ラブ鎧武!   作:グラニ

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インベス


10年前に発表されたヘルヘイムの森という異世界の住人。南京錠型アイテム:ロックシードによって召喚され、所有者の指示通りに動くお手伝いの妖精のような意味合いが強い。

インベスはただの人形ではなく生物であり、人間から向けられる愛を栄養として糧にしている。そのため、愛をもって接して育む事が常識でありある意味でのインベスとの契約になっている。




1話:アイドル戦極時代 ~果実は頭から被るモノ~

時は平成。

 

徐々に少子高齢化が進み行く日本。その影響は経済のみならず、各教育機関にも及び、生徒数が減ったが為に廃校の道を辿った学校は数知れず。

 

そんな学校が生徒数を確保するにはどうするか。

 

部活動をアピールーーー否。

 

有名大学への進学率をアピールーーー否。

 

校風をアピールーーー否。

 

美味しい学食をアピールーーー否ッ!!

 

否、否、否である。

 

そんなもので学校生活に目を輝かせるのは今の学生ではない。今の学生はゆとり教育で育ち、甘やかされて生きてきた世代なのだ。

 

彼らが欲したモノ。それ即ちーーー

 

 

 

可愛い女の子である。

 

 

 

決して如何わしい意味ではない。しかし、学校に美少年に美少女の先輩がいれば人気が爆発するのは必然。

 

ならば、それをどうやってアピールするか。

 

そうして生まれたのが、学生でありながら人々を笑顔にする存在。

 

スクールアイドルの誕生説と呼ばれるものの1つである。

 

学校ではなく生徒を売りにして人気を集めようと、現代の学校は躍起になっているのだ。

 

かくして、教育機関はアイドル育成としての面も持つようになり、各校人気を取るための活動を開始しているのだった。

 

さながら世はまさしく、スクールアイドル戦国時代!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みたいな感じでOPに突入したら最高だと思うんだ!」

 

朝からバンッと力説のあまりテーブルを叩いてしまったが、自分の考えた構想は幼馴染みの2人には伝えられたはずだ。

 

なのに、どういう訳か2人は顔を引きつらせていた。

 

「……まったく意味がわからないのですが」

 

園田海未はジト目でこちらを睨んで「OPって何ですか、OPって……まったく穂乃果は……」とため息をつく。

 

幼い頃から一緒にいる彼女は、ある意味で一番の理解者と言っていい少女だ。日本語人形のように極めやかに伸ばした髪は美しく、大和撫子という4文字が海未のためにあるのではと思うほど文武両道である。

 

そんな彼女でも理解出来なかったのか、怪訝な目を向けられて高坂穂乃果は腕を組んだ。

 

「えぇ? だから、私達……μ'sのキャッチコピー」

 

当たり前のように言う穂乃果に海未は困ったような顔をした。

 

「いつからそんな物々しい集団になったのですか。甲冑でも着て踊る気ですか」

 

しかしながら、現代の入学事情を表す言葉としてアイドル戦国時代というのはあながち間違ってはいない。

 

事実、入学者数を増やす手段としてスクールアイドルが活用されているのは本当であり、その活動はプロ顔負けと言われているのだから戦と言っても過言ではないのだ。

 

「ことりちゃんはわかってくれたよね!?」

 

海未には通じないと諦めた穂乃果は、もう1人の幼馴染みへ詰め寄る。

 

おっとりとした雰囲気にぱっちりとした大きく可愛らしい瞳をした幼馴染み、南ことりは優しい性格の持ち主だ。故に、海未のようにきっぱりと自分の意見は言えずに、言葉を模索しながら口にする。

 

「えっと、良いと思うなー………?」

 

「ほんと……」

 

「ことり。甘やかすのは穂乃果の為になりません」

 

賛成かと思いきや海未の一言で机に項垂れる穂乃果。ぶぅーと頬を膨らませながら厳しい幼馴染みを見上げ、

 

「何でさー。やっと9人揃って音ノ木坂学院スクールアイドルμ'sとして、本格的に動き出せたんだよ?」

 

穂乃果達が通う音ノ木坂学院が、廃校の危機に晒されていると知らされたのは新年度が始まった直後だった。

 

他の学校と同じように音ノ木坂学院も生徒数が減った事の影響で、あと半年で入学者数が伸びなければ3年後には廃校が決定するのだという。

 

確かに生徒数減の影響は、今年の1年クラスが1つのみというのが明実に現されている。

 

廃校を何とかしようと言い出したのは、母と祖母が揃ってこの音ノ木坂学院出身だった穂乃果だ。

 

様々な問題などと出会して乗り越え、穂乃果達は9人のメンバーを揃えてスクールアイドル『μ's』として活動を開始したのだった。

 

そんな矢先、穂乃果がスクールアイドル戦国時代などと言ってきたのである。

 

「それは今の現状を示す言葉であって、μ'sのキャッチコピーにはなりません。それに、それは皆で考える事です」

 

「でもでもー、個別に考えても悪くないでしょー?」

 

ふと、その時3人の視界に小人のような影が入ってきた。それは教室の窓から入ってきたようで、机の上に着地すると、つの缶ジュースを置いた。

 

小人、というには正直可愛さに欠けている姿だ。小人というより怪物、という表現が正しいソレはついでにつり銭を海未へ差し出す。

 

「あぁ、いつもすみません。ご苦労様です」

 

そう言って海未は恐る事なくつり銭を受け取り、ソレの頭を優しく撫でた。

 

撫でられたソレは照れるように身じろぐと、いつでも呼んで下さいと言わんばかりに敬礼をした。

 

「ふふっ、はい。またお願いしますね」

 

その仕草に可愛らしさを感じて苦笑し、海未は持っていた錠前:ロックシードの掛け金を押し込んで閉じた。

 

するとチャックを開くような音と共に空間にチャックが出現して裂け、ソレは海未だけでなく穂乃果とことりにお辞儀をして裂け目へと飛び込んみ、空間は閉じられて消えた。

 

