「なにぃ!?逃げられたぁっ!?」
「そうなんだ。今日の昼、ビッグロックに搬送する予定だったんだが、留置所から脱走したと政府から連絡があった」
危険度が上位クラスを越える賞金首は『犯罪者の棺桶』の異名を持つ施設『ビッグロック』に収容され、処刑されるか死ぬまでは絶対に外には出られない
『ビッグロック』に収監されたら終わりだが、その前に逃げられたらしい
「ちょっと待て!フリードは昨夜、俺がボコボコに痛め付けたんだぞ!?まともに動ける状態じゃなかった筈だ!」
「あぁ、その通り。留置所を襲撃されたんだ」
「襲撃?いったい誰が?」
「それがよく分からないんだ。悪魔でも、堕天使でも、妖怪ですらない化け物だったらしい……留置所にいた検査官が全員殺られたよ」
新の脳裏に何かが引っ掛かる
フリードは『はぐれ
普通なら脱獄の手助けをしたのは堕天使だと考えるのが道理
だが実際は違った………謎の化け物がフリードを回収した
「何か手掛かりは無かったのか?」
「唯一あるとすれば、コレだけだ」
そう言うと、マスターは一枚の写真を見せる
写真には一輪の薔薇が死体に突き刺さっていた
「薔薇……?」
「そう。殺された検査官全員の死体に突き刺さっていた。しかも妙な薔薇だ。花の半分が赤、もう半分が青で占められてる」
写真の薔薇もマスターが言った通り、妙な色合いだった
普通の薔薇とは違う不気味さを感じさせる
「確かにこれだけじゃ分からねぇな」
「そういう事だから、報酬を出す訳にはいかないんだ」
「くそぅ……300万が……!」
新は報酬を貰えなかった怒りでワイングラスを握り潰してしまう
その手から血が滴り落ちるが、怒りでそんな事を気にする余裕など無かった
――――――――――
新は公園のブランコに座り、缶コーヒーを飲みながら揺れていた
今まで新が捕まえた、殺した賞金首の中で逃げられた者は1人としていなかった
今朝その記録を破られた事に多少ではあるがショックを受けた
「あ〜……。気が滅入るわ……。俺の300万円が泡となって弾けた……」
逃げられた事より、報酬を貰えなかった方のショックが大きかった………
缶コーヒーを飲み干し、近くにあったゴミ箱へシュート
狙いがズレ、弾かれた缶は地面を転がる
「……今更落ち込んでも仕方無いな。逃げたならまた捕まえ―――――いや、次は殺せば良い。脱獄の首謀者も殺す。これで報酬が貰える!」
新は気を取り直してブランコから離れ、落ちた缶を拾ってゴミ箱に入れる
前向きに考えれば良いと、新は帰ろうとした
「ん?一誠とアーシア?」
ベンチに見覚えのある2人が座っていた
リアス・グレモリーの眷属、兵藤一誠とシスターのアーシア
何やら様子がおかしかったので、新は気になって2人のもとへ走っていった
―――――――――
新と一誠はアーシアの口から、「聖女」と祭られた彼女の末路を聞いた
生まれてすぐに両親から捨てられた事…………
教会兼孤児院で育てられた事…………
八つの頃に不思議な力、
そこからカトリック教会の本部に連れて行かれ、「聖女」として担ぎ出された事…………
皆が裏で自分の力を異質なものを目で見ている事を…………
怪我をしていた悪魔を助けた事…………
それが原因で「聖女」は、今度は「魔女」と恐れられ、カトリックから捨てられた事…………
誰一人、教会で自分を庇ってくれる人がいなかった事…………
神から力を授かったと言うのに、あまりにも酷い仕打ちだった
神は助けてくれなかった………
神への祈りと感謝を一度も忘れた事などない少女を…………神は助けてくれなかった
彼女の救いは「はぐれ
「……きっと、私の祈りが足りなかったんです。ほら、私、抜けているところがありますから。ハンバーガーだって、1人で買えないぐらいバカな子ですから」
アーシアは笑いながら涙を拭った
一誠は慰めようにも、かける言葉が見付からない
新は拳を震わせていた
それは神に対しての怒りだった
アーシアは誰よりも神に敬意を払っているのに、誰よりも救いを求めているのに、何もしてやらない神に憎しみを覚えた
新は神の存在など信じない男だが、この時ばかりは―――――自分の中ではこの世にいないと決めつけている神に怒りを覚えた
ふざけんじゃねぇ
低い声音で空に向かって暴言を放ち、側に立っていた木を拳で破壊する
「一誠。神に見せつけんぞ。アーシアに何もしなかったクソ神様に、人間だろうと悪魔だろうと――――――助ける事が出来るってな」
一誠も頷き、新と一緒にアーシアの手を取る
「アーシア、俺が――――俺達が友達になってやる。いや、もう友達だ」
一誠の言葉にアーシアはキョトンとしている
「昨夜言ったろ?俺や一誠を頼れって。気軽に遊びたい時も、何かあった時も呼べばいい。携帯の番号も教えてやる」
「……どうしてですか?」
「どうしてもこうしてもあるもんか!今日一日、俺とアーシアは遊んだだろう?話しただろう?笑い合っただろう?なら、俺とアーシアは友達だ!新だって頼れって言ってるんだ!新もアーシアの友達だ!」
