ラブ鎧武!   作:グラニ

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世界に静かに落ちる白。

それが美しく正しいものとは限らない。


33話:soldier game ~水面に落ちる白に~

物理的喧嘩を避ける為に、呉島ミツザネは葛葉コウタ、九紋カイトを連れてユグドラシル支社を後にする。

 

2人と別れて1人で街を散策していると、絡まれているアネモネに遭遇して助け出す。特にやる事のない2人は一緒に街を回る事に。

 

そこで触れ合い、徐々に心を通わすミツザネとアネモネ。

 

そして、ミツザネはアネモネに抱いている想いの意味を理解するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

啼臥アキトが変身したアーマードライダー黒影ウォーターメロンアームズは無双セイバーを下ろし、息をついて周囲を見渡す。

 

新型R・Tベロニロックのテストをしている訳だが、途中から的当てゲーム感覚で楽しんでしまいユグドラシル側からの通信を一切合切無視してしまった。

 

無双セイバーを右腰にマウントされている鞘に収めて戦極リョウマと連絡を取ろうとした時、少し離れた位置にある木が目に入った。

 

それは一見すれば普通の木であり、ヘルヘイムの森ならば周りを見渡せば同じものがずらりと並んでいる。

 

しかし、注視せざる得ないのは、その木に付いているものだ。

 

黒影が近付いてまじまじとそれを見やると、木に貼り付いたセンサーのようなものだった。もちろん、初めて見る機械で、もう1つの貌として何度も森に立ち寄ったら琴はあるが、それを含めても初見である。

 

ふと、不審に思う。リョウマはユグドラシルの管理区域内と言っていたから、これもそれ関係のものなのだろう。

 

しかし、それをまじまじと見ているのにリョウマ側からまったく何の注意喚起もないとはどういう事なのだろうか。

 

わざと放置して反応を楽しんでいる、という案は浮かんだが、あの場には主任である呉島タカトラもいるのだ。もし、大事に繋がるかもしれない事を黙って見過ごすとは思えなかった。

 

「なぁ、プロフェッサー。ここって、ユグドラシルの管理区域だろ? これもおたくらの区域内の………」

 

そこまで言いかけて、向こうからの返答がない事に気付く。耳に届いてくるのも砂嵐のような雑音のみで、人の声はしなかった。

 

「おい、そっちで何かあったのか? こっちには何も聞こえないんだけど?」

 

そう問い掛けてみるも返答はなく、黒影は改めて周囲を見渡す。

 

と、木のさらに奥地が崖になっている事に気付き、そこまで歩を進める。そこに広がっていたのは相も変わらずの木々だが、崖の真下には草木のない空間があった。

黒影が覗き込むと、そこに複数の人影を認める。服装はカジュアル系だったりスーツ姿であったりと疎らで統一感はないが、少なくともユグドラシル社員でない事は確かだった。

 

「…………きな臭くなってきたな」

 

ユグドラシルの管理区域うんぬん以前に、ヘルヘイムの森に人がいるという事が問題だ。

 

ヘルヘイムの森に実る果実には、人間が食べればインベスに成り果てる。これは世間的にも常識であり、誰もが知っている事だ。しかし、ヘルヘイムの果実には強い催眠効果があり、特に食欲を促進させる効果があるという。簡単に言えば果実を見たら食べたくなるのだという。

 

そんな危険な果実が蔓延している森に、生身の人間がいる事自体不思議であった。

 

黒影は戦極ドライバーのロックシードに手を伸ばしてキャストパットを閉じて変身を解除する。戦闘になれば強固な鎧であるライドウェアも、移動するだけならば身動きがしにくいだけである。

 

と、変身を解いた所で吹いてくる風が肌に突き刺さり、上半身裸なのを思い出した。

 

「しまった………」

 

困ったようにアキトが縮こまると、頭上を走る青い影があった。それは1つの袋を落として遠くへ飛び去っていき、受け取ったアキトは呟く。

 

「あいつ、なんか宅配便になってるな」

 

そうさせているのは自分だけど、と思いながらも感謝して袋を開く。中には白いシャツ1枚が入っていた。

 

シャツを着込んで再度、崖下を覗き込むと何やら1人の男を囲うように広がっていた。その様はまるで作戦行動を開始する前の軍隊のようであった。

 

「首尾はどうなっている?」

 

インベス以外の生き物が生息していないヘルヘイムのもりだからこそ、かなり下であるはずの会話もアキトの耳に届いた。

 

「はい。抜かりなく進んでいます」

 

囲まれている男がリーダー格らしく、厳格な言葉にカジュアルチックな格好をした少年が答える。リーダー格の男は30~40ほどにも見え、答えた少年はアキトより少し上くらいの若さであり、親子と言われても違和感がないくらいだ。

 

「ミスターセンゴクは何と?」

 

「………センゴク?」

 

リーダー格から出た言葉にアキトは思わず眉を顰める。センゴク、という言葉を聞けば連想されるのは戦国時代だが、生憎とアキトは身近でついさっき同じ言葉を耳にしている。

 

戦極リョウマ。アキトが装着している戦極ドライバーの開発者であり、変人狂人ブラコンの三拍子が揃った開発主任。

 

戦極、という苗字はそれほど聞き慣れたものではなく、少なくともアキトの脳内ではリョウマただ1人だ。

 

そして、あの男は自分の研究の為ならば何をしでかすかわからない、危険な男である。

 

「プロフェッサーがユグドラシルを売った……?」

 

流石にそれはないだろう、と思っても完全に否定出来ないあたりがリョウマの人間性を考えると仕方の無いものである。

 

「この計画が実現すれば、ユグドラシルの転覆が狙えるな」

 

「えぇ、我ら『黒の菩提樹』が覇権を握る日も近いということです。あとは姫君が帰還されれば………」

 

「…………なるほどね」

 

黒の菩提樹。

 

