獣が統べる!<作成中>   作:國靜 繋

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久々の投稿


獣と道

ムソウの号令の元、第一師団の隊長たちがムソウの天幕に集まった。

 

「今回の作戦だが、成功率を上げるために私も共に出る」

 

第一声の内容が、いきなりムソウ本人の出陣であったため一気に天幕内がざわついた。

それもそうだろう、手足を自由に扱えるのに頭を先に出す者がいるはずがないからだ。

しかしそれは、他の組織に限った話だ。

ムソウに、黄金の獣にとっては、武装親衛隊だろうと保安本部員であろうと所詮は鬣の一本でしかなく、爪牙足りえていない。

であればこそ、獲物を狩るためには獣自身が出陣しなければならないのだ。

 

「ちょ、長官自らですか!!長官自ら出陣なさずとも」

 

続けざまに何かを言おうとした部下の発言をムソウは手で制した。

 

「出ると言っても、お前達が一撃でボリックを殺せば、私が直接戦闘をする必要はなかろう」

 

「確かにそうでは、ありますが……」

 

「それとも私が前線に出て困るようなことでもあるのか?」

 

「いえ、そのようなことはありません!!」

 

ムソウの黄金の瞳に睨まれた者は、ただ自身の意見を否定するしかなかった。

それもそうだろう、黄金の獣に睨まれてなお、自身を保ち続けられるものなどそう多くはない。

むしろ自身の意見の否定であったとしても、はっきりと意見を言えるだけその者は十分凄いと褒められるべきである。

 

「それと、幾つか今回の作戦の変更点を伝える。一つ目だが、ボリック暗殺はナイトレイドが攻めてからだ。二つ目、警備体制が当初の予定よりも強化されている。その中には、強化されているスタイリッシュの強化兵が多数配置されている」

 

強化されているスタイリッシュの強化兵、これがムソウにとって予想外であった。

ナイトレイドのアジト襲撃の時よりも強化兵の強化具合が上がっており、スタイリッシュが強化兵を将棋の駒で例えていた。

その例えになぞって言うならば、歩兵だった者達が成金になった具合には強くなっており、その装備もスタイリッシュが手掛けているため、性能は相応の高さを持っている。

他にも香車、桂馬、銀も金と成り、角行や飛車も竜馬と竜王と成っている。

間違いなく手ごわくなっており、正面からぶつかったのであれば、一人一人の質という面で間違いなくスタイリッシュの私兵に負けてしまう。

だからと言って、それがイコールで人的損耗に繋がるかとか言えば、そうではない。

何故ならば、既に武装親衛隊総勢約90万、保安本部約20万、総数約110万は、既にムソウの帝具であるロンギヌスによって戦奴に変えられており、死した後はムソウの城の一部に戻るだけであり、直ぐに再成させられる。

約110万と数値で見ただけでも絶望であるのにも関わらず、その実はムソウを殺しきるその時までその数は無限であると言えるのだ。

 

「長官、一つ質問が」

 

「なんだ」

 

「何故ナイトレイドが攻めてからなのでしょうか?ナイトレイドが攻める前であれば、いくらでも付け入る隙があると思いますが」

 

「私が欲しいのは、ナイトレイドがボリックを殺した。その事実だ」

 

「ナイトレイドが殺した、ですか……」

 

「そうだ。あくまでもボリックを殺したのはナイトレイド。そのように周知されるのが、私にとって一番好ましい結果を得ることができるからだ」

 

ムソウにとっての最善は、安寧道による武装蜂起だ。

当初は安寧道諸共潰すことで、国民の心のより所を潰し不安を煽り、民の蜂起や反乱軍の進軍を早めさせる予定であったが、大臣との敵対が、水面下から表面上に浮き彫りになって来た今、使える物は、例え心情的に好きになれない宗教であろうと使うのがムソウだ。

そしてムソウにとって最も好ましい結果と言うのは、”武装親衛隊がボリックを助けようとした”その事実である。

実際がどうであれ、そうであったと言う過程さえあれば、ムソウとしては問題ない。

下手に武装親衛隊がボリックを殺そうとしたと大臣に伝われば、敵対している以上何らかの行動を見せるのは分かり切っている。

その行動がムソウにとって都合が悪くなることも、だ。

 

