「優しい愛情」
「誠実」
「変わらぬ愛」
雨の日は気分が滅入るという。雨の日はどんよりとした空気だからか、あまり気分が上がらないのかもしれない。
それについて、九紋カイトは少なからず同意見を持っている。
雨が振れば洗濯物は乾かないし、空気もジメジメして居心地が良いとは決して言えない。外を歩くにしても傘を差さなければならないし、ダンスを思い切り踊る事も出来ない。
だが、ただ1つ感謝している事がある。
それは、ある思い出を容易に思い返せるファクターとなっている事だ。
思い返すほどの昔の思い出、というものではないが。
だから、カイトは思いのほか雨は嫌いではなかった。
東條希にとって雨の日というのは、それなりに馴染み深いものだった。
誕生日が梅雨時の6月でるが故に、子供の頃から誕生日は雨の日。バースデイ会は毎年のように雨音とセットだった。
かと言って、雨が嫌いかと言えばそうではない。確かに洗濯物は乾かないし湿気は酷く、また傘を差さなければ外を出歩く事すらままならない。
そして何より、つい最近の出来事ではあるが、希にとって雨は新しい思い出を生み出すきっかけとなってくれたのだ。
だから、希が雨が大好きだった。
これはそんなもしかしたら、の話し。
有り得るかもしれないし、有り得ないかもしれない。
紫御殿が雨雫に打たれる、そんなもしもである雨の日の話し。
音乃木坂学院3年生の教室。外は土砂降りと表現しても問題ないくらいに降っている雨により、教室には叩きつけるような雨音が響いている。
カイトが教室を訪れると、教室には目的の人物以外おらず、その少女は自席の机に突っ伏して寝息を立てていた。
カイトは一瞬だけイラッとした表情を見せると少女の元へ近付き、問答無用で手刀を振り下ろした。
「みゃおぅっ!?」
突然の衝撃に身体を震わせた少女は、身体を起こしてじろりと涙目で睨み上げてきた。
「何するん、カイト!」
「貴様の仕事をやっているというのに、何をサボっている…………!」
頭を抑える希を睥睨しつつ、カイトは腕を組んだ。
「貴様が校舎の設備を点検する生徒会の仕事をやる為に、手を貸して欲しいと言ってきた。流石に男子トイレまでは見れないから頼む、と言ってやり終わってみれば貴様は廊下におらず。近くの女子生徒に聞いてみれば欠伸をしながら教室に戻ったという。まる」
長々と言葉を吐き、カイトは希の耳を掴んで引っ張る。
「申し開きがあるのなら聞いてやる………」
「ひゃぁぁっ、ごめん! ほんの関西ジョークやって!」
「黙れエセ関西人」
赤くなってきたので手を離して、カイトは踵を返す。
「さっさと終わらせるぞ。今日はスーパーの特売日だ」
「あぁ、そういえばにこっちが言ってたね。ついでに洗剤も買わんとなぁ」
背後で準備していたのかボードとプリントに可愛らしいボールペンを取った希が引っ付いてくる。
どうせ希の事だ。準備しておいて敢えて寝入っていたのだろう。
この雨音が響く校舎を、一緒に歩き回る為に。
それをカイトも不快に思う事はないので、気付かれないように口元を緩ませながら廊下へ出た。
2人が向かったのは、運動部の部室棟である。前もって各部には部室の設備チェックをすると伝えてあるので、中で着替えをするなどという女子生徒はいないはずだ。
もしいようならば、わかるやろ? 脅しげふんげふん説明もしてあるので、万が一はないはずだ。
それを話した時の落胆ぶりは面白いものがあった。カイトは気付かれていないだろうと思っているのだろうが、希には落胆したとはっきりとわかっていた。
まったく、男というのは。とぶつぶつ思いつつも、カイトとはこういう男だと諦めているが。
「えっと、陸上部は問題なしやな」
「残りはバドミントン部だけだ」
中で希がチェックをして、カイトは外で手持ち無沙汰のように壁に寄りかかっている。
カイト達が来てから大分経つとはいえ、部活は女子ばっかだ。中には男子禁制な物がちらほらとあったりするものだ。抜き散らかしたスポーツブラやスパッツ、スカートのユニフォームなど。
そんな物をカイトが見れば鼻の穴を膨らませるのは必須。実は本人なは内緒だが、苦情が来ていたりするのである。
外に出るとカイトが扉を締めて、マスターキーで鍵を閉めてくれる。
そして、少しある離れた所にあるバドミントン部の部室に向かう途中、ふと希はカイトの前を歩きつつ尋ねた。
「そういえば、聞きたいんやけど」
「何だ?」
