ラブ鎧武!   作:グラニ

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10話:戦う理由 ~忠義と贖罪による鎧武者の凱旋~

前回までのラブ鎧武!は………

 

葛葉コウタはたまたまA-RISEのリーダー:綺羅ツバサを助けて、過去に会った事を知る。そして、他校の生徒である彼女に何故戦ってはならないのか問う。

 

その時、インベスの襲撃を聞きつけたコウタは、ツバサの制止を振り切って変身も出来ないまま戦場へと歩き出す。

 

一方、各々が戦う理由を述べた矢先、狙撃された理事長を庇い負傷してしまう啼臥アキト。

 

襲撃犯を撃退する為、九紋カイトと呉島ミツザネはμ'sの一員達と共に理事長室に保管されている戦極ドライバーを取りに行く。

 

そこで世界干渉するDJサガラから戦極ドライバーを受け取り、西木野真姫と矢澤にこに不敗の近いをし、2人は戦場へと舞い戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回、依頼された内容は至極簡単。

 

音ノ木坂学院という女子校の理事長を殺害する事。先日のオープンキャンパス事件により警備が強固になっているかと思えば、理事長の判断により警備を担当していたユグドラシル部隊は撤退していた為、侵入は欠伸をする程に簡単だった。

 

「それがこの結果な訳だけど、どうかな無能理事長様?」

 

そう襲撃犯の前には、無様に倒れ込んでいる南理事長と、金髪と巨乳の生徒がロックシードを構えてこちらを睨んできている。

 

大人である理事長が子供である生徒に守られている、というのは些か滑稽ではあるが、襲撃犯は特に気にした様子もなく銃を掲げる。

 

南理事長を見つけるのは、案外簡単であった。生徒達の避難を率先して行っていたのが彼女であり、その姿は命を狙われているという自覚がまったくないように思えた。

 

何と言うか、ここまで無能だと逆に生徒達に同情してしまう。が、こちらは仕事をこなすだけである。

 

隠れて狙撃しようとした所で、金髪生徒が召喚したインベスに弾丸を阻まれ、その時のマズルフラッシュでこちらの位置を巨乳生徒が把握する。

 

一度見つかってしまえば、相手がどれだけ素人であっても逃げまとわれるのは必須だ。故に、襲撃犯は狙撃から通常の銃を使う事により、より簡単な方法を選んだのだ。

 

もっとも、誤算だったのは金髪生徒がインベスやこちらへ仕掛けてきた事だ。本来ならユグドラシル所属のアーマードライダーでなければ倒せないとされているインベスだが、初級程度であれば人間であれば倒せるのだ。

 

裏ルートを通っている試作弾丸。それがあったからこそ、インベスは襲撃犯の背後で倒れている。

 

「アンタがユグドラシルを撤退させるという馬鹿な事しなければ、少なくとも生徒達を巻き込む事はなかったんだけどなぁ」

 

もし、学校での警備が頑丈なら帰宅途中などを襲う予定だったのだが、おかぜで随分と楽な作戦を遂行出来たのだが。

 

「あ、アナタは恥ずかしくないのですか!? 子供達の居場所を奪うようなマネをして……」

 

「恥ずかしくないね。それが俺の仕事だ」

 

確かに人を撃つのが好き、という訳ではない。が、やはり生きていく上で金は必要であり、この仕事は一度で多くの報酬を得る事が出来る。

 

ハイリスクハイリターンというものだが、襲撃犯にはそれすらもウェルカムだ。

 

「君らも大変だねぇ。こんな無能がトップだなんて」

 

「馬鹿にしないで!」

 

生徒達に問い掛けると、返って来たのは怒号だ。金髪生徒がこちらを睨んでロックシードを開錠し、倒れているインベスをヘルヘイムの森へと還す。

 

「理事長は学校存続の為に、どれだけ心を痛められたか……どれだけ多くの行動をしてきたのか。知らないアナタに理事長を侮辱する事は許さない!」

 

青いな、と思った。どれほどの過程を築き上げようとも、存続させられなければ世間から見れば無能である事に変わりはないというのに。

 

「…………まっ、今から死ぬ人間に関係はねぇや」

 

そう言って銃を向けると、3人の顔に恐怖の色が浮かぶ。無関係な生徒を巻き込むのに、多少は心が痛むが仕事と割り切れば引金は引けなくはない。

 

「あばよ、あの世で後悔するんだな」

 

そう言って引金を引く。3人は目を伏せる。

 

しかし、弾が飛び出す事はなかった。

突如、殺気を感じたからだ。咄嗟にその場を飛び退き、そちらへ銃を向ける。

 

向けた先は校舎だ。そこから2人の男子生徒が悠々と歩いてくる。

 

事前情報にあった、学生でありながらアーマードライダーとして戦うチーム鎧武の2人だろう。しかし、アーマードライダーに変身する為の戦極ドライバーはこの無能理事長が没収したと聞いていたが。

 

「…………生身でやり合う気か?」

 

そうぼやいた直後、2人は懐から戦極ドライバーを取り出して装着した。

 

「おいおい、変身出来ないんじゃなかったのかよ」

 

そうぼやきつつも、別段取り乱す事はない。事前情報は事前であって、状況というのは刻々と変化するものだからだ。

 

「カイトさん。張り切り過ぎて、もののついでで理事長を撃たないで下さいね?」

 

「その言葉、そっくり貴様に返すぞミツザネ。もっとも」

 

ミツザネというらしい少年は冷静にこちらを見てきているが、カイトと呼ばれた少年は獰猛な笑みのままこちらを睨んでくる。

 

「鬱憤晴らしには丁度いい獲物がいる」

 

「はっ、鬱憤晴らしねぇ」

 

プロの殺し屋を捕まえて鬱憤晴らし程度にしか思わないとは、恐れ入る。

 

襲撃犯は銃を捨てて懐から量産型の戦極ドライバーを取り出す。こちらも裏ルートで手に入れた保険だ。

 

「っ、アナタ達……どうしてドライバーを!?」

 

没収していたはずのドライバーを手にしている事に愕然と声を震わす理事長に、ミツザネはブドウロックシードを取り出して答える。

 

「はっきりと言います。貴女のやり方では学校を存続させるなんて無理です。だから、僕は僕のやり方で学校を存続させます」

 

「自分のすべき事を見失っている貴様は、そこで黙って見ていろ」

 

同じようにバナナロックシードを取り出すカイト。

 

そして襲撃犯は、面倒そうにマツボックリロックシードを取り出す。

 

「プロの殺し屋、舐めるなよこぞうども」

 

 

『マツボックリ!』

 

 

『バナナ!』

 

 

『ブドウ!』

 

 

それぞれがロックシードを開錠すると、頭上にクラックが裂けてアーマーパーツが降りてくる。

 

カイトは指先に引っ掛けて回し、ミツザネはゆっくりと腕を振るい、襲撃犯は無造作な仕草でロックシードをドライバーにセットし、スライドシャックルを閉じる。

 

