ラブ鎧武!   作:グラニ

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その道を行く理由は様々さ、

たとえどんな意味があろうとね。



23話:Wonderful Rush ~アイドルの調査~

 

照らしつける太陽な光に、葛葉コウタと高坂穂乃果、星空凛はぐでーとなりながら屋上に立っていた。

 

「暑い……」

 

「暑いねぇ………」

 

「暑いにゃ………」

 

三者三様の言葉を吐き出していると、背後の扉が開いて南ことりと呉島ミツザネが顔を覗かせていた。

 

「3人とも、日射病になるよー」

 

「今日は屋外の部活動は禁止だそうです。一旦戻ってきて下さい」

 

そう言われて、校内に戻る3人。

 

8月上旬。夏の暑さも佳境に入ってきた今日この頃、連続した日照りにμ'sとチーム鎧武達はほとほと困り果てていた。

 

例年、気温は直射日光が当たれば30℃後半は当たり前で、酷い地域は40℃を超えている所もあるそうだ。

 

校舎に入ったとはいえ熱気は留まる事を知らず、コウタはだらだらと垂れる汗をタオルで拭った。

 

「こりゃ熱中症で倒れちまうぞ」

 

「困ったわね………本腰を入れなきゃならないこんな時期に……」

 

「しかし、μ'sが使える練習場所は他にはありません……」

 

困ったように絢瀬絵里と園田海未が腕を組んで嘆息する。

 

ラブライブ!出場の為にはμ'sのランキングを上げる必要があり、それには当然練習が不可欠だ。

 

男子更衣室を使うという手もあるが、あそこは9人がダンスをするには狭すぎる。濃密な練習が出来るとは到底思えなかった。

 

「こうなったら、もう校外でやっちゃう?」

 

「止めておけ、面倒な輩に絡まれるのがオチだ」

 

矢澤にこの提案を蹴ったのは、暑さでより一層不機嫌そうな九紋カイトだ。

 

以前、近くの公園で練習をしていたら、偶然にもμ'sのファンという輩と出会してしまい練習所ではなくなってしまったのだ。

 

その時はたまたまコウタとカイトが居合わせてくれたおかげで難なく過ぎたが、あまり練習風景を見られるのは得策ではない。

 

「じゃあどうするのよ? このまま問答繰り返す?」

 

「そうは言ってもすぱっと決められないし………」

 

「せめて日除けになるものがあればねぇ……」

 

西木野真姫、小泉花陽、東條希も何とか意見を出そうとするも、ぱっとしたものが浮かばずに苦い顔をする。

 

「……………もういっそのこと避暑地で練習するかー」

 

暑さで怠くなったのか、投げやりな感じでコウタが言う。

 

その瞬間、穂乃果の目がきゅぴーんと光った。

 

「…………それだ」

 

「は?」

 

「それだよ、コウタ君!」

 

暑さでついにおかしくなったか、とカイトが言うのを他所に穂乃果は一同へと向き直った。

 

「合宿だよ! 学校外で場所借りて、そうすればみっちり練習出来る!」

 

「おぉ、部活の醍醐味である合宿か!」

 

「それなら確かに、練習に集中出来るね!」

 

「よーし、それなら涼しい場所を見つけるにゃー!」

 

穂乃果の意見に賛同するようにコウタ、花陽、凛のテンションが上がる。

だが、それを水を差すがのごとくカイトが腕を組んだまま告げた。

 

「で、その場所を借りる金はどうする気だ?」

 

「…………………」

 

喜んでいた4人の表情が固まる。合宿という事は当然、施設を借りたり宿泊しなければないのだ。学校をその場所にすれば問題はないが、別の場所となれば出費は高くなるばかりである。

 

指摘されて穂乃果は押黙ると、ばっとことりの手を握った。

 

「ことりちゃん、次のバイト代いつ入る?」

 

「えぇっ!?」

 

「ことりを頼るんじゃありません!」

 

海未のツッコミが穂乃果の後頭部に入る。そもそも、ことりはあの一件でバイトは辞めたのだから実質無収入であるのだから頼るというのはお門違いである。

 

「あっ、真姫ちゃん家なら別荘くらい………」

 

「ごめん、無理」

 

病院を経営している西木野家ならば、という期待を込めて凛が尋ねてみるも真姫は顔を暗くして答える。

 

「前に、ウチの資金援助してくれてる人達が違法商売をしてたって話したでしょ? 縁は切ったから問題なかったんだけど、その分の資金を回さなきゃならなくなって、別荘とか売ったゃったの」

 

その話しはこの場にいる全員が耳にした。こと資金援助してくれている所の息子に言い寄られて、凛の幼馴染みである啼臥アキトに助けて貰ったと。パトロンを潰さまいと頑張っていたと。

 

悔しげに顔を俯かせる真姫に、μ's達はどんな言葉を掛けたらいいかわからないようで、言葉に詰まる。

 

「もしかして、まだ責任感じてます?」

 

ミツザネが問い掛けると、静かに真姫は頷いた。

 

「アキトも言ったはずですよ。真姫さんは被害者です、気に病む必要はありませんって」

 

「そうだけど………でも」

 

「でももへちまもありません」

 

そうミツザネを見て、コウタは思わずカイトを見やった。

 

何でミッチの奴、怒ってるんだ?

知るか。

 

目線でやりとりしたコウタとカイトだが、その原因はわからず首を傾げてしまう。

 

「わかりました」

 

ふと、何かを決めたようにミツザネが言った。

 

「合宿先は僕が用意します」

 

「いや、あの………ミッチ?」

 

どこか不安を覚えたのか、絵里が大丈夫なのかと尋ねる。

 

ミツザネは何かしら切羽詰るとポンコツになる時があるのだ。それを危惧しての事なのだろうが、ミツザネは焦る様子もなく笑った。

 

「こういう時こそ、スクールアイドルの特権を使わなきゃ」

 

「特権………?」

 

思わず首を傾げてしまうμ's。

 

「特権とは何だ? いつ発動する?」

 

「いつやるのか、今でしょ」

 

「そこ、ふざけないでで下さい」

 

海未に言われてしゅんとなってしまうカイトとコウタであった。

 

 

 

 

 

 

 

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「なるほど、それで私の所に来たという訳か」

 

