インベス同士を戦わせる決闘ゲーム。敗北してもインベスの死亡はなく、強さはロックシードによって変わるが、今まで注いだ愛によって変動する。
主にフリースペースを取り合うために行われる。
前回までのラブ鎧武!は………
廃校を免れられない学校側は入学希望者を集めるため学校のアイドル、スクールアイドルによるパフォーマンスで生徒を集めていた。
時代の流れに逆らえない伝統ある音ノ木坂学院に廃校を阻止せんと活動する高坂穂乃果を発足人としたスクールアイドル・μ'sを守るために男子達が転入することに。
その紹介の最中、突如人間のパートナー・インベスが乱入。混乱の元凶は音ノ木坂学院廃校後の土地を狙った都議会議員、志木であった。
呉島タカトラが変身したアーマードライダー斬月、そして弟のミツザネの機転により志木を押さえつける事に成功。
しかし、穂乃果を襲おうとするインベスを彼女のインベスが身代わりになり死んでしまう。
悲しみの穂乃果達を救ったのは葛葉コウタことアーマードライダー鎧武だった。
鎧武が大橙丸を振るう度に、一撃でインベスが倒されていく。
「す、凄いにゃー……」
素直な感想を漏らした星空凛に、同じ1年の西木野真姫は頷く。インベスとアーマードライダーの戦いの様を描いたドキュメンタリー番組がたまに放送されたりするが、目の前で見るのとでは迫力が段違いだ。
「……って、惚けてる場合じゃないわ! 早く逃げなきゃ!」
はっとして矢澤にこが言う。確かに鎧武という援軍によりアーマードライダー斬月の負担が減ったとはいえ、目の前で繰り広げられているのは戦闘だ。
インベスとアーマードライダーの戦いには何が起きても不思議ではないので逃げる、というのは常識である。
しかし、兄の呉島タカトラがアーマードライダーだからか、呉島ミツザネは落ち着いた様子で言った。
「その必要はありません」
「ミツザネ君……?」
先程まで狼狽えていたのが嘘のように余裕そうな彼に、絢瀬絵里は首を傾げる。
「もう決着は着きました」
その言葉に戦場へ目を向けると、すでにあれだけいたインベスは斬月が相手をしている特殊なインベス……タイガーインベスのみになっていた。
「ハラショー……」
「あれだけの数を……彼もユグドラシルの社員なん?」
東條希の言葉に、ミツザネは首を横に振る。
「彼は葛葉コウタ。僕達同様、転入生です」
「はぁ!? なんで転入生というか、学生がアーマードライダーやってんのよ?」
思わずにこが聞き返すのも仕方のないことだ。
アーマードライダーはユグドラシルが所有する私設武装組織。アーマードライダーになるには当然、ユグドラシルの社員である事が大前提のはずだ。少なくとも、一般人が行っていい事ではない。
にこの言い分に、ミツザネは少し困ったように唸った。
「まぁ、詳しい話しはおいおいするとして……」
ミツザネは斬月と並ぶ鎧武の姿を見て、笑みを浮かべる。
「大丈夫。コウタさんの強さは、ここにいる僕達が保証します」
そう言うミツザネは、どこか誇らしげであった。
「随分と懐かれているようだな」
「こんな俺を慕ってくれる。いい弟さんだよ、アンタの弟は」
後ろから聞こえてくる会話にハミカミながら無双セイバーを構える斬月の隣で、大橙丸と無双セイバーを構える鎧武。
2人の前にはすでに死に体と貸しているタイガーインベスの姿が。通常のアーマードライダーならいざ知らず、それなりに力を持つ斬月と相対した結果、苦戦しつつも互角以上の戦いを繰り広げたのだ。
そこへ鎧武の援軍。もはや王手である。
「さて、さっさと終わりにしますか」
「同感だな。生徒達の安否も心配だ」
そう言って鎧武はドライバーのロックシードを外し、無双セイバーにセットする。
『ロック・オン』
対し、斬月はベルトの小型:カッティングブレードを1度だけ倒す。
『ソイヤ! メロン・スカッシュ!!』
斬月のメロンディフェンダーにエネルギーが収束していき、鎧武の無双セイバーにも同じようにエネルギーが収束していく。