 

『『『ロック・オン』』』

 

 

3つの戦極ドライバーから機械音声が響き、続いて西洋風のファンファーレと中華風、ギターのロック調な待機音が鳴り響く。

 

「変身!」

 

「変身!」

 

「変身っと」

 

強く、逞しく、そして無造作な言葉と共にそれぞれがカッティングブレードをスラッシュする。

 

 

『カモン! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』

 

 

『ハイィーッ! ブドウアームズ! 龍砲、ハッ、ハッ、ハァッ!!』

 

 

『マツボックリアームズ! 一撃インザシャドウ!!』

 

 

アーマーパーツが降りてきて鎧武者へと変身する。

 

ユグドラシルの量産型アーマードライダー黒影となった襲撃犯の前に、2人の少年は異なった変身を遂げる。

 

アーマードライダーバロンと、アーマードライダー龍玄。

 

それが並び立った戦士の名だ。ネット上で人気を集め、現実にインベスと戦う者達。

 

しかし、その中身は学生だ。本来ならば警戒するに当たらないが、さきほどの殺気を思い出して長槍・影松を構える。

 

「戦極ドライバー………闇市場に流通しているという話しは聞いてましたけど、こうも簡単に手に入られてはね」

 

「些細な事は関係ない。奴を倒す、それだけだ」

 

バロンはバナナをモチーフにしたランス・バナスピアーを構え、龍玄もブドウのデザインが入ったブドウ龍砲を構える。

 

1対2。さらにプロとはいえ、アーマードライダーとしてなら相手の方が慣れているから厄介だ。

 

しかし、学生相手に背を向けたとなると、今後の自分の名に傷が付く。

 

黒影はエナジーロックシードを取り出して、開錠する。隣にクラックが裂けて、そこから現れたのは鷹をイメージしたイーグルインベスである。

 

「これで対等だ。悪く思うな………」

 

黒影の言葉を待たずして、バロンは駆け出しバナスピアーを突き出してくる。それを影松で反射的に弾いた黒影は身を捻って影松を振り払う。

 

長槍はあまり使った事はないが、使えなくはない。素人である学生の攻撃など、と襲撃犯は慢心していた。

 

が。

 

「っ!?」

 

バロンは素早くバナスピアーを引き戻すと、全身をバネのように使い突きを放つ。

 

それはアーマードライダーで強化された視力を持ってしても、反応出来ない速度を誇っていた。当然、いかに殺し屋を生業とする黒影も反応し切れず、胸の装甲に直撃を受けて身体が吹き飛ぶ。

 

「ぐっ………!?」

 

吹き飛んだままで視線を向けると、バロンは追撃するように突撃してくる。

 

「学生か、ホントに!?」

 

一撃を受けて、襲撃犯は理解する。彼らは素人ではなく、本物の戦士。戦場で命のやり取りをする覚悟がある、歴戦の戦士である事を。

 

受身を取って体勢を立て直し、黒影はバロンと槍を切り結ぶ。攻撃範囲の短いバナスピアーは影松よりも取り回しが効き、さらにはバロン自身の戦闘力の高さも相まって黒影は防戦一方である。

 

素早い連続攻撃を何とかやり過ごし、黒影は間合いを取る為に後ろへ飛んだ。

 

「おいおい、これほど強いアーマードライダーがユグドラシル社員じゃないなんて嘘だろ」

 

襲撃犯はかつて、何個かの学校を廃校へと追いやった。その全てが依頼によるもので、スクールアイドルとアーマードライダーがいたが撃破してきた。

 

スクールアイドルがいる学校にはアーマードライダーが常にいる。それほどまでにスクールアイドルという存在は学校だけでなく世間的にも経済面などで重要視されているからだが、これほどの強さを持ったアーマードライダーと戦うのは初めてだった。

 

それと同時に、改めて理事長の無能さを痛感して笑いがこみ上げてくる。これほどの強さを持たせながら、それを取り上げるとは。

 

「お前らも大変だなぁ。そんな奴が理事長だなんてな」

 

「否定はしない」

 

短く返し、バナスピアーを構えるバロン。そんな彼に黒影が言い放つ。

 

「なぁ、俺と手を組まないか? そんな無能理事長の所にいたって、待っているのは何の味気のない生活だぜ?」

 

戦う相手を勧誘するという行動に走ったからか、離れた場所にいる 金髪生徒と巨乳生徒が驚く。

 

「お前ほどの力ならどんな望むモノも手に入るだろうよ。金も女も……あそこの金髪と巨乳よりも上質なのが簡単に手に入るぞ」

 

「………………下らんな」

 

バロンは一言で切り捨てると、戦極ドライバーのカッティングブレードを2回スラッシュする。

 

 

『カモン! バナナ・オーレ!!』

 

 

「あいにくと、金髪美女も巨乳美女も……ぺったんこ美女も間に合っている」

 

エネルギーがバナスピアーへと集まっていき、それを見た黒影はやれやれと肩を竦ませた。

 

「まぁこんなんで篭絡出来るなんて思ってねぇけどさ。聞かせろよ、どうしてそこまでこの学校に拘わる? たかだか転校してきて1週間と少し。元の場所に帰ればいいじゃないか」

 

「……………帰る場所など、元よりない」

 

バロンはバナスピアーを地面に突き立てる。するとバナナ状のエネルギー刃が黒影を拘束せんと地面から生える。

 

しかし、黒影はそれを影松で打ち砕き、バロンを見やる。

 

「悲しいねぇ。退く事の出来ない身ってのは!」

 

「貴様の御託に付き合うのも飽きた」

 

必殺技を避けられたというのに、バロンの態度は余裕そのものだ。

 

「そう言う割には負けそうだが?」

 

「負ける?」

 

フン、とバロンは鼻で笑った。

 

「貴様も一端の戦士なら、勝ち負けにこだわらずに1つの勝負に目を向けてみろ。それなりに負け戦とてそれなりに楽しめるぞ」

 

「現実と漫画は違うんだぜ!」

 

距離を詰めてきたバロンの槍を受け止め言い返すと同時に影松を振り回す。

 

バロンが後退したのを見て、黒影は瞬時に背を向けて空中にいるイーグルインベスへ指示を出す。

 

相手は異常な強さを誇るアーマードライダー2人。そんな相手をしていてはこちらの敗北は必至であり、リスカが大き過ぎる。

 

そこまで依頼主に尽くさなければならない忠義はない。

 

しかし、その行為は決定的な隙だった。それをわかっているからこそ、イーグルインベスでフォローさせようとしたのだが。

 

それすらも、彼らにとっては隙であった。

 

龍玄と弾幕合戦を繰り広げていたイーグルインベスは旋回するように飛んでからバロンへと弾幕をばら蒔く。

 

「いいんですか? 僕から背を向けても」

 

龍玄はそう呟くと、カッティングブレードを2回スラッシュする。

 

 

『ハイィーッ! ブドウ・オーレ!!』

 