その言葉はアキトも聞いた事があった。埼玉県を中心に活動しているカルト集団で、インベス共存社会では珍しいインベス否定派の組織だ。聞いた話しでは中にはテロを起こすような過激な人間もおり、時折ニュースになって世間を騒がせたりしている。

 

インベスを否定する組織ならば、ユグドラシルの転覆を狙うのは当然だ。

 

しかし、解せないのはそれに戦極リョウマが関わっている可能性が高いという事だ。リョウマはヘルヘイムの森の研究者であり、解明対象の1つであるインベス否定派と関わりを持っている、という点は疑問である。

 

「サガラの言ってた面白い事って、これかよ」

 

ともかく、アキト個人に負える問題ではない。通信が遮断されている事を考えるとこの連中の仕業という事は容易に出来、見つかれば無事では済まないだろう。

 

ユグドラシルの管理区域内では、流石にゲネシスドライバーを使う事は出来ないのだから、穏便に済ませたかった。

 

が。

 

突然、アキトのポケットに忍ばせていた携帯電話から幼馴染が歌う曲が流れだした。

 

「やっべ! マナーモードにするの忘れてた!」

 

ばっと下を見れば、ちょうど何事だと騒いでいた連中が顔を上げて目が合ってしまった。

 

「何者だ貴様!」

 

「しまった!?」

 

崖から離れる為にベロニロックに力を入れて飛び出す。ひとまず来た道を逆に戻れば入口まで戻れるだろう。そうすればタカトラにバトンタッチをすればいい。

 

が。

 

 

『ドングリアームズ! ネバーギブアップ!!』

 

 

聞き慣れた音声の直後、10人ほどのアーマードライダーグリドンが現れた事により、アキトに降りかかる災難は倍増した。

 

「グリドンかよ! 人のトラウマ抉りやがって…………!」

 

オープンキャンパスでの出来事が鮮明に思い返せる姿に舌打ちしながら、携帯電話の通話コマンドをスライドしようと指を伸ばす。

 

直後、背後でがちゃりと何かを構える音を耳にして、咄嗟に飛びのいた。その瞬間、グリドンが放ったであろう弾丸がアキトのいた場所を貫き、携帯電話を吹き飛ばした。

 

「あぶねっ…………てか、俺の携帯…………!」

 

反射的に手放したからアキトに怪我はなかったものの、携帯電話に入っていたデータも吹き飛んだ事にショックを受けるが、今はともかくこの場を去ることが先決であった。

 

足に力を込めてベロニレックを作動。その場から逃げるようにアキトは飛び跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#########

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミツザネがアネモネの笑顔に見惚れていると、ふと主出したように両手をぽんと合わせて。

 

「ミツ君って、ユグドラシルに詳しいんですよね?」

 

「詳しいというか、兄が主任やってるから自然と耳に入ってくる、って感じですね」

 

想いを自覚した今、褒めてもらえた帽子を外す事なくかぶるミツザネはアネモネの質問に答える。すると、彼女はぱぁっと顔を明るくさせた。

 

「この島に来てからずっと気になってるんです。あれって、何だかわかりますか?」

 

アネモネが指差した方向には、ひときわ目立つ塔があった。それはこの島の中央に位置しており、先ほどミツザネ達がいたユグドラシル支社と同じ方向にあるものだ。

 

「うーん、多分ですけど………防衛本部だと思います」

 

「防衛?」

 

「はい」

 

ミツザネ自身。この島に詳しい訳ではない。知っている情報はパンフレットなどによるものがほとんどだが、この島の特殊性について1度だけタカトラから聞いた事があった。

 

「何でもその昔、ある1人の社員がユグドラシルに反旗を翻して大事件に発展した時があるそうなんです。それを危惧して、この島に在住しているアーマードライダーが使う戦極ドライバーには本部の指令で破壊出来るよう自爆装置が取り付けられてるらしいんです。まぁ、島の安全を監視するなら中央に高いものを用意した方が効率がいいと思いますし」

 

監視カメラを使えばいい。それは正しい意見だ。

 

しかし、イーヴィングルはユグドラシルという日本企業が運営していても外国に分類される。多くの国から多種に渡る人種が訪れるこの島では、プライバシーはかなりデリケートで問題になりやすい観点だ。その為、市街地などには監視カメラを設置しているのだが、ミツザネ達が利用している別荘エリアなどには監視カメラはあまり設置されていないのだ。

 

そういった危うい場所を監視する為に、アナログではあるがインベスが目視で見回っているという。

 

「そうなんですか? インベスばっかり使って…………」

 

「可哀想ですよね……まぁ、その分手厚い対応を受けているでしょうし」

 

「ううん。そうじゃなくて、そんなにインベスを過信していいのかなって」

 

防衛タワーを見つめながら呟くアネモネの瞳には、清楚な少女には似つかわしくないほど昏い感情が宿っていた。それは殺意、憎しみにも似ておりミツザネの首筋に寒気が一瞬走るほどだ。

 

「………………どうしてそう思うんですか? インベスは」

 

「インベスは敵、でしょう?」

 

ミツザネの言葉を遮り、冷え冷えとした声色でアネモネが告げる。

 

「だって、インベスが暴れたら大勢の人が逃げ回る。収めるにはアーマードライダーという力が必要………人間は、インベスの前では無力じゃないですか」

 

「それは…………」

 

アネモネが口にした事は、インベス共存社会において現実視される意見だ。

 

人間が太刀打ち出来ない存在を、そんな安易に身体していいものなのか。

 

インベスは人間にとって助けてくれる存在。それが人々にとって当たり前の認識であり、誰もが牙を向けられたらなどと考える者は少ない。

 

μ'sといった音ノ木坂学院の生徒達は襲撃されたという事もあり、インベスのあり方について考えるようになった。授業でもたびたびそういった話しが出てくるが、それでもインベス否定派に走る者が少ないのは音ノ木坂学院の生徒は優秀だという証明にもなっている。

