獣が統べる!<作成中>   作:國靜 繋

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11月22日一部修正


獣の決断

side ナイトレイド

 

「集まったな皆。悪いニュースが四つある……心して聞いてくれ」

 

ナジェンダは、全員が集まると話を切り出した。

その表情はとても神妙なもので、いつもの和気藹々としたものではなかった

 

「一つ、地方のチームと連絡が取れなくなった」

 

連絡が取れなくなった、その発言で地方のチームの事を知らないタツミ以外は驚きの表情こそすれ疑問には思わなかった。

殺し屋家業を続けているのだ、何時その報いが来ても可笑しくはない。

誰もが理解しておきながら、いざ仲間が殺されたとなって平静を装えるほど人として終わってはいない。

だが、簡単に表情に出すようではそれが逆に命取りになり、自身の命どころか仲間の命さえ危険にさらすことになる。

そのため常に平常心でいられるように皆心がけている。

 

「地方のチーム?」

 

「帝国は広い、私達が帝都専門の分地方で仕事をする殺し屋チームが在るんだ」

 

タツミの素朴な疑問に即座にアカメが堪えた。

簡単な疑問に対する問いを求めるだけで、ナジェンダからの報告を遅らせる訳にはいかない。

特に新しい情報は誰にとっても生命線であり、この瞬間、疑問に一々応えていて襲撃に会い情報を聞きそびれることこそが、一番恐れなければいけないことだからだ。

 

「今、調査中だが全滅の可能性もある。そう覚悟してくれ……」

 

「とりあえずアジトの警戒をより強める必要があるね」

 

「ああ、ラバック、糸の結界の範囲を広げてくれ。そして二つ目」

 

こちらの方が、深刻なようでナジェンダの顔つきが一際厳しくなった。

 

「エスデスが北を制圧し、帝都へ戻って来た」

 

地方のチームが全滅したと言う報告以上に皆ざわめき出した。

特にエスデスの力を知っている者達は尚更だ。

 

「予想を大幅に上回る速度だったな」

 

「アイツはいつだって悩みの種だよ!!ただでさえ保安部がいるってのに」

 

「エスデス隊の兵士たちは備えとして北に残されているそうだ」

 

「じゃあ、いきなり反乱軍討伐ってわけでもなさそうだな」

 

全員が悲痛の思いに暮れ、今後はエスデスの動向にも気を付けないといけないと思うと気が滅入りそうになっていた。

 

「次にあいつがどう動くかまだ読めん。今は日夜拷問官に真の拷問と言うものを叩きこんでいるらしい」

 

「レオーネ、お前は帝都へ行きエスデスの動向を探ってくれ。あと可能ならば奴の動きも頼むぞ」

 

「了解っ!!」

 

レオーネは勢いよく敬礼する中、タツミは名前だけしか知らないエスデスに凄く興味を持っていた。

 

「エスデスは殺戮を繰り返す危険人物だ、用心しろ」

 

「オーライ、オーライ」

 

フフッ、ってことは、隙あらば倒しちゃっていい人間だよね。

帝国最強と呼ばれるドS将軍と世界最強の黄金の獣。

どちらも仕留めがいがある!!!

そんなことをレオーネは思っていた。

本人を直接見たことがないからこそ言えること、とも言えるが。

 

「三つ目、奴が、ムソウが本格的に動き出し始めた」

 

ナジェンダがそう言った瞬間、全員が一瞬固まった。

タツミは、ムソウと言う名を少し前に聞いた記憶があるため、それを思い出すように記憶の糸を手繰り寄せた。

そして思い出したのだ、一切底が見えない力量、獅子の鬣の様にたなびく黄金の髪、総てを見下ろす王者のような黄金の瞳。

如何なる手段をもってしても朽ちることも不朽の黄金の姿を。

 