 

ブドウ龍砲の緑宝撃鉄を引きエネルギーを充填させ、龍玄はイーグルインベスよりもさらに頭上へと狙いを定める。

 

「ハァッ!」

 

気合いと共にブドウ龍砲からエネルギー弾が放たれ、イーグルインベスと黒影、バロンの頭上にブドウの果実を生み出す。

 

直後、弾けたようにエネルギー弾が雨のごとく降り注ぎ、バロン諸共黒影とイーグルインベスを襲った。

 

「こいつ、味方ごと!?」

 

黒影は辛うじて避け切る事が出来たが、イーグルインベスはその弾雨にやられ撃破される。

 

そして、黒影が見た時には驚く事にバロンは弾雨を上手くくぐり抜けて、こちらへと接近していた。

 

「マジかよ!?」

 

「侮ったな。それが貴様の敗因だ!」

 

 

『カモン! バナナ・スカッシュ!!』

 

 

こちらへと走りながらカッティングブレードを1回スラッシュするのを見て、黒影は最期の抵抗と言わんばかりに影松を構える。

 

 

『ハイィーッ! ブドウ・スカッシュ!!』

 

 

その直後、バロンの後ろで飛ぶ龍玄を見る。その右足にはエネルギーが集まっており、バロンごと蹴るのかと思った。

 

しかし、バロンがバナスピアーを突き出すと同時に飛ぶと、そのバナスピアーの鏃に向かって龍玄がキックしたのだ。

 

「何っ!?」

 

バロンのみならず龍玄の力も加わった突きに、黒影は影松で受け止めようとする。が、拮抗する事なく影松は折れ、バナスピアーが黒影へと突き刺さった。

 

「ぐっ、おおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

一撃ですらインベスを倒す威力を秘めたエネルギーを、重ねて受けて無事であるはずもなく。

 

黒影は吹き飛ぶと同時に装着されている戦極ドライバーが砕け散り、襲撃犯の意識は吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

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爆発と共に吹き飛んだ襲撃犯の姿を認め、龍玄とバロンは変身を解く。

 

それが戦闘終了の合図に感じたのか、肩を担いで支えてくれている凛が安堵の息を吐いた。

 

「凛、もういい。大丈夫だ」

 

「だめ。さっきの血、凄かったんだから」

 

一方的に離してくれない幼馴染みに、半ば強引に振り解こうかと思案する啼臥アキト。正直、小泉花陽のような大きさがあれば役得になるのだが、星空凛の絶壁ではそうはいかない。

 

もっとも、そうして大泣きされるのは本当に参るのでやらないが。

 

「しっかし、本当に凄ぇな。あの2人」

 

アキトのぼやきに同意見なのか、凛の横で見ていた矢澤にこと西木野真姫が頷いた。

 

「私はコウタの戦いしか見た事なかったからアレだけど、あの2人ってここまで強かったなんてね………」

 

普段から九紋カイトは強気な発言を繰り返しているが、その実戦っている所を見た事はないので口先だけの実力だと思っていたのだ。初陣とも言えるオープンキャンパスがアレでは、そう思われても仕方ないだろう。

 

ちなみに、そのカイトは気絶している襲撃犯から銃器などを取り出して弾倉を外している。

 

呉島ミツザネはこちらへと駆け寄って来て、アキトの顔を見るなり安堵よ表情を浮かべた。

 

「大丈夫そうですね」

 

「心配し過ぎなの。凛も、お前も」

 

優しく凛から離れて感触を確かめるように腕を回すアキト。しかし、さきほどど派手な出血を見たからか、医者の娘である真姫はいい顔をしない。

 

「でも、病院には行ってくださいね」

 

「えー、面倒だなぁ」

 

「凛さん」

 

ミツザネの声に応じるように凛の瞳が大きく揺らぎ始める。どうやら凛に泣かれるのが苦手だと、彼にはバレているらしい。

 

「わかったわかった、わかりました。ったく……」

 

若干恨めしそうな目をミツザネに向けてみるも、彼はどこ吹く風だ。

 

ふと、高坂穂乃果がミツザネの前に立つと身体をわしわしと触り始めた。決してエロい意味ではなくペタペタといった感じなので、ミツザネもどう対応したらいいのかわからず困惑の表情を浮かべ、助けを求めるように園田海未と南ことりを見やる。

 

しかし、2人は苦笑するだけで、絢瀬絵里と東條希も笑って傍観しているだけだった。

 

「どこも痛くない? 怪我とかしてないよね?」

 

「穂乃果さん。僕達、今回ダメージ受けてないですよ?」

 

さっそく心配する先輩に、ミツザネは苦笑した。朝方まで溝があった間柄だというのに、どこかの誰かと同じようにずかずかと距離を詰めてくる。

 

それはとても心地よいもので、くすぐったい気持ちになる感覚だった。

怪我をしていないと確認出来たのか満足そうに頷くと、穂乃果は満面の笑顔を浮かべる。

 

「…………どうしても、貴方達は戦うというのね?」

 

μ'sの輪の後ろから、南理事長が問いかけてくる。その表情はさきぼどのような愕然としたものではなく、しっかりとしたものだ。

 

それでもやはり、学生が戦うという事に反対という考えは変わらないらしい。

 

それを知った上で、ミツザネは頷く。

 

「はい。僕達は自分の意思でこの力を取りました……それは確かに自分の為ではあるけれど、この力があれば誰かを助けられる……それを痛感した以上、手放す事なんて出来ないです」

 

人は力に魅入られる。良い意味でも悪い意味でも、その力を振るえば簡単に事を収められるからだ。

 

人は楽をする生き物。一度ソレを知ってしまえば、その快楽を求めてしまうのが性。

 

「もちろん、戦わない事に越した事はありません。世界がコウタさんや穂乃果さんのように単純馬鹿だらけなら、きっとそんな世界も作れる。だけど、残念ながらこの世界に溢れているのは馬鹿ではなくずる賢い屑です」

 

「……………あれ、さり気なく私も馬鹿にされた?」

 

穂乃果のぼやきは置いておいて、ミツザネはブドウロックシードを見つめる。

 

「退学にしたいのならどうぞ。僕達は僕達の意思でこの道を行きます……穂乃果さん達がスクールアイドルの道を選んだように、やりたいからアーマードライダーになるんです」

 

「……………そう」

 

南理事長は言って、思案するように目を伏せる。

 

その時、携帯電話のバイブレーションが震える音が響く。着信があったのかミツザネはスマートフォンを取り出すと、耳に当てる。

 

「はい、ミツザネです………えっ?」

 

電話内容に驚き、ミツザネは頷きつつも険しい顔へとなっていく。

 

「…………わかりました。すぐに向かいます」

 

そう言って通話を切ったミツザネは、カイトを見やる。

 

「アキバの街でインベスが暴れているそうです。異常変異した個体らしく、黒影部隊は苦戦。それと………」

 

一度区切り、ミツザネは言った。

 