運動服から制服に着替えた一同がミツザネの先導で向かったのは職員室。

 

ユクドラシルコーポレーションの重役と音乃木坂学院の教師を兼任しているという、アイドル研究部の顧問でよある呉島タカトラの席であった。

 

この前の一件で多忙だった身から多少の時間は出来たらしく、ユクドラシルよりも職員室で仕事をしている事が多くなったタカトラは、ようやく生徒達にも授業が出来るようになってきた所だ。

 

そこでの夏休みで少しだけ残念そうだったのは記憶に新しい。

 

「はい、ユグドラシルの方で合宿先を用意出来ませんか?」

 

ミツザネが言う特権とはこの事か、とμ's達は頷く。

 

ユグドラシルコーポレーションは全てのスクールアイドルを応援します、を大々的に宣伝しており支援しているのだ。

確かにユグドラシルならば合宿先の1つや2つ、用意するのは簡単であろう。

 

「……まぁ、タイミング的には悪くないかもしれないな」

 

そう言ったタカトラはここではなくアイドル研究部の部室で待っているよう言って、何かしらの準備を始める。

何だろう、と思いつつも一同は部室に戻る。

 

10分ほどすると、ファイルケースを持ったタカトラがやって来て、全員に1枚のプリントを配布した。

 

「海外合宿の御案内………!?」

 

驚く穂乃果の声に、海未が顔を青くする。

 

「か、海外って………外国!?」

 

「そ、そんな所で合宿をするんですか!?」

 

人見知りな性格の海未からしてみれば、海外というのは知らない世界。まさしく闇だ。そこへ行くとなれば気が気でないのだろう。

 

「以前、ユグドラシルからスクールアイドルに依頼をする、という話しをしたのは覚えているか?」

 

「確か、オープンキャンパスの時ですよね?」

 

失敗した音乃木坂学院のオープンキャンパス。そこでμ'sは初めて9人でのライブをしたのだが、そのステージはユグドラシルの支援によって作られたものだった。

 

その代償ではないが、ユグドラシルから何かしらの依頼がある、というものだ。

 

絵里が覚えていたからか、それに釣られてにこ達もそういえば、と思い出し始める。

 

それを見て満足げに頷いたタカトラが言葉を続ける。

 

「今度、ユグドラシルから新しい商品を発売する事になってな。その宣伝で何かないかと広報部から相談されて、お前達μ'sを紹介したらぜひに、という話しだ」

 

「…………だったら国内でやればいいじゃないですか。どうしてわざわざ海外なんですか?」

 

説明を聞いて当然の疑問を浮かべた真姫が聞くと、タカトラはどこかすまなそうな顔を浮かべた。

 

「それについては俺の都合だ。シンガポールに出張の予定があってな。どうせなら、一緒にまとめてやった方が楽だろう」

 

「海外かー。俺、初めてだぜ」

 

「私もだよー!」

 

人生初の海外と聞いてテンションを上げるコウタと穂乃果。

 

「宣伝に協力するって、何をするんですか?」

 

「予定ではCM撮影と、それで使う曲を作って貰いたい。今ある物でも構わないが」

 

そう言ってタカトラはちらりと真姫を見やる。μ'sの作曲は彼女が請け負っているのだから、勝手に作れなどとは言えない。

 

「…………考えてみるわ」

 

「あの、本当に海外でないといけないのですか………?」

 

ツンと答える真姫の次に、海未がおずおずと手を上げる。

 

海外とはある意味で未開の地であり、新天地だ。日本語が通じない世界で、ルールも異なる異世界。

 

それは日本でしか暮らした事のない海未にとって、文字通りの大冒険となるだろう。

 

「無論、この話しを受けるかはお前達が決めてくれ。だが、学校の宣伝にもなって練習も出来る。悪い話しではないと思うが?」

 

「海未ちゃん!」

 

メンバーの中で反対意見なのは海未のみであり、穂乃果は海未の手を取った。

 

「行こうよ海外ー!」

 

「で、ですが………!」

 

未知の世界を前にしては、流石に冷静さが勝るようで渋る海未。穂乃果の熱意はわかっているが、踏ん切りは付かないらしい。

 

μ'sは9人がいてこそだ。1人でも欠けてしまうようならば、それはμ'sとは言えないだろう。

 

ふと、困っているとカイトがコウタの肘を付いてきた。その横ではにこが顎で海未を示す。

 

まるで慰めろ、と言っているようでコウタはうーんと少し唸ってから海未の元に歩くと、安心させるように頭の上に手を置いた。

 

「こ、コウタ………?」

 

「まぁ、あれだ。不安になるのも仕方ないけどさ、何があっても海未は俺が必ず守るよ。どこにいたって、必ず。だから、俺を信じて可能性に踏み出してみないか?」

 

そう言って、そっと撫でてみる。すると、海未は心地良さそうに片目を眇めて、嬉しいような恥ずかしいような入り交じった表情をして答えた。

 

「………ずるいです。コウタに言われたら、頷くしかないじゃないですか」

 

そう言って上目遣いではにかむ海未に、コウタは思わず顔を赤くしてしまう。

 

すると、どういう訳か両隣にいた穂乃果とことりから頬を抓られるという仕打ちを受けてしまい、コウタは反射的に海未の頭から手を離してしまう。

 

「あっ……」

 

名残惜しそうに声を漏らす海未に、穂乃果とことりが詰め寄った。

 

「海未ちゃんばかりずるい!」

 

「そうだよ!」

 

「いやふぁにがががががが!」

 

「あー取り敢えず、参加決定でいいんだな?」

 

じゃれている4人をスルーするようにタカトラが一同に確認を取ると、全員が肯定の意を示す。

 

「なら、保護者の方へ説明する為の文面を作ってくる。その間、お前達には………」

 

「あ、あの、タカトラ先生」

 

タカトラの言葉を遮り、凛が手を上げる。普段の元気さはなく、真剣味を帯びた声にコウタの頬を抓っていた穂乃果とことりも振り向き、全員の視線が凛へ集まる。

 

「……我侭、言ってもいいですか?」

 

「…………聞くだけならな」

 

そう告げるタカトラに、凛は言う。

 

