ラブ鎧武!   作:グラニ

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先輩禁止、つまり合宿に突入する前にコウタと2年生組の小話をば。

変身しないで日常編、を意識してみたんだけどなー


ところで、まえがきに何を書くべきかぶれっぶれでございます。

では、17話どうぞ。




17話:ELEMENTS~切り札は自分だけ(修羅場を抜けられるか的な意味で)~

前回までのラブ鎧武!は…………

 

 

アイドル研究部に顧問不在問題で、呉島タカトラに顧問になって欲しいと頼み込むμ'sとチーム鎧武。しかし、ユグドラシルと音乃木坂学院の両立すら不安定なタカトラには部活動まで見ている暇はないと一蹴されてしまう。

 

タカトラがかつてチーム鎧武の創設メンバーだあったと知って驚く一同だが、やはり顧問は難しいらしい。

 

どうしたものかと悩む葛葉コウタ達の前に胡散臭い錠前ディーラーが現れ、リミッターが外されたインベスが襲いかかってくるも撃破する鎧武。

 

一方、泥酔したタカトラを引き取った九紋カイトと東條希の擬似夫婦生活で一波乱があったりの呉島ミツザネ達だったが、翌日ユグドラシルよりロックシード輸送車が襲撃されたとの知らせを受ける。

 

泥酔した結果、爆睡中のタカトラの代わりにロックシードを襲撃した錠前ディーラーを確保する為向かうミツザネとカイトはアーマードライダーへと変身。それぞれ新たなアームズ、キウイアームズとマンゴーアームズへと変身し錠前ディーラーを捕まえる事に成功する。

 

それによりユグドラシルに働きかけたミツザネはμ'sに顧問になるよう説得する機会を与えた。

 

9人の女神の強い説得により、タカトラはμ'sのダンスコーチになる事を承諾。

 

より激しく練習に打ち込むμ's達を余所に、もうじき夏が近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮想ダンスパーティー?」

 

『そっ、今度の土曜日の夕方から秋葉原でね』

 

コウタが聞き返すと、電話越しに返答がある。相手はスクールアイドル界のトップ、A-RISEのリーダー綺羅ツバサである。

 

ひょんな事から知り合ったツバサは驚く事に沢芽シティに祖母がいるらしく、同郷のように付き合える相手なのだ。

 

μ'sの練習も終わり、珍しくインベスとの遭遇もないので変身せずに終わったコウタは、そのまま帰宅した。

 

今日は姉のアキラが帰ってくる日なのだ。別段、戻ったこなかった訳ではないがゆっくりと姉弟(きょうだい)で過ごす夕飯は久々なのである。

 

かと言って、コウタに同郷の九紋カイトのような料理スキルはないので、ピサでも宅配で頼もうとネットを開いた所へツバサからの連絡だった。

 

「何でまた?」

 

『コウタ君、前に思いっ切りダンスがしたいって言ってたじゃない?』

 

確かに初めて会った時にそう言ったのは覚えている。オープンキャンパスで失敗しドライバーを没収され、音乃木坂学院に来た意味を失っていた時だ。

 

『今やコウタ君はアーマードライダー鎧武。私もA-RISEのリーダー………お互いに顔割れて普通の大会に出ようものなら大騒ぎになるでしょ?』

 

いや大会ってのは騒ぐものじゃないのかよ、というツッコミはさておいて。

 

コウタはカレンダーを見やる。その日はμ'sの練習は休みで、件のロックビークル講習会があるがそれは午前中の話し。夕方からなら余裕で間に合うだろう。

 

「わかった、せっかくだし出てみるかな」

 

『ホント!?』

 

声だけでも飛び跳ねていそうなツバサに苦笑を浮かべながら、コウタはパソコンのマウスで注文ボタンをクリックする。

 

「その前に集まって適当に合わせるか?」

 

『あーそれ無理。次の新曲に向けての練習があるから………』

 

申し訳なさそうに告げるツバサに、コウタは怪訝そうな表情をする。

 

「そんなんでパーティー出て大丈夫なのかよ? 倒れたりしないだろうな」

 

『息抜きみたいなモノだからいいの! ちゃんとコーチにも許可貰ってるし』

 

「………なら、いいけどよ」

 

コウタは使い終わったパソコンの電源を落として言った。

 

「んじゃ、待ち合わせとかは……」

 

『うん、メールしとく。当日はバラバラで入場さるのが条件だから、合流はそこでね』

 

そう告げてツバサとの通話は切れて、数瞬置かないうちにメールが届く。念のためそのメールを保護してからコウタは携帯電話をテーブルの上に置いた。

 

「さて、 講習会終わったら家で寝るか」

 

簡単に予定を立て、姉が帰ってくる前に風呂に入ろうと立ち上がった時、再び携帯電話が震えた。

 

画面にはμ'sのリーダー、高坂穂乃果と表示されている。

 

「珍しいな」

 

穂乃果からの連絡してくる場合、だいたいがメールである。何でも電話をすると男と電話で家族が弄ってくるらしく、メールで対応していのだ。

 

「もしもし?」

 

『あっ、コウタ!? 今、大丈夫!?』

 

電話だというのに大音量で言ってくる穂乃果。思わず電話から耳を離して苦笑し、ゆっくりと告げた。

 

「穂乃果、声でかい……」

 

『あぁっ、ごめんごめん』

 

言葉の後にガンッ、と打ち付けるような音がしてからの呻き声。思いっ切り謝罪して勢いでどこかに頭をぶつけたのだろう。

 

そんな姿がありありと浮かんできたので、コウタは言う。

 

「大丈夫か? そんな慌てる必要ねぇだろ」

 

『う、うん………実は嬉しい事があって舞い上がっちゃった』

 

「何だ、パン食い放題チケットでも手に入ったか?」

 

冗談で言ったのだが、穂乃果が息を呑んだ。

 

『コウタ君凄い! もしかしてエスパー!?』

当たりかよ、と心の中で突っ込む。

 

『そうなの。3日後の話しなんだけどね。雪穂が友達からペアチケットてま貰ったんだけど、あの子はそこまでパンが好きじゃないからってくれたんだけど………コウタ君、良かったらどうかな?』

 

「…………3日後?」

 

丁度、たった今3日後のスケジュールが入った事に驚くがツバサとの約束は夕方から。

 

『そっ、3日後限定で秋葉原にあるパン屋さんが食べ放題イベントを実施するんだって。前から一度行ってみたかったんだー』

 

うっとりしたような穂乃果の言葉に、彼女が食いつきそうな話題だとコウタは苦笑した。

 

穂乃果の実家は和菓子屋を営んでおり、それ故に和食が食卓に並ぶ日が多い。おやつもだいたいがお饅頭であり、洋食が新鮮に映るらしく自然とパンが好きななったそうだ

 

「お昼時なら予定はないよ」

ロックビークル講習会が終わる頃にはお腹も空いているだろう。コウタ自身もパンは好きので丁度いい。

 

『本当に!? よかったー。じゃあ3日後の12時30分頃に秋葉原でいい?』

 

「わかった。あぁ、午前中はロックビークルの講習会だから伸びないとは思うけど、遅れそうなら連絡する」

 

『はーい。パン食い放題楽しみだなー。じゃ、当日はよろしくね!』

 

穂乃果らしい元気一杯かを残して通話が切れる。

 

午前中はロックビークル講習会。昼間は穂乃果とお食事会で夕方からはツバサとダンスパーティー。

 

美少女とのハードスケジュールだが、午後には時間がある。その間に休めば大丈夫だろう。

 

