「そろそろ時間ね」
リアスがそう言って立ち上がる
決戦当日、新達はオカルト研究部の部室に集まっていた
アーシアはシスター服、ゼノヴィアは黒いボンテージ風の戦闘服、そして新はいつものロックミュージシャン服と準備万端
他の皆は駒王学園の夏服だった
中央の魔方陣に集まり、転送の時を迎える
―――――――――
「……着いたのか?」
目を開けて視界に飛び込んで来たのはとてつもなく広い場所だった
ギリシャにありそうな神殿の様な風景で、後方に入り口があった
「……おかしいわね」
対戦相手であるディオドラの現れる気配がせず、リアスが怪訝そうに言う
他のメンバーも訝しげに思っていると、神殿とは逆方向に魔方陣が出現する
しかも、1つだけじゃなく辺り一面、新達を囲うように
「……アスタロトの紋様じゃない!」
祐斗が剣を構え、朱乃も手に雷を走らせる
「……魔方陣全て共通性はありませんわ。ただ――――」
「全部、悪魔。しかも記憶が確かなら―――――『
魔方陣から大勢の悪魔が現れ、新達を激しく睨み付ける
だが、それは序章に過ぎなかった………
バサッバサッバサッ!
ブブブブブブブブブッ……!
上空から聞こえる羽音
見上げてみると鳥類、昆虫類などの生物を
その数はおよそ1000匹
『
「『
「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」
悪魔の1人がリアスに挑戦的な物言いをする
その数秒後、突然アーシアの悲鳴が聞こえた
振り向いても、そこにアーシアはいない
「イッセーさん!」
空から聞こえてきた声
上を見るとアーシアを捕らえたディオドラ、その隣には
「やあ、リアス・グレモリー。そして
「久しぶりだな、諸君。この間はよくも私のビジネスを潰してくれた。その罪を償ってもらうぞ」
「村上!てめぇ、まだ生きてやがったのか!」
「アーシアを放せ!このクソ野郎!卑怯だぞ!つーか、どういうこった!ゲームをするんじゃないのかよ!?」
一誠の叫びにディオドラは醜悪な笑みを見せる
「バカじゃないの?ゲームなんてしないさ。キミ達はここで彼ら――――『
「その通り。いくら力量が高い君達であろうと、この数の上級、中級悪魔を相手に出来まい。更に言ってしまえば、この
「ディオドラ。あなた、『
激昂したリアスのオーラが一層盛り上がる
新と一誠も戦闘態勢に入った
「彼らと行動した方が、僕の好きな事を好きなだけ出来そうだと思ったものだからね。ま、最期の足掻きをしていてくれ。僕はその間にアーシアと
「一誠!アスカロンをゼノヴィアに渡せ!」
「おう!」
新の呼び掛けに反応した一誠は籠手を出し、先端から聖剣アスカロンを取り出してゼノヴィアに渡した
「アーシアは私の友達だ!お前達の好きにはさせん!」
ゼノヴィアは素早く宙に浮かんでいるディオドラと村上に斬りかかろうとした
村上が左腕を水平に掲げると、異変が起こる……
グキグキグキッ……ドバァァァァァアッ!
鈍い音が発せられ、村上の左腕からトゲだらけの
そして拳撃1発で聖剣ごとゼノヴィアを地面に叩き落とした
「どうだね?私の新しい腕は。以前の戦いで
「イッセーさん!ゼノヴィアさん!イッ―――――」
助けを請うアーシアだったが無情にも空間が歪み、次第にアーシア、ディオドラ、村上の姿が消えていった
「アーシアァァァアアアアアアッ!」
「一誠!今は目の前の敵を片付けるのが先だ!」
新は一誠に
打開策を考えていると、新が何かの気配に気付く
気配がする方向を見てみると、ローブ姿の隻眼ジジイが朱乃のスカートを捲ろうとしていた
「てめぇこのクソジジイ!」
バゴッ!
