いざ行かん、冥界とグレモリー邸
「冥界に帰る?」
人身売買オークションを潰した翌朝
一誠の家にオカルト研究部のメンバー全員が集められ、朝食後にそんな話を聞かされた
「夏休みだし、故郷へ帰るの。毎年の事なのよ。―――――って、どうしたのイッセー。涙目よ?」
「うぅ、部長が冥界に帰ると突然言い出したから、俺達を置いて帰っちゃうのかと思いましたよぉ……」
一誠は床に両手を付きながら涙を流す
新は「そんな泣く程の事かよ」と毒づきながら欠伸をする
「そうか〜。里帰りか〜。んじゃ、俺は久々にまったりと競馬にギャンブル、カジノへ行って荒稼ぎしようかね〜。ふわぁ〜」
「何言ってるの新。私だけじゃなく、皆も冥界に行くのよ?長期旅行の準備しておいてちょうだいね」
リアスの発言に一誠はすぐに顔を上げ、新は逆に額を床にぶつけた
「え!?俺達も冥界ですか!?」
「そうよ。あなた達は私の眷属で下僕の悪魔なのだから、主に同伴は当然。一緒に私の故郷へ行くの」
せっかく計画していた荒稼ぎライフをあっという間に潰された新は声を荒らげて猛反論した
「ふざけんなぁっ!今週のレースは未だ
「新、凄い肺活量ね」
「今そこを誉めてる場合じゃねぇだろがっ!」
「あらあら。その点に関してはご心配なく。総司さんが毎月、新さんの通帳にお金を振り込んでくれるそうですわ」
「は?いつそんな話を?」
「私がお願いしましたの」
新は直ぐ様、携帯電話で総司に確認を取った
ノリノリの声で毎月3000万送ると言ってきた
その収入源は売り捌いたお宝らしい
新は確認を終えた後、"まぁ、良いか"と納得してしまった
「8月の20日過ぎまで残りの夏休みをあちらで過ごします。こちらに帰ってくるのは8月の終わりになりそうね。修業やそれら諸々の行事を冥界で行うから、そのつもりで」
「俺も冥界に行くぜ」
冥界での予定を聞いていると、いつの間にか堕天使総督兼オカルト研究部顧問のアザゼルがいた
「ど、何処から入ってきたの?」
「うん?普通に玄関からだぜ?」
アザゼルはリアスの問いに平然と答えた
「……気配すら感じませんでした」
「俺は今さっき気付いた」
新はバウンティハンター時代から鍛えてたので、気配を探る術は多少心得がある
「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと、例の新鋭若手悪魔達の会合。それとあっちでお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合う訳だがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクス達と会合か。ったく、面倒くさいもんだ」
アザゼルはメンドくさそうに嘆息する
かくして、リアス・グレモリー陣とアザゼルは冥界へ行く事になった
新はメールでこの事をレイナーレ達に伝えたら、電話で『アザゼル様が行くなら私も!』と言ってきた
アザゼルは『いや、定員オーバーだ』と言って一蹴
レイナーレは電話の向こうで泣きじゃくった
因みにミッテルトからは『お土産買ってきてね〜♪』と言われ、新は"日本円は冥界でも通じるのか?"とリアスに聞いた
――――――――――
出発の日、新達はまず最寄り駅に集合した
服装は駒王学園の夏制服
リアス曰く、冥界入りするならこれが1番の正装らしい
新は制服よりも普段着たるロックミュージシャン服を所望したが、呆気なく却下されたので渋々着ていた
駅に設置されているエレベーターに向かい、リアスと朱乃が先に入る
「じゃあまずは新とイッセーとアーシアとゼノヴィア来てちょうだい。先に降りるわ」
「お、降りる?」
怪訝に思う一誠と首を傾げる新
言われるまま中に入ると、リアスはスカートのポッケからカードを出して電子パネルに向ける
ピッ………ガクン
上にしか行かない筈のエレベーターが下へ降り始めた
