ラブ鎧武!   作:グラニ

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どれだ小さな欠片であっても

繋がれば希望となる




43話:モザイクカケラ ~希望の欠片~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西木野真姫はずっと何かが喉奥に突っかかっているような感覚が続いていて、正直それの解明に勤しんでいた。

 

何かが気になる。

 

何かが気に入らない。

 

しかし、それが何なのかがわからず、さらに苛立ちを募らせていた。

 

「……………インベスの暴走を止められたら、少しは楽になるかな?」

 

高坂穂乃果が何となく、といった感じで告げる。

 

それが真姫の耳朶を柔らかく打つ。

 

 

—————暴走インベス

 

 

「島のスピーカーを壊して回るにゃ!」

 

星空凛の言葉が脳裏を過る。

 

 

—————スピーカー

 

 

「じゃあ、プロフェッサーがハッキングして、その中継を潰す!」

 

南ことりの毒舌が、心のドアを叩く。

 

 

—————ハッキング

 

 

「ライブをしようよ!」

 

高坂穂乃果が思いついたように叫ぶ。まるで、いつものように突拍子のないように、普段の日常が返ってきたような感覚を覚えた真姫は、目の前のテーブルに置いてあるコップに水を注いで飲もうとした。

 

「プロフェッサー見せてくれたじゃん! 私達のライブを見てたインベス達が落ち着いていく様子を! それにライブをすれば避難している人達も明るくなってくれるだろうし、少しでも希望を…………!」

 

 

瞬間。

 

真姫の中で強い何かが弾けた。

 

普通だったらありえない、絵空事。しかし、すでに世界はその絵空事のような地獄の真っ只中だ。

 

ならば、その突破口も同じ絵空事くらいでなければ切り開けるはずもない。

 

どくん、どくんと鼓動が跳ね上がり、自然と身体から力が抜ける。掴んだコップがすり落ちて床に割れ、一同の目が向いた。

 

真姫の脳裏に、いくつもの情報が錯綜した。

 

 

 

—————焼き壊れたスピーカーが落ちていた

 

 

—————貴女もこの歌の影響を効いているんですね。なのに、それが収まった?

 

 

—————私達が声を掛けたらすぐに収まって…………

 

 

—————私達のライブを見てたインベス達が落ち着いていく様子!

 

 

 

がちり、と頭の奥で歯車がかち合った音がした。

 

それは綺麗に、これ以上にないくらい完璧を示しており、瞳が震える。

 

「真姫ちゃん!?」

 

「…………………………った、わ…………」

 

「えっ?」

 

掠れた声だった為にはっきりとした言葉にならず、小泉花陽が顔を近付けてくる。

 

唾液を飲み込んで喉を潤し、はっきりと言う。

 

「繋がったわ…………!」

 

「何が繋がったんですか?」

 

要領がわからない、といった風に尋ねてくるミツザネに「つまり、こういう事よ」と言いながら立ち上がった。

 

そして、無意識のうちに脳裏に浮かび上がった言葉を叫んだ。

 

「脳細胞が、トップギアよ!」

 

当然、全員にポカンとした表情をされて、羞恥で顔が赤くなって蹲ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

##########

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………で」

 

戦極リョウマが、場違いなほどにキラキラした笑顔を浮かべながら真姫へと詰め寄った。

 

「なんだい? 脳細胞って、トップギアってなんだい?」

 

「もうやめてぇぇ…………」

 

本気で蹲ってしまった真姫に不憫な目を向けながらも、弄りたい本能を抑えてミツザネが尋ねる。

 

「で、繋がったって…………?」

 

「………………この状況の突破口よ」

 

「この状況をどうにか出来るのですか!?」

 

園田海未が驚くのも無理はない。

 

この絶望的な状況は戦いに慣れているミツザネや、兄でもある呉島タカトラですら唸るほど困難なのだ。

 

それが成績がいいからと言ってただの女子高生である真姫が打開策を思い付いたというのだから、ちらりと一瞥してみればタカトラは湊ヨウコといった戦闘部門の面々も顔を顰めている。

 

「…………西木野、その突破口というのは?」

 

「穂乃果の言う通り、ライブをするんです」

 

タカトラの問い掛けに、真姫は即座に答える。

 

一瞬、返答に困った。

 

言い出した穂乃果も穂乃果で、インベスの暴走を止めるライブという事に驚きを隠せないようだった。

 

「………確かに、私は君達にあの動画を見せた」

 

そう告げて、リョウマはもう一度パソコンを操作してスクリーンに動画を見せた。

 

そこに映し出されたのは、数体の初級インベスが少し広い空間に集められており、そのいずれかもが敵意を漲らせて互いを攻撃しあっていた。

 

もはや考察せずともわかる暴走インベスである。

 

そこへ、空間のモニターに映像が映し出される。それはことりのメイド喫茶事件で路上ライブした曲『Wonder Zone』だ。

 

すると睨み合っていたインベス達が次第に落ち着きを取り戻していき、やがて全員が映像の方へ向き直ると楽しむかのように身体を揺らし始めた。曲のリズムに合わせて、踊るμ's達の振りに合わせるように。

「なるほど………」

 

おそらく、ミツザネ達が出ていった後で見せられた映像だろう。正直、何を言っているかわからなかったが、納得したのうに声を漏らす。

 

確かにこの映像の効力が本当ならば、活路となるかもしれない。

 

だが、それには問題がある。

 

「これを見て、その案を出したというのなら正直に言って浅はかだね」

 

「ダメ……なん?」

 

良い考えと思っていたのか、肩を竦めた東條希にリョウマは答える。

 

「この映像に使われているインベス達は偶発的に暴走した個体だ。しかし、今外を闊歩しているインベス達はアネモネによって強制的に暴走させられている奴らだよ」

 

