ラブ鎧武!   作:グラニ

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花言葉

「純愛」

「追憶」


たまには茶と共に昔語りでも

アルバム。

 

その単語から思いつくのはやはり、写真を収めておくファイルの事だろう。

 

アルバムとは思い出の集まった姿。つまり、思い出の塊だ。

 

それは時間を重ねるにつれて増えていき、当然アルバムも増えていく。

 

それを無駄と感じるかどうかは人ぞれぞれだろう。

 

だが、忘れてはならない。

 

重ねてきたソレがあるからこそ、今の自分がいるという事を。

 

 

 

 

これは思い出を振り返る話し。

 

星空凛、啼臥アキト、小泉花陽。

 

昔から一緒だった3人の軌跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛は鼻歌混じりに重ねたアルバムを眺めていた。膝下まで伸びているデニムのロングスカートと黄色い薄い縦セーターを着こんでおり、その顔たちはμ'sの画像の凛とはかなり大人びている。

 

当たり前だ。μ'sが解散してからおよそ9年ほど経っているのだから、いかに幼児体型であった凛もそれなりに成長して立派な女性となっていた。

 

だからこそ、それなりに思い出も積み重なり、アルバムもそれに応じて増えてきた。なので整理するにはいいタイミングだったのでアルバムを弄っていたら、ちょうど懐かしさを感じて思い出に浸っていたという訳である。

 

整理するはずが逆に散らかしてしまっているが、そんな事は気にせずに凛は次のページを捲る。

 

そこに入っていた写真は、3人の男の子と女の子が幼稚園の門の前でどろだらけで立っている姿だ。男の子の方は父親と一緒に照れたようにあらぬ方向を見ており、女の子2人は満面の笑みでピースサインをしている子とメガネを付けてオモチャのマイクを握りしめている。

 

言わずもかな凛と、その幼馴染小泉花陽と啼臥アキトである。この写真はアキトが持っていた写真で、少し古くなっていたのを写真屋に頼んで新しくしてもらったのだ。

 

「懐かしいなぁ………アキトとかよちんと、私………幼稚園で会ったんだっけ」

 

その時、風が吹いて窓から白い花びらが入って来た。アキトが花に詳しい為に凛もそれなりに詳しくなってきたが、流石に花びらでは何の花かまでは判断が付かない。しかし、その白い花びらを見て何となく「茶」を思い出した。

 

「茶」とはその文字のごとく、お茶の花である。お茶は茶葉によって作られるのは常識だが、その茶にもちきんと花は咲くのだ。

 

花言葉は「追憶」。

 

丁度、この前μ'sのスピリチュアル巫女(本人の前で口にする顔を真っ赤にして怒る)から有名な静岡の茶葉を貰ったのを思い出し、それを飲みながらアルバムを眺める事にした。

 

立ち上がってリビングへ向かう凛は、そういえばと思い出した。

 

確か、出会いがしらも白い花びらを追いかけていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日は入園式だった。なので少し緊張した顔で凛は両親と家を出て、幼稚園へと向かった。

 

幼稚園に到着してから両親は手続きは知り合いの親御さん達と会話を弾み、1人だった凛は手持ち無沙汰になった。

 

そんな時、凛の目の前を白い花びらが舞ったのだ。初めて見る花びらに興味を惹かれた凛はその花びらの元を辿って行った。見知らぬ林の中に入った事も気付かずに。

 

そして、凛が見たのは眼前を舞う白い花だ。それはまるで雪のように見えて、子供ではなくとも目を奪われても仕方ない光景だった。

 

「わぁー…………あれ?」

 

花びらが舞うのには風が必要だ、そして、風とは一瞬で終わってしまうもので、凛の前に舞っていた雪もそれに伴い花に戻って地面に散らばった。

 

あれー、と残念そうに首を傾げた凛は花に駆け寄ると、今度はそれが白い海のように見えた。よくよく目を凝らせば花と花の間がぼんやりとだが魚が泳いでいるようにも見えなくはない。

 

何だ、ここは白い海だったのか。ならば泳がなければならない(使命感)。と、いう事で身体を動かす事が大好きな凛は前日に雨が降って地面がぬかるんでいる事も気にせず飛び込んだ。

 

当然、新品だった幼稚園の制服は瞬く間に泥だらけとならり、しかし凛は構わず白い海を泳いだ。

 

「あー、どろのうえでおよいでるやつがいるー」

 

その声に凛が振り向くと、そこに立っていたのは同い年くらいの男の子だ。

 

男の子はまじまじと泥だらけの凛を見て言った。

 

「おとーさんが言ってたぞ。ふくをたいせつにしない子にはばちが当たるって」

 

「えぇっ!?」

 

その言葉に凛は思わず肩を震わせる。凛はよく外で遊ぶ方なので、毎回のように約束の時間になっても帰らず怒られる事があるのだが、もはや常習犯となっているので親には怒られる慣れてしまった。

 

しかし、神様相手となるとそうはいかない。神様は何でも言う事を聞いてくれて、何でも出来るとんでもなく凄いのだ。

 

ばちとは悪い子に降りかかるもので、昔からお婆ちゃん神様は怒らしてはいけないよ、と言われていたのだ。

 

まさか服を台無しにしたくらいで神様が怒るとは思えないが、この男の子の言う事が本当ならば罰が当たるかもしれない。

 

凛がまっさきに思い浮かぶ罰。それは今晩、凛の父親の友人が営んでいるというラーメンがなしになる、という事だった。

 

凛は幼いながらラーメンが好きだった。出来れば毎日でも食べたい所だが塩が多いという謎の理由により、月に1回しか食べる事を許されないのだ。

 

そのラーメンを奪われる事は、凛にとっては死活問題だ。何よりも神様に嫌われるという事は、大好きなお婆ちゃんからも嫌われるという事だ。

 

それに気付いた凛の大きな瞳は震え始め、ぶわっと涙が溢れ出した。

 

「ど、どうしよう…………! ラーメンが、ラーメンが…………!」

 

しかし、やはりと言うべきかなんというか。涙を流す理由は神様に嫌われたとかお婆ちゃんに嫌われたとか、それよりもすぐにラーメンが浮かぶあたりこの子の将来が心配になってくる発言である。

 

それを見て男の子は、自分が泣かしてしまったと狼狽えるかと思いきや冷静に泥だらけで泣きじゃくる女の子を見て、顎に手を当てて考え込む。

 

そして、何かを思い付くとばっと凛と同じように花の海に飛び込み、真新しい制服を泥で汚し始めた。

 

「おぉー、どろんこのうえであそぶのたのしーかも」

 

「えっ…………」

 

男の子の突然の行動に驚いて凛の涙が止まる。あらかた泥だらけになった男の子はにかっと元気良さそうな笑顔を浮かべて言った。

 

「ぼくからさそったって言えば、おこられずにすむんじゃないかな。ぼくん家、ラーメン作ってるところだから、たらふく食べられるよ!」

 

「えっ、いつもらーめん食べてるの!? いいにゃー」

 

「……………にゃー?」

 

あっ、と思わず凛は口に手を当ててしまう。それはテレビで見る猫の可愛らしさにやられた凛がふざけて真似たものが、そのまま口癖になってしまったものだ。

 

