ラブ鎧武!   作:グラニ

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合宿と言えば、

やっぱりコレだよね。




27話:夏色笑顔で1、2、jump! ~立ち込める暗雲~

μ'sの合宿に雑用係として同行した啼臥アキトはPV撮影という名の遊びから疲れて帰って来たメンバーの為に夕飯を作る為、呉島ミツザネと西木野真姫、東條希とで買い出しに行く事に。

 

しかし、そこで立ちふさがったセレブと庶民の価値観の違いが逆鱗に触れたらしく、庶民組であるアキトと希が納得出来る価格の店を探し回る羽目になり、その結果かなりの時間がかかってしう。

 

その帰り道、アキト達は浜辺で佇む1人の少女と出会う。それと同時に襲撃される無数のインベス達。アーマードライダー龍玄のみではこの状況を覆すのは難しく、ミツザネからもたらされた戦極ドライバーで変身しようとしたアキトの前に、赫いアーマードライダーが出現する。

 

赫いアーマードライダーの力のおかげでインベス達を殲滅に成功する一同は、赫いアーマードライダー:瀬賀長信と怪我をしてしまった少女:アネモネに助けてくれたお礼と怪我の手当ての為に貸別荘へと招待するのだった。

 

そのアキトの中では、いくつもの不安が混じりあっていたが、今は猫娘に齧られないようにする為に貸別荘へ全速前進するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主任、こちらへ」

 

「あぁ」

 

弟のミツザネに貸別荘へ行っているよう促してから、先導するユグドラシル社員に導かれて呉島タカトラは地下駐車場までやってくるとすぐ近くに止まっていた軽自動車に乗り、タカトラは手渡された書類を軽く読み通す。

 

「………………これは本当か?」

 

「はい。休暇中の身である主任に話すべきか迷いましたが、開発主任が伝えた方がいい、との事でしたので…………」

 

「構わん。この情報は島にいれば自然と耳に入っていただろう」

 

そう言って鞄に書類をしまい込み、溜息をつく。決して疲労を感じた訳ではなく、どちらかと言えばこれから先を思うと嘆息したくなるものだ。

 

タカトラが訪れたリゾート人工島『イーヴィングル』はその名の通り半分はリゾート施設であり、もう半分がユグドラシルの研究施設になっている。このイーヴィングル自体の特徴として、人間ではなく多くの場所でインベスを使って運営しているのだ。

 

インベスによる人間作業の代行。それがこの島の大きな目的だ。少子化問題の対策の一環としてインベスで人間が行う細かい作業などの代行が出来ないか、というものである。彼らインベスは人間の愛情を糧として活動している為、人間のように賃金その他を消費する必要がないので、もし実用化出来れば大きなコスト削減になるはずだ。

 

無論、未だ順調とは言い難い現状ではあるが、それでもこの島を運営出来ているという事は前に進んでいる証だろう。

 

その研究を実験している施設が、昨晩何者かに襲撃された。タカトラが担っている事業は主に錠前ディーラーの摘発といった治安関係が主で、この問題は別の部署になるのだが、たまたま島に到着したタカトラに相談が持ち掛けられたのだ。

 

「それで、リョウマ………開発主任の見解は?」

 

「午前中に視察された開発主任は、『タカトラの番かもね』とだけ申されまして…………」

 

それが意見になる訳ないだろう。と、内心突っ込みながら、苦笑する社員に同情の目を向けてからタカトラが窓の淵に肘を置いて思考する。

 

ユグドラシルの研究施設を破壊した、という事は当然、ユグドラシルに敵意を持っている組織もしくは個人の犯行とみて間違いないだろう。個人、という可能性は限りなく低いだろうが、実行犯はまず少人数とみて間違いないだろう。何せこの島には至る箇所のアーマードライダーが駐屯しており。何かしらの事件があれば急行できるようになっているのだ。それがユグドラシルの研究施設側ともくればもっと迅速に。

 

しかし、書類に記載されている情報では、その襲撃がされている時間。島の各所で突然、上級インベス達が暴走をしてアーマードライダーはそちらへ回された為、襲撃に対応が出来なかったらしい。

 

「主任、到着しました」

 

「ご苦労」

 

停車したのを確認してから外へ出ると、タカトラの前には焼け焦げた瓦礫が広がっていた。鼻には消火剤特有の臭いと焦げ臭さが同時に襲ってきて、思わず顔を顰めるも中へと進む。

 

ほとんど瓦礫の山で埋め尽くされた施設は原型を留めておらず、当然紙媒体の資料なども燃え尽きているだろう。電子系統で残っている手がかりだけでも回収されているといいが。

 

「ユグドラシルに敵対する組織の仕業か…………」

 

そう考えるのが妥当だが、ある意味で組織の特定は困難を極める。何せ、このご時世で唯一インベスやロックシードといったヘルヘイム関連の事業を行っているのがユグドラシルだ。その利益は他企業から喉が出るほど欲しいものであり、独占しているユグドラシルは恨み辛みの格好の餌食という訳である。

 

「……………むっ?」

 

ふと、タカトラは廊下であったであろう場所を通っていると、とある小部屋に目が止まる。ダンボールの切れ端が燃え残って床に散らばっているのを見ると、どうやら物置だったらしい。研究施設ならば電子状態で保存するのが近年の主流ではあるが、ハッキングなどの可能性などを考慮してバックアップは電子情報だけでなく紙媒体での飼料も残しておくのがユグドラシルの決まりだ。

 

タカトラはそこに足を踏み入れる。がしゃりと焦げた紙だったものを踏みつけながら、中へと入り込む。鉄製の棚だったものの上には何が書いてあったのか判別出来ない物体(おそらくダンボールと紙の資料)を見つめながら、凄まじい火の強さだったのだろうとタカトラは推測する。