「分かりました」

 

「他に聞きたい事のあるものはいるか?」

 

「私も一つ」

 

「何だ」

 

「スタイリッシュの私兵が仕掛けてきた場合、殺しても構いませんか?」

 

「かまわん。貴様らに牙を向けると言うことは即ち私に牙を向けると言うことだ。殺してしまっても構わん」

 

武装親衛隊は、獣の首元を護る鬣だ。

ならば、鬣に牙を向けると言うことは、即ち獣の首元に牙を向けようとしているのと同義である。

いくら敵対者が鬣に攻撃をしようと思っただけで、獣には攻撃するつもりがないと言いはろうとも、獣が耳を貸さず、反撃されるのは必定だ。

敵は、好奇心から鬣に喧嘩を売ることが、逆に獣によって全てを奪われれ、食い尽くされることになる。

安易な思い付きが、逆に高い買い物をさせられることで、自身の愚かしさを学習することになるだろう。

 

「了解しました!!」

 

「部隊編成はどうなされますか?変更がなければ当初の予定通りで宜しいでしょうか?」

 

「編成、部隊配置は、突入部隊以外は変わらん」

 

「突入部隊はどのように?」

 

「当初の予定での正面からの突入を中止し、部隊を半分に分け一部隊は暗殺のバックアップと警護、もう一部隊はボリックの屋敷に通じる抜け道の捜索と発見した場合は、そこからの突入だ」

 

「抜け道に関しましては、それと思われるモノを郊外にある大墓地で発見したと、先ほどありました」

 

「ほう、中々優秀ではないか」

 

「ありがとうございます!!」

 

ムソウに褒められたことに、その部隊を指揮していた部隊長は表面上こそ普段通りだが、内心とても喜んでいた。

と言うのも、ムソウの方針として出来て当たり前であり命令前に期待以上のことをしなければ褒めない。

そのため、ムソウが褒めると言う行為をするとするならば、まさに命令前に既に結果を出している今のような現状でなければならない。

 

「私も一度確認しておきたい、数刻後に出るため発見した部隊を陣の前で待たせておけ」

 

「了解しました!!」

 

「各自、状況開始まで持ち場にて待機。以上、解散!!」

 

確認事項や変更点を伝えたムソウは、解散の号令を唱えると各隊長たちに自身が率いる部隊へと戻らせた。

 

「後は、時が来るのを待つだけか……」

 

ナイトレイド、イェーガーズ、武装親衛隊。

ここに小規模ではあるが、革命軍、帝国、ムソウによる小さな小さな、しかし何れ起きる大きな戦争の前哨戦が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

数刻後――

 

ムソウが直接向かうと言うこともあり、部隊の士気は最高潮であった。

ただの護衛と言うなかれ、自身が所属している組織のトップを直々に護衛できるのだ。

武装親衛隊と言う組織を知っている者ならば、その理由を話さずして理解できるだろう。

 

「待たせたな」

 

黄金の髪を靡かせ、腰にサーベルを携えたムソウは現れた。

纏う風格は、一目で獣を連想させるほど荒々しく、しかし獲物を狙うかのように静かであった。

 

「では、私が離れる一時の間指揮を任せるぞヨアヒム」

 

「ご期待に添えて見せます!!」

 

ヨアヒム以下第一師団隊長陣が見送る中、ムソウは一個小隊を率いて、ボリックの屋敷に通じると思われる抜け道の下見のため、キョロクの郊外にある大墓地へと向かった。

キョロク郊外にある大墓地に埋葬されている死者の殆どが、安寧道の信者だ。

そのためか、墓地でありながら大きな安寧道の宗教施設がある。

 

「それで、抜け道と思われるのはどこにあったのだ?」

 

大墓地へと向かう途中、ムソウは部隊の指揮官へと訊いた。

隠密行動が要求されるため、今回小隊とはいえ、広範囲に展開することで索敵能力を上げ、また固まって動くことによるリスクを軽減しているため、ムソウの周りは最低限の護衛を残しているのみとなっている。

 