「……それは悪魔の契約としてですか?」
「違う!俺とアーシアと新は本当の友達になるんだ!わけの分からない事は抜き!そういうのは無しだ!話したい時に話して、遊びたい時に遊んで、そうだ、買い物も今度付き合うよ!本だろうが花だろうが何度でも買いに行こう!な?」
アーシアの目から涙が溢れ出る
しかし、その涙は悲しみの塊ではなく―――――――喜びを表す涙だった
新も聞いててむず痒くなったが、神にざまーみろと心の中で罵り、一誠と共に笑う
「……私と友達になってくれるんですか?」
「ああ、これからもよろしくな。アーシア」
「俺も忘れず、よろしくな」
こうして、アーシアに初めての友達が2人も出来た
「無理だな」
突如飛んでくる否定の声
新と一誠が声のした方向へ顔を向ける
そこには青い薔薇を持つスーツ姿の男と、一誠を殺した堕天使レイナーレがいた
「ゆ、
「お前、あの時の堕天使か。それと―――――そこのお前は誰だ?」
「お初にお目にかかる。私の名は
村上京司と名乗る男が薔薇を投げつける
投擲された薔薇は新の腕に突き刺さった
「ぐあっ!…………っ!?」
新は一瞬、目を疑う光景を見てしまう
腕に刺さった青い薔薇が赤に変色していく
あの時、写真で見たのと全く同じ薔薇を…………
薔薇を引っこ抜いて捨てると、新は村上京司に『ある事』を聞く
「まさか……お前か?留置所を襲撃して、フリードを逃がした化け物ってのは」
「その通りだよ。彼はなかなかの戦闘狂だから使えると思ってね」
「テメェのお陰で……俺は報酬を貰えなかったんだぞ……!覚悟しとけよ……!」
「それは留置所の検査官が間抜けなだけだ。あっさり死んでしまうと、私の薔薇が綺麗な赤に染まらない」
死人を侮辱するような発言に、新は嫌悪感をむき出しにする
「どういう意味だ?」
「私の持つ青い薔薇は魔性の薔薇でね。生物の血を吸って赤に染まるのだよ。徐々に赤く染まっていく様子は、まさにこの世の物では表せない美しさを見せてくれる。だが最近は、良い獲物にありつけなくて落胆しているのだよ」
「その薔薇を青から赤に変える為だけに、検査官全員を殺したのか?」
「そうだ。私の旺盛な探求欲は諦める事を知らない。そこの少年と君の血は―――――――この薔薇をどんな赤に染めてくれるのか、気になって仕方がない」
青い薔薇を顔の前に寄せ、ニヤリと笑う村上
事情をよく知らない一誠もこれだけは分かる
「あんたイカれてるんじゃないのか!?その薔薇の色を変える為だけに人を殺して来たのか!」
「純粋な探求欲を満たす為には、多少の犠牲は付き物だ。何を怒る必要がある?」
「ふざけんな!そんな勝手な理由で殺されてたまるか!セイクリッド・ギア!」
一誠が叫ぶと、左手に赤い籠手が出現
新も右腕に鎧を展開して戦闘体勢を取る
「上の方々にあなたの
レイナーレは心底おかしそうに一誠を嘲笑う
「私も
村上も一誠を嘲笑する
「弱い
「憐れみの目を向けるなーっ!ちきしょう、今は何でも良い!
『
籠手から機械的な音声が発した
一誠の体内に力が流れ込むが、村上が掌から生み出した巨大な薔薇に腹部を突き刺される
「ごふっ!」
「一誠!」
「君にはこれをプレゼントしよう」
バババッ!今度は掌から無数の薔薇の花びらが新の体を切り裂いていく
負傷した一誠に気を取られていたので、まともにくらってしまい後ろに吹っ飛ぶ
「どうだね堕天使くん?私が協力すれば、いとも簡単に『
「ええ。アーシア。その悪魔と人間を殺されたくなかったら、私達と共に戻りなさい。あなたの
「『
一誠の傷を治すアーシアに冷酷な提示をしてくる
一誠が喋る前にアーシアは堕天使と村上の提示を受け入れた
「アーシア!」
「イッセーさん。今日は一日ありがとうございました。本当に楽しかったです。新さん。私と友達になってくれてありがとうございました」
「待てアーシア……!」
アーシアは村上とレイナーレの方へ進み出す
「いい子ねアーシア。それでいいのよ。問題ないわ。今日の儀式であなたの苦悩は消え去るのだから」
不吉極まりない単語、一誠はアーシアへ叫ぶ
「アーシア!待てよ!俺達は友達だろう!」
「はい。こんな私と友達になってくれて本当にありがとうございます………さようなら」
別れの言葉を告げられ、アーシアの手を取る村上
そしてレイナーレ、村上はアーシアと共に空の彼方へと消え去る
あとに残されたのは黒い羽と薔薇の花びらだけだった
一誠は生まれて初めて自分の非力さを呪い、新は悔しさの末に拳を地面に叩き付けた
―――――――――
「やっと、やっと『
教会に着いたレイナーレは歓喜しながら儀式の準備に取り掛かる
カラワーナとミッテルトも地位を約束されたので張り切って準備を進める
『そうだ。今の内に喜んでおけよ堕天使………。今夜の儀式で彼女は救われる―――――――