晩御飯の注文はした。一度風呂に入ってから講習会の準備をしようと、一度リビングを離れた。

コウタはそれほど長湯する方ではなく、短浴である。ここ最近は夏に近付いているからかシャワーで済ませる事も多く、この日もシャワーで適当に済ませて上がった。

 

「さて、後は何か冷凍食品でも………」

 

と、その時携帯電話にメールが届いていた事に気付く。開いてみると穂乃果の幼馴染み、南ことりから送られていたメールだった。

 

内容は、次のライブで着る衣装のイメージが固まってきたからそのアドバイスと買い物の為に付き合って欲しい、というものだった。ひづかはいつも利用している店が割引になる14日だ。

 

コウタの役割はμ'sのステージに関する事でアドバイスする事。ならば断る理由はない。

 

了承のメールを返信した所で、他にメールがないか確認すると、これまた穂乃果の幼馴染みの園田海未から着信のきろくが残っていた。

 

海未はあまりメールや電話をした事はなく、聞いてみれば殿方と個人でやりとりするのは緊張するからというのが理由だ。

 

しかし、そんな海未が連絡をしてくるというのはよほど重要な件なのだろうか。

 

コウタは海未に電話を掛けると3コールほどしてから出てきた。

 

『あっ、こ………コウタですか?』

 

「あぁ、悪い。風呂入ってて出れなかったから」

 

『い、いえっ。夜分にお電話して申し訳ありません!』

 

ガチガチに緊張しているらしく、声が上ずっている海未にコウタは何度目かわからない苦笑を浮かべる。

 

「そんな気負うなって。学校でいつも話してるだろ?」

 

『そ、そうですね………』

 

一旦呼吸を置いて、海未は電話の向こう側で深呼吸する様子が聞こえる。

 

『ごめんなさい、もう大丈夫です』

 

「で、用件は?」

 

『突然なのですが、コウタは山登りに興味はありませんか?』

 

「本当に突然だな」

 

山登りか。コウタは沢芽シティから出た事はなく、そこには山というものが少なかったので登山などした事がなかった。

 

そういえば以前、穂乃果から海未は登山が趣味だと聞いた事がある。

 

『今度の晴れの日、小田原にある山で新しい登山道が開放さらるそうなんです。そこから見える風景がとても素晴らしい、という話しなんです!』

 

いつになく少し興奮気味に話す海未に、コウタは思わず苦笑した。

知り合って数ヶ月。真面目一辺倒の海未が穂乃果のようにテンションが高いというのは面白い。

 

『あっ、ご………ごめんなさい…………』

 

コウタの苦笑が聞こえたのあ、はっとなり冷静になった海未が謝ってくる。それも新しい一面で面白いのだが、気にしてないと言って続けた。

 

「本当に山が好きんだな」

 

『はい! 登山はとても素晴らしいんです! コウタにもぜひ知ってもらいたくて………』

 

まるで宗教団体の勧誘のような言い方だが、海未にはその気がないのは知っている。

 

さて、ここで断ったら海未は消沈するだろう。もちろん、本当に嫌なら断るべきなのだが、コウタは今だ簡単な山登りすらした事がない。

 

『あ、もし迷惑なら………』

 

「あぁ、いや………行くのは問題ないんだけど、俺って登山とかした事ないからさ。どんな服装で行ったらいいかとかわからなくて………」

 

素直に答えると、くすりと海未が笑った。

 

『大丈夫です。今回の山は普通のハイキングコースなので動きやすい格好であれば問題ありませんよ』

 

「本当か? なら参加してみるよ」

 

『本当ですか!?』

 

向こうでパァァと顔が明るくなっているだろう海未は、安堵したように息をついた。

 

『良かったです……突然で断られるんじゃないかと………』

 

「遠慮し過ぎだって。友達だろ?」

 

海未は穂乃果やことりには遠慮なく意見を言えるが、その他のメンバーにはまだ遠慮をしているというか距離を気にしているような気がするのだ。

 

もちろん穂乃果達と知り合って間もないコウタ達を比較するのは、そよそも比較する事自体が間違っているが、海未はもう少し遠慮なく接してくれればと思う。

 

短い期間ではあるが、もう立派な仲間なのだから。

 

『はい……そうですね』

 

しかし、元から人見知りな性格の海未には、特に男子であるコウタには普通に接しろと言っても難しいものがあるのかもはさらないが。

 

この時、コウタはある事を思いついた。

 

「なぁ、どうせなら朝陽を見るのってダメか?」

 

『朝陽……ですか? それだと始発電車でも間に合うかどうか…………』

 

「なら、俺がロックビークル出すからそれで行こうぜ。その方が運賃安く済むだろ」

 

『そ、そんなっ! こちらから誘っておいて………』

 

「気にすんなって。その代わり、朝飯奢ってくれ」

 

軽快な感じで告げたからか、海未はどこか呆れたように笑った。

 

『…………わかりました。では、よろしくお願いします』

 

「ん。じゃ、お休みー」

 

そう言って電話を切ってから、椅子に座って全身の力を抜いたコウタは思わず呟いた。

 

「…………やけにデートに誘われる日だな」

 

向こうにその気はないのだろうが、やはりコウタとしては意識せざる得ない。

 

アーマードライダーとして戦っている点を除けば、コウタとて普通の男子高校生である。女の子にモテたいという願望は当然のようにあるし、常日頃から一緒にいるとはいえ美少女である穂乃果達と2人っきりで遊びに行く事をデートと言わずして何と言うのか。ツンツン頭の説教屋やバッボーイとは違うのだ。

 

少し上機嫌で部屋に戻ったコウタは、ロックビークル講習会で提出する書類を書く為に筆記用具をカバンから出して、

 

卓上カレンダーが目に入った。

 

さて、美少女4人からデートのお誘いを受けてウキウキ気分のコウタだが、もう一度4人との約束を見直そう。

 

まず最初に約束したのはツバサだ。仮装ダンスパーティー開催されるから参加してみないか、という話しだ。

 

その日の午前中はロックビークル講習会があるが、約束の時間は夕方からだから余裕で間に合うだろう。

 

次に穂乃果。パン食べ放題という、実に穂乃果らしいデート内容だ。3日後の昼頃となるとロックビークル講習会が長引かなければ間に合うはずだ。

 

そして、ことり。次のライブ衣装については前前から相談を受けており、だいたいイメージは固まっていたそうなので、あとはそれを現実にするだけだった。

 

いつも利用している呉服店が安くなるのは毎月14日である。ロックビークル講習会が終わってから、一応の時間はある。

 

最後は海未の山登りだ。早朝というのは辛いが、人見知りな海未がせっかく誘ってくれたのだ。ここで見せなければ男が廃る、というもの。だが、場合によってはロックビークル講習会に響いてしまうのてわ早めに下山しなければならなくなるのだが。

 

そう、聡明な方々なもうおわかりだろう。全ての約束にロックビークル講習会が絡んでいるという事に。

 

ロックビークル講習会があるのは次の休みでもある3日後の土曜日の14日なのだ。

 

その事に気付いたコウタは顔を青くし、絶叫を上げる。

 

それは同時に帰ってきた姉、アキラを驚かせるのだった。

 

さぁさぁ、軽い気持ちで約束してしまった葛葉コウタ。見事、女の子達に4股がバレずにデートを成功させる事が出来るのか!?