いくら猫が好きだからといいってもその鳴き声で話すのは可笑しいという事は幼い凛でも知っていた。なので人前では絶対に口にしないようにしていたのだが、つい羨ましさから癖が零れてしまった。

 

しかし、男の子はバカにする事なく言った。

 

「へぇー、かわいいね! ねこさんすきなの?」

 

「えっ……う、うん……………」

 

 

「そっかー。ねこさん見たことないけど、かわいいよね」

 

のほほんとした感じで男の子は告げるが、凛はそれどころではなかった。

 

今まで短い髪の毛と身体を動かす遊びの方が大好きな凛は親以外の、それも同じくくらいの男の子から可愛いなどという言葉を貰うのは初めての体験談である。

 

かぁぁっ、と顔が熱くなるのを感じながら、凛はどういう訳か男の子の顔が見れずに俯いてしまう。

 

「あ、あの………!」

 

その時、後ろから声を掛けられて2人は振り向く。そこには凛達と同じ幼稚園の制服を着た眼鏡の女の子が立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「あ、その…………」

 

凛が尋ねる眼鏡の女の子は押し黙ってしまい、どうしたんだろうと首を傾げる。

 

すると、男の子の方がポンと手のひらに握り拳を乗せた。

 

「もしかして、ぼくとおなじまいご?」

 

「えっ?」

 

こくりと頷く眼鏡の女の子を見て凛が男の子へ向くと、照れたように後頭部の髪を掻いた。

 

「いやぁ、おとーさんがまいごになっちゃったから探してたらよーちえんがまいごになっちゃって、探してたら君が泥んこであそんでたから」

 

その言葉に凛は思わず周囲を見回すと、そこは見知らぬ林の中だった。

 

ここがどこだかわからない。それに気付いてしまった凛を、途端に親とはぐれたという現実が襲いかかる。

 

先ほどは嫌われたくないという感情だったが、今度は親がいないという恐怖に凛の瞳から涙が流れ出す。

 

「ふぇ…………」

 

「わっ、だ……」

 

眼鏡の女の子が凛に駆け寄ろうとした時、ぬかるんだ足元に滑って宙に浮かぶ。そして、ばしゃんといい音を立ててお尻から白い花びらの海に落ちた。

 

一瞬だけポカンとした眼鏡の女の子は、じんわりと目に涙を貯めて決壊したダムのように流し出した。それにもらい泣きするように凛までもがわんわんと泣き出してしまい、もう泣き喚く事しか出来ないような気がした。

 

しかし、その子だけは。まだ名前も知らない男の子は泣きじゃくる2人の女の子を交互に見やって、再び何かを思い付いたように手のひらに握りこぶしを置く。

 

そして、周りの白い花びらをかき集めて、両手で持てるくらいの量を抱える。そして顔を上げて周りの木々に注目し、何かを待っているらしく少ししゃがみ込んでいた。

 

その姿に凛も眼鏡の女の子も次第に泣き止み、何をする気だろうと男の子をまじまじと見る。

 

そして。

 

びゅぉっ、と風が吹いた。

 

「いまっ!」

 

見計らったように男の子は両手で抱えていた花びらをばっと(そら)へばら撒いた。

 

花びらが舞う。それはさしく凛が心奪われた雪景色であり、2人の涙はいつの間にか止まっていた。

 

「わぁー…………」

 

「すごーい……………」

 

感動の声を上げる凛と眼鏡の女の子に、この雪景色を作り出した魔法使い(おとこのこ)はにかっと笑った。

 

「ないてたってしかたないよ。なくよりも、そらをみたほうがいいって」

 

言われて2人は見上げる。風が止んではらはらと落ちていく花びらの奥に広がっている青い空。

 

「そらはあおいんだし…………このそらみてたら、ないてるのがなんだかもったいないなー、なんてきもちになるんだ」

 

雲1つない空。それは頭上に広がる海のように見えて、自然と凛と眼鏡の女の子は笑顔になった。男の子の言う通り、泣いていたら涙でこの空は見えない。そう思ったら、勿体ないと思えてきたから。

 

「よしっ、まいごのようちえんをさがしにいこう!」

 

「えっ…………」

 

「こうしていてもしかたないよ。だいじょうぶ、いつだってあしたはぶらんくってやつだから、なんとかなるよー」

 

ぶらんくってなんだ。思わず凛は眼鏡の女の子を見やるもわからないようで、互いに首を傾げた。

 

「あっ、そうだ。まだなまえしらないや」

 

そう言っておとこのこは言う。

 

「ぼく、ないがあきと!」

 

「りんはほしぞらりんだよー」

 

「こ、こいずみはなよ………です…………」

 

互いに名前を告げて、どこか可笑しさが混じって来たのか笑顔が溢れた。

 

それから迷子の幼稚園を探して歩き回ったが結局見つからず、当時の音ノ木坂学院の女子生徒に保護されるのだった。両親と合流して怒られたり、凛が行っているラーメン屋は実はアキトの実家だったり、3家族の父親は学生時代の友人だったなどと。

 

様々な縁が混ざり合っていたが、のちにしてみればどうしようもなくベタな出会いだった。

 

それが星空凛と啼臥アキト、小泉花陽との縁の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「にゃ………?」

 

9年経った今でも、不意に猫語が飛び出す事は多々あった。もう成人しているのだからいつまでもそういった言葉は使わないように心掛けているのだが、やはり不意打ちの場合はそういう訳にいかなかった。

 

茶を急須に入れてお盆に乗せてアルバムを出した部屋に戻ると、そこには1匹の猫がいた。窓から入り込んでくる風に青い毛並みが震え気持ち良さそうに尻尾が揺れている。

 

その姿に凛は微笑むと猫の隣に腰を下ろして、寝息を立てているその身体を撫でる。

 

「そうだね………カリちゃんもこのアルバムを見たいよね」

 

急須から湯呑へ茶を注ぎ一口。苦味と旨味が口の中に広がって息を吐いて、アルバムを捲る。

 

目に止まったのは、ハロウィンの仮想をしている3人。

 

それは、町内会で行われたハロウィンイベントだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あーあ、やっちゃったにゃ………」

 

凛が町内会のハロウィンイベントに参加するのは初めてだった。凛が挑戦した仮想は真っ白なシーツにお化けの仮面とハロウィンっぽい魔女っ子三角帽子。

 

本当はもっと怖いゾンビとかにしたかったのだが、元となった外国のテレビ番組を見たアキトが「いや、それ絶対かよちんや他の子も泣くし、あぁいうメイクって難しいからやめときなよ」と言われて断念。ちなみにアキトは面倒だからと黒マントにハット帽子だけという簡単な仮想らしく、本音を言えばあまり乗り気ではないらしい。

 

『じゃあ何でイベントに参加するの?』

 

『お前が迷子になったらかよちんだけじゃ探せないだろ』

 

凛はよく迷子になる。幼稚園の時もそうだったし、他の遠足の時もそうだった。そして、決まってアキトと花陽が探してくれて、凛の目付け役は自然とこの2人になっていた。

 

むぅ、流石の凛も自分より小さい子もいるのにどっか行ったりしないよ。

 