 

しかし、素晴らしい意見であっても、インベスが人間に牙を剥く時もある。そして、それに人間は無力である事に変わりはない。

 

だから、アーマードライダーがいるんだよ、と世論を解いた所で手が伸ばせる範囲は限られている。全ての人間に戦極ドライバーを配布するのは不可能であり、それが現実になれば悪用する人間も増えてくるだろう。

 

「そんな悪と、共存するなんて考えられないです」

 

そう告げてから、ゆっくりとアネモネは防衛タワーを睨み上げる。

 

()()()()()()

 

少女の声が、ねっとりと、ぐにゃりとミツザネの心に入っていく。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………………………」

 

何故だろうか。

 

普段なら軽く一蹴出来るはずなのに。何度も何度もそう言う輩と相対してきて、それでも道を貫いてきた。

 

はず、なのに。

 

何も反論出来ない。

 

首の裏筋を、痛みが走った。

 

微かな、僅かな、刹那の痛み。

 

間違っているはずなのに。

 

正しくないはずなのに。

 

否定しなければならないはずなのに。

 

ミツザネの思考が落ちていく。まるで魔法に掛かったかのように。

 

()()()()()()

 

呪詛のような言葉が、耳に酷くまとわりついた。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

闇にとらわれていく。

 

最後に耳に届いたのは、まるでお伽噺に出てくるような姫君が送るような歌声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴走インベスが発生したのは、よりによって人が多く集まっている商業デパートだった。

 

湊ヨウコが装甲車から飛び出すように現場へ駆けつけると、デパートビルは炎上しており入口からは逃げ出す客がわらわらと出てきている。

 

「九紋さん、如何しますか?」

 

背後で流暢な日本語で指示を仰いできたイタリア出身の部下に、ヨウコは戦極ドライバーを出しながら告げる。

 

「決まってるでしょ。いつも通り、潰すわよ」

 

「わかりやすいっすね、ソレ」

 

中国人のぎこちない日本語に頷き返し、ヨウコは戦極ドライバーを腰に装着する。それに倣うように装甲車から出てきた仲間達が戦極ドライバーを装着していく。

 

それぞれが取り出したのはマツボックリだが、隊長の座につくヨウコは異なるロックシードを構える。

 

ピーチロックシード。隊長の座に就いた時、リョウマから似合わない祝いと送られたロックシードだ。

 

「変身!」

 

 

『ピーチ!』

 

 

ピーチロックシードを解錠すると、頭上でクラックが開かれアーマーパーツが出現する。ピーチロックシードを握り締めた右腕を後ろへ振り、勢いよく戦極ドライバーのドライブベイにセットし、スライドシャックルを閉じる。

 

 

『ロックオン』

 

 

そして、カッティングブレードでキャストパットをスラッシュした。

 

 

『ハイィーッ! ピーチ・アームズ! 舞姫、アン、ドゥ、トルァ!!』

 

 

頭上のアーマーパーツが落下して桃色のライドウェアがヨウコを包み込み、その姿をアーマードライダーマリカへと変身させた。

 

両手に出現したアームズ、桃黄扇(とうおうせん)を握り締めてから同じように変身が完了した部下達に指示を飛ばす。

 

「いつも通り、B班とC班は民間人の避難誘導を。A班は私と一緒に暴走インベスを鎮圧するわよ」

 

「かしこまりましたー」

 

「イエス!」

 

どこかの居酒屋で学んだらしいイタリア人と、英語で返事をする中国人が変身した黒影を引き連れてマリカは跳躍して火炎が噴き出している窓からビル内へ侵入する。

 

中にはすでに地獄絵図という言葉が合うほどに炎上しており、高級そうな商品が無残にも炎に飲み込まれている。

 

「ちょっと、これシャルティェのバックじゃない! 今月の給料で買おうと思っていたのに………」

 

「シャルティェって?」

 

「隊長が気に入っているレディースブランド。ダンプカーに弾かれても潰れないを売りにしてたけど、やっぱ炎には勝てなったみたいダネ」

 

無残にも散った夢への憎しみは暴走インベスへ当たるとして、マリカは突き進む。

 

やがて、エレベーターホールに辿り着いた。そこにはまだ火の手が伸びておらず、中央には避難しそびれた民間人が6人ほど固まっていた。その周囲を囲むように戦闘態勢に入っているのは初級インベスだ。

 

「暴走インベスを発見。潰すわよ!」

 

「あいほらさっさー!」

 

「ヒュイゴウ! レッツパーリィ!!」

 

統一感のない返事と共に2人は駆けていき、その音でインベス達が気付いて振り向いて来る。

 

マリカも桃黄扇を構えてインベスに肉薄する。

 

桃黄扇は使っている自分でも思うが、かなりピンキーなアームズである。扇を展開していれば振るう度に風が起こり刃が攻撃し、閉じていると双剣のように扱う事が出来る。攻防を同時に行えるのは利点だが、世間的に扇と呼ばれるものと比べて大型の為、取り回ししづらいのだ。

 

しかし、すでにこのアームズを使ってからだいぶ経った今ならば、扱いもなかなかお手の物である。

 

展開した桃黄扇を振るうと黒影ごとインベス達が吹っ飛び、民間人達から引き離す。

 

脅えたように蹲っている民間人に駆け寄って、マリカは安心させるように声を掛けた。

 

「ユグドラシルよ。怪我人はいない? インベスは私達が抑えるから、歩けるなら避難を…………」

 

そこまで言いかけて、マリカは彼らが何かを呟いている事に気付く。

 

「………………を」

 

「えっ?」

 

聞き返すと一斉に民間人達が顔を上げてくる。その表情は完全な無であり、生気の抜け切った瞳をマリカへ向けてきた。

 

そして、気付く。

 

その手に、見た事のない赤いロックシードが握られている事を。

 

