ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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オーフィス、サーゼクス

同時刻、アザゼルはレーティングゲームのバトルフィールドで旧魔王派の悪魔と闇人(やみびと)をある程度片付けていた

 

数も少なくなったので後は部下に任せて、ある場所へ向かう

 

フィールドの隅に人影を1つ視認すると、その人影の前に降り立つ

 

腰まで伸びた黒髪の小柄な少女

 

黒いワンピースを身に着け細い四肢を覗かせている

 

アザゼルはその少女に対して目を細め、静かに言う

 

「―――お前自身が出張ってくるとはな」

 

黒髪の少女はアザゼルの声に反応し、顔を向けて薄く笑う

 

「アザゼル。久しい」

 

「以前は老人の姿だったか?今度は美少女さまの姿とは恐れ入る。何を考えている?――――オーフィス」

 

そう……彼女こそが『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスであり、『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップ である

 

彼女の視線は神殿の方に向けられている

 

警戒を高めるアザゼルにオーフィスは言葉少なに答えた

 

「見学。ただ、それだけ」

 

「高みの見物ね……。それにしてもボスがひょっこり現れるなんてな。ここでお前を倒せば世界は平和か?」

 

アザゼルは苦笑しながら光の槍を突きつけるが、オーフィスは首を横に振る

 

「無理。アザゼルでは我を倒せない」

 

「へへっ、ハッキリ言ってくれる。――――だろうさ。俺だけじゃお前を倒しきれない」

 

「では、2人ではどうだろうか?」

 

2人の前に羽ばたきながら降りてきたのは巨大なドラゴン――――元龍王のタンニーンだった

 

彼も旧魔王派及び闇人(やみびと)一掃作戦に参加しており、それを終えてここに来たようだ

 

タンニーンは大きな眼でオーフィスを激しく睨む

 

「せっかく若手悪魔が未来を懸けて戦場に赴いていると言うのにな。貴様が茶々を入れると言うのが気に入らん!あれ程世界に興味を示さなかった貴様が今頃テロリストの親玉だと!?何が貴様をそうさせたと言うのだ!」

 

アザゼルもタンニーンの意見に頷き問いただす

 

「暇潰し――――なんて今時流行らない理由は止めてくれよな。お前の行為で既に被害が各地に出てるんだ。仕舞いには闇人(やみびと)とまで手を組みやがって」

 

オーフィスがトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた事によって各勢力は多大な被害を受けている

 

死傷者も日に日に増し、無視など出来る筈も無いレベルに……

 

だが、アザゼルはどうしても理解出来なかった

 

今まで世界の動きを静観していた最強の存在が何故今になって動き出したのか?

 

それもテロリストとして……

 

オーフィスから出た答えは予想外のものだった

 

「――――静寂な世界」

 

「は?」

 

アザゼルが再び問い返すとオーフィスは真っ直ぐ見つめて言った

 

「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」

 

次元の狭間――――それは人間界と冥界、人間界と天界の間にあるような次元の壁の事で、世界と世界を分け隔てる境界線

 

そこには何も無く、無の世界とも言われている

 

「ホームシックかよと普通なら笑ってやる所だが、次元の狭間と来たか。あそこには確か――――」

 

「そう、グレートレッドがいる」

 

どうやらオーフィスはグレートレッドと呼ばれる者をどうにかして、次元の狭間に戻ろうとしているようだ

 

それを条件に旧魔王派や他勢力の異端者に懐柔されたと考えが付く

 

アザゼルの思考が何かを出そうとした時、オーフィスの横に魔方陣が出現し、何者かが転移してくる

 

現れたのは貴族服を着た1人の男

 

男はアザゼルに一礼してから不敵に笑んだ

 

「お初にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団(カオス・ブリゲード)』真なる魔王派として、堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」

 

アザゼルは頭をポリポリと掻きながら呟く

 

「首謀者の1人……旧魔王派のアスモデウスが出てきたか」

 

アザゼルの言葉が気に入らなかったのか、クルゼレイは全身からドス黒い魔のオーラを迸らせた

 

恐らく彼もオーフィスの『蛇』を貰い受けたのだろう

 

「旧ではない!真なる魔王の血族だ!カテレア・レヴィアタンの(かたき)討ちをさせてもらうッ!」

 

「カテレアの男か何かか。やれやれ、元カレに成り下がっちまったってのに殊勝だな」

 

「……っ?どういう意味だ?」

 

クルゼレイが片眉を吊り上げて訊くと、アザゼルは含み笑いをして答えた

 

「なぁに、俺ん所の教え子に無類の女好きっつーか――――テクニシャンがいるんだわ」

 

アザゼルの言うテクニシャンとは勿論――――新の事である

 

アザゼルは他人事みたくニヤケながら語り始めた

 

「もうカテレアはすっかり堕ちたぜ?終末の怪物の1匹と言われていたが、今じゃただの発情期のメスだ。もっと分かる様に言ってやろうか?教え子にあんな事やこんな事をされたってこった(笑)」