リョウマの言う通り、インベスに設定されている条件が違い過ぎる。今、島で暴れているインベス達ほアネモネによって強制的に暴走させられている。ユグドラシルには当然、そんな技術はないのでこの映像の個体達は自然の暴走インベスのはずだ。

 

自然と起きた暴走と、何かしらの要員で引き寄せられた暴走。

 

どちらが落ち着きやすくて、どちらが落ち着きにくいかなど語るまでもなかった。

 

「せっかく提案してもらって悪いけど………」

 

「いいえ、彼らは私達の歌で止まるわ」

 

しかし、確信をもったように真姫は頑なに譲らない。

 

その様子が珍しくて、思わず絢瀬絵里と矢澤にこは顔を見合わせた。

 

今までの真姫はそれほど積極的に提案するような形ではなく、少し線を置いた場所から見て助力をするような立ち位置にいるのが主だった。

 

この合宿で様々な事が起こったとはいえ、珍しいと思わざる得なかった。

 

「その根拠は? そこまで言うんだ。もちろん、あるんだろう?」

 

「えぇ、もちろんよ」

 

そうリョウマに返した真姫は、希とにこを見やった。

 

「希とにこちゃんはアネモネと出会した時、アキトが変になった事は覚えている?」

 

「もちろん」

 

「忘れる訳ないじゃい」

 

それはミツザネが操り人形として啼臥アキト達の前に現れるすこし前だ。アネモネの発する声でアキトが苦しみ出した。それはまさしく、インベスが暴走を引き起こす前兆のように思えた。

 

「コウタやカイトにも同じ現象が起きた」

 

「う、うん……」

 

「そうだけど……」

 

ことり、花陽が頷くも話しが見えてこない。一同はますます困惑の色を見せるばかりだ。

 

「そして、その症状は私達の声を聞いた事で落ち着いた」

 

「それがインベスにも通用すると?」

 

「何なら試してみましょうか?」

 

そう言って真姫はロックシードを掲げて、ミツザネを見やってくる。それだけで何をするつもりなのか察したミツザネは息をつくと、戦極ドライバーとブドウロックシードを取り出して再びその身をアーマードライダー龍玄へと変える。

 

他の面々もそれで何をするのか気付き、少しだけ距離を置いた。

 

何をするつもりなのか。

 

簡単な事だ。インベスを実際に召喚して、声で暴走を落ち着かせるというのだ。

 

下手をすれば暴走は収まらずに、龍玄の手で倒さなければならなくなる。バディインベスを失うかもしれないというのに、真姫の瞳には迷いがなかった。よほとの自信があるのか、もしくはバディとはいえインベスなどどうでもいいのか。

 

しかし、これでもしも活路となって希望が見出せるというのなら、ミツザネとしては充分に賭けるものがある。

 

ブドウ龍砲を構えて頷くと、真姫も頷いてロックシードを前に掲げる。アンロックリサーサーに触れる指が微かに震えているのを見て、龍玄は細く笑む。

 

それが伝わったのか、真姫はむっとした顔でこちらを見てから深呼吸し、解錠した。

 

真姫の頭上にクラックが縦一文字に開き、そこから初級インベスが飛び出してくる。

 

初級インベスは一瞬だけ「何のご用ですか、お嬢」と言わんばかりに頭を垂れたが、すぐに気配を変える。普段の小人サイズから人間大の大きさとなり、怪しげな気配を纏い始めた。

 

そして。

 

「っ………」

 

「グゥゥ…………!」

 

敵意が滲んだ視線を、真姫へと向けた。

 

そして、龍玄へと向き直り、

 

「やめて!」

 

戦闘態勢に入ろうとしたところで、真姫の呼びかけに身体を止めた。

 

「あなたはそんな事をする子じゃないでしょう? 私の事、わかるわよね?」

 

真姫はロックシードを握り締めて、両手を広げてインベスの前に立つ。

 

「お願い、私の声を聞いて………!」

 

敵意に漲っていた気配が落ち着いていく。しかし、それは完全には消え去らず、まるでインベスの中で2つの感情がぶつかり合っているようだった。

 

「真姫ちゃん! その子の名前を読んであげて!」

 

突然、花陽が叫んだ。

 

「名前はこの世界で一番存在を確立させるのに適した言葉なの! それは呪いでもあるけど、確かにこの世界に縛り付けられる確実で簡単で、強い楔なの!」

 

名前とは、その体を現している。例えば呉島ミツザネという少年は、呉島ミツザネという名があるから呉島ミツザネなのだ。

 

ならばもし、その名前を取ってしまったら、呉島ミツザネはなくなる。呉島ミツザネと呼ばれていた少年が消えるのではなく、()()()()()()()()()()()()のだと言う。

 

小難しくて矛盾していて、よくわからない理論を同じように語ったのは、今も眠りこけっている親友だ。

 

「名前は一番短い呪だよ、真姫ちゃん!」

 

「よくわからないけど……………!」

 

真姫は敵意と愛情の狭間で揺れ動くバディインベスへと手を伸ばす。

 

「私は知ってるわ。あなたはこんなちんけな音楽なんかに負けない、強い子だって………だから、しっかいりさい! アルフ!」

 

少女がそれに名付けた名前は、この世界に縛り付ける名前はアルフ。

 

インベス個々に名前を名付ける風習はないが、そう珍しくはない。大人になるにつれてその傾向はなくなり、統計ではあるが高校生くらいから少なくなっていくそうだ。

 

しかし、今はそれが功を成す。

 

初級インベスの身体を翡翠色の輝きが包み込む。目が眩み視線を外し、しかしそこから飛び上がった影を確かに認めた。

 

「しまっ…………!」

 

咄嗟にブドウ龍砲を向けるが、すでに遅い。

 

それは獅子だ。

 

真姫のインベスがライオンインベスへと進化し、飛び掛かったのだ。

 