「海未ちゃんのインベスってお利口さんだよねぇ。いいなぁ」

 

「穂乃果のインベスだって元気で良い子じゃないですか」

 

ソレはインベス。錠前、ロックシードを使う事により召喚出来る存在だ。この世界と隣り合わせの世界、ヘルヘイムの森という世界の住人である。

 

インベスは先程のように人間のお手伝いさんのような役割を果たしてくれる、ある意味でパートナーのような存在だ。

 

10年前。突如として世界中に知らされた隣接する世界とインベス。だが、それらはちゃんと愛を持って接し育めば人類と共存出来るという。何でも、その人間の愛が彼らにとって栄養になるらしい。

 

そのため、インベスには愛を持って接する。それがこの世界の常識だった。

 

「はい、どうぞ。せっかく買ってきてくれたのに温くなってしまってしまってはあの子に申し訳ないです」

 

「そうだね。じゃあ、頂きまーす」

 

ちゃんと自分の分のお金を払い、缶ジュースを受け取る穂乃果とことり。

 

その時、ピンポンパンポーンと校内放送を知らせる音が響き、登校した直後のクラス中の喧騒がぴたりと止んだ。

 

『おはようございます。急な連絡になってしまうのですが、本日は1時間目の授業を中止して、在校生の皆さんに大切なお話しがあります』

 

「あ、お母さんだ」

 

ことりが声に反応した。彼女の母親は音ノ木坂学院の理事長をしているのだ。

 

「大切なお話しって………」

 

この時期に大切なお話しと聞くと思い浮かぶのは廃校の2文字であり、自然と顔を俯かせる。

 

しかし、続けて出された言葉は、まるでそんな顔をしているのを見ているかのようなものだった。

 

『これは本当に大切なお話しです。この音ノ木坂学院を存続させるために………』

 

えっ。

 

誰が零したかわからない言葉を合図に、穂乃果達は顔を上げる。当然ではあるが、そこに理事長はいない。

 

しかし、ことりと似通った顔をした女性が、にこりと優しく笑ったのが見えた。

 

『詳しくは朝礼の時間になり次第、先生方の指示で講堂に集まって下さい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教師の指示にて講堂に集められた生徒達は何事かとざわついていた。こういった講堂を使う集まりは事前に連絡がいくものだったから、余計にざわめきはあった。

 

「何なのかなー、ことりちゃん聞いてる?」

 

「ううん。何も……」

 

穂乃果の言葉の意味にことりも心底わからない、と首を横に振った。

在校生である娘にすら話さない大切な話しとは何だろうか、と穂乃果が首を傾げているとマイクのスイッチが入る音がした。

 

同時にステージにことりの母である理事長の姿が見え、その隣には彼女のインベスが従者のように追従している。

 

中央の壇上まで行くとインベスが理事長に合わせてマイクを調整し、お辞儀をすると黒子のように後ろへ控えた。

 

それを合図に2、3年生は号令もなく立ち上がる。数瞬遅れて1年生が立ち上がり、理事長の礼に合わせて生徒達も礼をした。

 

生徒達の着席を確認して、理事長は旦那に手を置いて口を開く。

 

「皆さん、おはようございます。急な朝礼にてすみません」

 

軽くお辞儀をして、全体を見渡す。

 

「すでに皆さんは知っていると思いますが、我が音ノ木坂学院は廃校の危機に面しています。生徒からも学校存続の声が上がっている事は大変嬉しいのですが、先生方との話し合いの結果……廃校にせざる得ない、という判断に至りました」

 

ざわり、と生徒達がどよめいた。この学校の最高責任者の口から出たということは、ほぼ確定したといってもいいということだ。

 

学校がなくなる。それがいよいよ現実味を帯びてきたことに、生徒達の表情に悲しみが広がっていく。

 

「ですが、生徒の間で廃校をどうにかしようと頑張ってくれている子達が活動してくれて、スクールアイドルを結成した事も、皆さんご存知かと思います」

 

その言葉に、俯いていた穂乃果は顔を上げる。それは自分たち、μ'sのことだ。理事長はことりの母で結成にあたって相談もしたので知っている事におかしい事はないが、このような生徒前で公で言うとは思わなかった。

 

「残念ながら、まだ活動を始めたばかりの彼女たちによって入学希望者数が増える事なく、廃校の意向は撤廃する訳にはいきません」

 

ですが、と区切って理事長は少し言葉を止めて俯く。それはまるで何かに迷っているかのようだったが、やがて決断したように顔を上げた。

 

「我が校にスクールアイドルが誕生した事により、市政より要請がありました。それにより我が校に3人の転入生と、1人の新人教師を迎えることになりました」

 

再びざわりと声上がる。スクールアイドルとは元々、生徒間のみで構成されている。生徒が曲や振付、撮影などを行って教師は極力介入はしない。

 

それがさらに、市政が介入するというのは聞いた事がなかった。

 

「皆さんの驚きと戸惑いは最もです。なので、詳しい説明は直接してくださるすです。では、呉島先生。お願いします」

 

そう言って理事長が下がると、舞台袖で控えていたであろう転入生と教師陣が生徒達の前に現れ、今度は愕然とした声が響き渡った。

 

並んできた3人の影。それは全員、男子だったのだ。

 

生徒らしいのは2人で、1人は未だ幼さが残る黒髪の少年だ。前に通っていた高校の制服を着こんで、爽やかそうな印象がある。もう1人は茶髪であり、どういう訳か不機嫌そうな表情を作っており、学生服というよりもスーツに近い格好で腕を組んでいる。

 

そして、理事長に促される形で壇上に着いた男性は、黒色のスーツ姿に黒髪。しかし、年は20代前半くらいで教師というよりも兄と言った方がいいかもしれない。

 

彼は一礼をしてマイクを手にして、口を開く。

 

「音ノ木坂学院の皆さん、初めまして。ご紹介に預かりました、本日よりこちらで教師をやらせて頂く事になりました呉島タカトラです。何故、スクールアイドルが誕生したら転入生が来なければならないのか。何故、突然イケメンな男性達が現れたのか……疑問には思うでしょうが、しばしご清聴をお願いします」

