思い返せば、アニメが終わってしまったことでテンションが下がり、卒論で時間が無くなり、今年最後の更新が間に合わなくなるかと一時は不安になりましたがギリギリ間に合いました。
武装親衛隊の手によってボリックが暗殺された翌日、安寧道内部は荒れに荒れていた。
安寧道内で最大派閥のリーダーであるボリックが暗殺されたのだ。
この気にボリック派の勢力を削ごうと対抗派閥が、ボリック派の悪事を全て暴こうとするのは必然の流れだ。
保安本部Amt IV(第IV局)通称ゲシュタポ内にある、IV Bは宗派を専門に取り扱う部署が存在する。
そこに多くボリック派の対抗派閥メンバーによる内部告発が持ち込まれており、その量は、IV Bが今まで取り扱ってきた物の比ではなく、仕事の量に対し人手が全く足りておらず、他の部署も臨時で応援を寄こすようにムソウが命令するほどであった。
それに比例するようにムソウの仕事量は増えており、引っ切り無しに報告や確認を保安本部員や武装親衛隊員が訪れに来るほどだ。
幸い爆破で壊されていた、ムソウの執務室が直っていたこともあり、スムーズに仕事をすることができている。
「安寧道は、今どうなっている」
「はっ、予想通りボリック派の勢力は衰えを見せて来ており、武装蜂起派が大多数を占めて来ております」
「そうか、引き続き監視を怠らせるな」
「了解しました」
「次」
そう言って、安寧道を監視させている者を退出したのを確認したムソウは次の者を入室させた。
ボリックが死んだだけでこれである、大臣を殺した時のことを考えると、もう少し根回しが必要だと言うことをムソウは改めて実感した。
「ナイトレイドの捜索は、現在も難航しております」
「そうか、引き続き捜索しろ。見つけた場合は交戦せず、すぐさま報告と監視。監視は常に一定距離を保つよう徹底的に周知させておけ」
「はっ!!」
「他には何かあるか?」
「ナイトレイド捜索中に通る村や街でも、市民が蜂起する兆しが見えて来ております」
「そうか、今の所はそれに取り締まるつもりはない。こちらに敵対行為をしてきた場合を除き、放っておけ」
「了解しました」
市民が蜂起するまでが、ムソウの計画だ。
大きな街や地方都市には、民衆を扇動するために潜入させているムソウの息のかかった者もいる。
そう言った者達の存在が大臣に気付かれることなく、その役割を全う出来ていれば、遠からずその矛先を大臣と皇帝に向けさせることができる。
そうしてやっと計画の第一段階が完全に完了したと言える。
第二段階はその先、反乱軍と繋がっている異民族をある程度帝国内に侵攻させ、ムソウ自身が大臣の手の者によって暗殺されることだ。
そのためには、異民族が帝国領内に侵攻してきたためと言う大義名分を手に入れる必要があり、なおかつ大臣に自身を暗殺するよう嗾ける必要がある。
異民族侵攻の際には、P1500モンスターは投入しないが、内輪で”超巨大戦車”と呼ばれているラーテを初めから投入する予定である。
破壊力はすでに実証済みであり、ラーテ一輌だけでも単純な戦力値だけで考えるならばオーバーキルな代物だ。
それが二桁にとどかない数とはいえ、既に建造されているのだ。
知らない方が幸せであるとは、まさにこの事だろうと建造に携わった親衛隊作戦本部局集団A,Amt VIII 兵器局の局員および、開発に携わったAmt IX 技術および機械開発の全員が思ったことをムソウは知らない。
そしてこの兵器軍の存在を大臣はもちろん、皇帝も知らない。
もし大臣の耳にでも入ったならば、間違いなく国家に反逆する恐れがあると言いムソウの権力を削ぎに来るのは目に見えている。
そのため兵器局、技術および機械開発に関しては、その情報機密を最上位に設定してある。
大臣と言えど簡単に知ることの出来るレベルではなく、もし知ろうとすれば間違いなくムソウに気付かれる。
しかし大臣が暗愚であれば全く問題ないのだが、悲しいことに大臣は頭が良くキレる。