「はっ、場所は……」

 

詳しい情報を聞きながらムソウは、月明かりが照らす静かな夜道の中大墓地へと向かった。

ただ、その静けさが嵐の前であるかのように、ムソウに同行している武装親衛隊の小隊員は感じていた。

 

 

 

 

side ナイトレイド in アカメ

 

アカメは現在革命軍密偵チームと合流し、キョロク郊外にある大墓地へと来ていた。

 

「調べでは青銅からボリックの屋敷を経由して、この墓地のどこかに地下通路が通っていると思われます」

 

「暗殺決行の際には、念のためここにも人員を配置して置くと良いかと」

 

アカメは、密偵チームの報告を骨付き肉に(かじ)り付きながら聞いていた。

 

「通路の入り口が分かれば、逆にそこからボリックの屋敷地下に行けるな」

 

キリッとした表情でアカメは言ったが、銜えている肉がその表情をとてもいい感じに台無しにしていた。

 

「見つけるのは困難です!!なにぶんこの広さですし」

 

「地下通路に罠が張ってる可能性もあります!!」

 

密偵チームが地下通路を探し出す困難さをアカメに諭している時だった。

 

「危ない!!」

 

上空から殺気を感じたアカメは、銜えている肉を落としながら両手で密偵チームを引っ張るように跳びだした。

次の瞬間、アカメ達がいた位置に大量の羽根が突き刺さっていた。

 

「もしやと思い牽制してみれば、やはりアカメですか」

 

羽根ばたく音のする方をアカメが見ると、そこには満月を背にしながら羽根ばたいているランがいた。

 

「空からの偵察、やってみるものですね」

 

村正を抜刀したアカメは、抜身の刃と化した。

 

「帝具マスティマ!イェーガーズか!!」

 

「悪いですが一方的に攻撃させてもらいます」

 

ランが宣言すると、大きく羽根ばき、そこからマシンガンの様に羽根を射出した。

無差別に放っているように見えて、的確にアカメを狙っている所を見ると、ランの技量が如何に高いかを見て取れる。

しかしそれをものともせず、紙一重でかわすアカメの技量こそが信に称賛されるべきであろう。

 

「おい、もっと離れよう。アカメさんの足を引っ張りかねん」

 

「そうだな、応援することしか出来んのが歯がゆい」

 

帝具戦において古来から続く絶対的鉄則がある。

それは、帝具使い同士が叩けば必ずどちらかが死ぬと言うものだ。

むろん何事にも例外があり、片方が最初から逃げるつもりであったり、マスティマの様に空が飛べ、村雨の様に白兵戦特化しているのであれば、マスティマが逃げに転じ、空を飛び続けたのならば両者生存できる。

 

「(距離が空き過ぎて羽根の威力が落ちてますね……ならばもう少し降下して)」

 

威力があり、なおかつ上空と言うアドバンテージを活かせる距離まで降下したランはアカメを囲むように羽根を飛ばした。

それをアカメは、薄皮一枚でかわし、かわすことの出来ないものは村雨で切り裂き、かすり傷程度で済むようにした。

それを見たランは、惜しいもう少しで近づけばと、もどかしい気持ちを抱き、さらに降下しようとした時だった。

自身がいつの間にか当初の位置よりも大幅に下降していることに気付いた。

常に冷静なランだが、あと一歩でと焦らされたならば僅かばかり冷静さを曇らせてしまうものだ。

だが、自身の状況を客観的に捉えられるランは、このままでは村雨の間合いに入る、それのことが意味することを理解しているランは、自身の役目である偵察に徹することを選ぶことにした。

アカメは、もう一度紙一重でかわせば、村雨の間合いに入れることができると、常に冷静であれるように心に余裕を持たせるようにしていた。

次で、アカメがそう思っていたらランは、攻めるどころか背を向けキョロクへと飛んで行った。

 

「……逃げたか、冷静な男だ」

 

村雨を鞘に納めながらアカメは、ランのことをそう評価した時だった。

 

「へっへっへっへ」

 

背後から薄気味悪い声が聞こえた。

アカメは聞き覚えのあるこの声の主のいる背後に振り向いた。

 