だが。

 

「きゃっ!?」

 

それは襲い掛かったというより、伸し掛かったと言ってもいい。大きさはミツザネが知る暴走した個体よりも幾分か小さく、小学生くらいの大きさしかない。

 

真姫に伸し掛かったライオンインベスはすんすんと鼻を動かし、やがて真姫の頬を舐め始めた。

 

「ちょ、えっ、なっ…………!?」

 

「……………あぁ、ライオンって犬科だからね」

 

「そういう問題!?」

 

納得したようなリョウマの呟きににこが突っ込むが、真姫は想像だにしない展開に狼狽えている。

 

そして、それを眺めていてどこかばかばかしく思えてきた龍玄は変身を解いた。ライオンインベス、アルフはまさしく興奮した犬のように真姫へと詰め寄る。それは襲い掛かるというよりも遊んでほしい、という犬ばりばりの行動理念の現れであり、暴走のぼの字も感じられなあった。

 

ヨウコがそれを見て、どこか疲れたように息をつく。

 

「……………まぁ、確かに証明は出来たと言えるでしょうね」

 

「くっ………こんな格好つかないのじゃ…………ってどこ触ってるのよ!?」

 

真姫の悲鳴が上がった瞬間、ガタッ、とリョウマが白衣のポケットから携帯電話を取り出そうとしたのでヨウコが横っ腹を蹴り飛ばし、タカトラは疲れを抜くように息を吐いてから、真姫へ近づいてロックシードのスライドシャックルを閉じた。

 

システムに応じてアルフは寂しそうな仕草をしつつも、クラックへと戻って行った。

 

「………………こ、これでわかったでしょ!?」

 

顔を赤くしながらも真姫が言うと、タカトラは頷く。

 

「なるほど………確率うんぬんは置いておいて、可能性は確かにあるな」

 

この方法が上手くいって、暴走するインベスがいなくなれば残るは黒の菩提樹のみとなる。瀬賀やアネモネといった強力な存在はいるが、アキトの話しならば歩兵部隊であるアーマードライダーグリドンの実力は素人に毛の生えた程度でしかないらしい。

 

現状でそれは、確かに突破口となるだろう。

 

「だったら」

 

「だが、可能性が生まれただけでは突破口とは言えん」

 

希望を瞳に宿す真姫に、腕を組んで厳しい目を向けてタカトラは続けた。

 

「μ'sの声が、歌声がアネモネに対抗出来る力があるとはいえ、相手はたった1人で島全土のインベスを暴走させている。暴走を鎮めるということは、それを上回るという事だ」

 

「私達は9人いるわ!」

 

「数の問題じゃなくて、方法ね」

 

むっとなった真姫に、ヨウコが告げる。

 

「その方法を取るとして、どうやってライブをするのかしら?」

 

ライブとはステージがあって、音響などの設備がってやっと成り立つものだ。今までもμ'sはそうやってライブをやってきた。

 

機材などなくてもライブが出来る、という者もいるがそれは本当の力があるからだ。μ'sは奇蹟の集まりではあるが、今はまだ未熟なアイドルだ。

 

舞台は完璧に揃っていてこそ、やっとその力を発揮出来る。

 

「ここにはライブ用の機材はない。島中に伝えるにはネット中継は必須………さっきことりちゃんが言った事を否定したようにハッキングなんて不可能。これでどうやってライブをするのかしら?」

 

「っ、それは……………」

 

提案が現実的ではない、と指摘されて真姫は口ごもってしまう。確かに現状で上げられるいい方法ではあるが、もはや博打に近い成功確率だ。失敗して当たり前、それも一般人であるμ's(こども)を巻き込むという形をユグドラシル(おとな)が許容出来るはずもなかった。

 

「けど、現状で思いつく打開策の中ではまもとじゃなかな。ここでは無理でも、設備が揃っていればハッキングもライブ中継も出来るしね」

 

「リョウマ!?」

 

「おいおい、拳を握り締めない。現状では限りなく実現は困難だが、路線としては合っている。私は賛成しよう」

 

ヨウコから問い詰められるリョウマは反省の色はなく、淡々と続けた。

 

「タカトラ的には教え子であるμ'sを巻き込む事、成功確率が限りなく低い事。それら諸々があって認められないだろうが、私は現状思いつける策の中で一番合理的だと思うよ?」

 

まぁ、どちらにせよこの場所では何も出来ないけどね、と付け足されてリョウマはミツザネを見やって来た。そこには「君はどうだい?」という意味が込められているような気がして、少しだけ思考する。

 

確かに真姫が提示した策にはいくつもの不安要素がある。確実に、とはいかないのが世の常ではあるが、その策はもはや不安要素しかない。大きな穴に一本の糸が垂れ下がっているような感じだ。

 

だけど。

 

ミツザネにはその糸が、とても力強い輝きを放っているように思えた。

 

「………………瀬賀さんはこの別荘の位置を知っている」

 

瀬賀はこの場所を知っている。ここをこの島での拠点である事を知っている彼ならば、避難先にここを選ぶ、というのは容易に想像出来るだろう。

 

なのに、まったく襲撃の音沙汰がないのは向こうも今は休んでいるからだ。どれほどの超人でも休みなく戦うのは絶対に不可能だ。ロックシードの技術にですらエネルギーという概念があり、漫画のような永久機関というのは存在しないのだから、休憩とは絶対に必要なのだ。

 

「いつ攻め込まれるかわからない恐怖に脅えるより、こっちから攻め込んだ方がいいと思います」

 

まっすぐに兄を見つめて、弟は告げる。

 

「僕達に残されている時間は少ない。だったら……………!」

 

しばらくの沈黙と共に、視線が交差する。

 

やがて。

 

「…………まったく」

 

息をついてタカトラは目を伏せると、柔らかく笑った。

 

