ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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連続投稿です


ディオドラ・アスタロト

イリナが転校、ダイアンが体験入学に来て数日経った放課後の部室

 

リアスは部員全員が集まった事を確認すると、記録メディアらしきものを取り出した

 

「若手悪魔の試合を記録したものよ。私達とシトリー眷属のものもあるわ」

 

眼前に巨大なモニターが用意され、アザゼルがその前に立って言う

 

「お前ら以外にも若手達はゲームをした。大王バアル家と魔王アスモデウスのグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがお前らの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」

 

アザゼルの言葉に皆が真剣に頷き、まずはサイラオーグとグラシャラボラス家のゼファードルの勝負を見た

 

その映像で見たのは――――圧倒的な力だった

 

ゼファードルの繰り出す攻撃全てがサイラオーグに弾かれ、サイラオーグの拳が相手の防御術式を破壊していく

 

一撃一撃がとてつもない破壊力を有しており、建物に突き刺さればソレが崩壊し、周囲の景色も吹き飛ぶ

 

この試合を見て、新は更に驚いた

 

サイラオーグは拳と蹴りしか使っていない事に………

 

「……凶児(きょうじ)と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものか、サイラオーグ・バアル」

 

祐斗はあまりの光景に目を細めた

 

新も目を細め、拳を震わせていた

 

映像だけ見ても、強いと言う気迫を感じたのだろう

 

「そういや、あのヤンキー悪魔ってどのぐらい強いんですか?」

 

一誠の問いにリアスが答える

 

「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないわ。と言っても、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理と言う事で参加している訳だけれど……」

 

更に朱乃も説明に入る

 

「若手同士の対決前にゲーム運営委員会が出したランキングでは、1位がバアル、2位がアガレス、3位がグレモリー、4位がアスタロト、5位がシトリー、6位がグラシャラボラスでしたわ。『(キング)』と眷属を含み平均で比べた強さランクです。それぞれ、1度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど」

 

「このサイラオーグだけは抜きん出ていると言う事か。もしかしてライザー・フェニックスより強いのか?リアス」

 

新が訊くとリアスは淡々と答える

 

「両者がやってみないと分からないけれど、私の贔屓(ひいき)目で見てもサイラオーグの方が強い気がするわ」

 

不死身の能力を持つライザー・フェニックスより強いと言われるサイラオーグ・バアル

 

新と一誠はそれを聞いて戦慄した

 

次にアザゼルが各勢力のパラメーターを表したグラフを出す

 

グラフはパワー、テクニック、サポート、ウィザード、『キング』と表示された

 

最も注目したのはサイラオーグのパワー

 

どんどんグラフは伸びていき、遂には部室の天井にまで届いた

 

「なんて極端且つ異常な伸び方だ……サイラオーグ以外の中で1番パワーがあるニワトリの数倍はあるぞ」

 

「やっぱ天才なんスかね?このサイラオーグさんも」

 

「いや、サイラオーグ・バアルはバアル家始まって以来の才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色の1つ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟(いとこ)のグレモリー兄妹だったのさ。それにサイラオーグは、家の才能を引き継ぐ純血悪魔が本来しないものをして、天才共を追い抜いたのさ」

 

「本来しないもの?」

 

アザゼルは真剣な面持ちで言い放った

 

「凄まじいまでの修行だよ。サイラオーグは尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有(けう)な純血悪魔だ。あいつには己の体しか無かった。それを愚直なまでに鍛えたのさ」

 

殆どの上級悪魔は皆才能に恵まれていたが、サイラオーグだけは才能に恵まれていなかった

 

彼が若手悪魔ナンバー1でいられるのは、徹底的に(おこな)った修練の賜物(たまもの)だろう

 

何とも皮肉で衝撃的な事実である………

 

「奴は生まれた時から何度も何度も打倒され、敗北し続けた。華やかに彩られた上級悪魔、純血種の中で泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでる野郎なんだよ。新、お前と同じ様にな」

 

アザゼルがいきなり新に話を振る

 

部員全員の視線が新に集中した

 

「ん?俺か?」

 

