ラブ鎧武!   作:グラニ

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どっちかだけなんて認めちゃダメよ。正しいのかもしれないけど、そんなのつまらない。

もっと欲張っていいじゃない!





16話:マイザーズドリーム ~成すべき事と現実の狭間で~

 

生徒会としての仕事で予算をまとめていた絢瀬絵里と東條希は、μ'sが所属するアイドル研究部に顧問が存在しておらず、予算も降りていない事実を知る。

 

このままでは他の部活に対しても示しがつかないということで、九紋カイトの提案のもと

呉島タカトラに顧問を頼む事に。

 

だが、現状多忙を極めるタカトラに顧問をしている暇はなく、断られてしまうμ'sとチーム鎧武。その多忙さを解決するには、錠前ディーラーをどうにかしなければならない。

 

どうしたものかと悩む1、2年生+葛葉コウタの目の前に胡散臭い自称錠前ディーラーが現れる。

 

錠前ディーラーの放ったロックシードによりインベスが発生。コウタはアーマードライダー鎧武に変身し、苦戦するもμ'sの声援とアームズチェンジの多様により撃破するが、錠前ディーラーを逃してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

すでに陽は落ちて夕暮れを飛び越え、月が天に輝いてる時間帯。

ミツザネはぼんやりと月を見上げてると、頬を突つかれて目を向ける。

 

「何、黄昏てるん?」

 

「黄昏るっていう時間じゃないですけどね」

 

希にそう答えてミツザネは踵を返す。そこには今まで堪能していたカラオケ店の入口があり、カウンターではカイトの目付きに店員がビビっており、それを宥める絵里と矢澤にこの姿があった。

 

練習後、夕飯は各自と言われたミツザネはカイトの晩酌にありつこうと考え、ついでにカラオケに行きたいというにこの提案に巻き込まれ、ついさっきまで歌合戦に参加していたのだ。

 

その事を思い返すとつい笑みが零れ、希が不思議そうに首を傾げる。

 

「いえ、まさかカイトさんとカラオケに来る事になるなんて、と思いまして」

 

「前にいた所……沢芽シティでは敵同士だったって言ってたね」

 

希の言葉にミツザネは頷く。

 

「と、言ってもビートライダーズとしては単なるランキング争い………アーマードライダーとなってからはけっこう命懸けの戦いもありましたけど、まぁこうして今は一緒にいられてますしね」

 

「良きライバル、って感じやね」

 

それに対し、ミツザネはどうでしょうと苦笑する。

 

「当時のカイトさんから見て僕は眼中にすら無かったと思いますし………今は、わかりませんけど」

 

「何の話しをしているの?」

 

そこで会計が終わったのか、絵里が入ってくる。

 

「んー、沢芽シティ時代の皆がどんな感じが気になってな」

 

「あ、それ気になる。どうせカイトなんてぶっきらぼうだったんでしょうけど」

 

「いやいや、意外にも爽やかな笑顔でダンスしてたかもよ?」

 

「貴様らな………」

 

勝手な妄想を広げるにこと絵里に、くだらぬと言わんばかりに呆れるカイト。

 

それを見て、ミツザネはつくづくカイトは変わったと思う。そうしたのは、ここにいる3人を含めた9人の女神が短期間で成した事だ。

 

他のチームだったのならば、カイトはここまで協力的になる事はなかっただろう。

 

カイトもまた、弱者として理不尽(きょうしゃ)によって嬲られた立場にいたのだから。

 

「というか、本当にカイトってご飯作れるの?」

 

「作るしかなかったからな。自然と作れるようになる」

 

にこの言葉に、カイトにしては珍しく遠い目をして返す。

 

どういう事だ、という顔をする3人にミツザネが補足を入れる。

 

「カイトさんはお姉さんと暮らしてるんですが、そのお姉さんの家事スキルが壊滅的なのでカイトさんがやらざる得なかったんですよね」

 

驚愕の事実。九紋カイト、姉の存在あり。

 

「カイト、お姉さんいるの?」

 

「ミツザネ、余計な事を……」

 

カイトが睨んでくるのでミツザネは飄々とした笑みで前を歩き、振り返る。

 

「どうせなら皆さんもどうですか? カイトさんの手料理はお世辞抜きで美味しいですよ」

 

「ウチはえぇよ。晩ご飯作らなくて済むし」

 

「私もまぁ、大丈夫だけど………にこは?」

 

「いいわよ、別に」

 

勝手に話しを進めていく4人にカイトは息を吐き、抵抗を諦めたかのようにミツザネの横を通り過ぎる。

 

「いいだろう、貴様達にオレの料理を振舞ってやる。が、場所は呉島家だ」

 

「えー、まぁいいですけど」

 

一瞬、不満を漏らすも従うミツザネはカイトの隣を歩く。それを後ろから付いていく3年生組。

 

途中、スーパーで買い物を済まし、5人は繁華街を通る。

 

明日は一般的に休日という事もあって繁華街には仕事帰りに居酒屋に寄ったサラリーマンなどの姿がちらほらとあり、その中で学生の5人が歩く姿は少し浮いていた。

 

その証拠に歩いているだけだというのに注目してしまい、しまいには酔っ払いにナンパされてしまうという事態に。

 

「へーい、君達可愛いねー。ちょっとこれから………し、失礼しましたー…………」

 

そそくさと逃げていく若いサラリーマンを尻目に、ミツザネは溜息を吐いた。

 

「これで通算17人目………凄いですね」

 

追っ払ったカイトの目付きの悪さに感謝しつつ注目の的である美少女3人を見やると、何とも言えない表情をしている。

 

「スクールアイドルの影響力って凄いのね……」

 

「当然よねー。この宇宙ナンバーワンアイドルにこちゃんにかかればこんなもんよ!」

 

「カイトとミッチがおるのに、何で声掛けて来るんやろ………?」

 

三者三様の反応をしている美少女達に、ミツザネは思わず目を瞬く。もしやこの3人、ナンパされている理由をわかっていない?

