ラブ鎧武!   作:グラニ

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明日はいつだって白紙(ブランク)

自分の事は自分が決めるものさ


その内なる鼓動で弾ける想いに従って。





29話:Anything Goes ~その心が熱くなるもの~

ラブライブ!出場に向けて合宿をする事となったμ'sとチーム鎧武。

 

ユグドラシル所有のリゾート人工島『イーヴィングル』を訪れた一同は、インベスに襲われている少女アネモネを助け、その保護者である瀬賀長信と出会い夕飯と共にする。

 

μ'sの随伴教師、呉島タカトラの恩師でもある長信との再会に一緒に晩を過ごす事となり、学生らしく大人を追い出して遊びに呆けようとする星空凛、部活らしく練習を提案する園田海未、夢の世界に飛び出そうとする西木野真姫。

 

それぞれの思惑は明日以降に持ち越す事なり、真姫の提案通り就寝する事になった。しかし、そんな事で高校生達の好奇心が収まるはずもなく、枕投げを始めてしまう。

 

それにより覚醒する狂戦士と、散っていく仲間達。

 

結果はされおき、帳が深くなった時間帯に目覚めた凛は幼馴染の啼臥アキトの姿がない事に気付く。

 

外へ探してみれば、闇の海辺に立つ幼馴染の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し露骨過ぎたかな、と思いつつも啼臥アキトは冷蔵庫から取り出したつまみ(と言っても安売りしてた生ハムともやしの塩胡椒炒めだ。どこへ行っても安さに目が眩むのは庶民の宿命なのである)と酒瓶を2本ほど持って、もう一度砂浜へと戻る。

 

砂浜に腰を下ろしたアキトは酒瓶を開けて一飲みをして、息をついてからタッパーに押し込んだ生ハムを割り箸でつまみ出す口に放り投げてから寝転んだ。

 

μ'sの合宿に付いて来ないかと言われさっそくぶち当たった壁をゴリ押しとも言える方法で乗り切ったはいいが、次に降りかかって来た問題に日常生活を送りながらもずっと頭を悩ませていたのだ。サラリーマンではないが酒を飲む時くらい、考える事を放棄しても罰は当たらないはずだ。

 

ほろ酔い状態で眠気も襲ってくるが、息を吐いて脳に酸素が送られる。アキトはその感覚を意外にも気に入っていて、広がる星空を見つめた。

 

キラキラと宝石箱をぶちまけたように輝く空に、しかしどこか形状し難い冒涜的な色を秘めた海のようにも見える。

 

アキトにとってどこにいてもいつでも、夜空の闇とは得体の知れない何かであった。それを理解してしまえば正気ではいられなくなり、人の領域から外れてしまう。

 

「………武神鎧武」

 

そんな事を思いながら、出会ったアーマードライダーの事を思い返す。特に瀬賀がそう言った訳ではないが、あの苛烈な強さは武神と呼ぶに相応しいものでデザインが鎧武と同じならばそう呼ぶのも悪くはないだろう。

 

大量のインベスに強襲されたアネモネに、その知り合いだという瀬賀。その出会いの前、島に到着して早々ユグドラシル社員に連れていかれたタカトラ。そして何より、あのサガラの警告。

 

それらを偶然と一言で納得出来るはずもなく、アキトの中では見えない脅威が渦巻いていた。

 

この島には多くのアーマードライダーが滞在しており、それはインベスによる暴動に対するものであるのと同時にテロなどへの抑止力となっているだろう。その戦力は絶大であり、誰もテロの標的にこの島を選ぼうとは考えない。

 

しかし、脅威は迫っている。この島を落とせる力を持つ存在が確実に。

 

「………だー、なんでこう問題が山積みっていうか」

 

現実逃避したくて思わず愚痴ってしまう。

 

アキトは謎キャラを前面に出しているし、わざとそういう風に振る舞っている。だが、それでも戦う力はミツザネよりも下だ。ゲネシスドライバーの恩恵のおかげで黒影部隊よりかは優位に立ちまわれるが、もしも今手にしている戦極ドライバーでマツボックリロックシードで戦えば黒影よりも劣っている自信はあった。

 

はぁ、と重苦しい息を吐いて目を閉じた直後、突然顔面に何かが当たる。それと同時に頭上に立足音。

 

「あ………? えっ…………」

 

「………………っ」

 

そこに立っていたのは床に入ったはずの幼馴染、星空凛だった。

 

しかし、その背格好は先ほどのような寝間着とはうって変って、浜辺に相応しい水着姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###########

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の事態にアキトの思考は困惑していた。何故、再び寝たはずの凛がいる。それもどうして水着姿なのだ。Why? 何故?

 

そんなアキトの思惑を知ってか知らずか、恥ずかしそうに頬を染めて凛はそっぽを向いてしまっている。

 

凛が着ている水着は昼間、遠巻きで見えた撮影時に着ていたものとは異なっていた。撮影時の水着は臙脂色を基調としていたバンドぅビキニというタイプで、その上からオーバーオールのようなデニム生地の上下を着込み、さらにμ’sのマークが入った帽子を被るという泳ぐよりもパフォーマンス特化であった。

 

しかし、今の姿は左は黄色で右に白黒のラインというデザインのホルターネックが着いたビキニだ。

 

確かに凛は胸は大きくないが、逆にそれが日々の練習によって程よく締まった身体とマッチしており、さらに凛が恥じらうようおへそを腕で組んで隠しているので。

 

長々と語っても仕方ないので、要するに可愛かった。

 

「…………………だ、黙ってないで何か言ってよ……」

 

ちらりとこっちを見てから凛が言ってくるが、突然現れた幼馴染みの水着姿にアキトはドクンドクンと鼓動が弾けてコメントどころではない。自分の中で弾ける音が凛にも聞こえていないか心配になるくらい、珍しく狼狽していた。

 

何せ、数年久しくアキトは凛の水着姿を見ていなかった。喧嘩別れしたのは小学生高学年に入る前だったので、実に6年ぶりとなるだろうか。

 

幼かった記憶の凛よりも成長しているのは当たり前だが、やはり可愛くなったとは思う。それでいて、凛は女の子だと認識せざる得ない。

 

μ’s1番の運動神経を誇る凛の身体は、どこにそんな力が秘められているのかと思うくらいに華奢で、女の子特有の綺麗な肌で。

 

そして、何より胸が、

 

胸が………、

 

胸、が……………。

 

「まるで成長していなっ!?」

 

アキトの思考を呼んでいたのか言い終わる前に、顔面にビーチボールが遮るように飛んできた。

 

「………………て、言うかなんつー格好してんの」

 

ぼとりと剥がれ落ちたビーチボールを両手でキャッチして問いかけると、凛は猫のごとく怒っていた表情から気恥ずかしさを孕んだ顔に戻って言った。

 

「せっかくの海でアキトと遊べないなんて勿体無いから、わざわざ着替えてきたんだよ。感謝するにゃ!」

 

何故に上から目線と思うが、要するにアキトと遊びたいという事か。昼間はアキトがグロッキーで、夕方からはインベスト騒ぎや夕食で遊ぶどころではなかった。

 

今日の様子を見るに遊べるとしたら明日の花火だが、きっと浜辺ではなく貸別荘の庭でやるのだろう。

 

もし水着で遊ぶとしたら、今日くらいしかない。だから、わざわざ着替えてきた。

 

バカだなぁ、とアキトは細く笑んだ。凛はそれほど朝に強い訳ではなく、早起きは苦手な方だ。知り合いの双子の話しだと中学時代に所属していた陸上部の早練にはよく遅刻していたというし、特にμ’sのオカンこと園田海未に叱られる未来は容易に想像出来た。