 

それほどの大事件に発展してしまった事。それにより失われた人とインベスの命の重さ。そして、それを引き起こした悪意にタカトラの手は自然と震える。

 

さらに奥まで進んでみようと足を踏み出したタカトラの足が、何か硬い物を踏みつける。

 

「……………スピーカー?」

 

屈んで見ると焼き壊れたスピーカーだった。大きさは雑誌の付録などに付いてきそうな手のひらサイズで、ここにある理由がわからなかった。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

その時、外からここまで運転してくれた社員の叫びが聞こえて、タカトラは反射的にスピーカーをポケットの中に投げ入れて走り出す。

 

外に戻ると社員に向かって爪を振り上げようとしているライオンインベスとシカインベス、さらには初級インベスが6体ほど間合いを詰めていた。

 

「っ、変身!」

 

 

『メロン!』

 

 

普段のように上にロックシードを投げている暇はない。戦極ドライバーを腰に装着したタカトラは即座に愛用のメロンロックシードを開錠し、ドライブベイへはめ込んだ。

 

 

『ロック・オン』

 

 

スライドシャックルを差し込むと同時に駆け出し、間髪入れずにカッティングブレートをスラッシュしてキャストパットを展開した。

 

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』

 

 

頭上に出現したメロンアーマーパーツを被り、アーマードライダー斬月に変身したタカトラは左腰に携えている無双セイバーを抜刀すると、バレットスライドを引いてインベス達に向けてブライトリガーを引いた。ムソウマズルから弾丸が吐き出され、社員を襲おうとしていたライオンインベスを攻撃する。

 

火花が散ってライオンインベスが怯み、標的を社員から斬月に変更したようにゆらりと身体を向けてくる。

 

「来い、俺が相手だ!」

 

斬月の挑発に初級インベス達が咆哮を上げて襲い掛かってくる。それらを避けながら無双セイバーで斬り付ける。初級インベスの動きは緩慢で並のアーマードライダーであっても攻撃を受ける事はよどの間抜けか大馬鹿者だけだ。

 

エメラルグリーンの剣閃が走り初級インベス達を切り裂き、くるりと回転してから6体の初級インベス達は爆散する。残るライオンインベスとシカインベスは隙を見て逃げ出した社員を追おうとしており、斬月は再びバレットスライドを引いて2体を撃ち抜く。

 

しかし、ライオンインベスとシカインベスは身体から火花を散らしてダメージを受けているというのに、まるで斬月を無視するかのように逃げる社員を狙って距離を詰める。

 

「何っ!?」

 

銃撃が通用しないのならば直接斬り付けるしかない。左手のメロンディフェンダーのブーメランのように投擲すると、突如出現したクラックから飛び出したコウモリインベスが身代わりとなってメロンディフェンダーを弾いた。

 

「庇っただと!?」

 

「うわあぁぁぁぁっ!」

 

驚愕する斬月の前で、ついにライオンインベスに捕まった社員が胸倉を捕まれ、その爪に身体を貫かれ上へと引き裂かれてしまった。

 

絶叫、断末魔を上げる余裕もなく縦2つに分かれた元社員の身体から鮮血が飛び散り、ライオンインベスの赤い体躯をさらに濃い赤い色に染め上げる。

 

「貴様っ………!」

 

守れなかった事への自責の念と怒りが混じりあい、斬月は一瞬無防備を晒してしまう。そこへコウモリインベスが襲い掛かってきて、同時に倒れこみ立ち上がると同時に斬月は無双セイバーを切り払い、せめて社員の遺体だけでも回収しようとライオンインベス達へと走る。

 

しかし、そこでライオンインベス達の有り得ない光景に足を止めてしまう。

 

肉塊と化した遺体を捨てるように横たえると、その肉塊に顔を近付け食べ始めたのだ。茫然となる斬月を他所にライオンインベスとシカインベスも血肉を求めるかのように貪り始める。

 

「馬鹿な………人を食べているだと!?」

 

以前、葛葉コウタが人を食すインベスと遭遇した事があるという報告を受けていたが、今までに例のない事態に斬月の思考が驚きに染まる。

 

しかし、突然ライオンインベスは食していた血肉を吐き出し、唸り声を上げる。まるでこの肉はまずい、とでも言うのかのように怒り狂い、ようやく斬月を捉える。

 

今まで対峙したどのインベスよりも苛烈な殺気を放ってくるライオンインベスに、斬月は警戒の色を強くする。投げたメロンディフェンダーはコウモリインベスに弾かれあらぬ所に転がっており、回収するには囲んできている3体のインベスを突破する必要があった。

 

ライオンインベスとシカインベス、コウモリインベスに囲まれ無双セイバーを構える斬月。絶望的とまではいかなくとも苦戦を強いられるのは間違いない戦力差ではあるが、それで退く斬月ではない。

 

最初に動いたのはシカインベスだ。それに応じるように背後のコウモリインベスが飛び立ち、ライオンインベスは動かずにこちらを見ている。

 

襲い掛かって来たシカインベスの攻撃を避けて背中を斬り、空高く飛んだコウモリインベスに向かってムソウマズルを向けてまだ残っている弾丸を速射する。コウモリインベスが放ったエネルギー弾と交錯するような形で弾丸が互いに着弾し、火花を散らす。

 

「くっ………!」

 

メロンディフェンダーのない斬月ではエネルギー弾を防ぐ手立てはなくその身に受けて怯んでしまう。そこへシカインベスが爪で追撃してきて、斬月の身体が吹き飛ぶ。

 

無様に転がる斬月を追撃するかのようにシカインベスとコウモリインベスによる空と地上からの攻撃が降り注いでくる。

 