 

「あの、3人とも自分がアイドルが出来るくらい美少女だって自覚あります?」

 

ミツザネが尋ねた瞬間。

 

ぼん、と音がするかと思うくらいに一瞬で3人の顔が真っ赤になる。

 

「な、ななな…………!」

 

「な、何言ってるのよ!?」

 

「何故、狼狽える」

 

絵里とにこにジト目を向けるカイト。何も答えない希は俯いてしまい、何やら聞き取れない言葉をぶつぶつと唱えている。

 

「だ、だだだだだって可愛いなんて………!」

 

「可愛さを武器に戦うアイドルが可愛いと言われてどうする」

 

アイドルはファンを魅了してナンボだ。そして、それにはやはりビジュアルは欠かせないものであり、そこに自信がなければアイドルなど出来はしない。

 

「い、いや………その…………」

 

「アンタの口から可愛いなんて言われるとは思わなかったのよ………」

 

恥ずかしそうに目を逸らしながら呟く絵里とにこ。

 

それに対してカイトは何にも思う事はないのか、素っ気なく返す。

 

「事実を事実として言っただけだ」

 

「乙女心がわかってませんねー、カイトさん」

 

「貴様には言われたくないぞ、ミツザネ」

 

「それはごもっともで」

 

ミツザネとしても、女子とまともに接するようになったのは音乃木坂学院に来てからだったりする。

 

当然、チーム鎧武にも女子メンバーいたがちゃんとした付き合いが出来ていたかは怪しいものだ。

 

その時、5人の進行方向を遮るように1人の老人がよろよろと千鳥足で出てくる。

 

「ちょ、あのお爺さん大丈夫かな…………」

 

「単なる酔っ払いだろう。絡むと面倒な事にしかならないぞ」

 

「お前達がーあーまーどらいだーばろんにりゅーげんだなぁ?」

 

ひっく、と肩を揺らしながら話しかけてくる老人に、ミツザネは少し驚く。

 

「僕達を知って………?」

 

「お前達のよーなひよっこをぉ………ライダーとして認めるわけにはーいかん!」

 

急に現れて否定された。カイトは不機嫌そうに眉をひそめ、睨みつける。

 

「何なんだ、貴様は」

 

「ひっくゥ……」

 

老人はカイトの問いに答えない。そのまま踵を返すと千鳥足で、路地裏へと消えて行った。

 

「…………何だったのよ」

 

「さぁ………?」

 

意味がわからない、とにこのぼやきに首を傾げる絵里。さきほど言われた事からは回復したらしく、3人は平常心に戻ったようだ。

 

「おっ、そこにいるのはμ'sじゃないか」

 

再び声を掛けられたので振り向くと、そこにいたのは音乃木坂学院1年担任の大木戸であった。

 

「こんな時間に繁華街を彷徨くなど、褒められた事じゃないぞー」

 

「大木戸先生こそ、宴会ですか?」

 

一番の教え子でもあるミツザネが尋ねると、大木戸はまぁなと頷いてから、

 

「あぁ、そうだ。ミツザネ、悪いんだけどタカトラ先生を引き取ってくれよ」

 

「……………は?」

 

良い予感はしない。

 

大木戸に案内されて入った居酒屋はがやがやと喧騒に包まれており、壁などで寄りかかって泥酔している人が多数いる。

 

そう、目の前で泥酔しているミツザネの兄、タカトラのように。

 

「…………………」

 

あの規律に厳しいタカトラが情けなく泥酔している姿を見て、絶句してしまうμ's3人。

 

流石のカイトも初めてだったのか言葉を無くしており、ミツザネはまたかと言わんばかりに溜息を吐く。

 

「兄さん。芋焼酎飲んだね。昔からアレだけはダメなんだから………」

 

ミツザネは持っていた買い物袋を希に任せると、ブドウロックシードを開錠してバディインベスであるドラゴンインベスが召喚されて、タカトラを抱えるようにして持ち上げる。

 

「お会計は………」

 

「あぁ、次会う時でいいって言っといてよ。ひとまずここは私が持つからさ」

 

豪快に言ってのける大木戸。一部の生徒間ではあるが、この豪快な性格が災いして婚期を逃してしまっているという話しがあるが、もしかしたらそれは本当なのかもしれない。

 

などと言えばぶっ飛ばされる事間違いなしなので胸の奥に仕舞い込み、他の教員達に謝りながら居酒屋を出た。

 

「とてもじゃないけど、このまま家に行くのは無理ですね……ひとまず大通りに出ましょう。絵里さん、申し訳ないんですけどタクシー拾って貰えます?」

 

「いいけど………6人も乗れるかしら」

 

困ったように絵里が見回す。だいたいのタクシーは4人乗りないし5人乗りである。規定数わ超えてしまっては乗車を断られる可能性があった。

 

すると、カイトは希から買い物袋を引き取りローズアタッタカーを開錠してビークルモードは移行させる。

 

「東條、ひとっ走り付き合えよ」

 

「構わないけど………どうするの?」

 

ローズアタッタカーの格納スペースに買い物袋を入れて跨ったカイトは、希へヘルメットを差し出す。

 

「オレと東條は先に呉島家へ向かっている。お前達はタクシーで来い」

 

「…………わかりました。これ、ウチの鍵です。兄さんの部屋と寝室には入らないでくださいね、本気で殺されるんで」

 

ミツザネはそう言いながらカイトではなく希に鍵を渡す。

 

「なんで希なのよ?」

 

「東條がタクシーに乗っては余計に席を取るだろう」

 

「それってウチがふ………あうっ!?」

 

希が言い終わるより先にカイトはアクセルを吹かし、発進してしまう。

 

小さくなっていくバイクを見届けて、にこがぽつりと呟く。

 

「…………助兵衛め」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

ジト目のにこに苦笑するミツザネ。

 

やがて絵里の案内でやって来たタクシーにタカトラを押し込んで、一同はミツザネの家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイトが運転するローズアタッタカーで着いたのは、閑静な住宅街にある一軒家であった。

 

街灯に照らされて外壁などまでははっきりとわがらないが、2階建てのどこにでもありそうな家である。

 

「ここがミッチの家なん? 随分と音乃木坂学院から離れてるけど……」

 

「どうせ近くまでバイク通学だ。大した距離じゃない」

 

ローズアタッタカーのエンジンを停めてカイトはヘルメットを外す。

 