それはきっと、μ'sを作っている大切なパーツを埋める為に必要な事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海外合宿に付いて来いだ?」

 

「いや、そんな強制力があるような………」

 

「要約したらそんな感じだろ」

 

音乃木坂学院生徒やμ's達御用達のラーメン屋、らーめん仁郎の脇にある路地にμ's達はいた。と、言っても狭い路地に全員が入るのは無理があるので、ミツザネとコウタ、凛に穂乃果に絵里の5人だが、それでも狭さは凄く感じる。

 

5人の前で店のゴミ出しをしているのはらーめん仁郎の1人息子であり、凛と花陽の幼馴染みでもある啼臥アキトだ。

 

ミツザネ達が音乃木坂学院に転校してきてから袂を絶っていたが、今では仲直りして毎日のように訪れる仲だ。

 

凛がタカトラに告げたのは、海外合宿にアキトも連れていけないか、というものだった。

 

音乃木坂学院の生徒出ないアキトは、所謂部外者だ。それもスクールアイドル活動をやっていない、完全に無関係な立場にある。

 

だが、啼臥アキトという存在はμ'sにとって、チーム鎧武にとっても掛け替えのないものとなっている。無論、凛や花陽を通じてではあるがμ'sの面々とも仲が良いし、神田明神でやっている練習にもよく差し入れを持ってきてくれるのだ。

 

そして何より、オープンキャンパスで拗れた仲を取り持ってくれた最大の功労者である。

 

「俺達は、アキトを仲間だって思ってる。本心からな」

 

そんなアキトを、μ'sはもちろんコウタ達も仲間だと認識していた。ここまで一緒にて、仲間じゃないと言う方が嘘だ。

 

「俺に女装して踊れと?」

 

「アキト!」

 

「わかってるって。ミッチ達が言っている事はさ」

 

茶化そうとするアキトに、ミツザネが真剣な声を漏らす。

 

アキトは持っていたゴミを捨てると、両手についたゴミを叩き落としながら言った。

 

「俺も連れて行こうって、言い出したのは凛だろ」

 

アキトの問い掛けに、凛は黙って頷く。

 

凛がタカトラに言った我侭というのは、アキトも合宿に参加させられないだろうか、という物だった。

 

アキトが音乃木坂学院の生徒ではなく、単なる友達であるという事を承知の上でのお願いだ。

 

しかし、書類上は無関係でも、μ's達の心の中ではアキトは仲間だ。ならば、一緒に行きたいという思いは強くある。

 

タカトラは、まずは本人の了承を取れ、と言った。すると、ミツザネとコウタ、カイトがアキトの旅費はバイト代から出せと言うのだから驚きである。

 

つまり、後はアキトの気持ちの問題なのだ。

 

そして、凛がアキトも一緒にと言い出した理由は、もう1つあった。

 

「アキト、中学卒業してから一度も旅行とか行っていないんでしょ?」

 

アキトの実家はラーメン屋。母を幼くして亡くしたアキトは、父の仁と二人三脚で切り盛りをしてきたのだ。

 

1日の間に遊ぶ時間はあったとしても、遠くへ行けたとしても日帰りが可能な範囲のみである。

 

だから、というのが凛の理由であり、それに一同は賛同した

 

「どうかしら。旅費はこっちで負担するし、私達もアキト君が来てくれると嬉しいわ」

 

「そうだよ、行こうよアキト君!」

 

絵里と穂乃果の言葉にアキトは困ったように息を付いた。

 

「いや、それ無理でしょ」

 

「どうして!?」

 

「俺がいなくなったら、仁郎回んねぇっすよ」

 

この言葉に穂乃果は言葉に詰まってしまう。同じく自営業であるからか、その意味を痛感してしまうのだろう。

 

自営業とは店の業績がそのまま家庭の資産に響く職種だ。その日の売上がそのまま明日食べて行けるかどうかに直結しているのだから、手を抜く訳にはいかない。

 

そして、ラーメン屋といった飯屋は常日頃忙しいものだ。昼時以外でも客足が途絶える事はなく、和菓子を売る穂むらとは異なるだろう。

 

だからこそ、一同は強く言えなかった。元々突発的で考えた企画であるが故、融通など聞くはずもなかった。

 

「バイトが増えてきたといっても俺が抜けた穴は大きいから、日帰りなら可能かもだけど海外は流石に。パスポートもねぇし」

 

「アキト………」

 

目を大きく震わす凛だが、彼女自身もわかっている。かなり無理を言っている事は。

 

だが、それでも凛はアキトを海外に連れ出したかった。

 

凛は知っている。ミツザネ達が帰った後も深夜遅くまでその日の売上や、どのくらいの材料を発注したらいいのかなど、常に店の事を考えている事を。

 

だから、あげたかったのだ。凛がどうこうではなく、少しくらい店の事は忘れていられる時間を。

 

しかし、アキトは頑なに拒否すると、エプロンで手を拭いてから凛の頭を優しく撫でた。

 

「その気持ちだけでも充分ありがたいって。ありがとな」

 

「アキト………」

 

凛から手を離したアキトは、ミツザネとコウタを見やった。

 

「手の掛かる猫だとは思いますが、よろしく頼みます」

 

「…………あぁ、任せろ」

 

「無理を言って、ごめん」

 

本人が行く意思を見せないのなら、この話しは終わりだ。残念だが、諦めるしかない。

 

いつまでも路地にいる訳にはいかず、6人は出て残りのメンバーと合流し、結論を話した。

 

「そうですか………」

 

「じゃあ、仕方ないね………」

 

結論を聞いた海未とことりが残念そうに俯くが、仕方ないと渋々納得したようだ。

 

「そういう訳です。せっかくですけど、申し訳ねぇっす」

 

「急な話しやったから仕方ないよ」

 

「日本に帰ってきたらパワーアップしたにこにー達のライブ、見に来なさいよ」

 

希とにこに頷いて、アキトは店へ戻ろうとする。昼時を過ぎてピークが落ち着いたとはいえ、まだまだ利用しているお客はいるのだ。

 

「おう、話しは終わったか」

 

「あぁ、何をすればいい?」

 

店に戻ると仁が声を掛けてくる。アキトの言葉にうーむと頷いてから、そうだと手を打つ。

 