 

瞬間、誰もが硬直した。

 

確かに現れた男性達はイケメンだ。しかし、それを自分で言うのは少し、というかどれだけ自意識過剰なのだろうか。

 

心がそっと離れている事に気付いたのか、タカトラはギギギッとロボットのような動きで左後ろに立つ爽やか少年を睨む。

 

「…………おい、ミツザネ。こうすれば生徒達の第一印象は一発だと言ったのはお前だったはずだ」

 

すると、爽やか少年はそっぽを向いた。そして、何かに耐えているように肩を震わせていたが、ぶはっと吹き出す。

 

「騙したなミツザネェェェェェェェッ!?」

 

スピーカーが甲高い音を上げてハウリングを起こすと、タカトラは壇上に項垂れる。

 

「…………穴があったら入りたい……」

 

恐らくタカトラの顔は羞恥で真っ赤になっているだろう。対して爽やか少年、ミツザネは面白そうにわらっている。

 

それを見て、思わず穂乃果はくすりと笑ったしまった。失礼だと慌てて口を塞ぐが、それを合図に至る所で微かに笑い声が上がる。

 

それを見てしきにりに笑っていたミツザネは、そっとタカトラの肩を叩く。

 

「ほら、兄さん。皆さん笑ってくれていますし、掴みはバッチリですよ」

 

「ミツザネ。今晩の夕飯覚えておけ」

 

「調子乗りました、ごめんなさい」

 

ミツザネの言葉で立ち直ったのか、一度咳払いしたタカトラはマイクを再び手にする。

 

「失礼、見苦しい所を見せた。ともかく、我々が来た理由を説明させて欲しい」

 

今度は真剣な声色で、緊張も幾分か解れたのかはっきりとしたものだ。自然と笑い声は静まり、誰もが彼に注目した。

 

「まず、最初に説明するべきは、スクールアイドルの誕生で我々が来た、という事だが………諸君は”アイドル狩り”という言葉を知っている生徒はいるか?」

 

その言葉に穂乃果は周囲を見回す。海未やことりとも目を合わすが首を傾げ、他を見てみると丁度μ'sのメンバー、1年の小泉花陽と3年の矢澤にこは知っていたのか驚愕の表情を浮かべた。

 

「知っている生徒はあまりいない、か………」

 

「あ、アイドルの闇討ちなんて都市伝説じゃなかったの!?」

 

ばっと立ち上がって声を荒上げたのはにこだ。彼女と花陽はアイドルオタクのため、そういった情報には詳しい2人が驚くほどに眉唾だったものらしい。

 

「そう、人気が上昇してきたスクールアイドルの練習帰りやプライベートといった時間を襲うという事件がある。公にされてはいないが、それは現実に起こっておりユグドラシル・コーポレーションでも問題視されている」

 

「闇討ちなんて物騒だねぇ…………」

 

「他人事みたいに言っている場合ですか。しかし、それだけ大事になっていれば、警察などが動いてるはずですが……………」

 

穂乃果に呆れつつも、海未は怪訝そうに思う。スクールアイドルうんぬんではなく女子高が襲われる、というのはニュースに取り上げられていてもおかしくない事件だ。しかし、そのような事件は一度も目にした事がなかった。

 

「公になっていない、という点にも理由はある…………諸君も一度は参加した事があるだろう。”インベスゲーム”だ」

 

”インベスゲーム”。

 

インベスを扱った決闘ゲームである。小型のインベス同士を戦わせるものだが、それらは主にアイドル活動においてダンスをする順番を決める際などに行ったりするものだ。勝敗はもちろんインベスによって左右されるのだが、その能力はロックシードのランクによって決まると言われている。

 

穂乃果たちはアイ活上では決闘したことはないが、街中でよく”インベスゲーム”を開催しているのは目にした事はあった。もっとも、穂乃果にとってインベスは一緒に生活していくパートナーなのだから、死なないとわかっていても戦わせるなど出来ないが。

 

「本来、”インベスゲーム”で人に被害が出る事はない………しかし、錠前ディーラーと呼ばれる売人が売る特別なロックシードで召喚されたインベスは実体化し、襲う事が可能となっている。それゆえにアイドルが襲われるという事件が起きているのだ。インベス法案にて、インベスで起きた事件は警察ではなくロックシードを開発しているユグドラシル・コーポレーションが請け負っているため、ユグドラシルの社員が送られる、という事になっている」

 

それは、安全性を考慮したものなのだろう。せっかくスクールアイドルのおかげで入学希望者数が増えたところで、在校生などに危害が加わるのでは無意味だ。

 

「それに伴い、諸君は市政よりランクDのロックシードを与えられているだろうが、ユグドラシルよりランクCのロックシードを配布するので更新を怠らないように。それと、これは自衛手段的な意味合いもあるので、無意味な“インベスゲーム”などは控えるように」

 

穂乃果はふと、自分が持つロックシードを取り出して見つめる。更新、という事は新しいインベスになる、という事にだろうか。

 

「また、諸君らにとってありえないと思うが、ロックシードは正規ルートで販売されているロックシードを使うように。先ほど話したエナジーロックシード……実体化するロックシードを使えばインベスを暴走させる要因になり、大事故を引き起こしかねないからな」

 

そこで一度区切ると、生徒達を見回した。

 

「ここまでで質問はあるか?」

 

「はいっ!」

 

ほぼ咄嗟に、穂乃果は手を上げた。周囲の視線が集まるもライブで慣れた彼女は躊躇い無く立ち上がる。

 

「君は?」

 

「μ'sの高坂穂乃果です」

 

名乗るとタカトラは少しだけ顔色を変えた。

 

「君が、か…… 」

 

「はい。あの、μ'sが結成した事で皆さんが来た、というのは……つまり、私達のせいで共学化になる、って事ですか?」

 

「っ、穂乃果!」

 