希もヘルメットを外して髪を整えながら、周りを見回す。

もう夕飯時だからか人影は少なく、どこからか美味しそうな匂いが漂ってくる。

 

ぐぅぅぅ。

 

その音で希は顔が真っ赤になり、カイトはふっと笑う。

 

「身体は素直だな」

 

「それ、セクハラやで」

 

そう言い返すもμ'sメンバーの身体をわしわしとしている希が言っても説得力がないのだが。

 

希とカイトは門をくぐり、ミツザネから受け取った鍵で玄関を開ける。

 

「お邪魔しまーす」

 

中に入って電気を付けると、これはまた殺風景な玄関が広がっていた。

 

男の2人暮らしだからそれなりに散らかっているものかと思っていたのだが、余計な物が置いていないようだ。

 

実は希、初めて男友達の家に上がるのだが、想像していた物と違う事に若干驚いてたりする。

 

キョロキョロと物珍しそうに見回す希とは違い、カイトは何度も来ているのか奥へと進む。

 

リビングには食事をするテーブルがキッチンの近くにあり、リビングには寛ぐ用なのかソファーが置いてある。

 

しかし、そこで希は怪訝そうに首を傾げる。ミツザネ達が音乃木坂学院に来てからそれなりに経つというのに、ソファーはまるで新品のように汚れがないのだ。

 

テレビのリモコンも保護用の透明シートが貼られたままであり、あまり使われていないようである。

 

「タカトラはほとんどユグドラシルで寝泊りし、ミツザネも大抵葛葉かオレの家で過ごしたりしている。あまり帰っていないらしい」

 

希の疑問を答えるようにカイトが買った野菜などを取り出しながら言う。

 

「ご両親は海外なんだっけ」

 

「らしいな。オレも詳しく事は知らん」

 

「………カイトのご両親は?」

 

「蒸発した」

 

何気なく聞いたつもりだったのだが、返ってきたのは予想外過ぎる言葉だった。

 

「…………ごめん」

 

「気にするな」

 

短く返すカイトは、本当にどうでも良さげに思っているようだ。

 

希にはずっと疑問に思っていた事がある。コウタは戦極ドライバーの開発者の弟であり、ミツザネはユグドラシル社員の弟だ。

 

しかし、ならばカイトは? 今までずっと家族構成が不明だった彼は、戦っている事を家族の人は知っているのだろうか。

 

そして、知っているのなら、何故止めないのだろうか、と。

 

思いもしない解決に希は何とも言えない気持ちになり、ぼそりと言葉を漏らす。

 

「………なら、まだ両親がいるウチは幸せなのかな」

 

「親に連絡しなくていいのか?」

 

「ウチの親、転勤族やから今は一人暮らしなんよ」

 

がさりと、肉を取った音でカイトが止まる。しかし、それも一瞬の事であり、続けて荷物を出す。

 

「ずっと転校を繰り返してきたから、友達も出来なかった。それが嫌だから無理言って、高校だけは音乃木坂学院に3年通わせてもらってるんよ」

 

つらつらと語る希の言葉に、カイトは言葉を返さない。それが九紋カイトという男であり、わかっているからこそ希も返答を期待してはいなかった。

 

「だから、こうして友達と友達の家で晩御飯とか憧れてたんよ」

 

「…………友達、か」

 

「カイトは嫌? ウチはカイトの事、友達や思ってるよ」

 

その言葉にカイトからの返答はない。という事は肯定と取っていいのだろう。

 

少し前だったのならば憤慨していたのにな、と希は苦笑する。まともな返答はカイトに期待しない方がいい、とわかるようになったのもオープンキャンパス以降ならだ。ある意味で諦めなのかもしれないが。

 

「何作るん?」

 

「大人数に細々としたものを作ってられるか。カレーでも作るぞ」

 

そう言ってカイトはじゃが芋とピュラーを希に差し出す。

 

「一人暮らしをしているなら、カレーくらい作れるだろう」

 

「…………ほな、肉多め希望」

 

「太るぞ」

 

そんなくだらない物言いをしながら、エプロンを着けて調理を始める2人。

 

野菜の皮を剥き、一口サイズに切っていく。

 

そして、カイトはどういう訳か玉葱の一部を微塵切りにすると、一気に火で炒め始める。

 

「カイト、カレーに玉葱の微塵切りは要らんのとちゃう?」

 

玉葱は軽く炒めて煮るものだが、九紋家のカレーは違うらしい。

 

「飴色まで炒めた玉葱はルーにコクを与える」

 

「……………そ、そっか」

 

思わず素で答えてしまうほど、カイトには凄みがあった。

 

何か言うものなら面倒な事になる。カードではなく直感で感じた希はカレーだけでは味気ないので、生野菜のサラダを別で用意して、切ったピーマンを塩とラー油で炒める。

 

「ピーマンか………」

 

少しの沈黙の後、カイトは横目で見ながら呟く。

 

「ピーマン嫌いなん? 食べなアカンよ、ピーマンマンが来るよ」

 

「何だ、それは」

 

結局、出てくる言葉は軽口ばかりで、再び沈黙になった。

 

ただ玉葱とピーマンを炒める音だけが響く。せっかくイケメン男子といるのだから何か会話をするべきなのだろうが、生憎とこの残念イケメンは世間話を嬉々としてするような輩ではない。

 

実のところ、μ'sにチーム鎧武がコーチとして協力してくれるという話しになった夜、タロットで占ってみたのだ。

 

ずばり、μ'sの誰かと恋仲になるのではないか、という点で、だ。

 

その結果は一言で表すなら不明、である。希のカード占いというのは所詮は趣味の範囲でしかないので確率は何とも言えないが、やはり未来の事は誰にもわかりはしないという事だろうか。

 

別段、μ'sといえど年頃の女の子達である。希を含めて恋愛に興味がはさない訳ではない。他のメンバーはわからないが、少なくとも希は彼氏がいたらどんな感じなのだろう、程度の思いはある。

 

しかし、それはその程度の思いであって、今すぐ欲しいと飢えた狼のようなレベルではない。本当に未知の世界の扉を覗き見してみたいくらいの気持ちだった。

 