「カイトって、元々コウタ達とライバルチームに所属してて、敵対してたんやろ?」
何気なく聞いたつもりだが、カイトの返答にはしばらく間があった。
「……………そうだな。チームバロン、オレが率いてたチームだ」
「あ、バロンってそこから来てるんやね」
「そうだ。決してバナナからではない」
カイトが音乃木坂学院で初めて変身した際、バナナアームズだったが為に希が思わず叫んでしまったのだが、根に持っているらしい。
それはともかく、希が知りたい事を口にする。
「なんでライバルチーム………敵対しとったチーム鎧武と一緒に音乃木坂学院に来たん?」
転入当初。有効的な関係を築こうとしていたのはチーム鎧武の2人だけで、この少年はしばらくは周りは敵とでも言うかのような雰囲気を出していた。
μ'sと接していくうちにその雰囲気は和らいだが、まるで抜き身の刃のように鋭い瞳をしていたのを覚えている。
「……………別に意味などない。オレの夢の為だ」
「夢…………」
カイトの夢。
それは聞いた事がなかった、というよりも希自身も具体的に将来のやりたい事というのは見つけられていないので、カイトがすでに夢を持っているという事には素直に驚いた。
「夢って、何なん?」
「……………オレの実家はかつて、沢芽シティにある町工場だった。こじんまりとした小さい工場だったが、それなりにやりくりしていた所だ」
カイトはつらつらと語り出す。そこには悲しみも懐かしみもなく、まるで用意されたカンペを読まされているかのような無感動であった。
「しかし、工場のある敷地をユグドラシルタワー建設の為に売り払う事となり、工場は潰れた」
「そんな…………」
まさか、カイトの目的とは復讐なのだろうか。家族を滅茶苦茶にした、ユグドラシルへの。
希の声色に察したのか、カイトはフンと鼻を鳴らして言う。
「早とちりをするな。復讐など考えてはいない。売買に関する契約はちゃんと行われた。ユグドラシルからは本来の土地の数倍という金額が家族1人1人に支払われ………九紋家は一生遊んで暮らせる金を手にする事が出来た」
「………そう、なんだ。良かった………」
安堵するように胸を撫で下ろして、疑問が解消されていない事に首を傾げた。
いや、待て。かつてカイトは両親は姉を残して蒸発した、と言っていた。それほどの大金を手に入れて、崩壊した理由とは。
「……………人は突然、身の丈以上の力を手に入れた瞬間、壊れる物だ」
一生暮らせる金を手に入れた両親は、堕落した生活を始めた。毎日外食で、家事など録にやらない毎日。
そして、一生遊んで暮らせる大金は、いい顔をした輩に食い散らかされ、あっという間になくなった。
そして、両親は姿を消した。子供を残して、忽然と。
「親戚どもをたらい回しにされたオレは、中学生になるのと同時に沢芽シティに戻った。ユグドラシルに屈しない為に」
「…………それでビートライダーズに?」
「そこで強さを証明するのには丁度良かったからな。それに食い扶持も必要だった」
バドミントン部の部室を調べながら、語るカイトには感情は見られない。
それが希には堪らないほど辛く、痛々しい気持ちになった。
今もそうだが、中学生などまだまだ子供だ。出来る事などほとんどない。
そんな過酷な環境に、もし希ならば屈しないでいられるだろうか。
「せやけど、そこでアーマードライダーになったんやろ?」
「まぁな。戦乱を超えて一段落した所で、オレはある事を思い出してな」
そこでようやく、カイトに気恥ずかしげな感情が生まれた。
ちらりと目を向けてみると、少しそっぽを向いたカイトがいる。いつもの不遜そうな腕組みはしているが、誇らしげな色が見える。
「思い出したって?」
「親父の背中だ」
意外な言葉だったのかもしれない。だから、思わず振り向いてしまった。
「金を手に入れた途端、どう仕様もない弱者に成り下がったが、工事にいる時の親父の背中はカッコ良くて、誇らしかった事を思い出したんだ」
「…………じゃあ、カイトの夢は家族を戻す事?」
バドミントン部の部室から出ながら尋ねると、カイトは首を横に振る。
「オレの城を持つ。その為に学が必要だったから、ここに来た」
その言葉にある事柄に到達した希は、頬を赤くしながら躍けるように首を傾げてみせる。
「家庭を持つって事?」
カイトは一度こちらを凝視してくる。そして、フッと珍しく微笑を浮かべて踵を返した。