思わず海未が袖を引っ張ってくるが、穂乃果は聞かずにはいられなかった。

 

音ノ木坂学院は女子校であり、そこに男子が加わるという子とは共学化を意味する。在校生の中には女子校だから、という理由で入った生徒もいるはずだ。

 

タカトラはその質問にしばらく思案し、口を開く。

 

「確かに、言い方を悪くしてしまえばそうも言える……だが、君は廃校を阻止したくてμ'sを結成したのだろう?」

 

こくりと、穂乃果は頷いた。

 

「ならば、その選択はきっと間違いではない。スクールアイドルのために我々が動く、というのにも給料は発生するちゃんとした仕事だ。君が気にする必要はない」

 

「だけど……」

 

穂乃果が見るのは後ろの2人だ。同い年くらいの彼らは転入生、という事はわざわざ前の学校を辞めてここに来たという事になる。

 

穂乃果のそんな視線に気付いたのか、ミツザネはタカトラに耳打ちした。

 

「兄さん」

 

その意味を察したのか、頷くタカトラ。

 

「そうだな………では何故男子生徒まで転入する事になったのか。元々、この学校の共学化の目処も立っていたからだ」

 

それも初耳だった生徒達が再び、ざわりと騒ぐ。

 

「この音ノ木坂学院には素晴らしい伝統があり、理事長の意向で廃校させないためにも考えられていたものだ。そのため、たまたま機会が重なった彼らを試験的に連れてきた、という事だ。諸君、主に1、2年生が評価し今年末に共学化にするかを判断するそうだ。そちらの話しは私より理事長にしてもらった方がいいだろう」

 

さて、とタカトラは後ろの2人を見やる。

 

「私からは以上だ。ここで彼らに自己紹介をしてもらおう。ミツザネ」

 

タカトラは一旦身を引き、今度はそこにミツザネが立った。

 

「皆さん、初めまして。僕は呉島ミツザネ。こちらのタカトラ兄さんとは兄弟なので、気軽に名前で呼んで頂けるとありがたいです。本当はもう1人男子生徒がいるんですが……」

 

「ふん、どうせあいつの事だ。大方、困った人間を助けて厄介事に巻き込まれているのだろう」

 

「うわぁ。否定出来ないのがまた……」

 

苦笑を浮かべて、ミツザネはスタンドからマイクを外して不機嫌そうな男子に投げ渡す。

 

反射的に受け取った彼はちっ、と舌打ちして話始める。

 

「……九紋カイトだ」

 

それだけ言ってミツザネに投げ返し。また不機嫌そうな顔をするカイト。

「それだけですか?」

 

「オレは貴様らと馴れ合う気はない」

 

「とか言いつつ、1人は寂しいんですよねカイトさん」

 

ぴきり、とカイトに青筋が走る。ピリピリとした空気が漂い始め、2人は互いを向き合う。

 

「貴様。オレを愚弄するとはいい度胸だ……ドライバーなどなくとも貴様には十分なハンデだ」

 

「僕にもドライバーがない事、忘れてません?」

 

そう言ってカイトはバナナのロックシードを、ミツザネはブドウのロックシードを取り出す。どちらも店頭などには置いてないレア物だ。

 

「だから、止めろと言ったはずだ」

 

2人の耳を引っ張って止めたタカトラは、理事長を見やる。

 

「では理事長。後は……」

 

「はい。後はこちらで……」

 

その時、講堂の後ろの方で悲鳴が上がる。

 

振り向くとそこには実体化したインベスが女子生徒を襲おうとしていた。

 

「実体化したインベスだと!?」

 

「くっ……!」

 

一瞬で講堂が悲鳴で埋め尽くされる中、ミツザネは咄嗟にブドウロックシードを開錠し、インベスの近くに自身のインベスを召喚した。

 

ミツザネのインベスは女子生徒を襲おうとしているインベスへ突撃し、動きを止める。

 

「皆さん、避難して下さい!」

 

「こっちです!」

 

理事長ら教師陣はすかさず横の非常扉を開放し、そこから順次生徒達が悲鳴を上げながら逃げていく。

 

穂乃果は視線を実体化したインベスへ向ける。ミツザネが召喚したインベスは通常体ではなく特殊な進化を遂げたものらしく、まるで龍のような姿をしていた。

 

その力は通常のインベスを圧倒し、一方的に攻撃している。もともと、通常インベスは低ランクのロックシードで召喚されたものが多く、ミツザネのブドウロックシードのようなランクが高いロックシードで召喚されたインベスは能力が高い。

 

が、突然背後から襲いかかれ、ドラゴンインベスは倒れ込む。

 

「もう1体……!?」

 

そう、インベスがもう1体。いや、1体だけでなく3体ほど講堂の出入り口から入ってきた。

 

如何に強力なインベスであろうと数の暴力には勝てず、防御を崩され吹き飛ぶ。

 

「まずい……戻って!」

 

旗色が悪くなったのを察したのか、ミツザネはブドウロックシードを閉じてインベスを回収した。

 

標的を見失っていたインベスは玩具を取り上げられた子供のように唸っていたが、やがてこちらを見つけるとゆっくりと近付いてきた。

 

「さぁ、3人も避難しましょう!」

 

「っ、ですが……!」

 

自分達の居場所が蹂躙されていく。そんな穂乃果達の気持ちを代弁するかのように海未が暴れているインベスを睨む。

 

しかし、ここにいても出来る事などない。実体化したインベスが暴走した際はユグドラシル・コーポレーションの対インベス部隊『アーマードライダー』を招集するしかないのだ。

 

しかさは、ミツザネは慌てた様子もなく、むしろ余裕そうに笑って言う。

 

「大丈夫。こういう時の兄さんです」

 

「兄を顎で使う弟、か……」

 

そうぼやきながらタカトラは懐に手を伸ばし、1つのバックルを取り出した。中央になにかを嵌める窪みがあり、右側には刀をイメージしたパーツがある。

 