「そうだ。お前は今でもバウンティハンターなんて仕事をしてんだろ?あれは常に自分が強くならないと死ぬ職業だ。お前も血の(にじ)む様な修業をしていた……そうだろ?」

 

アザゼルの言葉に新は頷き、昔話を始める

 

「あぁ、そうだよ。俺は幼少から外国で親父に鍛えられて育ってきたんだ。いや、あれは虐待に近かったな……。笑顔で激流に放り込まれたり、岩だらけの谷底に突き落とされたり、10頭近くいたヒグマやライオン、更には巨大な鮫と戦わされたり、武器を持ったゴツいオッサンと素手で戦わされたりと、あれは正に地獄の1丁目だった………。何度死神から手招きされたことか………っ」

 

新は遠い目をして天井を見た

 

よく見たら新の目は光を失いかけている

 

サイラオーグ同様、壮絶な過去に皆が深刻な表情で黙り込む

 

「新……あなたもツラい思いをしてたのね……」

 

ぎゅぅぅぅっ

 

リアスが新を自分の胸に抱き寄せる

 

チラリと一誠を見てみると、一誠は大量の涙を流しながら新を賞賛していた

 

「新……!お前もそんなツラい思いを……!ってか、お前の親父さん鬼畜過ぎる……!」

 

「部長。どさくさに紛れて新さんを誘惑しないでください」

 

ぎゅぅぅぅっ

 

今度は朱乃が新を胸に抱き寄せた

 

「ツラかったでしょう……新さん。でも大丈夫。今は私がいますわ……」

 

「ちょっと朱乃。新は私の眷属なのだから、主の私には慰めてあげる権利があるのよ」

 

「やーですわ。今私は新さんの温もりを感じていますわ」

 

その後もゼノヴィアと小猫が新を慰め、我に返ったところでサイラオーグとゼファードルの試合の映像が終わった

 

結果はサイラオーグの圧勝で、アザゼルは静まり返る空気の中で言った

 

「先に言っておくがお前ら、ディオドラと戦ったら次はサイラオーグだぞ」

 

「――――っ!マジっスか!」

 

一誠が驚くのも無理はない

 

相手は若手悪魔最強の男

 

戦うには早すぎると思うぐらいである

 

「少し早いのではなくて?グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」

 

「奴はもうダメだ。ゼファードルはサイラオーグとの試合で潰れた。サイラオーグとの戦いで心身に恐怖を刻み込まれたんだよ。もう奴は戦えん。サイラオーグはゼファードルの心――――精神まで()ってしまったのさ。だから残りのメンバーで戦う事になる。若手同士のゲーム、グラシャラボラス家はここまでだ」

 

新と一誠はリアスが「ライザーより強いかもしれない」と言う発言の意味を理解出来た

 

いくら不死身でも精神が崩壊すれば復活出来なくなる

 

新も一応追い詰めたが、サイラオーグ程ではなかった

 

「お前らも充分に気をつけておけ。あいつは対戦者の精神も()つ程の気迫で向かってくるぞ。あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇(ちゅうちょ)も無い」

 

アザゼルの忠告を全員が染み込ませる様に受け止め、リアスは深呼吸した後、改めて言う

 

「まずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も研究の為にこの後見るわよ。対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話だもの」

 

「大公が負けた?あそこも見た限りじゃそんなに弱くはなかった筈だが……」

 

「私達を苦しめたソーナ達は金星、先程朱乃が話したランクで2位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星と言う結果ね。悔しいけれど、所詮対決前のランキングはデータから算出した予想に過ぎないわ。いざ、ゲームが始まれば何が起こるか分からない。それがレーティングゲーム……けれど、アガレスが負けるなんてね」

 

そう言いながらリアスが次の記録映像を再生させようとした時―――――部室の片隅で転移用魔方陣が展開した

 

「――――アスタロト」

 

朱乃がぼそりと呟き、部室の片隅に爽やかな笑顔を浮かべる優男が現れた

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 

―――――――――

 

 