 

多分、出来ない。(反語)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ミツザネかとアーマードライダー龍玄は唸りながらブドウ龍砲をインベスへと向けて引鉄を引いた。龍玄を始めとした学生ライダー達はユグドラシルの依頼で錠前ディーラー組織がばら蒔いたインベスの掃討作成に参加していた。

 

のだが、思うように戦えない。いや、その原因はわかっている。バロンも、黒影も、グリドンもそれを感じているようで、その原因を睨みつける。

 

「おい、葛葉! いい加減に鬱陶しいんだよ!」

 

インベスを切り払いながら、ただ立っているだけの鎧武へ叫んだ。しかし、鎧武はただ呆然としており、心ここにあらずといった具合だ。

 

ぶちり、と黒影から琴線が切れる音がした。そして、グリドンを見やって顎で何か指示する。

それを受けたグリドンはやれやれと肩を竦めると鎧武に近付き、戦極ドライバーのカッティングブレードに手を伸ばして3回スラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! オレンジ・スパーキング!!』

 

 

「はっ、ちょ………!」

 

ようやく何かされた事に気付いた鎧武が呻く前に、アーマーパーツが果実モードへと戻る。

 

そして、その鎧武の足を掴みあげた黒影は、まるでハンマーのごとくインベス達に向かって振るう。

 

「これがガイムガイムハンマーさ!」

 

グリドンが堂々と叫ぶ技名に突っ込みたい衝動に駆られる龍玄だが、実際にそれくらいダサい攻撃方法だったので何も言えなかった。

 

やがて大爆発が起きてこの場にいたインベスは全滅。

 

爆風からゴミのごとく放り出された鎧武は倒れ込むと、自然と変身が解かれた。

 

戦闘終了を受けてライダー達は変身を解き、コウタの元へと駆け寄る。

 

「っっー……………! おい、初瀬! いくらなんでも酷…………ナンデモアリマセン」

 

抗議しようとしたコウタだが、初瀬の表情に何かを感じ取ったらしく即座に謝るコウタ。

 

「……………で、何に悩んでるんです?」

 

「わ、わかんのかミッチ!?」

 

これでもこの中ならばミツザネが一番長い付き合いだ。昔からコウタは顔に出やすく浮き沈みが激しい。チーム鎧武では有名な話しである。

 

「貴様の反応は明らか過ぎる。大方、高坂達からデートの約束をされたが同じ日に約束してしまった、というものだろう」

 

カイトとしては冗談で言ったのだろうが、コウタがぴしりと固まる。それを見てカイトの表情を固まった。

 

「…………マジかよ」

 

「す、凄いなカイト! お前、エスパーかよ!?」

 

漫画のような悩みをしている事に驚く城之内と、どうしてそうなったと頭を抱えるカイト。

 

「3股か。男の風上にも置けねぇな」

 

「いやいや、初瀬ちゃん? この前、暁ちゃんから聞いたよ。響ちゃんや雷ちゃん、電ちゃんと4股デートしたって」

 

「あいつらは保護者としてついて行っただけだ。あいつらに色目使うとかロリコンじゃねぇか」

 

ふんす、と腕を組んで告げる初瀬。それはともかく、とミツザネは区切って言った。

 

「で、どうしてそうなったんですか?」

 

「いや、それがさ………」

 

つらつらと語り始めるコウタ。それをまとめると。

 

昨日、穂乃果達からデートに誘われたのだがカレンダーを見ずに脳内カレンダーで決定したらあら不思議。全ての約束にロックビークル講習会が絡んでいたのだという。

 

まとめるまでもない情報量だった。

 

「要するに、自業自得だな」

 

「身も蓋もない言い方ですが、そうですね」

 

カイトとミツザネの口撃にぐぅの音も出ないコウタ。

 

「正直に、とまでは行かなくても用事が出来たとかで全ての約束をキャンセルして後日にしたらどうです?」

 

どれか1つの約束を果たそうとすれば、街中でばったり会ってしまう可能性がある。そうなればその気がなくとも修羅場に突入さるのは確定だ。

 

「何言ってやがる」

 

そこで否を唱えたのは、4股デート(本人否定)を成功させた初瀬だ。

 

「全員を笑顔にしてこそ男だろう」

 

さすが野獣、初瀬リョウジ。ワイルドである。

 

「…………だろうな」

 

それに乗るような形で、カイトが言う。その表情はにやりという言葉がピッタリ合いそうな笑顔だ。

 

「いやいや、けどな…………」

 

「ほう、ならば貴様は楽しみにしている高坂達の期待を裏切り悦に浸るのが趣味という事だな?」

 

なっ、とコウタの言葉が詰まる。カイトはわざとコウタが激昴しそうな言葉を選び煽っているのだ。

 

何せ同時に4人とのデートである。誰がどう見ても楽しそうじゃないか。

 

本来ならばミツザネは止めなければならない。尊敬する兄貴分が嵌められようとしているのだから。

 

しかし、忘れてはならない。このミツザネは悪ザネであるという事を。目の前に面白そうな話しがあるのにみすみす逃すのは、それこそ面白みに欠けるというもの。

 

「じょ、上等だよ! やってやる!」

 

コウタを除いたライダー達が細く笑む。

 

計画通り(ゲス顔)。

 

まさしくどこぞの悪い顔をする仲間達に気付かず、コウタは気合いを入れている。

 

ここにまともな人間。例えば呉島タカトラか啼臥アキトがいれば、止めていただろう。

 

否。アキトは逆に煽る側か。

 

「なら、この策士にお任せあれ」

 

くいっ、と眼鏡の位置を直して城之内が告げる。

 

「面白………完璧なデートプランを組んであげるよ」

 

「あぁ、頼むぜ城之内!」

 

もはやノリノリのコウタ。

 

決戦まで2日。こうしてコウタの4股デートステージが上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ陽が登りきっていない早朝。時刻は3時。本来ならばまだ夢の中に旅立っているか、ゲームやテレビにのめり込んでいたがそろそろ寝ようかという時間だ。

 

夏が近付いている梅雨時。外は湿気で蒸すような暑さが続いており、それは夜中といえど例外ではなかった。

 

コウタは動いやすい肌色のチノパンツに灰色を基調として胸辺りに英字プリントされたシャツに、その上からいつもの青い沢芽シティ時代から愛用しているパーカーを着込んでサクラハリケーンを走らせていた。

 

時間帯も時間帯なだけに大きな音を出さないよう低速ではあるが、それでも海未との約束の時間より20分早く到着する計算だ。

 

走らせていると、ひょいっとコウタのパーカーのポケットから妖精サイズのドラゴンインベスが飛び出し、メーターに腰掛けた。

 

「ふぁぁぁ………コウタさん、ちゃんと起きられたんですね」

 

「馬鹿にしてるだろ、ミッチ」

 

そのドラゴンインベスはミツザネのバディインベスであり、彼の持つブドウロックシードを通して通信機のような役割を果たしているのだ。

 

これは高ランクロックシードにある機能で、それぞれのバディインベスを介して会話するシステムである。

 

もっとも、インベスにも疲労というものが存在するので、やはり携帯などの方が利便性は高いのだが、今回のような隠密行動でやり取りするには適しているのである。

 

「じゃあ、ちゃんと発案した通りに動けよ? 葛葉」

 

「あのな、城之内。確かに発案してくれたのは嬉しいけど、実際は単なる山登りだぜ?」

 

一緒にいるのであろう、城之内の声が聞こえてコウタは溜息を吐く。

 

今回の4人とデートして幸せにするのが今回の俺のステージだ作戦を組んでくれたのはミツザネと城之内だが、これは好きな女の子を落とそうというデートではないのだ。なのに2人が立てた作戦は恋愛漫画(しかも女子視点)よろしくの展開ばかりで、正直コウタには実行する気は起きなかった。