「そ、そんなんでインベスを倒せるんですか……?」

 

不安そうに言うことりには答えず、タカトラはそのバックルを腰に当てる。するとベルト部が伸びて、腰に巻き付いた。

 

「いいから行け。これは俺の仕事だ」

 

先程の丁寧な言葉よりも少し乱暴な口調は、タカトラという男の本当の言葉なのだろう。

 

ミツザネに急かされるような形で穂乃果と海未、ことりは非常扉から講堂を飛び出す。

 

そんな彼女達の耳に、奇妙な音が響いたが気にしている余裕はなく、4人は走った。

 

その奇妙な音はこんな感じだった。

 

 

 

『メロン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人が離れた事を気配で感じ、タカトラは逃げなかった少年へ言う。

 

「お前も行け。仕事の邪魔だ」

 

「オレは貴様の指図は受けん。それに、気付いているのだろう?」

 

カイトはインベス達を見据えてバナナロックシードを構える。

 

「これは人為的に起こされている。何者かが、意図的にインベスを召喚し音ノ木坂学院を襲撃している」

 

誰かが計画的に行っている、というのは援軍のように駆け付けてきたインベスを見て気付いた。

 

基本的にインベスには知能とはなく、人々が従えるインベスの行動もロックシードを持つ人間の指示を受けて動いているに過ぎない。

 

そして、1度に4体ものインベスを使うという事は誰かが複数人で操らなければ不可能である。

 

それを聞いたタカトラは、尚のこと憤慨した。

 

「わかっているのなら、何故ミツザネに付いていかない。これが囮だというのなら、あちらにも……」

 

「奴らの狙いは唯一のアーマードライダーである貴様をここに引き付けておくためだ。なら、さっさと撃破して進んだ方が早い」

 

それにな、とカイトは区切って口元を凶悪に歪める。

 

「貴様の弟は、なかなか強かだぞ?」

 

「…………ふん」

 

タカトラは懐から自身のロックシードを取り出す。それはメロンの意匠を象っており、左側の開錠スイッチを押し込む。

 

 

『メロン!』

 

 

そんな音と共に頭上でクラックが丸を作るように出現する。空間がぺろんとなるように剥がれ、そこからメロンのようなパーツが出現した。

 

 

「変身」

 

 

短く告げたタカトラはメロンロックシードを天高く放り投げ、落下してきたそれを掴むとベルトの窪み部分にセットし、掛金を閉じる。

 

 

『ロック・オン』

 

 

瞬間、法螺貝のような音が講堂に響く。それはまるで、戦前の武士が己の鼓舞して士気を高めているようだ。

 

タカトラはブレード部分を握り、ロックシードを斬るように動かす。

 

するとメロンロックシードの果実を現す面、キャストパッドが展開される。

 

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天、下、御、免!』

 

 

頭上にあったメロンの果実がタカトラの頭にすっぽりと挟まった。そして身体全身が白いスーツに包まれ、メロンが4方向に割れて鎧となった。

 

それは、白い戦士だ。左手にメロンがモチーフの巨大な盾を所持し、腰には刀のようなものを携えている。

 

アマードライダー斬月。インベスに対抗出来るロックシードの戦士だ。

 

カイトもロックシードを開錠して、インベスを召喚する。

 

「この程度の数、押し切ってやる!」

 

腰に下げた刀:無双セイバーを抜刀し、斬月はステージから舞うように戦場へ突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講堂から出た先はミツザネよりも穂乃果達が先導する形で走っていた。穂乃果達はスクールアイドルであるが故に鍛えているが、ミツザネも意外と鍛えているらしく3人以上に動いていた。

 

「っ、伏せて!」

 

ミツザネは咄嗟に身体を捻ると、曲がり角から飛び出してきたインベスを蹴り飛ばす。巨体なインベスは一度転がってしまえば数分は起き上がれないらしく、先ほどからそれの繰り返しで場を凌いでいるようなものだ。

 

しかし、そのミツザネの機転には穂乃果はこのような状況でも感心せざる得ない。

 

「すごいね、ミツザネ君」

 

「それなりに場数は踏んでるつもりですしね……っと、あそこが集合場所ですか?」

 

ミツザネが指差したのは広い校庭だ。こういった事態が起きた場合、とりあえず校庭に集合するように避難訓練でも指示されていたのだから、皆が集まっているとしたらそこだ。

 

穂乃果達は校庭へ向かって駆け出し、生徒達の人だかりを見つけて笑みを浮かべる。後は教師陣の指示に従うしかないだろう。

 

しかし、そこで穂乃果達は絶望を知る事になる。

 

「なっ……………」

 

絶句。恐怖。そこにはそれが当てはまる光景が待ち受けていた。

 

校庭の半分を埋め尽くさんとするものがあった。人だかりでもなく、インベス討伐部隊でもない。

 

インベスだ。インベスの大軍が校庭を埋め尽くさんと待ち構えているのだ。

 

「穂乃果!」

 

見たことのない状況に絶句していると、生徒達の合間を縫って近寄ってくる6人がいる。μ'sのメンバーたちだった。それぞれが恐怖を抱いた様子だが、平常心を保とうと努力しているようだった。

 

「え、絵里ちゃん。これって…………」

 

「わからないの。私達も生徒達を先導していたら、囲まれていて…………」

 

金髪の3年生、絢瀬絵里は現生徒会長であるがために、教師陣に混じって避難誘導をしていたそうだ。

 

まだ1時限目が終わっていない時間を考えると、全校生徒が登校し終わったのを見計らってインベス達で包囲したと考えた方がいいかもしれない。

 

「僕達を閉じ込める………人質にするつもりか…………?」

 

誰に言うわけでもなくミツザネは嘯き、後ろを見やる。つられて穂乃果も振り向いてみるも、そこには何もない。幸い倒したインベス達はまだ転倒中らしく、追ってくる気配はない。

 

「もう、何なのよー。これ………まさか、これもアイドル狩りのせいなの!?」

 