転入してきた3人はいずれも整った容姿で、所謂イケメンである。転入して間もない期間に何人かの女子生徒から告白された、という話しはよく耳にする。

 

だから、接していくうちにそういう気持ちになるのかな、と思っていたが希の予想に反して、カイト達を異性よりも友達として見ている事に驚いた。

 

確かにイケメンである。壁ドンでされれば顔を赤くして狼狽する事間違いなしではあるが、こうして肩が触れ合うほどの距離にいてもドキドキしないのがその証拠。

 

もっとも、コウタは年に似合わず子供で、ミツザネは可愛い外見とはうって変わって腹黒。カイトに至ってはツンデレコミュ障である。つまり、幻滅ポイントが大き過ぎるのだ。

 

「おい………」

 

希達はスクールアイドル。それなりにに人気が出てきたという事はファンも増えてきたという事であり、恋愛などに現を抜かしている暇はないというにこの口癖は的を得ているだろう。

 

しかし、決意と感情というのは似たようで非なるものだ。どうしようもない時もある。

 

そこまで考えて希は思考に待てを命じる。それでは自分が誰かに恋しているようではないか。

 

違う、そうじゃない。まとめると、恋愛フラグが立ちそうな予感がしたけど、そんな事はなかった、である。

 

「いや、アキト君と凛ちゃんがそうやな………幼馴染みの再会とかもはやていば………」

 

「希っ!!」

 

その時、長い夢から覚めたようにはっとなる。同時に右手小指に熱さと痛みを感じて手を引っ込めた。

 

見れば赤く腫れており、火傷したらしくじんじんと痛みが広がっている。

 

「っ………」

 

「料理中に考え事するな」

 

顔をあげると、本気で怒っているカイトが希の右手を掴んでおり、引き抜いてくれたようだ。

 

「………ごめん」

 

「すぐに冷やすぞ」

 

コンロの火を止めてカイトは蛇口から水を出して希に患部を冷やさせ、冷凍庫から氷を取り出すとタオルに包んで渡してくる。

 

「後はオレがやる。お前はテレビでも見てろ」

 

「うん…………」

 

蛇口を止めてカイトに言われた通り、希は台所から離れソファーに座りテレビを付ける。

 

夕飯時であるからか放送されている番組もほとんどがバラエティー番組であり、家族向けの内容であった。

 

そう思うと、自然とこの言葉が漏れた。

 

「なんだか、ウチら夫婦みたいやね」

 

夫婦で料理して、奥さんが怪我をしたので旦那が代わりに料理する。うむ、実に夫婦だ。

 

しかし、希は忘れていた。目の前にいるツンデレコミュ障残念イケメンがどれだけ初心なのかを。

 

がしゃん、という音を立ててカイトは振り向く。顔は完全に狼狽で真っ赤であり、わなわなと肩を震わす。

 

「だっ、誰と誰が夫婦だっ!?」

 

「いやいや、例えの話しに決まってるやん。相変わらずこの手のネタには弱い万年童貞やなぁ」

 

ピクッ、とカイトの目が明らかに吊り上がる。

 

「………フン。いちいち貴様のピンク発言に付き合っていられるか。そのソファーに寝そべって豚になってしまえ」

 

カッチーン、と希の額に青筋が宿る。

 

「………さっきから聞いていれば………まるでウチがおデブちゃんみたいな言い方止めてくれへん!?」

 

「事実だろうが。大好物焼肉の癖に!」

 

「ウチはおデブじゃない。カイトには刺激的な胸部装甲を持っとるだけや!」

 

「胸部装甲が聞いて呆れる! 装甲と言い張るならばにこ程度になってみせろ!」

 

何よ、何だよ、と先ほどまでの夫婦的な何かは消え去り、希は思わずソファーから立ち上がってしまう。

 

すると勢いに耐えられなかったのかソファーが傾き、希ごと倒れそうになる。

 

「あっ………!」

 

「ちっ………!」

 

再びミスをして倒れ込む希と、舌打ちをしつつも受け止めようとするカイト。

 

そして、間違える事なく希はカイトへと倒れ込んだ。思わず目を閉じて痛みを覚悟するが、倒れ込む瞬間にカイトが庇ってくれたのでそれほど痛みは感じなかった。

 

が。

 

「っっ……ご、ごめんなカイ………」

 

そこまで言いかけて胸部装甲に何かが触れる感触。というか、鷲掴みされている。

 

目を開けてみれば触れ合いそうなくらいの距離にカイトの狼狽した顔。互いに目線を下に持っていくと、カイトの手が見事に希の胸にジャストフィット。否、もはや収まりきっていない。

 

連続のハプニングに普段は飄々としている希の思考も停止した。

 

そして、笑いの神様ならぬハプニングの神様というのはこういう時に限って、容赦してくれない。

 

「はぁー、疲れ………」

 

「兄さん。家に着い………」

 

「もう、タカトラ先生が暴れるら結局狭かっ…………」

 

がちゃりと、到着して家に入ってきた絵里、ミツザネ、にこは表情が固まる。帰ってみたら先に行っていた友達が組み合って倒れており、さらには胸を鷲掴みしているのだ。

 

思考が停止するのも仕方のない事だ。

 

「………………何、してるの………?」

 

呆然となっていたにこの呟きに、はっとなって希とカイトは顔を上げる。

 

そして、まるで止まっていた時が動き出すかのように希とカイトの顔が真っ赤になる。

 

「ご、ごめ………!」

 

慌てて起き上がろうとする希と、鷲掴んでいた手を離すカイト。かなり慌てていたのだろうか、バランスを崩してしまい、離れるどころか希は倒れ込んでしまった。

 

カイトの顔に胸を押し付けるような形で。

 

「ムグゥ!?」

 

「ちょ、カイト! 動かな ………んぁ…………!」

 

「それはにこに喧嘩売ってるの!? 売ってるわよねぇ!?」

 

埋もれたまま喋ろうとするカイトだが、当然言葉にならない。さらにその動きで初体験の刺激が希の胸を襲い、言葉が詰まる。

 

うがーっ、と吠えるにこ。絵里は目を両手で覆いつつ、指の間から希とカイトのやり取りを見ている。

 