と抗議したのはハロウィンイベントが始まる直前で、現在は見事にハロウィンの列から離れて静かな公園にぽつんと。

 

町内会で行われたハロウィンイベントは凛が想像していたような外国のものと比べて地味で、凛は真面目にやらず適当に歩いていた。高学年である凛は小さい子達が迷子にならないように見ていなければならないのだが、それはアキトと花陽がやってくれるので伸び伸びと歩いていた。

 

「あっ、にゃんこちゃん!」

 

つまんないなー。そう思っていたからか道端にいた小さな猫を見つけた時、凛の心は一気に奪われた。列から外れて付くと、猫はビクッと身を震わせて逃げてしまった。

 

可笑しい。いつもは警戒しつつも凛がニャーンと声を投げれば小さくニャーンと返してれるのだが、今日に限って怖がってばかりだ。

 

冷静に考えれば仮装が原因なのだが興奮している凛がそれに気付くはずはなく、トテトテと逃げていく猫を追いかけて走っていくのは当然だった。

 

追いかけて追いかけて、夢中で追いかけて。

 

気付いた時には知らない公園に出ていた。近隣の公園は遊び尽くしたと自負していた凛だったが、夜の公演は昼間とは別の顔をしており、凛は思わず表情を固くする。

 

さぁさぁ、と風に煽られて木々が揺れる。それはまるで凛を見て嗤っているようで、不気味さを感じさせる音だった。

 

ごくり、と喉を鳴らした凛は恐怖心を抑えるように踵を返して公園から出ると、そっと耳に手を添えて澄ます。

 

凛は耳がいい。特にどれだけの喧騒の中にいても幼馴染みの声は絶対に聞き逃した事はない。

 

夢中で走ったとはいえ、同じ町内なのだから列からそれほど離れていないはずだ。どこかしらでハロウィンの声が響き、その近くに行けば2人の声が耳に届くはずだ。

 

さぁさぁ、と葉音が凛を焦らせるかのように響いてくるが、一切合切無視だ。思い浮かべるのは大好きな幼馴染みの声。

 

「………………イタズラするぞ!」

 

「あっちだ!」

 

猫のような耳だったのならばピクピクと動いていただろう。それほどまでに凛は希望を掴んだかのように走り出し、声を頼りに角を曲がる。

 

そして、見つけた。

 

はぐれた一団が進行しているその中で、少し涙目になってキョロキョロと周りを見回している花陽と、一団の外にいないかとジャンプをしているアキト。

 

やっぱり探してくれている。その事がとても嬉しくて、花陽は可愛くてアキトがカッコよく見えて凛は頬を赤く染めた。

 

いつだって花陽は凛にとってヒロインで、アキトはヒーローだ。ヒロインというのはヒーローの女性版なので使い方は間違っていない。

 

「かよ…………」

 

安心させようと声を出しかけた所で、豆電球が光ったように凛はにやっと笑う。

 

そうだ、せっかくのハロウィンなのだから普通に合流してはつまらない。花陽とアキトを脅かしてやろう。

 

そうと決まれば外していたマスクや三角帽子を付けて、走ってはだけたシーツを直す。

 

すると、2人の会話が耳に飛び込んできた。

 

「凛ちゃーん、どこー。迷子になっちゃったのー?」

 

「んのやろー。下のやつら見るの押し付けといて自分は迷子か。今度から首輪とリール付けるぞ」

 

花陽の声は周りの子供達の声に掻き消され、アキトは何やら不穏な事を口にしている。それを見て凛は目を擦って再度見やる。

 

本当に探してくれているのだろうか、いや探してくれている違いにない。だってほら花陽はあんなに必死になっているし、アキトは悪鬼羅刹を思わせるような笑みを浮かべて心なしか口には牙が生えているよう気がしなくもないがそれはきっと先ほどの木々が生んだ恐怖心による錯覚だよそのはずだ。

 

そう自分に言い聞かせて、凛は近くに立てられたカーブミラーで自分の姿を確認する。三角帽子よし、お化けのお面よし。これならばアキトはともかく花陽を脅かす事は出来るだろう。

 

丁度列が花陽達のいる部分が間近に迫り、凛はタイミングを見計らってそわそわと探している花陽とアキトの前に躍り出た。

 

「おーばーけーだぞー! お菓子をくれないとオマエを食ーべちゃーうぞぉー!!」

 

「おわっ、なんだ凛k………」

 

「っっっっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」

 

アキトは一瞬だけ驚いたようだがすぐに凛だと気付いたらしい。少しでもアキトを出し抜けたと思えば凛としては勝ち星だったのだが、予想以上だったのは花陽だ。

 

花陽は出会ってから聞いた事がないくらい大きな悲鳴を上げて、大きく目を見開いて涙を貯めだす。

 

「やだっ、おばっ…………こないで、やだ、やだやだやだ………アキトくぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 

「えっ、いやかよちん俺ここだしというかこれ凛なんdぐえっ…………!」

 

涙をあふれ刺した花陽は傍にいるアキトの首根っこを掴むと、苦しむ幼馴染の姿に気付かずに走り出した。

 

「あ、ちょっと待って!?」

 

走り出した花陽に凛は手を伸ばす。あれだけ探してくれていた凛はここにいるというのに、花陽はアキトを連れて(正確には引き摺って)行ってしまう。

 

速さは普段のかけっこや鬼ごっこの時よりもずっとずっと速くて、凛も追いかけるもシーツを被った状態では全然追いつけそうになかった。

 

なんだ、かよちん。本当は走るのは速いじゃん。

 

走りながら凛は漠然と思った。花陽はいつだって凛に遠慮している。花陽だってアキトの事が大好きな癖に、気遣っていつも隣を凛に譲ってくれている。

 

けど、きっとそれは奢りとかでもなんでもなくて、心の底から花陽が優しいからで、だから凛も花陽の事が大切で大好きだから。

 

凛は走った。このままだと花陽まで迷子になってしまう。一度しゅんと落ち込んだ花陽はアキトの力ではてこでも動かず、いつも凛が引っ張っていた。

 

走って辿り着いたのは、偶然にも先ほど凛が辿り着いた公園だった。花陽はその中心で座り込んでわんわん泣いており、アキトは走らされて疲れたのか目を回して大の字になって倒れ込んでいた。

 

「かよちん……………」

 

「わぁーん、お化け………やだ、助けて凛ちゃん…………!」

 

トクン、と凛の心が高鳴った。花陽はいつだって頼りにしてくれるのはアキトだ。いや、アキトを頼りにしていない訳ではないけれど、花陽にとってアキトと凛がいてこそなのだろう。

 

アキトが欠けても、凛が欠けても、花陽が欠けてしまっても意味がない。いつまでも三位一体でいたい。

 

くすりと、凛が笑う。

 

凛は花陽に勝てなさそうだ。だけどアキトには勝てる。花陽はアキトには勝てないけど、凛には勝てる。そして、アキトは凛にも花陽にも勝てない。

 

これがきっとこれからも続いてくのだろう。ずっと一緒にいる限り。

 

大きくなって大人になっても、出来ればお爺ちゃんお婆ちゃんになっても仲良くしていきたい。

 