記載されているナンバーは従来の物とは異なる『MESSIAH』。

 

「世界に救済を…………!」

 

憎悪の籠った言葉に、反射的にマリカは飛び退く。

 

次の瞬間。

 

民間人達が握っていたロックシードが妖しく光出し、エネルギーを放出する。それは一気に弾けて炎を生み出し、人間諸共爆発した。

 

「っ、自爆した………!?」

 

「隊長!」

 

助けようとした相手が自爆したという事に一瞬の空白が生まれたが、イタリア人部下の声ですぐに我に返ってその場を飛び退く。

 

寸の所でインベスが振り下ろした爪を避け、マリカは桃旺扇を閉じて構えた。

 

今はインベスを鎮圧するのが先である。

 

再び振り下ろされた爪を片方の桃旺扇で受け流し、もう片方で無防備になった胴体を切り付ける。

 

倒れ伏せるインベスから視線を外して仲間達を見やると、どちらも影松を振り回してインベスを屠る時だった。

 

改めてマリカは周囲を見回して、インベスがいない事を確認してから構えを解く。同時にスプリンクラーが作動して炎を鎮火し始め、マリカ達を濡らす。

 

「どうして自爆なんて………」

 

「ユグドラシルの敵対組織のテロですカネ」

 

砕け散った肉塊が燃え盛る様を見ながら、呑気そうに呟く中国人の部下が嘯く。

 

もちろん、マリカにその言葉に対しての返答は持ち合わせておらず、手掛かりとなるとは彼らが握っていた見知らぬロックシードのみだ。

 

マリカは肉塊を漁り、中から砕けたロックシードの残骸を出来る限り回収した。破片から判断するに一般で出回っているロックシードと外見での差はない。

 

しかし、それは確かに見た事のないロックシードだった。新たなロックシードを開発したら嫌というほどに自慢してくるのだから、リョウマが秘密裏に開発した、という案は薄い。

 

あるいは、失敗作が誰かしらの手で横流しされたか。

 

「隊長、外に新たなインベスが出現したそうです」

 

「わかったわ。調査隊を派遣するよう本部に連絡して」

 

「ラジャー!」

 

即座に返答した中国人部下にこの場を任せ、マリカと中国人部下は来た道を戻り入ってきた窓から外へと飛び出す。

そこには避難しようとしている人々を襲おうとしているインベスと、それを阻止しようとする黒影部隊でごっちゃ返していた。

 

「B班は引き続き避難誘導! C班はインベスを引き付けなさい!」

 

マリカが指示を飛ばすと即座に部下達は対応し、乱れていた統率が元に戻る。相手は初級インベス、冷静に対処すれば問題にするような脅威ではない。

 

マリカも戦列に加わり、瞬く間にインベスの数が減っていく。殲滅しるまでにそう時間は掛からなかった。

 

最後の1体を切り倒し、マリカは息をついて疲労している事を実感する。普段ならばここまで疲労する事はないのだが、やはり先ほど目の前で人間が自爆したという事が尾を引いているらしい。

 

今まで散々汚い事をしていた癖に、とダメージを受けている自分に失笑が漏れた。何度ともインベスを使い、無惨な最後を見届けた事はあったが、決まって目の前での自壊する姿は慣れなかった。

 

ほんの一瞬の観賞。それはマリカがした珍しい油断だった。

 

「きゃぁぁぁぁっ!?」

 

子供の悲鳴にマリカが振り向くと、どこからか現れたのかインベスが少女に向けて爪を振り下ろそうとしていある所であった。

 

「いけない……!」

 

マリカが救援に向かおうとした瞬間、周囲にクラックが出現し再びインベスが現れ始めた。

 

「くっ、どきなさい!」

 

救援を阻まれ、苛立ち気にインベスを斬る。しかし、インベスにはそれだけで充分だった。

 

爪が振り下ろされ、その凶刃は少女を切り裂く。

 

はずだった。

 

避難の列から1人の女性が飛び出し、少女を抱きしめて庇ったのだ。少女から「ママ!」と呼ぶ言葉が聞こえるという事は親子なのだろう。

 

少女の目の前で母親が凶刃に倒れる。その事態を引き起こしてしまった事にマリカの中で怒りが湧き出る。しかし、戦場で冷静さを失う事は致命的な失敗に繋がりやすく、払おうとした桃黄扇をインベスの攻撃で落としてしまう。

 

「しまっ…………!」

 

最大の失態にマリカが絶句し、視線の先で親子もろとも今度こそ引き裂こうとしているインベスが見える。

 

マリカはインベスに抑えつけられ、他の黒影達も行動が出来ない。明らかに止めるすべがなく、ただただ無力に2つの命が消されるのを黙って見届けるしかなかった。

 

それを阻んだのは、激しいエンジン音だった。

 

避難の人々の群れを飛び越えるように1台のロックビークル、ローズアタッカーが宙を飛ぶ。そこから1人の少年が降りるようにインベスへと蹴り出した。

 

邪魔されたインベスはよろけるも、攻撃してきた少年に敵意を向ける。標的をそちらへと変えて爪による攻撃を繰り出すが、少年は身軽な動きで全て避け切る。それどころかインベスの振り下ろした爪に足を描けると足場にして、起用にもサマーソルトを放ちながら吹き飛ばした。

 

「大丈夫かよ、ヨウコさん!」

 

「コウタ!?」

 

インベスを翻弄していたコウタはヘルメットを投げ捨て、親子を連れて部下に預ける。それをインベスが追撃しようとするが、ローズアタッカーが疾走して阻んだ。

 

ローズアタッカーは地面を滑りながら停車し、ヘルメットを取って鋭い眼光を向けてくる。

 

「どうした。随分と苦戦しているじゃないか」

 

「っ、カイト…………!」

 

ローズアタッカーから降りたカイトはマリカに目を向けてから、次いでインベス達へと向ける。

 