『壱、十、百……オレンジ・チャージ!!』
「輪切りにしてやるぜっ!」
鎧武が無双セイバーを振り抜くとオレンジ色の斬撃が飛んでタイガーインベスを斬りつけ、さらに拘束する。
「でやぁっ!」
その隙を狙った斬月がメロンディフェンダーをブーメランのように投擲し、タイガーインベスを横一文字に薙ぐ。
それが決定打となり、タイガーインベスは火花を散らして爆散した。
鎧武は無双セイバーにセットしていたロックシードを戦極ドライバーに戻し、キャストパットを閉じ変身を解く。
戦場の緊張感から開放されたコウタは伸びをして息を吐くと、隣から手を伸ばされた。
見れば同じように変身を解いたタカトラが、手を差し伸べていた。
「助かった。お前が来てくれなければ危うかったかもしれん」
「いや、最初に削っていてくれたからだよ。タカトラさん……いや、タカトラ先生って呼んだ方がいいか」
茶化すような感じで握手を交わすコウタとタカトラ。
そんな2人に近付くミツザネと九紋カイト、そして穂乃果達と理事長だ。
「まったく、一体どこをほつき歩いていたんですか?」
「腕は訛っていないようだな。いずれオレもドライバーを手に入れ、決着をつけるぞ」
それぞれの言葉に苦笑を浮かべたコウタは、その後ろにいる穂乃果を見てオレンジロックシードを差し出した。
「ありがとう。おかげで助かった」
差し出されたロックシードを見た穂乃果は微笑を浮かべると、首を横に振った。
「いいよ。それは君が使って。その方があの子も喜ぶと思うから」
まさか託されるとは思っていなかったコウタは驚きの表情をするが、やがて笑みを浮かべて受け取る。
「貴方が葛葉コウタ君ね」
理事長に話しかけられたコウタは思わず姿勢を正す。
「は、はいっ! 遅刻してすみません」
「いえ、貴方のおかげで手早く事態を収拾がついたのです。理事長として感謝します」
頭を下げる理事長に狼狽えるコウタ。先程まで凛々しく戦っていた武士とは思えない姿に、穂乃果達は笑った。
「それにしても、都議会議員がこんな白昼堂々と強引な手を使ってくるなんて………」
気絶して倒れている中年男を見やって、絵里が呟く。
「そんなに音ノ木坂学院を潰したいんでしょうか……」
目の前で嬉々として潰す、と宣告されたからか園田海未は元気なく言う。廃校を阻止するために彼女達は活動を始めたが、廃校を望む人間もいるという事を知ってショックだったらしい。
「……フン。楽な道を選ぼうとするのは弱者の証だ。貴様らは強者たる道を選んだのだから、いちいち弱者の言葉に耳を傾ける必要はないだろう」
意気消沈する彼女達を元気付けてきたのは、意外にもカイトだった。
「カイト君……」
「へぇー。初対面の相手を強者とするなんて珍しいじゃねぇか、カイト」
感心して肩を組もうとするコウタを避け、カイトはタカトラを見やる。
「で、こいつをどうする。脅迫されていた、という証拠はなく都議会議員を倒したんだ。こちらが何を訴えようと、同じような輩に揚げ足取られる気がしてならないんだが」
「それについては心配いりません」
そう言ってミツザネは先程解き放ったインベスと携帯を見せた。
「すでに手は打ってあります」
『ハローアキバシティの諸君! DJサガラのダンスダンスホットラインの時間だぜ!』
画面にはバンダナをした男がラップ調な喋り方でトークを繰り広げていた。
DJサガラのダンスダンスホットライン。軽快なトーク術で若者を中心にスクールアイドルを取り上げるネットラジオ番組である。
「あっ、始まったよ」
穂乃果はパソコンの画面を覗き込み、その声に後ろで準備体操をしていた他のμ'sメンバーも寄ってくる。
『さて、本日最初の話題は速報だ。とある知人からの情報でな、東京都千代田区にある音ノ木坂学院。ここはつい先日、期待の新星と呼ばれが強いスクールアイドル、μ'sが結成された事でホットになったが……また新たな話題を引っ提げてきてくれたぜ』