その為にも、まずは泣きじゃくっている大好きな幼馴染を慰めよう。

 

シーツを脱ぎ捨てた凛は、泣きじゃくる花陽に大きく手を振った。

 

「かーよちーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……………あれ」

 

思い返していて、凛は猫の背中を撫でながら首を傾げてしまう。

 

その後の記憶が曖昧で、気付いたらいつものようにアキトの家で寝そべっていたのだ。どうやって帰ったのかもわからずに。

 

「うーん…………」

 

困惑したように唸っていると、ふとページの写真に隠れるようにして差し込まれている写真に気付いた。それを取り出して凛は、苦虫を潰したような顔をする。

 

それはハロウィンの写真と同じくらいの時のものだ。中央にアキト、両脇に凛と花陽が立っている。アキトは困ったような顔をしながら猫を抱えており、それを弄るように凛と花陽が見守っている。

 

それは凛が中学生の時にアルバムを整理していたら出てきたもので、目を逸らす為に隠したのだ。

 

何せこの写真を撮った1週間後。凛は最悪な罪を背負ってしまったのだから。

 

「……………いつまでも逃げてる、訳にはいかないよね」

 

猫を抱きしめながら落ち着かせる為に茶を一飲み。ハロウィンの記憶を思い出していたら少し時間が経っていたらしく、お茶の中にぬるい渋みが広がる。

 

しかし、その記憶はお茶の渋みよりも苦く、辛い想いを凛に示しているのだ。

 

さしずめ、それは罪の味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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凛は猫が好きだ。

 

もっと小さい頃。それこ2人と出会う以前からで、アキトがいつ頃から蝉嫌いが始まったのかわからないと同じように凛もいつから猫が好きなのか。まったく身に覚えがなく、親の話しによれば物心がつくより前から猫を追いかけていたらしい。

 

大きくなった今でも猫が好きな理由は、と聞かれたら何だろうと悩む時がある。かっこいいからだろうか。しなやかな身体をひゅんと助走をしないで高く飛ぶジャンプ力や、逆さに落ちてもクルッと回転して着地する姿。すらりと姿勢もいいし、キりッとした瞳もかっこいい。

 

しかし、時折飼い主を捜してにゃーんと泣く姿も愛嬌があって可愛い。

 

ともかく、理由は検討付かないが凛は猫が好きだ。それこそ語尾ににゃーと猫語がつくらいに。

 

語尾ににゃーと付くようになったのも、にゃーと猫に呼びかければにゃーと返してくれるからだ。どこか仕方なさそうに、であるが凛にとってはとてつもなく嬉しかった。

 

そんなある日。凛達がまだ10歳にならない真っ暗な冬の夜の事。

 

小学生の冬休みもアキトの誕生日(大晦日)や正月も過ぎて後半になってしまえば、ほとんどの楽しいイベントが終わった凛は炭酸の抜けてしまったサイダーのようにへにゃっちなっていた。

 

お餅もおせち料理もお汁粉も、正月特番のクイズ番組も罰ゲームも飽き飽きしてしまった。アキトの家も正月といえど営業している為、毎日のように遊びに行ったら迷惑でしょと怒られてしまったので凛は1人で暇を相手にぶーぶーと唸っていた。

 

その時、来客を知らせるチャイムが響き、凛が出るとそこにいたのは花陽だった。真っ白な毛糸の帽子を被って、ぶるぶると寒さで身体を震わせながら。

 

「り、凛ちゃん…………!」

 

「うわぁ、どうしたのかよちん。こんな時間に。あっ、でもちょうどよかった! 一緒に食べてどんじゃらでもしようよ。そうだ、アキトもウチに呼んで……………」

 

そう言いながら凛が花陽の毛糸の帽子に触れると、猛烈な冷たさに思わず手を引っ込めてしまう。

 

そこでようやく、紺色の空にひらひら落ちる白い花びらのような雪に気付いた。それはまさしく、3人が出会ったあの時を思い出すようで、凛はわくわくしながら外に出て空を見上げる。

 

「雪降ってたんだ。そりゃ寒いよねー。あっ、じゃあ早くかよちんも中に入ろ? 風邪引いちゃうよ」

 

「凛ちゃん、どうしよう……………!」

 

しかし、花陽は今にも泣き出しそうな顔をしながら告げた。

 

ここ最近、アキト達とで遊んでいるとよく野良猫が近寄ってくるようになってきたのだが、どうやらその猫が花陽の家にある物置の下を根城にしたらしい。

 

その猫は特にアキトに懐いていた。凛がチロと名付けた真っ白い毛並みが特徴的な猫なのだが、彼だけが触れる事が出来て猫を抱いた写真を撮ったのは記憶に新しい。

 

そこで一昨日、赤ちゃんを産んだのだがらしく猫の声が聞こえてきたのだという。しかし、昨日から冷え込んだ空気に加えてこの雪に、どんどん鳴き声が聞こえなくなったのだという。

 

「かよちんのお父さんとお母さんは!?」

 

「2人とも仕事で、おじいちゃまとおばあちゃまも町内会の寄合でいなくて………」

 

それはつまり、頼れる大人がいないという事だ。

 

凛は紺色の空を見上げる。息を吐く度に白く染まり、この寒さは服を着こんでる人間ですら肌に突き刺さるほどだ。まだ生え揃っていない赤ん坊の毛並みでは、耐えられるレベルではない。

 

このままでは凍死してしまう。それは小学生の凛ですら想像するに容易かった。

 

「っ、ママ! かよちんの家に行ってくる!」

 

気付いたら玄関に放り投げてあったフリースを掴んで、リビングで洗い物をしているであろう母親に叫ぶように駆け出した。

 

「り、凛ちゃん!?」

 

後ろから慌てて追いかけてくるように花陽が走り出し、白くなった道を走る。

 

いつも走っている道であるはずなのに、足が滑り思うように動かない。雪が降っているだけでこうも違うのかと歯噛みしながらも、凛は走る。

 

実際にどれだけの時間を費やしたかはわからないが、花陽の家に辿り着いた時には凛の肩や頭にも雪が降り積もっていた。

 

「かよちん、チロの赤ちゃんどこ!?」

 

「物置の下!」

 

花陽の言葉に凛は案内されずとも言葉だけで走り出す。花陽の家はそれなりに大きく、母屋の裏手には昔は蔵があったそうなのだが、花陽が生まれたのを機に物置小屋にしたそうだ。

 

物置小屋の前まで来た凛と花陽は膝をついて床下を覗き込んでみるも、暗がりで何も見えなかった。

 

「チロちゃん、大丈夫!?」

 

凛が声を投げるとしばらくしてから、弱弱しくにぃにぃと返答があった。いつも聞いているチロではなくもっと小さく、どこか幼い声だ。

 

「聞こえた!」

 

「ど、どうしよう………」

 

「どうしようって………助けなきゃ………!」

 

しかし、どうやって。花陽の顔にはその言葉が浮かんでいた。

 

凛は立ち上がってまじまじと物置小屋を見上げた。小学生の凛よりも数倍は大きい小屋は一見するれば四角い小さな家のようだ。しかし、出入り口は大きい窓のない木製の引き戸であり、壁には北側の手の届かない所にトイレのような小窓は1つしかない。

