好奇心がなければ、
人は何かを生み出す事はないだろう。
新たなロックビークルのネットCM撮影の為、グドラシル支社へ向かっていたスクールアイドルμ'sとチーム鎧武は、その道中で暴走したインベス達と遭遇し戦闘になる。
秋葉原で戦うインベスよりも強い個体達に、苦戦する鎧武達を見かねて啼臥アキトもアーマードライダー黒影オレンジアームズへと変身。しかし、その強さと普段使っているゲネシスドライバーではない事にアキトは手も足も出ずに敗北してしまう。
μ'sとアキトの危機を救ったのは桃のアーマードライダーマリカ。変身していたのは湊ヨウコ。
ずぼらで家事の出来ない女性代表の、九紋カイトの姉である。
「弱者って言った事、根に持っているわね?」
ガチャリ、と広い会議室の扉を開き、呉島タカトラは相手の姿を確認せずに口を開いた。
「戦極ドライバーが3つ、紛失したというのは本当か?」
「みたいだね」
会議で使われる長テーブルの一番奥の席でノートパソコンを広げ、こちらに一瞥せずに返って来た言葉には微塵の興味も込められておらず、予想はしていたが寸分違わぬ返しにタカトラは呆れ混じりの溜息を吐く。
「まっ、研究の方にはまったくの手つかずだったから僕はどうでもいいけど」
「…………解せんな」
μ's達と一緒にイーヴィングル支部へ訪れるつもりだったタカトラに、早朝から招集がかかった理由はここで管理していた戦極ドライバーが3つ無くなったという報告を受けたからだ。
調べてみると、昨晩何者かが侵入して警備部隊の戦極ドライバーを3つ奪取したそうなのだ。
曖昧な表現なのは監視カメラには不審な人物は映っておらず、夜間の警備員も職務に怠慢はなく、セキュリティの方も何の不備もなかったのだ。
ただ忽然と、まるで最初からなかったかのように朝になったら無くなっていたのだ。まるで神隠しのようにユグドラシルの技術をもってしても気付けないほど痕跡を残さずに。
しかし、その事を聞いてタカトラが思い浮かべたのは疑念である。
戦極ドライバーはユグドラシルが独占しているヘルヘイム事業の中でも計画の要と言っていいほどの物だが、今やそれは闇ルートで無残にも売りさばかれているのが現状である。取り締まろうにも戦極ドライバーの設計図自体が市場に出回ってしまっており、すでに手のつけようのないくらい拡散してしまっているのだ。
それはそれで問題だが、今疑念に思うのはそこではない。
戦極ドライバーは闇市場に出回っており、金さえ支払えば手に入らない訳ではない。アーマードライダーが常にいるユグドラシルに侵入するというリスクを背負ってまで手に入れるようなものではないのだ。
これが盗まれたのがプロジェクトの根幹にかかわる研究資料というのならば納得出来るのだが、そちらに手を付けた気配はない。
貴重さ、重要性で言うならば戦極ドライバーよりも研究資料の方が遥かに上回っているのに。
「……………単なる合宿で済むと思っていたのだが」
1人ごちっていると、ピーとノートパソコンから音が漏れる。手慣れた手つきで操作主がキーボードを叩き、タカトラはUSBケーブルで繋がれた小型マイクを掴んで答えた。
「何だ?」
『スクールアイドル、μ'sの皆さまがお越しになりました。先ほど市街地で起こった暴走インベスの鎮圧に鎧武達も参戦したらしく、湊広報部長と共にそちらへ上がりました』
「わかった」
受付からの内線を切って、ちらりと一瞥する。
「頼むから喧嘩などしてくれるなよ?」
「それは向こう次第かな」
自分の知った事ではない。相変わらず自分本意で他人に興味のない友人に、タカトラは胃が痛くなるのを感じて息を吐いた。
##############
「ほわぁぁぁー………」
この島を訪れた時も同じような感嘆の声を漏らした気がするが、小学生並の感想しか穂乃果は抱けなかった。
ヨウコに先導されてバスに乗り込み、車内で暴走する彼女を止めようとした男3人衆は轟沈(物理)し、取り敢えず花陽を放り込んだアキトが凛にぶっとばされると騒ぎを起こしながらもμ'sとチーム鎧武はユグドラシルイーヴィングル支部へとたどり着いた。
秋葉原にある本社と比べてしまえば多少はこじんまりとしているが、それでも音ノ木坂学院などと比べたら広い敷地の中央に座しているビルは、まるで都心部を訪れたような錯覚を一同に齎した。
「すごーい……」
「秋葉で何度ももっと凄いのを見てるでしょうに」
同じく小学生並の感想を漏らす葛葉コウタに、呉島ミツザネが苦笑を浮かべる。しかし、どれだけ同じわうな建物を見慣れていたとしてもその存在感は圧倒的であり、これからここでアイドル活動をするのだと思うと緊張は拭えなかった。
「さっ、こっちよ」
感嘆している一同を先導するように、湊ヨウコが正面玄関を入っていく。
穂乃果達もそれに付いていくと、如何にも大企業といった感じのエントランスが広がっていた。
穂乃果とコウタが物珍しそうに周りを見て回っていると園田海未に小突かれ、南ことりが苦笑する。
その後ろでは啼臥アキトが手持ちの二眼レフカメラで撮影したくて仕方ないようだが、当然機密の塊めある建物内は撮影禁止であり、星空凛と小泉花陽、西木野真姫が手綱を掴むように見張っていた。
さらに後ろでは職場見学的なノリで絢瀬絵里、東條希、矢澤にこ、カイトが入口にあったパンフレットを広げて眺めている。カイトの場合は無理矢理付き合わされているようで面倒そうな顔をしているが。