「先日のことだが、異民族と貿易しその利益を革命軍に渡してくれていた村が、移動虐殺部隊と悪名高いアインザッツグルッペンの手によって皆殺しにされた。他のみんなは、分かっていると思うがタツミの為に教えておこう。村が皆殺しに合った理由は、革命軍に利益を渡していたことではない、異民族と貿易していたことだ。ムソウは異民族を劣等種と蔑んでいおり、その劣等種と関わりを持つこと自体が、奴にとって皆殺しにするだけの理由としては十分なんだ」

 

「な!!あの人がそんなことを……」

 

「おいおいタツミ、お前アイツに合ったことが在るのか?」

 

「初めて帝都に来たとき、一度だけ」

 

「……そうか、なら大丈夫だな。俺たちの仲間になった後だったら今頃拷問か殺されていただろうよ。アイツは敵味方の区別を簡単に見極めるからな」

 

「そんなに危険なやつなのかあの人!?」

 

タツミは初めて会った時、助けてもらっている分、驚きも人一倍だった。

 

「アイツは、異民族の味方をする者や異民族と繋がりのある者以外には基本的には無害だからな。だがら、革命軍の上層部はアイツを味方に引き入れるために、西の異民族と手を切るか、西の異民族や他の異民族と手を組み、打倒をするか未だ考えがまとまらないんだよ。だけど、俺はどんな理由であれ虐殺をするアイツを俺は許すことが出来ないんだ!!」

 

タツミはブラートの悲痛そうな表情に何も言うことが出来なかった。

 

「そして最後に帝都で文官の連続殺人事件が起きている。被害者は文官三名とその護衛の人間六十一名。問題は殺害現場に『ナイトレイド』と書かれたこの紙が残っていること」

 

ナジェンダは今まで以上に真剣な顔つきで言った。

この行為は誰の目から見ても罠であり、ナイトレイドを陥れようとしているのが分かり切っている。

 

「分かりやすい偽物だな……俺達に罪を押し付ける気か?」

 

「でもさ普通バレるだろう。いきなり犯行声明何てワザとらしい」

 

「初めの一、二件はそう思われていたが、今は私達の仕業と断定されそうだ」

 

「なんで?」

 

タツミは若干の焦りを感じながらも平静を装った。

 

「事件が起きる毎に警備が厳重になるが、それでも殺されているんだ。四件目で元大臣チョウリは腕利きの護衛三十名近くが殺され、娘なんて皇拳寺で皆伝の達人が負傷したんだ。幸い二人は、偶々通りかかったことになっている、アインザッツグルッペンの手によって助けられたが、襲った賊はあのアインザッツグルッペンから逃げおおせたのだ。それが私たちが犯人だと言う決定打になったらしい」

 

一拍間を置くと、ナジェンダは煙草を懐から取り出し火をつけた。

 

「殺されたのは全員大臣の派閥に属さない良識派の人間だ。大臣から見れば煙たいだけのな。つまり大臣が強制的に消したんだ。ナイトレイドの所為にしてな」

 

「さらに言えば誘いだろう?本物をおびき出して狩る気だぜ」

 

「……これが罠だと分かった上で皆に言っておきたい。今殺されている文官達は能力も高く大臣にも抗う、かつ反乱軍のスカウトにも応じない国を憂う人間たちだ。そんな文官達こそ新しい国になった時に必要不可欠なんだ。後の貴重な人材をこれ以上失う訳にはいかない。私は偽物を潰しに行くべきだと思う!お前達の意見を聞こう!!」

 

ナジェンダの真剣な表情に覇気の籠った言葉でタツミは気圧されそうになった。

だが、タツミ自身にも引けない、引いてはならない一線はある。

 

「俺は……政治の派閥とかはよく分からねぇけど……ナイトレイドの名前を外道に利用されてるってだけで腹が立つ!!」

 

言い切ったタツミの表情は今までになく良い顔つきで、かなり成長したことが一目で見て取れた。

タツミの成長を人一倍信じ、何時か自分を追い抜く存在であると確信しているブラートはいつの間にか自身の思っていた以上に成長しているタツミのことをとても嬉しく感じていた。

 

「そうだな……その通りだタツミ!」

 

ナジェンダは皆を見渡すと皆タツミと同意見だと確信した。

 

