ムソウが襲われてから二日後――
消失した書類を全て作成し直したムソウは、珈琲を飲みながら一息ついていた。
襲われたムソウの執務室は、現在急ピッチで修復されており、ついでとばかりに保安本部全体の保守点検も行っているため、保安本部全体が騒がしくなっている。
襲撃事件が起きて直ぐに警備体制は見直された。
保安本部は、保安部と諜報部を一つの組織にした際指揮系統をまとめるために宮殿近くに帝国でも一、二位を争うほど大きな建物を皇帝より貰い受けた。
保安本部の仕事内容は、敵性分子を諜報・摘発・排除する政治警察機構の司令塔であるため、比較的一般人も敷地内に入りやすくなっており、ボディーチェックも行われていないため警備が緩いと思われがちだ。
そもそも敷地内と言っても建物が在るのは宮殿近くにあり、保安本部と他の建物との距離自体も10メートルと離れておらず、同等の高さの建物が並び立っている行政区でもあるため、宮殿と同レベルまでの警備を期待する事は出来ない。
もしそのようなことをするとなると、保安本部に隣接する建物すべてに常に警備員を配置しておかなければならなくなる。
そのようなことは事実上不可能であるため、どうしても万全と言えるほどの警備を期待する事は出来ない。
だからと言って、保安本部の警備を疎かにするムソウではない。
ムソウは、万全な警備を期待できないならばと、6交代制で保安本部内部、周辺を警備させるようにすることで周りに対して威圧感与えることでこれまで警備させていた。
しかしそれで不完全であると露呈した今、警備体制をそのままにするムソウではない。
建物自体も侵入が出来ない様に保守点検と同時に出入り口や窓を改修し、警備の人数の増強、屋根の上に物見用の場所も新たに設置し昼夜問わず交代制で警備にあたらせた。
さらに怪しい動きをする者は無条件で逮捕許可を出しており、逃亡を図った場合は射殺の警告を一度することで殺害の許可も出すと言う徹底ぶりだ。
むろんムソウの仕事はそれだけではない。
書類を作成し直し、警備体制の見直しの会議にも出席しているその間にも次々と寄せられる書類は、塔を作り上げて行ったが、持ち前のスペックが常人の比でなかったため、苦もなく捌き終っている。
いや常人の比ではない超人であっても、その量を二日と言う短い時間で捌ききるのは不可能であり、ムソウだったからこそ可能なのだ。
「さて、エスデス達は今頃どうしているだろうか」
キョロクへと向かわせた武装親衛隊第一師団から早馬ならぬ軍用バイクでもたらされた情報によると、昨日キョロクへと向かう途中のロマリー街でエスデス達と遭遇、その際ボルスがナイトレイドの手によって殺され、こちらの手に欲しかったルビカンテは自爆により消失したと、報告がもたらされた。
ルビカンテが無くなってしまったのは惜しかったが、無くなってしまったものを悔やんでも仕方ないのでムソウはルビカンテを無かったものとし、今後についてまとめている計画の草案を書き変えた。
この草案事態、秘匿度が高く内容を知っているのは武装親衛隊の中でも師団長または作戦参謀の一握りだけだ。
そしてその内容と言うのが、帝国に対するクーデターだ。
クーデター、革命とも取れるこの計画が帝国側にばれるとムソウは一瞬にしてその立場を失い、帝国そのものを敵に回すことになる。
それ自体はムソウとしては問題ない。
だが、現状内と外その全てを同時にすのは好ましくなく、下手をしたら帝国、反乱軍と異民族を敵に回す結果となり、結果的に無駄な消耗をしてしまうだけだ。
ならば、反乱軍と帝国軍、異民族その全てが程よく疲弊した頃を見計らってやるべきだ。
未だ草案段階の分厚い計画書を一束にまとめ上げたムソウは他の書類と一緒に地下に在るアーカイブへと向かった。