 

ひとまず、脳内で今日のスケジュールを確認する。

 

これから朝にかけて海未との登山。これは午前中にロックビークル講習会という予定が最初からあるに加え、本当に早朝だ。穂乃果はもちろん、ことりでさえも行動する事はないはずだ。

 

問題は講習会後、つまり昼の穂乃果との約束から。そこからは当然、人通りが多くなる。それは穂乃果達とて同じであり、もしかしたら秋葉原の街に出てきているかもしれない。

 

ちなみに、その時間に注意を引き付けるようミツザネ達に頼んでみるも、自分の仕出かした事なら自分で責任を持てと言われてしまった。

 

まったくもってその通りなので反論出来ないという事を思い出していると、若干眠気が残っているカイトの声がした。

 

「ならば貴様はどういうつもりで海未と山登りをするのだ、葛葉」

 

眠気が残っているというか、寝惚けているらしい。カイトは今だ3年生組以外のμ'sメンバーを下の名前で呼びはしないのだから。

 

「いやいや、仮にそんな想いがあったら山登りじゃなくてもっと洒落た場所選ぶだろ」

 

対してコウタは十分に睡眠を取ったので、その問い掛けにはっきりと答える。

 

と、園田家が見えてきたところでドラゴンインベスはパーカーのポケットへと潜り込んだ。

 

すでに園田家の入口には山登の格好をした海未が待ち構えており、夜中であるはずなのにその佇まいに眠気は一切感じられず、まるで戦に赴くかのような気配を漂わせていた。

 

スピードをさらに落としてコウタはサクラハリケーンを前に停車させ、ヘルメットを取った。

 

「よっ、海未。おはよう……いや、こんばんはか?」

 

「ひゃっ、ひゃいっ!?」

 

緊張し過ぎているのか、海未は顔を赤くしながら肩を釣り上げる。

 

そんな海未の反応に苦笑を浮かべて、コウタは足元に置いてある登山道具に目を落とした。

 

電話ではそれほど道具は必要ないと言っていたのに、その道具はかなり本格的な物だった。四角形のリュックサックの両サイドにはテレビで見た事のある杖のような道具に、ペットボトル。

 

これらを見て、率直に思う。

 

バイク、ミスったかな。

 

「お、おはようございます。こ、コウタ………さん」

 

こけっ、とコウタは思わず転びそうになる。

 

「な、何でさん付け………?」

 

「あっ、いえっ……その……………」

 

これはコウタが思っている以上に緊張しているらしい。

 

「緊張してる?」

 

「うぅ………その、誘っといてアレなんですが、殿方と夜が明けない内に出掛けるなんて………ふっ、ふしだらです!」

 

絞り出すように言う海未に、コウタは困ったように眉を顰めた。確かにまだ夜が明けていない時間帯に未成年の男女が出掛ける事が健全かと言われれば、無理があるだろう。

 

しかし、海未は勿論の事、コウタとて何か疚しい事をしようなどとは一切考えてはいない。

が、元々人見知りで真面目な海未ならば、その考えに思い至ってしまうのは仕方ないだろう。

 

「なら、辞めとくか? 海未が嫌なら無理強いは出来ないし………」

 

そう提案すると、海未はうぅと押し黙ってしまう。

 

しかし、すぐに顔を上げて首を横に振ってくる。

 

「いえ、せっかくコウタが言ってくれたのです。行きましょう」

 

「大丈夫か? 本当に嫌なら………」

 

「大丈夫です! ………迷ってしまって御免なさい」

 

普段の海未らしくない、とは思わなかった。

 

海未は真面目な性格をしているがそれだけでなく、家を見てわかるように大和撫子を体現した少女だ。暗くて見えないが敷地内には道場かまあり、武道に通じているらしい。

 

ともなれば、男女若くして一緒になる事禁ずる、という古風な教えを親から受けていたとしてもおかしくはない。

 

学校では穂乃果達がクッションとなってくれているから多少は会話出来るかもしれないが、2人だけで話すのは今日が初めてだった。

 

「…………なら、とりあえず荷物を荷台に括り付けるか」

 

一旦、サクラハリケーンから降りたコウタは座席下のスペースから固定用ロープと予備のヘルメットを取り出し、海未のリュックサックを荷台に縛り付ける。

 

「だ、大丈夫ですか………?」

 

不安そうにその作業を見守る海未だが、コウタは慣れたように巻いていく。

 

確かに海未のリュックサックはそれなりに大きく、海未の背中と同じくらいありそうだ。しかし、コウタとて様々なアルバイトを経験していない。接客業から力仕事まで何でもごされ、である。

 

「よし、こんなモンか」

 

軽く揺らしてみるもリュックサックはがっちりと固定されており、これならはでに横転などしなければ解けないだろう。

 

「す、すみません……大した装備は必要ないのですが、せっかく新調したので使ってみたくて………」

 

「あー、わかるわかる。新しいロックシード手に入ったらどんなアームズなんだろ、って気になって変身したりするよな」

 

それは違うと思いますが、と海未は僅かに苦笑する。

 

それを見てコウタは笑って言った。

 

「それだよ、海未」

 

「えっ………?」

 

「確かに2人で、しかも夜中に出掛けるのって海未からしたら不純かもしれないけどさ、別に海未に何かしようとかないし。だから、そんな緊張とかするなって………って、俺が言っても意味ないか」

 

緊張させている張本人が言っても逆に緊張させてしまうというもの。

 

しかし、海未はその言葉を聞いて目を瞬きしてから優しく笑う。

 

「すみません、気を使わせてしまって」

 

「いいって、いつも通りいつも通り」

 

そう言ってこうたはヘルメットを海未に渡す。が、海未はヘルメットを見つめて困ったようにコウタを見返してきた。

 

「あの、どのように被れば…………」

 

「あぁ、そうか」

 

出会うまで海未達はバイクとは無縁な生活をしていただろうし、出会ってからもコウタは今まで乗せた事はなかったのだ。

 

海未に渡したヘルメットはコウタが使っているフルフェイス型とは違い、バイザーのないジェットヘルメットといものだ。なので風の影響を直接受ける訳で、運転するならばゴーグル装着が必須だが、運転しないのであれば必要ないだろう。

 

「普通に被って大丈夫だぜ」

 

「そ、そうですか………?」

 

触る事自体が初めてなのか、辿辿しい手付きでヘルメットを被る海未。その仕草が可愛くて、コウタは思わず笑った。

 

「なっ、何ですか!?」

 

「いや、何でもない」

 

素直に可愛くて、と言えば海未の事だ。顔を赤くして思考停止してしまうだろう。

 

あまりここで時間を喰うのもよくないので、コウタはサクラハリケーンに跨ってからヘルメットを被りベルトを締めて固定する。

 

海未もそれに習いベルトを締めて跨ると、コウタの肩に手を乗せた。

 

「…………あの、海未さん。それだと危ないからちゃんと腰に手を回して欲しいんだけど」

 

「えっ!? だ、抱き着けというのですか!?」

 

「いや、そこまでは言わないけど安全の為にだな………」

 

やはり親しんだ相手とはいえ気恥ずかしいのか渋る海未だったが、観念したように手を腰に回す。

 

実はコウタ。2人乗りした事はあるものの、女子と乗った事はないのだ。

 

緊張するな、と言った手前平然を装ってはいるが、内心ドキドキ物である。

 

「んじゃ、出発だ!」

 

「は、はいっ!」

 

アクセルを回し、2人の未成年を乗せてサクラハリケーンは発発進する。

 