ヨウコへ総合案内のスタッフと何回か言葉を交わしてから戻ってくると、その手には首から下げられるように紐のが通った『GUEST』タグが付けられているものがあった。
「はい、これ。説明するまでもないけど外部の人間である事を示す為のタグよ。ここにいる間は肌身離さず持ってて。これ持ってても当然、許可されていない場所には入れないから移動中は団体行動から外れない事。もう高校生なのだから言われなくてもわかるでしょう?」
「わかりました」
絵里がそれを受け取り一同に渡す中、それと、と前置きしてからヨウコがアキトのトイカメラを指さす。
「わかってると思うけど、建物内は撮影禁止よ。携帯ならともかく、露骨なカメラをぶら下げて歩かれると研究員達が気が気でなくなるから受付に預けて欲しいんだけど?」
「まぁ、そうなりますわな」
特に反論する事もなくアキトは受付へ行くと事情を話し、トイカメラを預けて戻ってきた。
「さっ。ではまず、主任の所に行きましょう」
「今回のCM撮影については………」
「えぇ、ウチの部署の管轄よ。担当は違う人がやるけど、何かあったら遠慮なく相談して欲しいわ」
キャピキャピと可愛らしくウィンクするヨウコに、カイトがぼそりと。
「年考えろよばb」
「私はまだ20代半ばよ」
ドスッ、と鳩尾を突かれカイトが苦悶を漏らしながら蹲るのを見て、絵里が呆れた顔をして「女性に年齢ネタはNGよ」と小言を投げる。
ヨウコに案内されるがままエレベーターに乗って指定された階へ行くと、そこにはエントランスとはうって変ってどこからか何かドリルが回転するような機械音などが響いており、騒がしいフロアが広がっていた。
壁の内装などもどこか汚れており、掃除も最低限くらいしかしていない、といったイメージを一同に与えた。
「あ、ここ研究フロアなんですね」
エレベータードアの近くにあったプレートの文字を見て、海未が呟く。
「えぇ、うるさくてごめんなさいね。ここでは日夜ロックシードの開発やインベスの研究……まぁ島のパンフレットを読んでもらえればわかるけど、人間の代用の為の研究がされているわ。実験などですぐフロアが汚れちゃうからいちいち掃除するのも費用の無駄だって言って、あんまりされていないから汚いのは我慢してね」
出来れば私も来たくないんだけどね、とヨウコが苦笑してくる。
確かに実験のせいなのだろうが様々な薬品が入り交じっており、形容のし難い臭いが穂乃果の鼻腔が擽り、女の子としては好ましい場所ではなかった。
ちらりとコウタを見やると、臭いとはまた別の要員で顔を顰めているようだ。穂乃果に釣られてテンションは上がるも、すぐに警戒の顔をしてしまっている。
「コウタ君、大丈夫?」
「……………まぁ」
穂乃果が問い掛けてみるも返事は曖昧なもので、コウタを挟んで隣に歩く海未も不安げな表情を浮かべた。
「一体どうしたのですか? その、怖い顔をしてます」
「これから会う人がそれだけ嫌、って事ですよ」
答えたのはコウタではなく、前の列を真姫と歩くミツザネだ。しかし、その声色はどこか硬いものを秘めており、顔は見えないが彼もまた歪んだ顔をしているのだろう。
「戦極ドライバーの生みの親……それって…………」
嘯きながら真姫はちらりとコウタを見やる。
彼らが音ノ木坂学院にやってきた初日に、μ'sは聞いた。ただの高校生であるコウタが何故アーマードライダーをやっているのか。
その時、答えたではないか。戦極ドライバーの開発者が兄であると。
それでコウタの家庭環境は崩壊してしまったという話しも、絆を取り戻した際に聞いたではないか。
「じゃあ………」
これから行く先にいるのは、コウタの家族を引き裂いた元凶、という事になるのではないか。
「会って早々、兄弟喧嘩はやめてよね。プロフェッサーは貴方達と違って弱いんだから」
「それは向こう次第だな。俺が短気だって知ってるのに煽ってくるなら、当方迎撃の用意あり、だ」
珍しい、と穂乃果は素直に思った。コウタはあまり好戦的な性格をしておらず、むしろ争い事を嫌っていると思っていたが。
「…………何だかコウタ君、イキイキしてる?」
「そうか?」
心外だ、といわんばかりの顔をするコウタだが、穂乃果にはその目が輝いているように見えて仕方なかった。
「どんな人なんだろー。ねー、かよちん!」
「怖い人じゃなければいいな………」
さきほどヨウコへ怒鳴った姿はどこへ行ったのか、再び気弱に戻った花陽の肩を抱くように凛が絡む。
「古来より、研究者は変人狂人外道衆と相場が決まっていてだな」
「アキト! かよちんを怖がらせないの!」
どむっ、とアキトの尻を凛が蹴り飛ばし、その光景を見て笑う希の姿は母そのものだが、口にしたら恐ろしい未来しか待っていないので穂乃果は口を噤む。
「さっ、ここよ」
そう言ってヨウコが示した扉は他の研究室よりも綺麗で、一目で特別な場所にあるなのだとわかるほどある意味で異質さを出していた。
この先にベルトを作った男が。そして、μ'sにとって初めてライブ以外でのアイドルらしい仕事が待っている。
扉の取っ手に手を掛けて、穂乃果は手が震えている事に気が付いた。