地下のアーカイブへと向かうには複数の鍵が必要だ。
地下へと降りる入り口には常に二人の警備がおり、ムソウ以外の者が入るには手形とサイン、許可書の三つが揃ってなければならない。
そうして初めて、一つ目の扉が開き、地下へと降りる螺旋階段が現れる。
螺旋階段を下りて行くことおよそ十分、二つ目の扉が現れ特別に貸し出された鍵を差し込み明けることが出来る。
二つ目の扉から更に1時間ほど経つと、地下のアーカイブへとたどり着くことが出来る。
そこにも、もちろん扉が道を阻んでおり、その大きさは今までの比ではない。
扉の面積だけで、一戸建ての家が建てられるほどでその重量も見た目通り、いや見た目以上にある。
その重量こそが最後の鍵であり、その扉を開けられるほどの者でなければ入ることが出来ない。
ある意味鍵を管理する以上に安全なものかもしれない。
その扉をムソウは両手で左右同時に押すと、重々しく重量感を感じさせる音を立てながら開いて行く。
本来ならばこの扉を両方とも同時に開かせるのは不可能に近いため、力自慢を含め複数人で片方を開かせるのが精いっぱいだ。
それを両方同時に開かせるムソウはまさに超人を越えているだろう。
そして、最後の扉が開かれ中に入ると、そこには無限に広がっている本棚が永遠と感じるほど立ち並んでおり、天井も高く見上げるのに首が痛くなるほどだ。
本棚一つ一つが天井いっぱいいっぱいまでの高さにあるため、専用の足場があり場所によっては区切り訳がされているためそれ相応の立場でなければ入れない様にされている。
そんな中ムソウは目指すべき場所が分かっているような足取りで歩き、誰も居ないこの場所はとても静かでありムソウが歩くたびに靴底が床を踏む音がどこまでも反響している。
反響している音だけが占めるアーカイブの中、ムソウは目的地へとたどり着いた。
唯でさえ入るのが困難なアーカイブの中に在って更に厳重に鍵がかけられている。
専用に作られた特殊な形をした鍵が五つ必要であり、開けるのにも正しい順番が必要だ。
そのカギを取り出したムソウは左上、右下、中央、右上、左下、そしてもう一度中央の順番で解錠していく。
開けられた扉の中に入ると中央に一つの机と椅子、左右に本棚が在るだけの小さな部屋であった。
その左中央の本棚にムソウは計画の草案をまとめた物を入れた時だった。
一つの書類が本棚から落ちて来た。
「これはまた、何とも懐かしいものを」
落ちて来た書類を拾い上げたムソウは、その書類のタイトルを見てチェルシーとの出会いを思い出した。
数年前――
「それで、この報告の裏取りは出来ているのか?」
ムソウは自身へともたらされた報告書を見ながら、報告しに来た諜報部の人間へと問いただしていた。
「はっ、街での調査、役場への潜入その全てが黒であると判明しております」
休めの体勢でムソウへと諜報部の人間は報告する。
「このリスト以外に怪しい者はいなかったか?」
「一人、怪しいとまでは行かないまでも少し挙動不審なものがおります」
「その者の名と経歴は分かるか」
「名前はチェルシー、経歴はいたって普通であり、地方の一般家庭の出身であります」
一般家庭の出身と言うことは、それまでの間帝国の闇に触れてこなかったことになる。
帝国の闇は深く、中央になるにつれてその闇はどのような善人であろうと蝕み闇へと引きずり込む。
それが例え闇の深さが浅い地方の役場であろうと変わらない。
ならば、程度の差はあれ挙動不審な態度を取ってしまうのも致し方なしとムソウは判断した。
「その程度ならば捨て置け、大方帝都の闇になれておらぬだけであろう」
ムソウは、一つの書類を書き上げると報告しに来た者に渡した。
「それを人事部へと持って行け。明朝一斉摘発を行う」