ツインテールの一見したら中学生に見間違得られそうな女子生徒は列記とした3年生、矢澤にこが声を荒あげる。確かにそう考えるのが合理的な気がするが、ミツザネは首を横に振る。

 

「それはないと思います。アイドル狩りならわざわざこんな大掛かりにしないで下校途中を襲った方が簡単ですから」

 

「ほなら、違う目的があるゆうん?」

 

紫っぽい髪をおさげにして結わっている3年生、東條希が首を傾げる。

 

「うぅ……いくら毎日使い慣れているとはいえ、インベスに囲まれるのはいい気分じゃないよ………」

 

「かよちん………」

 

不安そうに身体を震わすのは1年の小泉花陽であり、その親友の星空凛が身体を抱きしめている。

 

「この状況。ホント、意味わかんない……」

 

うんざりした様子で髪を弄る西木野真姫といった面々を見て、ミツザネは目を瞬かせる。

 

「あの、何と言うか皆さん……随分と余裕ありそうですね。もっと、こう……怖がるとかあると思うんですけど」

 

ミツザネの言う事は最もである。インベスは生活のパートナーであり、それらに囲まれるという事は異常な事態だ。今頃ユグドラシルから対処すべく部隊が動いているはずだ。

 

今日か明日のニュースになりそうな大事件に巻き込まれているというのに、彼女達はまるでその自覚がなさそうである。

 

「えっと、実はね………」

 

「待って下さい。インベス達に動きが……」

 

海未の言葉に一同は目をインベス達へ向ける。

 

インベス達の中央が割れ、そこから中年男性が歩いてきたのだ

 

「あっ、あの人………」

 

「ことり、知っているの?」

 

絵里に頷き、ことりは思い出したように言った

 

「ここ何日か、お母さんを尋ねてくる人。詳しい話しは聞けなかったけど、なんでも廃校後がどうたらこうたらって………」

 

「なるほど。それが今回の騒動の理由ですか……」

 

合点がいったのか、ミツザネは頷くと前へ出ようと足を出した。

 

「何する気?」

 

「相手の目的がわかったんです。後はやる事は簡単です」

 

真姫にそう答えたところで、生徒の前に理事長が出るのが見えた。

 

ミツザネはそれを見て、今度はブドウではない一般に使われているロックシードを取り出し、開錠した。召喚されたのは当然、小型のインベスであり、ミツザネはそのインベスに命を下す。

 

「いつもみたいによろしくね」

 

それだけで通じたのか、小型インベスは頷くとミツザネの肩を伝って跳躍していく。小さい故にどこへ行ったのかわからなくなり、希は首を傾げた。

 

「何をさせる気なん?」

 

「アレを潰すための手段ですよ」

 

「志木議員。これは一体どういう事ですか!?」

 

その時、理事長の声が上がる。振り向くと対話が始まったようだが、理事長の声色には緊張と怒りが混じっており、とても冷静とは思えない。

 

対して志木と呼ばれた男は政府の人間らしく余裕綽綽に煙草を吹かしている。よく見れば襟元にあるバッジは秋葉市の議員である事を示すものだ。

 

「いやいや、南理事長。前からお話しているではありませんか。この学校が廃校したら、この場所に自然レストランを建てる予定だと」

 

「ですから、それは廃校したらの話しで……」

 

「えぇ、そうですとも。だから、音ノ木坂学院は廃校になってもらわないと困るんですよ」

 

瞬間、ぞくりと穂乃果達の背筋が凍った。この男の言っている意味がわからない、誰もが抱いた言葉はソレだ。

 

しかし、ねっとりとした空気を出すこの男の目は本気だ。そのためだけに、この騒動を起こしたのだ。

 

「なっ……貴方は、子供達の居場所を何だと………」

 

「学校なんて他にもありますよ。それに今の在校生が卒業するまでは待つと言っているのです。今すぐ取り壊したいという利益を抑えて待つと言っているんだ。私の情の深さに感謝して欲しいくらいだよ」

 

B級ドラマよろしくの下品な笑いを上げる志木に、理事長は冷静の2文字を捨て去っているようだ。

 

「貴方は……!」

 

「漫画とかでよくありますよね」

 

理事長の怒りを遮る形で、ミツザネがはっきりとした声で告げ、前に出る。

 

理事長は驚いた表情を見せ、志木は怪訝そうに眉を顰めた。

 

「吐き気を催すほどの邪悪……なるほど、こういう屑の事を言うんだね」

 

「なっ、貴様……都議会議員に向かって何という口の聞き方だ!!」

 

「都議会議員が聞いて呆れる。あなたのしている事は私利私欲のために権利を振りかざしているただの脅迫だ! 大量のインベスによる犯罪……ユグドラシルが黙っていると思うのか?」

 

すると、志木はフンと鼻を鳴らす。

 

「ワシを誰だと思っている。そんなモノ、コネでどうにでも潰せる。貴様らも無事に学校生活を満喫したかったら、素直な優等生になる事だな」

 

直後、ミツザネは躊躇い無く駆け出し、志木の顔面にドロップキックをかました。

 

突如かつ武術の心得があるはずのない中年男の肥満体は宙を浮き、吹き飛んだ。

 

「なっ………」

 

「こういう屑の相場って知ってる?」

 

ズボンについた砂を叩きながら、ミツザネは冷たい視線で志木に告げる。

 

「徹底的にボコられて社会的にも終わる」

 

「き、貴様……よくワシの顔を……暴力罪だぞ!」

 

「脅迫罪を現在進行系で行っている奴の台詞じゃないね」

 

今の蹴りで鼻血を出したらしく、だらだらと血を滴らせながら志木は吠える。

 

しかし、ミツザネは意に介した様子はなく、志木が怒り溢れた顔で後ろのインベス達に命を飛ばす。

 

「もういいっ! ここでこの学校を終わらせてやる! やれっ!!」

 

咄嗟に穂乃果達は身構えるが、すぐに異変に気付いた。

 

インベス達がまったく動く気配がないのだ。

 