「鎧武の姿を確認した、と」

 

「えっ、コウタ君を!?」

 

「あいつ、学校でこんな面倒事が起きてるのに、何やってるのよ………」

 

穂乃果とにこの言葉にミツザネはさぁ? と首を傾げる。

 

「僕達はこのままインベス鎮圧に向かいます。皆さんはここで待っていてください」

 

「何言ってるの。私達も行くわ」

 

絵里の言葉にミツザネは思わず彼女を見る。しかし、絵里に限らず他のメンバーも付いてくる気である事は表情を見ればすぐにわかった。

 

「ウチらがいないとすぐに無茶をするんやから、手綱を引いておく事にしたんよ」

 

「ミッチ達だけに戦う辛さを背負わせたりはしないにゃ」

 

「チーム鎧武はμ'sの為に、音乃木坂学院の為に戦ってくれる。なら、私達も貴方達に出来る事をします」

 

希、凛、海未の言葉にミツザネとカイトは顔を見合わせ、頬を緩ませた。

 

「…………フン。勝手なしろ」

 

ツンとした態度をしているが、アキトは見た。少し嬉しそうに笑っているカイトを。

 

「ならば、行きましょう」

 

ミツザネの言葉に頷く一同は、カイトを先頭に走り出した。

 

凛も一歩踏み出したが、思い出したようにアキトを見やった。

 

「アキトは………」

 

「わかってる。病院行ってくっから、お前は葛葉先輩の戦いを見届けてこい」

 

数瞬迷う凛だったが、アキトの言葉に頷いて走っていく。

 

ことりも不安そうに母親を見やったが、南理事長は思いの外止める事なく頷いてみせた。

 

走り去っていく11人を見届けて、アキトは肩を竦める。とんだ大事になってしまったが、結果オーライという奴だ。

 

「………………子供というのは、守らなければならないと思っていましたけど、そうではなかったんですね」

南理事長のぼやきは、アキトに向けてというよりと自身に言っているように思えた。

 

「男の子というのは、難しいものです」

 

「アンタはきっと、あいつらを測り違えてたんだよ」

 

独白に水を指すようで悪かったが、アキトは言った。それは、最初からアキトが感じていた事。

 

凛から話しを聞いて、力を取り上げられたと聞いて、南理事長に言いたかった事。

 

「子供だからって、守られる側の人間だと思うな。あいつらは自ら望んで力を手にして、守る側の道を踏み出したんだ」

 

子供であっても、ミツザネ達は戦う側を選んだからこそあの力を求めた。危険も誰からも褒められるべき事ではないと知りつつも、それぞれの理由で。

 

「子供は皆守ってやなきゃならない、なんてのはきっと思い上がりだ。男の子はそれが顕著だつまた、それだけだよ」

 

「……………君が戦うのも、同じだからかしら?」

 

その言葉にアキトは驚いて南理事長を見やる。しかし、南理事長はこちらに背を向けて校舎へと歩いて行った。きっと、己のやるべき事をやるつもりなのだろう。

 

本気で無能と思っていたが、意外にも聡いらしい。

 

アキトは踵を返して、楽しそうに笑った。

 

「俺が戦う理由は至極簡単だよ」

 

あの時から、ずっと変わっていない。

 

アキトの行動理念。その基準は。

 

「凛が悲しむのが嫌だから、戦うんだ」

 

酷く我が儘で自分勝手な偶像で、本人に知られれば赤っ恥間違いなしな事をぼやきながら、少年は楽しそうに嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葛葉コウタは戦う力もないのに、戦場へと足を踏み出していた。

 

それを止める事の出来ないと、A-RISEのリーダー、綺羅ツバサは悔やんでいた。

 

なぜ、彼は戦場へと自ら進んでいくのか。先程まで戦いのない世界を想像して話している時は、普通の男の子だったというのに。

 

「葛葉、君………!」

 

戦いなど子供がする事ではない。敗北は死を意味する事に相違はなく、ましてや今のコウタはライダーに変身出来ないのだ。

 

いわば、死地へと向かっているようなもの。しかし、彼にそこまでして戦わなけれはまならない理由などないはずだ。

 

「どうして…………!」

 

「そりゃ、戦う理由があるからだろう」

 

その瞬間、世界が止まった。ツバサの見ている景色全てが色失せて、時が止まっていた。

 

暴れているシカインベスも、歩み進んでいたコウタも、苦痛で呻いていたアーマードライダー達の声も。

 

広がっていた地獄が、地獄絵図となっていた。

「えっ………」

 

何が起こっているのか理解出来ず、ツバサは呆然となる。

 

ふと、いつの間にか隣に1人の男が立っている事に気付く。ツバサも取材で会った事がある、人気ネットラジオ番組のDJだ。

 

「サガラさん…………?」

 

「あいつ……いや、あいつらには戦う理解がある。誰にも理解されなくても、褒められなくても、それでも戦わなければならない理由がな」

 

サガラの言葉を、ツバサは理解しきれていない。大切な事を言っているのはわかるが、その意味までは計り知れなかった。

 

「戦う理由って、それは…………」

 

「そいつは本人から聞くんだな。俺が話す事じゃない」

 

うわごとのような呟きに返答があった事で、ツバサは確信した。この世界はサガラが止めたのだと。

 

「貴方は、何者なんですか……?」

 

「……………ほぅ。流石に名乗りを上げただけの事はある。この状況でよく冷静でいれるな?」

 

純粋に感心したように、サガラは嗤う。

 

ツバサは知りえぬ感覚に背筋が凍るが、飲まれて思考を手放してはダメだと直感が告げていた。

 

そこに立っているのは何度も取材に応じたネットラジオ番組DJではなく、もっと得体の知れない何かだ。それこそ、ツバサの思考では思いましないほどの何かだ。

 

「俺が何者か……それに対する答えはネットラジオ番組のDJだ」

 

「そんな嘘に騙されると思う?」

 

「嘘は言っていない。お前達スクールアイドルやビートライダーズの活動を追っていく……それも1つの(かお)なんだがな」

 

「なら、これは別の貌ということかしら?」

 

恐怖を抱きつつも尋ねてくるツバサに、サガラは愉快そうに肩を震わせた。

 

「そういう解釈も出来る。だが、今は俺じゃなくてあいつに構ってやらなくていいのか?」

 

サガラの指摘に、ツバサはコウタを見やる。その背中からは時が止まっていても感じれるほどの強い決意に満ち溢れていて、とてもじゃないか歩みを止める事など出来そうになかった。

 

「あいつは戦い続ける。誰に褒められる事なく、拒絶されようとも………もっとも、今回は高坂穂乃果に戦いを否定されてショックだったようだが、あの様子なら立ち直れたようだな」

 

高坂穂乃果。それはμ'sのリーダーであったと記憶している。

 

「どうして……戦うという事は痛いはずなのに。ましてや、今は戦う力もないのに」

 

「それは守られている側にいるからこその言葉だ」

 