休めの体勢から気をつけの姿勢を取り敬礼をした諜報部の者はそのまま退室していった。
「しかし、ここまで酷くなるとは。やはり前皇帝は、良くも悪くも凡人であったか」
今は亡き皇帝を思い出しながらムソウは、椅子の背もたれに体を預けた。
前皇帝は、ムソウのことを気に入りいきなり高い位置へと着けた人物であり、そのせいで周りの人間とムソウとの折り合いは最悪だった。
だったと言うのも、与えられた職務以上の成果をだし、時として帰属であろうと高官であろうと容赦なく取り締まったことにある。
これにより、ムソウは力ある者達や後ろ暗い背後関係を持つもの達から畏怖されるようになった。
この時からだろうか、何をやってもそれなりの成果しか出せていなかった皇帝が最も評価されたのは。
そして、老衰に見せかけて暗殺されたのも、ムソウと言う脅威を目に見える形で作り上げ、武装親衛隊為るものの設立を許してしまい、剰えその指揮権限をムソウに与えてしまったからだろう。
詳しく調べればいくらでも証拠は出てきそうなものだが、皇帝の遺体であり、目に見える形での外傷がなかったため直ぐに国葬で弔われた。
そこからが泥沼で、誰が次代皇帝に付くかという跡目争いが起きている。
現在最も皇帝の席に近いと言われているのは、文官でありオネスト派と言われる者達が推している皇帝の子で最も幼い皇子と現大臣であるチョウリ派が推している、皇帝の嫡男である。
ブドーは武官は政治に関わらないと言って、我関せずだ。
ムソウとしては、どちらが勝とうと然程興味がないため、ブドウとは違い中立の立場を保っている。
チョウリが勝っても、オネストが勝ってもムソウの地位は変わらない、いや変えることが出来ない。
その後、地位の向上があったとしてもそれより下に落ちることはない。
知り過ぎている、切れるカードを持ちすぎている。
これから地位を得る者、今の地位を護ろうとするものすべてに有効な手札をムソウは持っており、そして何よりもムソウの地位を脅かせないのは、作られてからこの方誰も触れるどころか見ることさえ敵わなかった、規格外の帝具をその身に宿すことになったのが主な要因だろう。
「さて、今日はこれで終わりとするか」
日も既に落ちきっており、今は宮殿の一角を借り受けている保安部にある自身の執務室の窓から帝都の夜景を目にしていた。
帝都と言うだけあって、その夜景は綺麗なものだが、その光を際立たせている闇の中で今多くの人の命が奪われ、ムソウの手の者によって捕縛されるか、断罪されている。
帝都警備隊もいないことはないが、如何せんあの中も帝都の闇に侵されているため、はっきり言って使い物にならないとムソウは思いながら、執務室に鍵を掛けその場を後にした。
翌日の早朝のことだ。
日も上がり切っておらず、起きている者も少ないが、その日ばかりは違った。
静かな朝である事には変わりないが、いつもと違い帝都の外縁部には異様な光景が広がっていた。
アインザッツグルッペン、帝国内においてその名を口にする者はいない。
武装親衛隊やムソウ、保安部、諜報部、その全ての名前を押しのけて口にしないのは、その部隊の性質のせいだろう。
アインザッツグルッペン、その部隊の任務内容は敵性分子の殲滅だ。
敵性人物であると判明したならば、問答無用で虐殺し異民族であるならば殲滅する。
名目的には、帝国に敵意を持っている人物や、帝国民に成りすましテロリズムや攻撃を行おうとしている異民族を狩りたてることだ。
「さて、では向かうぞ!!」
ムソウが馬に跨りながら先導する。
軍用バイクを使えばいいと言う考えもあったが、今の帝国に技術力、そして何より石油と言う手札の存在を教える訳にはいかない。
教えでもしたならば、スタイリッシュなどの科学者がその有用性、利便性に気が付くのにそう時間が掛からないだろう。