部室のテーブルにリアスとディオドラ、顧問としてアザゼルも座り、朱乃がお茶を淹れてリアスの傍らに待機する

 

他の皆は部室の片隅で待機

 

何処と無くライザーの時と似ている雰囲気を醸し出している

 

「リアスさん。単刀直入に言います。『僧侶(ビショップ)』のトレードをお願いしたいのです」

 

トレードとは『(キング)』同士で駒となる眷属を交換出来るルールの1つで、同じ駒同士なら可能なシステムである

 

「いやん!僕のことですか!?」

 

「んな訳ねぇだろヘタレ女装」

 

新と一誠は揃ってギャスパーの頭を叩く

 

ディオドラが欲しがる『僧侶(ビショップ)』は十中八九アーシアだろう

 

僧侶(ビショップ)』と聞いた瞬間から、アーシアは一誠の手を強く握っている

 

嫌だと言う主張の表れであろう

 

「僕が望むリアスさんの眷属は――――『僧侶(ビショップ)』アーシア・アルジェント」

 

やはりディオドラは躊躇(ためら)いなくアーシアを選択してきた

 

「こちらが用意するのは―――――」

 

ディオドラが自分の下僕が載っているカタログらしきものを出そうとしたが、リアスは間髪入れずに言う

 

「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいた方が良いと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気は無いの。それはあなたの『僧侶(ビショップ)』と釣り合わないとかそういう事ではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。私の大事な眷属悪魔だもの」

 

真っ正面からリアスは言い放ったが、ディオドラは淡々と訊いてくる

 

「それは能力?それとも彼女自身が魅力だから?」

 

「両方よ。私は、彼女を妹の様に思っているわ」

 

「――――部長さんっ!」

 

リアスの言葉にアーシアが口元に手をやり、瞳を潤ませる

 

「情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は充分だと思うのだけれど。それに求婚した女性をトレードで手に入れようとすると言うのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは()せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

迫力のある笑顔で問い返すリアスだが、ディオドラは笑みを浮かべたままだった

 

その笑みは逆に不気味さを匂わせる……

 

「――――分かりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

ディオドラは立ち上がりアーシアのもとへ近寄る

 

当惑しているアーシアの前に立つと、その場で(ひざまず)いて手を取ろうとした

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。大丈夫、運命は僕達を裏切らない。この世の全てが僕達の間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

訳の分からない事を抜かしてアーシアの手の甲にキスしようとするディオドラ

 

そこで新は頭、一誠は肩を掴んでディオドラを制止させる

 

「何が運命は僕達を裏切らないだ?アーシアはもう俺達の仲間なんだよ。俺達の(あるじ)様が拒否ってんだから大人しく帰れ。古くせぇロマンチシズムを語ってねぇでよ?世間知らずのアホ坊っちゃん」

 

新は更に挑戦的な物言いをするが、ディオドラは笑みを浮かべながら言う

 

「放してくれないか?薄汚いドラゴンと蝙蝠に触れられるのはちょっとね」

 

「ふんっ、それがてめぇの本性か」

 

一誠はキレそうに、新は右手に闇皇(やみおう)の鎧を展開しようとしたが、アーシアがディオドラの頬にビンタを炸裂させる

 

アーシアは一誠に抱きついて叫ぶ様に言った

 

「そんな事を言わないでください!」

 

ディオドラの頬はビンタで赤くなっていたが、それでも奴は笑みを止めない

 

ここまでされても笑みを絶やさないとなれば不気味を通り越して畏怖感が沸き上がってくる

 

「なるほど、分かったよ。では、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝(せきりゅうてい)の兵藤一誠を倒そう。そうしたら、アーシアは僕の愛に答えて欲し―――――」

 

「お前に負ける訳ねぇだろッ!」

 

一誠は面と向かって言い切る

 

その時アザゼルの携帯が鳴り、いくつかの応答の後にアザゼルは告げる

 

「リアス、ディオドラ、丁度良い。ゲームの日取りが決まったぞ。5日後だ」

 

その日はそれで終わり、ディオドラは帰っていった

 

一誠は新たな決意のもと、ゲームへの気合いを入れだした


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