目指すは神奈川県八王子市にある八王子山である。

 

ロックビークルの高速道路の走行は法律で禁止されているので一般道を走る事になるが、流石に早朝よりも前の夜中である。走っている車はなく、快適なドライブを体験する事かが出来た。

 

途中、道の駅ならぬコンビニで小休憩を挟みつつ、日の出1時間前には目的の八王子山に到着する事が出来た。

 

「うわ、もうこんなに人がいる………」

 

サクラハリケーンを停車させて駐車場を見回すと、早朝とは思えないくらいの人の数がおり、露店まで出ていた。

 

驚くコウタに対して、海未は慣れた光景なのかヘルメットを取ってサクラハリケーンから降りる。

 

「皆さん、朝陽が見たくて集まったのでしょう。開通した初日の朝陽というのは、格別でしょうから」

 

「へぇ、って事は頑張って一番乗りしないとな!」

 

「コウタ」

 

まるで子供を叱る母親のように、海未は言った。

 

「登山とは競争ではありません。今回の山は比較的簡単な簡単で、ちゃんとした道があります。ですが、楽観してはいけません。巫山戯ていると怪我しますよ」

 

いつも以上に真剣で凄みのある言葉に、コウタは押黙る。

 

「っしゃーっ、一番乗りしてやるぜぇぇぇ!!」

 

「ひゃっはー!!」

 

その時、離れた所。露店の前にいる若い集団から声が上がる。金髪のカジュアルスタイルの若者達はコウタと海未より年上で、片手にはビール缶が握られていた。

 

若手の新社会人というやつか。社会に出て重圧に対する鬱憤を晴らそうとしているのだろう。それにしてはこんな早朝に山などに来ないで街中の方が憂さ晴らし出来そうだが。

 

そんな事を思っていると、突然コウタの頬をパシンッと両手で包み込み、海未が顔を近付けてきた。

 

キスする訳でもなく、しかし寸前ともいうべき距離まで広がる海未の顔に、コウタの思考は止まりかける。

 

「いいですか、決して! あのような振る舞いはしないこと!」

 

「……………はい」

 

辛うじてそう返すと、海未は離れてサクラハリケーンから荷物を降ろし始める。

 

残されたコウタは、何とも言えない気持ちになり思わず顔を顰めてしまう。

 

確かにコウタは海未を含めμ'sメンバーに特別な感情、つまりは恋愛感情を抱いていない。決して彼女達が魅力的ではないという事ではないが、それはある意味でコウタ達が立てた誓いだ。

 

アーマードライダーはスクールアイドル全員に対して平等でなければならない。彼女達に危険が迫るというのなら、それを切り払うのが役目。

 

そして、その為には彼女達に個人的に優劣してはならない。ユグドラシルから言い渡された言葉だ。

 

個人コーチをしている時点でかなり優遇しているから、それ以上に進む訳にはいかない。

 

なのに、だというのに。

 

このお山大好き人見知り大和撫子は、今の行為がどんな意味を持つのか考えていないのだろうか。

 

「多分、考えてないんだろうなぁ………」

 

「何ですか?」

 

リュックサックに固定ロープを仕舞いこんで、こちらを見てくる海未。何でもない、と返したコウタは登山道の入口を見やる。

 

今だに集まった人達はわいわいと賑わっており、登ろうとしない。

 

「もう日の出まで1時間切ってるぜ。登らないのか?」

 

「これだけの人数ですので、恐らく整理券を配っているのだと思います」

 

なるほど、とコウタは頷く。良く見れば市の係員らしき制服を来た者がちらほらと見受けられる。

 

「だったらあの酔っ払い集団をどうにかした方がいいんじゃないか?」

 

と、言っても騒いでるだけで他の誰かに迷惑かけている訳ではないのだから、実質的には無害だから放置されているのかもしれないが。

 

「おや、海未ちゃんじゃないか」

 

その時、海未へ声を掛けてくる男性がいた。海未と同じように登山道具を担いで動きやすい格好で統一された、妙齢の男だ。

 

「和田さん、おはようございます」

 

どうなら海未の知り合いだったらしく、人見知りの海未が頭を下げる。

 

「海未、知り合い?」

 

「はい。父の同級生の和田さん。私に山を教えて下さった方です」

 

「いやぁ、まさか海未ちゃん彼氏さんを連れて山に来るなんてなぁ」

 

海未に紹介されてコウタが頭を下げて軽く解釈すると、和田が爆弾投下。

 

すると、海未の表情が赤くなり、ぼんっ、と爆発した。

 

「なっ、なななな…………!!」

 

「ベタ過ぎる」

 

狼狽えるあまり言葉が出ない海未に、コウタは呆れながら和田を見やる。

 

「和田さんも日の出を見る為に?」

 

「あぁ、せっかくだからね。あっちで整理券配っていたから、まだ貰っていないなら早くした方がいいよ。じゃないと、登っている途中で日の出を見る事になるからね」

 

せっかく日の出を見に来たのに、それは残念過ぎる。

 

海未はまだ復活出来ていないらしく、蹲って悶々と言葉を呟いている為に動けないだろう。

 

「海未、整理券貰ってくるぞ」

 

聞こえているのか聞こえていなのかわからないが、海未にそう言ってコウタは和田に礼してから整理券を受け取る為にこの場を離れた。

 

整理券は思いの外手に入れるのは容易く、係員の話しでは少し早いペースで登れば朝陽には間に合うさうだ。

 

コウタが整理券を受け取って戻る最中、ひょいっとミツザネのドラゴンインベスがパーカーから顔を出した。

 

「凄いね、葛葉。あの距離走れたんだ?」

 

起きているのは城之内らしく、掛けられた言葉に肩を竦める。

 

「休憩ごとに栄養ドリンクがぶ飲みだけどな。ミッチ達は?」

 

「爆睡中。まぁ、呉島のお坊ちゃんに夜更かしは辛かったのかもね」

 

ビートライダーズになって、アーマードライダーとなったとしてもミツザネは優等生らしく規則正しい生活を送っていた。当然、夜更かしなどした事もなく、それは東京に来てからも同じだったようだ。

 

「で、どんな感じ?」

 

「別に。まぁ、何とかいつも通りの関係には戻れたんじゃねぇの」

 

「つまんなっ!? もっと面白い展開期待してたのによ」

 

勝手な事を言ってくる城之内に適当な返事をすると、ふとある一点に目がいった。

 

それは先程まで騒いでいた社会人達が、どう見ても入るな危険を体現しているような柵を乗り越えて山へと入って行ったのだ。

 

「あいつら………」

 

「どうかした?」

 

「城之内、今山に入っていった奴ら、わかるか?」

 

「あぁ、あの酔っ払いどもだろ」

 

コウタの質問に城之内は答える。パーカーの中からドラゴンインベスの顔を出させて周囲を探っていたようだ。

 

抜け目のないやつ、と思いつつも今はそれに感謝した。

 

「ミッチのインベスで追ってくれ」

 

特に意味がある訳ではない。彼らはただ酔っているだけで、かと言って暴れそうにもない。

 

本当にただ気になるだけ。決して監視の目から逃れる為ではない。

 

もちろん、その事も城之内は気付いているだろう。

 

しかし。

 

「わかった。まっ、しっかりやれよ?」

 

城之内は詳しい追求はせずに、ドラゴンインベスをパーカーから下ろしてクラックへと入り込んだ。ヘルヘイムの森から追跡するらしい。

 

監視もいなくなりそれなりに身軽になったコウタは、海未の元へと向かう。

 