そして、ずっと黙っているミツザネは、ぼとんとタカトラを放す。地面に兄を落とすという弟だが、その音で全員の視線が彼へと向けられた。

 

何と言うか、完全にニタァという表情をしていた。

 

「おめでとうございます、カイトさん。これで貴方も晴れてギャグ要員(こちら側)ですね」

 

「ま、待てミツザネ………話しを………」

 

「そ、そうやよ。冷静に………」

 

ただならぬ威圧に、普段の素振りも忘れてカイトと希は離れると正座をする。

 

「ですが………」

 

かちゃりと、ブドウロックシードを取り出すミツザネ。

 

「人の家で乳繰りあうのは非常識ですよねぇ?」

 

一歩前に出るミツザネに、にこと絵里は顔を青くしながら震える。

 

先程まで夫婦のようだなんだのと言っていた空気は吹き飛び、カイトと希は恐怖でガタガタと震え出す。もはや只ならぬハプニングの連続で、普段のキャラは吹き飛んでしまった。

 

「み、ミツザネェェェェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

こうして、沢芽シティから出て初めて九紋カイトは絶叫が響く。

 

ちなみに、ちゃんと回復して一同はカイト特製の玉葱によりコクが与えられたカレーにありつけた。

 

もう1つ、実はタカトラ。落とされた衝撃で一度目が覚めており、その時のミツザネを見てこう思ったそうな。

 

 

俺の弟がこんなに恐ろしい訳がない。

 

 

現実逃避からタカトラの意識はシャットダウン。さらには泥酔効果もあり、その時の記憶は闇に葬り去られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チリリリン、と耳元から響いた音でミツザネは目を覚ました。

 

音の発生源は自分の携帯電話のメール着信音であり、差出人はコウタからだ。

 

上体を起こして周りを見渡せば、久しぶりに戻ってきた我が家の自室である。

 

昨日、μ's3年生組とカイトの夕飯に預かろうとして泥酔したタカトラを引き取り、乳繰りあっていたカイトと希を成敗してからカレーを食べた所までは覚えている。

 

「…………どうしたんだっけ」

 

そこからの記憶がなく、携帯電話を持っで部屋を出る。

 

リビングへと降りる前にタカトラの部屋を覗き見ると珍しく爆睡している兄の姿がおり、今日一日は二日酔いで行動不可能だと推測。もっとも、兄は酒に対して自制出来る人間なので、今日はユグドラシルの仕事はないのだろう。

 

下の階に降りてリビングへ出ると、ソファーにはカイトがだらしなく横になっており、テーブルの上には1枚のメモ書きが。

 

『昨日のカレーはご馳走様でした。途中でミッチもカイトも寝ちゃったから、洗い物だけして帰ります。カレーの残りは冷蔵庫に入れておいたので食べて下さい。では、明日の練習で、また』

 

書き方からして絵里だろうか。

 

「いつの間にか寝てたのかな………」

 

ぼさぼさと後ろ髪を掻きながら、コウタからのメールを思い出し確認する。

 

内容は昨日、ミツザネ達がカラオケを楽しんでる時間帯にコウタ達は何時ものファーストフード店で錠前ディーラーのインベスと交戦。

 

問題はその時、可笑しい琴に気付いたとう。

 

襲ってきた錠前ディーラーはロックシードのリミッターの存在を知っていた。しかし、リミッターを知っている沢芽シティ出身であるはずなのに、鎧武ことコウタを知らなかった。

 

それはつまり、沢芽シティ出身ではないという事。

 

しかし、ならばリミッターの存在を知っているのは何故か。

 

答えは簡単。

 

「ユグドラシル社員………!」

 

つまり、シャットダウンの中に横流ししている者がいる。

 

その時、昨日置いたままにしていたタカトラのカバンから音が聞こえる。

 

ミツザネが中から取り出すと震えていたのはタカトラがユグドラシルの業務で使っている携帯電話だ。

 

それに出てみると雑音が響き、途切れ途切れで言葉が耳に飛び込んできた。

 

『く、呉島主任……………! ロックシード輸送車をインベスが強襲………! 至急応援を………ぐわぁぁぁっ!』

 

社員の絶叫と共に通話は切れ、ミツザネは顔を上げる。あの状態のタカトラでは変身する事はまず不可能だろう。

 

ミツザネはカイトの頭を引張たいて起こす。

 

「カイトさん、起きて下さい! 錠前ディーラーを潰しますよ」

 

「…………寝起きでいきなし何を言うか……」

 

寝惚けているのか欠伸をしてから、カイトはソファーから立ち上がる。

 

「ロックシード輸送車を錠前ディーラーが襲ってるみたいです。兄さんに救援要塞来てますが、出れる状態じゃありません。ここで恩を売って顧問になってもらうよう揺すりましょう」

 

「…………いや本当にお前は寝起きの相手に何を言っている」

 

がしがしと崩れた髪を掻き、カイトは大きく息を吐くと普段のような目付きになる。

 

「が、だいたいわかった」

 

2人は頷き合うと外へ出てロックビークルを起動。ヘルメットを被ってサクラハリケーンとローズアタッカーにそれぞれ乗り込むと、2人はタカトラの携帯電話に送られていたGPSを頼りに襲撃現場へと向かう。

 

現場は秋葉原からかなり離れた神奈川に近い発送工場であり、2人が到着した頃にはすでに何台もの輸送トラックが横転しておら、中から多数のロックシードがばら蒔かれていた。

 

暴れているセイリュウインベスと東京に来てからは初めて見る青い体躯のカミキリインベスだ。

 

そして、それらを指揮するかのように立っている1人の男。アロハシャツにサングラスとチューリップハットという季節感も怪しさも爆発している格好。コウタのメールにあった錠前ディーラーの特徴と瓜二つである。

 

エンジン音で気付いたのか錠前ディーラーは振り向き、ミツザネとカイトはバイクを止めてヘルメットを取る。

 

「学習してきたぜ。呉島主任の弟、呉島ミツザネ……アーマードライダー龍玄にバロンだってなぁ」

 

「やはり、貴方はユグドラシル社員か………」

 