そうなれば、今でさえ荒れている帝国が、己が利権と権力、保身のために石油のある可能性がある場所に攻め込むのは必然だ。
馬が走るたびに上下に揺れながらムソウは、現在勢力を伸ばしつつある反乱軍に付いてどう対応を取るか考えていた。
出来れば内部へとスパイを送り込み、常に新しい内部情報を欲しいとムソウは常々思ってはいるものの、中々上手く情報を得る方法がなかった。
中へと何人かスパイを送り込むこと自体は出来たものの、今は末端の立場であるため、得られる情報はたかが知れている。
その者達が上に行けたら今度は内部の重要な仕事を回されるが、代わりに知る人が限られる情報のため内部リークした者がばれる可能性が跳ねあがる。
難しい綱渡りだが、それを可能とする帝具がある。
戦闘には一切向いていないが、変装や潜入に向いている変幻自在ガイアファンデーションだ。
所在と所有者を探させてはいる者の得られる情報はほぼ皆無だ。
出来れば見つけ出し、こちらの手に欲しい。
ムソウがそう思っていたら目的地へとたどり着いた。
帝都から南方へと進み、反乱軍と帝都のほぼ中間に位置する街をムソウは見下ろしていた。
背後には続々と集結しつつあるアインザッツグルッペンの面々が装備を確認しながら整列している。
ムソウは、一度振り返ると馬に跨ったまま、端から端まで流れる様に見た。
「目標は事前に教えたとおりだ。情けは掛けるな、一人が掛けた情けが、今横にいる者達の命を奪うと思え!!」
ムソウはこの時のためだけに持ってこさせた、8.8cm FlaK 37が三機照準を太守の住まう城へと照準を合わさせた。
「撃て」
ムソウの一切感情を感じることの出来ない声と共に、独特の発射音が静かな朝の静寂を壊すように街々へと響き渡った。
開戦の号砲となるアハトアハトの発射音と共に、アインザッツグルッペンはゆっくりと進みだしたムソウを追い越しながら目標のいる場所へと走り出した。
いきなりの砲撃に戸惑っている一般市民を尻目に、アインザッツグルッペンは役場や太守の住まう城、役人の住む家々を目指し進む。
ムソウは、家屋に責められた役人たちは戸惑い、保身のために逃げ出す者、なすすべなくアインザッツグルッペンの手によって尽く銃殺されていく者、命乞いをする者その全てを無視し、太守の住まう城へと一直線へと向かう。
チェルシー side
その日も静かな朝が来た。
地方の一般家庭で育った私は、勉強が良くできたので領内の役所に勤めることになった。
その時の私は、贔屓目に見ても自身の容姿が整っていることを自覚していた。
この調子で出生して、帝都の宮殿働きにまでなり、上手く玉の輿にのり景気よく暮らそう、そんな気楽な考えを持っていた。
だが、そんなものは仕事を初めて直ぐに消えた。
帝国の役場は賄賂が当然、渡せなければ出世の道は絶たれる汚い世界。
それだけならまだしも、私が勤めている太守は狩りを獣ではなく人で楽しむような畜生だった。
秘密裏に行われる賄賂や狩り、次第にその光景を見ることになれていく自分に嫌気が指してきた。
むろん、私は帝都の方へと密告しようと思ったこともあったが、バレでもしたら女としての尊厳を奪われるのは目に見えており、最悪殺される恐れもある。
女一人ではどうしようも出来ない虚無感で魂が死にかけていた、そんな時だった。
貞操こそ守り通しているものの、太守に気に入られた私は城への出入りの自由を得ることが出来た。
そして、偶然城の宝物庫にあった帝具ガイアファンデーションと出会った。
誰にも使うことが出来ない為に保管と言う名目で埃を被るだけになっていた帝具。
でもそれを見て私は直感した。
帝具が呼んでいる、自分なら使えるそう確信した。
