス達を待ち構えていた。

 

進軍してくるインベスの様はまさしく戦に出てくる足軽兵のようで、その中を龍玄は見回す。

 

「………城之内さんの姿はない、か」

 

目標の影が見えない事にミツザネは安心半分、不安半分な息を吐く。

 

正直に言うと、ミツザネは城之内とはあまり戦いたくはない。それは人情などから来るものではなく、唯単に苦手なだけだ。ミツザネの考えている作戦を読んだ上で、さらに利用して展開してくるのだからミツザネにとって厄介な事この上なかった。

 

策士としては、城之内はミツザネよりも上だ。その事に悔しいと思いつつも、同時にその知略に憧れも抱いているのも確かだ。

 

しかし、だからと言って今回の件に参加した事については認めるわけにはいかない。

 

「世界中の人々がコウタさんや穂乃果さんみたいに単純バカばっかりなら……きっとこんな事にならないで済んだんだろうな」

 

本当にそうだったら、どれだけ楽だっただろうか。

 

その時、目の前で声が上がる。少し物思いに耽り過ぎていたようだ。

 

「さっ、お仕事お仕事。始めましょう。僕達のお仕事(ミュージッ)を」

 

バカにしながらも、やはり自分はコウタさんを尊敬している。

 

そんな気恥しい妄想に苦笑しながら、龍玄はブドウ龍砲の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやぁっ!」

 

タカトラことアーマードライダー斬月は無双セイバーを横薙ぎにしてインベスを斬り捨て、黒影部隊へ叫ぶ。

 

「拠点から離れ過ぎるなよ! 城之内の影も見逃すな!」

 

「おう!」

 

鼓舞するような返事に士気は高まる。インベス戦では悪くないコンディションだ。

 

「観測班。そちらはどうだ?」

 

『こちら音ノ木坂学院前。城之内ヒデアキの姿は見当たりません。来場者も女子中学生と保護者のみです』

 

『いやー、ウチの娘も今年中学生になったばかりでなぁ。いずれこうやって学校を選ぶのかぁ』

 

きっちりと仕事をこなす若手と、しみじみと干渉に浸っているベテランの反応に斬月は呆れたように肩を落とした。

 

「楽観するのは構わないが、城之内を見逃したらボーナスはなしだぞ」

 

『おっと、そいつはいけねぇ。俺の目が黒い内は見逃しやしねぇぜ』

 

「頼もしい事だ」

 

そう返事をして、斬月は飛びかかってきたインベスを斬り落とす。

 

「城之内はミツザネか九紋の所か……それともまだ来ていないだけなのか」

 

嫌な予感が拭えない。だが、嫌な予感がするのはこの仕事ではいつもの事だ。

 

今斬月に出来る事は、戦い抜く事だけ。

 

「仕事をする。それだけだ!」

 

無双セイバーを振り上げ、斬月は己の正義のためにヘルヘイムの森を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大橙丸と影松が幾度なくぶつかり火花が散る。

 

「らあっ!」

 

「むぅん!」

同時に気合いの入った一撃が放たれ、刃がぶつかった際に生じた衝撃で鎧武と黒影は吹き飛んだ。

 

鎧武は衝撃を殺しきれずに地面を転がり、黒影は後ずさりするも体勢を崩してはいない。細い点でも力の差が出てしまい、鎧武は悪態をつく。

 

「バカ力は健在かよ」

 

「そっちこそ。また、腕上げたんじゃねぇの」

 

大橙丸を地面に突き立てて立ち上がる鎧武に、黒影は楽しそうに言った。

 

「お前らがビートライダーズ辞めてから、つまんなかったぜ? 残ったのはカスばかり……まぁ俺はダンスよりもインベスゲームを楽しみたい派だったから、奴らからしたらただの暴れん坊でしかなかったんだろうけどな」

 

「…………だから、音ノ木坂学院を潰そうってか? 自分が楽しいから、そんな下らない理由でかよ!?」

 

咆哮しながら両手で大橙丸を握り、鎧武は黒影に斬りかかる。が、怒りで熱くなった攻撃は単調な物となり、黒影は難なく避ける。

 

「すぐに熱くなる性格は変わってねぇな」

 