新は朱乃のスカートを捲ろうとしていたジジイに膝蹴りをぶち込んだ
「キャッ!あ、新さん?」
朱乃を庇う様に立つ新
ジジイは蹴られた頭を
「もう少し年寄りを
「喧しいわジジイ!朱乃の体は俺のもん―――――って、あんたはオーディンじゃねぇか!」
そう、そこにいたのは北欧の主神オーディンだった
「オーディン様!どうしてここへ?」
「俺だっている
ギュイギュイギュイギュイギュイィィィィィィインッ!
聞き覚えのあるギターの音色
オーディンがいる方向とは別の方向を見てみる
一誠の親友であり、『チェス』の『ポーン』でもあるダイアンが
「
「味方?どういう事?」
「話すと長くなるから手っ取り早く言う
「『
「村上
ダイアンが一足地面を踏み、オーディンが髭を擦りながら言う
「今、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派と
「じゃあ、爺さんとダイアンはどうやって入っていたんだよ?」
「ミーミルの泉に片方の目を差し出した時、わしはこの手の魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなってのぅ。結界に関しても同様。こっちの小僧はわしの力を利用してついてきただけじゃ」
オーディンが左の隻眼を見せると、そこには水晶が埋め込まれ、目の奥に輝く魔術文字は寒気を覚えさせた
「相手は北欧の主神と
旧魔王派の悪魔達が一斉に魔力の弾を撃ってきた
オーディンは杖を1度だけトンと地に突き、ダイアンがエレキギターを鳴らす
ボボボボボボボンッ!
向かってきた無数の魔力弾が全て消滅した
中には上級悪魔もいるが、2人は余裕をかましている
「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れる筈なんじゃがここにいるだけで精一杯とは……。はてさて、相手はどれ程の使い手か。ま、これをとりあえず渡すようアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いに出すとは、あの若造はどうしてくれるものか……」
オーディンはグレモリー眷属人数分の小型通信機を渡す
「ほれ、ここはこのジジイとファンキーな小僧に任せて神殿の方まで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」
オーディンが杖を新達に向けると、薄く輝くオーラが発生する
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」
「ここは俺達に任せ
「でも、爺さん!ダイアン!たった2人で大丈夫なのかよ!」
一誠が心配を口にするが、オーディンは愉快そうに笑い、ダイアンはギターを振り回すだけだった
「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ―――――」
「
オーディンの左手に槍が出現し、ダイアンは上空にいる
「――――グングニル」
「『
ブゥゥゥウウウウウウウンッ!
ズドドドドドドドドドッ!
悪魔達に向かって槍から極大のオーラが放出、剣から鋭利な魔力が無数に
オーディンの槍によって悪魔達が数十人消し飛び、空を飛んでいた闇人も数十人地に落ちてきた事に、一誠は自分の目を疑った
「
「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストの悪魔どもと怪物ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶する程強いぞい」
神と『チェス』の強さに悪魔達は安易に攻めてこなくなった
リアスが一旦足を止め、この場を受け持ってくれた2人に頭を下げる
「すみません!ここをお願いします!それと、あなたもありがとう!」
「
「ダイアン……すまない!」
「っしゃあ!神殿へ行くぞ!」
新達は神殿の方へ走り出し、その間にオーディン&ダイアンと悪魔、
―――――――――
神殿の入り口に入り、全員がオーディンから貰った通信機を耳に付ける
『無事か?こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな。言いたい事もあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは「
どうやら観戦している方も襲撃を受けているらしい
『最近、現魔王に関与する者達が不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは「
つまりグラシャラボラス―――――ゼファードルの家柄の関係者は『
更にアザゼルは話を続ける
『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫だ。捕まえたカテレア・レヴィアタンが同じだった様に、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛ける事で世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。襲撃するのにこれ程好都合なものはない。