「弟や教え子に頼らざる得ない時が来るとはな」

 

「先生…………!」

 

真姫の顔がぱぁっ、と明るくなる。

 

それはこれからどうするか、行動が決まった事を示している。

 

戦場に向かう事になったというのに、μ'sの面々の顔には恐怖はなく、やる気で満ち溢れていた。怖くないのではなく、何も出来ないと思っていた無力さが吹き飛び、助けられるかもしれないという事が何より嬉しいようだ。

 

「すまんが、力を貸してくれ。スクールアイドル、μ's」

 

「……………はい!」

 

タカトラの言葉に、9人が一斉に返事を上げた。巻き込まれる事にまったくの畏怖はない、

 

「………タカトラがそう決めたのなら、文句はないわ」

 

そう言ってヨウコは一言区切り、それでも厳しい目をタカトラへと向けた。

 

「けど、さっきリョウマも言っていたようにここでは何も出来ないわ。どこでやるの?」

 

「一番、最適なのは支部だね。あそこには私のラボもあるし、ハッキングも中継もライブも出来る」

 

ユグドラシル支部は今日の午前中、CM撮影だけでなくPVの撮影までやった場所だ。今思い返してみてもあの技術にはミツザネも舌を巻いたほどで、それを完成させたというのだから驚きである。

 

「そこまで暴走するインベス達からμ'sを護衛しながら突破………なかなかきついわね」

 

「障害はインベスだけではない。瀬賀先生にアネモネ、狗道クガイの存在もある」

 

タカトラの言う通り、敵は3人。強大な壁が3つもある事に、真姫は歯痒そうに天井を見上げた。

 

「コウタ達が目を覚ましてくれれば………」

 

「宛にならない力を頼るのは出来ない。今、この場にいる俺達で何とかしなければならない」

 

その場その場で、最適な人間がいるとは限らない。今ある手札で現状を切り開くしかないのだ。

 

「アネモネさんは僕が止めます」

 

「………ならば瀬賀先生は俺が引き受けよう」

 

ミツザネの気持ちを組んでくれて進言してくれるタカトラだが、問題は残った黒の菩提樹党首である。

 

「私達のインベスで立ち向かう、っていうのは流石に無謀だよね………?」

 

穂乃果が自身のロックシードを眺めながら言う。

 

真姫のインベス暴走を落ち着かせられたという事は、当然μ's達のインベスにも同じ事が出来るという事だ。

 

μ'sは日頃からアイドル狩りの影響で一般よりランクの高いロックシードを持たせてある。チーム鎧武のおかげでまったく巻き込まれる事はなかったが、念には念を、という事でロックシードを持たせてある。

 

それに従い、召喚するインベスの強さも確かに強化されている。

 

が。

 

「確実にインベスは犠牲になりますね。戦力には数えられませんよ」

 

そもそも、アーマードライダーはインベスと戦う戦士だ。善悪を飛び越えて、狗道に対してインベスに立ち向かうのは穂乃果の言う通り無謀でしかない。

 

しかし、現状でぶつけるべきカードがないのも事実だった。

 

「………せめて、戦極ドライバーがもう1つあれば……」

 

愛用のピーチロックシードを握り締めて、悔しげにヨウコが呟く。彼女の力もまたタカトラにひ引けを取らないほどなのだが、戦極ドライバーは他の物と一緒に屑鉄と化してしまった。

 

ヨウコが戦列に加わるだけで、確かに事態は楽になるというのに。

 

わかっていても、もしも、という希望というものに縋ってしまう。

 

それは強弱を超えた所で動く、人間の本能なのかもれない。

 

 

 

 

 

 

「手なら、あるぜ」

 

 

 

 

 

 

その時、響いた声に誰もが瞠目した。

 

その声の主は今もまだベッドに横たわっており、意識不明のはずだ。

 

しかし、響いた声は決して幻聴などではなく、確かに彼はそこにいた。

 

のろのろと顔を動かし、ミツザネはそちらを見遣る。

 

医療の患者服からいつものような蓮柄のクルタシャツに灰色のサルエルパンツという民族衣装に身を包んで。

 

「……………アキト!!」

 

瞳一杯に涙を貯めて、震わせわせながら凛が駆け出す。

 

顔を青くさせながらも、入口の扉の寄りかかりながら、親友はくしゃくしゃな顔で抱き着いた幼馴染みを抱き止めて、軽げに言った。

 

「とりあえず腹減ったから、なんか食わせて」

 

さきほどまで意識不明の重体だったなどとは思わせないような口振りで、アキトはお腹を摩った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話しを中断しといてアレだったが、丁度よくミツザネも空腹を訴えたので、希が凛の為に作ったというお粥を食べる事になったのだ。

 

が。

 

「アキト、人が作った料理を食べずに味を変えるのは失礼だと思う」

 

「悪いとは思ってる。ただ、ぶっちゃけると量が少ないからつけ足すと味が薄くなるからだよ。出来たら呼ぶから待ってろって」

 

真横で文句を言ってくる凛に言って塩を小皿に出す。

 

もう、と不貞腐れつつも嬉しそうにリビングへ戻っていくのを見届けて、他の調味料を探すフリをしながら周りに他者がいない事を確認してから、指先くらいの大きさの黄色い結晶を取り出した。

 

本来ならばハートの形になっているのだが、意識不明から回復するのにほとんどを使ってしまった為にかなり小さくなってしまったが、ミツザネの体力を回復させるには充分だろう。

 

それは、人の想いを結晶化したものだ。初日の夜、()()の襲撃を凌ぎ、その記憶を奪うと共に世界を修正するのに必要だった幼馴染みの想いの結晶。

 

アキトはこれを、ラブカストーンと呼んでいる。

 

勝手に呼んでいるだけで正式名称はあるのかもしれなかったが、特に指摘されないという事は名前自体に意味はないのだろう。

 