「さて、次は各教室の空調設備だろ」
「あーっ、人がせっかく………答えてよカイトー!」
歩き出すカイトに追いつくように駆ける希。
どうやら、そこに関しては素直に答えてくれそうにはなかった。
各教室の空調設備をチェックすると言っても、作動した際にエラーコードが出ていないかを確認するだけの簡単な作業だ。
これを希がやっておけば、工程が1つ楽になっていたのに、とカイトはジト目で希を見るが、何処吹く風風である。
「よし、これで終わり………っと。後は講堂と体育倉庫やね」
「……………何故、部室棟回った時に体育倉庫も見なかった」
効率が悪すぎる、とカイトが指摘すると希は「仕方ないやん」と返してくる。
「丁度部活も終わる時間帯やし、ぶつかったら迷惑やろ。皆の生徒会はそういう所にも気を配らんと」
「……………ならさっさと講堂へ行くぞ」
講堂で見る所は音響類だ。音乃木坂学院を代表とする大きな講堂なのだから、不備がないようにしなければならない。
講堂へやって来たカイトと希は、早速音響室に向かう。そしてマニュアルに沿って不備がないかをチェックしていく。
「そういえば、ここから始まったんやよね。μ'sは」
希の呟きに手を止めて、カイトはステージを見やる。
この講堂のステージ。そこからスクールアイドルμ'sは始まった。最初は観客のいないライブという敗北から始まったが、今ではそれなりのファンも獲得出来て波に乗っていると言えるだろう。
もし、最初の敗北のライブからμ'sを応援すると決めたファンは、良い目を持っているとカイトは断言出来る。
誰もいないスタートライブ。それを見て、未来を感じる者は相当の大物か単なる馬鹿くらいだが、その未来は大きく当たったのだ。
カイトは最初のライブを見ても、未来を感じなかった。ダンスも甘く雑で荒い、ダンス経験者からしてみてもすぐに潰れると思っていた。
カイトに必要なのは勉強出来る環境だったので、本心では関わる気はなかった。
しかし、その熱意や根性といったものは、他のスクールアイドルにないものがあった。
だからだろうか。こいつらが潰れない未来も、もっと踊る姿を見たいと思ったのは。
「……………希は何故、この9人なら廃校を救えると思った?」
ダンスも初心者。スクールアイドルも知らなかったこの少女が、未来を感じられないμ'sに未来を感じたのは何故か。
「カードがそう告げたんや」
「つまり、答えるつもりはない、と」
「あぁっ、嘘や嘘やんって」
そう言いつつ、どこか恐れたように希は俯く。
「………………まぁ、あながち嘘やないんやけど」
「どっちだ」
思わず突っ込んでしまうと、希ははにかんで答える。
「ウチな、子供の頃は霊とか見えたんや。それで結構、皆から敬遠されたりしちゃって………」
「リアルスピリチュアルか」
「せやね………それでタロットに興味が出て、当たるよね。これが」
そう言う希の表情は、どこか寂しそうであった。
「怖いやろ? たかだか高校生のカードが当たる、なんて…………」
「占い師に向いてそうだな。以上」
すると、希は瞠目してこちらを見やってくる。その目はありありと、えっ、それだけ、と語っている。
カイトにしてみればその程度の事だ。予言がなんだ、予言が当たるのならば、それを壊せばいいだけの話しだ。
希はその言葉を受けて、一度カイトに背を向けて身体を震わせる。
「……………ホンマ、カイトはかっこいいなぁ」
「…………………くだららん事を言っている暇があるのなら、さっさと次に行くぞ」
そっぽを向いてマニュアルをまとめて外へ出ようとすると、希が抱きついて来た。
「あー、照れ隠しはずるいでカイト!」
腕に柔らかい感触。それはわざと押し付けているのだろうが、もはや慣れてしまうほどにカイトはその感覚に馴染んでしまった。
癪ではあるが、それほどの時間が経ったという事であろう。
残りは体育倉庫だ。
部室棟からそれほど離れておらず、雨よけも多い場所にある体育倉庫は、音乃木坂学院創設当初からずっと使われているもので、中は誇りやゴミ、さらには何に使っているのか不明な物で溢れ帰っていた。
希とカイトが奥を覗き込んでみると、恐らく体育祭で使ったのであろうプラカードなどが押し込まれている。
恐らく手を付けたくないを延々と繰り返した結果なのだろうが、流石の2人も顔を引き攣らせた。
「うわっちゃー、やっぱ凄い事になっとるなー」
「使わない物を破棄しないからだ」