「…………お、おい貴様ら! 金で雇っているのだからきちんと働け!」

 

志木にとっても不測の事態だったらしく慌てるが、インベス達はうんともすんとも言わない。

 

「ちぃっ……ビートライダーズなんぞに任せたのが間違いだったか!?」

 

 

『メロン・オーレ!!』

 

 

その時、機械音と共に緑色の斬撃が走り、烏合の衆と化していたインベス達を一撃で葬り去った。

 

「ぐおおおっ!?」

 

その余波で志木までもが吹き飛ぶが、それよりミツザネは横に立ち並んだ戦士を見やった。

 

「良いタイミング」

 

「こいつらに何かしたのか、ミツザネ?」

 

白い戦士、アーマードライダー斬月にミツザネは首を振る。

 

「僕は何もしてないよ、兄さん。でも、このインベス達はビートライダーズのものらしいから、さっさと逃げたのかも」

 

「み、ミツザネ君!」

 

ようやくはっとなったのか、理事長がミツザネに詰め寄った。

 

「何て無茶を……もしもがあったらどうするつもりだったんですか!」

 

「あぁいう奴は下手に出たら付け上がります。こちらにはアーマードライダーもいたのだし、強気に出た方が得策かと思いまして」

 

「他の生徒達に何があったらどうするんですか!」

 

それを言われると何も言えなくなる。ミツザネは押し黙り、斬月も理事長に一理あるのか何も言わないでいる。

 

「ミツザネ君!」

 

その時、ことりの叫びでミツザネは咄嗟に振り返る。

 

そこには凶悪そうなインベスが爪をふりあげていた。反射的にミツザネは理事長を押し倒し、斬月はメロンディフェンダーを掲げて爪を受け止める。

 

しかし、その勢いに負け体勢を崩し、もう一方の爪の直撃を受ける。

 

「何っ!?」

 

斬月は無双セイバーを抜刀し、上手く立ち回りながら生徒達から距離を離す。

 

そして、ミツザネは驚いた様子でそのインベスを見る。通常体や自分が使うインベスとは逸脱した姿だ。身体の細部にクリスタルのような意匠に、まさと倒れた志木を見る。

 

その手には今開錠したであろう、クリスタルのような素材で作られたロックシード、エナジーロックシードが握られていた。

 

「やられた……!」

 

エナジーロックシードは通常のロックシードより遥かに強力なインベスを召喚する事が可能であり、実体化した場合はアーマードライダーによる作戦が必要なほどの強さだ。このような混乱時に戦って倒せるほど甘い相手ではない。

 

そして、状況なさらに悪化する。

 

校舎の方で悲鳴が上がり、ミツザネ達は顔を向ける。そこには先ほど転倒させたインベス達が生徒達に襲いかかっていた。

 

当然、斬月は目の前のインベスに集中するため、そちらへ回るアーマードライダーはいない。

 

「っ、僕が時間を稼ぎます! 皆さん、逃げて!」

「いいえ、あなたも逃げなさい。ミツザネ君!」

 

前に出ようとしたミツザネの肩を掴んで制止すると、理事長は自身のインベスを召喚した。

 

召喚されたインベスは当然一般人が遣う通常体であり、同じ通常体であっても複数個相手では勝てない。

 

しかし、そのインベスも時間稼ぎであることを心得ているのか生徒達を庇うように誘導していく。

 

「さぁ、今のうちに……」

 

今は逃げるしかない。ミツザネは悔しげに舌打ちをして穂乃果達と駆け出す。

 

もはや秩序もなく、インベス達の蹂躙をアーマードライダーに鎮圧してもらうしかない。その状況に歯噛みしていたミツザネは、はっとなって気付く。

 

1体のインベスが穂乃果に向かって突進しているのを。

 

「危ない!」

 

ミツザネの叫びに穂乃果が振り向いた時には、すでに目の前にインベスの爪が迫っていた。

 

「ほの………!」

 

叫ぶしか出来ない海未の声が響く。

 

刹那。

 

クラックが突然開き、インベスが穂乃果を突き飛ばして自身の身体で爪を受け止めた。

 

そのインベスは間違う事ない。

 

穂乃果が大切に育てていたインベスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前でインベスが液体を巻散らせながら倒れる。

 

いつも一緒にいてくれて、助けてくれたパートナー。

 

その姿に、穂乃果は目を見開く。

 

「くっ……」

 

それに気付いた斬月は無双セイバーの鍔に備え付けられているバレットスライドを引いて弾を装填し、ブライトリガーを引く。

 

ムソウマズルから弾が飛び出しインベスの注意を引き付け、その間に穂乃果はインベスの身体を抱き上げた。

 

「そんな………なん、で…………!」

 

痛みに堪えるように震わせ、インベスは手をのばす。爪が生えているその手は優しく穂乃果の頭を撫でる。

 

『ホノ……カ………』

 

ぐぐもった声に、それがインベスの声だと気付いた穂乃果は目に涙を浮かべて、その手を掴む。

 

「あなた、喋れて………」

 

『コンナ、僕ヲ一杯愛デテクレテ……アリガトウ』

 

「なに、言ってるの……これからだよ! まだ、助かるよっ!」

 

強く穂乃果が手を抱き締めるのに相反するかのように、インベスの身体が粒子となっていく。

 

インベスは機械ではなく生き物だ。寿命は確認されていないが、インベスゲームを除いた戦闘での絶命はすでに確認されており、粒子となってヘルヘイムの森へ帰るのだ。

 

『次ノ子モ、一杯愛シテアゲテネ……』

 

「いやだ………いやだよ、そんなの………!」

 

『大丈夫………』

 

微かに、インベスの顔が動く。そこは、裏門がある方向だった。

 

『後ハ、オ願イシタヨ……』

 

そして、インベスは完全に粒子となって天へと登っていく。

 

泣きじゃくり項垂れる穂乃果の手には、インベスが残したヘルヘイムの果実が握られていた。

 

「……穂乃果。悲しむより先に避難しましょう!」

 

