シェーレが死んだ。
俺は驚きを隠せなかった。
アジトに帰りボスであるナジェンダから話を聞いた。タツミとレオーネ、マインとシェーレの二組で任務にあたっていたそうだ。タツミとレオーネは無事に目標を暗殺し帰って来たそうだ。しかしマインとシェーレが遅かったらしく、戻ってきたのはマイン一人だけだったらしい。
なるほど道理でいつも上から目線のマインがちょっと暗いわけか。心なしかアジトの雰囲気も暗いと思う。
シェーレが使っていた帝具エクスタスは俺が昔回収した帝具のうちの一つである。まさかあんなおぞましい帝具かほんわかとした彼女に会うのか疑問に思った。しかしシェーレは問題なく使い順調に強くなっていった。俺自身彼女に期待している所もあった。
表面上は問題ないように装っているが辛かった。
星が瞬くこんな夜に。
俺は屋根の上に座っている。ここは俺の特等席である。アジトは森に囲まれており危険種が徘徊している。しかしアジトの周りは比較的安全である。空にも危険種は飛んでいない。
俺は盃にお酒を入れる。透明でワインとは違い綺麗な色をしている。かなりアルコール度も強く、俺達ナイトレイドの中でも飲む奴は俺とナジェンダとレオーネだけである。お酒を飲みながらシェーレのことを思い出す。彼女を勧誘したのは俺だった。あの生気の灯っていない目、俺は戦慄した。帝国の暗殺部隊にいた俺でもあんな目はしていなかった。彼女は即戦力にはならなかったので、基本的にアジトにいる俺がシェーレを鍛えていた。それこそ腕立て伏せからやらせた。最初は十回ぐらいでひぃひぃ言っていた彼女でも一週間で俺と模擬戦ができるようになっていた。
彼女の面倒を長いこと見ていたからか、いつもより悲しかった。
「なんだ思い出酒か?」
ナジェンダだった。
そういえばコイツもここが好きだったな。
「そうだよ」
否定はしなかった。
お酒を飲んで懐かしみたい気分なのだ。
ナジェンダも俺同じ事をしたかったのか、自前の盃を持ってきて俺の右横に置いてある酒びんを手に取り盃をお酒で埋める。ナジェンダは酒瓶を置き静かに飲み始めた。
彼女も表面に出さない分内側にためる人なのである。いつもは皆のボスとして気丈に振る舞おうとしてるが中身は女性なのである。ナジェンダとは長い付き合いである。それこそナイトレイド発足時から、いやそれより前からである。彼女を支えたりする立場に今あるし、アジトでも二人っきりが多いので彼女のことはよく知っている。
「ぅぐす……うぇ……ひぐっ……」
俺の右肩にもたれかかってくる。
彼女はメンタルが弱いのである。
普段は何も言わないがお酒が入っているのであろう。
ナジェンダの隣に寄り添い背中をなでてやる。辛いだろう、自分はリーダーという席に座り仲間の帰りを待つしかできないのである。自分は右腕と右目を失い、帝具もなく戦力にはあまりならないだろう。苦しいだろう、俺なら耐えられない。
「私は……私は……」
「はいはい、大丈夫だから」
「苦しいんだ。……また、仲間を失った……何も言えない」
「その場にいなかったから?」
「そうだ」
「それならば俺と一緒だ。一人で泣く必要なんてないよ。俺もお前と一緒で辛い」
お互い悲しいんだ。
人の死なんぞ腐るほど体験した。
仲間の死なんぞ腐るほど体験した。
でも慣れない、慣れれない。
「ナジェンダ、俺は死なない」
だから言う。
「俺は死なない」
皆を悲しませないために。
「俺は絶対に死なない」
ギャップがあるボス可愛い。
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