カイトの指摘はもっともなのだが、どれもこれも2年に1回は使ったり偉い人からの贈呈品だったりして捨てられないのだ。贈呈品を放置しておくな、とは言わないで欲しい。
「ほな、始めよう?」
汚れるといけないので制服の上着を脱いで、2人は本格的に中へと入り込む。
目的は設備の点検であって片付けではない。建物の具合などを見ればいいだろう。
「うーん、やっぱりガタが来とるみたいやねぇ」
「そも、穂乃果達の親の代からあったというのなら、よく今まで崩れずにいたものだ」
「何度も地元の大工さん達が補強してれてるみたいよ?」
呆れた風のカイトに、錆び付いた柱に触れながら希が言う。
この錆び付いた柱は創設当初から、この学校を見守っていたのだろう。それこそ、何人かもの生徒がやって来たのを歓迎してはその成長を見守り、巣立って行くのを見届けたのだろう。
今日のように雨音が響く日も、晴れの日も。
そう思うと、この柱は偉大な先輩になるという事ではないだろうか。
「…………何をそんなに柱を撫でている?」
「んー、先輩に敬意を払っておこうと思ってな」
そう答えて振り向くと、カイトは手にしている書類にこの体育倉庫を書き込んでいるようだ。
「建て直しを申請するん?」
「このまま崩れて生徒が下敷きになる可能性もある。そうなれば偉大な先輩とやらも不本意だろう」
思わず希はカイトを見やってしまった。そこにはいつもと変わらない不機嫌そうな少年がいる。
「……………何だ?」
「ううん、カイトもこの学校に馴染んできたなー思って」
最初の頃、カイトは廃校阻止には興味は示さなかった。μ'sの熱意に応じてダンスを教えたり振り付けを考えてくれたが、あくまでもμ'sに協力的なだけで学校がどうなろうとどうでもいい、といった具合だ。
それが少しは学校に関心を持ってくれている。生徒副会長としても希個人としても、嬉しい変化であった。
「………………ん?」
ふと、カイトが顔を出入り口へと向けた。
「どうしたん?」
「いや、まさかな………」
目を細めてカイトは出入り口へと足を向ける。こういう時のカイトは嫌な予感を覚えた時にする仕草であり、希もそれに従うように後を追った。
そして、カイトの嫌な予感が希にもはっきりとわかった。
開きっぱなしにしていたはずの出入り口の扉が閉じられてしまっていたのだ。
カイトは扉に手を掛けて開けようとする。が、外側から鍵が掛けられてしまっているのか開かず、カイトは顔を顰める。
「………おい、ちゃんと通達はしといたんだろうな?」
「カイトと2人っきりになりたいからって、学校ではせぇへんよ。帰れば好きなだけ出来るし」
「……………勝手に言っていろ」
こちらを顧みずに告げたカイトは、無理矢理にでも開けようとするもガタガタと震えるだけで、その分他の所が軋むだけだ。
「無理したら他が崩れるとかないかな………」
「早くしなけば特売に間に合わなくなる」
どれだけ特売が気になるというのだろうか、とは言えない。それでかなり家計に助けられている希である。
しかし、カイトは何かさっさと終わらせたい時、強行手段に出る事がある。
例えば、今のように扉を蹴り破ろうと構えていたり、など。
「って、カイト! いくらなんでもそれはアカンて!」
もし崩れたりでもしたら自分達が下敷きになってしまう。それこそ大問題だ。
こういう時の携帯電話やインベスなのだが、生憎とロックシードと共に外に置いた制服の中であり、カイトも同様のようである。
「助けを待つしかないね」
「……………ちっ」
面倒そうに舌打ちをしたカイトは扉から離れると、折り畳まれているマットに登り寝転がる。
「汚れるで?」
「手持ち無沙汰になった上に、最悪明日の放課後までここに閉じ込められる事になったんだ。服の汚れなど気にしている場合か」
「確かにその通りやけど……もしかしたら外の上着を見て誰かしら気付いてくれるかもしれへんやろ?」
「お気楽だな」
とは言いつつも、立っているのも疲れるのでマットの傍に腰を下ろした。
「…………そういえば、あの時もこんな雨の日やったよね」
「………………そうだな」
希が語り掛けると、静かに返答がある。
まだ、それほど前ではないはずなのに、もう随分前の事のように思える。
それはきっと、それからの毎日が楽しくて愛しいからだろう。
だからこそ、怖い事もある。
それはいつか、この毎日が終わってしまう事だ。