だが、その程度で遅れをとる斬月ではない。シカインベスが再び飛び掛かってくるのを屈んで避けた斬月は、その身体を掴みコウモリインベスが放ったエネルギー弾の盾として利用する。

 

仲間を撃った事に気付いたコウモリインベスが攻撃を止めた瞬間、斬月は無双セイバーの刀身をシカインベスの肩に当て、即座にカッティングブレートを1回スラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! メロン・スカッシュ!!』

 

 

「ハァッ!」

 

エネルギーが刀身を走り、気合いと共にシカインベスを一刀両断する。一撃でシカインベスが爆発し、その炎に紛れるように高く跳躍してからカッティングブレートをもう1度スラッシュする。

 

 

『ソイヤッ! メロン・スカッシュ!!』

 

 

立て続けにエネルギーを解放し、今度は右足に集約させる。狙うは爆発で斬月の姿を失ったコウモリインベス。

 

コウモリインベスより高い位置まで飛んだ斬月が、そのままキックの構えで急降下。右足に集まったエネルギーがエメラルドグリーンの光となって、まるで矢のようにコウモリインベスを貫いた。

 

火花が散る中で着地した斬月は、最後の1体であるライオンインベスと対峙する。ライオンインベスは仲間が倒されたというのにも関わらず、動揺する素振りも見せずにただただ斬月を眺めている。

 

その纏っている雰囲気から、通常個体とは異なると判断するべきだ。

 

斬月は以前、ことりのアルバイト関連による事件で手に入れたドリアンロックシードを取り出し開錠した。

 

 

『ドリアン!』

 

 

頭上のクラックからドリアンアーマーパーツが出現し、メロンロックシードと交換して戦極ドライバーのドライブベイにはめ込む。

 

 

『ロック・オン』

 

 

装着していたメロンアーマーパーツが粒子となって消え、斬月はカッティングブレートをスラッシュしてドリアンロックシードのキャストパットを展開した。

 

 

『ソイヤッ! ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!!』

 

 

まるで格闘技で使われるような鐘の音と共にドリアンアーマーパーツが斬月に装着され、展開すると白いライドウェアには似合わない濃い緑の刺々しい姿となる。

 

ライオンインベスはようやく動き出し、構えを取る。まるで、やっと来たかと言わんばかりに。

 

両手に召喚された2対のノコギリのような剣、ドリノコを握りしめて斬月は一瞬でライオンインベスへと肉薄する。ライオンインベスの両腕と2対の剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 

激しい連続の斬撃に対抗するようにライオンインベスも腕を振るう。それは決着の着かない果てのない攻防に想われた。

 

しかし、一度間合いを取る為に斬月は後退し、それを追撃するようにライオンインベスが跳躍する。その跳躍は斬月にとってみれば誘いに乗ってくれた事で誘発出来た隙だ。

 

斬月は足元に転がっている瓦礫に足を引っかけると、それをライオンインベスに向けて蹴り飛ばす。飛んできた瓦礫を弾く為に視界から斬月を外したライオンインベスに、斬月はカッティングブレートを2回スラッシュしてエネルギーを解放する。

 

 

『ソイヤッ! ドリアン・オーレ!!』

 

 

ドリノコからエネルギーが巨大な刀身となって伸び、それを瓦礫を払う事に集中しているライオンインベスに叩き付ける。まるでハエ叩きのように地面に倒れ伏せたライオンインベスに、留めを刺すべく斬月は再びカッティングブレートを1回スラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! ドリアン・スカッシュ!!』

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

起き上がろうとするライオンインベスに向かってドリノコを構えて駆け出し、交差するようにドリノコを振るった。

 

「でやぁっ!」

 

クロスするように剣閃が走りライオンインベスを吹き飛ばし、エネルギーを叩き込まれたライオンインベスは吹き飛び爆散する。その衝撃は斬月を飲み込み、瓦礫の山だった施設をも灰燼と帰す。

 

衝撃が収まるには数分ほどの時間を有し、その間斬月の上には灰が山のように降り積もった。

 

「……………くっ」

 

灰から這い出た斬月は灰の山を下りて、ほぼ焼野原のようになった地に足を付けてから変身を解いた。

 

タカトラは灰となった施設を見て、歯噛みする。これでは殺された社員の遺体も、残っていたかもしれない資料などの手掛かりも灰となっているだろう。家族に遺体だけでもと思っていたのに、やるせない想いが身体を走る。

 

それと同時に考えるのはあのインベスだ。人を喰らい、通常個体を遥かに上回るポテンシャルを持った特異個体。この被害を見ても内包していたエネルギーが異常である事は明らかだ。

 

「一体、何だったというのだ…………」

 

そう呟き、ポケットの中身から先ほど拾った壊れたスピーカーを取り出す。特の意味もなく、何となくで入れてしまった物だが、これが手掛かりに繋がってくれればいいが、と淡い願いを込めながらタカトラはスマートフォンで島の支部に連絡する。

 

まずは手分けして本当に手掛かりが消え去ったのか。そして、社員の遺体を見つけなければならない。

 

あの子達の合宿の為に訪れたというのにさっそく降りかかってくる嫌な予感に、タカトラは逃げるのではなく真っ向から立ち向かう為に灰の山へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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様々な作業を終えて、貸別荘までバイクで辿り着いたタカトラは息を吐いてヘルメットを取る。この島に着いた途端にμ's達とは別行動になってしまったが、無事に1日を切り抜けられただろうか。

 

無論、他の学校にはいないほどのしっかりとした生徒会長である絢瀬絵里とそれを支える希。そして何より、弟のミツザネがいるのだから、最悪怪我などはしていないだろうが。

 