「うっし………」

指先で欠片を砕いて、塩と一緒にお粥へと入れてかき混ぜる。無味無臭なので気付かれはしないだろうが、何やらまずい毒を混ぜているような気分になってアキトは何とも言えない気持ちになる。

 

意識不明から目覚めたアキトは、同じくベッドに横たわっているコウタとカイトを見て、事態は相当深刻であると察した。

 

装着していた戦極ドライバーが爆発した瞬間、遠くの方で爆発する光を認め、同じように戦極ドライバーが爆発したのだと直感した。ミツザネの物はそのままだったのを見ると、この島で管理されたドライバーのみが爆発したのだろう。

 

そう考えたら、コウタとカイトが戦闘不能という事態は、絶望と言っても過言ではない。本来ならば森に対して使う石も溶かさずにはいられないというものだ。

 

状況がどれほど流れ、どう転がったのかアキトには定かではない。しかし、真姫の提案を盗み聞きするような形になってしまったとはいえ、好転へと向けるにはそれくらいの爆薬でなければ風向きは変わりはしないだろう。

 

「……………下手をしたら」

 

今、この場にない力を思い浮かべる。戦極ドライバーもオーズロックシードもないアキトに残された手段は、本来使っているゲネシスドライバーのみだ。レモンエナジーロックシードと共にカリギュラに持たせているので現状、使うには一同達から離れる必要があるが、使わざる得ない事態に遭遇する可能性は高い。

 

「……………狗道クガイ」

 

瀬賀をタカトラが、アネモネをミツザネが当たるとすれば、残る狗道はアキトが当たる事になるだろう。もちろん、進言は出来ないし他の誰でもいいのだが。

 

 

 

—————憧れは理解とは最も遠い感情だよ

 

 

 

確かに、その通りだった。それに気付かず力を振るっていたアキトは、とても滑稽に映っただろう。

 

だけど。

 

こんな地獄にμ'sを、凛を叩き落としたその落とし前はつけておかなければならない。

 

他の誰でもいい。

 

いいのだが。

 

「……………っ」

 

無意識のうちに没頭していたからか、熱していたお粥が跳ねてアキトの頬に当たった。一瞬の痛みに顔を顰め、料理中であるのに目の前の事から思考を離していた事に反省し、粥をかき混ぜ直す。

 

その時、がちゃりと背後で音がしたので顧みると、リョウマが入ってきた所だった。

 

「おやおや、毒でも入れるのかい?」

 

「自分で食うのに毒なんか入れるかよ」

 

第一声がおちゃらけた軽い口調である事に苦笑を浮かべ、アキトは塩を粥に投下する。軽く混ぜてからスプーンで掬って味を確かめ、満足げに頷いた。

 

「うっし…………アンタも食う?」

 

「いや、さきほどμ'sが作ったカレーを食べたからね。遠慮しておくよ」

 

「そりゃ残念」

 

となると粥を食べるのはアキトとミツザネだけになる。

 

2つの器に盛ってそれを持ち上げて、戻ろうとした前に首を傾げた。

 

「……………じゃあ、何の用だよ」

 

「何。君が使ったというオーズロックシードというものが気になってね」

 

リョウマの瞳が剣呑に煌めく。ゲネシスドライバー同様、いや下手したらそれ以上にあのロックシードはこの世界に存在してはならないものだ。

 

ゲネシスドライバーは()()()はこのリョウマも辿り着くだろうが、あれだけは異なった進化の先にあるものだからだ。どう足掻いてもリョウマが辿り着けない領地にある力であり、仕方がなかったとはいえそれを解放する事は世界に異物を晒す事になる。

 

正直、リョウマからの追及は覚悟していたし、予想もしていた。

 

「……………初日の日に拾った」

 

我ながら苦しい言い訳であるとは自覚している。騙せるとも思っていない。

 

しかし、あれやこれやと言い訳するよりも直球でわかりやすい嘘で誤魔化すのが一番だと思った。というか、言い訳が考え付かなかった。

 

「………………まぁいい。西木野君の話しでは戦極ドライバーと一緒に砕けたというし、今となっては瓦礫の中だろうしね」

 

「それが聞きたかった訳?」

 

「止めて悪かったね。ご飯を食べながら、君の言う手とやらを聞こうじゃないか」

 

リョウマに促されるような形でアキトは運び始めるが、内心心臓がバクバクと跳ね上がっていて気が気ではない。そういったやり取りに置いてアキトは素人であり、慣れていないのだから。

 

「アキトー!」

 

「ごめん、僕の分まで…………」

 

リビングに戻ったアキトに凛が駆け寄り、持っている片方の器を受け取りミツザネの所まで運んでくれる。いつもよりはきはきしている姿に苦笑を浮かべつつ、ミツザネに対して首を横に振って見せる。

 

「いいって。というか、さっきの真姫ちゃんオンステージを遮っちゃったしな」

 

「何よ、それ…………」

 

「食べながらでいい。アキトの手、というのは?」

 

タカトラにも促されてミツザネの隣に腰を下ろして、アキトはヨウコを見やる。

 

「ロックシードは健在なんでしょ?」

 

「……………えぇ」

 

そう言ってヨウコはピーチロックシードを見せてくる。

 

アキトは満足げに頷いてから、懐から取り出したそれをヨウコへと放り投げた。

 

それを受け取ったヨウコと、タカトラや他のメンバーも驚愕に目を見開いた。

 

「戦極ドライバー!?」

 

アキトが投げ渡したものは戦極ドライバーだ。ミツザネから渡されたものではなく、ちゃんとほぼ無傷の状態の。

 

「ミツザネから受け取った物…………とは別物だな?」

 

「当然。それはミッチとの戦った後で他のと一緒にぶっ壊れたし」

 

タカトラの確認してくるような眼差しに、真っ直ぐに見返して答える。

 