 

「何………っ!汚れた堕天使たる貴様の下にいる者が、カテレア・レヴィアタンにあんな事やこんな事、そんな事にどんな事をしただと……!?」

 

「いや、そんな事とどんな事はしてねぇけど」

 

「……許さんッ!ここで貴様を消した後にそいつも殺してくれる……ッ!」

 

憤怒にまみれたクルゼレイは殺意のオーラを噴出させる

 

アザゼルは「やれやれ」と嘆息した

 

「まあ良いぜ。タンニーン、お前はどうする?」

 

「サシの勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視でもさせてもらおうか」

 

「頼む。さて、混沌としてきたが……俺の教え子どもは無事にディオドラのもとに辿り着いている頃かな」

 

その言葉を聞いたオーフィスは首を横に振る

 

「ディオドラ・アスタロトにも我の蛇を渡した。あれを飲めば力が増大する。倒すのは容易ではない」

 

「ハハハハハハハハハハハハッ!」

 

アザゼルはオーフィスの言葉に大爆笑した

 

「何故、笑う?」と怪訝に首を(かし)げるオーフィスにアザゼルは告げた

 

「蛇か。そりゃ結構だ。だが、残念な事にそれじゃ無理だな」

 

「何故?我が蛇、飲めばたちまち強大な力を得られる」

 

「それでも無理だ。先日のゲームじゃルール上、力を完全に発揮出来なかったがな。一部例外もいたが、そう言う事だ」

 

アザゼルはファーブニルの宝玉と自ら製作した人工神器(セイクリッド・ギア)の短剣を取り出し構えた

 

「さて、ファーブニル。付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウスだ!いくぜ、禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」

 

短剣と宝玉が光り輝き、アザゼルは黄金の全身鎧(プレート・アーマー)に包まれた

 

いざ出陣しようとした矢先、乱入してくる転移用魔方陣があった

 

そこから現れたのは――――紅髪(べにがみ)の王サーゼクス・ルシファー

 

「サーゼクス、どうして出てきた?」

 

「今回結果的に妹を我々大人の政治に巻き込んでしまった。私も前へ出て来なければな。いつもアザゼルばかりに任せていては悪いと感じていた。――――クルゼレイを説得したい。これぐらいしなければ妹に顔向け出来そうにないんでね」

 

「……お人好しめ。――――無駄になるぞ?」

 

「それでも現悪魔の王として直接訊きたかった」

 

サーゼクスの真剣な面持ちにアザゼルは構えていた槍を引いた

 

一方、サーゼクスを視認したクルゼレイは更に憤怒のボルテージを上げる

 

「――――サーゼクス!忌々しき偽りの存在ッ!直接現れてくれるとはッ!貴様が、貴様らさえいなければ我々は……ッ!」

 

「クルゼレイ。矛を下げてはくれないだろうか?今なら話し合いの道も用意出来る。前魔王の血筋を表舞台から遠ざけ、冥界の辺境に追いやった事、未だに私は『他の道もあったのでは?』と思ってならない。前魔王子孫の幹部達と会談の席を設けたい。何よりも貴殿とは現魔王アスモデウスであるファルビウムとも話して欲しいと考えている」

 

サーゼクスの言葉は実に真摯な物だった

 

しかし、それはクルゼレイの感情を逆撫で激昂させる

 

「ふざけないでもらおう!堕天使どころか天使とも通じ、汚れきった貴様に悪魔を語る資格など無いのだ!それどころか俺に偽者と話せと言うのか!?大概にしろッ!」

 

アザゼルは嘆息してクルゼレイに言う

 

「よく言うぜ。てめぇら『禍の団(カオス・ブリゲード)』には三大勢力の危険分子が仲良く集まっているじゃないか。あまつさえ、俺達を滅ぼそうとした闇人(やみびと)にまで手を伸ばしやがって」

 

「手を取り合っている訳ではない。利用しているのだ。忌まわしい天使と堕天使は我々悪魔が利用するだけの存在でしかない。闇人(やみびと)と共に動いているのは、ただ共通の利害が一致しただけに過ぎない。事が終われば用済みだ。相互理解?和平?悪魔以外の存在はいずれ滅ぼすべきなのだ!それを何故分からない!?悪魔こそが!(いな)!我々魔王こそが全世界の王であるべきなのだよ!オーフィスの力を利用する事で俺達は世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を創り出す!その為には貴様ら偽りの魔王どもが邪魔なのだ!」

 

典型的な悪の親玉的思想を語り続けるクルゼレイ

 

現魔王と旧魔王の考え、認識、その他諸々は根底から相違しており……その溝は深く、決して埋まる事は無いだろう

 

サーゼクスは寂しげな目で呟いた

 

「クルゼレイ、私は悪魔と言う種族を守りたいだけだ。(たみ)を守らなければ、種族は繁栄しない。甘いと言われても良い。私は未来ある子供達を導く。――――今の冥界に戦争は必要無いのだ」