「なるほど。まとめると横領事件だった、という訳か」

 

戦極ドライバーを装着しながらカイトが呟く。

 

「どうして、こんな事を!?」

 

「ストライキみたいなモンだな」

 

一瞬、ミツザネは何を言っているのかわからなかった。ストライキとは待遇改善を求めて起こす運動ではあるが、犯罪に走る事ではないはずだ。

 

しかし、カイトは納得がいったのかなるほどな、という顔をしている。

 

「貴様、地方支部の人間か」

 

「地方の………?」

 

かつては沢芽シティのみに展開していたユグドラシルではあるが、全国にクラックが広がったのを機に全国に事業を拡大し、大企業に発展した。

 

しかし、やはりそこから横領に繋がらなくてミツザネは怪訝そうな顔をする。

 

「本来、ロックシードの入手は沢芽シティで行われていた。しかし、本社が東京に移された事によりロックシードの管理徹底をするようになり、地方への分配は本来の人間が行うようになった」

 

「………そうか。地方にはロックシードが足りていない……」

 

ロックシード事業に限らず、よくある事だ。人が集まる都心部ばかりに目が行ってしまい、地方は疎かになってしまうという全国展開している企業ならばよくある事例。

 

「今ではだいたいの一般人にロックシードは流通しているが、錠前ディーラーを取り締まる側としては必要以上のロックシードがいるからな」

 

一般人のロックシードが使うのは、インベスをお手伝い妖精のように使うからだ。そこにロックシードのランクは関係なく、複数のロックシードを持つ意味もない。

 

しかし、違法者を取り締まるユグドラシル。アーマードライダーには高ランクのロックシードが必要だ。カイトとミツザネの使うロックシードもランクAであり、アーマードライダーの戦力はロックシードによって決まると言っても過言ではない。

 

それが本社の意向で高ランクのロックシードが規制されるという事は、アーマードライダーにとって死活問題だ。

 

「待ってください。それだと錠前ディーラーとして活動する理由がわかりませんよ」

 

「甘い蜜を啜ればそれを啜り続けたいと思う。つまりは、そういう事だ」

 

カイトに言い当てられたらか、錠前ディーラーの顔が歪む。

 

当初は仲間の為だったが、途中からロックシードの生み出す利益に目が眩み目的が変わったという事だろう。

 

「ちっ………ガキだと思ってたが意外に鋭いな」

 

「貴様のような弱者の考得る事など、くだらない事に決まっているからな」

 

そう言ってカイトは戦極ドライバーを装着する。

 

敵意を感じたセイリュウインベスとカミキリインベスはこちらを向いて威嚇の声を漏らす。それに応じて周りにクラックが開き、インベス達が召喚された。

 

ミツザネとカイトを囲むように間合いを詰めるインベス達だが、2人に恐れはない。この程度の恐怖など恐れる理由にはならない。

 

「そんな理由で、横領を…………そして、錠前ディーラーになったというのか…………」

 

「ガキにはわからねぇよなぁ。給料のある仕事なんぞ付かないテメェなんかに………」

 

「黙ってろよ、クズ」

 

震えるミツザネが汚物を見るかのように吐き捨てる。

 

ミツザネは知っている。主要都市ばかりに目が行っている本社の人間に、タカトラが掛け合ってロックシードを回すよう手配したり、部下の黒影部隊を向かわせたり、時間がある時は自ら日本各地へ飛んでいる事を。

 

そんな兄の背中を見ているからこそ、その背中を誇らしいと思っていた。過去に激突したり、後釜だと憎んだりもあった。

 

しかし、その重みを知り、兄の覚悟を知った今だからこそ、憎しみの対象から憧れとなったのだ。

 

怒りで震えていた手を止めて、ミツザネは戦極ドライバーを装着する。

 

「貴方にどんな理由があろうと、誰かが改善しようとしてくれる仲間がいるのに、それを踏み躙ろうとするやり方。僕は断じて許容出来ない!」

 

「うるせぇよ小僧! たかだか十数年しか生きてねぇガキに何がわかるってんだ!」

 

持ち主の怒りが伝わったのか、セイリュウインベスとカミキリインベスが襲いかかる。

 

しかし、それより2人は先にロックシードを開錠した。

 

 

『ブドウ!』

 

 

『バナナ!』

 

 

攻撃を避けながらロックシードをドライブベイにセットし、スライドシャックルを押し込みカッティングブレードをスラッシュした。

 

「変身!」

 

「変身!」

 

 

『ロック・オン。ハイィーッ! ブドウアームズ!龍砲、ハッ、ハッ、ハァッ!!』

 

 

『ロック・オン。カモンッ! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』

 

 

変身の余波でインベス達が吹き飛び、そのままそれぞれのアームズウェポンでインベス達を撃破する。

 

爆炎の中から飛び出したアーマードライダー龍玄とバロンはそれぞれカミキリインベスとセイリュウインベスへと攻撃を仕掛ける。

 

格闘、射撃、槍術。いくつもの攻撃を織り交ぜて果敢に攻めるが、2人は決定的なミスがある事に気付いた。

 

龍玄がブドウ龍砲を撃つが、放たれたエネルギー弾はカミキリインベスの皮膚に弾かれダメージは通らない。

 

バナスピアーもセイリュウインベスに弾かれ、反撃を受けてバロンは吹き飛ぶ。

 

「ちっ……やはり相性が悪いな」

 

舌打ちしながら転がった先で襲いかかってくるインベスを切り払い、撃破していく。

 

2人は鎧武と違ってロックシードを多数所持していない。もちろん同じ戦極ドライバーを使っているので対応はしているが、コウタほど器用ではないので使いこなせる自信がないのだ。

 

戦場において慣れない武器を使うのは死に等しい。かつて言われた言葉であり、それはそうだとカイトも頷いたほどである。

 

無論、それを土壇場でいきなし使ってのけるコウタも凄いが。

 

しかし、かと言ってまったく使えない訳ではない。かつての戦いで使っていたアームズは他にもあるのだ。

 

「うわぁっ!」

 

吹き飛ばされた龍玄は転倒した輸送車にぶつかり、その衝撃で中に残っていたロックシードがこぼれ落ちる。

 