玄関扉を開けて中に入ると、ちょうどご飯を食べている所なのかリビングの方から笑い声が聞こえてくる。楽しそうな声を聞く限り、何事もなかった事が伺える。

 

「あっ、タカトラ先生」

 

「本当だにゃー」

 

戻ってきたタカトラに気付いたのは、トイレの戻りなのか内気な性格の少女、小泉花陽と毒凛語をしばしば口にする猫娘、星空凛だ。2人はミツザネの友達でもあるアキトの幼馴染で、凛の懇願で今回の合宿に参加してもらっているのだ。

 

「2人とも。何か問題はあったか?」

 

「えっと、何と言ったらいいのか……………」

 

「いやいやー。かよちん、やっぱりコレだよ!」

 

花陽は凛の言葉にどこかばつの悪そうな顔をする。

 

一体何のことだ、とタカトラが首を傾げると苦笑いを浮かべながら花陽が、

 

「あ、あの………とてもステキだと思います……………」

 

「……………ありが、とう? いや、話しが見えないのだが………」

 

すると、凛がにやりと笑い、何やら帽子を被り何かを弾くような仕草をした。それだけでどこか得体の知れない闇を暴かれているような気がして、心なしかタカトラの背中を冷たいものが垂れる。

 

「…………ジョーカーは必要ない。俺自身がジョーカーだからな」

 

「……………………………………」

 

思わずタカトラが音を立てて沈黙してしまう。それに気付かず、凛はぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 

「かっこいいにゃー! アキトにもそれくらいかっこつける癖があったらいいのになー」

 

「アキト君はそういうのやらないと思うけど………」

 

きゃっきゃとはしゃぐ2人に、タカトラの思考はようやく再起動する。それは出来る事なら滅亡させたい過去。中学生の頃、ババ抜きをやっていた時に相手がポーカーフェイスというものが苦手だったのでついやってしまった拭い難い黒歴史だ。

 

しかし、この事は当時のクラスメート。今となっては葛葉コウタの兄と九紋カイトの姉とどこぞのハット錠前ディーラーしか知らない記憶であり、μ'sと会った事はないはずだ。当然、ミツザネ達も知るはずがない。

 

知らないはずの彼女達が、何故知っているのだろうか。

 

「あ、兄さん」

 

今の会話が聞こえてきたのか、ミツザネも顔を出してくる。それに続くのはμ'sのリーダー高坂穂乃果と園田海未だ。

 

「タカトラ先生、おかえりー」

 

「お疲れ様です。今、お夕飯のカレーを温め直しますね」

 

「あぁ、すまない………」

 

そう言って上がろうと靴を脱いだ瞬間、見知らぬ靴がある事に気付いた。動きやすいスニーカーはコウタで、革靴はカイト。分厚いブーツはミツザネで、サンダルはアキト。ならば、このタカトラのようなビジネスシューズは一体誰の物だというのだろうか。

 

「……………誰か来ているのか?」

 

「えぇ、タカトラ先生にお客様です」

 

海未の言葉に不審そうな顔を浮かべてしまう。もしユグドラシル社員ならば先ほどまで支社にいたのだし、何より会社を経由して連絡を寄越すはずだ。

 

「……………園田。いくら私の知り合いだとしても、不用意に見知らぬ人間を招くのは危険だぞ」

 

いかなる事情があり、コウタや九紋カイト。ミツザネといった特殊な立場の男でがいて荒事に対応出来たとしても、危険である事に変わりはない。

 

タカトラがそう咎めると、口を尖らせたのは穂乃果だ。

 

「違うよー。その人連れてきたの、ミッチ達だし」

 

「………………何?」

 

ミツザネが見知らぬ人物を連れてくるはずがない。しかし、なおの事ユグドラシル社員ならば先ほどの理由で可能性は低く、凛の発言から学生時代のクラスメートという可能性が過ったが、今でも交流があってミツザネも知る人物といえば開発主任かカイトの姉、それと敵となった錠前ディーラーくらいしか思いつかない。

 

開発主任はさきほど会ったし、カイトの姉は日本にいるはずで、錠前ディーラーなど限りなく0に近い。

 

ならば、一体誰だというのか。

 

タカトラがリビングへ向かうと、聞き覚えのある声がする。

 

「そこでタカトラはな、どんな手を使って校内で逃げたハムスターを探そうとしたと思う?」

 

「うーん、普通に虱潰しに探したんとちゃうかな」

 

「いえ、きっとポスターを張り出したり聞き込みをしたりしたのよ」

 

「いや、ハムスターの格好をしてハムスターの鳴き声を出しながら探した」

 

ぶっ、と吹いたのはそれを聞いていた希に絵里、コウタとカイトだ。

 

その話しは先ほど、凛が口にした言葉と同時期。クラスで飼っていたハムスターがいなくなってしまい、探す際に開発主任から「ハムスターの気持ちになればどこに行ったかわかるんじゃないかな」というアドバイスを貰い、ハムスターの気持ちになるには「ハムスターの格好をすれば理解出来るんじゃないかしら」とハムスターの着ぐるみを貸してもらい、「探す時は仲間だって証拠をアピールする為にも鳴き声を練習しないとな」と錠前ディーラーの甘言によって、結果的に「ハムスターの格好をして鳴き声をマネながら探す」という暴挙をしてしまった。

 

それも握り潰したい黒歴史の1つだ。

 

それを語っているのは壮年の男性だ。その背中にはどこか懐かしさを感じたタカトラは、おぼろげに呟く。

 

「…………瀬賀先生?」

 

タカトラが呼び掛けると男性は振り向くと、懐かしそうにはにかんだ。

 

「…………久しぶりだな、呉島。いや、呉島先生、と呼んだ方がいいか」

 