 

引き戸には南京錠で鍵がされていて、窓はたとえ手が届いたとしても入れそうにはなかった。

 

「かよちん、鍵は?」

 

「アキト君が閉じ込められて以来、おばあちゃまが直接管理するようになっちゃって…………」

 

昔、花陽の家でかくれんぼをした際にアキトがこの小屋に隠れた時があった。その時は玄関に鍵があって自由に入れたのだが、アキトがここに隠れた際に花陽のお母さんが鍵の締め忘れと思って鍵をしてしまったのだ。

 

アキトをいくら探しても見つからず、もしやと思って南京錠を破壊して中に入ってみれば爆睡しているアキトが。

 

その日以来、鍵は玄関ではなくよく物置小屋を使う祖母が持つようになったらしい。

 

「あんのバカアキト…………!」

 

「凛ちゃん、今は…………」

 

ここにはいないもう1人の幼馴染よりも、今失われそうになっている猫の命だ。

 

どうする。どうすれば助けられる。

 

ドキドキと逸る心臓の音が聞こえてきそうなくらい静かな世界で、凛ははっとなった。

 

先ほどから、微かに聞こえていたはずの鳴き声が聞こえなくなったのだ。

 

「鳴き声が………!」

 

「落ち着いて、凛ちゃん! 今日も何度か声が聞こえなくなった時があったから、ちょっと休んでるのかも!」

 

焦る凛に優しく声を掛けてくれる花陽に、焦る気持ちが落ち着く。そうだ、花陽は今日ずっと心配していたのだから、凛よりももっともっと心配のはずだ。

 

「そ、そうだよね…………ゴメンね、かよちん。凛、焦っちゃった………」

 

「うん、焦ったらいい考えも浮かばないよ。でも、夜も遅いしだんだん声も小さくなってる気がする…………早く助けてあげなきゃ」

 

思慮顔で言う花陽に、凛はもう一度物置小屋を見て呟く。

 

「…………よぉし」

 

覚悟を決めた。凛は少し物置小屋から離れて腰を低くしてスターティング体勢をして、北側の唯一の小窓に向かって走り出す。

 

「にゃぁぁぁぁぁああ!」

 

「凛ちゃん!?」

 

ハイジャンプして猫のように小窓へ手を伸ばしてみるも、見事凛は物置小屋の壁にべしゃりと激突した。

 

「うにゃぁあ………い、痛い…………」

 

「だ、大丈夫………?」

 

「大丈夫! こんな痛み、チロちゃん達の寒さに比べれば…………!」

 

そうだ。チロはきっとせっかく生まれた赤ん坊達が震えるのを、ただ見ているだけしか出来ずに悲しい想いをしているはずだ。

 

そう思うと何も出来ない自分に怒りがわいてくる。いつも近寄ってきてくれる友達が困っていて、目の前で消えそうになっている命に何も出来ない自分が情けくて、涙が溢れそうだ。

 

いや、本当に凛は泣いていた。それは決して壁にぶつかった痛みからくるものではなく、大好きな友達に何もしてあげれない自分の不甲斐なさに。

 

「凛は、凛は何も出来ないの…………!? チロちゃんの為に…………!」

 

「凛ちゃん…………!」

 

泣き出してしまった凛に釣られたように、花陽も泣き出してしまう。

 

何も出来ない。助ける事も出来ない。すぐそこにいるのに、手を伸ばせば届くのに届かない。

 

それがもどかしくて、辛くて、悔しくて悲しくて。

 

だから、ほとんど無意識で凛は叫んでいた。

 

「助けて………!」

 

例え彼であってもどうにか出来る問題ではない。彼はただの男の子で、本当のヒーローではない。変身して悪と戦う正義の味方ではない。

 

だけど、それでも凛と花陽にとって紛れもないヒーローで、2人はどれだけ元気よく遊んでいても女の子で、目の前の小さな悲劇に泣き崩れてしまうような弱い子供だ。

 

だからこそ。

 

だからこそ、願ってしまう。

 

「助けてよ、アキト…………!」

 

「泣きながら助けを求められたら、なんとかしなくっちゃな」

 

はっと、俯いていた2人の間に入るように現れた幼馴染は、物置小屋の床下へ叫んだ。

 

「チロ! ママになるんだろ、頑張れ!」

 

アキトの言葉に答えるように、凛達が呼びかけた時よりも強く返事をするチロ。

 

「よし…………」

 

「アキト、どうして…………?」

 

寒い空気の中、緑のセーターを着こんで現れたアキトに、凛と花陽は驚きを隠せない。

 

「父さんからチャーシュー届けてこいって言われて、凛の家言ったら猫がどうのこうのって凛のお母さんが猫がどうのこうのって言うからダッシュで来たって訳」

 

説明しながら先ほどの凛達のように物置小屋の床下を覗き込んで、手を伸ばしてみる。しかし、暗闇の見える範囲に猫の姿が見えない以上、小学生が伸ばす腕では届くはずもない。

 

「…………チロ!」

 

アキトが呼びかけてみると、再びチロの返事。よし、と頷いたアキトは立ち上がり、今度はぐるりと物置小屋の横へ行く。

 

「どうするの?」

 

「猫って、妊娠してから出産するまでだいたい3か月の時間がかかるんだって」

 

凛の言葉に返した言葉は、安心させるものではなく何故か蘊蓄だった。

 

「1度に生まれるのはだいたい5、6匹。時には1匹もあれば多くて8匹………まぁ、チロは野良猫だしもう生まれてるだろうから、実際にどれだけの数かはわからない」

 

「う、うん………」

 

決して雑学知識を披露したい訳ではないはずだ。凛と花陽は口を挟まず、アキトの言葉に耳を傾ける。

 

「先週、写真を撮った時けっこう重かった。多分、もう出産間近だったからと思うんだ。で、写真を撮ったのは物置小屋の傍だったろ。重い身体でそんなに遠く行けないだろうし、この辺で人に見つからなそうな安全な所は物置小屋の下くらいだ」

 

そう言ってアキトは着ていたセーターを脱ぎ、凛を見やる。

 

「だから、引っ張り上げる」

 

「どうやって…………?」

 

不安げに花陽が尋ねると、アキトは周囲を見回した。そして、洗濯物を干す物干竿を見つけると、3人の身長を足したのと同じくらいの長さの竿を物置小屋まで引き摺ってくる。その先端に脱いだセーターの袖を固く結びつけて、セーターを結び付けた竿の先端を物置小屋の床下へ突っ込んだ。

 

「これならどれだけ奥に入り込んでて猫に届くはず………あとは、子猫たちと一緒にチロが捕まってくれるかどうか…………」

 

そう呟いて、アキトはまた叫ぶ。

 

「チロ! 頼む、捕まってくれ!」

 

その直後、アキトは盛大にくしゃみをした。雪が降っていて地面は当然、銀幕が広がっている。アキトは下にはシャツ1枚しか着ておらず、このままでは猫の前にヒーローが風邪を引いてしまいそうである。

 

「アキト君。風邪引いちゃうよ!」

 

「俺は平気。チロの方が…………っしゅん………!」

 