それを見て、思わず龍玄に笑みが溢れた。

 

「カイトさん!」

 

そのうちの1つ、マンゴーロックシードを掴みバロンへと投げた。

 

セイリュウインベスに体当たりで吹き飛ばされたバロンは転がりながら声に反応し、マンゴーロックシードをキャッチする。

 

「久しぶりだな。丁度貴様に会いたかった所だ」

 

「えぇ、今の僕達にはピッタリですよね」

 

バロンの隣に立ち並び、龍玄も拾ったキウイロックシードを見せる。

 

キウイロックシードとマンゴーロックシード。これはかつての戦で使っていた新たなアームズである。

 

しかも、この相手しているインベスは当時、そのアームズで初めて倒したインベスだ。

 

これも運命かと思いながら、2人は同時に開錠した。

 

 

『キウイ!』

 

 

『マンゴー!』

 

 

頭上にそれぞれクラックが裂け、新たなアーマーパーツが出現する。

 

それぞれ今セットしているロックシードを外して、新たなロックシードと入れ替える。

 

 

『ロック・オン』

 

 

「久々に暴れるぞ」

 

「えぇ!」

 

待機音が流れる中、同時にカッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『ハイィーッ! キウイアームズ! 撃輪、セイ、ヤッ、ハァッ!!』

 

 

『カモンッ! マンゴーアームズ!ファイトオブハンマー !!』

 

 

装着していたアームズが弾けるように消えて新たなアームズを纏う。

 

鎧武同様にアームズチェンジした龍玄とバロンは、それぞれアームズウェポンを構える。

 

キウイアームズのウェポン、チャクラムの形をしたキウイ撃輪を構えてカミキリインベスへ突撃する。

 

バロンもアームズウェポン、大型メイスのマンゴーパニッシャーを構えてセイリュウインベスへと迫った。

 

龍玄は大きいキウイ撃輪を振り回し、カミキリインベスを切り裂く。このチャクラムは現代ではほとんどお目にかかる事のない武器であり、その使い方は独特なものだ。

 

龍玄はふと周りに囲まれている事に気が付くと、身体を捻るように回転してキウイ撃輪を投擲する。すると円盤のようにキウイ撃輪は走り、周囲のインベスを一度で撃破した。

 

キウイアームズはブドウアームズに苦手だった多数戦で威力を発揮するアームズなのだ。まさしく今で龍玄が苦手としていた戦闘スタイルをカバーしてくれるアームズである。

 

仲間が撃破された勢いでカミキリインベスが転がり、その隙を逃すまいと龍玄はカッティングブレードを2回スラッシュする。

 

 

『ハイィーッ! キウイ・オーレ!!』

 

 

エネルギーがキウイ撃輪へと集まっていき、龍玄はそれを投げつける。

 

高速回転しながらキウイ撃輪はカミキリインベスへと襲いかかり、何度も斬りつける。そして、止めに頭上から2つのキウイ撃輪が落下し、カミキリインベスは爆発した。

 

戻ってきたキウイ撃輪を掴み、敵を無事に撃破出来た事に安堵した龍玄はバロンを見やる。

 

丁度、バロンも止めに入っており、マンゴーパニッシャーをバットのように振ってセイリュウインベスを吹き飛ばす。

 

「フン」

 

 

『カモンッ! マンゴー・オーレ!!』

 

 

カッティングブレードを2回スラッシュし、エネルギーをマンゴーパニッシャーの先端に集め、そのエネルギーを砲丸投げのように放つ。

黄色いエネルギーはセイリュウインベスを包み込むと持続的にダメージを与え、やがて爆発した。

 

互いに終わった事を確認し、龍玄とバロンは錠前ディーラーを見やる。

 

しかし。

 

「よぉ、お手柄だったな坊主ども」

 

そこにいたのは黒影部隊であり、その中の1人が気軽に手を上げてくる。

 

錠前ディーラーはすでに手錠を掛けられており、黒影によって連れて行かれる所であった。

 

「気付いてたんですか?」

 

「いやいや、輸送車が襲撃されたら支部に連絡来るだろう」

 

笑いながら黒影は周りを見渡す。

 

「で、主任は酒に溺れたと」

 

「えぇ、まぁ………」

 

すでに連絡しておいたので知っている事は可笑しくないのだが、どうもこの年季のいった黒影は企んでいるような気がしてならない。

 

「よしよし………ミツザネ、ちょっと耳を貸せ」

 

言われた通り黒影に近付くと、とある事を持ちかけてくる。

 

それを聞いた龍玄、ミツザネは仮面の下でにやりと笑う。

 

気配でそれを察したらしい、どこか諦めの入ったカイトの溜息が背後で聞こてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、日曜日の練習前の屋上にて。

 

「と、いう訳でアイドル研究部の顧問になって下さるタカトラ先生です」

 

ばーん、とミツザネの紹介にタカトラは納得の行っていないような表情をする。

 

いや、意味わかんねぇんだけど。という目をコウタがカイトに向けると、面倒そうに目を逸らす。

 

「あの、ミッチ………タカトラ先生はご多忙で…………」

 

園田海未が尋ねると、満面の笑顔で頷くミツザネ。

 

「えぇ、そのせいで酒に溺れてしまい業務に支障を出してしまったので、ユグドラシルからしばらくは音乃木坂学院の教師に専念するようにと命令されてしまったんですよ」

 

「労働基準法に違反する、と脅した癖にしゃあしゃあと………」

 

「揺すったのかよ、ミッチ………」

 

大切な事の為ならどんな裏切りも出来る、と豪語しただけの事はあるとコウタは思わず苦笑してしまった。

 

「あの、でも………」

 

露骨に嫌そうな顔をしているタカトラを見てしまっては、素直に喜ぶ事など出来ないだろう。狼狽している小泉花陽の反応が正しい。

 

「アイドル研究部の顧問の件に関しては本人も理事長から言われて渋々納得しいます。ですが、μ'sのコーチについては皆さんで説得してください」

 

「私達で………?」

 

きょとんとする南ことりに頷くミツザネ。それを見てそういう事か、とコウタは肩を竦めた。

 