サガラは不意に、ツバサへとある物を差し出した。それはテレビでも見た事がある、アーマードライダーへ変身する為に必要な戦極ドライバーだった。

 

さらに、左側のプレートには鎧武の横顔が印字されているという事は、没収されたはずのコウタのベルトだ。

 

「あいつは自らの意思で守る側へと立った。立場等関係ない。あいつらは力を求める………守られる側の人間ってのは、どうしてあぁいったガキどもを甘く見るのかね」

 

サガラは差し出していた戦極ドライバーを、ツバサへと投げ渡す。

 

「そして、あぁいうのには手網を引いている奴が必要だ。特に葛葉は自分が傷ついている事にも気付かないで進みやがる。それはやがて取り返しの付かない事となる………ダメなんだ、あいつは片翼の鳥。羽ばたくには両翼でなければ」

 

そこでサガラはツバサを見やる。焔のように紅い双眸が、ツバサを貫く。それは双眸であるはずなのに、気の所為か3つのようにも思える。

 

「お前さんならなれるかい? あいつの片翼に………もっとも、学校が違うから難しいかもしれないがな」

 

ツバサは一度戦極ドライバーに目を落とす。それはコウタが必要としている戦う力だ。

 

しかし、それを渡していいのか迷う。今は必要かもしれないが、彼は狂戦士のごとく戦い続けて、やがて戦場で息絶えるだろう。

 

それは、果たして正しい生き方なのか。価値観は人それぞれだか、死に急ぐ事が幸せだとはツバサには思えなかった。

 

戦極ドライバーを渡せば、コウタは不幸せになる。そんな考えに至ってしまい、ツバサは躊躇ってしまう。

 

 

「手網を引く人…………」

 

サガラの言葉を反芻する。それはつまり、危険な目に合わせないようにする役目を担った人物、という事だろうか。

 

不意に、μ'sの面々が浮かぶ。その役目はツバサよりも、いつも一緒にいる彼女達の方が担うには合っているはずだ。

 

「…………まぁ、選ぶがいい。『選ぶ』というのは(おれたち)には与えられていない、人間の特権だからな」

 

次の瞬間。

 

世界に色が戻る。絶叫と、爆音と、少年が歩む音が、ツバサの耳に飛び込んできた。

 

時が進み始めた。ツバサに迷っている時間はない。

 

選べ、それは人間の特権だ。

 

サガラの声が響く。振り向かなくても姿がない事は明白だったが、どういう訳か驚かない自分がいた。

 

いや、驚くという反応を取るよりも、やるこがある。

 

ツバサは立ち上がると、自然と走り出した。

 

憧れていたあの背中へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬。本当に一瞬ではあるが、世界に歪が入る。

 

それが誰の仕業だったのかコウタには容易に想像出来たが、今はこのシカインベスを 倒すのが最優先だ。

 

シカインベス。コウタのバディインベスであったり、最初に戦った相手だったりと、色々と馴染み深いインベスである。

 

シカインベスはこちらを敵と認めたのか、握り殺した黒影の肉塊を放り投げる。ベルトの機能が壊れているのか、変身が解けない姿は不気味だった。

 

「……………いつか、俺も……」

 

続きの言葉は、シカインベスの咆哮にかき消される。

 

身構えたコウタだったが、突然後ろから衝撃が来て、前のめりで倒れてしまった

 

「ぶふっ!?」

 

「あっ、ごめん……」

 

背中にのしかかっているのはツバサらしく、声がした。流石はトップスクールアイドルというべきか、軽いのだろうが重さを感じない訳ではない。

 

「…………何のつもり?」

 

コウタが問い掛けると、ツバサは背中から退いて言う。

 

「教えて………どうして、葛葉君は戦うの?」

 

コウタは身を起こしてツバサを見る。そのの声色は責めているのではなく、疑問に思ってある色があった。表情を見てみれば真剣そのもので、決して言い逃れは出来そうにない。

 

その時、シカインベスが咆哮する。はっとなったコウタは反射的にツバサの手を引き、路地へと駆け込んだ。

 

続いて地面や建物が崩れ落ちる音に、ツバサがびくりと肩を震わせる。

 

「…………なんでそんな事、気にするんだ? アンタには関係ないだろ」

 

「っ、私には貴方が死に急いでいるようにしか見えないから……葛葉君がそこまでして傷付く理由、教えて?」

 

ツバサはコウタの前に立って、両手を優しく包んできた。優しい両手は、先程の騒動を垣間見て震えている。

コウタが戦う理由。それは、ミツザネやカイトにすら話した事はない、誰にも打ち上げていなかった事だ。

 

しかし、とコウタはツバサを見つめる。彼女は、コウタを憧れていると言ってくれた。トップスクールアイドルになっても変わらずに言ってくれた事に、コウタは応えるべきではないのだろうか。

 

数瞬して、コウタな息を吐く。

 

「…………チーム鎧武のメンバーで、角居ユウヤって知ってるよな?」

 

「角居ユウヤ君…………って、コウタ君が抜けた後にリーダーになった………?」

 

角居ユウヤ。コウタの親友で、チームを抜けても友と言ってくれた少年だった。

 

「えっ、ユウヤ君もほどなくして学業に専念する為に脱退したって………」

 

「……………そう表現するしかなかったんだ」

 

コウタは目を伏せる。あの事を話すのは苦痛だが、これは罪であり贖罪だ。話さない訳にはいかない。

 

「…………俺がアーマードライダーに変身して戦ったインベスはインベスだったけど、インベスじゃなかったんだ」

 

初めて変身する直前。

 

コウタは見て、知ってしまったのだ。自分達がインベスと呼ぶ異世界の住人達がどういう存在なのか。

 

一体、何なのかを。

 

「どういう、意味…………?」

 

ツバサの瞳が震える。それに応じるようにコウタの鼓動も早くなってくる。

 

しかし、コウタはそれでも口を開いた。

 

「ユウヤは脱退したんじゃない…………」

 

目に浮かぶのは、親友がヘルヘイムの果実を食してしまった光景。それによって齎された悲劇へのチケット。

 

 

 

 

「……………俺が、殺したんだ」

 

 

 

 

 

 

「…………………えっ?」

 

 

 

 

 

ツバサの口から言葉が漏れる。目は開かれ、これ以上にないくらい驚愕しているのがわかる。

 

言葉にする度にコウタの胸は締め付けられるように痛みが走ったが、それでも続けた。

 

「俺が初めて戦ったインベス。それは、ユウヤが変異した姿だったんだ」

 

「ど、どういう…………」

 

告げたのは戦う理由どころではない。この世界のシステムの根幹に関わる事象だ。ツバサの動揺も当然であろう。

 

「…………ツバサはさ、ヘルヘイムの果実って知ってる、よな?」

 

「ヘルヘイムの果実……って、インベスが力尽きた時になるアレ…………?」

 

それは本来、インベス達が住まう異世界、ヘルヘイムの森にのみ生殖している植物だ。

 

