「タツミェ……」
チェルシーがうなだれる。
俺はこの一日で何があったかをまとめて家でチェルシーと二人で話している。タツミ、お前の運のなさには驚かされるぜ。チェルシーはタツミのことをよく知らないが、憐れまずにはいられなかった。
今頃アジトは大騒ぎだろう。仲間が一人連れ去られたあげく、今アジトにはナジェンダはいないから全員で会議でもしているだろう。
イェーガーズは明日フェイクマウンテンに行くらしい。なんでも訓練とか。
「まったく情報収集ってのも楽じゃないわね」
「そうか?結構大変だと思うが」
「まぁ今回の私たちの情報集めと潜入のやり方が前代未聞ってだけあって、大変ね」
チェルシーはそう言った後何か閃いた顔をする。するとソファーで寝ていた彼女が寝がえり何か企んでいるような顔でこちらを見る。
「私ねぎらって欲しいなぁー」
明らかに棒読み。
期待しているかのようなまなざし。
「また買い物か?」
俺は呆れつつそう言った。しかしチェルシーの要望はどうやら違うらしい。
なんだか俺に失望したかのような顔をする。
「違うよ。また、遊びに行こうよ」
「買い物じゃねぇか」
「違うってば。また普通に手繋いで街を観光したいのよ」
そう言って商店街に連れ込まれ、あれやこれや買わされるに違いない。しかし今やっている情報収集の作戦では彼女が要なので、労ってあげるのもいいかもしれない。
と言っても、行くところなんて大してない。帝都の観光名所は一緒に一通り周ったし家でゆっくりしている方が実は楽しかったりする。
「……あんたさ」
「なんだ?」
「女性に興味とか持っているの?」
チェルシーからに意外な質問だった。
「どういう意味だ?」
「なんてゆうかさ。リュウっていつも落ち着いていて、妹と仕事のことしか考えていなくてさ。他の男性でリュウぐらいの年齢だったら、か、かかか彼女とかさ、作ったり、けっ、結婚を考えていたりする年齢かなって思ってね」
確かにチェルシーの言うとおりで今までは仕事とアカメとクロメの事ばかり考えていた。人並みの考え、人並みの幸せ、年相応の考え。そんな物いつ捨てたのか。恐らくあの地獄の樹海横断レースだろう。今まで人を殺し、今度は革命軍という国の敵になっている。
「俺が人並みの幸せを得るのは無理だろう」
俺はソファーに深く座る。
ここまで来たんだ、なにも望めない。
人を殺し、人を憎み、俺を生んだ親でさえも死ねばいいと思っている。ここまでの悪事を犯し、人の世を騒がせている奴は死んでもいいと思っている。
そんな奴が幸せなどになっていいのか。
「そうなのかな」
チェルシーはそう言う。
ゆっくりと立ち上がり椅子に座っている俺にまたがって抱きしめて来た。
いきなりどうしたのか。
「別にいいんじゃないかな、幸せを求めちゃって」
「んなバカな」
「私ね、あんたのことを昔っから見ててね、ちょっと不安なのよ。あんたいつか壊れちゃうんじゃないかって」
何を心配しているのか。
俺が壊れるか。彼女が言っている壊れると言うのは肉体的にではなく精神的にだろう。精神的に潰れる。あり得るのか、でもこのまま妹や仕事のことだけを考えるのは疲れるよな。チェルシーのいう事も一理あるな。
「だからちょっと息抜き。私の前だけでもいいから、気楽に生きなさいよ」
なんだかその言葉が無性に嬉しく、暖かく感じられた。
黙ってチェルシーの腰に腕を回しちょっとだけ力を入れて抱きしめる。チェルシーの顔が真横に来て、髪からシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。抱きしめて気付いたがこいつってこんなに小さかったっけ。
むっちゃ眠たくなってきた。
今だけ幸せな気分でいてもいいよな。
(ギュッ)
「zzzzzzzzzz」
「…………え、寝ちゃったの?この体勢で?」
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皆にもうちょっと吐いてほしかった。
何をって?もちろん白いアレだよ。
女の子を抱きしめて幸せな気分になる男子。
意味わかる?