 

確かに海には久しぶりに来たが、二度と来れない訳じゃないというのに。

 

まるで今を惜しむように焦る必要はないのに、そんな幼馴染みが可愛くて。

 

「………にゃっ!?」

 

ついつい、ビーチボールをお返しに凛の顔面へと投げつけた。

 

「な、何するにゃ!?」

 

女の子と男の子ならば当然、腕力には差が出てしまう。しかも不意打ちのような形で投げたビーチボールは、凛の顔面にクリティカルヒットしたのだ。

 

涙目になりながら訴えてくる幼馴染みに、アキトはにやりと笑った。

 

「遊ぶんだろ? 猫の相手も飼い主がするのがルールだ」

 

御丁寧な親指でくいくいっ、と挑発を向けると、凛はむっと顔を顰めてからにやりと笑った。

 

「上等! タイマン張らせて貰うよ!」

 

そう告げた凛は足元のビーチボールに足の爪先を引っ掛けて、自身の頭上へと蹴り上げた。それを額でさらに高く打ち上げると、身体をくるりと半回転させながら軽く宙返り。

 

何と即興でオーバーヘッドキックを放ったのだ。

 

「まじで!?」

 

「大マジにゃ!」

 

予想以上の動きに驚く 間もなく飛び込んでくるビーチボールを胸板で受け止めると、酸素を吐き出しそうになるのを堪えて何とか繰り返す。

 

凛はオーバーヘッドキックをした反動で背中から浜辺へ落下しちというのに、ハンドスプリングの要領で起き上がると、その場でバク転をしてその勢いで蹴り返してきたのだ。

 

「いやそれは可笑しいっ!」

 

叫びながらもあらぬ方向へ飛んで行ったビーチボールを追いかけて、アキトは足を走らせる。浜辺からさらに海へと落ちたビーチボールに手を伸ばして、そのまま背中を蹴られて海へと飛び込んだ。

 

「ぶっ……! げほっ、何しやが………ぐほっ!?」

 

「にゃっははー!」

 

振り返って抗議しようとした所で、凛が海水を浴びせてきて咳き込んでしまう。それに追い打ちをかけるようにばしゃばしゃと海水をぶっかてくるので、アキトもビーチボールを捨てて負けじと海水を掛けて応戦する。

 

そこからは普段のようなじゃれ合いだ。海水での掛け合い飽き足らずに浜辺で空き瓶をフラッグに見立ててもビーチフラッグ。再びビーチボールを使ってのバレーやサッカーもどき。

 

自由気ままに遊ぶその姿がまさしく子供の頃のようで、あの時の感覚が自然と蘇って来た。

 

しかし、やはりどこかしら凛も大きくなったんだな、と感じる時はある。じゃれ合って時折触れた肌は柔らかくて、決して口にはしないが女の子特有の甘い匂いもするし、そして何より。

 

「……………ったく、昔は互角だったのにな」

 

肩を上下させて荒々しく呼吸をして浜辺に寝そべりながら、同じように寝そべって夜空を見上げる凛を見やる。

 

疲労感を見せるアキトと比べて、凛はまだ余裕を残していいる風だった。遊んでいた頃は同じか、むしろアキトの方が体力では上だったというのに。

 

「にゃはは。中学は陸上で今はスクールアイドル………ラーメン配達をバイクてやってるアキトとは鍛え方が違うの」

 

凛の言葉にアキトは気付かれないよう不満げな顔をする。アキトとて秘密のアーマードライダーとして戦う身なのだから、それなりに鍛えているつもりではある。と言ってもネットに挙げられている護身術や格闘技、他にはアクション映画の動きなどを見て真似ているだけの見様見真似であり、あまり体力系統のトレーニングはしていないのだが。

 

やっぱ基礎トレーニングもした方がいいのかなぁ、と考え込んでいると不意にだらんと伸ばしていた右手を凛が握って来た。

 

「………………どうした?」

 

「ううん、なんとなく…………アキトがこうして隣にいるのって当たり前のように思ってたけど、そうじゃないんだなぁ、って………」

 

優しく、まるで腫物を触るかのように手を握ってくる理由は不安からか。

 

当たり前だと思っているものが、その実当たり前ではなくて特別だった。そんな事は生きている中でよくある事だ。

 

こうしてアキトがこの場にいて、凛が隣にいて星空の下で浜辺に寝そべって。

 

青春っぽくてロマンチックな空気に、少しばかり握っている手が強張ってしまう。凛も気付いたようで、楽しそうに笑っていた顔をあらぬ方向へ向けてしまう。

 

アキトも顔が赤くなり空を見上げる。雲が少なく星々が輝く海は、まさしく星空だ。

 

昔、初めて凛の苗字を欲し星の空と書く事を知った時、もう1人の幼馴染である小泉花陽も交えて天体観測をしたのを覚えている。あの時は小学校の屋上に内緒で忍び込んで、今と同じように右側に凛がいて左側には花陽がいた。

 

結局、忍び込んだ事が学校側にバレて、両親を巻き込んで怒られてしまった。しかし、結局は3人が共有したのは『楽しかった』という気持ちだ。あの奥手の花陽でさえも「またやりたいね」と笑って言ってくれた。おそらく学校の屋上ではなく、どこか公園などで、という意味でだろうが。

 

懐かしさを覚えていると、凛がくすりと笑った。

 

「何?」

 

「うん、昔小学校の屋上で星を見たのを思い出してね」

 

「お前もか」

 

同じ記憶を思い出した、という事にアキトは笑う。

 

「たくさん思い出、あるよね」

 

「そりゃ、幼稚園からの付き合いだからな」

 

「覚えてる? かよちんがアイドルになりたいって言いだしてマネージャーとかプロデューサーとかのごっこ遊びしてたの」

 

「幼稚園の時だろ。最終的に同じ組のみんなを巻き込んでかよちんが緊張で歌えなくなって、みんな入り乱れての大合唱会になった」

 

「まさか凛までもが今ではアイドルやるなんてあの時は思わなかったなぁ」

 

「ウチの厨房に真っ黒クロスケが出て、捕獲しよう凛が言い出したんだよな。で、常連さん達を巻き込んで探しまくった」

 

「結局、それはゴキブリで見つけた瞬間かよちんが気絶しちゃったんだよね。悪い事しちゃったな」

 

「つーか、俺的には親父がゴキブリに卒倒しかけたってのがショックだったな。大の男がゴキブリで悲鳴を上げるってさ………」

 

「そう言うけど、アキトも虫嫌いでしょ? 小学校の頃、課外授業コオロギを捕まえようって行ったらたまたまカマキリの産卵があって気絶したのはどこの誰だったかにゃ?」

 

「いや、だってアレグロ過ぎでしょ。なんか思い出すのも憚れるくらい、覚えてないけど。思い出してないけど」

 

「その割には手が震えてるにゃー」

 

「震えてないですけど。これはあれですよ、流石の夏場でも夜は冷えるなーっていう肌寒さからの震えですよ」

 

「…………………じゃあ、凛が温めてあげる」

 

は、と聞き返すよりも先に凛がアキトの腹部に跨って来た。その頬は紅潮しており、どこか何かの決意を秘めた瞳だった。

 

「何やって……………」

 

「寒いって、言ったから」

 

「いやいや、どきなさいよ。重い」

 

「むっ、他のみんなより胸がない分軽いと思うんだけど」

 

「そりゃまな板だからことりさんとかと比べれば軽いかもしれないけどまな板にはまな板だttぐほっ!?…………………いや、とりあえずどいてくれない? なんか色々とさ」

 

「とりあえず鼻から出てる血、拭きなよ」

 