 

「甘いッ!何よりも稚拙な理由だッ!それが悪魔の本懐だと思っているのか!?悪魔は人間の魂を奪い、地獄へ誘い、そして天使と神を滅ぼす為の存在だッ!もはや話し合いは不要ッ!サーゼクスよ!偽りと偽善の王よッ!ルシファーとは!魔王とは!全てを滅する存在だッ!滅びの力を持っていながら、何故横の堕天使に振る舞わない!?やはり貴様は魔王を語る資格など無いッ!この真なる魔王であるクルゼレイ・アスモデウスがお前を滅ぼしてくれるッ!」

 

それが現魔王(サーゼクス)旧魔王の子孫(クルゼレイ)、両者最後の話し合いとなった……

 

サーゼクスはオーフィスにも語りかける

 

「……オーフィス。貴殿との交渉も無駄なのだろうか?」

 

「我の蛇を飲み、誓いを立てるのなら。もう1つ、冥界周囲に存在する次元の狭間の所有権、それ全て貰う」

 

つまりは服従と冥界の閉鎖がオーフィスの要求であろう

 

冥界を背負う現魔王がそんな要求を安易に応じる事など出来ない

 

サーゼクスは天を仰ぎ瞑目する

 

次に目を開けた時――――彼の瞳には背筋が凍りつく程の冷たさが映り込んでいた

 

それを確認したクルゼレイは距離を取り、両手に巨大な魔力の塊を作り出す

 

「そうだ!それで良い!その方が分かりやすいのだよ、サーゼクスッ!」

 

クルゼレイは最初から話を聞く気など無く、戦う事を望んでいた

 

憎き存在を自らの手で滅ぼす為に

 

サーゼクスは右手を突き出し、(てのひら)を上に(かざ)

 

そこに魔力が圧縮していき、サーゼクスの魔力は徐々に滅びのオーラを放ち始める

 

サーゼクスは強い口調で言った

 

「クルゼレイ、私は魔王として今の冥界に敵対する者を排除する」

 

「貴様が魔王を語るなッ!」

 

クルゼレイが巨大な魔力を両手から掃射したと同時に、サーゼクスは(てのひら)に生まれた魔力を無数の小さな球体に変えて前方へ撃ち出した

 

クルゼレイの攻撃はサーゼクスの魔力に触れた途端、削り取られた様に消滅していく

 

撃ち出した小さな魔力の球体は意志を持つかの如く宙を縦横無尽に動き回り、クルゼレイの攻撃を打ち消していった

 

消しきれなかった攻撃はサーゼクス自身が避けたり、防御障壁を作って防いでいく

 

クルゼレイの口内へ滅びの球体が1つだけ入り込んだ

 

ドウッ!

 

クルゼレイの腹部が1度だけ膨れ上がり、それが収まると同時に彼の魔力が一気に減少する

 

サーゼクスがボソリと呟いた

 

「――――『滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)』。腹に入っていたオーフィスの『蛇』を消滅させてもらった。――――これで絶大な力を振るえないだろう」

 

パワーアップの源である蛇を消された事で、先程まで余裕を見せていたクルゼレイに焦りの色が生じる

 

サーゼクスが魔王に選ばれた理由の1つは――――圧倒的な威力を誇る消滅魔力

 

触れた物を全て消し、塵芥すら残さない絶対的な滅び……

 

決して力を溢れさせず、最小サイズに留めて複数同時に操る

 

緻密なコントロールと並外れた才能が必要技術をサーゼクスは有していた

 

「おのれ!貴様といい、ヴァーリといい、何故こうも『ルシファー』を名乗る者は恵まれた力を持っていながら、我々と相容れないッ!?」

 

クルゼレイは毒づきながらも再び両手に魔力を放出しようとしたが――――

 

ギュパンッ!

 

滅びの球体の1つがクルゼレイの腹を丸ごと削り取った……

 

触れるだけで周囲の物を根刮(ねこそ)ぎ消す滅びの魔力、小さくとも威力は絶大だった

 

「……な、何故……本物が偽者に負けねばならない……?」

 

クルゼレイは口から血を吐き出し、無念の血涙を流していた

 

サーゼクスは瞑目し、ゆっくりと手を横に薙ぐ

 

その瞬間、クルゼレイは宙を飛び回る無数の球体にその体を全て打ち消されていった……

 

 

―――――――――――――

 

 

「あ~りゃりゃっ。やっぱ殺られちゃったよ、クルゼレイさん。キヒヒッ♪真なる魔王だの全世界の王だの言ってた割りには全っ然大した事無いじゃぁん?ホントに旧魔王派って後先考えず怨恨ばっかりで動くから、勝手に自滅してくれて助かるよ。キャハハハハハッ♪さてと、そろそろボクも神殿に向かおうかな?シャルバっちも来る頃だし。グレモリー眷属を殺した後でそのまま旧魔王派も壊滅させちゃおっか♪」


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