走ること数分。
帝都から遠すぎず近すぎず、俺はここを選んだナジェンダには驚いている。周りは森に囲まれ、危険種が住み訓練にはもっとこい。脚を伸ばせばフェイクマウンテンなんていける。色々と好都合である。
「ほら着いたぞ」
「うぷ……気持ち悪い」
俺の速度はおかしいのは知っているが今回はチェルシーを背負っているので速度は落としたつもりである。これでも気持ち悪いのか。俺は周りの風景が変わるのが遅くて気持ちが悪かったぞ。
「ここがアジト?」
「そうだ俺達ナイトレイドの隠れ家だ。それより気分は悪くないか?」
「もう大丈夫よ」
俺は座っているチェルシーに手を差し出し引き上げる。無理をしなければいいのだが、ダメなら頼ってくれたほうが男として夫役として嬉しい。
「それじゃあ行くか」
チェルシーの右手を優しく掴む。
ふと左を見ると、驚いた顔をしていた彼女がいた。
「嫌だったか?」
「い、いやそんなんじゃないけどさ。自然に手を掴まれて驚いて……」
そのまま俯き髪を触り始めた。
この数日間チェルシーを見て来てわかった癖だ。彼女が髪を無暗に触ったりするときは彼女が恥ずかしがっている時である。それに加えて今は俺と目を合わせようとしない。
俺はチェルシーと手をつないでいると気分が何故だか良くなるのでこうしていたいが、アジトの中でそんな事をしても勘違いされてもチェルシーが困るだろう。
ちょっと悲しいが手を話して前を行く。
チェルシーもちょっと悲しい顔をしたが何も言わずに俺の横を歩いてきた。
「お、リュウだったか」
玄関で待っていたのはラバックだった。
帝具をつけて待っていたあきらかに戦闘態勢だった。
「すまんな」
「いやいいよ。あの速さで森の中を駆ける人なんてリュウ以外知らないしな。それよりおかえり」
「ただいま」
軽く握手する。
「さぁクロメちゃんの所へ行こうか」
「へ?」
俺はみっともない声を上げる。
ラバックは俺の方を両手でがっしりと掴み何か危機が迫っているかのような声で言った。
「クロメちゃん。結ッ構きてるのよ」
「そう言う事か」
なんとなく把握。
過去に、性格的には帝国軍の暗殺部隊として働いていた時だった。たった一人での単独での暗殺任務。しばらくあの時の家を離れていたことがあった性格的には一週間ほど。ターゲットがなかなか警備が厳重な家から出てこなく、まだ帝具にも使い慣れていない時だった。確実な時を待ち標的を暗殺して俺は颯爽と家に帰った。しかし待っていたのは訳のわからない光景。アカメが疲れ果てた顔で俺に一言「クロメが、病んでるの」ポニィは「兄貴、あの子なんとかして……」と、皆疲れていた。あのナハシェさえ目の下にくまができていた。クロメの部屋の扉を叩き声をかけるとクロメが胸に飛び込んできた。ただただ寂しかったらしい。しかし後でおっさんに話を聞いたらクロメの目が死んでいたとか、うわ言のようにお兄ちゃんと繰り返していたとか。
「なるほどじゃあ会いに行こうかな」
「チェルシーはボスが会いたがっているからコッチね」
「まかせた」
俺はチェルシーをラバックにまかしクロメの部屋へと向かった。
この部屋に到着する前にも皆と会い軽く会話した。どうやらナジェンダが革命軍本部から帰ってきたらしく、あたらしい人員というか帝具人間を連れて帰って来たらしい。
「クロメ」
俺はドア越しに声を出す。
そうすると扉が開きクロメが飛び出してくる。
「お兄ちゃんッ!!」
いつものように胸で受け止める。
クロメの顔を見ると泣いていたのがわかった。というか今も泣いている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
「うん」
なんだか俺が悪い感じがしてきたな。
そのまま抱きしめつつ頭をなでてやる。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
「あぁ」
俺の胸に頭を埋めてくる。
「お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡」
「ぁあ?」
なんかおかしくなっているぞ。
主にお兄ちゃんって言っているときのイントネーションが。
そんなクロメは俺の胸の中でグリグリと頭を擦らせてくる。
「クロメ?」
「えへへへへ……」
さすがに引き離す。
ここ数日間の話をとりあえずした。
要約すると「お兄ちゃんがいなくて寂しかった!」らしい。
「一時的に戻ってきただけだから」
「え……?」
またクロメの目が死んだのをリュウは知らなかった。
「それでは紹介しよう新しい仲間だ」
「スサノオだ」
「チェルシーよ。よろしく」
場所は変わって会議室。
目の前には新しく入った二人が立っている。
チェルシーについてはこれ以上語ることはないだろう。しかしスサノオについたは俺も良く知らない。なので訊いてみたら帝具人間で元々要人警護用に作られた物らしい。なので家事スキルと共に戦闘もできるらしい。最近はタツミと共に訓練をしているらしく、ブラートから聞いた話だとなかなかできる奴らしい。
「とりあえず皆ただいま。今から報告会を行うぞ」
チェルシーと一緒に黒板を皆の前に出し見えるようにする。
「まず問題のエスデスが率いるイェーガーズだ。これがなかなか面倒くさいぞ、全員帝具持ちだ、偽りはなかった」
「本当に全員なんですか?」
「全員だ。逆に戦闘員で帝具持ちではない奴はいない」
それを聞いて全員疲れたような顔をする。
実際に疲れるのは戦ったときだな。
「この構成員五人全員の帝具の名前と能力を記しておいた。他に情報屋を雇っているのでそいつの名前も載せている。後で各自見ておくように」
チェルシーが全員に手渡しでまとめた紙を配布していく。中には顔写真や身長体重、生年月日、出身地や好きな食べ物まで何かな何まで細かく書いてある。
「ここまでわかったのか!」
ナジェンダが俺がまとめたレポートを読み言う。
「これぐらいは朝飯前だね」
「私も一緒に仕事してて驚いたよ!いつのまにか情報を仕入れてコレだもん!」
「一緒……?」
クロメの呟きに前に立っているリュウとチェルシーとナジェンダ以外の全員が反応した。
あ、アカンこれ。全員がそんな事を思った。
「一緒に住み込みで仕事をしてるとリュウの有能さがわかるわ」
「確かにリュウは有能だな」
「一緒に……住み……込み……?」
これはもうダメだと全員が悟った。
そんな中未だに前の三人は話を続けている。
「リュウは料理もおいしいし、仕事はできるし、もう完璧な夫ね!」
「夫か!ハッハッハッハ――――」
チェルシーの夫発言に対して笑おうとしたナジェンダの目の間に長い刀が飛んでき壁に刺さる。クロメが愛用している八房である。
「お兄ちゃん」
「な、なんだいクロメ」
「正直に答えて」
「はい」
「もしかして……そこの女と同居してるの?」
頼むから正直に答えないでくれ!
スサノオさえもそう願っていたが、
彼は空気を読まない男だった。
「そうだけど?」
いっちゃったああああああああああああ!!
ラバックは頭を抱える。
もっとも見たくなかった光景だ。
「そう……なんだ……」
クロメは刀を椅子から抜き、チェルシーの方を向いた。
「この、泥棒猫――――ー!!!」
「いいやああぁぁぁああああ!?」
チェルシーを追いかけ始めた。
リュウはクロメの行動に一瞬戸惑うがすぐに追いかける。
「バラバラにしてやるッ!!」
「ちょ、ま、な、なんでなのよ!?」
ラバックの予想通りの展開だった。
まぁ……
予想どおりですね!