「今お前が殴ったんだろ!? どうしたマジで! らしくねぇぞ!」

 

アキトの鼻から出ている血を拭った凛は、細く笑む。その姿が今まで知っている凛とは異なり過ぎていて、一瞬だけだが目の前にいる少女が本当に幼馴染なのか疑ってしまったほどだ。

 

しかし、どこからどう見ても跨っているのはアキトの幼馴染で、ラーメンが大好きで、猫が大好きな猫アレルギー持ちの、

 

女の子だ。

 

そう認識した瞬間。認識”してしまった”瞬間、アキトの中でよくわからない感情が渦巻く。いや、その感情を正体をアキトは知っていた。理解もしていたし受け入れていた。

 

しかし、それがいざ表に出ようとなった瞬間、自分でも不思議なくらい抑え込もうとする自分がいた。

 

「うん、ちょっとは夏に浮かされて素直になってみようかな、って…………」

 

「いやいやいや。お前さんが素直になったら真っ先に出てくる言葉はラーメン次にチャーシューで味玉で次にかよちんだろ?」

 

普段ならおちょくればすぐに顔を憤怒で真っ赤にして言い返してくるのに、凛はそれを顔を紅潮させているものの瞳は真っ直ぐにアキトを捉えていた。

 

そっと、凛の手がアキトの頬を撫でる。

 

「おい、凛…………!」

 

「…………………だって」

 

絞り出すように吐き出した凛の声は、震えていた。

 

「当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなくて、特別なものだって知ったら………今がとても大切に思えて…………」

 

「おいおい、酔ってんのか………?」

 

本当に普段の凛らしくなくて、アキトはちらりと先ほど飲んでいた瓶を見やる。

 

遠目で暗くてはっきりとは見えないが、どこかアキトが飲んでいた瓶と同じラベルが見えた。

 

「って、酔ってんじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「アキト……………」

 

よく見れば決意をした瞳は目が据わっているだけで、とろんとした妖艶の喋り方も酔いで呂律が回っていないだけだ。

 

流石に幼馴染、それも今回の合宿で大切なアイドルを酔わてしまったという事実に焦りを覚えつつも、アキトは頬を撫でる凛の手を掴む。

 

「冷静になれ! お前酔ってるだけだ!」

 

「凛は冷静だよ。だから、素直になろうって思えた」

 

「うん、冷静だね。テンションはシリアスっぽいけど目が完全にギャグだよ、これ!」

 

「アキト、聞いて!」

 

らしくない。らしくないけど、必死の声にアキトはつい黙ってしまう。

 

凛はそっと、掴んでいないもう片方の手でアキトの顔の横に手を置いて顔を近付けてきた。

 

「アキト、凛ね…………凛ね………」

 

思わずごくりと息を飲み込んでしまうくらい、アキトは凛の放つ威圧に飲み込まれていた。

 

何となくではあるが、その言葉の続きは予想出来た。それはきっとアキトも心から望んだもので、きっとこのまま黙っていれば、少なくともアキトと凛の2人には最良の未来が待っているのだろう。

 

 

-------これが貴女の運命(さだめ)

 

 

だからこそ、尊敬する人と大切な先輩の想いを奪った、あの矢を放った時の感覚が蘇った。まるでその結末を許さない呪いのように、重くアキトの心を縛り付ける。

 

「…………凛」

 

顔を近付けてくる少女に抗うように、空いている手でその口を塞いだ。

 

「むぐっ…………?」

 

「もうやめとけ。古い酒を飲むと悪い酔いするからさ」

 

受け取ってはならない。その気持ちは。

 

届けてはならない。その想いは。

 

叶えてはならない。その願いは。

 

掴んではならない。その手は。

 

それがアキトに課せられた役目で、自分で選んでしまった道なのだから。

 

 

 

 

 

 

「あれれー、なんだよイチャつき終わりかよー」

 

「きゃー、もう可愛いんだからー!」

 

 

 

 

 

ビクッ、とアキトと凛は身体を震わせて同時に声を方へ眼を向ける。

 

そこには近くの別荘に止まっているのか比較的若々しい水着姿の男女がいた。男は金髪で女は茶髪。どちらも日焼けしているのか肌は焦げ茶色で水着のずれている所から元の肌の色が見えて、どこか不健全な印象を持たせた。

 

「あ、アンタ達は…………?」

 

「俺? あぁ、気にしないでくれよ。近くの別荘にバカンスに着てるカップルだからさ」

 

そう言って男は無遠慮にアキトが容易したつまみを口に入れて手に持つビール缶を飲み干す。

 

「夜の浜辺ってロマンチックだからデートしてぇ、よしんばちょっとアブナイ遊びもしちゃったり、なーんて思ってたんだけど。先客の子供達が甘酸っぱーい思い出作りに勤しんでたから、お姉さん達も声を掛けづらかったわー」

 

ほわわんとした感じで言ってのける女の言葉に、アキトは慌てて否定の言葉を口にする。

 

「いやっ、俺とこいつはアンタらが思っているような関係じゃ………!」

 

「こら、そんな事言わないの。そっちの子、泣きそうな顔してるわよ? 断るなら断るで、きちんとその言葉を受け取りなさい。言葉には人の想いが乗ってるんだから、きちんと言葉を交わしなさいな………私ちょっと大人っぽくない!?」

 

アキトが凛の顔色を窺うと、見られたくないのか俯いてしまった。その事に罪悪感を感じつつも、きゃっきゃとはしゃぐ女の言葉を噛み締める。

 

言葉には言霊がある。わかっている。言葉には人の想いがあり、言葉とは人の想いを伝える為の手段だ。

 

だからこそ、その言霊を受け取ってはならない。受け取り、届けてしまえば無事では済まなくなる。この場も、世界も。

 

そんなアキトの葛藤を知るはずもなく、女はそうだと手を叩いて焼き魚を持つ男を見やる。

 

「ねぇ、私達が子の子達に言葉以外で想いの伝え方、伝授しましょうよ!」

 

「おい、言葉には想いがあるってのはどうした。いい事言ったんだぞ、アンタ」

 

コロッと相応の軽い口調で告げる女に、アキトは年上であるという事実を忘れて思わず突っ込む。

 

「正仁?」

 

しかし、少し出てきたギャグ空気は一蹴された。

 

女が呼びかけてみるも、男は「これ美味そうだなぁ」という表情でアキトの焼き魚を持ったまま硬直しているのだ。

 

不審に思ったアキトは男を見て、気付く。

 

男からさらさらと何かが零れ落ちている。浜辺なのだから砂かと思ったが、それは男の手や頬といった()()()()()()()()()

 

それを見てアキトは瞠目し、女は悲鳴を上げる。凛もその声で顔を上げて、信じられないものを見るように口を手で押さえる。

 

女と凛は信じられない現象による反応だが、アキトは異なった理由で驚いていた。

 

馬鹿な。どうして()()()()()()()()

 

それはこの世界では起きるはずのない現象だ。人間が新たなる人類へ進化へ至る為の、ある意味でヘルヘイムの森の侵略とと同じ意味を持つ試練。

 

「ま、正仁!?」

 

「待って、触れたら…………!」

 

女が触れようとするのを阻止しようとするも、アキトよりも先に男に触れてしまう。

 

瞬間。男の身体は全身が灰となり、崩れ落ちた。

 

「正仁っ!」

 

「えっ…………」

 

目の前で人が灰となった。その事実に女は愕然となり凛も恐怖を感じてアキトの腕にしがみ付いてきた。

 

アキトは歯噛みして視線を上へと上げる。男が据わっていた背後には岩場があり、そこには人影があった。月明かりと暗がりで表情までは見えないが、にやりとその口が歪んだ。

 