「はい、僕達がしてあげれるのはここまで。きっかけは作りました………後は皆さんがどれほど廃校に対して、ラブライブ!に想いを馳せているかによります」

 

μ'sの9人は、以前も誰かが傷ついてまで廃校を阻止する必要はないと言っていた。確かに常識的な判断ではあるが、生徒が廃校を阻止する為に活動するという事がすでに常識的ではない。

 

どうしても廃校にしたくないから、活動を始めたのだろう。ならば、手段を選んでいる余裕などないはずだ。

 

「皆さんの覚悟を見せてください。先生の時間を奪ってまでラブライブ!に出たいという覚悟を」

 

そう言ってミツザネは踵を返す。

 

「では、僕達は一旦引きますね」

 

ミツザネに促されるような形でコウタとカイトは屋上を後にしようとする。

 

その歳、リーダーである高坂穂乃果と目が合うがその瞳は強いものとなっていた。

 

屋上から出て廊下を歩いていると、コウタはやれやれと呟く。

 

「ミッチ、無茶したな?」

 

「これでμ'sは顧問を得て、兄さんも休暇が取れる。それなら僕にとって万々歳です」

 

しゃあしゃあと言ってのける弟分に、コウタはそっかと短く返す。

 

ふと、コウタはある事を思い出しカイトを見やった。

 

「そういえば、カイト。3年生組の事を名前で呼んでたよな」

 

「昨日、希さんと乳繰り合ってましたしね」

 

「どういう状況だよ……」

 

コウタが呆れて苦笑いをするとカイトは余計な事をと言わんばかりに顔を顰める。

 

「フン、どうでもいい事だ。それよりも、今回の事件は結局ユグドラシル社員の横領事件だったが『奴』が東京に来ている事に変わりはない」

 

奴、という言葉が誰を示しているのかわからないコウタとミツザネではない。

 

錠前ディーラーシド。かつて沢芽シティで活動していた旧敵が近くにいると知って、心穏やかでいられるはずがない。

 

シドはその他の錠前ディーラーとは根本的に違う。具体的に言い表すのは難しいがどす黒い何かを纏った存在。志木以上に吐き気を催す邪悪とでも言うべき、か。

 

「…………やっぱ許せないか?」

 

コウタの言葉にカイトは頷く。

 

「奴が現れてから、オレ達のダンスステージは壊れていった。ダンスが中心だったはずが、いつの間にかインベスゲームが目的にすり変わっていた」

 

シドがコウタ達の前に現れた事により高ランクのロックシードが配布され、それによりビートライダーズはダンスを忘れ、インベスゲームが主となってしまった。

 

無論、コウタ達を周りに合わせるような形でインベスゲームにのめり込んでいった。しかし、それは仲間との絆を壊したくないからだ。

 

「あいつらにシドの手が伸びる前に終わらせるぞ」

 

「あぁ……あいつらの邪魔はさせねぇ」

 

強く頷き合うコウタとカイトに、ふとミツザネがくすりと笑った。

 

「何だよ、ミッチ?」

 

「いえ、かつて僕達はビートライダーズとしてランキング争いをして次はアーマードライダーとして戦い、沢芽シティを離れても戦っている…………この世はいつでも戦国乱世ですね」

 

にかみながら答えたミツザネに、カイトは当たり前だと息をつく。

 

「生きる事こそ戦いだろう」

 

そりゃそうだ、と3人は屋上へと顔を上げる。9人の覚悟は本物で、だからこそ堅物のカイトが動いたのだ。

 

ならば、何も心配はない。真摯に動く若者を見捨てるような非道な人間ではないからだ。

 

「まっ、兄さんが顧問になってくれるからと言って僕達は何もしなくていい訳じゃないですからね」

 

「わかっている」

 

そんな気はない、とカイトが唸る。

ふと、ミツザネは思い出したかのようにコウタを見やった。

 

「コウタさん、今度のロックビークル講習会には必ず出席して下さいね。本気で免許剥奪されますよ」

 

その言葉にコウタはうっ、と言葉に詰まる。ここ最近忙しかった為にロックビークル所有者に義務付けられている月1の講習会に出ていなかったのだ。本当は違反として没収されてもおかしくはないのだが、タカトラのおかげで何とか免れていたのだ。

 

「ま、マジかよ………わかった、カレンダーに刻み込んでおく」

 

冷や汗を掻きながらコウタは脳内カレンダーに深く書き留める。

 

しかし、もしもこの時、脳内のみならず携帯電話のカレンダー機能を使うか、もしくはスケジュール帳を持つ癖を付けていれば。

 

あのような事にはならなかったと、この時点でのコウタは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

呉島ミツザネが所有するロックシード

 

 

・ブドウ

・キウイ

・ヒマワリ

・サクラハリケーン

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は……………

 

 

 

「仮想ダンスパーティー?」

 

『そっ、今度の土曜日の夕方から秋葉原でね』

 

 

綺羅ツバサからのデートの誘いに軽く乗るコウタだったが、それが悲劇の始まりであった。

 

 

 

「貴様の反応は明らか過ぎる。大方、高坂達からデートの約束をされたが同じ日に約束してしまった、というものだろう」

 

身もふたのないカイトの毒舌がコウタを襲う!

 

 

 

「今回、コウタの誘ったのは相談に乗ってもらいたくて………」

 

最初のデート相手は海未! しかし、そこには真面目な理由があるようで?

 

 

 

「ピンチみたいじゃないか。手を貸そうか?」

 

 

『クルミ!』

 

 

ただのほのぼので終わるはずがない。新たい現れたのはボクサーライダー!?

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

17話:ELEMENTS ~切り札は自分だけ(修羅場を抜けられるか的な意味で)~

 

 

 

 

 




腰痛いなー、金ないなー、居酒屋で酒飲みたいなー、なグラニです。

さて、これでタカトラがμ'sの顧問になることに。いよいよを持って絵里や海未がコーチをするという設定から遠のいていく気がするwww

そして申し訳程度のマンゴーとキウイ。特にキウイはテレビでもあまり活躍を見せなかったので、ここではどんどん活躍させたいと思ってます。

さて、では引き続き連続投稿予定の真姫ちゃん誕生日会をお楽しみください!






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