あの敗北からスタートしたファーストライブが脳裏を過ぎる。初めてのライブでどれだけのお客さんが来ているのだろうと緊張と期待で望んだ講堂で3人のライブ。
そして幕が上がれば、誰もいないという、眼前に広がった絶望。今でも忘れはしない、全てが終わってしまったというのはあの感覚をいうのだろう。
結果だけを見れば穂乃果達はここにいる初めての観客達のおかけでスタートを切る事が出来た。
しかし、もしもこの先に絶望が待ち望んでいたとしたら。
暖かい手が、穂乃果の手に覆いかぶさった。暗い穂乃果の表情が晴れて、横を見ればコウタが手を重ねてくれていた。
「コウタ君………」
「大丈夫」
たった一言だけで焦りや不安はなくなり、暖かい気持ちが穂乃果の胸の中に広がる。
それはまるで魔法のようで、甘美で、快楽的で。
とても不思議なものだった。
「俺達がいる」
「…………うん!」
強く頷いて、背中越しに一同を見る。
そうだ、何を恐れる必要があるのか。
あの時は幼馴染みと3人だけだったけど今は違う。
μ'sの6人がいる。
アキトと3人の鎧武者がいる。
味方だと言ってくれる人達が、仲間がこれほどいる。
だったら、絶望などするはずもない。
もう、何も怖くない。
「みんな、行こう!」
コウタと力を合わせて扉を開けて、中へ進む。
部屋の中は穂乃果がイメージしていた研究室とは真逆の綺麗に整頓された部屋だった。フローリングのフリアの中心に1人用の高級操な背もたれ付きの椅に3台のパソコンモニター。さらには何個もダンボール箱がタワーのように積み重なっており、さらに奥には目を凝らさなければ気付けないが透明なガラスで遮られており、向こうとこちらでエリアが区切られているようだ。
こちら側のエリアの中心に、2人はいた。
1人はタカトラ。μ'sのダンスコーチでアイドル研究部の顧問にして、ユグドラシルコーポレーションの主任であり、アーマードライダー斬月に変身するミツザネの兄。
もう片方は同い年位の白衣を着た男だ。黒い髪を細くポニーテールで結わっているが、決してそういう髪型にしているのではなくただ長い髪が邪魔だから結わっている、という感じでそうしているようだ。遠目で見てもあまり手入れがされていないのが、疎い穂乃果でもわかる。
おそらく、その男がコウタの兄であり、戦極ドライバーの開発者。
戦極リョウマ。
「…………………………………………………………………………」
ユグドラシルで巨大なプロジェクトを動かしている主任2人が、フロアの中央で組体操をしていた。
組体操というべきか、演目で扇という種目を中学でやった事がある。複数人で両手を広げてつかみ合い、左右に倒れて扇のように見せるアレである。
それを2人はしていた。左右をタカトラとリョウマが担当し、真ん中には『ようこそ、石鹸アイドルμ's』という文字が書かれた白い布で互いを支えていた。
身構えていた穂乃果はまったく予期せぬ出迎えに硬直し、背後で盛大に転ぶ音がする。おそらくコウタとミツザネだろうが振り向くのも億劫なのでどういう事なのですか、という目線をタカトラに送ると返って来たのは苦しそうなリョウマの言葉だ。
「や、やぁ………よ、よく来たね………タカトラ、もう少し強く支えてくれないかい? 私がせんご、タカトラ、少しきつい………私が戦極………」
「………………やってられるか!」
「あ、ちょ」
リョウマの自己紹介の途中でぷっつんとキレたらしく、タカトラが布を手放す。当然、それだけを支えにしていたリョウマが突っ張っていた力で吹き飛び、がっしゃーんと積み上げていたダンボール箱を崩してその中に埋もれていった。
立ち上がってスーツに付いた埃を払い落としている兄に、弟はとてもシンプルな質問をした。
「兄さん、何してるの…………?」
「哀れみの顔を向けるな、ミツザネ。高級ワインの為だ」
「お酒の為ですか…………」
不純というからしいというか、動機に思わず海未が呆れた顔をしてしまう。
「あの、ヨウコさん…………」
「あんのヘルヘイム馬鹿め………脳内にまで毒素回ってるのは知ってたけど、ついに薬にまで手を出すなんて…………」
「失礼だね、湊君。これでも私から検出されるヘルヘイムの毒素はアーマードライダー達よりは低いよ」
ダンボールの山から何事もなかったかのように出てきたリョウマは愉快そうに嗤いながら椅子に座る。
「さて、改めまして石鹸アイドル? のμ'sのみんな」
「スクールアイドルです」
絵里が訂正するとリョウマは澄ました顔で首を傾げた。
「あれ、そうだっけ? まぁ微塵の興味もない僕にはどうでもいいけど、一応自己紹介しておこないとね。礼儀なんて払う価値があるかどうか疑問だけども、そこで無様に転がっている葛葉コウタの兄、戦極リョウマだ。愚弟がいつもお世話になってるね」
まるでこちらをおちょくるような言い回しに、μ'sの面々が戸惑いと驚きの反応を示す。しかし、直接悪意をぶつけられるのは初めてだったので穂乃果は何も言えず、「はぁ……?」としか返せなかった。
「リョウマ」
「今回の新型ロックビークル、私としてはあまり盛り上がりに欠けるものだからどうでもいいけど、まぁ頑張って宣伝して上役の老害達のご機嫌でも取ってくれ」
タカトラの小言も聞かずに悪意を吐き出す男に、どう対応していいのかわからずたじたじになる穂乃果に立ち上がったコウタが後ろから告げた。
「な? 俺がこいつ限定で短気になるのもわかるだろ?」