ヨウコが驚いている隣で、リョウマは戦極ドライバーを取り上げると眺めるように各所を見回す。

 

「これは………紛失した3つの戦極ドライバーのうちの1つだね。しかも、自爆機能は見事に解除されてる」

 

リョウマの3つ、という呟きにアキトは目を細めた。

 

その戦極ドライバーは初日の夜、()()が使用していた物をアキトが回収したのだ。あの場に残しておくと不自然であり、かといってミツザネ達に返却するのも変だ。合宿が終わってからこっそりと保管するなりなんなりしようとしていたのだが、まさか見せる事になるとは思っていなかった。

 

「どうしてそれを!?」

 

「初日の夜、酔ってバナナロックシードを落とした時にオーズロックシードと一緒に見つけました」

 

海未の問いかけに出来るだけ目線を逸らさずに答えたが、それを聞いた瞬間にヨウコやタカトラはもちろんの事、μ'sの面々までもが渋面を作った。花陽に至っては頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。四つん這いになりそうな勢いである。

 

「そんな丸見えな嘘が通ると思うの!?」

 

「だから、どうして酒に飲まれるのですか!」

 

「というか、未成年なんだから少しは自分の身体を気遣いなさい!」

 

「もうちょっとまともな嘘は思いつかなかったのぉ!?」

 

ヨウコ、海未、絵里、花陽に詰め寄られてぐぅの音の出ないアキトは焦りを顔に出す。

 

「いや、嘘っていうか本当の事だからそうとしか言えないし…………いや、かよちんどうしてそこで溜息を吐くんだよ!?」

 

「まぁまぁ」

 

助け船を出す様に、ミツザネが手を叩いて4人を止めた。

 

「酔ってたら仕方ないですよ」

 

「酔ってたで済まされる事では…………」

 

「あれ、泥酔してユグドラシル社員のロックシード横領を生徒に任せてしまったユグドラシイル主任殿はどこの誰でしたっけ」

 

タカトラの表情が音を立てて固まる。タカトラがアイドル研究部の顧問になる為にひと悶着あった話しだったとミツザネから聞かされた事はあるが、詳細までは聞いた事はなかった。

 

「…………真意なんてどうでもいいですよ」

 

「ミツザネ!?」

 

ヨウコの責めるような言葉を無視して、ミツザネはリョウマを見やる。

 

「動作不良は?」

 

「傷らしい傷は見当たらないし、問題ないだろう」

 

「今はアキトがどうして持っていたのか、とかはどうでもいい事です。戦える力が増えた……これで作戦の成功率は上がりました。それでいいじゃないですか」

 

もう一度、ミツザネがヨウコを見やる。冥い、オープンキャンパズで見せたあの気配に、ヨウコが一瞬だけ身構える。

 

これはミツザネが放つ威圧なのだ。コウタの激しさやカイトのような苛烈なものとは異なった、ねっとりと身体に纏わりつくような嫌な感覚。それがミツザネが無意識のうちに放っている本気の敵意なのだと、最近になってアキトは理解した。

 

それを見てタカトラは腕を組んで頷く。

 

「確かに、ミツザネの言う通りだ。今はお前も戦えるようになった。それでいいじゃないか」

 

「…………そうね」

 

渋々、といった所でヨウコが引き下がる。今は出所の追及などをしている時間はないのだ。

 

「で、実際にユグドラシル支部に乗り込むとして、どうやって行くんだ?」

 

「私達を運んでくれたトラックはどうですか?」

 

「燃料から考えて、支部まで行くのは厳しいな」

 

アキトの質問に海未がタカトラに質問するも、その返答はさっそく一同に暗雲を曇らせた。現状での移動手段はトラックを除けばコウタやカイト達が持っているロックビークルだけだが、μ's全員を運ぶのは到底不可能だ。

 

ふと、ロックビークルで思い出した。

 

「そういやミッチ、俺のローズアタッカー見当たらないんだけど知らね?」

 

「あっ、ごめん。僕のロックビークルが見当たらなくて借りてた」

 

謝りながら差し出してきたロックビークルを見て、一瞬だけ思案する。が、悩む間もなく答えが出たので首を横に振った。

 

「いいや、ミッチが持ってろよ」

 

「えっ、でも……」

 

ロックビークルはかなり貴重なものであり、使用者が増えてきているとはいえ高価なものに違いはない。しかし、今のアキトが所持していてもあまり活用出来ないだろうし、何より。

 

「アーマードライダーがバイク持ってなかったらカッコつかないだろ」

 

「そんな理由で………!?」

 

「そんな理由とは何だ。ちゃんとした立派な理由だろうが」

 

ライダーはバイクに乗るからライダーなのだ。アーマードライダーの語源はビートライダー達が鎧武者に変身する事から名付けられたものだが、やはりバイクに乗らなければ締まらないというものである。

 

「それに、何も出来ない俺よりミッチの方が足は必要だろ?」

 

「だったら、それを先に言えばいいじゃない」

 

「カッコ付かない方が重要だろ」

 

真姫の呆れ具合の言葉に切り返すと、不意にぽんと肩を叩かれた。

 

振り向くとそこには、満面の笑みを浮かべたリョウマがおり、アキトは同じように笑みを浮かべてがっしりと強い握手を交わした。

 

言葉にしなくともわかる。ライダーにはバイクが必要だ。

 

「…………凛、アキト君がなんだかどんどん狂人と息が合ってるんだけどいいの?」

 

「楽しければいいんじゃないかにゃ」

 

「どうしてあの時、絶交しちゃったんだろうって後悔する時があるんだ…………頭叩けば目を覚ますかな?」

 

絵里の問いかけに遠い所を見るような哀愁漂う瞳で答える凛と花陽に、タカトラはわざとらしく咳き込んで一同の意識を戻した。

 