後は時間を掛けて帝具を盗み出すだけだ。
私は今日にでも決行しよう、そしてその力を使って太守を殺しみんなをあの暴君から助けよう。
そう思っていた時だった。
腹の底から響き渡る様な独特な音が街を駆け抜け、数瞬の間もなく建物が爆発し崩れ去る音が響き割った。
私は何事かと急いで、家の外へと出ると大勢の人が雪崩れ込んで来ていた。
まさか、こんな場所まで異民族が!!、そう思った私は急いで金目の物をまとめる、扉を壊す勢いで勢いよく開け放ち逃げ出そうとした。
「動くな!!動くと撃つぞ」
既にすぐそこまで迫っていたのだろう、襲い掛かって人に私は銃を向けられていることを悟った私は言うとおり立ち止まった。
あ~あ、短い人生だったな、せめてあの太守位私の手で殺せたらな。
悲壮感に狩られながらもどこか諦め気味だった私は、回り込んで襲撃して来た男に銃口を向けられながら顔をじろじろと見られた。
まさか、犯されるのでは!!、死ぬよりももしかしたら辛い目にあうそう私は思ったが、挿話ならなかった。
「今回の標的ではないな。もう行って良いぞ」
あっさり解放された私は、どこか拍子抜けた顔をしていたに違いない。
「どうした、もう行って良いと言っている」
「えっと、あなた方は?私は殺されるんじゃあ?」
「先ほども言った通り、貴様は標的ではない。それに我々がどこに所属していることは言えないが、目的の説明は許可されているから教えよう。我々はこの街で賄賂や人狩りを行っている太守と役人を抹殺しに来ただけだ。貴様が邪魔をしない限り殺されることはない」
それだけを言い去ると男は去って行き、私はそれをただ見送ることしかできなかった。
そして、男の言っていることは事実の様で、抵抗している太守や私設軍と名ばかりの傭兵共や役人が自身の保身のために雇った者達位しか殺されていない。
私は自身の手を汚さずに済んだことにもしかしたらどこかホッとしたのかもしれないが、次の瞬間自身を呼んでいるガイアファンデーションのことを思い出し、持ち出した金品は家の中に放り投げ走り出した。
渇ききった心をあの帝具を使えば渇きを潤せるのでは、そう思っていた私はいてもたっていられなかった。
向かう先は、先ほどの建物が壊れる音の正体である事は一目瞭然の城、その宝物庫だ。
近道や隠し通路を熟知している私は、人に会わないように宝物庫にたどり着けた。
「良かった、まだあった」
ショーケースを持ち上げ、私が帝具を手に取り逃げ出そうとした時だった。
「貴様ここで何をしている!!ここにある宝は全てワシの者だぞ!!」
最悪だ、このタイミングで太守に出会うとか我ながら運がない。
「それに貴様が手にしている物、それは帝具ではないか!!」
鈍重な動きながらこちらへと太守が手向けて来た時だった。
私も人狩りの者達の様に殺されるのでは、今まで連れて行かされた人狩りの光景がフラッシュバックした。
私はいつも護身用にスカートの中に隠し持っているナイフを手に取ると、こちらへと手を向けて襲い掛かってくる太守の首を突き刺した。
後から思い返すと、あの頃は本当に力も何もないただの女だったのでかなり焦っていたのだと理解できる。
「かはっ!!」
「こ、殺した?」
私は初めて人を殺したのではと、動悸が激しくなり、過呼吸気味になり、一気に不安感が襲い掛かって来た。
確認のため、そう私は自身に言い聞かせながら太守へと近づき、軽く蹴って確認しようとした時だった。
「ひっ!?」
「よ、ぐも、ごのような」
太守はいきなり私の足を掴むと、血を吐きながら呪詛の様に口にした。
生理的嫌悪感を感じ、後ずさろうとするも、万力に匹敵すると感じてしまうほど強く掴まれているため逃げようにも逃げ出せない。