「アキト、急で悪いんだがしばらく店休業するから」

 

「…………は?」

 

予想外過ぎる言葉に、謎キャラアキトも固まる。後ろで顔を覗かせていたμ's達もぽかんとした顔をしてしまう。

 

「いやー、ここ最近身体の節々が痛くてだな。近々、西木野さんとこに顔を出そうと思ってるんだが、ついでにしばらく休みを取りたいなーなんて」

 

「おい、せっかくバイト雇い始めたのにそれはいくらなんでも………」

 

「バイト連中は了承済みだよ」

 

ばっ、とアキトが働いている店員達を見やると、全員が立派なサムズアップを返してくる。

 

まさか、と思いミツザネは尋ねた。

 

「もしかして、話しを………」

 

「そういえばかよちん達合宿するんだろ? ちょうどいい、雑用係が必要だろうからそいつ使ってくれ」

 

「親父!」

 

「ガキが親に遠慮してんじゃねぇよ」

 

飄々したすっとぼけていた態度ではなく、親の顔をする仁にアキトは押し黙ってしまう。

 

「そりゃ、お前が店を手伝ってくれるのは嬉しいさ。だがな、それてわ自分の時間を台無しにするのは止めろ。そんな事の為にラーメン屋をしてるわけじゃねぇんだ。そんな事になっちまったら、あいつに叱られちまう」

 

「親父………」

 

アキトは参ったように髪を掻く。久々に親らしい事を言われてどう反応したらいいかわからないようだ。

 

「ミッチ、合宿はいつからだ?」

 

「…………具体的な事はまだ。ですけど、やる事があるので今週末には始めようかと」

 

「なら、ラーメン仁郎も今週末からしばらく休業だ」

 

ミツザネの返答に、アキトは慌てて口を挟んだ。

 

「待ってくれ。俺はまだ行くなんて………」

 

「アキト」

 

アキトの言葉を遮り、入口で腕を組んでいたカイトが言う。

 

「今回の合宿。μ'sはもちろん、オレ達ライダーも強くなるための特訓を予定している。とてもじゃないが、猫の世話をしている余裕はない」

 

カイト先輩、それはどういう意味にゃ。という凛の目線を無視してカイトは続ける。

 

「飼い主ならちゃんと世話をしろ。それが捨て猫を拾った者の責任だ」

 

「拾ったっつーか勝手に入り込んで来るんですが、それは………」

 

そう言いつつ、アキトは少し考え込む。

 

そして、ちらりと凛と花陽を一瞥して、肩を竦めた。

 

「わかった、わかったよ、わかりましたの三段活用」

 

「じゃあ………!」

 

顔を輝かせる凛に、アキトは頷く。

 

「スクールアイドルμ'sとチーム鎧武の雑用、この啼臥アキトが引き受けましょう。料理に洗濯くらいなら力貸しますぜ」

 

その言葉に目を輝かせた凛は爆発させるように、アキトに抱き着いた。

 

「やったにゃー! アキトと旅行にゃー!」

 

「だぁーっ、抱き着くな店ん中っつーか仕事中だっつの! てか、お前がいくのは旅行じゃなくて合宿だろうが!」

 

一気に店内からひゅーひゅーとはやし立てる声が上がる。らーめん仁郎の常連客の間ではアキトと凛の関係は焦れったいというか甘酸っぱいというか、早くくっつけ的な意味で話題になっているのだ。

 

2人は良くも悪口も、らーめん仁郎の息子と娘という訳である。

 

ふと、そんなじゃれ合う2人を羨ましげに見ている視線が3人分。穂乃果と海未とことりだ。

 

「…………コウタ君もあんな風に女の子から抱き着かれたら嬉しい?」

 

「何だ、突然?」

 

「何でもない、忘れて」

 

顔を紅くしてそっぽを向く穂乃果の意図がわからず、首を傾げるコウタ。

 

そんな2粘性組みのやりとりを見て、アキトは目を丸くして微笑ましそうに見守っている花陽へ尋ねる。

 

「なぁ、コウタさんと穂乃果先輩達ってあんなに仲良かったっけ?」

 

「うーん、そうだったと思うよ?」

 

少し過去を思い出して答える花陽。

 

しかし、アキトの疑問はミツザネも同じものを抱いていた。

 

コウタはチーム鎧武の中でもいち早くμ'sと溶け込み、やはり同学年の穂乃果達と行動を共にする事が多い。この前も4股デートをしたり、穂乃果の家で夏休みの宿題を集まってやっていたという。

 

その辺りからだろうか。久々に2年生組みが揃っているのを見たのだが、ボディタッチをするまで信頼されている。

 

仲がいい事は、無論歓迎すべきだ。特例としてミツザネ達は音乃木坂学院に在席を許されているだけで、本来は女子高なのだから。

 

だが、どうにも言いようのない感覚がミツザネの中で渦巻いている。何がどうと言えない、ミツザネ自身からしても不快とも快感とも取れない奇妙な感覚。

 

「ふーん………」

 

そして、アキトは目を細めて警戒するように嘯いた。

 

「……………それは世界を滅ぼす感情だって事に気づいてなかったないのかねぇ」

 

誰となく呟いた言葉。

 

それは一体どういう意味なのだろうか。

 

それを尋ねる前に、ようやく恥ずかしさを思い出した凛が繰り出したビンタにより、アキトは理不尽に吹っ飛ばされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻って音乃木坂学院のアイドル研究部。

 

昼時も過ぎて落ち着いてきたから上がれ、という店長命令に従ったアキトも今度は一緒だ。

 

実はアキト。オープンキャンパスの件でやって来た以降、音乃木坂学院に訪れた事はない。つまり、アイドル研究部の部室を見るのはこれが初めてだったりするのだ。

 

初見の感想は。

 

「目が痛い………かよちんの部屋もここまで酷くねぇぞ………」

 

「アキト君、この部屋は素晴らしいよ! 知ってる? このDVDはね………!」

 

アイドル部屋にエスニックの格好という何とも場違いなアキトだが、流石に年齢は凛達と同じ高校1年生である。

 

服装はともかく、違和感なく溶け込んでいた。

 

「ちょろっとー。今回はμ'sとしてではなくアイドル研究部として活動してるんだから、部長である私の言うことを聞くのよー」

 