旧友に再開したような口ぶりで、勢いのあまり地面に転ぶ鎧武を見る黒影は、影松を改めて構えると足を踏み出す。

 

追撃してくるような突きを、鎧武は倒れた体勢のまま大橙丸で影松をいなし、ブレイクダンスの要領で立ち上がった。予想外の動きで体勢を立て直したからか黒影の動きが鈍り、その隙に大橙丸で3回斬りつけた。

 

「うおっ!」

 

アーマー部を斬りつけれ火花が散り、黒影は後ず去った。しかし、すぐに体勢を立て直すと楽しげに片手で影松を振り回す。

 

「やるじゃねぇか」

 

鎧武も今のが決定打になるとは思っていない。いつでも動けるように腰を落として、大橙丸を両手で構える。

 

そんな侍に、野獣は言った。

 

「お前、その腰から下げてるモンは飾りか?」

 

本来ならば大橙丸と無双セイバーを使った二刀流がオレンジアームズの戦闘スタイルだ。連結させた双刃刀にするでもなく大橙丸を振り回すのは、オレンジアームズとしての能力を満足に活用していない事になる。

 

しかし、これにはこれで意味はあるのだ。

 

「まっ、全力出さないで勝てないなら、お前の器ってのはその程度って事だけどなァ!」

 

影松を振り回し、黒影が吼える。身体ごと捻って横に薙ってくる一撃。しかし、鎧武はその攻撃を大橙丸を僅かに動かすだけで受け止める。

 

「ぬっ………!?」

 

「だぁぁぁっ!」

 

力一杯に大橙丸を振るい影松を弾き、鎧武は黒影の腹部に蹴りを入れる。

 

そこではっきりと、黒影が後ず去って踞った。

 

初瀬の黒影は、本人のバカ力と相まって相当な衝撃を乗せてくる。その衝撃は受け流すという段階を超え、受け止めれば防御を崩され隙を晒す事になる。避けるのは簡単だが、それでは攻撃に転じる事が出来ない。

 

ならば、勝つためにはそれ以上の力を持ってして耐え、反撃するしかない。そのための両手持ちだ。

 

「……っつー。ムカつくぜ、やっぱテメェムカつくぜ。最高によォ!!」

 

そこで初めて、黒影から楽しそうな雰囲気が消えて激昂した。

 

バンッ、と地面を叩いた衝撃だけで黒影の身体が起き上がり、さらにはその身体を宙へ上げる。

 

そのまま影松を振り下ろして来るが、先程みたいな余裕のあった攻撃ではなく単調な一撃は、鎧武が軽く身を逸らしただけで外れた。あまつさえ、がら空きになった身体に鎧武の拳が突き刺さる。

 

宙に浮いていた時に、突然の横からの衝撃。防御する事も避ける事も出来ずに黒影の身体が吹き飛んだ。

 

「ぐっ……クソがァァァァァッ!!」

 

黒影は力強く影松を突き出す。槍を相手にするに当たって一番基本的な攻撃で受ければダメージが一番大きい攻撃でもある。

 

しかし、鎧武は小さく呟く。

 

「カイトの突きよりか怖くねぇな」

 

特に冷静さを欠いた今の黒影の攻撃は、恐怖をまったく感じない。

 

突き出された槍は大橙丸を下から振り上げて弾き、黒影から迫ってきた間合いをさらに詰める。そして、激しい連撃を黒影へと切り刻んだ。

 

「おおおおおおォォォォッ!!」

 

鎧武の雄叫びと共に切り刻む速度は早くなり、トドメと言わんばかりに黒影の胸を蹴りとばす。

 

「ぐっ……て、めぇ…………俺ごとき全力を出すまでもねぇ……そう言いてぇのか!!」

 

手加減されていると勘違いしているくろは、怒りで震えながらカッティングブレードを1回スラッシュする。

 

対して鎧武も落ち着いた仕草で、カッティングブレードを1回スラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! マツボックリ・スカッシュ!!』

 

 

『ソイヤッ! オレンジ・スカッシュ!!』

 

 

それぞれ必殺技を放つ準備が出来て、武器を構える。

 

影松の矛先にエネルギーが集まっていく一方、大橙丸には特別な変化は見られなかった。

 

「テメェ……」

 