それこそ、最も皇位継承権の低かった現皇帝を皇帝に据えるほどに。
逆に言うならばそこに、ムソウを暗殺するように嗾ける糸口がある。
「次」
「兵器局よりモンスターの製造は完成、後は動作確認のみ、ラーテは3両完成、残り2両も近日中に完成するとのことで、こちらも残すは動作確認だけとのことです」
「他の車両のメンテナンスも怠らせるな。それとモンスターとラーテ専用を含む全車両および銃火器の銃砲弾の製造ラインの状況はどうなっている?」
「既に昼夜問はず稼働です」
「そうか、引き続き製造ラインは銃砲弾を優先するが、最優先は車両機器の消耗部品だ」
「はっ!!」
銃砲弾のような消耗品も重要だが、肝心の車両が有事の際部品がなく、修理できません、では話にならない。
そのことをムソウはきちんと理解しているので、下の者達も安心できる。
こういった細かいことを理解出来ていない上司がいるのといないのとでは、部隊の士気に雲泥の差が生じる。
ようやく午前最後の報告が終わり、ムソウが一息つこうかと席を立とうとした時だった。
三度執務室のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します。陛下より長官に緊急招集が掛かりました」
「分かった。直ぐ行こう」
どうやら休憩はまだまだ先になるなと、ムソウは内心思った。
それと同時に、大臣が行動を起こすのがムソウが予測していた時よりもはるかに早かった、とも思っていた。
ムソウとしても、大臣が遅かれ早かれ皇帝を使い自身を招集することを予測していた。
内容もここ暫く帝都を離れていた理由であろうことは、ムソウにとって既に予想済みである。
予定よりも早いが、大臣を少し嗾けておくか、しかし大臣がどのタイミングで暗殺しかかるか分からない以上少しこちらでコントロール必要があるな。
ムソウは大臣がどのように動くか、招集された謁見の間に着くまでの間考え抜いていた。
謁見の間――
「いきなり呼び出してすまぬなムソウ。どうしても大臣が訊きたいことがあると言うので呼び出させてもらった」
帝国内で最も高い位置に存在する席に座っている現皇帝は、席の横に侍る大臣に目配せしながらムソウに告げた。
「いえ、作業は滞りなく済んでおりますので、今しばらく私が席を外しても問題はありません」
「そうか、流石だな!!」
皇帝は感心したかのように何度も肯いて見せた。
「それで、私に訊きたいこととは何でしょうか?」
「おお、そうであった。大臣、そちが訊きたいことがあると申していたが」
「ええ、陛下。少しばかりムソウ殿に訊いておかなければならないことがありますので」
大臣は器用に皇帝に見える左半分の顔は、慈愛に満ちた笑顔であったが、死角となっている右半分は、ムソウをその眼光で射貫かんばかりに睨んでいる。
「よい、好きに訊くがいい」
大臣は、ニコリと皇帝に笑みを浮かべ一歩前に出た。
丁度表情が皇帝の位置から死角になるため、大臣は取り繕っていた表情を崩し、本性を表した下衆な笑みを浮かべた表情になった。
「ムソウ殿に訊きたいことがいくつかありますが、やはり一番お聞きしておきたいのは、ここ暫く帝都に居なかったと聞きまして、どちらへ行かれていたかお聞かせいただけますか?」
「そのことならば、ここ暫く諜報より異民族の動きが活発化していると聞いてな。武装親衛隊全部隊を直接見て回って来ただけだ。武装親衛隊が展開しているのは広いからな。それで遅くなっただけだ」
「そうですか」
大臣は顎鬚を撫でながら、ムソウを見下ろしていた。
「しかし、安寧道のボリックと言うものが暗殺された日に帰ってくる。あまりにも都合が良過ぎませんかね~?」
大臣はあくまでもムソウを陥れたいらしい。
「ふむ、確かにそれは今朝の報告で見ている。しかしそれはナイトレイドの犯行なのであろう?」