わざわざ仰々しい感じで1度区切るサガラ。
『なんと、東京都の都議会議員が音ノ木坂学院を廃校にせんがため、大量のインベスを連れて襲撃してきたって話しだ! なんたる非道! 吐き気を催す邪悪ってのはこのことを言うんだな………だが、安心してくれリスナーの諸君。邪悪ってのは滅ぼされるためにあるんだぜ?』
「なんか、盛り過ぎのような気が……?」
小花陽の言葉は当然通じる事はない。これはサガラ自身の番組を録画したリスナーが生放送で再び流しているだけなのだ。
『そう、奴の邪悪は滅ぼされたんだ……なんと、驚け沢芽シティの皆……音ノ木坂学院を、そしてμ'sを守るために立ち塞がったのは俺達の侍……アーマードライダー鎧武、チーム鎧武達だ!』
「えっ!?」
まさか彼らの事が出されるとは思っていなかった穂乃果達は驚きの声をあげる。
『残念ながらバロンと龍玄の姿はなかったようだがな。あいつらについては各自調べたり、上のリストからバックナンバーリストから過去の放送を見てくれよ? しかし、あいつらビートライダー辞めたって聞いてたけど、相変わらずなんだなぁ……お父さん嬉しいっ!! と、まぁ冗談はこれくらいにして………しかし、ダンサーとしてではなく1人の人間として、子供達の居場所を嬉しい奪おうなんざ許せねぇよな。国民のための正しい判断を頼むぜ、政治家さんよ』
音ノ木坂学院に関しての話題はそれきりなのか、あとは普段同様リスナーのコーナーへ移ったので、穂乃果はログアウトした。
そして、メンバーの反応を伺うと、一様に驚いていた。
「有名人だったんだね」
「えぇ、ですが……そんな彼らが何故この音ノ木坂学院に……」
ことりと海未の言葉に、全員がうーんと唸る。
その時、埒があかないと思ったのか絵里が手を叩いてメンバーの意識を集めた。
「はいはい。どんなに考えても仕方のない事なんだから、練習しましょ。ようやく9人になっての初めての曲なんだし、次のオープンキャンパスまでに希望者数増やさないと廃校が決定になっちゃうんだから」
絵里の言う通りである。どれだけ考えた所で答えなど出るはずのないものだし、聞きたければ本人に聞けばいい。
なにより次のオープンキャンパスで行うアンケートで入学希望者を確定までいかなくともそれなりの興味を持ってもらわなければ廃校になってしまうのだ。
つまりは、音ノ木坂学院スクールアイドルμ'sはかなりピンチな時期なのである。
「………って、一番邪魔してた私が言えた義理じゃないわよね」
絵里と希は生徒会役員を兼用している。
絵里達も最初は廃校を阻止しようと躍起になり、その矢先に出てきたのがスクールアイドルをやろうと言い出した穂乃果達だった。
スクールアイドルなどで学校が存続出来るか、と絵里は当初、μ'sの活動を快く思っていなかったのだ。それはスクールアイドルが不抜けていると思えるほどダンスの才能に長けていたというのと、自分の役目であると思っていた事を横取りされたような嫉妬心からであった。
しかし、予想外に人気が出て存続が現実味を帯びてきて、絵里は何が正しいのかわからなくなっていた。
そんな彼女に手を差し伸べてくれたのが、目の敵にしていた穂乃果達である。
それがつい先日で、まだまともにダンスも合わせていないのであった。
「ううん。そうやって指示してくれるのはありがたいです」
そう言う穂乃果に、絵里はどこか複雑そうな顔をした。
「ね、ねぇ……本当に新参者が言うのもアレなんだけど………先輩っていうの、辞めにしない?」
「えっ?」
それには穂乃果だけでなく他のメンバーも驚き、思わず絵里をまじまじと見つめる。
その瞳は一様に語っている。これは誰だ、と。
絵里は生徒会長だ。生徒の模範となるべく人物でありμ'sに参加してくれたとはいえそこは変わらないはずだ。
「な、何よ……?」
「きっとエリチがそんな事言うのが意外だったんやない?」