瀬賀長信。

 

タカトラの中学生時代の担当教師であり、かつて天狗となっていた自分達の鼻を折ってくれた恩師である。

 

卒業してからは交流はなかったので、このような場所で再会するとなさは思わなかった。

 

「何故、先生がここに………?」

 

「ウチの子とはぐれてしまってね。探していたらインベスに襲われている所をミツザネ君達に助けてもらったのさ」

 

「インベスに襲われて………?」

 

なるほど、花陽が言い淀んだのはこのためか。見ず知らずの男が来ている、と報告しても良かったかもしれないが、もし本当に知り合いだった場合失礼になってしまう。だからこそ、花陽はどう言えばいいのかわからなかったのだろう。

 

「怪我は………?」

 

「大丈夫だよ、兄さん。何とか撃退したから」

 

ミツザネの言葉に安堵の息を吐き、しかしタカトラは咎める為に言う。

 

「ミツザネ、そういう時は何故私に連絡しなかった?」

 

「ついさっきの出来事だったし、兄さんも忙しいかなと思って」

 

淡々と告げるミツザネに、それでも出来れば連絡してほしかったと批難の目を向ける。確かに先ほどと言えばまだ支社で会議をしている途中であったし聞いたとしても心理的な負担にはなってしまっただろう。だからと言って、生徒が危険に晒されていたという情報を引率者が知りませんでした、という訳にもいかない。

 

「…………合宿出発前、細事あれば顧問の私にその都度連絡するよう言ったはずだが?」

 

「……………そうでしたね。忘れてました………到着早々、いきなりいなくなるものですから」

 

ぴくり、とタカトラは思わずミツザネを見やってしまう。2人の視線が交錯し、一瞬だけ敵意を見散らせてしまって花陽が脅えた声を漏らす。

 

その気配を察したのか周囲が息を飲んで黙ってしまう。

 

「はいはい、そこでよくわかんない喧嘩してないでお皿並べるの手伝いなさい」

 

「そうだよー。せっかくアキト君とアネモネちゃんが作ってくれたんだから」

 

隣の厨房から人数分の皿を持って来たのは矢澤にこと南ことりである。その後ろには大きな鍋を抱えたアキトと、見知らぬ少女がやって来た。

 

「彼女が?」

 

「あぁ、アネモネだ。アネモネ、挨拶しなさい」

 

長信がそう言うと、アネモネはちらりとタカトラを一瞥して頭を下げ、鍋をテーブルに置く。

 

「…………すまんな。人見知りでな」

 

「いえ………」

 

「でも、彼女。けっこう料理の腕いいっすよ」

 

「麻婆豆腐、ほとんど彼女が担当したものね」

 

アキトとにこに褒められたからか、アネモネが口元を微かに緩める。それを見たことりが「かっ、かかかか!」と壊れたゲーム機のようにアネモネへと飛び掛かろうとするが、両脇を穂乃果と海未が掴んで抑える。でなければアネモネは上の部屋に連れていかれ、ことりの着せ替え人形(おもちゃ)にされてしまうだろう。

 

「あ、タカトラ先生と瀬賀さんは上で食べます? いくつかつまみも作ったし、積もる話しもあるでしょう?」

アキトの提案にタカトラは長信を見やる。確かに色々と話したい事はあるし、それなりアルコールがあったほうがいい。

 

しかし、今のタカトラの役目はμ'sのコーチ。つまりは教師として来ている。ミツザネに指摘されたようにここで離れてしまってはいかがなものか。

 

すると、迷っている事を見抜いたのか長信がタカトラの肩を叩いてくる。

 

「生徒の自主性を大切にするのも教師だ。それに、生徒も教師がいたんじゃオチオチ羽を伸ばせやしない。お邪魔な大人は去るべきだ」

 

長信の言葉にコウタと穂乃果がうんうん、と大いに頷いている事が気になるが、ミツザネ達は戦いをしてコウタ達も長旅で疲れているだろう。

 

「では、お言葉に甘えさせて貰おう」

 

「つまみ類は後で持っていきますよ」

 

その代わりに酒下さい、と目で訴えてくるアキト。それを見透かしたように見ているジト目の凛と花陽。

 

見ればコウタとカイトも似たような目をしているが、それらを見るμ'sの面々も同じである。

 

何とも言い逃れの出来ない関係に内心苦笑しながら、ともかくスーツから普段着に着替える為、長信と共にリビングを後にした。

 

初めて貸別荘を使うが中は綺麗に整頓されており、もしかしたら真面目な絵里や海未が掃除してくれたのかもしれない。後で礼を述べた方がいいのかもしれない。

 

見れば部屋の片隅には中型の冷蔵庫が備え付けられており、鞄に隠していたビニール袋ごとその中へと突っ込む。

 

「お前も飲める年頃か………それほどの時間が経ったのだと感じるな…………」

 

「先生は………やはり、あの噂は本当に?」

 

スーツを脱ぎながらタカトラは尋ねる。

 

長信の元を立って数年後、タカトラ達はある情報を小耳に挟んだ。いわく、校外授業の為バスで移動中、交通事故により当時担当していたクラス生徒の全員を死なせてしまい、その責任を追及され教師の免許を剥奪されたという。

 

その言葉に長信はフッと笑うと、椅に腰を下ろした。

 

「………まぁ、頃合い的に教師を引退しようとしていたからな。生徒を守れなかった事に違いはない」

 

そう告げる長信の表情は、まるで自身を責めているように思えた。それ以上はタカトラが易々と踏み込んではいけない領域と察し、押し黙る。

 

「まぁ、俺の話しはそこそこに………暗い話ししか出来ないからな」

 

その時、ドアがノックされる。声を掛けると入って来たのはアキトであり、台車の上にはカレーライスとつまみが見えた。

 