瞬間。

 

その人物の顔に紋様が浮かびあがり、その姿を化け物へと変質させた。

 

「い、インベス…………じゃない!?」

 

人間が怪物になった。その事実に凛がぎゅっとアキトの上着を掴んでくるが、安心させられるような言葉を投げかけている暇はない。

 

アキトはすぐに駆け出して男だった灰を踏みつけて、酒瓶の傍に置いてあった戦極ドライバーと愛用しているバナナロックシードを掴む。

 

「きゃぁっ!?」

 

その間に女は未知の怪物の出現により悲鳴を上げながら逃げようとしていたらしいが、悲鳴を聞いて振り返った。

 

逃げようとした先に、新たな人影が女の前に降り立つ。

 

それは無機質の機械のようなフォルムをしており、アキトの目を特別に引いたのは胸元にあるプレートだ。それはまるで車に付いているナンバープレートを彷彿させるもので、特に数字は刻まれていない。

 

「い、いやぁっ………!」

 

ソレは怯えきってしまった女の頭をみちみちと嫌な音を立てる勢いで鷲掴む。

 

それを見て何をするかわけらなかったが、即座に嫌な予感を覚えたアキトは凛の腕を掴んで抱き寄せると、自分の身体で見えないようにする。

 

もはや女は悲鳴を上げない。それどころか声すらももらさない。

 

何せ、怪物は女の頭を身体から引っこ抜いたのだ。比喩表現ではなく、本当に。

 

ぶしゅりと形容し難い音と共に女の頭と胴体が離れ、胴体は膝を付いて浜辺に倒れる。そして1、2回ほど痙攣した後ぱたりと動かなくなった。

 

女の頭は握りつぶされ、怪人の手から血液やその他諸々の液体と共にこぼれ落ちていく。

 

そして2体の怪物は、アキトと凛へ向き直る。次の標的に定められたようで、戦意がひしひしと伝わってきた。

 

「お前達は………」

 

アキトが問い掛けてみるも返答しそうな気配はなく、どちらもこちらとの間合いを測っているようで身動き1つしない。

 

頭痛がする。それは酔いからのようでこの事態に対しての打開策を思い付こうと思考がフル回転しているのか、それとも目の前に立ちふさがる本当の”死”に対して認めたくないが為に脳が拒絶しているからなのか。

 

そのいずれかはともかく、この場を死で支配している2体の怪物をアキトは知っている。

 

人間が変質させた方がオルフェノク。新人類として世界に君臨させんとしている人間が進化した姿だ。

 

もう一方はロイミュード。とある科学者が作り出した増殖強化型アンドロイドだ。人間に作られ、人間を超える為に人類に牙を剥いた存在。

 

どちらもこの世界に存在するはずのない、インベス同様に人類に立ちはだかった試練である。

 

アキトは腕の中でカチカチと歯を震わせてるほど恐怖に染まっている凛を抱きしめながら、強く戦極ドライバーを握り締める。本来使っているゲネシスドライバーは今この場にはなく、実家のバレない所に隠してある。

 

無論、何が起こるとも限らないのでインベスに頼んですぐに持ってきてもらいう事は可能だが、背中には凛がいる。彼女の前でデュークへの変身は出来ない。命の危機に瀕していても、それは絶対の契約であった。

 

デュークに変身出来ないのであれば、現状を打破する方法はただ1つ。

 

この戦極ドライバーとバナナロックシードを使ってアーマードライダー黒影へと変身し、撃退するしかない。

 

それはかなり分の悪い賭けである事に違いはないが、アキトは他の方法を考えている暇はなかった。

 

オルフェノクが図太い腕を構えたのを見て、凛を抱きしめたまま横へと飛び去る。砂浜を転がりながら腹部に戦極ドライバーを当てると、銀色のベルトが伸びて腰に巻き付く。

 

そして、バナナロックシードを構えたその腕を、青い顔のままの凛が両手で抑えた。

 

「あ、アキト……戦わないって……………!」

 

「この非常時にそんな事言ってられるかよ!」

 

「でも、無理だよアキトにアーマードライダーなんて! ミッチ達に助けを…………」

 

「どうやって!? 携帯もない。貸別荘に行くにはこいつら突破して階段登んなきゃならない。辿り着く前にこいつらにやられるがオチだ!」

 

緊急事態なので声が荒々しくなりつつも、アキトははっとなって凛を押し飛ばす。直後、2人がいた場所にロイミュードが放ったであろうエネルギー弾が命中し、砂が舞いあがった。

 

迷っている暇はない。震える手でアキトはバナナロックシードを開錠する。

 

 

『バナナ!』

 

 

敵を前にして変身した事は、今まで何度もあった。それでも手が震えてしまっているのは、普段使い慣れているゲネシスドライバーではないからだろうか。

 

きっと、インベスではなく明確な殺意と敵意を持っているオルフェノクとロイミュードだからだ。ここまではっきりと殺意を向けられた事はないので、それで四肢が恐怖してしまっているのだ。

 

だが。

 

もし、ここで恐怖に負けて逃げ出してしまえば、凛がどうなるかなど火を見るよりも明らかである。

 

そう考えると、すぅーっと頭が冷えていく。頭痛は未だに止まないが、それでも熱く沸騰しそうになった思考が冷静になっていく。

 

「……………っ!」

 

 

『ロックオン』

 

 

それでもやはり焦っていたのか、魔法の4文字を口にする事なくバナナロックシードを戦極ドライバーのドライブベイにセットし、スライドシャックルを差し込む。

 

ギター調の待機音は凛へ狙いを定めようとしていたオルフェノクとロイミュードの意識を引き寄せ、ゆっくりと振り返ってくる。

 

「っ、おおおぉぉぉぉっ!!」

 

雄たけびと共にカッティングブレードをスラッシュしロックシードのキャストパッドを展開すると、頭上のクラックから待機していたバナナアーマーパーツが落下してきてアキトの身をライドウェアが包み込む。

 

 

『バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』

 

 

アーマーパーツを被り展開姿は、ユグドラシルに多く存在している量産型アーマードライダー黒影がバナナアームズを装着したものとなる。

 

バナスピアーを握り締め、普段よりも弱い力で大切な人を守らなければならない。

 

その事実に恐れを抱きつつも、アキトは砂浜を蹴る。

 

普段なら騎士が纏うアーマーを足軽風の戦士が纏うという奇妙な姿になってしまったが、それでもアキトが変身したアーマードライダー黒影は召喚したアームズ、バナスピアーに目を落とす。

 

突撃槍など使った事ないが、見様見真似で構えて黒影はオルフェノクとロイミュードへ肉薄した。

 

「アキト…………」

 

幼馴染がついに変身し戦いに身を投じる。その事に愕然とする凛から離すように、黒影はバナスピアーを突き出してロイミュードを吹き飛ばす。

 

「っっらぁっ!」

 

「……………っ!」

 

苦悶の声も漏らさずにロイミュードは突きの一撃を胸に受けて吹き飛ぶが、宙を滑走しながらも両手をこちらへと両手を伸ばしてくる。反射的にその場から転がるようにして避けると、指先から小さなエネルギー弾が連射されて浜辺を削った。

 

転がりながらも先にオルフェノクが待ち構えているのを感じ、黒影は体勢を整えるのと同時にバナスピアーを盾のようにしてオルフェノクが振り下ろした剣を受け止めた。

 

火花が散って力が拮抗させたのは一瞬で、すぐに黒影はバナスピアーの角度を変えて受け流すようにして剣撃から逃れる。同時に回し蹴りを放ってオルフェノクを転倒させると、すぐさま襲い掛かって来たロイミュードの攻撃を避ける。