周りの反応が珍しいがために苦笑する希。その通りだったので皆は苦笑をし、海未が尋ねた。
「ですが、部活なら上下関係ははっきりさせといた方がいいのでは?」
「確かにこのメンバーはアイドル研究部として登録されているけど、μ'sとしては別でしょ? はっきり言ってしまえば私達に失敗は許されないんだから、完成度を上げるために1つにならないといけないと思うの」
その言葉に皆は顔を見合わせる。確か上下関係で区別を付ける事は部活動において大切ではあるが、多少なりとも壁を作ってしまう事になる。
個ではなく全で動いている以上、わだかまりはない方がいい。
しかし、急に上下関係を無くした関係になれるのだろうか。一番の懸念は花陽だ。
元々人見知りな彼女が年上、さらには生徒会長でもある絵里相手にタメ語が使えるだろうか。
そう思って穂乃果が花陽を見やると、案の定「そんな、恐れ多い……」といった顔になっていた。
「はーい、わかったにゃー。絵里ちゃん」
対してその親友の凛は順応力が高いらしく、先輩禁止令が出た途端に絵里に抱き着いた。
「そう、ですね……では、絵里……」
あまり慣れない感じで名前を呼ぶ海未に、絵里は微笑する。
「よーし、皆との距離を縮めるためにも練習頑張ろう!」
おぉー、と張り切る穂乃果達は普段と同じように練習に励むのだった。
志木都議会議員の襲撃はアーマードライダー鎧武とアーマードライダー斬月のおかげで無事解決が済み、ミツザネが打った手で問題にもならないようだ。
その日の授業は中止となったのだが放課後、μ'sのメンバー達は屋上に集まり練習に励んでいる。オープンキャンパスまで時間はあまりないのだから、詰められる所は詰めたいものだ。
「………はーい、一旦休憩にしましょう」
全員で初めて通しての練習が終わり、絵里の言葉で肩の力を抜く。
「荒削りだけど、これなら何とかなりそうね」
「ホント? やった!」
コーチからお褒めの言葉をもらい、喜ぶ穂乃果達。
先程のダンスはあーだったこーだったと話しているμ'sのメンバー達は、ふとパソコンを使いチーム鎧武の事を検索にかけた。
チーム鎧武。沢芽シティにて活動していたビートライダーズのチームであり、中高生を中心にヒップホップ系統のダンスをするチームだったらしい。今は活動をしておらず、去年あたりのダンス動画が一緒に紹介されていた。
動画を再生してみると軽快なポップな曲と共に穂乃果達と同じくらいの少年少女達がダンスを繰り広げていた。
その中には当然、コウタとミツザネの姿もあるのだが、どういう訳かカイトの姿は見当たらなかった。
「へぇ、あの2人もダンスしてたんだー」
「うわぁ、懐かしいなミッチ。これ去年の夏のだぜ。確か、皆が期末試験終わったタイミングで録に練習しないでやったんだよな」
「えぇ、まだ動画が残ってたんですね」
そんな言葉に、穂乃果達は思わず振り向く。
そこにはよっ、と手を上げて柔和な笑みを浮かべているコウタとミツザネがいた。
「か、葛葉君!?」
「ミツザネ君も、いつからそこに?」
気配を感じさせない2人に驚く穂乃果とことりに、2人は顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
「実はさっきから。っても、入り口からだけどな」
「校内を見回っていたら皆さんがダンスをしているのが見えたので思わず……」
要するに随分前から、という事になったらしい。
「そういえばちゃんと自己紹介がまだだったな」
「そうね。ミツザネ君とカイト君は知ってるけど、貴方は遅刻したものね」
軽く自己紹介を交わした一同は、早速気になっていた質問をぶつけた。
「どうして葛葉君はアーマードライダーになれるの? あれってユグドラシルの人じゃないとなれないんじゃ…………」
ことりの質問にあぁ、と頷いたコウタは戦極ドライバーを取り出した。