「あぁ、すまな………何故、星空が?」

 

「アキトがお酒を貰わないように見張ってるんですにゃ」

 

入口からじーっと見つめている凛の返答に、若干不憫なモノを見る目で見てしまうタカトラ。

 

それを見た長信が、ふと爆弾を投下した。

 

「2人は付き合ってるのか?」

 

「…………はぁ!?」

 

長信の言葉にアキトと凛は後ずさり、互いの顔を見合わせてはトマトのように顔を赤くしては抗議を始めた。

 

「ない、それは絶対ないにゃ!」

 

「言っておきますけどね、瀬賀さん。俺はこんなまな板よりも希さんとかことりさんみたいなバリボゥーな人がタイプでしてね」

 

「そ、それはつまりかよちんを俺色に染めるぜって事かにゃ!?」

 

「…………え、あの子そんなにデカイの?」

 

「μ'sで3番目だよ」

 

「まじか………挟めそうだな。何をとは言わないけど挟めそうだな」

「ふしだらだにゃーっ!」

 

顔を別の意味で赤くした凛のハイキックがアキトの顎を捉えて、身体を回転させながら部屋の外へと吹き飛ばす。

 

それを追いかけるようにして退室していく凛。タカトラとしては何度も目にした光景なので慣れてしまったが、初めて見たであろう長信は頬を引きつらせながら言った。

 

「なかなか個性的な生徒が集まっているな」

 

「ははは………」

 

正確にはアキトは生徒ではないのだが、訂正する必要もないのでタカトラは乾いた笑みを返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大人組にカレーライスとつまみ類を届けて、台車を元の位置に戻してからアキトと凛は階段を降りてリビングへと向かう。

 

「っつー、もうちょい手加減してくれてもいいんじゃないか?」

 

「そっちこそ、いい加減身体的特徴であれこれ言うのやめるにゃ」

 

あぁ言えばこう言う。まさしく阿吽の呼吸のごとく間髪入れずに返せるのは、幼馴染みの特権だろう。

 

さて、言い方は悪いが邪魔な大人は追い払った。後は就寝時刻まで適当に9人の女神をあしらってからタカトラの元へ行き、お酒を拝借すればアキト達のステージだ。本来ならばここで手に入れる予定だったが、流石は幼馴染みといった所か。凛にはアキトの考えがお見通しだったらしい。

 

リビングに辿り着くと皆一様に食事を始めており、アキトと凛も花陽の隣に腰を降ろして食事を開始する。

 

「………ねぇ、アキト君。何で花陽のだけカレールーとご飯が別な訳?」

 

「気にしないで下さい」

 

「本人曰く、せっかくのご飯にルーを掛けてベチャベチャにするなんて邪道だそうで」

 

アキトの説明にうんうん、と頷いた花陽はまずはご飯だけをぱくりと食べ、ぱぁぁと花を咲かせるがごとく笑顔を広げた。

 

再会して当初、まだ花陽がご飯好きであると知る前にカレーライスを振舞った際、発言した通りの事を小一時間説明されたのである。

 

なので同じ轍を踏まないようにアキトは花陽だけに対してだけご飯は必ず別個で出すようにして、さらにとろっとしたカレールーよりもスープカレーの方がいいだろうと、特別に別で作る事にしているのだ。

 

今回ももちろん、別の鍋でスープカレーを作って出したが、その時の凛がした「かよちんばっかりえこひいきだにゃ」という目は忘れられそうにないが、特別な意味ではなくただ単にまた説教されるのが嫌なだけである。パラレルワールドを流すのはどこぞのツンデレ破壊者とツンツン頭の少年だけで充分だ。

 

「あ、アネモネさん。辛くないですか?」

 

ふと、反対側の席でアネモネの隣に座っているミツザネが声を掛けると、ふるふると首を横に振る反応が返ってきた。

 

「大丈夫。美味しいからおかわりしようかな、って」

 

「そうですか? 口に合うようで良かった……僕もおかわりしようと思って、一緒に行きましょうか」

 

にこりと笑ったミツザネと共に立ち上がり、アネモネは鍋が置いてある机へと歩いて行く。

 

2人がこちらの会話が聞こえないくらい離れたのを確認してから、残った全員がテーブルに身を乗り出して声を潜めながら会議を始めた。

 

「なんかミッチ、様子が変じゃねぇか?」

 

「そうだよね。何か……鼻の下をだらし無く伸ばしてるっていうか………」

 

「まるでカイトさんみたいですね」

 

「海未、それはどういう意味だ」

 

コウタ、穂乃果、ことり、海未、カイトの順で呟いてからミツザネ達を見やる。

 

2人はご飯を盛り付けながら楽しそうに会話をしている。まるで青春ドラマに出てくる主人公とヒロインのように。

 

「一体どうしたのかしら……」

 

「いやいや、これはもう恋しかないやん」

 

首を傾げる絵里に対して、希はにひひと笑いながら爆弾をぶん投げた。あまりにも自然だった為に誰もが言葉を失っている中、立ち上がるとロックシードを階上する真似をした。

 

 

『恋愛!』

 

 

そして、それをベルトに嵌め込んでカッティングブレードをスラッシュさせる所まで完璧である。

 

「ミッチが恋!?」

 

「そうや。恋愛コンボ……じゃなかった。恋愛アームズや!」

 

 

『ハイィーッ! 恋愛アームズ!ラブコメ、キュン、キュン、キュン !!』

 

 

希のスピリチュアルパワーのせいか立派な音声と、何やらピンク色の果実のようなものを被る龍玄が幻視される。

 

「………馬鹿か」

 

「あーっ、そうやって自分が苦手な分野から逃げるなんて卑怯やで、カイト」

 