本来学生ではないアキトがいるからか、凛と花陽が舞い上がっている。アキト自身も久しぶりの学校に懐かしさを感じるように見回して(正確に花陽以上のアイドルグッズの数々にドン引きして)いるようだ。

 

パンパンと手を叩いて注目させると、にこは改めて部長として告げる。

 

「いい? 顧問でタカトラ先生からの指令よ。これを完遂しなければ合宿はないんだから、真面目に取り込みなさい!」

 

「って、言われてもそも部外者である俺がここにいる意味あるのか?」

 

海外へ行く為のパスポートを申請し、ユグドラシル特権で手に入れたアキトは、そのまま凛達に連れて来られたのだ。

 

何をするのか知らされないまま。

 

「で、まじで何するんだ?」

「合宿をするに当たって、兄さ……タカトラ先生から言われたんだ。アイドル研究部として文化祭に向けて何かしらの成果を出せ、ってね。μ'sとしてではなく、文化部として」

 

「それで、どんな発表にしようか皆で考えようとしていたの」

 

ミツザネの続きを絵里が引き継ぎ、アキトはなるそどねーと腕を組んで。

 

え、と声を漏らした。

 

「例年、何してるの?」

 

「…………去年は何もしてないわ。一昨年はライブだったど……」

 

アキトの質問に初代メンバーだあるにこが答える。にこはこのアイドル研究部を設立したのはスクールアイドルをやる為で、それは失敗の物語だったと聞いた。

 

苦い思い出を語ったからか、微かににこの表情が歪む。それを察した真姫が毛先を弄りながら告げる。

 

「ライブはすでにμ'sとしてやるつもりだから、それ以外で何かしらの活動記録を残さなければならない、って訳」

 

「アキト君、何かいい案ないかな?」

 

そう身を乗り出してくる穂乃果に、アキトは思わずミツザネを見る。しかし、ミツザネもコウタもカイトも困った表情をしており、案が出ないという風である。

 

そんな彼らにアキトが告げた案は。

 

「…………アンタら何部よ?」

 

「アイドル研究部よ」

 

「何を、研究する部活?」

 

「だから、アイドルを研究する部活よ」

 

「だったら、それを発表すればいいんじゃね?」

 

にことの淡々とした応酬に、あっとことりが声を漏らした。それが全員に伝染していき、理解出来ずに首を傾げるのは穂乃果と凛とにこにコウタだ。

 

「どんなスクールアイドルがいて、どんなテーマで踊ってるのか、どの曲がオススメなのか……そういうのを発表すりゃいいんじゃねぇの?」

 

「は、ハラショー………!」

 

絵里が感嘆の声を上げるが、何故思い付かないとツッコミを入れたくなるアキト。

 

「なら、せっかくだしA-RISE以外のスクールアイドルについて調べてみようぜ」

 

「そうですね。では、3チームほどに別れましょうか」

 

コウタと海未の提案で、調べる形はそうなることとなった。

 

「せっかくだから、学年とかバラバラにしちゃおうよ!」

 

学年の垣根を超えたメンバーの方が、色々とコミュニケーションが取れるという穂乃果の言葉で、ミツザネがくじ引きを作成。

 

その割り振られたメンバーでスクールアイドルについて調べる事になったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことほのぱな+カイト

 

 

ひとまずくじ引きで決まったメンバーだが、カイトはほとんどまともに会話した事のない面子が集まったので不安げな思いでいた。

 

取り敢えずチーム別に別れて調べようという事になり、穂乃果の実家である和菓子屋『穂むら』へと足を運んだ4人。

 

普段いるコウタではなくカイトであるからか母親には驚かれたが、話しは聞いていたのか「コウタ君の先輩ね? いつも穂乃果がお世話になってます」と言われて通された。

 

「よーし、早速調べよう!」

 

「でも穂乃果ちゃん。どんなチームを調べるの?」

 

意気込んでパソコンを立ち上げる穂乃果に、ことりが首を傾げる。

 

スクールアイドルといつても様々だ。A-RISEのようなプロ顔負けのような大物はもちろんの事、μ'sのように大人数で構成されていたり。

 

「…………カイトさんはどう思う?」

 

「何故、オレに振る」

 

露光に嫌そうな顔をしながら、カイトは壁にもたれ掛かるようにして答える。

 

すると、ことりと花陽もこちらを顧みて言った。

 

「カイトさんもこっちに来て考えてくださいよー」

 

「カイトさんにオススメなスクールアイドルは………」

 

「巫山戯るな。オレは馴れ合う気など……」

 

いつもの言葉で振り払おうとしたカイトだが、3人ともどういう訳かニヤニヤしている事に言葉を止めた。

 

「ふふーん、もう知ってますよー。カイトさんはツンデレだって」

 

「せっかくのチームなんですから、こっちに来て下さいよー」

 

「カイトさん……」

 

穂乃果、花陽と次いでことりが胸に手を当てて潤んだ瞳を向けてくる。

 

そして。

 

「おねがぁーい!」

 

瞬間、時が止まる。

 

そして、カイトが言った。

 

「葛葉ならいざ知らず、オレには効かんぞ」

 

「あ、やっぱりですかぁ?」

 

「ことりちゃん、分かっててやってたの!?」

 

けろっとすることりと思わず声を上げてしまう穂乃果。

 

今のは海未から聞いた事がある通称『ことりのお願い』。脳が蕩けてしまいそうな甘い声と天使のような瞳で人間の深層心理に強く訴えかけてお願いを聞いて貰うという秘技だ。

 

前持って聞いていれば、それに備えてしまえば跳ね除ける事など造作もない。

まったく、と息を付いていると、何故か両耳を掴まれた。

 

「ほら、早くこっち来て下さい」

 

「話しが進みませんよぉ」

 

「笑顔で耳を引っ張るなななっ!? わかった、わかったから!」

 

耳を引っ張る穂乃果とことりに言い放ちながら、凛なか振り回されるアキトの気持ちがわかったカイトである。

 

さて、仕切り直して穂乃果の隣に座ったカイトは、ディスプレイに表示されているスクールアイドルの一覧を流し目で眺めた。

 

そして、とある名前のスクールアイドルが目に止まり、マウスポインタでクリックする。

 