「話しを戻そう。どうやって支部まで向かう、か」

 

「今から燃料をかき集めに行く、とか?」

 

希の提案に否を示したのはミツザネだ。

 

「市街地はインベスで溢れ返ってます。僕が走った事で起こしてしまったし、難しいと思う」

 

「それに、ロックビークルが限られてるしな」

 

アキトが付け加えたように、ロックビークルは現状4つ。タカトラ、ミツザネと今はまだ意識不明のコウタとカイトの分だ。ロックビークルを使うのは現状、アーマードライダーに変身出来る者が一番だ。戦力が即座に動ける足は確実に必要である。

 

「隠し通路とかあったらいいのね」

 

「…………そういえば」

 

穂乃果がうだーとしながら呟いた言葉に、ふと何かを思い出したようにリョウマが言葉を漏らす。顎に手を当てて真顔で思案している姿は、消えかけている記憶を手繰り寄せているようだ。

 

「この島の開発に、誰か携わった者は?」

 

「いや、この島は父………呉島アマギといった上層部の老害どもが余生を過ごす為に作った、と聞いた事がある」

 

リョウマの言葉にタカトラはヨウコを見やってみるも、返って来たのは首を横に振った反応だ。タカトラ自身も携わった事はないらしく、そのままを伝えるとリョウマは再び唸り始める。

 

「それがどうしたと…………?」

 

「これだけ閉鎖空間で、有事の際にシェルターに避難するだけして、その次を考えなかったものなのか、と思ってね」

 

ヨウコに答え、リョウマは苦虫を潰したかのように答える。

 

例えば、高速道路の海上を走る巨大な橋や地下トンネルがある。それらには基本的に車のみでの行き来が許されているのは当たり前だが、地震大国でもある日本では災害時の備えというのは必ずあるものだ。

 

地震が発生して車同士がぶつかり、道路での交通が麻痺した場合。他、そういった災害などで避難が必要になった時、必ず徒歩で移動出来る空間が備わっているはずである。

 

「確かに、シェルターに避難したとしてもそれはその場凌ぎでしかない。脱出経路が必ず必要になるはず………」

 

「特に、この島を作ったのは余生を過ごす為にわざわざ作った老害どもだ。他者を蹴落としてでも我が身を、とい連中が脱出経路を作っていないはずがない」

 

アキトの言葉に同意するようにリョウマが続き、それを聞いた穂乃果とことりが顔を明るくさせる。

 

「じゃあ、その道を逆にう辿って行けば!」

 

「支部に辿り着けるかも!」

 

「で、その入口はどこにあるのよ?」

 

しかし、にこの無情な指摘に再び項垂れてしまう。

 

地下通路があったとして、結局はその入口を見つけなければ話しは同じだ。そして、それは開発された頃から変わっていないのだから、この場にいる者が知り得ぬ情報でもある。

 

「あ、あの………」

 

そこで、1人が手を恐る恐るといった感じで上げた。

全員の視線が声のした方へ目を向けると、そこに立っていた女性に穂乃果が驚きの声を漏らす。

 

「中山さん!?」

 

そこにいたのは中山。今回、新型ロックビークルのネットCMのチーフを担当し、今日の午前中にもその事で打ち合わせをした童顔なドジっ子社員さんである。

 

「い、いたのね…………」

 

「酷い! 最初からいましたよ!?」

 

ヨウコの言葉に涙目になって反論してくるが、同じ事を思ったアキトである。

 

「で、どうした?」

 

「その、以前テレビ局から施設の避難経路の内部を取材したいという企画を持ち掛けられた事があって、その時に一応島の避難経路の入口とか確認しまして…………」

 

「じゃあ、この近くにある入り口にも…………!」

 

穂乃果の言葉に中山が頷くと、他の面々も喜ぶように顔を見合わせた。

 

光明が見えた事に、誰もが笑みを浮かべる。

 

「だったら、なるべくトラックで行けるギリギリの地点まで進み、そこからは地下を通って支部へ向かう、という事になりそうだな」

 

だいたい話しが固まって来たところで、不意にタカトラは腕時計に目をやった。

 

そういえば目覚めてから時計を見なかったので現時刻を把握していなかったアキトもリビングの壁に掛けられている時計を見やった。

 

すでに時間は8時を超えており、就寝の支度をするにはちょうどいい時間だった。

 

「…………よし、細かい話しは我々で進めよう。みんなはもう休むといい」

 

「えっ、でも…………」

 

穂乃果は思わず周囲の社員達を見まわす。こんな非常事態で、協力を申し出たというのに自分達だけ休む、というのは申し訳なく感じているのだろう。

 

「君達の仕事はライブをする事だ。今回の作戦の肝でもあり、つまり我々の命運を君達が握っていると言っても過言ではない」

 

リョウマが今までにない以上に真剣な眼差しを向けて言ってくる。そこには飄々とした空気はなく、思わず穂乃果は息を呑んでしまう。

 

「ならば、君達は万全で挑むべきだ。休める時は休んでおかなければならないよ」

 

「……………そうですね」

 

その言葉にミツザネが頷き、面々を見やる。

 

「プロフェッサーの言う通り、ここは素直に休ませてもらいましょう」

 

「そうだな。特に皆さんは普段以上に疲れているだろうし、寝るには早いにしても身体は休めた方がいいと思います」

 

ミツザネだけでなくアキトにもそう勧められたからか、やがて穂乃果は頷き、他のメンバーも同じように納得出来たのかリビングを後にする。

 

「アキトはもう寝る?」

 

「いや。正直、今までぐっすりだったからなぁ………寝れる気がしない」

 

部屋を出たところで凛に呼び止められ、アキトは素直に答える。

 

ずっと意識不明の状態で、半分寝ていたようなものなのだ。このまま時間が経っても、床に入った所で夢の世界には旅立ちそうにはなかった。

 