身を引いて呆れたように肩を竦めるカイトに、座り直した希が口を尖らせる。

 

「ミッチが恋愛………」

 

弟分に訪れた春によほどショックだったのか、うわごとのようにコウタが呟く。

 

「……コウタ君、なんだか羨ましそうだね」

 

それをジト目で追撃する穂乃果。コウタは別にそういう訳じゃない、という風に頬を描きながら言う。

 

「いや、なんつーか……ミッチが恋愛ってのが似合わないっていうか………」

 

「そうかなぁ………ミッチも年頃の男の子なんだし、恋の1つ2つあると思うけど………」

 

コウタの言葉に返したのはことりだ。一瞬、『抜き取った感情』が蘇ったのではと危惧したアキトだが、ことりがコウタへ向ける視線は至って普通の友情であり、杞憂するようなモノは何もなかった。

 

「アーマードライダーは恋愛なんかしていい訳?」

 

「えっ………いや、どうなんだ?」

 

「知るか」

 

にこから投げられた疑問にコウタはカイトへ助け舟を期待するが、当然のごとく一蹴される。

 

「それってスクールアイドルが相手、ってのが前提っすよね。ならいいんじゃないっすか」

 

アキトの言葉ににこはどこか不快そうに顔を歪める。

 

「いいの? 天下のアーマードライダーが恋愛なんかに現を抜かして」

 

「そもそも、アーマードライダーってのはユグドラシルの社員……ほとんどが成人ですよ? 仕事とプライベートの区別くらい付きますって。だいたい、学生ライダーなんてコウタさん達くらいなんだから、そこまで合わせる必要ないと思いますよ?」

 

学生とは縛られているようで、自由な立場だ。勉学という鎖に繋がれつつも、社会的責任を問われないという翼を持っている。もちろん限度はあるものの、大概の事は許されるのが学生だ。

 

だから、スクールアイドルと一緒だからと言って、コウタ達までそれに従うのは可笑しいと思うのだ。

 

自由なのに自らを縛っている。それは自分を律する為ではなく、ある意味で今の居場所を守る為だ。

 

だが、果たしてそれはコウタ達の為になるのだろうか。μ'sはμ's自らが律する為にそういった暗黙の了解を立てているだけで、わけりやすく言えばアーマードライダー達はそれに付き合う必要はない。

 

もっとも、それにはアキトのもう1つの役目を楽に全うする為、という目論みがあるのも確かであるが。

 

「ふーん、まぁアキトからしたら気が気 でないかもね。凛がスクールアイドルでモテモテになっちゃったら大変だし、普通の一般人のアキトとじゃ住む世界も立場も変わっちゃったら………」

 

「にこ!」

 

そこまで言いかけて、絵里に叱責されたにこははっとなったように口を噤む。そして、バツが悪そうにアキトに向かって頭を下げた。

 

「ごめん……そんなつもりはじゃ……」

 

「……………………………うん? 今のドコに謝る要素があったのか皆目見当が付かないぞ」

 

にこの言葉にアキトはわざとらしく首を傾げる。

 

にこの言った事は、ある意味で当たっていたのかもしれない。μ'sはこれからどんどん凄くなっていき、いつかは必ずラブライブ!に出場する事になるだろう。そうなれば必然的にメンバーの顔は広がっていき、街に出れば何人かに気付かれてサインを強請られる。つまりは有名人になるだろう。

 

そうすれば、もしかしたら凛はアキトに振り向かなくかもしれない。この猫娘にとって有り得ないだろうが、猫とは本来自由気ままな存在である。

 

我ながら愚劣で卑怯で最低だな、とは思う。他人の恋路を邪魔しておいて、自らの路を危惧している。本当ならば、アキトも同じように手放すべき気持ちだというのに。

 

「…………あれ、おかわりに行っていただけなのにどうして険悪な空気になっているんです?」

 

そこへミツザネとアネモネが戻ってきて、困惑したような表情をする。しかし、ミツザネが恋をしているかもしれないという話題から険悪なムードに発展した、などと言えるはずもなく誰もが押し黙ってしまう。

 

「…………いや、単に凛がいつか絵里さんみたいなバリボゥーな体系を目指すって言うもんだから、お前が慣れるとしたらにこさんか海未だんだっつーの、って話しをしてた」

 

「にゃーっ!? 凛だって絵里ちゃんやことりちゃんみたいになれるよ! まだ1年生だもん、希望はあるよ!」

 

ばん、とテーブルを叩いて凛が詰め寄ってくるが、アキトはとある部分を遠慮なく指さして笑い飛ばした。

 

「はん! お前にどんな完全体をジョグレスさせた所でなるのはにこさん(幼年期)海未さん(成長期)のどっちかだっての!」

 

「それ退化してる!?」

 

「お、おい………アキト。その辺で…………」

 

コウタが何かに恐れるように言ってくるが、アキトは構わず続けた。

 

「凛だって毎日牛乳飲んでるし! きっと大きくなるし!」

 

「いや牛乳飲んで大きくなるのは胸じゃなくて身長じゃね? まぁお前、チビである事に変わりはないけど」

 

「このっ…………………あ」

 

反論しようとして、凛が止まる。より正確にはアキトの背後を見て。

 

そういえば、何か気配を感じる。ただならぬ殺気と共に。

 

「誰が幼年期ですって…………?」

 

「誰が成長期ですか………………?」

 

「………………はっ」

 

しまった、やり過ぎた。そう思ってもすでに時遅し、いつの間にか両脇ににこと海未がおり、がしっと両腕を捕まれるとギリギリっと引っ張り始めた。

 

「痛だだだだっ! ふ、2人とも痛い! り、凛助けてくれ!」

 