スクールアイドルμ'sの為に集った仲間達。しかし、それは決して永遠ではない。学生である以上、終わりというものは訪れる。
わかっているからこそ、今を大切に過ごしたい。
だけど、それでも。
その時が来ると思うと、わかっていても来ないで欲しいと願わずにはいられなかった。
「……………何を怯えている?」
そんな気配が伝わったのか、カイトが呟く。
「…………カイトは終わりを思った事ってある? 卒業して、皆それぞれの道へ行き、楽しい今が終わってしまうその時を」
そう言っておいて、カイトの返答は決まっているのだろう。
くだらない。
カイトは細字にこだわらない。いくらどれほどがあろうと、己の運命に屈したりは絶対しない。
「ごめんな、こんな弱々しい…………」
「お前は強い」
後ろで服が擦れる音がした。カイトが起き上がったらしく、希が顔を上げようとした時。
そっと、頭を撫でられた。
「お前はこの学校の為に、μ'sの為に裏で動いていた。それはμ'sになってからも変わらない………誰かに託す、という事は並半端な覚悟では出来ない事だ。それをしたお前は強い」
らしくない、と思っているのだろうか。カイトの声色はほんの少しずつ上擦っており、照れているという事がはっきりと伝わってきた。
「だから、たまには弱音を吐いたって構わないだろう。それを受け止めるくらい、オレでも出来る」
そう言ってカイトは希の頭をそっと抱き寄せた。耳に嫌でも聞こえるのは、カイトの強い鼓動の音。
ホント、卑怯やわ。
「弱音を吐く事が弱さではない。泣いたとしても、転んでも、それでも立ち上がる………それが本当の強さだ」
「カイト………」
そっと、希はカイトの手を握る。拒絶されるかと思っていた絆は、思っていた以上に受け入れてくれていた事が嬉しかった。
そっと顔を上げれば、そこにはカイトの顔。
自然と、希は顔に近づいて行く。
それをぶっきら棒な少年は受け入れる。
そして、互いの距離が縮まっていき。
ガララ、と扉が開かれる音で近付いていた距離が止まった。
2人はそちらへ目を向ける。
そこには、表情がないはずなのに気まずそうに固まっているインベスがいた。
どうやらカイトのピンチを察して、ロックシードからの指示なく自らクラックを潜ってやだて来たらきい。
「さ、散々やったねぇ」
「…………フン」
見事に土下座をするインベスをロックシードで還し、カイトは腕を組む。
体育倉庫の扉に鍵を掛けたのは、たまたま通り掛かった生徒だった。部活動には参加しておらず、忘れ物を取りに戻ってきて開いている事に気付いたという。
鍵自体は南京錠の為、掛けるだけなら誰でも出来るのだ。もっとも、インベスによって鍵自体壊されたので近々改修が入るらしい。
書類を職員室に提出し、2人は帰りの身支度をしてから下駄箱で合流した。
「わっ、まだ雨強いなー」
以前として強く振り続ける雨に、希は何とも言えない顔をする。
が、カイトは雨に構わず歩き出した。傘も差さずに。
「カイト、傘は?」
「ない」
短く答えるカイトに、希は仕方ないなぁと思いながら傘を開いて、ぎゅっとその腕に抱き着いた。
「………おい」
「風邪引いたら大変やろ?」
希がちらっと舌を見せておどけてみせると、カイトはフンと歩き出す。
しかし、その歩みは自分勝手なものではなく、希が付いてこれるように合わせたものだった。
降りしきる雨の中を2人は歩く。
「特売、逃したな」
「なら、たまには外食なんてどうや?」
「焼肉、とか言い出すなよ?」
「おっ、女の子に向けてなんて言葉を…………」
1つの傘に2人の影が交じる。
それを雨に打たれる紫御殿は見つめている。
込められた言葉の通り、変わらぬ想いを願うかのように。
誕生日おめでとう! のんたん!
如何でしたか。自分的には他の方々と比べればまだまだですが、少しは甘目に出来たのではないかと思います。前後左右の展開違くね、などの突っ込みは野暮というものですぜ、旦那。
このお話は本編から独立した形をとっているため、時間系列などは完全に無視しています。
こういうデレ(?)っとしたカイトも悪くないかなーって書きながら思ってました。いや、それでもラブコメを書くのって本当に難しい。四苦八苦しました。
改めましてのんたん誕生日おめでとう!
さて、お次はにこですがさらに穂乃果も控えているので、こりゃ相当忙しくなりそうですぜぇ…………
戦闘を抜きにした話しがここまで辛いものだとは………ww