転入初日。穂乃果のインベスがなれ果てたアレがそうである。世間的にもヘルヘイムの果実の存在は明らかにされており、もし発見した場合はユグドラシルへ提出するのが法律で定められている。

 

「偶然……本当に偶然だったんだ。あの時、俺は戦極ドライバーを手に入れたってユウヤから知らされて、呼び出された場所に行くと、そこには巨大なクラックがあって………潜ったらヘルヘイムの森に繋がっていた」

 

ヘルヘイムの森に入ってすぐ、ユウヤがメールで知らして来た戦極ドライバーが落ちていた。当時は使い方などわからなかったが、ベルトのバックルのような感じだったので腰に当てたら装着出来たのだ。

 

そして、たまたま目に付いたヘルヘイムの果実を毟り取るとオレンジロックシードに変化。

 

突然の事態に驚いていると、そのすぐに近くで動く人影を見つけたのだ。

 

「…………それは、インベスとなりかかっていたユウヤだった」

 

ユウヤはまだ人としての意識が残っていたのか、コウタの姿を認めるとどこか安堵したような表情で言った。

 

悪い、ドジったみたいだ。頼む、俺を止めてくれ。

 

「ユウヤは気付いたんだと思う。このままだと人を襲う化け物になるって……だから、最後に俺に頼んだんだ」

 

異形となり果てる俺を殺してくれ、と。逆の立場なら、きっとコウタも同じ行動をしていただろうから、ユウヤの気持ちはわかる。

 

「正直、辛かった……チームメンバーはもちろん、姉ちゃんや誰にも話せないし………こんな力、間違ってるって思った」

 

路地の壁にもたれかかり、コウタは空を見上げる。

 

「けど、その日を境にどんどんインベスが沢芽シティの人々を襲うようになって………そこで、思ったんだ。逃げてたら殺してしまったユウヤに顔向け出来ないって…………」

 

「…………だから、戦うの?」

 

ツバサにコウタは頷き返す。

 

「これは、身勝手な俺の贖罪なんだ。勝手にユウヤに許してもらっているように錯覚している、ただの自己満足」

 

だが、それで誰かが助かるなら本望だ。誰かが笑っていられる世界を守れるなら、偽善だって構わない。

 

「俺の自己満足の為に戦う。それが、俺の戦う理由だ」

 

正義のヒーローになんか、なりはしない。親友を殺めた身に、そんな資格はない。

 

だけど、資格がないからといって、目の前の脅威を見逃したら親友に合わす顔がない。

 

コウタは決めたのだ。死に急ぐ訳ではないが、戦って戦って、戦い抜いて。

 

そして、あの世で胸張って親友と会えるように。

 

「………そっか」

 

ツバサは呟くと、深呼吸した。

 

そして、持っていた戦極ドライバーを差し出す。南理事長に没収されていたはずの、鎧武専用のベルトだ。

 

どうして、という言葉は出てこなかった。先程の違和感で、犯人はわかっている。

 

「ありがとう、話してくれて………」

 

ツバサの瞳が震える。それさ憧れていた人の真実を知ってしまったからだろう。

それでも悲しみを爆発させる事なく、ツバサは続ける。

 

「けど、わかってて欲しいの。例え贖罪の為でも自己満足でも、葛葉君が傷付けば泣く人があるって事を」

 

「…………あぁ、今回の件で身に染みたよ」

 

戦極ドライバーを受け取り腰に巻くと、μ'sの面々が浮かぶ。

 

穂乃果はコウタの怪我を見て泣いてくれた。本気で身を案じてくれたのだ。

 

コウタは戦いから身を引く事は出来ない。けれども、間違っていたのだ。

 

己を犠牲にしてまで得られた勝利では、傷付く人もいるのだ。

 

チノパンツから下げているオレンジロックシードから強い橙色の光が輝き、取り出すとロックシードに瑞々しい色が戻っていた。

 

「…………俺は、ユウヤに誓ったんだ。この力で、インベスによる悲劇を打ち砕いてみせるって」

 

コウタは歩き出し、路地から出て暴れているシカインベスを睨み付ける。

 

「そして、新たに誓う………俺自身も含めて、皆を救って見せる………μ'sや音ノ木坂の皆が笑えるように、戦うんだっ!!」

 

そして、コウタはオレンジロックシードを構える。

 

「変身っ!!」

 

 

『オレンジ!』

 

 

頭上にオレンジのアーマーパーツが出現し、高々と天にロックシードを掲げる。すかさずロックシードをドライブベイにセットし、スライドシャックルを押し込む。

 

 

『ロック・オン』

 

 

直後、法螺貝の待機音が鳴り響く。すでに全滅したアーマードライダーに絶望した民間人達が顔を上げ、シカインベスも動きを止める。

 

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道オンステージ!!』

 

 

コウタが力強くカッティングブレードをスラッシュすると、頭上からアーマーパーツが降下し、その姿を変える。

それはコウタが戦うと決めた姿。

 

踊る若者達(ビートライダーズ)が鎧武者となるから付けられた、戦う者達。

 

その最初の鎧武者(アーマードライダー)

 

「……………鎧武」

 

アーマードライダー鎧武は、少し俯かさていた顔を上げてシカインベスを睨み付け、大橙丸を握っていない左手で握りの拳を作る。

 

同時にこちらを敵と見なしたのか、咆哮を上げて突っ込んでくるシカインベス。

 

それに対して鎧武は、握った拳を突き出した。

 

「ッラァ!!」

 

気合と共に繰り出された拳は、シカインベスの前にある何かにぶつかる。まるでバリアでも貼っていたかのように何もない空間に罅が入り、時間を置かずに砕け散った。

 

まるで硝子が砕けたような光景に、周りの人間達は芸術品を見るかのように目を奪われる。

 

その中で、鎧武は告げる。

 

「ここからは俺のステージだ」

 

己の意思を確かめるように、大橙丸を握り締めた。橙色の刃が光を反射して、その存在を示すかのように輝く。

 

「俺は戦って救って見せる……悲劇に見舞われる全て…………俺自身も含めて!」

 

いつの間にか、シカインベスを覆っていた蔓が消えて肌も通常種と変わらないものとなっていた。

 

当然だ。規約違反だからこその暴走ならば、これで規約は保たれたのだから

 

鎧武は大橙丸を下から上へと振り上げ、振りおろしてきたシカインベスの拳に合わせる。

 

鎧武の3倍の大きさはあるであろう拳は、本来ならば刀程度であって切り返せるものではない。

 

しかし、それはあくまでも普通なら、の話し。

 

大橙丸で斬りつけると、まるでオレンジ果汁がはじけるようにエネルギーが走り、拳を斬り返した。

 

初めてダメージらしい傷を受けたシカインベスが、先程とは異なった色の叫びを上げる。それは痛みの絶叫だ。

 

怒りに身を任せたような単調な拳が飛んでくるが、鎧武は簡単に避けるとその腕をさらに斬る。

 