「散々煽った罰にゃ」

 

慌てて凛に助けを求めてみるも、当然のごとくそっぽを向かれる。他のメンバーも同様であり、あのカイトでさえも「お前はやり過ぎた」と呆れた表情をしてしまっている。

 

「さぁ、アキトの罪を数えるにゃ」

 

アキトは以前、その意味をちゃんと理解して言葉にしたが凛はおそらくぱっと思いつきで言ったのだろう。

 

それに対してのアキトの返答は決まっていた。

 

「今更数え切れるかぎゃぁぁぁぁあああああっ!!」

 

アキトの絶叫が轟く。

 

険悪なムードを笑いで吹き飛ばす。それを察してくれたからこそ凛も乗ってくれたのだが、それは幼馴染感で共有出来た阿吽の呼吸。

 

それを出会って間もない海未とにこに理解しろというのは無理な話しなのだろう。

 

結局、やり過ぎた者には制裁を、という事である。

 

それを見て回りは笑いに包まれる。アキトの思惑通りに。

 

その中でアネモネも笑みを見せる。

 

だが、その表情で緩んでいたのは口元と頬のみ。

 

その目は、そのまま変わらず何も描かれていないキャンパスのように、真っ白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

呉島タカトラが所有するロックシード

 

 

・メロン

・ドリアン

・ヒマワリ

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

「じゃあ、お片付けが終わったら花火にゃ!」

 

「いいえ、昼間は遊んでしまったのです。練習です!」

 

「…………私は片付けて寝るわ」

 

「わ、私はお風呂に入りたいかなって…………」

 

晩御飯後のやりとりについててんやわんやになるμ's。

 

 

 

自身を襲う苛立つ感情に困惑してしまう真姫。それは隠しているつものようで、隠せてなくて。

 

 

 

「………………何事ですか………………?」

 

そして、彼らの児戯は目覚めさせてはならぬ戦士を呼び起こしてしまう。

 

 

 

「んー、量産型ドライバーなら変身しても黒影のまんまか。なら躊躇わないで変身しときゃ良かったかな」

 

「………………アキト」

 

夜更けの浜辺で、2人の幼馴染の密会が…………。

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

 

28話:夏色笑顔で1、2、jump! ~払えない曇天~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「あの、コウタさん。アキトが言っていたバリボーってどういう意味なんです?」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐアキト達をしり目に、初めて聞いた言葉にした意味がわからずミツザネはコウタに尋ねた。

 

するとコウタは驚きつつも、どこか嬉しそうに言った。

 

「うわ、それ聞いちゃう? ミッチ、大人の階段登る気満々だな」

 

「えっ、なんですか…………それ。いいですよ、もう聞きません………」

 

「バリボーとは、男のロマン…………」

 

コウタのおちょくるような口調に思わずムッとなってしまったミツザネが口を尖らせると、突然カイトが語り出す。

 

「ミツザネ。クールなのも結構だが、ロマンを追わない男に成長はないぞ」

 

「その通りだぜ、カイト! もっと言ってやれ!」

 

珍しくコウタとカイトが肩を並べて、ミツザネを見やってくる。当然、2人はミツザネが尊敬する兄貴分であり、憧れてもいる。そして、その言葉に興味がない訳ではない。

 

が、本当にそこまでして知らなければならないような言葉なのだろうか。

 

ミツザネの迷いを表情から察したのか、鋭い眼光をカイトが向けてくる。

 

「そんな半端な気持ちでロマンが追えるか…………本気を出せ!」

 

「ば、バリボーの事、教えてください…………」

 

「かぁーっ、声が小せぇよ! もっと気持ちを込めろ!」

 

コウタにまで言われ、ついにミツザネは決心したように叫んだ。

 

「ティーチ ミー バリボー!!」

 

そして、忘れいた。今は合宿中であり、この場はリビングで全員がいるのだ。

 

アキトのギャグで騒がしかった全員が、突然叫び出したミツザネに驚き思わず凝視してしまう。

 

「…………ミッチ、大声で突然何を言っているの?」

 

「責めたらダメよ、エリチ。これが男の子の思春期という奴や。生暖かく見守ろう?」

 

困惑する絵里の肩に手を置き、どこか理解したというか達観した表情で笑みを浮かべる希。

 

「……………待ってください。誤解です、誤解なんですってばーっ!」

 

アキトの絶叫とは別に、ミツザネの絶叫も響き渡った。

 

 

 

 

 

 

すぐそばにいたはずなのに、一瞬で距離を置いたコウタとカイトは苦笑しながた呟く。

 

「悪ぃな、ミッチ」

 

「男のロマンに負傷はつきものだ」

 

本当にどうして、普段はいがみ合ったりしてるのにこと人を陥れたり弄る時に関しては簡単に手を取り合うのか。

 

それはある意味で、人間の本質なのかもしれない。

 

 

 

 

 




次回はタカトラ先生の黒歴史解禁だぜ! と言っておきながら誕生日回を2回も挟んで久々の更新となりました。

どうもー、グラニでございます。次の話しが思った以上に長くなりましたので分割しましたので投稿となりました。

まさかのモブ死、予定にはなかったのにこうなったもコレも全部コウタさんのせいだ(関係ありません)

タカトラ先生の若かりし頃。もちろんネタのモチーフはどこぞのハーフボイルドです。どんなに無敵完璧超人にも若造な時期があったのですよ、きっと。

前回の予告から推測された通り、恋愛アームズは恋愛コンボです。なのであんな感じのをイメージしてもらえればww

夏色って曲名使ってるのにまったくそれっぽいトコが見当たりませんね。次回もたぶん、そんな感じのシーンはないです(白目)

ではでは、次回をお楽しみください!

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