出てきたのは4人の少女達であり、巫女装束に似た服装でポーズを取っていた。

 

「カイトさん、そんな人達が好みなんですか?」

 

「アホ言ってろ」

 

ことりの妄言は放っておき、カイトは4人を見つめる。

 

スクールアイドル、バーニングミコ。

 

それが彼女達の名前だ。

 

「何故、バーニングミコ?」

 

「それはこの4人、金剛美琴さんに比叡ミコさん、榛名ミーコさんに霧島さん未来子さん。皆の下の名前にミコが付くからなんです!」

 

「へぇー、だから巫女さんっぽい衣装なのかな?」

 

「金剛型か」

 

1人で嘯いたからか3人は首を傾げる。

 

金剛、比叡、榛名、霧島といえば日本が大日本帝国だった時代の海軍が所有していた高速戦艦、金剛型戦艦の名前そのものではないか。

 

それぞれが兵器でありながら、戦乱を生き抜いたまさしく黒鉄の英雄。

 

カイトは漠然とした視線で眺めていたので、にやに矢とした周りの視線に気付かなかった。

 

「じゃあ、このスクールアイドルについて調べようよ!」

「いいね、それ!」

 

穂乃果とことりの言葉に思わずカイトは2人を見る。にこりと笑った花陽が言った。

 

「その方がカイトさんも意見出しやすいでしょ?」

 

「…………オレに合わせる必要はないぞ。オレは……」

 

「馴れ合うつもりはない、とか言っちゃダメだよ! もうカイトさんは私達の仲間! 味方、ともだーち!」

 

びしっ、と指を突き付けて言う穂乃果。

仲間、か。とカイトは心の中で呟く。

 

そして、思う。

 

「お前といい葛葉といい。どうしてお前ら馬鹿は人の領域内にずかずかと無神経に入ってくるんだろうな」

 

本当に無神経で、それでいて決して不快ではない。まるで一種の才能ではないかと思うくらいに。

 

「むっ。言ってる意味はわあらないけど、馬鹿にされているのはわかるよ」

 

頬を膨らませる穂乃果に、カイトは鼻を鳴らす。

 

それは今までのような嘲笑的な意味ではなく、呆れの意味が含まれているが気付かないのだろう。

 

コウタ達と違い、最近になってようやく同学年の絵里達が察せるようになったのだがら、あまり接していないこの3人にツンデレなカイトの言葉の裏を読め、というの方が無理がある。

 

ならば、わかりやすい表現で伝えよう。

 

「さっさと調べて帰るぞ。穂乃果、ことり、花陽」

 

初めて名前を呼んだからか、穂乃果達が驚いた表情をしてこちらを見てくる。

 

「…………次は穂乃果ちゃんって呼んでみましょうか?」

 

「調子に乗るんじゃない」

 

呆れながら、穂乃果達でもわかるくらい優しい笑みをカイトは浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のぞうみりん+ミツザネ

 

 

 

 

「あ、凛ー!」

 

「雷ちゃん!」

 

約束した喫茶店に足を運ぶと、すでに目当ての4人はそこにいた。

 

こちらに手を振ってくる工藤雷と可愛らしく会釈をする電。そして、同じ制服を着た銀髪の少女と紺色の髪の少女もいる。

 

「へぇー、まさか本当にあのμ'sと知り合いだったなんてね」

 

「ハラショー。凄い縁だね」

 

2人の少女の事を、ミツザネ達は知っている。知っているからこそ、こうして実際に会ってみたいと思ったのだ。

 

「貴重な時間をありがとうございます。μ'sサポート、チーム鎧武のなんで呉島ミツザネです。残りのメンバーは………」

 

ミツザネが残りの希と海未を紹介しようとして、紺色髪の少女が手で制した。

 

「紹介なら不要よ。貴女の事も知ってるし、アーマードライダー龍玄君」

 

彼女はそう言って席から立ち上がると、スカートの両端を摘み優雅にお辞儀をした。

 

「初めまして、μ'sの園田海未さんに東條希さん、星空凛さん。私は龍田暁、スクールアイドルシックスシップスのリーダーをやっているわ」

 

「私は工藤響。雷達とは親戚に当たるよ」

 

シックスシップス。それは神奈川県でμ's達と同じ頃に誕生したスクールアイドルだ。

 

せっかく凛とミツザネがシックスシップスに知り合いがいるのだから、直接話しを聞いてみようという事になり取材を申し込んだのだ。

 

場所は東京でありながら神奈川県に入っている町田の喫茶店である。こちらから頼み込んだのだから、こちらから足を運ぶにあたってシックスシップスが提示してきた場所がここだった。

 

「で、取材……で、いいのかな?」

 

「はい、事情は先ほど電話でお伝えした通りです」

 

海未が頷き椅子に座ると、ノートと携帯電話のボイスレコーダーアプリを立ちあげる。

 

その間に希と凛はカウンターへ行って注文を受けていた。

 

「部活とスクールアイドル活動が別なんて大変なのです」

 

「顧問の先生から言われてしまえば仕方のない事です。文化祭は文化部の大会のようなものですから」

 

面倒、という部分は否定しないのか苦笑を浮かべで電に答える海未。

 

「まっ、私達も今日は練習終わりだら時間は大丈夫よ」

 

「その代わり、ミツザネ君にお願いがあるのです」

 

「お願い?」

 

何だろう、とミツザネは首を傾げる。

 

すると、雷と電が暁の背中を押すように手を置く。途端に暁の顔が赤くなり、狼狽し始めた。

 

「もぉー、ミツザネ君に会えるって喜んでたじゃない」

 

「ファイトなのです。暁ちゃん!」

 

「わ、わかってるわよぉ………」

 

先程の優雅さは吹き飛んだのか、あたあたと慌てて暁は鞄から何故かペンと色紙を取り出し、意を決したようにミツザネに差し出した。

 

「さ、サイン下さい!」

 

「えっ、僕のですか?」

 

スクールアイドルではなく(傍から見たら)単なる一般人のミツザネにサインが求められるとは思っていなかったので、ミツザネは驚きの顔を浮かべる。

 

「暁はヒーローが大好きなのよ」

 

「リアルヒーローであるアーマードライダーは憧れの的さ」

 