新たな脅威。それも尋常ではない威圧を放つ2人にインベス達の優先順位が変動したらしく、黒影から一斉に2人へと戦闘態勢を取る。

 

2人は同時に戦極ドライバーを腰に装着すると、各々が愛用しているロックシードを取り出して開錠した。

 

「変身!」

 

「変身」

 

 

『オレンジ!』

 

 

『バナナ!』

 

 

それぞれロックシードを戦極ドライバーにはめ込み、スライドシャックルを押し込む。

 

 

『ロックオン』

 

 

和と洋の音楽が鳴り響くのと同時に、インベス達がコウタとカイトへ襲い掛かる。しかし、2人は慌てる事なく冷静に受け流してカッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道オンステージ!!』

 

 

『カモンッ! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』

 

 

アーマーパーツを被りライドウェアが2人の身体を包み込む。そして、アーマーパーツの展開が完了と同時にアーマードライダー鎧武とアーマードライダーバロンは駆け出した。

 

襲い掛かってくるインベスを難なく倒していく姿に、周囲から歓声が上がる。それを抑えるように黒影達が避難を促し、マリカは落とした桃黄扇を掴み上げてインベス達へと肉薄した。

 

「不貞腐れて街を見てたんじゃないの!?」

 

「不貞腐れて、ってなんだよ!? 騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたんだぜ!」

 

「……………フン」

 

余裕がない事を悟られまいと、敢えて挑発すると案の定鎧武が食って掛かってくる。バロンはちらりとこちらを一瞥してくるが、まるで見透かしたように鼻で笑ってくる。

 

黒影のような低ランクロックシードではなく、高ランクのロックシードを使ったライダーが3人。それも沢芽シティで起きた戦いを生き抜いた3人が、この程度の敵に遅れを取るはずもなかった。

 

瞬く間にインベス達は殲滅に成功したが、先ほどのようなクラックの出現を危惧して変身は解かない。

 

マリカ達が警戒するように周囲を見回していると、通信が飛び込んできた。

 

『湊隊長。クラックの出現率なくなりした』

 

その連絡にマリカは安堵の息を漏らして変身を解除し、鎧武とバロンも変身を解いた。

 

「助かったわ。ありがとう」

 

「うおっ、ヨウコさんが礼を行ったぞ………」

 

失礼な物言いをするコウタを一睨みしてからヨウコは避難していく観光客達を見つめ、遠くの方から救急車のサイレンを聞く。

 

怪我人を出してしまった事が、ヨウコに強い後悔を齎していた。クラックの出現は一見してランダムのように思えるが、リョウマの開発したシステムにより感知出来るようになっているのだ。

 

予測出来た事態を装丁しなかったのは、怠慢と言っても良かった。

 

「…………悔やんでも仕方ねぇって。さっきの親子は、助かる事を祈ろうぜ」

 

「……ほんと、もう少しまともな励まし方を覚えた方がいいわよ」

 

インベスが生身の人間を傷付けると、そこからヘルヘイムの種子が入り込み人間をインベスへと変異させる。中には奇跡的に種子が入り込まないケースもあるので、先ほど庇った親もそのケースである事を祈る他ないのだ。

 

しかし、一度仮にも相手は女性なのだから、もっと気の利いた励ましをすればいいのに、とヨウコは思う。コウタに何かしらの感情を抱いている訳ではないが、これがもしμ'sの誰かだったと仮定するとその子が不憫である。

 

「っと、そうだ」

 

μ'sで思い出したヨウコは、停車してあるローズアタッカーを指さす。

 

「アンタ達、このままヘルヘイムの森へ行きなさい。アキト君がヘルヘイムの森に行って行方不明になってるわ」

 

「はぁっ!?」

 

「どうしてそうなった………」

 

おどろくコウタと呆れるカイト。ある意味で2人があの場からいなくなったことが原因があるなのだが、わざとそうするようにリョウマが仕向けた理由だけらわざわざ教えて敵意を向けさせる事もないだろう。

 

「隊長、本部から入電! 新たな暴走インベスが出現。至急、殲滅せよと」

 

「また!?」

 

思わず呻いてしまうほど、ヨウコは参ったように叫ぶ。

 

別段、インベスとの戦闘が苦な訳ではないが、その場所に向かうまでが面倒なのだ。

 

しかし、こうも連続でインベスが暴走するというのなかなり珍しい事態だ。少なくともヨウコがこの島に赴任してきてからは初めての事である。

「おい、大丈夫なのか?」

 

カイトが不機嫌そうな貌を変えずに尋ねてくる。その質問の意味は、先ほどの親子の事だろう。

 

確かに強い後悔と罪悪感がヨウコにまとわりついているのは事実だが、それで仕事を放棄するほど無責任ではない。

 

「心配してくれるんだ?」

 

「馬鹿を言え。貴様の尻拭いをさせられるのが嫌なだけだ」

 

つんとした言い方は誰に似たのやら、と苦笑を浮かべてヨウコは身を翻す。

 

「ほら、2人はさっさとヘルヘイムの森へ行きなさい。この島でインベスと戦うのは私達の仕事よ」

 

「…………………いや、俺も行く」

 

しかし、コウタは言葉と共にヨウコの前に立った。

 

一瞬、こいつは何を言っているのだと思ったが、すぐにそうだと思い出す。

 

葛葉コウタとはそういう人間ではないか。まずは目の前で起こっている事に首を突っ込まざる得ない少年で、物事を天秤に掛ける事が出来ない悪く言えば馬鹿で良く言えば青臭い。

 

「アキトの方はどうする?」

 

そして、そんなコウタにいつも現実を突きつけるのはカイトの役目だ。敵対していた頃から、2人は常に互いを認めていた対等だったのだ。

 

カイトに告げられた問題に、コウタはにっと笑った。

 

「あっちにはタカトラさんがいる。俺達も島の問題が粗方片付いたら向こうに合流すればいいだろ」

 