戻ると落ち着いたらしい海未かま和田と話し込んでおり、コウタと合流すると先程の事を思い出したのか気恥ずかしいのか目を逸らされる。

 

「ほら、整理券」

 

「あ、ありがとうございます………」

 

目を合わせないで手を伸ばした為、整理券ではなくコウタの手に触れてしまう。

 

すると海未は咄嗟に手を引っ込めてしまい、何とも可愛らしい反応をしてくる。

 

「だから、意識する必要ないだろ。付き合ってる訳じゃないんだからさ………」

 

「うぅ………」

 

コウタの言う通り、恋人ではない。だけどそれはそれ、これはこれ。

 

そう言いたげに顔を赤くしたまま睨んでくる海未に、コウタは肩を竦めた。今まで男子との交流がなかったとはいえ、流石に箱入り娘過ぎるのではないか。

 

「いやぁ、甘酸っぱいねぇ………」

 

そして一連を見て何故かほくほくしている和田。そも、この男が元凶なのだが。

 

結局、整理券はコウタが入るまで預かっておく事にして、このまま一緒にいても海未の妄想が暴走したままな気がするのでしばらく離れる事にした。

 

と言っても、先程の酔っ払い集団に絡まれたりμ's関連を知っている輩が接触される可能性もあるので、なるべく見える範囲で、だが。

 

なので自販機で缶コーヒーを買って、隣のベンチに座って時間まで暇を潰す事になる。

 

「はぁ…………」

 

コウタは襲ってくる眠気と戦いながら、和田と話し込む海未を見やる。

 

スクールアイドルをする時の彼女とはまったく違う、活き活きとした表情は本当に山が好きなのだと思う。

 

恥ずかしがらない、飾らない海未。

 

それと、先程の恥ずかしがる海未と重なる。

 

それはとても可愛く見え、コウタは頬が熱くなるのを感じた。

 

「……………バカが」

 

上がってきた熱を吐き出すようにコーヒーを飲んで、自分を落ち着かせる。

 

アーマードライダーはスクールアイドルに対して平等。特にμ'sとはいつも一緒にいる密接な関係、仲間だ。そんな個人的な感情を抱いてしまっては、今後の活動にも支障が出る。

 

「しっかりしろ、アーマードライダー鎧武!」

 

自分で自分に喝を入れて、コーヒーを飲み干す。それをごみ箱に投げ入れて立ち上がると、海未の元へと戻った。

 

「海未、そろそろ時間だから入口に行こう」

 

「はい、わかりました」

 

だいぶ立ち直ったのか頷く海未を連れて、コウタはサクラハリケーンをロックシードに戻して登山道の入口へ向かう。

 

すでに整理券を手にした登山者達が何人か溢れ帰っており、すでに順番に登り始めていた。

 

「こりゃ凄い人数だな…………」

 

「コウタ、わかっているとは思いますけど」

 

「大丈夫だって。日の出を見るのが目的じゃねぇんだから」

 

もっとも、意識されるよりそうやって口うるさくしてくれる方が接しやすいのでありがたいが。

 

やがてコウタと海未の順番がやって来て、キラキラと目を輝かせて先頭に立って登り始める。

 

海未曰く、今回の登山道はそれほど険しくないとの事だが、それでも鍛えていなければ辛いと感じるほどの斜面だった。

 

整備されているとはいえ山の中を突っ切る訳で、草木特有の匂いがコウタの鼻孔を擽る。

 

登山道自体はそれほど広さはなく、往復の分も含めて2人並んでギリギリ通れるくらいでしかない。さらに追い越し防止の為か中央には一定間隔でロープが伸ばされており、これなら往復者とぶつかる事はなさそうだ。

 

「コウタ、大丈夫ですか?」

 

「このくらい余裕余裕」

 

歩きながらこちらを気にしてくれる海未に返すコウタ。実際、この程度で音を上げてしまってはアーマードライダーもビートライダーズもやってはいけない。

 

「海未こそ、流石に練習してるだけあって余裕そうだな」

 

「ここ以上に険しい山もありますしね」

 

そう答える海未は呼吸も乱れていない。本当に余裕そうだ。

 

「しかし、案外悪くないもんだな。早起きして自然の中を歩くってのも」

 

「そう言ってもらえると誘ったかいがあります。穂乃果も連れてくればよかったでしょうか」

 

やめてくれ、と切実に思うコウタ。それでは計画が壊れてしまう。

 

ふと、海未は息を吐く。それは疲労によるものではなく、何かを決意した為に頭の酸素を入れ替えるような仕草だ。

 

「…………コウタはビートライダーズをやるきっかけは何だったのですか?」

 

「きっかけ?」

 

海未の質問にコウタは昔を思い返す。しかし、いつの間にかビートライダーズとして踊っていたという事を思い出して、その理由が思い出せなかった。

 

「何だっけなー。まぁ楽しそうとかじゃないのかな。けっこう小さい頃からビートライダーズにいたからわかんねぇや」

 

「………それだけ長ければ人前に出る事にも慣れてしまいますよね」

 

どこか憂鬱げに呟く海未を見て、海未が言いたい事が察した。

 

「まだ、慣れないのか?」

 

海未は人見知りだ。初めてのライブでも衣装のスカートに悲鳴を上げたりしたそうだ。

 

出会ってからのライブや練習風景を見ると克服したかのように思えたが、やはりどこかで気恥ずかしさを感じていたのかもしれない。

 

「今回、コウタの誘ったのは相談に乗ってもらいたくて………」

 

「スクールアイドルをやるのが嫌になった?」

 

「そこまでは………ただ、やはりこのままではいけないと思うのです」

 

スクールアイドルは人に見てもらい、注目されてこそだ。それは人見知りにとって辛い状況であり、逃げ出したい気分になるのは仕方のないのかもしれない。

 

「海未は人見知りを直したいのか?」

 

「出来れば……コウタは人前に出ても平然としてそうなので、何かいいアドバイスをくれるかと思って」

 

そう言われるが、コウタは困ったように腕を組んで唸る。そもそも、それは根本的な性格の問題である。コウタは目立ちたがり屋な部分もあるので、海未みたいに悩む事はなかったのだ。

 

少しの間、思案するがまったくいい案が浮かんできそうになかったので首を横に振った。

 

「悪い。何も思い付かないや」

 

「そう、ですか…………」

 

落胆する海未に、コウタは何とも言えない気持ちになった。せっかく頼ってきてくれたのに力になれない自分が悔しくて、そんな顔にさせてしまった事が酷く申しわけない。

 

「……………なぁ、それって弱点なのか?」

 

「えっ?」

 

自然と出た言葉に海未は顔を上げて首を傾げた。

 

「プロのアイドルにだって人見知りだって公言してる人はいるし、ライブや歌がしっかりしていればいいと思うけどなぁ」

 

「そう、でしょうか?」

 

「あぁ。むしろライブはしっかりしてるのにMCはオドオドするって武器じゃないか? そういうギャップに弱い奴多いだろうし」

 

世間的に言うギャップ萌えというものだ。普段は不良ぶっているギャルが家では妹達。そういう一面を見ると「おぉっ」とくるものだ。いや、コウタがそういうのが嫌いではないから言える事だが。

 

「…………コウタも」

 

「ん?」

 

「コウタも、そういうギャップは好きですか………?」

 

どくん、とはっきりとコウタの心臓が跳ねたがった。

 

その言葉は、仕草は、表情は。言葉で表すなら ”やばい”だ。何がやばいのか、どうやばいのか。具体的に表すべき文字は浮かんでこないが、コウタはそれをやばいと感じた。

 