花陽の気遣いもアキトは無視して居座る気らしい。確かに今はまだ猫達の鳴き声が聞こえてくるが、いつそれが途切れるかもわからない。

 

この場を離れたくないのはやまやまだが、ブルブルと震えるアキトは寒そうである。

 

「…………花陽、毛布持ってくる!」

 

梃でも動かないと判断したのか、花陽は家へと駆けて行った。

 

それを見て凛も手伝った方がいいかと思ったが、ぶるぶると震えるアキトを見てはとてもじゃないがこの場を離れようとは思えなかった。

 

凛は閉めていたフリースのチャックを開けると、アキトの背中に覆いかぶさった。

 

「っ、凛…………?」

 

「かよちんが毛布持ってくるまで、これで我慢して」

 

「…………………ありがと」

 

覆いかぶさるというより背中に抱き付くという方値になってしまい、気恥ずかしさから凛の頬が紅潮する。見ればアキトも心なしか赤くなっているが、それはきっと寒さからくるものだろう。

 

アキトの背中に抱き付いたのは、出会ってからこれが初めてだ。その背中は思っていたよりも大きくて、寒さから冷え切っていた。

 

その冷たさを肌で感じて罪悪感を感じた凛は耳元でぽつりと呟く。

 

「…………ごめんね」

 

「………………何が。もしかして、巻き込んだとか思ってる?」

 

こくりと頷くと、どこか怒ったようにアキトは溜息を吐いた。

 

「チロは俺にとっても友達だ。その友達が頑張ってるのに俺だけ知らないでのうのうとしてたなんて、後で知ったら後悔してた。だから凛が気にする必要ないだろ」

 

「でも…………」

 

アキトは凛達にとってヒーローだが、決して特別な存在ではなく普通の男の子だ。手をかざせば怪我を治す事など出来やしない、こうやって寒さに震える凛と同じ男の子だ。

 

アキトだって出来る事など限られているのに、助けを求めてぶらさがってしまっている。まるで凛ではアキトの力になれないと自分で証明してしまっているようで、それがたまらなく嫌だった。

 

しかし、アキトは凛の思惑を察したのか小馬鹿にしたように笑って見せた。

 

「出来る事は限られてるけど、その出来る事の中でやってくしかないんだよ。それに、チロを助けようって真っ先に動いたのは凛で、それもかよちんが来なければチロが頑張ってるってわからなかった。偶然が偶然を呼んで、それらが重なったらこれは必然なんだよ」

 

「アキト………」

 

「それに、楽して助かる命がないのはどこだって一緒なんだ。だったら、必死に手を伸ばさなきゃ後悔すんだろ。目の前で手を伸ばせば届くかもしれないのに、それをやらなかったら死ぬほど後悔する………だから、凛もかよちんも手を伸ばしたんだろ。だったら、全力で手を伸ばしてチロを掴まなきゃ!」

 

励ますようなアキトの言葉は、とても同い年とは思えないくらい大人びていて、頼もしくて、まるで年上のお兄さんみたいでかっこよくて、凛は気付かぬうちに目を輝かせていた。

 

「………なんかかっこいい…………」

 

「……………俺の言葉じゃない。夢で見た男の人が言ってたのを使ってるだけ。『助かる命がないのは、どこも一緒だな』ってのと、『手が届くのに手を伸ばさなかったら一生後悔する。それが嫌だから、手を伸ばすんだ』っての」

 

「…………どんな夢?」

 

「わかんね。夢の内容はすぐに忘れちゃうんだけど、その人の言ってる事がカッコよくて、なんかすごくて………俺もあの人みたいになれたらなぁ、って最近は思うんだ」

 

アキトの憧れのヒーロー、という事なのだろう。どんな夢なのかは見ているアキトにしかわからないが、それを語る幼馴染は凛を見ていなかった。

 

その事にほんの少し妬けていると、後ろからいそいそと毛布を持って来た花陽と合流して、3人で蓑虫のように包まって20分ほど物置小屋の前で待った。

 

「チロ…………」

 

「チロちゃん……………」

 

無事を祈るように友達の名前を呟くアキトと花陽。差し込んだセーターは先週、チロを抱いた時と同じものでアキトの匂いもついている。アキトに懐いているチロならばきっと間違えず、きっと使ってくれいるはずだ。

 

「アキト、そろそろ……………」

 

「……………そうだな」

 

凛の言葉にごくり、とアキトは唾を飲み込んで頷く。竿を引いてセーターに猫が捕まっていなかったら、もう凛達に出来る事は何もない。誰もかれも笑顔にならない、最悪の結末となってしまう。

 

お願い、チロちゃん。

 

心の底から無事を祈って、そろそろと竿をアキトと花陽が引っ張りだす。

 

そして、土が混じったセーターの姿が見えてきて。

 

「………………チロ!」

 

アキトの嬉しそうな声に凛と花陽が笑顔になり、セーターの結び目を解いていく。

 

セーターにはきっちり捕まっているチロと、包まっている子猫がいた。子猫達がにゃーにゃーと弱弱しくではあるが鳴き声を上げており、うち2匹は目が開いていないが呼吸をしている事は見てとれた。

 

「っっしゃぁっ!」

 

アキトが思わずガッツポーズをとって喜ぶ。これほどのアキトを見るのは運動会の徒競走で凛に勝った時くらいで、凛と花陽も互いを見合わせる。

 

やっぱり、アキトはヒーローだった。それがたまらなく嬉しかったのだ。

 

「やった、やったね凛ちゃん!」

 

「うん、良かった………本当に!」

 

しかし、現実というのは子供に対しても容赦しなかった。

 

凛がセーターを優しく抱え上げると、ぼとりとチロが落ちた。

 

「…………………………………………………………………………えっ」

 

凛は声を漏らして、地面に横たわるチロを見る。先ほどまであれほど泣いていた口はだらしなく開いており、先週はアキトを見れば真っ直ぐに見つめていた瞳は閉じられ、触れば心地よかった毛並みは寒さからカチカチに凍っていて、凛と速さ比べをするたびに見せつけていた俊敏な身体は微動だにしていなかった。

 

「…………………チロ?」

 

アキトはそっとチロに触れて、その冷たさにはっと手を離してしまう。すぐに優しく触れ、抱き上げる。その手は震えており、アキトの表情は愕然とした絶望に染まっていた。

 

「チロ………おい、チロ…………目を開けろよ。助かったんだぞ、子供達も無事で………お前、お母さんになるんだろ…………!?」

 

震える腕でゆすりながら、アキトの声が震えていく。大きく見開かれた瞳も震えだし、その意味を理解してしまった花陽が口を抑えて涙を流し出す。

 

「なぁ、おい。そんなのってねぇよ! 必死に手を伸ばして、やっと手が届いたと思ったのに………こんな結末ってねぇよ! なぁ、チロ…………チロォッ!!」

 

アキトの叫びはもはや悲鳴にも近かった。花陽が崩れ落ちる横で、凛は愕然となるも抱えているセーターを落とすまいと踏ん張る。

 

「…………チロぉ…………………」

 

「……………………………………アキト!」

 

泣き出しそうになるアキトに、凛もまた泣き出しそうになりながらも叫んだ。いや、泣いていた。声は震えて、視界はプールに入った時のようにしわくちゃだが、それでも叫んだ。