「変わった人だね…………」
小さな声で返すとコウタがまぁな、と肯定して穂乃果を守るように前に出る。
「なんで俺達をここに案内した。今回、CM撮影の為に来たんだぞ。アンタの出る幕はないはずだ」
「あぁ、私から見ても誰から見ても君らは微塵の興味も惹かれない」
「っ…………!」
はっきりとした存在の否定にカイトが怒りの表情を浮かべて詰め寄るそうになるのを絵里と希で抑える。
どれだけ旧知の仲であっても相手は依頼主だ。これはアイドル活動の一環なのだから、相手からしてみれば『仕事』だ。ずっと実家が和菓子屋をやっていたからこそ、その大変さも責任の重さも幼い頃から見てきた。
「それでも………今日はよろしくお願いします!」
リーダーの穂乃果が頭を下げると、後ろの仲間達も「お願いします!」と頭を下げてくれる。
しかし。
「あ、そ。まぁせいぜい頑張りな」
どこまでも、興味のないという声色で告げるリョウマ頭を下げている穂乃果の瞳が揺れる。
μ'sがまだまだアイドルとして未熟なのは穂乃果達がよくわかっている。まだまだ未熟で、どれだけ頑張っても心動かされない人がいるだろうと言うことも。
だけど。
それでも。
目の前ではっきりと提示された否定に、穂乃果の心は悲鳴を上げずにはいられなかった。
「テメェェェェェェェッ!!」
はっと、穂乃果が顔を上げるとコウタがリョウマへと拳を振り上げて肉薄していた。
「コウタ!」
飛び掛かるコウタを制止しようと海未が手を伸ばすも掴めずに、コウタの拳がリョウマを捉える。
しかし、それがリョウマに突き刺さる事はなく、いつの間にコウタに迫っていたヨウコがその拳を弾てカウンターで蹴り飛ばした。
「くっ…………!」
「やぁ、感謝するよ。湊君、どうも私はぶっ!?」
コウタを蹴り飛ばした後、ヨウコは飄々としているリョウマの顔面を殴り飛ばした。
椅子ごと転がる兄弟に、ヨウコは冷ややかに告げる。
「兄弟喧嘩はするな、と言ったはずよ。それとリョウマ、私の前でアイドルを貶す時は殺される覚悟をしなさい」
「そっちかにゃ!?」
思わず凛が突っ込んでしまうが、一連の出来事を見てタカトラがお腹を摩りながら言う。
「ミツザネ。悪いが葛葉と九紋を連れて市街地で時間を潰していてくれ。リョウマが話す度に喧嘩されては進まん」
「…………………わかったよ。正直、僕もコウタさんがぶん殴ってくれてせいせいするかと思ったけど、このままだと僕も手を出しそうだしね」
そう言ってミツザネは溜息を吐いて吹っ飛んだコウタの首根っこを掴んで立ち上がらせて出口へと歩いていく。その際に倒れているリョウマのつま先を踏み、穂乃果と海未の横を過ぎる瞬間。
「すみません、アキトから目を離さないようお願いします」
「えっ…………」
その真意を確かめる事は出来ずに、ミツザネはコウタとカイトを連れて退出してしまう。
それを見届けて鼻から垂れる血を拭いながら、リョウマはやれやれと立ち上がる。
「さて、邪魔者はいなくいなったね」
「えっ…………」
「あの3人がいると、たぶん君も素で話せないだろうからね。少々強引なやり方で排除させてもらった。前から噂は聞いていたけど、μ'sなんかよりも興味をそそられる研究対象だ」
そう言って、リョウマは冷たい瞳で穂乃果を見つめてきた。いや、その眼差しは穂乃果に向けているのはなく、後ろに立っている少年。
アキトに向けられたものだった。
「会いたかったよ、啼臥アキト君」
「………………男には興味ないんだけど」
露骨に嫌そうな顔を浮かべて、アキトは返す。その顔には珍しくはっきりとした嫌悪感が出ており、ありありと近寄りたくないといった感情が読み取れた。
「啼臥アキト。生まれてまもなく母親が出産の影響により死亡」
「えっ…………」
「リョウマ、貴方何を…………!?」
突然リョウマが語り出したのは、アキトの経歴だった。
「男手で育てられ幼稚園でそこの小泉花陽と星空凛に出会い、小学3年生頃の冬に近所で仲良くしていた猫を死なしてしまった事をきっかけに仲に亀裂が入り、以降は小学生までは一緒に行動していたが中学は別々の学校に通ったがために細々と生きてきた。卒業後は実家のラーメン屋の手伝いをし、ミツザネ君達の転入を契機に仲を取り戻す。間違っていたら訂正してくれるかな?」
「ど、どうしてアキトの経歴を!?」
「我々はメガコーポ、ユグドラだよ? アーマードライダーとしても特殊な立ち位置にいるコウタ達の近辺にいる人間に疚しかったり要注意人物がいないか調べるのは当たり前さ」
真姫の反論にこれっぽっちの罪悪感を含めずにリョウマは続ける。
「その中でも君はなかなか興味深い経歴を持っているからね。どうだい? 母親の命を喰らって生まれてきた感想は?」
それはアキトのような特殊な生まれ方をしてきた子供にしてはならない言葉だ。
ぞわりと、穂乃果の奥底で様々な感情が入り交じった。穂乃果は凛達ほどアキトの事を知っている訳ではなく、アキトを産んだが為に母親が亡くなったという事も今知った。
しかし、それを今会ったばかりの人間が安安と口にしていいはずがなく、それを平然と聞くあたりこのリョウマという人間はどこか壊れているのでは、と思ってしまう。
それを認識してしまうと、怒りだけでなく恐怖も湧き出てきた。この男は人間の形をした別の何かではないかと、人間の常識を逸脱した何かなのではないかと本能が警鐘を鳴らしてくる。