「確かに、早馬の報告ではそうらしいですね。ですが、エスデス将軍からの報告では外部からの狙撃と妨害があったと書いてありましたが」
「狙撃ならばナイトレイドのマインではないのか?あれはナジェンダが持っていた帝具・パンプキンの今の使用者であろう。不満があるならば死体をスタイリッシュ辺りに見聞させればよかろう」
「それもそうですね。しかし残念なことに、安寧道の信者の手によってボリックの死体は、既に埋葬されてますからそれは叶わないですね」
「そうか、それは残念だ」
「ですが、ムソウ殿の容疑が晴れたわけではありませんよ。できればムソウ殿が見回っていたと言う確固とした証拠が欲しい所ですが」
「ならば、大臣が自ら武装親衛隊全員に聞いて回るか?」
「いいえ、そこまではしなくていいですよ」
大臣は持ってきていた肉塊に齧りついた。
「話はそれだけか?」
「いえいえ、ムソウ殿には少しお願いしたい事があります」
ここで願いと来たか。
ムソウの予定では、武装親衛隊を使って安寧道に対し牽制を掛けろと大臣が言うと思っている。
正確には、大臣が考え皇帝が命令する。
立場的にムソウはあくまで帝国の官僚でしかない。
現状、計画に支障を来さないためにも従っておくのが無難であるとムソウは瞬時に理解した。
「願いか、私に出来ることならば構わんが、不可能なことは断らせてもらうぞ」
「ええ、構いませんとも。ムソウ殿とムソウ殿の私兵である武装親衛隊ならば可能なことです」
「武装親衛隊は、西と南の異民族牽制に使われているのは理解しているだろう」
「全部動かせと言うわけではありません。一部だけならば他の部隊で補えるでしょう?」
「やることによって、どの程度兵を動員しなければならないか、分からないからな、一概に可能とは言えんな。それで大臣いい加減本題に入ったらどうだ」
「おおっと、そうですね。ムソウ殿にお願いしたいのは、反乱軍と繋がりのある傭兵や暗殺者狩りです」
ムソウの予想を斜め上を行くお願いに、一瞬だけだが内心驚いていた。
反乱軍とつながりがある、今の帝国内では、どれほどの規模に膨れ上がっているがムソウと言えど、流石に全容を完全にはつかめていない。
精々ムソウが掴んでいる情報は、異民族と貿易し、その利益を反乱軍に流している可能性がある村や街や都市や太守についての情報だ。
この情報だけでも十分だが、ムソウとしては可能性があるだけでは不満があり、完全な裏取りを現在進行形で取らせている。
しかし大臣がムソウにお願いと称した命令は、傭兵や暗殺者狩り。
全く手元に情報がないと言う訳ではないが、ムソウとしても無駄な手間だと思っている。
「その願いを叶えるとなるとかなりの人数を要すことになるぞ」
「そうですね。ならば真西から北に掛けての守り代わりの部隊を送ります。それでどうですかな?」
もし大臣の言うとおり真西から北に掛けて展開している部隊を使えるようになるならば、第1師団、第7師団、第8師団、第12師団の四つの師団を手元に戻せることになる。
そうなればムソウの計画はかなり大部分まで推し進めることが可能となるため、デメリットどころかメリットの方が大きい。
むしろメリットが大きすぎるため、大臣が何かを隠していると考えるのが自然だ。
「陛下としてもどうでしょう?ムソウ殿に反乱軍とつながりのある者を、この機会に粛清してもらっては」
「そうだな。ムソウにならば、安心して頼めるな!!」
まるで事前に打ち合わせたかのように、トントン拍子に話が進んでいく中ムソウは、大臣の狙いを考えていた。
今さら大臣が、暗殺者程度を恐れるとは考えにくい。
と言うのも、大臣は基本的に宮殿の外には出ない。
その宮殿も、守りはほぼ完璧と言っても過言ではない程厳重だ。
下手に騒ぎを起こそうものならば、近衛とそれを率いる帝国の英雄と呼ばれる大将軍、ブドーが直ぐさま駆けつける最高のセキュリティーだ。
「陛下もこう言っておられます。どうでしょうムソウ殿?」