 

流れるような息をつく暇もない攻防をしながらも、黒影は咄嗟に凛を視界に入れる。ただのラーメン屋の息子であるはずのアキトがここまで立ち回れている事に驚いているようだが、何とか動けそうである。

 

突き出してきたロイミュードのパンチを絡めとるようにして受け止めて、黒影は凛に向かって叫ぶ。

 

「凛! 今のうちに別荘に逃げろ!」

 

「で、でも…………!」

 

アキトの残して逃げられない。ありありと顔に浮かんでいる凛に、オルフェノが狙いを定めたように剣を構える。

 

「クソがっ!」

 

悪態と共に黒影はロイミュードを放して蹴り飛ばすと、カッティングブレードへ手を伸ばし2回スラッシュする。

 

 

『バナナ・オーレ!!』

 

 

機械音と共にロックシードのエネルギーが解放され、バナスピアーへ集まっていく。それらはバナナを形どったエネルギーとなり、地面から隆起してオルフェノクとロイミュードを拘束する鎖のように襲い掛かった。

 

身動きが封じられた2体の怪物を横目に黒影は走ると凛の手を掴んで立ち上がらせる。

 

「行くぞ!」

 

「う、うん…………!」

 

この場から離れればひとまずミツザネ達に応援を呼ぶ事が出来る。

 

それがアキトに慢心を生んだ。

 

その安心感が、突如目の前に開いたクラックから躍り出たインベスからの攻撃を避ける事も防ぐ事も出来なかったのだから。

 

「なっ…………!」

 

「アキ…………きゃあっ!?」

 

クラックから飛び出してきたのはカミキリインベスだ。

 

その後から続くように現れた敵に、黒影は姿を認めた途端に驚愕すると同時に舌打ちを放つ。

 

「おいおい、オルフェノクにロイミュードがこの世界にいる原因って、お前らのせいかよ…………!」

 

それは凛を人質に取るようにして首元にククリのような剣を突きつけた全身黒タイツだ。腰には信頼と実績の薬品メーカーと同じ鷲のデザインが施されたベルトを撒いているが、生憎と作り出しているのは絶望と破壊だ。

 

「……………ショッカー!」

 

「イィーッ!」

 

現れた全身黒タイツ、ショッカー戦闘員にアキトは叫んだ。

 

わざわざ凛に突きつけているククリを放してポーズをとったショッカー戦闘員の隣にカミキリインベスが立ち並び、背後では拘束を解いたオルフェノクとロイミュードが間合いを詰めようとしてきている。

 

大ショッカー。40年もの長い間、世界支配という目的を掲げてこの世界とは異なる世界で「ライダー」と戦いを繰り広げている悪の組織だ。

 

実際にアキトがは出会うのは初めてだし、何より次元を渡す技術を有していると説教屋から聞いたいたが、まさかこのタイミングでやってくるとは想定外だった。

 

「これがサガラの………!」

 

愚痴を零しきる前にショッカー戦闘員が顎で合図し、カミキリインベスとオルフェノク、ロイミュードが襲い掛かってくる。

 

攻撃を避けようとした瞬間、ショッカー戦闘員が凛に突きつけているククリを強調してくる。その意味を察した瞬間、アキトの中で怒りがこみあげてくる。

 

「てめ…………ぐぁっ!?」

 

「アキト!」

 

怒りをぶちまける前にカミキリインベスに攻撃され、よろけたところをオルフェノクとロイミュードに追撃されて胸部装甲から火花を散らす。

 

一度押されてしまえば、アキトは盛り返す事が出来ない。それは黒影ではなくデュークの時から同じで、諦めているのではなく焦ってどう対処したらいいのかわからなくなってしまうのだ。

 

次々と繰り出される攻撃を避ける事も裁く事も出来ずに、ただただダメージを受けていくしか出来ない黒影。

 

やがて、限界に到達して膝をついた瞬間、オルフェノクが突き出した剣を戦極ドライバーのロックシードが受けてしまい、その身体を吹き飛ばして岩場に背中を打ち付けた。

 

「がっ…………! ゲホッ……………」

 

変身が強制的に解除されながら倒れ込んだ、アキトは咳き込みながら腰の戦極ドライバーに触れる。感触からしてロックシードは破壊されたようだが、ギリギリ戦極ドライバー自体は無事のようだ。

 

しかし、手持ちのロックシードが破壊されてしまった以上、インベスを召喚する事も変身する事も出来ない。

 

「アキト! 逃げて、アキトだけでも逃げて!!」

 

凛が涙声で必死に呼びかけてきてくれるが、全身を襲う痛みにアキトは答えられそうになり。

 

トドメを刺そうとゆっくり、オルフェノクが剣を振り上げながら近づいてくる。オルフェノクはその能力によって人間の心臓を焼き、殺した相手をオルフェノク(同胞)として蘇らせる事が出来る。しかし、それは全ての人間が当てはまる訳ではなく、そのほとんどが一度は再生するもののすぐに灰となって散っていく。

 

先ほどの男のように。

 

当たりを引けばオルフェノクとして蘇り、外れならば灰になる。どちらにしてもアキトという人間は死ぬ。

 

何も出来ぬまま。

 

何者にもなれぬまま。

 

凛を守れず、大好きな女の子を守る事ですらできずに無様に。

 

「………………ふざ、けんな…………………」

 

絞り出すように声を吐き出し、力を込めて立ち上がろうとする。

 

何も出来ないかもしれない。だけど、このまま倒れていては諦めたのと同じだ。

 

まだ諦める訳にはいかない。どれだけボロボロで死にそうでも。

 

自分の命も。

 

凛の命も。

 

何故なら、まだ。

 

「…………まだ、変身していない………!」

 

何とか立ち上がったアキトは、少し手を加えれば再び膝をついてしまいそうだ。実際、膝はガクガクと震えてしまっている。

 

だけど。

 

だからといって。

 

全てを諦めるほど、アキトは潔くない。

 

「アキト…………!」

 

凛の叫びと共に、オルフェノクが掲げた剣をアキトへ振り下ろす。

 

刹那。

 

 

 

 

-------君は運命を選んだよ。さぁ、変身して!

 

 

 

 

光が満ちた。それは優しくて、暖かくて、弾ける。

 

「っ!?」

 

「い、イィィィーッッ!!?」

 

まるで闇を払う光のごとく、それはアキトとオルフェノクの間で輝き怪人達を吹き飛ばす。

 

「っ、アキト!」

 

人質から解放された凛がアキトに駆け寄り、肩を持って立たせてくれる。

 

「アキト、大丈夫!?」

 

「あぁ……」

 

そして、2人はその光を見た。

 

光が少し収まっていき、やがてそれはアキトが伸ばした手にゆっくりと収まった。

 

それはロックシードだった。ただし、本来ならば果実を象ったデザインであるはずの面には1人の戦士の顔がある。

 

その戦士を、アキトは知っていた。

 

人間の果てなき欲望から生み出され、全てを欲する王。

 

手を伸ばさなければ後悔すると、たくさんの人々に手を伸ばして掴んできた優しい王。

 

王達の王。

 

「…………そうだよな、映司さん」

 

ロックシードをつよく握り締めて、アキトは呟く。

 

ずっと小さい頃、夢で見ていた1人の青年の物語。右腕を掴んでから始まった、明日を求める為の旅。

 

青年に憧れた少年は、いつしか手を伸ばす事を止めてしまった。それはあの冬の日、猫を救えなかったから。

 

こんな小さな手じゃ、どれだけ手わー伸ばした所で掴めるはずもないと自分で諦めてしまっていたから。

 