「っ、貴方………!」
例えクライアントだったとしても、人間のプライバシーを蔑ろにする言い方に絵里が吠える。
「聞いていい事と悪い事があります! それに、彼は音ノ木坂学院の生徒ではない! 私達ならともかく、無関係な彼の個人情報を調べるのは………!」
「私にまともを期待するなら放棄する事をオススメしよう。私は研究者……気になったら解決しないと気が気でない性分でね」
それに、とリョウマがにやりと嗤った。まるで玩具を今から壊そうとする残虐性を秘めた無垢な子供のように。
「今、君は彼を無関係だと言った。ならばμ'sは無関係な彼を無意味な合宿や興味の惹かれないこの打ち合わせに連れてきた、という事になるけどいいのかな?」
「なっ………!」
リョウマの指摘に絵里は絶句してしまう。
「そんな小学生みたいなこじ付けに………!」
「おや? こじ付けかな? 君は即答で否定をせずに間を置いた。それは無意識でそうなのでは、と自問した証拠だ。つまり、心のどこかには無関係な彼を意識していたはずだよ」
「ち、ちがっ………!」
「違わないさ。何故ならそれは紛れもない事実であり、君達から見て啼臥アキトはμ'sとして無関係なのだから」
まるで貶める呪詛のように。
まるで間違いを指摘する教師のように。
追い詰めるかのように、その言葉は穂乃果達の心を抉った。それを直接受けている絵里の瞳は大きく揺れ、今にも罅割れてしまいそうである。
「さぁ、反論があるならぜひしてくれたまえ。私はそれを望んでいる。そうだ、アキト君。ぜひ君の意見も聞かせて………」
そこでリョウマの言葉が途切れた。彼だけでなく穂乃果達もぐるぐると回っていた思考が止まり、μ'sの輪から抜け出ていく影を凝視する。
勝手に話題に出されてあれやこれやと言われたアキトは、付き合ってられんと言いたげにμ'sの輪から離れた。
そして、先ほど組体操でリョウマが激突したダンボールの山まで歩くと、それを漁り始めた。
「…………勝手に研究資材を漁らないでくれるかな?」
「あ、茶番終わった?」
そう言ってアキトは立ち上がると、面倒そうに欠伸をした。
「で、俺はどう反応すりゃいいんだ? 腹ァ抱えて笑えば気が済むか?」
「…………ほぅ」
初めて、リョウマの顔から飄々とした色が消えた。玩具を見つけた子供のような態度が消えて、まるで敵を見つけたかのような気配を纏う。
それは敵意にも似た感覚であり、オープンキャンパス後の亀裂に入っていた時に穂乃果がカイトから受けた感覚に似ていた。
そして、あの時と同じようにそれを直で受けているというのに、アキトは涼し気に
穂乃果の心を良くない何かが掴む。このままリョウマとアキトを話させてはいけないと本能が警鐘を鳴らしているのに、その空気に圧倒されて言葉が出なかった。
「やはり君は興味深いな。普通、こんな事言われたら怒りが込み上げてくると思うけど?」
「自分で言っといてか。簡単だ、アンタがそういう人間だって思えばいちいち腹立つのもバカバカしく思えてくるだけ」
アキトは間髪入れずに続けた。
「本当にμ'sに興味が微塵のほどもなくて俺に興味があるのなら、部外者って事を理由に別室に案内すればいい話しだしね。俺の経歴を出してきたのは単なるトークネタみたいで、小学生が好きな女の子に悪戯しちゃうアレと同じ心理だ」
「……………え、エリチの心をえぐるとか悪戯のレベル超えてるやん………」
「本当に泣き出しそうになってたらタカトラ先生と湊さんが黙ってないですよ。何も言わなかったのはプロフェッサーが本気で言っている訳じゃなかったから」
タカトラとヨウコを見やると、フッと口元を緩めていた。
「すまない。こんなにもリョウマが活き活きしている姿は早々お目にかかれなくてな」
「けど、絵里ちゃんを泣かせようとした罪は重いわ。後で八つ裂きにするから覚悟しておきなさい」
「おぉ、怖い怖い」
もはや慣れているのかリョウマに反省の色はなく椅子に座る。
「よくわかったね? 私が浮ついていると」
「同じμ'sのファンでブラコンだからな」
一瞬。本当に一瞬ではあるが時間が止まった。
リョウマだけでなくタカトラとヨウコの表情も固まり、穂乃果はまじまじとアキトを見やる。
「…………………ねぇ、アキト君。いくら私でも今のやり取りの中でこの人が私達のファンだなんて到底思えないんだけど」
「胸ポケットのボールペン」
その指摘にピクリと、リョウマの柳眉が動く。目を向ければ1本のボールペンが挟まっており、そこから小さいキーホルダーが付いていた。
「それ、この前秋葉原で限発売されたμ'sのキーホルダーだから。俺も買おうとしたけど猛者達には勝てなかったけど………あんまネットに情報出回無かった代物を持ってるって事は、なかなかのコアなファンだって聞いたけど」
何に惹かれたのかまではわからないけどな、とアキトが付け加えると聞き手に回っていたリョウマがなるほどね、と頷く。
「だけど、聞き捨てならないのはもう1つの方だ。誰がブラコンだって?」
「え、これが証拠」
そう言ってアキトがダンボールの中身を拾い上げると、出てきたのは研究者データをまとめたファイルだろう。
その時点でμ's達は気付く。あれ、何か写真のようなものが挟まっている?