下衆な笑みを浮かべながら大臣は、位置的な関係もあるがムソウを見下すように告げた。
「分かった。しかしそうなると、また帝都を暫く開けることになるが構わんか?」
「ええ、構いませんとも。ムソウ殿がいない間も保安本部は確りと機能していましたしね」
「分かった。3か月、その期間ですべて終わらせよう」
「何と!!3か月で、流石ですなムソウ殿」
大臣は、わざとらしく驚いて見せる中、その真黒な腹の内で、あらゆることを計算していた。
その一つが、ムソウに長期的に帝都から離れさせることで生まれるメリットについてだ。
ムソウが帝都に居るのといないのとでは、何かを企むにしても安心できないからだ。
そして自身と敵対している者を処刑するにも、ムソウと言う存在がどうしても邪魔になる。
僅かな隙、綻びを見せずとも見つけ出し、そこを突いてくるため、大臣に敵対する派閥は今なお存続できているのだ。
しかしムソウが長期的に帝都を離れると、ムソウと言う絶対的な守りがなくなるため、大臣の敵対派閥は何も装備しない状態で、激戦区を駆けぬけるような状態になってしまう。
大臣はまさにこの期を狙っていたのだ。
目障りな存在である、敵対派閥を消す好機を。
「では、お願いしますねムソウ殿。陛下からもムソウ殿に激励を送ってはどうでしょう?」
「そうだな!!ムソウお前には期待しているぞ!!」
「はっ!!」
ムソウは跪きこそしないものの、頭を下げるとそのまま謁見の間を出て行った。
「ヌフフフフ、期待していますよ」
ムソウが出て行き、扉が閉まる瞬間、大臣は誰に対してか分からぬ不気味な笑みを浮かべながら呟いた。
その姿が、閉まる瞬間の扉の間から黄金の瞳が一瞥していると気づかずに。
ムソウは自身の執務室に戻ると今後の指示を各部署に伝えていた。
大臣が考えている可能性のあるものを二つ予測した。
一つ目は、ムソウが傭兵や暗殺者狩りを始めた、と大臣が自身の手の物を使い密告し、危機感を煽らせようと考えていると思った。
そうすることで、逆に傭兵や暗殺者を、大臣自身が依頼や命令したという事実が存在せず、自主的に動かすことで目的通りに使うことができる。
ムソウの暗殺と言う目的に。
しかし大臣とて、バカではない。
程度の知れた連中ではムソウを暗殺することが叶わないことくらい、分かっているはずだ。
それこそ、一時期チェルシーに潜入させていた暗殺結社オールベルグ全員に帝具・村雨を装備させなければ不可能だ。
二つ目は、帝国へと戻って来ているとほぼ確証できる、シュラに何かしらの権限を与えることだ。
ムソウがいなければ、ことを容易に進めることができる。
一度権限を与えてしまえば、ムソウと言えど簡単に取り上げる事は出来ない。
精々度が過ぎない様に保安本部を使い、昼夜問わず監視をさせ、何かがあればムソウ自身が向かい止めること位だ。
現在の帝都は、宮殿にブドー、帝都にムソウとエスデスとどれ程の大軍が進んで来ても攻略できない完璧な布陣だ。
しかし、帝都からムソウがいなくなり、ボリックが暗殺された失態をカバーするためにエスデスが離れれば、その前提は覆る。
宮殿自体は、防御結界の帝具とブドーがいるから問題ないが、帝都自体には容易に刺客が入りやすくなる。
保安本部やイェーガーズがいるとはいえ、カバーできる敵の絶対値が決まってしまうからだ。
「これより私は暫くの間、帝都を離れる。緊急の連絡は無線機を使え。周波数は――」
シュラに対する対策は、既に保安本部員に伝えてある。
後は大臣がどこまでシュラを擁護するかだなと、ムソウは自身が離れることで、帝都で起きるであろうシュラによる
また来年からもよろしくお願いします。
来年は、卒業しての就職。
ニートになれず、作品を進めるスピードが下がるでしょうが、見捨てず温かい目で見守っていて下さい。
追伸
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