 

「まだ、まだここに生きてる子達がいるよ! 必死になって手を伸ばして、掴めた子がいるよ! だったら、まだ泣いちゃダメだよ! かよちんも、チロちゃんが残した助けようよ!」

 

まだ崩れてはダメだ。ここには5つの新しい命がある。生まれたばかりの、これから待っている未来へ進む子達が。

 

友達を救う事が出来なかったとしても、その悲しさのあまり掴んだ手を放していい事にはなりはしないよ。

 

きっと、アキトの夢に出てきたヒーローならそう言うだろう。

 

「凛…………」

 

「ここからならウチよりもアキトの家の方が近いよ。私達だけじゃ出来る事が少ないかもしれないけど、他の………おじさん達ならきっと!」

 

子供では出来ない事の方が多い。その中でアキトは最善を尽くしてくれた。だから、アキトも助けを呼んでもいいはずだ。罰なんて当たるはずがない。罰を与えていいはずがない。

 

「……………………………………そうだな」

 

チロの亡骸を片手で抱えながらもう片方の腕で目を擦って涙を拭った。

 

「助けられるのは手が届く範囲だって言ってたし………届かないなら、手が届く人に頼ればいいんだよな…………!」

 

「うん!」

 

いつものアキトに戻った事に嬉しく思い、凛は花陽を見やった。花陽も凛の言葉に激励されたのか立ち上がって頷いてくれる。

 

「毛布は片付けておくから、2人は先に行ってて! あと、アキト君はこれ着て!」

 

「ごめん、かよちん! ジャケット借りる!」

 

「ありがと、かよちん!」

 

着ていたジャケットを受け取ったアキトはそれを着て、2人はアキトの家へと走る。

 

「アキト………!」

 

「大丈夫だ。チロが命張って助けた命だ……俺だって………絶対に助ける!」

 

普段は凛と同じくらいの速さで走るアキトは、雪を脆ともせず前を走る。

 

その背中が頼もしくて、かっこよくて。

 

やっぱりアキトは男の子で、それに惚れている凛は女の子なんだなぁ。

 

そんな当たり前で嬉しい事を、漠然とした気持ちで思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きくなった今思い返してみれば漠然としていたのは風邪を引き始めていたからで、気持ちに嘘はないけど当時は読んでいた少女漫画の影響もあったのかなぁ、としみじみとした感じで茶を飲み切る凛。

 

そっと写真を撫でてからアルバムを仕舞うと、元々の目的である音ノ木坂学院卒業アルバムを引っ張り出す。

 

風邪を引いてしまった凛は学校が始まるまでアキトに会えず、子猫達が亡くなってしまったと知ったのは学校が明けてからだった。

 

それが原因でアキトに暴言を吐いた事は、9年経った今でも許せない罪だ。過去に戻れるものなら自分をひっぱたきたいくらいに。

 

別れた道は再び繋がったからいいようなものの、それでもやはり許し難い罪だ。

 

「凛ー?」

 

それが例え、想いを受け入れて幼馴染みから愛しの旦那様になったとしても、どれだけの時間が経っても許せそうにない罪。

 

名前を呼ばれた旧姓『星空』、現『啼臥』凛は振り向く。

 

9年経っても相変わらずエスニックな格好を好んで着ているアキトは、どこか呆れたような顔をしてから凛の隣に腰を下ろした。

 

「アルバム?」

 

「うん。みんなが揃うのって凛達の結婚式以来だったから」

 

凛とアキトの分の卒業アルバムを見ながら凛が言うと、アキトはそうかと嬉しそうに言う。

 

「けど、もう時間だ。カイトさんと絵里さん、神田回ってるって。途中で拾ってくから行くぞ、司会の俺達が遅刻は相当まずいからな」

 

「わっ。そうだね……すぐ準備するから車で待ってて!」

 

「化粧はもう車の中できろよなー」

 

バタバタと慌てて立ち上がった凛は背中にアキトの言葉を受けながら、そそくさと洗面台で準備を始める。

 

何せ今日はμ’sやチーム鎧武が全員集合する特別な日。当時の中心的人物の2人が結婚するという記念日なのだから、気合いが入るのも無理はない。

 

車のエンジンを掛けていてくれたアキトにお礼を言って凛は助手席に乗り込み、シートベルトを装着したのを確認してからアキトはアクセルを踏み込んだ。

 

「絵里ちやんと会うのも久々だね」

 

「9年経てばみんな変わるもんだ。で、何でその写真を持っている訳?」

 

アキトの指摘に凛はチロを抱えている写真を握っている事に気付いた。無意識に持っていたらしく、凛は少し気恥ずかしげに微笑む。

 

「忘れられない罪だなぁ、って思って。ねぇ、アキト………あの」

 

「今更な質問は受け付けないぞ」

 

凛の手を取って本当によかったのか、と尋ねようとした所を遮ってアキトは言う。

 

「4年もこんな生活しといて今更か。俺はお前の手を掴みたかった………かよちんでも、他の誰でもなく、凛の手を」

 

「…………ありがと」

 

顔が赤くなっていくのを感じながら凛は照れて俯く。アキトと一緒になってから、こういった気持ちを言葉として言われる事は少ない。

 

昔からアキト自身が好きだの愛してるといった言葉を口にしないし、オレンジ侍のように連呼されても今更なので気味悪さを覚えてしまほどだ。

 

照れてる凛を見てか、アキトは溜息を吐く。

 

「子供でも出来なきゃ自覚出来ない、とか言うなよ?」

 

「それは大丈夫だよ」

 

そう告げて凛はお腹に触れる。

 

命の尊さなら知っている。小さい頃、大好きだった友達が教えてくれた。

 

そして何より、新しい命を宿しているのなら、尚更だ。

 

だから、凛はアキトの妻としての自覚はあるし、アキトも凛の旦那である覚悟もしている。

 

「頑張ってね、パパ」

 

「………………………………えっ、マジで?」

 

にっこりと告げてアキトを見やると、予想通り硬直している。

 

動き出したのは赤信号が青に変わり、後ろの車からクラクションを鳴らされてからだ。

 

走り出した車の中で、アキトはそっかとだけ言ってくれた。それだけでも喜んでくれているのがわかって、凛も微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

あの日、チロの命が教えてくれたのは命の尊さと罪の味。

 

そして、好きな人に好きだと伝える、素直さだった。

 

 

 

 

 

 

はらり、はらり、と白い花が舞う。

 

それはまさしく、3人が出会った時に吹雪いた茶の花の如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




………………ついに。

ついにこの日が来ましたね………!


我らが凛ちゃん!!
ハッピィバァスデェェイ!!

いやー、ついに凛ちゃんの誕生日を祝う日をラブ鎧武が2回も迎えられるとは………
まぁ、祝うと言っておきながら単なる過去編。しかもSIDからの引用ですがね。しかも祝ってるかと言えば去年の方がらしかったかもしれない←

さてさて、如何でしたでしょうか。あまーな展開よりも昔を懐かしむような感覚わー意識してみました。まさしく、昔語りですね。

しかし幼子の口調むずい!
取り敢えずひらがなと少しの漢字を織り込んでみましたが、うまく表現できたか微妙……

それでも自分なりの想いをぶつけたつもりですよ?