ばっ、とアキトが広げてみせるとファイリングされていたのは研究資料などではなく、写真がバラバラに貼り付けられていた。
「って、それ私達の写真じゃない!?」
「えぇっ!?」
にこの言葉に9人はアキトの元に駆け寄り、絵里が奪うようにファイルを手に取り眺める。
貼られていた写真はどれもこれもμ'sとコウタ、カイト、ミツザネが写ったものだが、穂乃果達には身に覚えはない。しかも、全ての目線がカメラに向いていない事を考えれば盗撮したものだという事は明白だ。
「タカトラ先生、どういう事ですか? 納得のいく説明を………」
盗撮とは立派なプライバシーの侵害である。いくら天下の大企業でコウタ達も世話になっているユグドラシルであっても許される話しではない。
海未が問い詰めようも振り返ると、
「い、痛い! 湊君、ギブギブ!」
「リョウマ、なんでアレをあそこに無造作に置いといた訳………?」
殺気を漲らせたヨウコがリョウマの顔面をアイアンクローで鷲掴んでいた。
ギリギリ、と骨が軋む音が聞こえてきそうなくらいリョウマの顔が悲鳴を上げており、穂乃果は困惑した顔でアキトを見やった。
「ねぇ、ギャグとシリアスどっちでいればいいの?」
「ファイトだよ、穂乃果さん!」
様々な意味で振り回された穂乃果は、自分の台詞を取られても追求する事なくため息をついた。
話しをまとめると。
「単に私達をおちょくりたくてわざと煽ったりしたけど、本当はそれなりに曲を聞いたりしてくれるくらいには気に入ってくれてて」
「でも普通の話題では話せないから察しの良いアキト君をダシに使って」
「気を引こうと思ったら思いもしないネタまで暴露されちゃったと」
掻い摘んで説明してくれる真姫、絵里、海未。
わざわざリレー形式で説明された戦極リョウマは机に突っ伏しており、その姿からはとても家庭崩壊を巻き起こした狂人には見えない。
「狂人というより小学生だにゃー」
「ごふっ」
凛の
えげつない事をするなぁ、と思いつつも穂乃果はもはや公開されてしまった
挟まれていたのはμ'sメンバーのものも多かったが比較的コウタ、カイト、ミツサネのものがメインのようである。
「でも、何でこんな事を?」
写真ならば普通に撮ればいいものを、とことりが首を傾げると苦笑したのかアキトだ。
「もうこの年頃になったら家族写真撮ろう、なんて改めて言われても嫌がるだけですよ。恥ずかしいし」
「そういうものかしら? 亜里沙とよく写真撮るけど…………」
絵里の言葉に穂乃果もうんうんと頷く。最近は雪穂と買い物はあまり行かなくなったが、それは時間がないだけで今でも遊びに行こうと思えば行ける。
「そりゃ女の子だからですよ。ましてや、ここにいる3人は弟さんとの仲は険悪。まぁどう考えてもあの3人がμ'sや音ノ木坂の人ならともかく、写真撮影に応じるとは思えないっすよね」
アキトの言葉にそういうものかなぁ、と穂乃果は漠然と思いつつもファイルを閉じる。
「じゃあ、ここにいる3人はさしずめ『弟と仲良くなりたいけど仲良くなれない同盟』って事かにゃー」
凛の容赦ない物言いに年長者3人の身体が震える。それを見た隣にいる真姫が小声で耳打ちしてくる。
「凛って、こんなに毒吐くっけ? それって花陽だった気がするけど…………」
「さぁ? 花陽ちゃん?」
「凛ちゃん、思ったらすぐに口に出しちゃう所あるから…………というか、真姫ちゃんそんな風に思ってたんだね………」
若干のショックを受けている花陽の答えに真姫は納得がいったのかふぅんと頷く。
「…………………まぁ話しは逸れたが改めて言わせてもらおう。ようこそ、スクールアイドルμ'sの諸君。君たちを歓迎するよ、興味深いモルモットとしてね。私の事はプロフェッサーと読んでくれたまえ」
モルモット呼ばわりされたがいちいち腹を立てるのも無駄なのだのだろう。これはこういう人間なのだと割り切るしかない。
「でも、私達はただの女子高生です。そんな戦極ドライバーを開発したような研究者が注目するような事は…………」
海未が言う事はもっともである。穂乃果達は集まった人材は確かに凄いと思うが、そこまで重要な何かを持つとは思えなかった。
しかし、その言葉がトリガーになったかのようにリョウマの目に光が宿る。
「いやいや、君たちは実に興味深い。もちろん、曲というよりも歌声に、だがね」
そう言ってリョウマはキーボードを叩き、プロジェクターを作動させてスクリーンに映像を表示させた。
映っているのは数体の初級インベスが少し広い空間に集められており、そのいずれかもが敵意を漲らせて互いを攻撃しあっていた。神田でもよく見かけるようになってしまった、暴走インベスである。
そこへ、空間のモニターに映像が映し出される。それはことりのメイド喫茶事件で路上ライブした曲『Wonder Zone』だ。
するといがみ合っていたインベス達が次第に落ち着きを取り戻していき、やがて全員が映像の方へ向き直ると楽しむかのように身体を揺らし始めた。曲のリズムに合わせて、踊るμ's達の振りに合わせるように。
暴走していたインベス達が争いの矛を収めて、ライブを楽しみ始めたのだ。
「これは…………」
自分達の歌声でインベスが落ち着いている。その事に絵里が驚きの声を漏らす。
「高坂君、コウタ達の転入初日にインベスに襲われた際、バディインベスが身を呈して守ってくれたね? その時、インベスの声を聞いたと」
「は、はい………」
忘れもしないあの瞬間。ずっと一緒だと思っていたあの子の命が呆気なく失われてしまい、絶望と悲しみに身を食らったあの感覚を穂乃果は忘れそうになかった。
次の子も頼む。そう言ったからこそ、穂乃果は今のバディインベスも大切に扱っていた。友達のように、兄弟のように。
「インベスは言葉を喋らない」
「えっ………」
リョウマの言葉に穂乃果は言葉を詰まらせる。
「少なくとも我々ユグドラシルはインベスが言葉を話したという事例は聞いた事がない」