黒影はさらに怒りを募らせ、それ以上の言葉を発しない。

 

しばらく、互いに動かない均衡状態が続いた。

 

鎧武も黒影も動けない。どちらかが動けば均衡は崩れるが、それは先に隙を見せる事になる。黒影は攻撃をことごとく回避され、慎重になっているだろう。捌ききれたのは初瀬が怒りで熱くなっていたからなのだが、このままでは冷静になられてしまう。

 

選択を失敗したかな、と鎧武が気を許した瞬間。

 

「ッッラァッ!!」

 

裂帛の気合いと共に黒影が影松で突撃してくる。気を緩めた外務省の反応が、僅かばかり遅い。それこそコンマという単位の差だが、それだけあればライダーの戦いでは絶望的な隙となる。

 

だから、それは鎧武の、コウタが無意識に取った行動だ。

 

「なっ……」

 

黒影が絶句する。それは予想外の行動をする彼からしても奇想天外な行動だったのだ。

 

鎧武は大橙丸を突き出し、その切先を影松の矛先にぶつけたのだ。当然、力の入れ具合の差から簡単に刃は弾かれ、その衝撃で鎧武の身体は吹き飛んだ。

 

「勝っ………!?」

 

黒影の動きが止まった。まるで驚きのあまり思考が停止してしまったようだ。

 

吹き飛んだ鎧武が上手く空中で体勢を整えると、木を蹴って逆に黒影を強襲したのだ。

 

その右足には、オレンジ果汁を思わせるような輝きが集まっていた。

 

「この、やろ………っ!」

 

必殺技を先に放った黒影は、その反動で防御も回避も出来なかった。

 

ロックシードのエネルギーを集めて放つ所謂必殺技は、各アームズによって出現するのような武器によるものだけではない。

 

以前、鎧武が放った無双セイバーにロックシードをセットして行う必殺技に、展開したアーマーパーツを果実モードにしてぶつける破天荒な必殺技。

 

そして、パンチやキックといった単純な攻撃にエネルギーを加えるという必殺技だ。

 

鎧武はそのうちのキック強化の必殺技を選んだのだ。

 

アーマードライダーが繰り出すキック。

 

すなわち。

 

「ライダーキック! セイハァァァァァァッ!!」

 

鎧武がキックの体勢に入るとそこから黒影に向かってオレンジを輪切りにしたようなエネルギー波が出現し、そこを貫くように鎧武はキックを叩き込んだ。

 

「ぐっ、おおおおぉぉぉぉぉ!?」

 

強烈な一撃を叩き込まれた黒影は、火花をち散らしながら派手に吹き飛ぶ。

 

先程とは比べ物にならないほどの衝撃に、黒影は地面に倒れ込みながら悶える。それでも変身が強制解除されないのは、初瀬が痛みを無理矢理堪えているからだろう。

 

鎧武が顔を上げると、丁度ステージの方で歓声が上がった。どうやらライブは無事に終了したようだ。

 

周りを見回すも大橙丸の姿はなく、代わりに無双セイバーを抜き黒影の首筋に突き付けた。

 

「俺達の勝ちだぜ」

 

「…………くそっ。中々やるじゃねぇか、葛葉。正直ここまで出来る奴だったなんてな」

 

負けた事を認めたなか、敵意のない言葉で黒影は言う。

 

「答えろ。何で音ノ木坂学院を潰そうとするんだ?」

 

「わかってるだろ。俺はただ暴れる場が欲しいだけ……潰したいと思っているのは別にいる」

 

「それは志木って奴か?」

 

「さぁな、俺は城之内に誘われただけだ」

 

だろうな、と鎧武は心の中で呟く。初瀬がそこまで大きな目的を持って行動するような男ではない事を、ずっと前から知っている。

 

「しっかし、城之内も変な指示を出すモンだよな」

 

黒影が間髪入れずに言った。

 

「潰したいならμ'sのライブが終わるのを待たずに、さっさと潰しちまえばいいのに。わざわざライブが終わるまで長引かせろなんてよ」

 

「………なん…………だと………………?」

 

その瞬間、鎧武の。コウタの背中から嫌な汗がぶわっと吹き出た。

 

言っている意味がわからない。コウタの思考を支配しているのは、まさしくその言葉だ。

 