「急げ! 囲まれるぞ!」

 

生徒達を校外へ逃がしていたカイトの声に、海未とことりは頷き合うと項垂れている穂乃果の両肩を抱き上げた。

 

「穂乃果ちゃん……!」

 

「穂乃果!」

 

穂乃果は涙でくしゃくしゃになった顔で、ヘルヘイムの果実を見つめる。

 

その時、穂乃果の身体を不思議な感覚が走った。空腹という訳でもないし、インベスに襲われていて早く逃げなければならない、というのも理解出来ないしている。何よりこの果実は、大切なあの子が残してくれたものだ。

 

なのに、どういう事だろうか。今すぐにでも、この果実を食べてしまいたいという欲求が溢れて仕方ないのだ。

 

その様子に気付いたミツザネは、はっとなって叫ぶ。

「ダメです! 穂乃果さん、それは……!」

 

ミツザネが手を伸ばそうとした時、エンジン音がその場に響いた。

 

校舎の裏から現れたのはバイクに乗った少年だった。彼はインベスが暴れているというこの状況に臆することなくバイクを走らせて、穂乃果達の近くに停車した。

 

その少年を見て、ミツザネは怒ったような嬉しいような顔をした。

 

「遅刻ですよ。コウタさん」

 

「葛葉。このクソ面倒な時にどのをほつき歩いていた」

 

駆け寄ってきたカイトもどこか嬉しそうな笑みを浮かべて悪態をつく。

 

葛葉コウタと呼ばれた少年はヘルメットを取ると人懐っこそうな笑みを浮かべて謝る仕草をした。

 

「悪い悪い。ちょっと野暮に巻き込まれててな」

 

そう言って周りを一瞥して事態を理解したのか、頷くと懐からタカトラが装着したのと同じ型のドライバーを取り出し、腰に巻き付けた。

 

「戦国ドライバー!? 直ったんですか?」

 

「いや。兄貴の研究室にあった試作品を無断拝借してきた。2人のも手に入ったらよかったんだけどな」

 

そう言ってコウタは、突然の闖入者に止まっていた穂乃果の手を優しく包み込む。

 

「それはアンタが一生懸命育てた子が残してくれたんだろ? なら、大切にしなきゃな」

 

「…………あ、れ?」

 

そこで穂乃果ははっとなり、自分の手にある果実が輝くのが見えた。果実は変質していき、いつも見慣れたロックシードに変化した。

 

「ろ、ロックシードに!?」

 

「まさか、ロックシードはヘルヘイムの果実から出来ているんですか!?」

 

初めて知ったのか、驚く凛と花陽に笑いかけコウタは穂乃果に言う。

 

「悪い。今だけこいつを貸して貰えないか? アンタのインベスの敵討ち。それと、この騒動を止める」

 

穂乃果はロックシードを見つめる。それは手にした事のない、形状からしてオレンジのロックシードのようだ。

 

穂乃果はそれをそっとコウタの手に乗せて、頷いた。

 

「お願いします。この子の想いも……」

 

コウタは頷き返し、斬月を襲っているインベス達を睨む。

 

そして、オレンジロックシードを構えて、高らかに叫んだ。

 

「変身っ!!」

 

 

『オレンジ!』

 

 

開錠とともに頭上に丸い形にクラックが裂け、オレンジのアーマーパーツが出現する。

 

コウタは天高くロックシードを掲げると、戦極ドライバーにセットし掛金を押し込む。その動きは流暢で、慣れ親しんだようだ。

 

 

『ロック・オン』

 

 

その瞬間、法螺貝のような音が響き渡り、その場にいた者の視線を釘付けにする。

 

そして、ブレードでロックシードを斬りキャストパットを展開した。

 

 

『ソイヤッ!』

 

 

アーマーパーツが頭に被り、身体を青いスーツをつつみ込む。鎧が展開され、そこにいたのは1人の武士だった。

 

『オレンジアームズ!』

 

左腰には斬月同様の無双セイバーを引っ提げて、右手にはミカンの果実のような太刀、大橙丸が握られている。

 

「アーマードライダー……」

 

 

『花道オンステージ!!』

 

 

にこの呟きが合図になったかのよに、インベスゲーム達がコウタへ向かっていく。

 

しかし、コウタは動揺する様子もなく冷静に大橙丸を構え、迫り来るインベスを斬り捨てた。

 

まるで時代劇の殺陣のようにくるくると回って倒れ込んだインベスが爆発し、コウタは大橙丸を肩に乗せて告げる。

 

「俺は鎧武……アーマードライダー鎧武」

 

強く刀を握り締め、彼は告げる。

 

「ここからは、俺のステージだ!」

 

駆け出す彼の姿は、まさしく戦場に赴く武士の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

呉島タカトラが所有するロックシード

 

 

・メロン

・ヒマワリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

 

「輪切りにしてやるぜっ!!」

 

インベス達に立ち向かうアーマードライダー鎧武。

 

 

 

『ハローアキバシティの諸君!』

 

謎のDJ番組。

 

 

 

「何故、踊る?」

 

カイトにその理由を尋ねられるμ's。

 

 

 

「その方が面白いからだ」

 

堂々と言ってのけて、スイカロックシードを差し出す男。

 

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

2話:アイドル戦極時代 ~踊る理由~

 

 

 

 




はい。
まさかラブライブ!と仮面ライダー鎧武とのクロス作品となります。

鎧武のような世界の破滅といった絶望よりもラブライブ!のような平和な日常の中にある戦いをそっていきたいと思います。

また、カイトとミツザネが超綺麗な状態です。ちゃんと仲間として協力していくので、テレビではありえない手を取り合う彼らをご覧あれ!


緋弾のアリアWをまったく進めていないのに、この体たらく。

しかし、そちらも並行して頑張って更新していきたいと思うので、よろしくお願いします。



チクタクマンのタグを理解できる方へ。

登場するには登場しますが、決して「そちらの箱庭」を広げる気はありませんのであしからず。



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