だけど。

 

それでも。

 

「手を伸ばさなきゃ、何も始まらないよな」

 

手を伸ばせば届くのに、伸ばさなかったら絶対に後悔する。だからこそ、あの冬の日、手を伸ばしたのだ。

 

ロックシードを一度宙に上げて掴み直し、敵を見据えたまま言う。

 

「凛、下がっててくれ。それと、見てて欲しいんだ」

 

「アキト……」

 

3歩ほど前に出て、アキトは告げる。

 

「俺が変身する所………」

 

 

『オーズ!』

 

 

ロックシードを開錠すると、頭上でクラックが裂ける。

 

「えっ………顔!?」

 

本来、アーマードライダーがロックシードを開錠すれば現れるのはそれぞれに封じられたアーマーパーツだ。

 

しかし、アキトの頭上に現れたのはライダーの顔だった。アーマードライダーに酷似した顔に細く笑んでオーズロックシードを戦極ドライバーに嵌め込む。

 

 

『ロックオン』

 

 

スライドサシャックルを閉じて右腕を引き、左腕を左下へ軽く伸ばす。

 

そして、意を決したように両手を入れ替えるような形で動かし、その一瞬で手のひらでカッティングブレードを押し込むようにスラッシュした。

 

耳の奥で夢で何度も聞いたメダルを弾く音が弾けるのを感じながら、叫ぶ。

 

自分を変える為の魔法の4文字を。

 

「変身!」

 

 

『オーズアームズ! タトバタトバー!!』

 

 

アーマーパーツがアキトに装着され、顔が分裂するように展開される。

 

その身を再び黒影のライドウェアが包み込むが、その姿は従来の黒影とは完全に異なっていた。

 

本来なら鎧を彷彿させるデザインの胸部装甲を纏うのだが、胸には鷹、虎、飛蝗のような紋様が供えられたサークルが装着され、顔にあたる面が背中へと回っている。

 

それは、どのアーマードライダーにも見られないアームズだった。

 

「イッ………か、仮面ライダーオーズ…………!?」

 

「仮面、ライダー…………?」

 

吹き飛んだ体勢から立ち上がったショッカー戦闘員が漏らした言葉に、凛が聞き慣れない言葉に困惑した顔をする。この世界でライダーとはアーマードライダーを示すものであり、存在しない言葉だ。

 

「普通に喋れるのかよ…………まぁいいや………」

 

そう言ってアーマードライダーは構えを取る。もはや黒影とは別の存在となっているのだから、新たに名乗る必要があるだろう。

 

憧れのヒーローの名前を名乗るのは気恥ずかしいが、今は借りるとしよう。

 

欲望から生まれながらも、欲望に負けなかった王の名を。

 

「俺はオーズ…………仮面ライダー………いや、アーマードライダーオーズ」

 

「オーズ…………?」

 

「悪いが決め台詞はないんでな。他の誰かのを借りる気にもなれないし」

 

そう告げてアキトは、アーマードライダーオーズは右手指を擦って告げた。

 

「行くぜ………!」

 

「イィーッ!」

 

ショッカー戦闘員の合図でオルフェノク、ロイミュード、カミキリインベススが向かってくる。それを迎え撃つような形でオーズも駆け出し、手元に召喚したメダジャリバーで斬り付ける。

 

やはりバナスピアーのような変則的な武器よりもこういった剣の方が使いやすく、先ほどは苦戦した3体相手でも圧倒していく。

 

ロイミュードが倒れ伏せながら指を構えたのを見て、オーズは直観で避けなければと足に力を入れた。すると、胸のサークルにある飛蝗の紋様が輝き、オーズが跳躍すると思っていた以上に高く跳んだ。

 

「うおっ!?」

 

思っていた以上の跳躍力に驚きながらも落下と同時にメダッジャリバーを頭上に振り下げ、カブト割のようにオルフェノクの肩から縦に切り裂く。

 

火花を散らして苦悶の反応を見せながら転がる様を見て、カミキリインベスが咆哮しながらこちらへ向かってくる。同時に背後から放たれたロイミュードのエネルギー弾を受けてオーズは思わずメダジャリバーを落としてしまう。

 

「やべっ…………!」

 

しまったと思った直後、拾う間もなくカミキリインベスの肉薄に打撃で応戦した時だ。

 

再びサークル内の虎の紋様が輝き、両手が熱くなるのを感た。

 

「もしかして…………」

 

突き出されたカミキリインベスのパンチを弾き、オーズは殴るのではなく切り裂くように手を振るった。すると爪のない指先から剣閃が走り、まるで鋭い爪で切り裂いたかのようにカミキリインベスを攻撃した。

 

「そうか、オーズと同じ力が使えるのか! うぉぉっ、テンション上がって来たぁっ!」

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

まるで戦い慣れているからか心配そうに凛が言葉を投げてくる。

 

それに振り返りサムズアップをした瞬間、サークル内の鷹の紋様が輝きアキトにある情報を齎してくれる。

 

星空凛。B75/W59/H80。

 

「凛、お前………ちゃっかり涙ぐましい成長してるんd…………」

 

「どこ見てるにゃっ!?」

 

ガンッ、と顔を真っ赤にして凛が落ちていた石を投げつけてくる。額部にあたり仮面越しといえど衝撃が走ったオーズは思わず額を抑えて抗議した。

 

「痛いよ!? こっちは戦闘して………うおっ!?」

 

凛に注意を向けている間に、背中からエネルギー弾に襲われのけぞる。

 

すぐに攻撃を転がりながら避けて、そのまま光を纏った両手でカミキリインベスを攻撃し、火花を散らして転がっていくのを見て、うまく3体をまとめるような形に出来た事ににやりと笑った。

 

オーズが左手のひらを掲げると、3枚の銀色のメダルが出現する。人間の欲望が凝縮されて作り出されたセルメダルだ。

 

それをメダジャリバーのメダル投入口に入れて、レバーを押し込むと刀身へセルメダルが送られる。

 

本来ならばここで刀身をスキャンするのだが、戦極ドライバーにそのような機構がないのは当たり前で、オーズはカッティングブレードを1回スラッシュした。

 

 

『オーズ・スカッシュ!!』

 

 

電子音と共に刀身にエネルギーが送られ、光を放つメダジャリバーを左手に持ち替えて構えた。

 

そして。

 

「セイヤァァァァァァッ!!」

 

横一文字に振り抜くと、オルフェノク、ロイミュード、カミキリインベスにまとめて横に斬撃が入り込む。それはその後ろの海ごと斬撃が走り、その威力は空間ごと切り裂いた。

 

景色がズレ、やがて世界が戻る。

 

同時に3体の怪人が爆発し、その余波で凛がよろける。

 

「ふぃー……大丈夫か?」

 

「う、うん………」

 

凛に呼び掛けようとした所で、警戒を解こうとしたオーズの前に攻撃から逃れていたショッカー戦闘員が立ち塞がる。

 

あの惨殺劇をやった怪人達を操っていた存在に凛が怯え、オーズも警戒心を強める。

 

「もう残ってるのはお前どけだ、ショッカー!」

 

「おのれライダーめ………ならば」

 

ショッカー戦闘員は懐から取り出した物。それは何かしら組織の秘密兵器だと思っていたのだが、取り出した物はオーズを驚かせるものには充分だった。

 

「戦極ドライバーだと!?」

 

「ロックシードも………!」

 

ショッカー戦闘員が取り出した戦極ドライバーとマツボックリロックシードにオーズと凛が驚く。この世界の住人であっても簡単には手に入らないはずの道具に、驚かずにはいられなかった。

 