「実はこれ、戦極ドライバーの開発者……戦極リョーマってのが、俺の兄貴なんだよ」
「そうなの? 凄いお兄さんだね」
まじまじと穂乃果は戦極ドライバーを見つめる。ロックシードを嵌める窪みと着ることためのカッティングブレード。その反対側には鎧武の顔がイラストとして刻まれている。
「あれ、でもコウタ君の名字……」
「離婚したんだ。兄貴は父親に引き取られて、俺は母親。まっ、結局は死んじまって姉ちゃんトコだけど」
その瞬間、質問したことりがバツが悪そうな顔をする。しかし、コウタは特に気にした風もなく笑った。
「まぁ別にいいんだけどな。兄貴のおかげで俺はドライバーが手に入って、皆を守る力を手に入れられたんだし」
「今度は、こちらからも質問があります。皆さんも他の生徒もそうでしたが、あまり動揺してませんでしたよね。何故ですか?」
話題切り替えのように聞いてくるミツザネに、μ's一同は顔を見合わせた。
「………本当はあったんよ。アイドル狩りやないけど、インベスによる襲撃事件」
「えっ……」
希の言葉にミツザネは驚く。
「流石に今日みたいな数は初めてやったけど、何度か下校途中に廃校を狙った輩によるインベスが」
「けど、そんな私達を助けてくれたアーマードライダーがいるんです」
「派遣されてきた、って事ですか?」
ミツザネが聞き返すと絵里は首を横に振る。
「本人からは正体は秘密で、存在も内密にってた言って。だから、誰が変身してるのかはわからないの」
「あと、葛葉君とは違ったベルトしてたにゃー。あと、使っているロックシードも凛達みたいのじゃなくてエナジーロックシードだったような」
人懐っこく言う凛に、ミツザネは怪訝そうか顔をする。
「戦極ドライバー以外にドライバーが……? しかも、エナジーロックシードで変身?」
「それってゲネシスドライバーか?」
同じ学年の穂乃果達とダンス話題を盛っていたコウタが言う。
「あるんですか?」
「設計、理論上は。ただ実用化にはかなりの時間が有するって兄貴は言ってたぜ。だから、実在してるはずはねぇんだけどな」
うーんと唸るコウタ。
その時、コウタ達のダンス動画を見ていた穂乃果がばっと立ち上がりコウタの手を取る。
「葛葉君、ミツザネ君。μ'sのコーチして下さい!」
「突然!?」
「突然じゃないよ! この動画を見てだよ!」
「それを突然って言うんじゃ……」
ことりのツッコミも虚しく、海未に至っては「また穂乃果は……」と、遠い目をしている。しかし、こんな感じで言い出した彼女には何を言っても無駄なので、とりあえず話しを聞くしかない。
「けど、俺がやってたダンスってヒップホップだぜ。μ'sみたいなアイドル調のダンスはなぁ……」
「どちらかと言えば城之内さんの領分ですよね」
互いに顔を見合わせるコウタとミツザネ。しかし、穂乃果は興奮したように掴んだ手を上下させていた。
「それでも2人は私達より断然、ダンスが上手いよ! きっと2人に……ううん、カイト君も加わってくれたらもっとμ'sの完成度は高くなると思うんだ!」
そこで穂乃果は慌てたように絵里に言った。
「決して絵里ちゃんのコーチングに不満がある訳じゃないんだよ!?」
「わかってるわよ。確かに動画を見た時、実力は高いなって思った。私にはそこまでの荒々しさはないし、3人に指導してもらったらもっと良くなるとは思っていたとの」
そこで絵里は悔しさと嬉しさが入り交じったような表情でコウタとミツザネを見やる。
「皆はどうかしら?」
絵里がメンバー達を見やると、いつの間にかお得意のタロットカードを見せつける希。
「ウチは賛成や。この出会いは運命……カードもそう告げとる」
「凛も賛成だにゃー。かよちんと真姫ちゃんは?」
「わ、私も……上手な人に教わるのとアイドルに必要な事だから……」
「この空気で断るって、相当じゃない?」
凛の言葉に恥ずかしそうに返す花陽と腕を組んでやれやれといった感じの真姫。