「……っ?この駅、地下なんかあんのか?」
「そうよ。悪魔専用のルート。普通の人間は一生辿り着けないわ。こんな風にこの町には悪魔専用の領域が結構隠れているのよ?」
「隠し通路って奴か。か〜、悪魔はロマンが好きだね〜」
降りること1分
エレベーターが停止して扉が開く
広い空間に足を踏み入れ、辺りを見渡す
そこは人間界の駅のホームと酷似しており、線路もあった
祐斗、小猫、アザゼルも合流して歩き出す
ギュッ……
新の手を握る朱乃
いつの間にいたんだと言う突っ込みはせずに、手を握り返す
「……新さんの手、優しい温もりを感じますわ」
朱乃が頬を染めて言う
今まで数々の女を堕としてきた新も朱乃の可愛さに一瞬戸惑ってしまった
反対側にゼノヴィアと小猫も加わり、2人は交代制で新の手を握ったりする
「………………」
「――――っ?な、何か急に悪寒が……」
新の勘は異様な視線を察知してしまった
それもその筈、リアスは朱乃やゼノヴィア、小猫と手を繋いでいる様子をジッと見つめていた――――無言で……
しばらく歩いていると列車らしき物が見えてきた
「おい、この列車ってまさか……」
「グレモリー家所有の列車よ」
新と一誠は改めて主のスケールのデカさを思い知らされた
―――――――――
列車が動きだし、リアスは1番の前の車両に
眷属である新達は中央から後ろの車両に座らなければならない
席は一誠とアーシアが一緒に座り、祐斗とギャスパーはその対面席
少し離れた別の席では新の隣に朱乃、対面にはゼノヴィアと小猫が座る形となった
端の席ではアザゼルが既に眠っていた
「なぁ朱乃。冥界にはどのぐらいで着くんだ?」
「1時間程で着きますわ。この列車は次元の壁を正式な方法で通過して冥界に辿り着ける様になってますから」
「へぇ~。いつもの魔方陣で冥界に行くんだと思ってた」
「通常はそれでも良いのですけれど、新眷属の悪魔は正式なルートで1度入国しないと違法入国として罰せられるのです。だから、新さん達はちゃんと正式な入国手続きを済ませないといけませんわ」
「はぁっ!?そうなのか!?俺と一誠は魔方陣から転移して婚約パーティに乱入しちまったんだぞ!?到着してすぐに刑務所行きなんざ冗談じゃねぇよ!」
新は慌てるが、朱乃は小さく微笑んだ
「あれはサーゼクス様の裏技魔方陣によって転移したものですから、特例みたいですわよ?勿論2度は無理ですけれど。もしかしたら、主への性的接触で罰せられるかもしれませんわね」
「笑い事じゃねぇよ……。俺、リアスの裸を見たどころか乳首も弄ったんだけど……って、うおっ?」
朱乃が新の手を取る
「眷属同士のスキンシップは問題ありませんわ。こんな風に」
朱乃は掴んだ新の手を自分の
柔らかい感触を堪能する新は、そのままスカートの中へ手を伸ばそうとした
すると、前に座っていたゼノヴィアと小猫がその手を掴む
特に小猫の手には力が入っていた
「新。そういう事がしたいなら私にもしてくれ。朱乃さんだけなんてズルいぞ」
「……新先輩。時と場所をわきまえてください。窓から放り投げますよ?」
「おぉい小猫さん。流石の俺もこんな異世界に捨てられたら死んじまうよ」
「……先輩は存在自体がデタラメですから死にません」
小猫の辛辣な一言で新は心に10000のダメージを負った
その後、列車は冥界に入り、窓から見てみると……山や川、森も町も存在してるのが視界に映った
グレモリー領に入り、リアスから自分も領土を貰える事を知らされた
グレモリー領は日本で言うと、本州丸々らしい
「赤い所は既に手が入っている土地だからダメだけれど、それ以外の所はOKよ。好きな土地を指で差してちょうだい。あなた達にあげるわ」
新はその発言に遠慮しないで、欲しい土地を指差していった
――――――――
『リアスお嬢様、おかえりなさいませっ!』
パンパンパンパン!