つまり、グレモリー眷属の試合は最初から旧魔王派に狙われ、
そしてターゲットは現魔王とその血縁者リアス、観戦に来ていた各勢力のボス、オーディンもターゲットの1人であろう
「では、あのディオドラの魔力が以前よりも上がったのは?」
『オーフィスの力を借りたんだろう。ディオドラがそれをゲームで使った事は奴らも計算外だったろうな。それ故、グラシャラボラス家の一件と併せて、今回のゲームで何か起こるかもしれないと予見が出来たんだ。しかし、奴らは作戦を途中で覆さないばかりか、
ディオドラはやはりドーピング、『
どこまでも卑劣な悪魔だ
『あっちにしてみればこちらを始末出来ればどちらでも良いんだろうが。俺逹としてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すにはちょうど良い。
どこの勢力もテロには屈しないと言った姿勢のようだ
「……このゲームはご破算って訳ね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんな事になっちまっている。今回、お前逹を危険な目に遭わせた。一応、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定その通りになったが、お前逹を危ない所に転送したのは確かだ。この作戦もサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』
「もし俺達が死んだらどうするつもりだったんだ?」
新が何気なく訊くと、アザゼルは真剣な声音で言った
『俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首で済むならそうした』
アザゼルは死ぬつもりで旧魔王派を引き寄せていた……
一誠は先程起きた重大な事をアザゼルに伝える
「先生、アーシアがディオドラと村上に連れ去られたんです!」
『――――っ。そうか。どちらにしてもお前逹をこれ以上危険な所に置いておく訳にはいかない。アーシアは俺達に任せておけ。そこは戦場になる。どんどん旧魔王派の連中と
「先生も戦場に来ているんですか?」
『ああ、同じフィールドにいる。かなり広大なフィールドだから、離れてはいるが』
「アーシアは俺達が救います」
一誠はいの一番且つ真っ直ぐに言うが、新は一応の警告を出す
「一誠、今がどういう状況か教えてやるよ。これはゲームなんかじゃなく、本物の殺し合いとなったんだ。おそらくリタイヤ転送も無い。アザゼルに俺達を助ける手段も無いんだぞ」
新はバウンティハンターである為、殺し合いや本物の戦場がどんなものなのかを知っている
それはいつ死ぬか分からない危険な世界
新の表情に真剣さを感じた一誠だが、諦めの文字は微塵も無かった
「それでも、アーシアは俺の仲間だ!家族なんだ!助けたいんだ!俺はもう2度とアーシアを失いたくない!」
一誠の覚悟を聞いた新とアザゼル
次に新はリアスの方を向くと、リアスが不敵な笑みで言う
「新、アザゼル先生、悪いけれど私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うわ。ゲームはダメになったけれど、ディオドラとは決着をつけなくちゃ納得出来ない。
更に朱乃も続く
「アザゼル先生?私達、三大勢力で不審な行為を行う者に実力行使する権限があるのでしょう?今がそれを使う時では?ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」
「だそうだ。これでも止めるか?堕天使総督さんよぉ」
新は最初から止める気は毛頭無く、アザゼルは嘆息した
『……ったく、頑固なガキどもだ……。ま、良い。今回は限定条件なんて一切無い。だからこそ、お前逹のパワーを抑えるものなんて何も無い。存分に暴れてこい!特にイッセーと新!
「オッス!」
「当たり前だ!」
2人は気合いの入った一声で答えた
『最後にこれだけは聞いていけ。大事なことだ。奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり多少敵に勘付かれても問題の無い作戦でもあると言う事だ』
「相手の方に隠し球があるって事か」
『ああ、それが何かはまだ分からないがこのフィールドが危険な事に変わりはない。新の言う通り、ゲームは停止しているからリタイヤ転送は無い。危なくなっても助ける手段は無いから肝に銘じておけ。――――充分に気をつけてくれ』
ここでアザゼルからの通信が切れる
敵は自信があるから、今回のテロが予想されていても強引に仕掛けてきた
何をしでかすかも分からないが、アーシアを助けなければならない事だけは理解出来る
「小猫、アーシアは?」
「……あちらからアーシア先輩とディオドラ・アスタロト、村上京司の気配を感じます」
全員が無言で頷き合い、神殿の奥へ向かって走り出した