「じゃあ、少し散歩でもしようよ? なんか、1日に色々あり過ぎちゃって頭がぐちゃぐちゃなんだ」

 

「だったら尚更、寝た方がいいんじゃないか?」

 

凛の状態はまるでカラオケオールしたかのようにふらふら、とまではいかないが疲弊しきっているのは確かだ。それは凛だけでなく他のメンバーにも言える事で、出来れば早めに休んでほしかったものだが。

 

しかし、凛は首を横に振り、ぎゅっとアキトのシャツの端を握って小さく呟いた。

 

「………………アキトと一緒に、いたいから」

 

「……………そ」

 

短く返して、アキトはミツザネを見やる。

 

「ミッチはどうする?」

 

「……………僕も少し、君と話しがしたい」

 

えっ、と凛と同時に声が漏れてしまう。その意味を察したミツザネは、慌てて付け足す。

 

「あっ、違うよ!? ホモホモしい展開とかないからね!?」

 

ちっ、と何故か舌打ちが聞こえた。そちらを見やると話し声が聞こえていたのだろう、μ'sのメンバーが驚いたように振り返っており、しかしその中で花陽だけがどこか残念そうな雰囲気を纏っているのは気のせいだろうか。

 

「その、まぁみんなの前でもいいんだけど…………」

 

「何だよ、はっきりしないな」

 

言い淀んだミツザネにアキトが先を促す様に進めると、彼は意を決したように勢いよく頭を下げていた。

 

「ごめん!」

 

「あ?」

 

「僕、操られていたとはいえ………君を…………!」

 

あぁ、とアキトは納得する。ミツザネはアネモネに操られていたとはいえ、戦闘となり結果として敗北。下手をしていたら大怪我を負っていたかもしれないのだ。

 

「気にすんな、とか言ってもどうせ、でも……とか言うんだろ。よし、顔上げろ」

 

堂々巡りにも飽きたので、アキトは一つ頷くとミツザネの顔を上げさせる。そして、その鼻をおもむろに掴み上げた。

 

「ふごっ!?」

 

「本当はぶん殴りたいとこだけど、流石に怪我人にそれはまずいしな」

 

鼻を思う存分振り回してから離して、にかっと笑う。

 

「とりあえず、これで勘弁してやる」

 

「……………君は時々、真面目なのかふざけてるのかわからなくなるな」

 

「決まってるにゃ。ふざけるにラーメン10杯にゃ」

 

ミツザネの笑みに凛が判目になって付け足してくるので、アキトは苦笑している絵里達を見やる。

 

「で、みなさんはどうするんです?」

 

「そうね………私はお風呂にでも入ろうかしら」

 

「あ、ウチも賛成! にこっちも入ろ?」

 

「えっ、いやっ、私はちょっと引っ張らないで希ぃっ!」

 

絵里の言い出したいなや希がにこの腕を掴むと、ほぼ連行するように行ってしまった。

 

「じゃあ、私は部屋に戻ろうかな」

 

「私もそうします」

 

「ことりも!」

 

穂乃果、海未、ことりも明日に向けてそれぞれの行動を取るべく、階段を上って部屋へ戻っていく。

 

「アキト、凛達も………」

 

「えっ、でもかよちんは…………」

 

「あ、私も部屋に戻るから…………」

 

呼び止めようとしたがアキトの声を半ば無視するかのように、花陽は穂乃果達の後を追って行ってしまった。

 

どこか申し訳なさそうな表情をしながらも、凛が腕を引っ張ってくる。やけにひっついて来るな、と思いつつもミツザネを見やると、小さく真姫に耳打ちされているところだった。

 

「………………わかりました。ごめん、ちょっと………」

 

「お、おう」

 

何を話しているのかは聞こえなかったが、何やら話しがあるらしく真姫に連れられてミツザネも行ってしまう。

 

「アキト」

 

「わかったよ………じゃ、外に行くか」

 

凛に促されるような形で、アキトは貸別荘の外へ行くことにする。それほど離れていなければ、浜辺くらいならば言われる事はないだろう。

 

外へ出て、空に浮かぶ月を見つめる。

 

明日、全てが決まる。

 

世界が終わるのか、続くのか。

 

裁定が下されるかのように。

 

だけど。

 

すでにピースは揃っている。

 

砂漠に散らばった欠片を拾い集めるかのように、ピースは集った。

 

だから。

 

どうなるかはアキトにもわからない。

 

わかっているのは、足掻かなければ明日は変えられないという事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉島タカトラが所有するロックシード

 

 

・メロン

・ドリアン

・ウォーターメロン

・ヒマワリ

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

「………………明日、死んじゃうかもしれないのにいいの?」

 

運命の日を前に、口には出来なかった想いを口にする少女達。

 

 

 

「恥ずかしがっちゃいけないよ! だって、もしかしたら明日は来ないかもしれないんだよ!?」

 

後悔とは、後から悔やむから後悔という訳で。

 

 

 

「…………私なりのけじめよ」

 

少女達が明日へ乗り越える為に、自身の心に決着をつける。

 

 

 

「…………狗道クガイは、俺が倒す」

 

そして、決意を秘めた者がもう1人。

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

44話:色付く想い

 

 

 

 

 




希望を見出した少女達が、ついにライブをする。

どこぞのマクロスだ。


ドーモ、グラニです。

1年前から進めていたとして身で、「あっ、まぁ普通に思いつきますわな」と楽しく見ている今日この頃です。

夏合宿編大詰め、あとは反撃するのみとなりました。

次の話しは再び急展開。

μ's達が決意のもと動く!?



感想、評価随時受け付けておりますのでよろしくお願いします!

Twitterやってます
話しのネタバレなどやってるかもしれませんので、良ければどうぞ!

https://twitter.com/seedhack1231?s=09


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