「うぅ…………!」

 

まるで秘密を暴露されたからか、暁の顔が羞恥でさらに赤くなっていく。

 

ビートライダーズ時代でサインを求められた事はあったが、まさかアーマードライダーとしてサインを求められるとは。

 

だが、別にサインを求められて困るものではないので笑顔で受け取ると、ビートライダーズ時代のようにペンを走らせていく。

 

「わぁー、ミッチってサイン書くの上手いにゃー」

 

「流石、ビートライダーズ時代にサイン書いてたってだけはあるねー」

 

戻ってきた凛と希が後ろから覗き込むように色紙を見てくる。

 

「アーマードライダーのファン、という事は初瀬さんにも?」

 

初瀬リョウジ。μ'sにチーム鎧武が付いたようにアーマードライダーである初瀬もスクールアイドルに付く事になり、そのスクールアイドルがシックスシップスのはずだ。

 

しかし、どういう訳か暁はげんなりした表情で言った。

 

「ダメ、あれはない」

 

「そうなんですか?」

 

ミツザネが首を傾げながら色紙を渡すと、嬉しそうに笑う暁。

 

そんな暁に苦笑して代わりに答えたのは雷だ。

 

「リョウジと暁って相性が悪いのよ。暁は背伸びをしたがる1年生レディだから、お子様って馬鹿にされるの」

 

「お子様言うな! それに、暁は1人前のレディよ!」

 

なるほど、憤慨する姿を見たら弄りがいがありそうだなぁ、と思うミツザネ。

 

それを察したのか海未が一睨みして咳き込むと、本題に戻すように言った。

 

「すみません。話しを元に戻して………」

 

「あぁ、そうね。ごめんなさい」

 

雷の謝りから取材が始まる。

 

同じスクールアイドル同士の対談というのは、共感出来る事ばかりなのかミツザネを放っておいて上がる女子トーク。

 

手持ち無沙汰になったミツザネは呟いた。

 

「僕、サインしかしていないんですけど」

 

もちろん、それに答えてくれる人などいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にこまきえり+コウタ+アキト。

 

 

 

コウタは嫌な汗が背中に落ちるのを感じながら、この状況を打破しようと思考を働かせる。しかし、鼻腔を突き抜けてくる甘い香りにコウタの理性は削られていく一方で、解決策が見い出せなかった。

 

右腕に抱き着いているのは絵里。左腕に抱き着いているのはコウタ達が調べようとしていたスクールアイドル、ブルーティアーズの1人である真上雪乃。

 

ブルーティアーズはプリ並のダンス力を誇り、パフォーマンスにおいてはA-RISE以上と言われている。

 

ダンス好きなコウタとしてはぜひとも会ってみたいと言って、3人を説得してまでコンタクトにこぎ着けたのだが。

 

会うなりどういう訳か気に入られたらしく、現状に至った訳である。うむ、コウタ自身も何がどうしてこうなったのか理解出来ていない。

 

ちたなみに、にこはその豊満な胸に敵意を燃やしており、真姫は馬が合わなかったのかもう1人のブルーティアーズ、西条彩乃と目線で火花を散らしている。

 

そして、こういう時に頼りになるアキトはというと。

 

「まだやってたんすね………」

 

気だるそうに欠伸をしながら、コンビニで買ってきたパックジュースを飲んでいるアキトがやって来た。

 

「おまっ、アキト! 何で勝手にいなくなるんだよ!?」

 

「いやだって、面倒そうだし。オレなんかよりイケメンなコウタさんと絡んだ方が面白いし」

 

「面白いが主な理由だよな!? 見捨てる気満々じゃねぇか!」

 

「あらあらぁ、そっちの子も可愛いじゃない。こんなイケメン達を侍らしてるなんてずるいじゃない。私達に頂戴よ」

 

「巫山戯ないで! コウタもアキトも私達の大切な仲間よ! あげるとか、あげないとかの問題じゃない!」

 

アキトがやってきたからか、再び雪乃と絵里で口論が始まる。

 

元々、ブルーティアーズには黒い噂はあったのだ。彼女達のPVには常にビートライダーズのような男性達によるバックダンサーがいる事で有名だ。

 

無論、それによる迫力は凄まじいもので、そこを気に入ったファンも多くいる。

 

だが、噂では雪乃と彩乃はその男達を漁っているというか、手癖が悪いという。

 

それはどうやら本当だったらしく、こうい状況になっている訳だが。

 

「アンタ達………アイドルを舐めてるの!?」

 

噂が本当だったと確信した瞬間、にこが激昴した。アイドルにとって一家言を持つにことしては、不純な想いを持つ2人が許せないのだろう。

 

しかし、雪乃と彩乃はどこ吹く風であり、呆気からんとした表情で答える。

 

「私達はスクールアイドルでしょ? プロでもないのに、そう目鯨立てる必要なくない?」

 

「じゃあ、何で貴女達はラブライブ!を目指しているというの?」

 

「イイ男を見つける為よ」

 

何の躊躇いもなく吐き出された言葉に、絵里にこ真姫は絶句したように押黙る。

 

その理由も確かだが、何よりそれを告げた時の雪乃の表情が、何かを憎むかのような目をしていたからだ。

 

「…………もしかして、男で苦労しちゃった感じ?」

 

「…………………アンタ達には関係ないわ」

 

アキトの何気ない言葉に、はっと我に帰ると冷たく言い放った雪乃は、コウタから離れると踵を返して背を見せる。

 

まるで、泣き顔を見られたくないかのように。

 

「スクールアイドルの事を調べてるんでしょ。私達の事、そのまま好きに書いたって構わないわ」

 

「あ、使っていいんだ」

 

「私達はモテる為にスクールアイドルをしている。そこに違いなどないわ」

 

そう言って去っていくブルーティアーズ。

 

それを見届けると、案の定3人からは憤慨の声が上がる。

 

「何て巫山戯た人達なのかしら!」

 

「あんなのが同じくスクールアイドルだなんて………」

 

「べ、別に私はどうでもいいけど………でも、気に入らないのは確かね」

 

あの真姫でさえ憤慨するほどに、ブルーティアーズの不純な動機はμ'sにとって琴線に触れたらしい。

 