「そんな……海未ちゃん達もきいたよね?」
穂乃果が海未に同意を求めると、仲間達は困惑した顔をした。
「それが、私達は聞いてないんですよ」
「そんな………!」
あの時確かにインベスは言葉をはっきりと口にした。自分の意思を、想いを言葉にして穂乃果に届けてくれた。
あれは絶対に夢や幻聴などではない。穂乃果はそう言い切れる。
「ちなみに、そのインベスに何か特別な事をしていたのかな?」
「いえ………普通にお菓子を取ってもらったり、リモコンのチャンネル変えてもらったり、電気消してもらったり………」
日頃から頼んでいる事を上げてみると、一同からは呆れの言葉が上がった。
「穂乃果、だらしなさ過ぎです……」
「そのくらい自分でやりなさいよ」
海未とにこの指摘に、確かに恥ずかしい事だと思う穂乃果。もしこれをコウタに聞かれていたら幻滅されるかもしれない。
そう思った途端に、穂乃果の頬が熱を帯びて熱くなる。
「で、でもでも! ちゃんと何かしてもらったらありがとうって言ってるよ!」
「ふむ………インベスは人間からの愛情を糧として生きてる、とは言うもいのの実に興味深い事例だ。出来ればもっと詳しく調べたいところだが、これ以上の茶々は本気で殺されないからね」
飄々と告げるリョウマの後ろではゴホンとわざとらしくタカトラが咳き込み、ヨウコが「タダでは済まないわよ」と言わんばかりにボールペンをへし折っている。
おっかない、おっかないと楽し気に肩を揺らしたリョウマは、「さて」と手を叩いて椅子を回転させて改めて告げた。
「本題を始めようか。特にアキト君はこれが目的で来たのだろう?」
「もちろん」
迷うことなく頷いたアキトはなぜか脇をわきわきと動かして輝かしい笑顔を浮かべ。
「俺だってロックビークルの情報には耳を立ててるからな。聞いた話しじゃ、今までのような乗り物タイプじゃないらしいけど?」
「耳がいいね。そうとも」
そう言ってリョウマはテーブルの引き出しを漁り、それをアキトへ放り投げた。
アキトが受け取ったのは、従来のロックシードよりも大きいもので赤い花がかたどられている。しかし、カイトが使っている薔薇のロックビークルと違う事は穂乃果にもわかった。
「これ、ベゴニアかな?」
隣で覗き込む花陽の言葉に、アキトは頷く。
「ベゴニア?」
「薔薇みたいだけど、違う品種の花だよ」
「花言葉は『自由』だったかにゃ?」
聞き慣れない花の名前に海未が首を傾げると、花陽と凛が補足の説明をしてくれる。
アキトは手の中でロックビークルを転がすと、アンロックリリーサを押して開錠する。すると、ロックビークルは自動でアキトの手から離れて変形していく。
そして、変形が完了したと同時にテーブルにその姿を現した。
「…………………靴?」
ことりが漏らした通り、それは1足の靴だ。普通の生地ではなく、おそらくアーマードライダーは纏うライドウェアと同じ素材で出来ており、どこか冷たい機械的な印象を穂乃果に与えてきた。
「これが新型ロックビークル、R・T『ベゴニレック』さ!」
どや顔で紹介するリョウマに、アキトはまじまじと靴を見つめてぽつりと。
「………………これ、エア・トレ……………」
「これ、ただの靴みたい」
ひょいっ、と凛がベゴニレックを持ち上げると、驚いた顔をする。
「わぁっ、すっごい軽いにゃー」
「……………やっぱ、それエア・トレッ」
「一般の人の使えるのかしら。ただの靴ではないでしょう?」
絵里がリョウマに目を向けると、こくりと嬉しそうに頷いた。
「もちろん。実際にそれを使っている所を見た方がCM撮影にも熱が入るだろうからね」
しかし、とそこで区切った。
「予定ではコウタ達に実演してもらおうと思ってたんだがね」
「ならば、私がやればいいだけの話しだ」
と、タカトラが言い出すもリョウマは手を上げて止める。
「君は今回、このCM撮影を管理しなければならない立場だろう? 客観的に観る必要があると思うけど。湊君はここの警備隊…………有事の際の為にいつでも動けるようにしておかなければならない」
「……………リョウマ。まさか!?」
ヨウコの言葉にリョウマはにやりと笑って、アキトを指さした。
「アキト君。ぜひとも君がやってみないかい?」
「………………テメェ、それが狙いかよ」
えぇっ、とμ'sから驚きの声が上がる。
「もちろん、一般向けされているもんだから危険性はない。が、万が一の為にまずはアーマードライダーに変身してからの方がより安全だからね。それに君とて男の子だ………変身に興味がない訳ではあるまい…………?」
「そういえば昨日、アキトこっそりと変身してたね」
「ちょ、まっ…………!?」
凛の指摘にアキトは慌てた様子で驚くが、まるで自分に言い聞かせるように首を振りかぶるとリョウマへ告げる。
「って言っても、ロックシードないんだけど」
「ふふっ、それくらいお安い御用さ」
そう言ってリョウマは着ている白衣のポケットから新たにロックシードを取り出し、テーブルを転がした。
それは一見すればスイカのようにも思えるが、オープンキャンパスで使われたものとは緑色が薄い。ナンバリングは『L.S.-100』と見た事のないものだ。
それを見たタカトラが、驚愕の声を上げた。
「リョウマ!」
「これも新型ロックシードか………スイカ?」
拾い上げてまじまじと眺めるアキトに、リョウマはタカトラからの叱責を無視して答えた。
「それはスイカの試作品、ウォーターメロンさ。それを君に差し上げよう」
「リョウマ! これをアキトに使わせるつもりか!? こんなガラクタを……………!」
「ガラクタとは酷いね」
自分の作品の酷評にタカトラは拗ねたように椅子に背をもたれ、くるりと回転して背を向けてくる。
「上からそれを実用化させろ、って話しがあってね。研究費削減、っていう脅しに屈してしまったので泣く泣くデチューン版を作ったのさ」
「これって、そんなに危険なものなの……………?」