「アイドルやるからには男子視点が必要だからね」
「私も賛成です……男子のいる学校はかなり久しぶりですが………」
「私は穂乃果ちゃんが決めたなら協力するよ?」
にこに海未、ことりも異論はないらしく賛成の言葉を口にする。
そして、彼女達は目を合わさるだけで頷き合うとコウタ達の前に一列に並び、
「よろしくお願いします!」
部活動っぽく一礼をした。
コウタとミツザネは顔を見合わせ、同時に苦笑した。
「皆さん、顔を上げて下さい」
「俺達は皆をフォローするために来たんだし、何よりそういう事なら協力するのもやぶさかじゃない」
「じゃあ……!」
喜びかける穂乃果に、コウタは手を上げて待ったをかける。
「カイト。お前はどうなんだ?」
コウタの言葉に、屋上入り口から姿を見せる影があった。
いつからいたのか、カイトは姿を表すとμ'sの面々を見やる。その眼光は高校生とは思えないくらいに鋭く、花陽が思わず凛の背中に隠れたしまうほどだ。
「………答えろ。何故、お前達は踊る………いや、学校を存続させる? 3年は今年で卒業し、そも1年が卒業するまでは学校はあるんだぞ。スクールアイドルなどという面倒な事を……」
「この学校が好きだから」
カイトの言葉に穂乃果が遮るように言う。鋭い眼光に臆する事なく、真っ向から向き合う。
「アイドルは私の思い付きで、A-RISEをパクったって言われちゃうと言い返せないけど……これなら廃校を阻止出来ると思ったんだ」
「可能性がどれだけ低くてもか。今の踊りを披露するなら辞めておけ。A-RISEのみならず他のスクールアイドルにすら劣っている貴様らが他を圧倒すには並大抵以上の努力が必要だ」
辛辣で直球な言葉に穂乃果達の表情が一瞬暗くなる。ミツザネが口を挟もうとするが、コウタが止めた。この対話はカイトのみならず必要な事だ。
「それでも、だよ」
絞り出す訳でもなく、はっきりと告げたのはことりだった。他のメンバーも強い瞳をしており、今度はカイトが押し黙る。
「私のお婆ちゃんもお母さんも音ノ木坂学院の卒業生でね。廃校になるのは時代だから仕方ないって……でも、その時の悲しそうな顔見たら……嫌だなって思ったんだ」
「根拠はあるのか」
「ない! けど、やるって決めた!」
その言葉にカイトは息を吐くと、どこか諦めたような目で穂乃果を見る。そして、コウタを見やって首をかしげる彼に鼻で笑い飛ばす。
「なるほど……類は友を呼ぶ、か」
「おい、ちょっと待て。それどういう意味だよ」
何となくその意味を察したコウタが憤慨するも、カイトはスルーして踵を返して告げた。
「高坂穂乃果」
「は はい!」
思わずビシッと背筋を伸ばす穂乃果。
「言質、取ったぞ。オレ達が手を出すのは今度のオープンキャンパスを終わってからだ。残り一週間で口出せる事などありはしない」
そう言って、カイトは屋上から姿を消した。
残された穂乃果はカイトの協力を得られたというのに目を瞬きし、隣の親友に尋ねる。
「言質取ったって?」
「つまりは、言ったからには成し遂げろ、って事です」
苦笑しながら海未が説明すると、穂乃果はなるほどと頷いた。
「当たり前だよ! 絶対、ぜぇーったい……成功させよう!」
「えぇ。そのためにも練習再開しましょ」
絵里に頷き、各自が準備に入る。
穂乃果はコウタとミツザネに向き合い、
「葛葉君、ミツザネ君。ごめんね、勝手に話しを進めて……」
「いえ。カイトさんの言い分も一理あります。ですから、今回はバックアップに回ります」
「今回はお前達のステージだ。頑張れよ!」
2人の応援に穂乃果は笑顔で答える。
その笑顔は可愛らしく、アイドルに相応しいものだった。
上京するにあたって、コウタは姉の葛葉アキラと共に移ってきた。
姉は立派な社会人でユグドラシル傘下の会社に勤めており、泊まり込みで仕事というのもざらだ。
今日も泊まり込みらしく、コウタが家についた頃にはアキラの姿はなかった。
代わりにいたのは。