さらに怒りでシカインベスは攻撃を激しくしてくるが、それに応じるように鎧武の攻撃も激しく繰り出す。

 

素早く、激しく、苛烈に。怒涛の勢いで放たれた鎧武の斬撃は、振るうごとに早くなっていき残像をのこすほどの速度に達していた。

 

大橙丸で捌き、無双セイバーを抜刀し、顔面に向かって銃撃。持てる力全てをぶつけるように、容赦なく襲いかかる。

 

「おらぁっ!」

 

2振りの刀で回転するように斬りあげると、シカインベスが弧を描くように吹き飛んだ。巨体であるが為大して吹き飛んだ訳ではないが、その巨体が浮かんだという事はそれだけダメージが入ったという事。

着地した鎧武は大橙丸と無双セイバーを連結させると、無双セイバー

にオレンジロックシードをセットする。

 

 

『ロック・オン』

 

 

「輪切りにしてやるぜ!」

 

無双セイバーナギナタモードを構えると、橙色のエネルギーが無双セイバーの刀身に集まっていく。

 

 

『 壱、十、百、千、万……オレンジ・チャージ!!』

 

これはかつて、ユウヤを殺した技であると同時に鎧武が放つ事が出来る最高の技でもある。

 

交差するように無双セイバーを振り上げると、オレンジ果実を模したエネルギーが飛んでいき、シカインベスを拘束した。

 

今度はこれではなく、無双セイバーを回して大橙丸を構えて駆け出した。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

気合いと共に横薙ぎするかのごとく大橙丸を叩きつける。拘束していたエネルギーが炸裂し、凄まじい衝撃がその場を襲う。

 

シカインベスが絶叫を上げ、その身体からオレンジを輪切りにしたようなエネルギーを吐き出しながら、爆発と共に砕け散った。

 

ずささっ、と地面を滑って勢いを殺した鎧武は、振り向いてシカインベスの撃破を確認して安堵の息を吐く。

 

その直後、辺りが歓声で包まれる。驚いて周囲を見渡すと、いつの間にか街の人々が集まっており、戦いの一部始終を見ていたらしい。

 

「やった、やったぞ!」

 

「鎧武が来てくれたーっ!」

 

飛び交うのは罵詈雑言ではなく、褒め称える言葉だ。つい先程まで戦闘狂などとあることないこと言っていた癖に、人間とは傲慢な生き物である。

 

やがて、たどり着いた援軍の黒影部隊は仲間の惨状に絶句したようだが、すぐに回収作業を始めた。

 

鎧武もオレンジロックシードを戦極ドライバーに戻して、周りを見る。

 

倒れ伏せた者達は、少しだけ力が足りなかった。そして、もっと早く戦えていたらどれだけの人々を救えただろうか。

 

悔やんでも悔やみきれない。確かに戦いなどない事に越したことはないだろう。

 

「…………すまねぇな、坊主」

 

その時、声を掛けてきた黒影がいた。声から察するにタカトラの部隊の1人で、中年の男性だ。名前は知らないがコウタやカイトを坊主と呼んでからかってくる、気のいい男である。

 

「………アンタか」

 

この男は仲間を想う事でも有名だ。仲間の為なら命令違反上等。故に出世も出来ずにアーマードライダーをやっているのだ。

 

鎧武は彼と対峙し、頭を下げる。

 

「すまねぇ。もっと早く駆け付けてれば………」

 

鎧武がもっと早く戦列に加わっていれば、多くの黒影部隊を助ける事が出来た。自惚れに聞こえるかもしれないが、それは事実である。

 

それを聞いた黒影は、ゆっくりと首を横に振った。

 

「そんな事ァねぇよ。むしろ謝るのはこっちだ………もう、お前は戦わなくてよかったのに」

 

「俺が選んだ道だ。アンタ達が気にする事じゃない」

 

コウタの言葉にそうか、と笑い黒影は肩に手をかけてくる。

 

「おかえり」

 

「……………あぁ」

 

鎧武は肩が震え、目頭が熱くなるのを堪える。

 

その返答に満足したのか、黒影は頷いて回収作業へと移っていく。

 

周りを見れば一般人は黒影部隊によって誘導されており、その中にツバサの姿を見つけて鎧武は駆け寄った。

 

ツバサも鎧武が近付いてくる事に気付いたのか、列の輪から出てくる。

 

「怪我、してないよね?」

 

開口一番に心配してくるツバサに苦笑しつつも、鎧武は頷く。

 

「大丈夫だって。見てたろ、今回は無傷だって」

 

「それでも心配なものは心配なんだよ」

 

心配してくれる。その事に気恥しさを覚えつつも嬉しくなり、鎧武は照れたようにそっぽを向く。

 

「…………ねぇ、UTX高校に来ない? 君、見てないと危なっかしいし」

 

突然の誘いに鎧武は、コウタは驚く。

 

確かにお目付け役である呉島タカトラからは他の高校への転校を認められている。

 

しかし、とコウタは変身を解いて笑った。

 

「悪い。俺は音乃木坂学院のアーマードライダー、鎧武だ。たとえ拒絶されたとしても、あいつらを見捨てるなんて出来ねぇよ」

 

すると、ツバサは特に驚いた様子もなく笑う。

 

「だろうね。君のお目付け役は彼女達に任せるよ」

 

「彼女達…………?」

 

「じゃあ、またね」

 

そう言ってツバサは可愛らしく笑って、列の中へと戻って行った。

 

やれやれ、と有名人と知り合いになれたのにあまりテンションが上がらないコウタはポケットの中に手を入れる。

 

その時、ポケットに覚えのない紙がある事に気付いて取り出す。

 

それはレシートだった。しかも、さきほど翼が買った下着の店のものだ。裏面には電話番号とメールアドレスが記載されており、丁寧にメール送って下さいの文字。

 

「…………知りたきゃ教えるっての」

 

「コウタ君!」

 

女帝様に苦笑していると、呼ばれてコウタは振り向く。

 

そこには慌てて駆け寄ってくる穂乃果を先頭としたμ'sのメンバー達がおり、その後ろにはミツザネとカイトの姿があった。

 

「穂乃果、皆………」

 

最後は喧嘩別れのような感じだったからか、やはり後ろめたい気持ちがあった。

 

しかし、穂乃果はそんなコウタとは正反対に前以上に近付いてくると、わしわしと身体を触り始めた。

 

「ちょっ、穂乃果!?」

 

「大丈夫!? 怪我してない!?」

 

「してない、してないから! 離れろって!」

 

女の子特有の匂いに顔を赤くしながら、コウタは穂乃果を引き剥がす。

 

本当に無傷だと知ったからか、穂乃果は心底安心したように笑った。

 

「良かった……また無茶しようとしてるんじゃないかって」

 

「しねぇよ。教えて貰ったからな、μ'sの皆から………」

 

私達から? と首を傾げる9人に苦笑して、コウタはミツザネとカイトを見やる。

 