過去編からすでに仮面ライダーオーズの台詞を吐きまくっているアキト君。謎の塊っぽいけど、これまた普通の純情な感情で言ってるんですよ。

ちなみに、何故凛が罵倒をするシーンを書かなかったのかは面d………本編で使う為に飛ばしました。

それと、もしかしたらピンときた方もいるかもしれませんが、これは絵里誕と穂乃誕と繋がってます。

わかりやすく言えば

穂乃誕で「1年後に結婚してください」とプロポーズするも何だかんだで3年を使ってしまう



穂乃誕旅行の前の年に凛アキ結婚



絵里誕でロシア行った2人がいつの間にか結婚してた



穂乃コウが結婚するので全員集合←そこで重大発表


的な感じです。

まぁ、ともあれ新たな幸せを手に入れた彼らに、ぜひとも幸あれ。











「ハロウィンイベントの時?」

式も終わり2次会の席で、その言葉が耳に入った猫はピクピクッと青い毛並の耳を震わせる。絶賛、和菓子屋老舗穂むらの看板娘にもみくちゃにされているのも嫌になったので腕を脱して声の主の足元へ行くと、飼い主の凛の膝元へ上った。

ちらりと見れば、旦那は「お前ぱぱーになるのかー!」「ヤルことヤリやがってー!」と酒が入ってキャラ崩壊しているオレンジ侍とバナナ騎士にもみくちゃにされている。

「絵里ちゃん」

「穂乃果」

「「いい加減にしなさい!!」」

あ、それぞれのカミさんに殴られた。

それはともかく、凛が呼びかけたのは親友の花陽だ。

「ハロウィンイベントで凛が脅かしてかよちん逃げ出して、合流したトコまでは覚えてるんだけど………」

凛の問いかけにハイボールを傾けながら、花陽はうーんと唸って猫の頭を撫でてくる。

「正直、私も覚えていない………気付いたらアキト君の部屋にいたと思うし…………アキト君には?」

「アキトに聞いた新たな謎が出てきてややこしい事になるから聞かない………つもりだったけど、本人も知らないって言ってたにゃ」

「アキト君でも知らないなんて…………」

どうしたんだっけ、と考え子でいる2人の見上げて、猫はふっと笑う。決して人間には動物の感情はわからないだろうが、確かに猫はふっと笑った。

その真実を知る者は、この世界でただ1人匹しかいない。

ハロウィンイベントで凛に驚かされ、逃げ出した花陽。それを追いかけたまではいいが、そこで予期せぬ闖入者があった。

当時はまだヘルヘイムの森の存在が公にさればかりで、インベスの事を子供が知るはずもなく。また、アーマードライダーの事も周知されていなかったのだから仕方ない。

その時、3人を救った存在を知るのは、猫のみだ。

猫がまだ青い毛並になる前で、青い獅子になる前で、命を落とす前の真っ白い毛並の猫の時だ。

現れたのは、白銀の青年だった。






「かーよちーん!」

せっかく心地よく眠っていたというのに、猫を起こしたのはいつも公園で遊んでいる活発そうな女の子だ。ベンチで縮こまっていた猫は伸びをしてか、ゆっくりと公園のベンチの上へ上る。

そこには泣きじゃくっていた気弱そうな女の子に謝る活発そうな女の子。いつも一緒にいる男の子は目を回して倒れ込んでいる。

「ごめんね、かよちん…………」

「ううん…………」

百合でも咲きそうな仲に、猫であるのに微笑ましく思える。猫の親から聞いた事があり、ここら辺では猫を追っかけてくる3人はこれといって何かしてくる訳でもなくむしろ遊んでくれる、という。

見ていて飽きない、とも言っていた。猫と比べて人間の成長は遅く、親猫はこの子達が幼稚園という場所に通っている時に出会い、そして死んでいった。そのことを3人は知らない事だが、それでも「面白いものだ。人間の子供というのは見ていて飽きないな」と笑っていた親猫は印象に残っている。

確かに見ていて、面白いと思う。活発な女の子は原器よさだけが取り柄かと思えば、時折男の子に向ける目は大人しい時がある。気弱そうな女の子はあまり自分を出さないかと思えば、気遣いの仲にしっかりと自分を出している。

そして、男の子はしっかりと男らしさを見せつつも、どこか抜けているような姿を見せる時もある。

面白い、と思った。猫は人間に比べて短命だが、出来ればこの子達が大きくなる姿を見届けてみたいと思ってしまうくらいに。

「っ、何!?」

猫の思考は活発そうな女の子の叫びにより遮られる。

突然、空間に裂け目が出来たかと思うと6体ほどの怪人が現れたのだ。

都心部へ行けばニュースなどで放送されている、インベスという存在だ。決して人間や生命に仇なす存在ではないはずだが、稀に野良猫のごとくインベスが現れて力を振るうという噂は聞いた事があった。

しかし、それを子供である3人が知るはずもなく、突然現れた怪人に女の子2人は悲鳴を上げて気を失う。男の子は以前として目を覚ます気配はなく、怪人たちは無抵抗な子供に牙を剥こうとしていた。

それに対して猫が出来る事はない。人間の子供よりも脆弱な存在である猫に、出来るはずがない。

だからこそ、奇蹟は起きた。後の事を思えば、これはその前払いだったのかもしれない。

頭上から同じような裂け目が現れ橙色の光が落下し、インベス達を吹き飛ばす。

光に目を閉じて開けた時、そこに立っていたのはの白銀の青年だった。

銀色の鎧にマントをなびかせて、金色の髪がハロウィンに包まれた風で動く。

「………………たとえ夢現の最中であったとしても、目の前でこんな小さな未来が閉ざされるのを黙って見過ごす事なんて出来ない。俺にも、まだライダーとしての心は残っていたんだな」

呟いた青年の腰にはベルトが巻き付けられていた。

そして、青年は口にする。

「変身」

言葉と共に青年が光を放ち、姿を銀色の戦士に姿を変える。


『大橙丸!』


ベルトに装着された左側のパーツを動かすと、右手にオレンジ果実のような太刀が召喚される。

その戦士が何者なのか猫にはわからなかったが、戦士が太刀を1振りするごとにインベスが切り捨てられ爆散していく。

「……………一気に決めるか」


『ソイヤッ! 極・スカッシュ!!』


太刀にエネルギーが集まり、横一文字に薙ぐと残りのインベスが一瞬にして砕け散った。

火炎はすぐに消え去り、銀色の戦士は猫を一瞥した。しかし、すぐに粒子となって消えていく。

その姿はまるで、神のようだった。






その後、通りかかった住人に運ばれ、3人は家へと帰って行った。

それが真っ白い毛並だった頃、猫が見た光景だ。

それも”今”となっては昔の事で、猫は欠伸をしながら凛の膝元で微睡に意識を落とす。

語る必要のない、語られない小話。

そんなどうでもいい事と共に、猫は細く笑む。

あの子供達が結婚し、新たな命を宿す。

つくづく、人間とは見てて面白く、飽きない存在である。






3人を救った白銀の神様は『誰』なのか


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