そうだ。通信には城之内が侵入してきたという情報はない。μ'sのライブ成功はオープンキャンパスが成功するのとほぼ同義と言ってもいいのだから、それより後に登場しても効果はないはずだ。

 

なのに、まだ現れない理由は。

 

もうすでに、城之内は敷地内にいる。

 

μ'sに賞賛の拍手が送られる。その中に、確かに異なった音が響く。

 

「まさ、か………」

 

鎧武は黒影から離れ、ライブがはっきりと見える場所まで走った。

 

そこに広がっていたのは、歓声がなりやまないでμ's達が笑顔になっている光景のはずだった。

 

しかし、現実は。

 

「いやぁ、素晴らしい素晴らしい。噂以上だよ」

 

突然、観客の中から現れた1人の女子生徒。一見すればそうだが、その滲みでている気配に、鎧武は自身が大きな間違いをしていた事に気付いた。

 

城之内は勝つために手段を選ばない。恥など持ち合わせているはずもないのに。

 

「この先が楽しみだねぇ。もっと大物になる………うん、あのA-RISEとも互角になるんじゃないのかな」

 

そいつは歪な笑みを浮かべて、言った。

 

「そんな君達を潰すのは、もっと楽しいだろうね」

 

「させるかよ……!」

 

鎧武はその言葉に走り出そうとするが、背後からの攻撃で前へと倒れ込んでしまう。

 

「コウタ君!?」

 

「おいおい、変身が解けてない相手に背中を見せる奴がいるかよ」

 

突然現れた鎧武に驚きの声を上げる穂乃果と、後ろから影松を振り回す黒影。

 

顔をあげた黒影は、女子生徒を見てドン引きしたような仕草を見せた。

 

「お前、女装趣味なんかあったのかよ」

 

「初瀬ちゃん、お疲れ様。もう暴れていいよ」

 

短く言って女子生徒に扮した少年、城之内ヒデヤスは3つのロックシードを開錠した。

 

「さぁ、今度は俺達が滅茶苦茶にしてあげるよ」

 

出現した3体のインベスと共に、コウタ達が考えていたシナリオの中でも最悪なルートが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

葛葉コウタが所有するロックシード

 

 

・オレンジ

・パイン

・イチゴ

・スイカ

・マツボックリ

・サクラハリケーン

 

 

 

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

「そんな! 危険があるとわかっていてオープンキャンパスを!?」

 

知られてはいけない相手に知られ、最悪のルートを進む音ノ木坂学院のオーンキャンパス。

 

 

 

「あの猫娘はなんで自ら危険に首を突っ込んでいくのかね」

 

アーマードライダーデュークが音ノ木坂学院を守るために立ち上がる。

 

 

 

「スマートじゃないよねぇ、こういうの!」

 

『ドングリアームズ! ネバーギブアップ!!』

 

 

予期せぬ相手に策を崩され、アーマードライダーグリドンへ変身する城之内。

 

 

 

「ひ、酷い………」

 

「何甘ったれた事言ってんだ? ここは戦乱の世。互いに刃を持った以上、雌雄を決するのは当たり前だろ」

 

倒れる鎧武に悲鳴を漏らす少女たちに戦いの厳しさを突きつける黒影。

 

 

 

 

「あいつらは頂点でいなければならない……! 他を圧倒する、誰も寄せ付けさせないほどの!」

 

「………頂点だかなんだか知らないけど、ならもっとアンタの行動は間違ってるよ」

 

城之内が志木に加担したその理由とは。

 

 

 

「でっ、でかぁーっ!?」

 

さらに乱入してくる巨大インベス!

 

 

彼らが密かに始めてしまった戦い。

 

その結末とは…………。

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

6話:僕らのLIVE 君とのLIFE ~音ノ木坂大合戦の終わり~

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、とりあえずオープンキャンパス編の目途がついたので最初の話しを投稿しました。

アニメでは数分で終わったオープンキャンパスがようやく始まります。あれ、すごく長い………

ここからご都合主義MAXな展開が続きますが、自分が立てたリナリオでは大切な話しなのでお付き合い願います。

彼らがなぜ、元の世界とは異なった平和な世界で禁断の果実を手にして戦うのか…………

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