「悪い、心配かけちまったな」

 

「立ち直るってわかってましたから、別に心配してませんでしたよ」

 

「貴様もいい加減、その鬱しやすい性格をどうにかしろ」

 

長年の付き合いからか、2人の言葉は辛辣だが、それすらもコウタには嬉しかった。

 

2人に苦笑してコウタは9人へと向き直る。

 

「皆、話したい事があるんだ」

 

なぜ、鎧武が戦うのか。なぜ、戦わなければならないのか。

 

話せない、の一方では手を繋ぐ事など出来ない。出会って間もない間柄だが、コウタは決めたのだ。

 

μ'sを守る為に、忠義を尽くそうと。

 

「………私達も、話したいことがあるんだ」

 

穂乃果は微笑んで、頷いてみせる。

 

きっと、考えている事は同じだろう。ならば、あとは腹を割って話すだけだ。

 

ぐぅー、と鳴ったのはその時だ。

 

全員の視線が音源へと向けられ、猫娘は恥ずかしそうに笑う。

 

「にゃははは………質問責めでお昼食べてる暇なかったにゃー………」

 

「じゃ、どっか飯食いに行くか」

 

凛に苦笑しながらコウタが提案すると、意外にも場所を言ったのは真姫だ。

 

「なら、ラーメン仁郎にしましょう。あの馬鹿、ちゃんと病院行ったのかも気になるし」

 

「おぉ、真姫ちゃんがアキトの心配をするなんて………」

 

そのラーメン仁郎というべき場所に行くべく、歩き出す9人。

 

その背中を見て、コウタは呟く。

 

「絶対に、守ってみせるら」

 

己を含めて、必ず。

 

コウタの音にならない決意は、オレンジ侍の心に深く刻まれる。

 

皆の笑顔を守ってこそ、殺めてしまった親友に顔向け出来ると思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

理事長室に集まった総勢12人は、必死にアーマードライダーとしての活動を認可してもらおうと理事長を説得する予定だった。

 

しかし、返ってきた言葉は。

 

「アーマードライダーとしての活動を許可します」

 

「……へっ?」

 

思わずコウタが聞き返してしまうほど、あっさりと許可されてしまった。もちろん理由を熱弁したが、そこまで頑なに拒否していた理事長とは思えないほどのあっさり具合だ。

 

「やったね、コウタ君!」

 

にこや凛でさえ怪しんでいるのに、穂乃果は能天気に喜んでコウタの手を握った。喜んでくれるのは嬉しいのだが、流石のコウタでも怪しいと思わざる得ない。

 

「しかし、条件があるわ」

 

「ですよねー」

 

どんな条件だ、とミツザネは身構える。

 

「貴方達は学生で、学生の本分は勉学よ。よって、チーム鎧武には補修テストで赤点を取ったら今度こそ戦極ドライバーを没収します。そして、μ'sの子達も同じテストを受けて貰います」

 

「なーんだ、赤点取らないなんて簡単じゃないで……」

 

すか、というミツザネのぼやきは5つの音で遮られる。

 

振り向けば入口で凛が四つん這いに顔を俯かせ、にこも乙女座りで蹲っており、穂乃果は棚に手をかけて世紀末な空気を纏っている。

 

「あ、あのデジャブなんですが………」

 

「いや、あの時より最悪やで」

海未のぼやきに希がミツザネの両側をさして言う。

 

ミツザネの右隣でクールに立っていたカイトは直立した状態のままうつ伏せに倒れており、コウタに至っては上半身裸になって正座しているではないか。

 

「ことり、家庭科室から包丁持ってきてくれ。切腹する」

 

「なんでですか!? 赤点くらい授業を普通に受けてれば………」

 

「コウタ君、授業中爆睡してるよね。穂乃果ちゃんと一緒に」

 

いやー、と穂乃果が照れるの頭を海未が引っ張たく。

 

すると、絵里と希が呆れたように息をつき、

 

「カイトも目開けたまま花提灯作ってたわね

 

「写メ撮っといたけど、見る?」

 

「貴様、なんて面倒な事を!?」

 

立ち上がって逃げ出す希を追い掛けるカイト。

 

危機感をまったく感じさせない空気であるが、それは当人達だけである。

 

危機感をひしひしと感じているミツザネは、背中に嫌な汗を吹き出させながら振り向く。

 

「散々私を無能扱いしたんだから、頑張ってね? 優秀なアーマードライダー君」

 

根に持ってるらしい、いい笑顔で告げる理事長にミツザネは顔を引き攣らせる。

 

彼らがライダーとして戦うには、まだまだ超えなければならない試練は多いらしい。

 

授業開始のチャイムを聞きながら、ミツザネは大きくため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

葛葉コウタが所有するロックシード

 

 

・オレンジ

・パイン

・イチゴ

・マツボックリ

・サクラハリケーン

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

「で、一体何の用だ」

 

「匿って」

 

突然の襲来してきた真姫に、首を傾げるアキト。

 

 

 

「今、この子を探している。ここへは来なかったか?」

 

真姫を探す謎の集団。

 

 

 

「この人……アキトに助けて貰ったの!」

 

何故か真姫の彼氏役をやる事に。猫娘がアップを始めました。

 

 

 

「あらあら、あらあらあらー?」

 

ついにデュークの正体が他者に知られてしまう!?

 

 

 

「真姫の運命(さだめ)は真姫が決める。お前ごときが決めるモンじゃねぇよ」

 

真姫を付け狙う者とは一体…………

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

11話:Darling ~真姫との彼氏役~

 

 

 

 




1人暮らし、覚悟していたけど大変ですねー。



さて、ここまで読んでくださってありがとうございます、グラニです。

なんとかオープンキャンパス編が完結する事が出来ました。アニメでは数分で終わったはずの話しをここまで引き延ばすとは………いやぁ、展開し過ぎて収束出来るのか若干不安でしたがまずは章を書き終える事が出来てよかったです。

今だに捕まらないゲス野郎、志木は1期での鎧武の敵ですのでちょくちょく出てきます。それと同時にμ'sのライバルとしてオリジナルスクールアイドルなども登場します。これは鎧武者達だけではなく、少女達の戦話しでもありますから。

が、オリジナルというかパロディアイドルになると思いますので、そこはご容赦願いたいです。完全オリジナルアイドルなんて早々出せないのです。


本来、アニメなら次の話しはことりメイド喫茶の話しになるのですが、その前にアキトと真姫ちゃんが中心のお話になります。オープンキャンパス編でも十分出張ったのに、まだまだ目立ちたいかアキトよ。


お嬢様である真姫だからこそやってみたかった話しです。それが終わり次第、アニメ通りに進めるか、それとも鎧武キャラ達の絡みを書くか………けっこう悩んでますww

まだラブコメチックな展開をアキ凛しかやっていないので(ラブコメチック?)。

構成は一応あるので、それを現実にしていきたいと思います。

では、次回もよろしくお願いします。


今更ですが、感想など気軽にお願いします!



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