不安そうに真姫が尋ねると、タカトラが渋い顔で頷く。
「少なくとも、私が使った時は疲労のあまり2日間は寝込んだほどだ」
ぎょっと、一同がざわつく。タカトラは穂乃果達が知る中で最強のアーマードライダーだ。それほどの男が消耗してしまうとしたら、普通の少年であるアキトが使えばどうなるかなど目に見えていた。
「ちゃんとそこらへんは改良してあるさ」
「ほ、他にロックシードはないのですか!? アキトが倒れてしまっては…………!」
乗り出そうとする海未を止めたのはアキトだった。
「改良してあるんならいいんじゃないですかね」
「アキト君!?」
花陽が驚いてその腕に抱き付くが、安心させるように笑う。
「大丈夫だって。それにくれるってんなら、こっちも何かしらしないとな」
「でも……………!」
花陽は止めようとするが、アキトは聞き入れないらしく楽し気にウォーターメロンロックシードを見つめている。
そんなアキトを見て、穂乃果はどうしても止める気にはなれなかった。
決してアキトの身を案じていない訳ではなく、純粋に止められないのだ。
アキトの周りにいる男の子は誰もがアーマードライダーだ。一緒にいる時、何度も暴走インベスやμ'sを気に入らないという野蛮な輩に襲われた事があった。
その時、3人が戦う中で唯一、アキトだけが後ろに下がって穂乃果達と一緒に戦闘を見守る。
その時の、悔し気な表情。友達だけに戦わせて、何も出来ない事が歯痒く感じている。そういった眼差し。
穂乃果は自分は戦えないと割り切ってる。だからこそ、アキトの気持ちが伝わってくる。
自分も戦いたい。力が欲しいのではなく、守りたいが為に。
そんな想いが流れ込んでくるようで、穂乃果は口を開いた。
「本当に危険はないんですか?」
ずっと押し黙っていた穂乃果が言い出したからか、花陽もアキトも驚いて注視してくる。
穂乃果の質問にリョウマは強く頷く。
「ファンとして、君たちを悲しませるような事は絶対にしないと誓おう」
「…………………アキト君は? 本当にいいの?」
穂乃果がリョウマからアキトへ尋ねると、彼は肩を竦めて見せた。
「別に戦う訳じゃないんだし。何かしらあったらタカトラさんが止めてくれるでしょ」
「……………アンタ、自分が危険に合うかも、って自覚あるの?」
あくまで態度を崩さないアキトに、真姫が呆れた声を漏らす。
その小言にアキトは笑って答えて、安心させるように花陽の手を握る。
「大丈夫だって」
「…………………うん」
何を言っても無駄と思ったのか、ようやく花陽が引きさがる。それを確認したリョウマが、嬉々として手を叩きて立ち上がった。
「よし。では準備にかかろうか。他に何か質問はあるかな?」
「……………………………………あの、ロックビークルとはまったく関係ないのですけど」
ふと、海未が手を上げて尋ねた。
「なんだい?」
「前から気になっていたのですが、コウタ達が変身する際に流れる音声………花道オンステージとは何なのですか?」
「それを言ったら、カイトのナイトオブスピアーって…………」
「龍砲、ハッ、ハッ、ハァも…………」
海未、にこ、真姫の言葉にリョウマはこれ以上にないくらい輝いて、無邪気な笑顔で答えた。
「私の趣味だ。いいだろう?」
果たしてそれは必要なのか、という事を海未ちゃんは聞きたかったんだろうなぁ。と思う穂乃果だったが、話がこじれそうだったので何も言わずにいるのだった。
葛葉コウタが所有するロックシード
・オレンジ
・パイン
・イチゴ
・マツボックリ
・サクラハリケーン
次回のラブ鎧武!は…………
「アキト君、君は『変身』したいのだろう?」
リョウマから突きつけられた条件とは。
「アキト君の通信断絶! ヘルヘイム内に電波障害が発生している模様です!」
安全と言った矢先に起きた障害。アキトの身に何が!?
「ぶつかっておいてすみませんの一言だけかよアァッ!?」
「ひっひっひ、そんなうすぎで俺らにぶつかるなんて偉いハリキリ☆ガールがいたもんだ」
「あ、あの………困ります………!」
外国といえど似たような輩はいるもので。
「……………半人前に帽子は似合わないぜ、坊主」
ミツザネを半人前と称す男は一体…………。
そして、ミツザネに訪れた感情の奔流。
次回、ラブ鎧武!
32話:soldier game ~水面に落ちる黒~
どうも、グラニです。
ついに登場しました。
キルプロセス・プロフェッサーリョウマ。
鎧武では教師としての役目を負いながらも外道の中を突き進んだこの男ですが、他のゲネシス勢に漏れず外道値は下がってむしろイイ人っぽくなっております。
本編のプロフェッサーだと書いてると自分の心が折れそうです………それでも外道さはどこかで出したいなと思います←
さてさて、前回でボッコボコにやられたアキト君ですが、特にへたれる事なくリョウマと対面。謎を隠そうとせず飄々と突き進んでいるアキトの興味深々のようです。これは薄い本が厚くなるわけないです。
ゲネシス勢が作品で全員出た訳ですが、
タカトラ⇒正直者ブラコン
ヨウコ⇒可愛い子大好きブラコン
リョウマ⇒外道ツンデレブラコン
誰かしらの上ですね。
おや、という事はシドは……………?
というか、原作に一番近いのもシドとは…………
新たに出したオリジナルロックビークル、ベロニレック。まぁ某少年マガジンで連載していたあのインラインスケートバトル漫画が元です。好きなんですよ、あれ。
次回でやっぱり無事に済む訳ないアキト君の受難をお楽しみに!
さっそくコラボ回への布石、ありましたけどわかりましたよね?
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話しのネタバレなどやってるかもしれませんので、良ければどうぞ!
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