「よし、決まりだな。勝手に名前を使ったらどうなるか、殺し屋の掟を教えてやれ!!!」

 

 

side END

 

 

 

 

 

 

「――以上がチョウリ殿から知ることが出来た情報です」

 

「分かった。下がっていい」

 

テンスイ村を殲滅し、予定通りチョウリ元大臣を保護したムソウは、その間に溜まった書類仕事をしていた。

特に皇帝が巡幸で使用する”竜船”完成セレモニーの為に帝国国内の要人、権力者、富裕層の人間が多く乗り込むため保安部も警備に駆り出されているため余計な仕事が増えている。

文官連続殺人事件を警戒してのことだと言うとこもあるが、そろそろナイトレイドが本格的に偽のナイトレイドを潰すために動く可能性があるからだ。

偽と断言できるのも、賊の顔を見たチョウリが帝国の将校が犯人だと教えてくれたからだ。

そこから突き止めた結果、エスデスの配下である三獣士の犯行である事までは突きとめることが出来た。

後は捕縛するだけなのだが、文官連続殺害の裏で大臣が糸を引いていると言う事実を得たい今、出来る限り三獣士を生きたまま捕縛したい。

しかしテンスイ村を殲滅作戦の際、自身を囮とする作戦の為に視察と言う名目を使ってしまい”竜船”に搭乗する暇がなくなってしまったのが痛い。

竜船には、大臣の派閥に属さない良識派の文官の一人が乗り込むのはすでに確認できている。

専用のボディーガードで周りを固めるらしいため、普通の刺客からは身を守ることが出来るだろう。

しかし帝具を持っている者が、刺客として現れるのならば話は変わってくる。

その帝具の性能や能力によって対策が変わるために明確な作戦を立てることが、本来ならば今の段階では出来ない。

だが、今回偽ナイトレイドとして暗躍している者達が三獣士と分かった今ならば作戦を立てることが可能だ。

奴らの持っている帝具は既に把握済みだ。

問題があるとすれば、搭乗可能な警備の人数と場所が船上である事だ。

最悪、襲撃の知らせを知ることが出来たならば、兵を犠牲に文官を護り通させ時間を稼ぐことが出来るのならばいくらでも援軍を出すことが可能だ。

だが、そこまでする価値があるかという話になると、実はそうではない。

確かに大臣に対する切れるカードの一枚にはなるだろうがジョーカーとはなり得ない。

いくら三獣士、果てはエスデスから大臣に命じられたと聞き出すことが出来ても、大臣が白を切ったらそこまでだ。

伊達に皇帝からの信篤く、皇帝に次ぐ権力を握っている訳ではなく皇帝が擁護して来たならばこちらが痛手を喰らう可能性もある。

 

「……今回は見送るか」

 

対大臣用のカードは多いことに越した事はないが、危険を冒してまで得るだけの価値が今回はない。

一つ目の書類の塔を捌き終えたムソウは、椅子の背にもたれ掛かると、執務机に備え付けられた紐を引いた。

 

「失礼します。お呼びでしょうか」

 

「第Ⅴ局局長に今回の警備人数は必要最低限でいい、と伝えておけ」

 

「了解しました」

 

呼び出された隊員は、ムソウの最低限の伝達命令を聞くと綺麗な敬礼をし執務室から出て行った。

それを確認したムソウは一枚の報告書を見た。

内容は安寧道という宗教についてまとめられた経過報告書だ。

 

「ナイトレイドや革命軍よりも先にこちらを潰すべきか、それとも……」

 

宗教の利用価値も知ってはいるが、それ以上に宗教の恐ろしさを知っている。

前世で反キリストだった影響か、今世でもあまり宗教と言うものを好きになることが出来ない。

だが、帝国内で最も信者が多い安寧道を利用した方が、ムソウの考えている”計画”の実行では都合がいい。

 

「これもまだ報告待ちか」

 

安寧道についてまとめられた経過報告書を他の書類とは別の場所に片づけるとまた書類仕事へと戻った。


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