「よぉ、今日は大変だったな」
ネットのようなポップな恰好ではなく簡単なスーツを着込んだDJサガラだった。
リビングのテーブル席で大きな西瓜を弄びながら待っていた男に、コウタは警戒よりものっぺりとした感情を表に出した。
「どの口が言うんだよ。俺にわざと囮を嗾けて、音ノ木坂に駆け付けるのを遅らせたくせに」
殺気にも近いコウタの視線を平然と受け流し、サガラは笑う。
コウタが遅刻した理由。それは街中で音ノ木坂学院を襲撃すると呟くビートライダーズを発見したからだ。
これから通う事になる学校が襲われると知って見過ごすはずもなく、コウタはその計画を企てていたビートライダーズを片っ端から潰して回っていたのだ。その時に今まで使っていたオレンジロックシードを失ったのだが、穂乃果が同じロックシードを手に入れてくれて正直助かった。
しかし、戦っている最中は気にもならなかったのだが、今にして思えば出来過ぎている。
そう思った時、コウタの脳裏にチラついたのがこの男の嘲笑だった。つまりはあてずっぽだったのだかま、それは当たりらしい。
「いいじゃねぇか。可愛い女の子達にちやほやされてハーレムじゃねぇか」
「俺達を音ノ木坂学院に仕向けたのは何故だ?」
「その方が面白いからだ」
即座に答えられた言葉に、コウタは咄嗟に戦極ドライバーを取り出す。
しかし、それよりも早くサガラが背後を取るのが速かった。
サガラが動いた様子はない。まるで最初からコウタの後ろにいたかのようである。
常人なら驚くべき事象にも、コウタもしては何度も経験した事なので言葉の続きを促した。
「俺は表向きスクールアイドルを取り上げるネットラジオ番組のDJだ。μ'sには注目してるんだ、これホント」
「お前が言うと何でも胡散臭く聞こえるな」
「酷ぇな。信用ゼロかよ」
そうは言いつつも気にした風はなく、西瓜を見つめ両手で包み込む。
すると、瞬く間もなく閃光が発し、それは西瓜をモチーフにしたスイカロックシードとなった。
「なら、1つ本当のの事を教えてやろう。これがあるから、お前達を送ったんだ」
そう言ってサガラは言葉を紡ぐ。
その内容にコウタは愕然となり、思わず振り返った。
その時にはザカラの姿はなく、コウタの手にはスイカロックシードが握れていた。
「……………どういう意味だよ、それは」
コウタの呟きに答える者はいない。しかし、胡散臭いDJの嘲笑する声が耳奥にこびりついて、まるですぐ近くに男がいるのではないか。
そう思わざる得ないコウタだった。
葛葉コウタが所有するロックシード
・オレンジ
・マツボックリ
・サクラハリケーン
次回のラブ鎧武!は……………
「わ、私達μ'sのファンなんです!」
ファンが出来るほどまでに成長したμ's。
「誰がペチャパイや!?」
「ンなモン傍から見りゃわかんだろうが!」
凛と花陽の幼馴染、啼臥アキト。
「酷いよね……アキトも、おじさんも子猫ちゃんを助けようと必死になってくれたのに……」
昔、凛が放ってしまった罪。
「まっ、うようよと空飛んでる虫の害虫駆除なんて、僕みたいな屑にはぴったりですけどね」
『ブドウアームズ! 龍砲、ハッ、ハッ、ハァッ!!』
ついに変身するミツザネ。
「おいおい、諦め早すぎやしないか。猫娘」
『レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』
凛の危機に立つ、この街を守って来たアーマードライダー。
次回、ラブ鎧武!
3話:アイドル戦極時代 ~凛の罪、龍の咆哮と侯爵の舞い~
ラブ鎧武!
第2話です。
ここからは各学年などに分かれた短編集を本編ストーリーの合間にちょくちょく入れていく予定です。ラブライブ!のストーリーをそっていくだけでは鎧武のフォームチェンジなど披露しきれないので……………
次回登場する啼臥アキトはオリキャラ、しかも男です。私、凛ちゃん推しのため彼女専用主人公になると思います。