そんな時だった、二発の乾いた銃声が室内に響き渡ると、太守の背中に二つほど穴が穿たれ血が飛び出し、そこから血が溢れだしてきた。
完全に力尽きたのか、私はその手を払いのけ後ずさり音のした方を向くと、そこには黄金の獣が未だ硝煙が上がっている拳銃を持っていた。
「ほう、こんな所にあったか」
私が抱きしめる様に持っている帝具に黄金の獣は興味を示していることは誰の目から見ても一目瞭然だが、私は黄金の獣が私を見下ろしていると錯覚してしまった。
帝具に対して興味を示していると気が付いていたなら、抱きしめている帝具を渡して命乞いをするべきなのだろうが、私はそうすることが出来なかった。
見惚れてしまい、動けなかったのだ。
あまりにも完成された存在である、黄金の存在。
我ながらちょろいなと思うが、異性同性問わず黄金の獣に見下ろされれば分かるだろう。
格の違いもさることながら、この人には敵わない、屈服させられても構わない。
そう感じてしまった私は悪くないだろう。
「あ、ああ、あの。あなたは?」
やっと絞り出せた震える様な声で、私は黄金の獣に問いかけた。
本来ならばあり得ないことだろうが、私を見下ろす存在のことを訊かずにはいられなかった。
「私の名は、ムソウ。帝国保安部長官兼情報部長官だ」
これが、私と黄金の獣の初めての出会いだった。
この直ぐ後にムソウ様が帝具に興味を示している事を知り、私は自身の有用性を売りつけ尚且つ私が今持っている帝具を使えることを教えた。
むろんただで買っていただけるとは思っていなかったので、ムソウ様にその価値を示すために反乱軍に潜入し帝具の力を使い情報を何度かリークすることで認めてもらい保安部へと入れてもらえることになった。
私はこの時から、心の渇きが治まり、潤いを感じ始めていた。
side END
ムソウは僅かな時間、思い出に浸っていたか、すぐさま他にもやるべきことがあるため地上へと向かった。
「ムソウ長官」
地上に出て、執務室代わりにしている応接室へと向かっていた時だった。
部下の一人にムソウは呼び止められた。
「どうした?」
「先ほど大臣がエスデス将軍へ早馬を出しました。内容はボリックの護衛です」
「何、いや、分かった。下がっていい」
このタイミングでボリックの護衛にエスデスを向かわせたと言うことは、ムソウの渡した報告書で疑心暗鬼になっているにも関わらずそれ以上に安寧道を重く見ていると言うことになる。
「報告があります!!」
「今度はどうした」
「安寧道を探らせていた者達から、新たに報告が上がってきました」
「内容は」
「ボリックの護衛に皇拳寺羅刹四鬼が付いているとの事です」
「分かった、下がっていい」
ムソウは合点がいったと言った表情をしていた。
ムソウの渡した報告書よりも常に警護をしている皇拳寺羅刹四鬼の報告を大臣は優先したと言う考えが出来る。
ならば、このタイミングでエスデスにボリックの護衛を命じることが出来る。
しかしそうなると、羅刹四鬼にエスデス、ナイトレイドに武装親衛隊第一師団、さらにボリックの警備に安寧道の警備隊。
混戦になるのは目に見えているため、ムソウは自身が直接出向くことを決めた。
「車を回せ。私が直接出向く」
事の重大さを考えると、人任せに出来る状況を逸している。
ならば最高決定権を持つムソウが直接出向くのが、何事にも対応できるため向いている。
ムソウは、自身の黒いコートを羽織ると保安本部の扉を開けた。
アンケート結果は、3が多かったので第三勢力で書いて行きます。
他の票に入れてもらった方々申し訳ありません。
そして、このペースで書いて行くと原作に追い付いてしまうと言うこの現実、ほんとどうしましょう……
まあ、シュラをギリギリまでボコりまくって話を伸ばすのもありかな?とか考えてます。
以上
次の更新をお待ちください。