ショッカー戦闘員は戦極ドライバーを腰に当てるとオーズと同じ銀色のベルトが巻き付き装着感される。

 

 

『マツボックリ!』

 

 

そして、開錠したマツボックリロックシードを戦極ドライバーにはめ込み、カッティングブレードをスラッシュする。

 

「イィーッ!」

 

 

『マツボックリアームズ! 一撃インザシャドゥ!!』

 

 

例のポーズと共に頭上からアーマーパーツが落下し、その身を見慣れたアーマードライダー黒影へと変えていく。

 

「ショッカーがライダーに変身してんじゃねぇ!」

 

「何を言う! ライダーは元々ショッカーの兵器だ!」

 

少し苛立ちを含めて叫びながら、オーズは黒影と肉薄する。影松とメダジャリバーがぶつかりあい火花を散らし、次の瞬間に切り裂かれたのはオーズだった。

 

「っ………!」

 

痛みが胸に走るも気合いで堪えて、振り向きざまに斬撃を入れようとメダジャリバーを振るった。

 

しかし、それすらも読まれたように弾かれ、影松の突きを受けてオーズは海辺へと吹き飛んだ。

 

「アキト………!」

 

くそっ、と仮面の下で舌打ちをしながらオーズは立ち上がる。

 

わかっていたことだ。ショッカー戦闘員は組織の中でも最下層の雑兵で、ライダー達にはまるで蟻のごとく蹴散らされていく雑魚だ。1人1人にバックグラウンドがあったとしでスポットライトが当たる事はなく、幹部の理不尽な要求にイエスとしか答える事の出来ない社畜。

 

だがそれでも、一般人からしてみれば恐怖の大勝であって、戦闘に関して訓練を受けているのは当たり前なのだ。

 

その戦闘員に、素人に毛が生えた程度の力しか持っていないアキトが、少し強いロックシードに変身した所で勝ち目などあるはずがなかった。

「偉大なる悪を前にして敗れるがいい、ライダー!」

 

 

『マツボックリ・オーレ!!』

 

 

黒影がカッティングブレードを2回スラッシュし、電子音の直後影松にエネルギーが集まっていく。

 

必殺の一撃が来る。そう感じたオーズはメダジャリバーで防御の構えを取るが、黒影の顔が僅かにずれたのを感じた。

 

それだけで黒影の目的を察したオーズは、舌打ちして凛の前へ飛び出した。

 

「伏せろっ!」

 

「っ………!」

 

同時に黒影が凛に向かって影松を突き出すと、槍となったエネルギーが襲いかかる。

 

ギリギリ間に入ったオーズだが、防御する暇もなくその一撃を受けてしまう。

 

「ごっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

その衝撃がオーズでは受け止めきれずに拡散する。

 

そして閃光が弾けて防ぎきれなかったオーズと凛が吹き飛んでしまう。

 

「っ、凛………!」

 

ダメージの蓄積により変身が解けて海辺に倒れ込んだアキトは、焦ったように隣に横たわった幼馴染みに触れる。

 

目を閉じてしまっているが呼吸はしており、どうやら意識を失っているだけらしく、確認出来たアキトは安堵の息をつく。

 

そして、まるで嬲り殺そうと企んでいるのかゆっくりと影松で肩を叩きながら歩いてくる黒影を睨み付ける。

 

「……………ったく、本当に面倒事しか持ってこないよな。お前らは」

 

昏く、暗く、重く、まるでコピー用紙に打ち込んだ文字を音声にしたかのような無機質な声を吐き出し、アキトは立ち上がる。海水で濡れた右手で髪の毛を掻き上げて、その気配を変質させながら黒影を睥睨した。

 

その気配に異質さを感じたのか黒影が足を止めて、警戒したように影松を構える。

 

その時、頭上にクラックが出現して青い影が高速で過ぎた。

 

その影は黒影を吹き飛ばしてアキトの頭の上を過ぎ去り、2つの物体を落とす。

 

それはアキトの鞄の中に入っていたはずのゲネシスドライバーとレモンエナジーロックシードだった。

 

「っ、何だそのベルトは!?」

 

「ゲネシスドライバーを知らないのか? 確かにこの世界は模造品(レプリカ)だけど、オリジナルよりこっちに来るってどうなのよ」

 

まぁいい。と、ゲネシスドライバーを腰に装着したアキトは凛を一瞥する。意識を失っている少女が目覚めていてはこの力を使う事が出来ないが、今なら使える。

 

情けない、とは思う。アキトは正々堂々と力を振るう事が出来ず、陰ながらでしか守る事が出来ないのだから。

 

もっとも、そっちの方がらしくていいが。

 

「…………らしいけど、俺にそんな資格はないか。変身!」

 

 

『レモンエナジー!』

 

 

レモンネナジーロックシードを開錠し手元で両手を交差させ、素早く組み替えてからゲネシスドライバーにセットし、シーボルコンプレッサーを押し込んでキャストパットを展開した。

 

 

『ロックオン。ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!』

 

 

ライドウェアと共にアーマーが展開され、アキトが変身するべき本来の姿へと変える。

 

変身を終えたアーマードライダーデュークはソニックアローを確かめるように振るい、黒影を睨み付ける。

 

「さぁ、ショウタイムと洒落込もうか」

 

「見掛け倒しだ! イィーッ!」

 

影松を振り回し、先ほどとは違って黒影が肉薄してくる。

 

振り払ってくる影松を片手で握ったソニックアローで受け止め、デュークは言い放つ。

 

「見掛け倒しかどうか、試してみろ!」

 

ソニックアローで影松を弾き、防御を崩した所へ斬撃を打ち込む。黒影の胸部装甲から火花が散り、その身体が吹き飛ぶ。

 

「イィーッ!?」

 

一撃で吹き飛ばされた事に驚いているのか、動揺したように立ち上がる。

 

それに構わずデュークは接近し、よろよろと立ち上がった黒影にソニックアローの連撃を打ち込んだ。個人の戦闘経験では及ばなくても使っているドライバーの性能差が浮き彫りになったの結果だろう。

 

「い、イィーッ!? 馬鹿なっ、まったく別人………」

 

「ある意味でならな」

 

胸を抑えて蹲りながら睨み付けてくる黒影に言いながらデュークはソニックアローのノッキングドローワを引き絞りエネルギーの矢を形成して狙いを定める。

 

放たれた矢をどうにかする手段のない黒影は直撃を受けて吹き飛び、身体から煙と火花を散らしす。相当のダメージが入っており、もし変身者が普通の人間であったのならば重症である事は間違いなしだ。

 

しかし、相手はショッカー戦闘員。人間のように見えて作られた兵器である。ならばデュークに遠慮しり理由は何1つとしてなかった。

 

「答えろ。この世界で何をするつもりだ?」

 

「答える訳、なかろう!」

 

「だろうな」

 

わかりきった返答に嘆息しながら、デュークはレモンエナジーロックシードをソニックアローにセットし、リファインシャックルを押し込む。

 

 

『ロックオン』

 

 

そして、ソニックアローを弓の構えをしてノッキングドローワを引き絞り、狙いを黒影へと定める。

 

「どの道、この世界にとってお前ら悪は招かれざる格だ。お引き取り願おうか」

 

通常よりも大きく、強烈な矢が作られていく。

 

それを見て黒影は痛みで身体が自由に動けないというのに、這ってでも逃げようとする。

 

もちろん、それを温情などで見逃すデュークでもなかった。

 

 

『レモンエナジー!』

 

 

「しょ、ショッカーばんざーーいっ!!」

 

容赦なくデュークが放った矢は逃げようとしている黒影を貫き、お決まりと文句と共に爆散した。

 

燃え上がる炎は海辺だったということもあり、すぐに波に攫われたように鎮火した。

 

敵意を消したデュークは脱力したように構えを解くと、レモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーに戻すが変身は解かずに凛へと歩み寄る。

 

近くで大爆発が起きたというのに気持ち良さげに呑気に寝息を立てているおさなを抱き上げ、デュークは日中誰かが使っていたらしいベンチに凛を座らせると再び距離を取った。

 

そして取り出したのは、来る前に少女の想いを奪ったロックシード?