それに、と区切ってから言った。

 

「アキトは凛と花陽を悲しませるような事は絶対にしない」

 

「………………そうだな」

 

コウタの言葉にカイトも同意してローズアタッカーへと足を向ける。

 

「俺の携帯にインベスの位置を送っておけ」

 

「いいの? アキト君を放っておいて」

 

カイトまでもがコウタと同じ意見をした事が、ヨウコには意外だった。

 

ヨウコから見てアキトはへらへらしていて、力を得て何の意味もなく振る舞うというカイトが嫌う人種と思えたからだ。

 

「会って数分であいつを判断するな」

 

ヘルメットを被りながら、カイトは告げた。

 

「あいつは弱者の枠には収まらない奴だ」

 

カイトはローズアタッカーを走らせて、この場から去って行く。見ればコウタも自前のサクラハリケーンに乗って走り去って行った。

 

これと決めたら相変わらず行動力が早い。

 

「あれが若さかしらね」

 

真っ直ぐ、自分が正しいと思った事に向かって突き進む。

 

それが出来るのは若い証拠だ。

 

「隊長」

 

「わかっているわ。出してちょうだい」

 

促してくる部下に頷き、ヨウコは装甲車に乗り込む。

 

弟分達が以下に頼りになる戦士だとしても、この島でインベスと戦うのは本来ヨウコ達の仕事なのだ。これ以上、先ほどの親子のような被害者を出さない為にも、己を奮い立たせるように強くピーチロックシードを握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルヘイムの大木や枝に足を付けては飛び跳ねる事を繰り返し、アキトは森を駆ける。後ろから弾丸が襲い掛かってくるがそれらを寸前で避けながら、アキトは背後を見やる。

 

背後から迫ってくるのは7体のグリドン。そのいずれもが小型の飛行しているバイク:ダンデライナーに跨って迫ってきていた。

 

「やばいやばいっと…………!」

 

降りかかる弾幕を避けながらアキトは舌打ちをする。あっちこっち滅茶苦茶に避けてながら移動していた為に、とうとう自分が今どの位置にいるかわからなくなってしまった。

 

おまけに耳に装着していたインカムも逃げている拍子に落としてしまったらしく、電波障害の範囲から外れても連絡をする手段を失ってしまった。

 

しかし、今は自分の所在よりも目の前の脅威をいかに振り払う事だ。

 

「あぶねっ…………!」

 

その瞬間、ダンデライナーから発射されたエネルギー弾が大木の根元を破壊し、アキトの目の前に倒れてくる。その為に止まらざる得なくなり、その隙にグリドン部隊に囲まれてしまう。

 

「貴様、ユグドラシルの内定者か………!」

 

ダンデライナーから落ちたグリドンが、アームズのドンカチを向けながら言葉を投げてくる。

 

「いやぁ、普通に一般人ですけど?」

 

「嘘をつけ! 一般人が戦極ドライバーを手に入れる訳ないだろう!」

 

本当の事なのだが、言っても信じてはくれないだろう。

 

「何事ですか」

 

「……………!?」

 

そこへ、全く異なる声が響く。同時にその場を異質でねっとりとした重い威圧が包み込み、それら全てがアキトに乗りかかった。

 

囲んでいたグリドン達が警戒の構えを一度解き、声の主を招き入れるように整列する。

 

そこにいたのは、黒い男だった。全身を黒のズボンと黒のカッターシャツに、夏だというのにジャケットを羽織って男は現れた。ヘルヘイムの森は基本的に気候というものは安定しているが、外の世界は絶賛真夏である。

 

ヘルヘイムの森の場所は、現実の世界と同じになっている。つまり、この付近で元の世界に戻ったとなると、外は真夏の島だ。そんな場所にいるような服装ではなかった。

 

年は30代くらいであり、顎に薄く髭が残っているが剃り残しではなくそういうファッションなのだろう。

 

それらを含めて、放っているプレッシャーは異質だ。人間が放つようなものではない。

 

否。

 

そもそも、人間なのか、とアキトの直感が疑問を生み出してくる。自分自身も常人とは異なっているが、それとはまったく違ったベクトルの気配をこの男から感じられていた。

 

「狗道様…………」

 

「この少年は?」

 

狗道と呼ばれた男に尋ねられたグリドンは、ちらりとアキトを見てからひれ伏す様に膝をつく。

 

「はっ……我々の会話を盗み聞きしていたようです。恐らくはユグドラシルの手先かと」

 

ふむ、と狗道は顎に手を当てて思案顔をする。

 

「……………君は名前は?」

 

「………………啼臥アキト」

 

狗道の言葉に素直に返答すると、こちらへと手を伸ばしてきた。

 

「私は黒の菩提樹……狗道クガイ。君は救済を求めているかな?」

 

「救済?」

 

言っている意味がわからず首を傾げると、狗道は熱が入ったように頷き踵を返した。

 

「そう………救済。君はこの世界は正しいと思えるかね?」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味さ」

 

まるで舞台劇の語り部のように、歌唱のように高らかに言葉を狗道は紡ぎ始める。

 

「この世界はインベスと共存の道を辿っている。しかし、そのインベスは常日頃、人間に対して牙を剥いている。そんな存在に対して人間など無力だと思わないか?」

 

インベスが一度(ひとたび)暴れれば、一般の人間は逃げ惑うしかない。インベスを召喚した所でインベスゲームは所謂()()()なのだから、相手がいてこそ成立する。暴走するインベスにインベスで対抗するのはその実無謀なのだ。

 

故に、アーマードライダーのみがそれを解決出来るすべはない。このインベス共存社会でそれが一番のネックだった。

 

「人間に牙を剥くなんて、ほんの一部のインベスだけだ。普通に過ごしていれば、インベスが暴れるなんてそうそうある事じゃない」

 