確かにその真相を知ってしまえば、彼女達を応援しようなどという想いにはならない。

 

だが。

 

「コウタ、行きましょう。あんなのを発表する訳にいかないわ」

 

「…………そうなのかな」

 

アキトから飴玉を貰ったコウタは、ぱくりと口に放り込んで言った。

 

あの何かを憎むような瞳が、コウタは気になってしまう。

 

「えっ?」

 

「なーんか引っかかる。もやもやするんだよなぁ……アキトはどう思う?」

 

振られたアキトはジュースを飲み込んでから答える。

 

「まぁ、仮にそうだったとしても向こうからしたら大きなお世話でしょ。プライバシーの侵害で訴えられますよ?」

 

「あっちは好きに記事書いていい、って言質取ったんだ。どう調べようが俺達の勝手だろ」

 

「ちょっと待って!」

 

調べる方向でコウタとアキトが話しを進めているからか、真姫が思わず声を上げてしまう。

 

「本当にあのスクールアイドルを調べる気なの!?」

 

「だって、今更他のチーム探すの面倒だし、楽だろ?」

 

「でも………」

 

相当気に入らなかったのだろうか。あの絵里がここまで渋るというのは珍しいように感じられたが、コウタはあの言葉の意味が気になって気になって仕方がなかった。

 

「じゃあ、ブルーティアーズは俺1人で調べるから、皆は他のチームを調べてくれ」

 

決して怒ったなどではなく、単にその方が効率がいいと思っての言葉だったのだが、少し冷たい返答に聞こえたのかにこがむっと顔を顰める。

 

「…………わかったわよ。そこまで言うならあいつらの事、調べてやろうじゃない」

 

「えっ。いや、そんな無理に付き合わなくても………」

 

コウタが止めようとするも、にこの言葉を受けて絵里と真姫も頷きあっている。

 

「……………まぁ、人数は多いに越したことはないか」

 

コウタは深く考えずに頭を掻いて、早速情報を集めようと歩き出す絵里達の後を追う。

 

何かを調べる為に仲間と一緒に歩く。

 

まるで学生っぽいな、とコウタは細く笑む。

 

と、いやいや学生だろ、と自分の中でツッコミを入れるコウタ。

 

「………………?」

 

何か違和感が過ぎったような気がしたが、それが何なのかわからず首を傾げる。

 

皆から距離が出てきたと気付いて、離されまいと駆け出した時には違和感を覚えた事でさえ記憶に残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調べあげた内容をまとめたノートを、それぞれのチームの代表者がタカトラに提出すると満足げに頷いた。

 

「よし、これなら大丈夫だろう」

 

「よかったー。何とか間に合ったー!」

 

OKサインを貰えたからか、心の底から安堵する穂乃果。海未と絵里も安心したように笑い合い、職員室なら顔を覗かせていた他のメンバー達もガッツポーズを見せる。

 

「保護者の方々にも許可は取れた。場所の確保も出来た………後は詳細のメニューなどを決めるだけだ」

 

「保護者の方々に………ですか?」

 

まだ書面を貰っていないので海未が首を傾げると、タカトラは少し照れたようにはにかんだ。

 

「お前達が研究部としての活動をしている間に家庭訪問をしておいた。女子校なのにも関わらず男子がいる環境で、娘が一緒に海外は親御さんからしたら不安だろうからな」

 

「えっ、でも希は………」

 

絵里が職員室の入口にいる親友を見やると、彼女はにこりと笑った。

 

「直接会えなかった御家族にももちろん、電話をして直接許可を貰ったさ」

 

「さすがタカトラ先生だ………」

 

用意周到というべきか、根回しの良さに傍から聞いていたのか向かい側の教師が感嘆の声と共に黄色い視線を向ける。

 

「ともかく、詳しい話しは練習後のミーティングで行うが………ラブライブ!に向けてより一層厳しい練習になるが、体調管理をしっかりして望むように」

 

「はい!」

 

タカトラの言葉に気合いを入れるμ's達。期待の希望に職員室の教師達からは激励の言葉を貰い、より一層やる気を出す一同。

 

向かうは未知の世界で新天地。何が起こるかわからないが、どんな事でも乗り越えられる。

 

この仲間達ならば。

 

この今に巡り会えた、奇跡の仲間達ならば。

 

 

 

 

 

葛葉コウタが所有するロックシード

 

 

・オレンジ

・パイン

・イチゴ

・マツボックリ

・サクラハリケーン

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

「い、家に帰っちゃったのォ!?」

 

「何やってんだよ、ことり!?」

 

夏合宿に向かうμ'sに降りかかる暗雲。

 

 

 

 

「へ、ヘルヘイムの森!?」

 

訪れたのは隣接の異世界。

 

 

 

「アーマードライダー………デューク!」

 

2人に牙を剥く街の守護者。

 

 

 

 

「これからの彼女の運命(さだめ)は俺が決める」

 

「そんな事、絶対に……………」

 

怒りに震える鎧武が吠える!

 

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

24話:Wonderful Rush ~森の住人~

 

 




ようやく本編が更新出来た…………

御無沙汰しています、グラニです。

と、いうわけで久々の本編更新となります。本編で言うと1か月ぶり。しかし、誰も変身しておりませぬ(遠い目)

今回は夏合宿に向かう為の準備回でした。まぁ、また個人的に気になっていたアイドル研究部としての文化祭へ向けての活動、といったところでしょうか。

映画と展開が同じですが、元々wonderfulrushをやる予定でしたので、むしろ映画を観てびっくりしたのは自分です。

そして、結局ついていく事になるアキト君。ついていかなければあんな事にはならなかっただろうに…………


またまた艦これから登場の金剛型4姉妹と響、暁。一人前レディの生き様を見届けるがいい!

そして3組目のブルーティアーズ。元々はビスマルクとオイゲンだったはずなのに、普通に日本の女の子に。あるぇー。

調べてみて一体なにがわかったのか、それは文化祭で明かされる……………



次回、ついにデュークがやらかし、コウタがあのセリフを……………!?


感想、評価随時受け付けておりますのでよろしくお願いします!

Twitterやってます
話しのネタバレなどやってるかもしれませんので、良ければどうぞ!

https://twitter.com/seedhack1231?s=09


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