コウタは自身を落ち着かせる意味も込めて目線を外す。とてもじゃないか海未を直視出来そうにない。

 

「おっ、俺の事はどうでもいいだろ! よっ、要するに短所と思っているものだって見方を変えれば長所になるって事だよ!」

 

「…………コウタ、何故目を合わせないんですか?」

 

海未がこちらに顧みながら訪ねてくるが、どういう訳か直視出来ない。直視しようとすると顔が熱くなるのだ。

 

「顔もどこか赤い……まさか具合でも…………?」

 

「ちっ、違うって! 大丈夫、大丈夫だから!」

 

自分でもわかっていないのだが、具合ま悪い訳ではない。海未を心配させない為に大きく息をして、顔の熱を吐き出してみる。

 

幾分か落ち着いたのでコウタと海未は山頂を目指して歩き出す。

 

日の出の時間まで10分を切ろうとした、その時だ。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

前方から男性の叫び声が聞こえ、コウタと海未は顔を見合わせると反射的に中央のスロープを潜り前へと駆け上がる。

そして、そこで見たのはどこから現れたのかイーグルインベスが男性登山者の首元を鷲掴みにしている所だ。

 

「インベスが人を襲っている!?」

 

インベスが人を襲う事はない。暴走していたり何かしらの要因なあれば話しは別だが、そうでなければ命令されても直接手を出す事はないのだ。

 

それは召喚されようとも、野良インベスであったとしても同じのはずだ。

 

なのに。

 

「こいつ………!?」

 

イーグルインベスはコウタの存在に気付いたのか、男性を掴んだまま翼を羽ばたかせ宙を舞うと山の奥へと消えて行く。

 

「待てっ!」

 

「コウタ!」

 

見捨てて置けるはずもなく、コウタはそれを追いかける。海未もそれに続くように走り、道から逸れてしまうがそれほど深い森林ではないので遭難する事はないだろう。

 

大分奥へと進んだ2人は、ばさりと大きい翼の音を聞いてその方向へと走った。

 

そして、そこで目撃してしまう。

 

「コウタ………?」

 

「っ、見るな!」

 

突然、コウタは振り向くと海未の顔を覆い隠すように抱き締めてくる。

突然の行動に一瞬甘い思考に包まれる海未だったが、次に聞こえていた音にそれを否定する。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぉっ!!」

 

明らかに普通ではない叫び。そして続いてくる咀嚼音に、海未の思考がまさかと拗らせてくる。

 

やがて咀嚼音が終わり、コウタと共に音の元凶を見る。

 

そこには身体に赤い液体を被り、契れた衣類を口から下げているイーグルインベスが。

 

それだけで、何をしたのか察してしまった。

「まさか、人を…………」

 

「こいつ、かなりやばいな」

 

先程のような熱に浮かれた顔ではなく、真面目な顔で呟きながらコウタは戦極ドライバーを取り出す。

 

それを見た海未は、慌ててその手に抱き着いて止める。

 

「た、戦うのですか!? 危険です!」

 

このイーグルインベスが異常である事は明らかだ。今までのような相手ではないと強く海未は感じているのだろう。

 

大怪我をする恐れもある。しかし。

 

「ここで俺が戦わなかったらもっと大勢の人達が襲われる。街へ出ないうちに叩くしかねぇ!」

 

そう告げてから戦極ドライバーを装着して、強く海未の肩に手を乗せて真っ直ぐ見つめる。

 

「海未、他の人達を避難させてくれ。真っ先に狙われるとしたら登山者達だ」

 

「ですが………」

 

「俺を信じろって」

 

臭い台詞だが、不安そうな海未を安心させる為に告げる。

 

その時、イーグルインベスが声を上げて襲いかかってくる。それを避けたコウタは海未へ言い放った。

 

「行け! 」

 

「は、はい!」

 

コウタの叱咤に海未はコケそうになりながらも駆けて行く。彼女に任せれば、とりあえず登山者達の避難は開始してくれるだろう。

 

そして、コウタはイーグルインベスを見据える。信じろと言った手前、コウタには無事にあの少女の元へ帰る必要があるのだ。

 

コウタは腰から下げているオレンジロックシードを掴み取ると、開錠する。

 

 

『オレンジ!』

 

 

「変身!」

 

いつもの構えからロックシードをドライブベイにセットし、スライドシャックルを押し込む。

 

 

『ロック・オン』

 

 

機会音声を聞いてかイーグルインベスが火球を吐き出してくるが、それに構わずカッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道オンステージ!!』

 

 

変身の余波は襲いかかってくる火球を弾き飛ばし、コウタはその身をアーマードライダー鎧武へと変える。

 

大橙丸を構えた鎧武は、真っ直ぐイーグルインベスを見据える。

 

敵対行動を取られたイーグルインベスは口元の血糊を拭い、鎧武へと襲いかかる。

 

振り下ろされた翼を大橙丸で弾き、反動を遠心力に変えて回転斬りを放つ。

 

が、イーグルインベスはそれを翼で受け止め、反撃してくる。

 

「何っ!?」

 

装甲から火花を散らしながら鎧武は一瞬怯み、追撃を転がって避けて大橙丸を振るう。今度はイーグルインベスの胸を切り裂くが、それに諸共せず攻撃してきた。

 

「こいつ、やっぱ強ぇ………!」

 

今まで戦ってきたイーグルインベス個体とは逸脱している存在に、鎧武は苦虫を潰したように睨む。

 

人を喰らう。攻撃を防ぐ。インベスにはない行動を取るこのイーグルインベスには、知性がある事は明らかだ。

 

お手伝いさん的な役割を果たしている彼らだが、それはだいたいがオーナーの命令に従っているだけだ。

 

しかし、この野良インベスにオーナーはいない。偶然現れたクラックを通じて出てきただけだ。だからこそ、細かい判断が出来るほどの知性に驚く。

 

無双セイバーを抜刀して大橙丸と連接させ、1対の双刃刀として構える。それが鎧武の最大の兵装なのである。

 

間合いを計るように腰を深く落として、いつでも動けるように構える鎧武。それに対してイーグルインベスは余裕である事を見せつけるように構えず、ばさりと翼を動かす。

 

やがて、一陣の風が走る。それを合図とするように、鎧武とイーグルインベスが走り出した。

 

刃と翼がぶつかり火花わや散らすが、イーグルインベスにダメージを受けた様子はなく、無作法に攻撃してくる。

 

それを裁くと後手に回ってしまい、防戦となってしまう。

 

「くっ………!」

 

思った通りの戦いが出来ずに歯噛みし、鎧武は無双セイバーを振るう。

 

しかし、焦りで動きが乱雑になってしまい、イーグルインベスの攻撃で無双セイバーを手放してしまった。

 

「っ、だぁぁぁぁっ!!」

 

鎧武は無手になった腕を振るい、攻撃をしかける。ついカッとなり冷静さを失ってしまうのが、コウタの悪い癖だ。

 

もちろん、本人もわかっているのだが冷静という言葉が吹き飛んでしまうのだから、どうしようもなかった。

 

「ぐわぁっ!」

 

翼により起こされた風圧で鎧武の身体が浮かび、無防備を晒してしまう。

 

「しまっ………!」

 

鎧武が失態を呪うより早く、イーグルインベスの攻撃が襲いかかる。翼を振るうと羽根が弾丸のごとく吐き出され、鎧武はその全てを身で受け止めてしまった。

 

火花が走り鎧武は吹き飛ぶ。そして、その攻撃により戦極ドライバーからロックシードが外れてしまい、変身が解かれてしまう。

 