と、言いつつも神田では妙に暴走インベスによる騒動が多いよな、とブーメランを感じているアキトだが、世界中を見てもそうそう起きている事件ではない。起きたとしてもほとんどが人間が利用して起きたものだ。

 

それが世界の共通認識であり、だからこそインベスには愛情を持って接する事が大切なのである。

 

しかし、狗道はそんな一般常識を一蹴するかの如く笑う。

 

「だが、人間はインベスに勝てない。その事実に変わりはないだろう?」

 

「………………」

 

確かにそれは紛れもない事実だ。おそらくこの先も変わる事のない、いわば摂理。

 

「それは、人間では熊に勝てない、と言っているのと同じだ。熊に人間は勝てないからこの世界は間違っている、なんて世迷言を言うつもりか」

 

「貴様! 狗道様を愚弄するつもりか!」

 

カチン、と琴線に触れたのかグリドンがこちらへ迫るほど敵意を向けてくるが、それを抑えるように狗道が手を掲げる。

 

狗道に抑えられとどまるが、グリドンの敵意は収まるどころか溢れそうだ。

 

「世迷言………果たしてそうかな? 確かに言っている事を熊に置き換えればその通りだが、インベスと熊では脅威の度合いが違い過ぎると思わないかね? 君の言っている事は小学生の言う屁理屈だ」

 

「……………なら、アンタが言う救済とは何だ?」

 

アキトが聞くと狗道は両手を上げてヘルヘイムの森を仰いだ。

 

「人間によるインベスの完全な支配さ!」

 

「………………支配だと?」

 

「そう! インベスが絶対に人間に歯向かうようにしない為にやつらの意思を刈り取り、絶対服従の人形とする。叛逆も許さぬ楔で締め上げ、文字通りの奴隷とするのさ!」

 

熱に浮かされたような言葉に、グリドンの中には頷く者がおり、拍手する者まで現れ始める。

 

それをアキトは、まるで汚らしい物を見るかのような瞳を向ける。

 

言っている事はわかる。元々、黒の菩提樹とはそういうインベス社会に対して否定的な者達の集まり、でニュースで報道されているのもそういった事だ。

 

しかし、主義主張はどうあれ、世界にはすでにインベスが溶け込んでいる。なくてはならない存在と化しているモノを否定するのは、世界そのものを否定しているのと同意義だ。

 

「世界にとって、インベスはもういて当たり前の存在だ。この島を始め、人間の代理に行っている事は数多い。インベスの協力がいなければ成し得なかった事がたくさんあるんだぞ」

 

「それが正しい、と言うのなら………インベスによって齎された悲劇も正しいものというのかね?」

 

一瞬、言葉に詰まる。

 

それを見て狗道が細く笑んでから、隣にいるグリドンの肩に手を置いた。

 

「君に訪れた悲劇を話してごらんなさい」

 

言われたグリドンは頷くと、構えていたライフルを降ろして顔を見上げる。仮面に隠れたその表情は、纏っている雰囲気から怒りや憎悪、そして悲しみが満ち溢れているようだった。

 

「……………旅行中だった。私が運転していた車には、妻と娘が乗っていた……楽しい思い出になるはずだった」

 

悲しみを思い出したのか、、グリドンの口調がどんどん涙ぐんでいく。それに構わずグリドンは語りを続けた。

 

「旅行の帰り………たまたま、現金輸送車と並列して走っていたんだ。和気あいあいと会話をしながら………しかし、インベスがそれを奪って行った……………! 現金輸送車をインベスが襲撃し、それに私の車が巻き込まれた! 私は奇蹟的に生還出来たが………妻と娘は…………っ!」

 

感極まって震え、膝をつくグリドンに「すまなかった」と声を掛けてから狗道はアキトを睨んでくる。

 

「こんな悲劇を押し付けてくるのが正しい世界のあり方とでも言うのかい? そんな残酷な答えを、彼に突きつけれるのかい!?」

 

「否、そんな世界は間違っている!」

 

「そうだ! インベスは敵だ!」

 

狗道を讃えるかのように周囲のグリドン達から声が上がる。

 

それはまるで、自分達に訪れた悲劇で傷ついた痛みを癒すかのように。

 

「…………インベスと共存出来ている人はたくさんいる」

 

例えば、μ'sの9人。リーダーは特にインベスと仲良くしている聞いた。

 

例えば、ビートライダーズの面々。用途はインベスゲームというバトルではあるが、それでも共存しているのだ。

 

世界にはすでに共存という概念で共に歩めている。そういった悲劇がある事は認めるが、それが今の世界を否定していい事にはならなかった。

 

「それすらも、世界が歪んでしまった姿だとは思わないかね?」

 

しかし、あくまでも私は間違っていない。そう言い張る狗道にアキトは呆れなどの感情を通り越して、嫌悪感すら覚えた。リョウマはまだこの世界を受け入れている。その上での外道変態ゲスだが、この男は世界そのものを否定した上で物事を語っているのだ。

 

この世界を肯定している上での狂気とこの世界そのものを否定している狂気では度合が違う。

 

「狂ってるな………」

 

「狂人である事は認めよう。いつの世界も救世主とは理解されるまでは異端者だ」

 

何をどう言っても、己が言う事が正しい、と言い張るらしく狗道は主張を見げようとしない。もとよりカルト集団の長と何ら会話など出来るはずもない。

 

「君のような若い者に理解出来るとは思っていない。しかし、無知とは罪ではない。それを含めて救済しよう」

 

そう言って狗道がアキトに背を向けて指を鳴らすと、感極まっていた様子のグリドン達が各々の武器を構えた。

 

「君は我々の救済を受け入れてくれるかな?」

 

その言葉とは裏腹にグリドン達の敵意が膨れに膨らんでいき、今にも引き鉄を引きそうだ。

 

しかし、それを前にしてもアキトの返答は変わっていない。辿る道は違えど、アキト自身も狂気の道を突き進む存在なのだから。

 