 

それをソニックアローにセットして、ノッキングドローワを引く。

 

狙うは、大切な幼馴染み。

 

これを放てばもう後戻りは出来ない。奪ってしまえば少女同様、もう触れてくれないかもしれない。もしかしたら、こちらの想いに気付かずに遠い誰かの物になってしまうかもしれない。

 

だけど。

 

それでも。

 

彼女は世界の理に触れてしまった。異なる世界からの来訪者に、ショッカーに。

 

何よりも、仮面ライダーという言葉を知ってしまった。

 

で、あれば、

 

それを記憶に留めておく事は出来ない。留めておくという事は、この世界の常識(ルール)から逸脱してしまう事を意味する。

 

世界は残酷で、世界は受け入れられない存在は排除しようと思考が働く。まるで出る杭は打たれるがごとく、世界には存在を均一に保とうとする”何か”が働くらしい。

 

つまり。

 

このまま凛に世界外の知識を持たせておけば、いずれ世界の外側へ追いやられてしまうかもしれなかった。

 

だから、優先する。

 

己の想いよりも。

 

役目よりも。

 

ただ単に、凛が理解の外側へと追いやられてしまうのを阻止する事を。

 

それでもう、アキトが望んだ結末に辿り着けなくなったとしても。

 

凛の世界だけは守らなければならない。

 

「……………さようなら」

 

ノッキングドローワを引く右手の力をそっと抜いて、仮面の下で流れる雫をそのままにして。

 

「俺の、初恋…………」

 

かすれたような声と共に、矢を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度放たれた矢は戻る事が出来ないと知っっているだろうかと疑問を持つのと同じように、

 

少年もまた、きっとこの先、

 

ずっとこの選択が正しかったのかと疑問を胸に抱きながら歩くのだろう。

 

それは、きっとその心が熱くなるほどに、求めて求めてやまない過去への憧憬へとなり果ててしまう、

 

呪いのように似て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が走り、戦士から少年へと姿を戻す光景を見つめて、少女は目を細める。

 

誰もが寝静まっている貸別荘の屋根に立ち、パジャマ姿の上から3人ほどが包まれるほど大きな薄い掛け布団を纏いながら、少年の後悔の詰まった矢が少女を貫く様を見ていた。

 

そして、息を吐いて少女は誰もいない空間で1人呟く。

 

「アレも貴方の予想通り、という事ですか?」

 

「辿る過程こそ違ったが、まぁいずれこうなるだろうと予測はしていたさ」

 

音もなく背後に立っていた男は、愉快そうに嗤いながら答える。まるで神話に出てきそうなくらい装飾ばった出で立ちの衣装を纏うのは、少女とて多少は知る顔だ。

 

この世界ではサガラと呼ばれ、ネットDJとして人気を博している男だ。しかし、今の彼から放たれている気配は常識では図りしえない異質さを秘めており、それに対して少女は何の恐れた様子はない。まるで対して仲が良かった訳ではないがそれなりに交友のある同級生に道端でばったり会ってしまったかのような興味のなさげな態度をしている。

 

そんな不躾な態度をとる少女にサガラは気にせず、まるで歌う語り部のように両手を叩きながら呟く。

 

「時計の針を戻す事は出来ず、進むしかない。そのスピードの違いだ、要はな。どっちにしろ俺は楽しめる」

 

「……………………貴方はただ見守るだけ。今も昔も、でしょ?」

 

少女が問い掛けると、サガラはにっと口を歪める。良くも悪くも子供のような笑みで。

 

「………………けど、これで貴方の言っていた危機は去ったのね」

 

「何を言っている?」

 

安堵しかかっている少女に、サガラが変わらぬ笑顔で告げる。

 

「えっ…………」

 

「まだ何も始まっていない。お前達にとって地獄はこれからだぞ」

 

まったく変わらない笑顔が、茫然となる少女の恐怖心を震えさせる。

 

「あの連中の出現は俺にとっても予想外だ。が、この世界を盛り上げてくれるのなら、どんなスパイスも大歓迎だがな」

 

「っ、待って…………!」

 

少女が呼びかけた時、すでにサガラの姿はそこにはなかった。

 

始めから何もなかったかのように。

 

少女は伸ばしかけていた手を止めて、空を仰ぐ。

 

「……………始まってすらいない………」

 

絶望が。

 

少女は不安げな顔で海を見つめる。

 

雲1つ広がっていないはずなのに、遠くの方で雷鳴が轟く。

 

まるで世界が癇癪を起した子供のように泣きじゃくっているように見えて、それがより一層不安を増長させているようで。

 

少女の心に、海のように際限なく不安が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

啼臥アキトが所持するロックシード

 

・レモンエナジー

・オーズ

・ローズアタッカー

 

 

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は……………

 

 

 

昨晩の襲撃により眠たげなアキトだが、案の定凛に引っ張りまわされてしまう。

 

 

 

「…………インベスの暴走って、そんなに大事なのかな?」

 

「……………ここが人工島、イーヴィングルじゃなければね」

 

暴走にインベスに遭遇したμ's達が感じる暗雲。

 

 

 

オーズに変身したくも、これもまた世界を逸脱した力の為にμ'sの前では変身出来ず。

 

(い、意味ねぇぇぇぇぇっ!?)

 

 

 

なんとか黒影に変身したアキトだが、その歴然とした力の前に倒れ伏せてしまう。

 

それを救ったのは。

 

 

『ハイィーッ! ピーチ・スカッシュ!!』

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

30話:Regret nothing ~チカラに拘る女~

 

 

 

 

 

 




みなさん、狩ってますかー!
MHXが出て狩りまくるかと思いきや、それほど狩りではなく忘年会と小説執筆を進めているグラニです。

さて、今回は仮面ライダーオーズのオープニング曲からタイトルを抜粋した通り、レジェンドライダーロックシードのオーズでアキトが変身しちゃいました!

さて、今回の目玉はやっぱりアーマードライダーオーズの敵として現れたショッカー戦闘員と、オルフェノクにロイミュードでしょう。

この2体の登場によりピンと来た方もいるかもしれません。

重大発表です!

なんと、

なんと、なんとなんと!

『ラブファイズ』の相原末吉さんと

『ラブドライブ ~女神の守り人~』の希ーさんとの、

コラボが決定しました!

ラブライブ!を舞台とするクロスオーバー作品が、原作さながら世界観を共有してしまうという企画です!

もうこのお二方の紹介はいらないと思います。ハーメルン上でラブ鎧武!を読んでいて下さる皆さまなら、すでに上記の作品も読まれていると思いますので。

今回はその仕込み回、春休み合体スペシャル的な感じでした。なので、この夏合宿でちらほらと”それっぽい事”を匂わせる場面を用意してありますので、この先探してみてください。

物語の緩急が上手い相原さんのラブファイズと、思いもしない展開力のあるラブドライブ!に負けないような物語を頑張って書きますので、楽しみにしていてください!

感想、評価随時受け付けておりますのでよろしくお願いします!

Twitterやってます
話しのネタバレなどやってるかもしれませんので、良ければどうぞ!

https://twitter.com/seedhack1231?s=09


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