地面に転がり倒れるコウタ。その近くへと降り立つイーグルインベスに、コウタは焦りを感じる。吹き飛んだ戦極ドライバーとロックシードはイーグルインベスの後ろ側にあり、再び変身する為には生身でイーグルインベスと対峙しなければならない。

 

それは自殺行為でしかない。が、再び変身しなければ待っているのは死だ。

 

「ピンチみたいだな。もっと根性出さないとやられちまうぞ?」

 

その時、声が響き草を踏む音が聞こえた。同時に朝陽が登り、薄暗かった世界に光が宿る。

 

思わずコウタはそちらへ目を向け、イーグルインベスの注意もそちらに向く。

 

そこにいたのは、1人の青年だった。朝陽の逆光で顔は見えないが、コウタよりも年上でタカトラと同じくらいに見える。上下ジャージ姿というのは山の中では上手く溶け込んでおり、違和感が消えていた。

 

それが逆に可笑しい、とコウタは感じた。この場所は山の中ではあるが、一応立ち入り禁止の区域だ。コウタが言えた物ではないが人が入っていい場所ではない。

 

青年はコウタが落とした戦極ドライバーとオレンジロックシードを拾うと、それをコウタへと放り投げる。

 

「大切な物なら、しっかり持っとけよ」

 

「あ、アンタ一体………!?」

 

イーグルインベスに物怖じせずに近付く青年は、懐からコウタがよく知る物を取り出し腰に装着した。

 

「戦極ドライバー!?」

 

ライダーインジゲーターにはちゃんとライダーの印が刻まれており、それは黒影トルーパーのような量産型ではない。

 

何故、オンリーワンタイプのドライバーをこの青年が持っているのか、などの疑問を浮かぶが青年はロックシードを取り出し、構えた。

 

「変身!」

 

 

『クルミ!』

 

 

クルミロックシードを人差し指と中指を伸ばして握るという独特の握り方で開錠した青年の頭上にクラックが開き、アーマーパーツが召喚される。

 

そして、クルミロックシードを戦極ドライバーのドライブベイにセットし、スライドシャックルを押し込んだ。

 

 

『ロック・オン』

 

 

ギター調の待機音が響き、両手を真横に突き出してから右手で下から突き上げるようにカッティングブレードをスラッシュさせた。

 

 

『クルミアームズ! ミスターナックルマン!!』

 

 

アーマーパーツが青年へと落下して黒いライドウェアが包み込み、アーマーパーツが展開され姿わ表す。

 

「アーマードライダー………!」

 

「ナックル………アーマードライダーナックルってトコだな」

 

そう告げたナックルはボクシングのような構えをすると、イーグルインベスへ走る。

 

イーグルインベスも新たな敵と認識したのかナックルを迎え撃とうと翼を振るう。

 

しかし、ナックルは機敏な動きと反射神経で攻撃が当たるギリギリで屈んで避け、無防備の腹部に専用アームズのクルミボンバーを打ち込む。

 

火花が散ってイーグルインベスが吹き飛ぶ。さらにナックルは追撃するように距離を詰めると、ラッシュのごとく乱撃を放つ。

 

決して小さくないアームズを器用に使い、一撃一撃を入れていく。その攻撃は確実にイーグルインベスにダメージを与えていく。

 

「つ、強い………!」

 

コウタの記憶が正しければクルミロックシードのランクはマツボックリロックシードより少し上程度で、そこから生み出されるパワーはオレンジロックシードと比べて落ちるはずだ。

 

なのに、それを使ってあのイーグルインベスを押しているという事は、少なくともコウタよりも戦闘力が高いという証拠。

 

コウタの戦い方は戦乱で培ってきた経験からなる物だが、基本は素人の喧嘩殺法だ。しかし、ナックルの動きは明らかにその戦い方に特化した物である。

 

「そらよっ!」

 

余裕綽々と攻撃を避けて身を捻り、裏拳を放ちイーグルインベスが吹き飛ぶ。鎧武ではダメージが入らなかったはずの翼はボロボロに砕かれており、ナックルはカッティングブレードを大きな拳で器用にも2回スラッシュする。

 

 

『クルミ・オーレ!!』

 

 

ナックルの両拳にエネルギーがあつまっていき、必殺の力が宿る。イーグルインベスはダメージによる怒りで我を忘れているのか、ナックルへと突撃した。

 

ならば、あとは簡単だ。

 

突撃してくるイーグルインベスに合わせるように、拳を突き出せばいい。

 

「オラァッ!!」

 

タイミングを合わせて気合いと共に繰り出された拳はイーグルインベスを的確に捉え、エネルギーを叩き込む。

 

全身にエネルギーが行き渡ったイーグルインベスは一瞬だけ苦し藻掻くも、力尽きたように倒れ爆散した。

 

コウタは手を顔に翳して爆風から守ると、次に見た時にはナックルの姿が見当たらなかった。

 

「せいぜい気張れよ、若人」

 

ただ声だけ響く。しかし、どこから聞こえているのかわからずコウタは声を張り上げた。

 

「アンタ何者なんだ!? どうして戦極ドライバーを持っている!?」

 

「うーん、オレが何者か……それを知りたきゃ今夜テレビを付ければわかるかもな」

 

「は?」

 

「まっ、そういう事だから。これからも応援よろしくなー!」

 

まるで質問の答えになっていないが、ナックル答える気がないらしい。

 

やがて、声は聞こえなくなり静寂が戻る。この場から去ったらしいが、コウタは助けられたのに礼を言っていない事に気付いてばつの悪い悪そうな顔をする。

 

「何なんだよ、マジで………」

 

そう吐き捨てるコウタだが、彼にその事ばかりに気を取られている暇はない。

 

何故なら、これからあと3人とのデートを何とかしてくぐり抜けなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

葛葉コウタが所有するロックシード

 

 

・オレンジ

・パイン

・イチゴ

・マツボックリ

・サクラハリケーン

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

 

 

「だったら、ラーメン対決だ」

 

突然、デートとはまったく関係ない戦いに巻き込まれてしまうコウタ。

 

 

 

「ったく、少しは海未みたいなお淑やかさってのを身につけろよな」

 

「………何でそこで海未ちゃんが出てくるのさ」

 

 

「だって、せっかくコウタ君が褒めてくれたんだもん。買わなきゃ損だよ!」

 

 

「………仕方ないですね。じゃあ、頑張ってみます」

 

 

自らに湧き出てくる体験した事のない感情に戸惑う3人。

 

 

 

 

「ほぇ?」

 

「えっ?」

 

「ちゅん?」

 

もはや予定調和のごとく合流してしまうことほのうみ。はたしてコウタの運命は!?

 

 

 

ラブ鎧武!

 

18話: ELEMENTS ~未来が終わる場所(バッドエンド的な意味で)~

 

 

 

 

 

 

 




夜勤ならばどれだけ酔っても大丈夫だろう、という持論のグラニです。今回もここまで読んでくださってありがとうございます。

コウタの4股デート編、と言っておきながらデートしたのは海未のみ。構想のきっかけとなったのはアニメP4Gの複数約束掛け持ちですかね。どんどん新たに予定が詰まって行って最終的に破たんしたあちらですが、こちらでは…………?


最後に出てきたアーマードライダーナックル。本来ならアニメ2期くらいに登場させる予定でしたが、ちょっとサプライズ的な感じで。本格的な登場はもっと後の方で…………


さて、次はコウタデート回後半。

はたしてコウタは無事に4股デートをクリアしてみんなを笑顔に出来るのか!?

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