「や、だ、ね!」

 

言葉と同時にアキトは跳躍する。ベロニレックの力で増幅されたジャンプ力はアキトの身体を悠々と飛ばし、木の枝に着地する。

 

右手には、ウォータメロンロックシード。

 

「アンタの言い分は、まぁわかるよ。確かにインベスを前に人間ってのは無力だ」

 

銃口を向けられても、アキトは恐れずに返す。

 

「けど、少なくとも世界はインベスと共存の道を歩けている。トップのアンタの言い分に付き合う周りの人達も何かしらの、そこのアンタのような悲劇があったのかもしれない」

 

ちらりと立ち上がったグリドンを見やり、きっと彼を保たせているであろう支えを壊すつもりで言葉を投げ付ける。

 

「けど、そんなのただ憎しみの矛先をインベスに向けているだけだ」

 

「憎しみを向けて何が悪い! 私の家族はインベスに殺されたんだぞ!」

 

「相手をはき違えんな」

 

吠えてくる言葉をばっさりと斬り、告げる。

 

「確かに直接的な原因はインベスだったのかもしれない。だけど、恨むなら現金輸送車を襲うようにインベスに指示した人間だろ。野良インベスがピンポイントで車を狙うなんてありえないんだからさ」

 

「っ…………!」

 

それはきっと、悲しみに囚われて気付かなかったのかもしれない。しかし、冷静に憎しみを外してみれば小学生でもわかる図式だ。

 

インベスは無暗に人を襲ったりしない。俗にいう暴走インベスも大半は野良インベスであり、違法ロックシードにより召喚されたインベスとで暴走すればその行動はただ暴れるだけである。

 

つまり、現金輸送車を襲うには召喚した誰かが指示しなければならない。

 

「アンタのそれは、ちゃんと考えもしないで勝手にインベスを恨んで、勝手に復讐を誓ってるって事だろ」

 

「だ、黙れ! 何も知らないガキが!」

 

図星を突かれたかるかグリドンが激高するが、アキトはウォーターメロンロックシードを一度宙に放り投げてキャッチして、鼻で笑って見下す。

 

「まっ、カルト集団なんてそんなもんだろ。自分達の考えを押し付けて受け入れられなければ殺す……そんなのが救済だってんなら、こっちから願い下げだ」

 

 

『ウォーターメロン!』

 

 

ウォーターメロンロックシードを解錠すると頭上にアーマーパーツが形成され、同時にグリドン達がライフルの引鉄を引いた。

 

銃口から吐き出された弾丸がアキトを襲うが、それよりもさらに高く跳躍する方が先だった。

 

空中でウォーターメロンロックシードを戦極ドライバーにはめ込み、カッティングブレードをスラッシュする。

 

 

『ロックオン。ウォーターメロンアームズ! 乱れ弾ババババン!!』

 

 

空中でアーマードライダー黒影に変身し、落下しながら無双セイバーを抜刀する。

 

着地と同時にグリドン達がドンカチを振り上げてくる。しかし、それより先に無双セイバーを横一文字に薙ぎ払うと、防御行動を取る事なくグリドン達の装甲から火花が散った。

 

攻撃された事に動揺したのか何人かがオロオロとし始め、その隙を逃さまいと黒影は無双セイバーとウォーターメロンガトリングを振るって追撃を打ち込む。

 

ウォーターメロンガトリングはメロンディフェンダー同様に盾の両端にサイドカットと呼ばれる鋭い刃が備わってなおり刀としても使えるのだ。

 

アーマードライダー斬月が使っている所を見様見真似で扱ってみるが、思った以上に使える。

 

「ぐっ………つ、強い!?」

 

「いや、多分アンタらが弱いだけだろ」

 

苦悶を漏らすグリドンに、黒影は呆れたように返す。そもそもからして、このグリドン達は武器の構えも素人丸出しのものであり、アキトでさえも簡単に相手出来る程度の強さでしかない。

 

本当に戦う気があるのだろうか、とほんの少し拍子抜けしながらも攻撃を続ける。

 

その中で、確かに見た。

 

自分を慕ってくれている仲間がやられているというのに、薄ら笑いを浮かべている狗道供界の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

啼臥アキトが所持するロックシード

 

・レモンエナジー

・オーズ

・ウォーターメロン

・ローズアタッカー

 

 

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は……………

 

「君にも見せてあげよう。私の救済を………変身」

 

 

『ザクロ!』

 

 

『ブラッドオレンジ!』

 

 

アキトの前に立ちふさがる狗道。

 

 

 

「穂乃果達は何も間違ってないだろ! 学校を、居場所を守りたいって思う事が間違いだなんて絶対にない! それを邪魔しようとする奴らは、俺が絶対に許さねぇ!」

 

絶望に折れそうになる穂乃果に飛ぶ、コウタの激励。

 

 

 

「アキト君が何かに迷ってるみたいだったから。お姉さんとしては放っておけないのです」

 

ずっと突き進んできたアキトの挫折に手を差し伸べたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

34話:人間ってそんなものね ~理想への欲望~

 

 

 

 

 

 

 

 





どうも、バトライドウォー創生でハート様に何度もボコボコにされた結果、ドア銃でちまちま削って倒すというチキン野郎のグラニです。

やっぱりというかなんというか、面倒事に巻き込まれるアキト君。しかもデュークになれない身でどう戦うのか…………

そして、少しずつ純粋無垢というメッキを剥がしつつあるアネモネ。その目的とは何でしょうねぇ?

黒の菩提樹はもちろん、当初は予定してませんでした。けど外伝2観てリョウマも出しちゃうしいっそのこと、ということで。


やっぱりラブコメ難すぃ…………
次回もお楽しみに!



感想、評価随時受け付けておりますのでよろしくお願いします!

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話しのネタバレなどやってるかもしれませんので、良ければどうぞ!

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