「殺し屋が姿観られた敵を逃がしちゃうなんて大失態だねーっ。可哀想だから俺が遊んであげるよ、アカメちゃあーん」

 

「イバラ!!キョロクに来ていたのか!?」

 

羅刹四鬼と闘うのは大臣暗殺、最後の決戦時だとアカメは思っていた。

大臣お抱えの処刑人を自身の傍から離れさせると思っていなかったからだ。

 

「へっへっへ、帝国を裏切った悪い子には、お尻ぺんぺんしないとね」

 

そう言ってイバラは薄暗いため良く見えない何かを投げて来た。

それが何かアカメは、足元に落ちた瞬間に理解するとそのままイバラに襲い掛かった。

 

「葬る!!」

 

「やってみなぁ!!」

 

イバラがそう言うと同時に両指の爪が勢いよく伸び、アカメを貫こうとしたが、アカメは直線的であるイバラの伸びた爪をかわし詰め寄った。

勢いを活かし、全身をひねるようにして抜刀、横一線にイバラの胴を切り裂くはずであった。

しかし、人体構造上ではあり得ない動きで、イバラは器用に胴体だけを村雨の刃が届かぬ位置まで引いた。

さしものアカメも予想できなかったため、絶句を禁じ得なかったが、だからと言って止まっていい状況ではない。

急ぎイバラの間合いからバックステップで飛び退いた時だった。

イバラの全身から何かが飛び出してきた。

 

「へっへっへ、俺達羅刹四鬼は壮絶な修行に加え、寺の裏山に棲むレイククラーケンの煮汁を食べて育ったせいで、身体の操作は自由自在よ」

 

ゴキっと、関節が外れる音が静かな夜に響き渡る。

ゴキゴキと更に関節を外すイバラはゴキンと一際大きく全身を震わせながら関節を外した。

 

「その禍々しい刀を避けることだって出来るし、こんな事も可能なんだぜェェエエ」

 

イバラは関節と言う駆動限界を排した両腕を鞭のようにしならせながらも、槍の様に鋭く突いて来た。

速い、純粋にアカメはそう評した。

身体の自力ではそもそもイバラに軍配が上がる。

暗殺者として育てられたアカメは、瞬発力や奇襲成功のための隠密行動などが最優先で鍛えられているのに対し、イバラは皇拳寺で育て鍛えられたイバラは、暗殺技能に加え白兵戦技能も鍛えている。

更に性別の壁があるため、どうしても力において劣ってしまうところもある。

 

「ほぉおらほらほらぁぁああああ!!どぉぉぉおうよアカメちゃぁぁあああん」

 

そう言ってイバラが攻めている時だった。

アカメもイバラも同時にその場から飛び退くと、同じ森の方を見た。

 

「ふむ、さすがアカメとイバラと言った所か」

 

張り上げた訳では無い。

にもかかわらず、確りと両者の耳に届いた声。

割の中から複数の人に囲まれているその声の主の瞳は総てを見下ろし、夜の闇においてひときわ輝く黄金。

アカメもイバラも声の段階で既に誰だか分かっていた。

忘れられるわけがない、あのような存在を。

 

「何故だ……」

 

アカメは村雨を抜刀しながら声の主へと駆けだした。

アカメとムソウの間に周りにいる者達が割り込もうとしたが、ムソウはそれを手で制した。

 

「何故ここに居る。ムソウぅぅうううううう!!」

 

かすり傷でさえ確実に殺せる村雨。

ならば首や頭と言った小さな的でなく、胴体等大きな的を選ぶのは必然であろう。

特にそれがムソウであるならばなおのこと。

しかし激情に流されているアカメの太刀筋はムソウに簡単に見切られ、腰に携えていたサーベルであっさりと受け止められた。

サーベルと村雨がぶつかり火花が散った。

 

 

side END




バトルシーンが難しい。
どんな風にすればいいかアドバイスが欲しいです!!



そして、ロザリオとバンパイアのSS少ないなと思って、主人公を境界の彼方にしたものを書いてみたいと思っています。
まあ、それよりも書かないといけない物が多いんですけどね。
主に小説とか卒論とか卒論とか卒論。

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