駅のホームに降りた瞬間、花火が上がり執事やメイド達が出迎えをする
ギャスパーは人の多さにビビって一誠の後ろに隠れ、新は口をポカ〜ンと開けていた
そこへ銀髪のメイド、グレイフィアが1歩前に出てきた
「お嬢様、おかえりなさいませ。お早いお着きでしたね。道中、ご無事で何よりです。さあ、眷属の皆様も馬車へお乗りください。本邸までこれで移動しますので」
馬車を引く冥界の馬が予想以上にデカかった事に、新は再び口をポカ〜ンとさせた
―――――――――
「着いたようね」
馬車のドアが開かれ、全員が降りる
巨大な城―――――リアス家の本邸に到着し、巨大な城門が開かれていく
カーペットの上を歩き出そうとした時、紅髪の少年がリアスに抱きついた
「リアス姉さま!おかえりなさい!」
「ミリキャス!ただいま。大きくなったわね」
「あ、あの、部長。この子は?」
「この子はミリキャス・グレモリー。お兄様―――――サーゼクス・ルシファー様の子供なの。私の甥と言う事になるわね」
「へ〜、魔王様の子供。正真正銘のプリンスか」
新は顎に手を当てながら言う
因みにミリキャス・グレモリーはリアスの次の当主候補らしい
リアスは甥と手を繋いで進み出し、新達も城の中へ進んでいく
広大な玄関ホールに着き、グレイフィアを始めとしたメイド達が集合してきた
「お嬢様、早速皆様をお部屋へお通ししたいと思うのですが」
「そうね、私もお父様とお母様に帰国の挨拶をしないといけないし」
リアスはグレイフィアと話をし、新と一誠は何度も玄関ホールを見渡す
「な、なんか……このお城に来るだけでクラクラしてきた……」
「これが上位階級の悪魔の本邸か。今俺が住んでる屋敷が小さく思えてくるぜ」
「あら、リアス。帰ってきたのね」
階段からドレスを着た亜麻色の髪を持つ美少女が下りてきた
胸が大きかったので一誠は即座に反応し、新はヒュウッと口笛を吹いた
「お母様。ただいま帰りましたわ」
「「お、お母様ぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!?」」
なんと美少女の正体はリアスの母親だった
衝撃的な事実に新と一誠の大声がハモる
「ぶ、部長のお母様!?どう見ても部長と歳の変わらない女の子じゃないですか!」
「さ、流石の俺も驚いた……。あまりにも綺麗過ぎるから、姉だとばかり思ってた……!」
「あら、女の子や綺麗過ぎるだなんて、嬉しい事をおっしゃいますのね」
「悪魔は歳を経れば魔力で見た目を自由に出来るのよ。お母様はいつも今の私ぐらいの年格好なお姿で過ごされているの」
「なるほど。リアスの
「素晴らしくて泣いちゃうよ!遺伝子バンザイ!」
下心全開でそんな事を言ってしまい、新と一誠はリアスに頬をつねられた
しかも、新を頬をつねる手には妙に力が入っていた
「新、万に1つも無いと思うけれど一応忠告しておくわ。……私のお母様にまで手は出さないわよね?」
「
新は異様な気迫に思わず逃げ腰になり、確認を終えたリアスは2人をつねりから解放する
そのやり取りを見ていたリアスの母親がクスクスと微笑む
「リアス。その方々が兵藤一誠くんと竜崎新くんね?」
「おや?俺達の事をご存じなんですか?」
「ええ、娘の婚約パーティに顔ぐらい覗かせますわ。母親ですもの」
2人は顔を見合わせて、もしかしてヤバイかな?と汗を垂らした
しかし、部長の母親は小さく笑う
「初めまして。私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーですわ。よろしくね、兵藤一誠くん、竜崎新くん」
―――――――――
「ん〜、この料理美味いな〜。今まで食べてきた中で最高の料理だ」
「お、おい新……。もう少し上品にしとけよ……。部長が凄い剣幕でこっち見てるって……」
「うむ。リアスの眷属諸君、ここを我が家と思ってくれると良い。冥界に来たばかりで勝手が分からないだろう。欲しい物があったら遠慮なくメイドに言ってくれたまえ。すぐに用意しよう」
「じゃあ早速ですが、美女美少女のメイド達を一晩貸して―――――」
「新?」
「――――すんません。何も無いです」
新はすぐに欲望のまま答えようとしたが、リアスの殺気に気付いて引き下がる
そんな新の様子にリアスの父親は朗らかに笑いだした
「はっはっはっ。いやはや、竜崎新くん。君を見てると、君の父親の総司くんを思い出すよ。彼も"美女美少女のメイド達を持って帰りたい"と言っていたよ」
「……っ!?親父はサーゼクス様だけでなく、あなたにもお会いしていたのですか!?」
「もう随分昔の事だよ。
「あまりにも総司さんがエッチな目と手をしていたので、つい」
新は親父の節操の無さに苦笑いした
そこでリアスの母親――――ヴェネラナが訊いてくる
「ところで、新さんと一誠さん。しばらくはこちらに滞在するのでしょう?」
「はい。部長……リアス様がこちらにいる間はいます……けど、それが何か?」
「そう、丁度良いわ。あなた達には紳士的な振る舞いも身に付けてもらいましょう。少しこちらでマナーのお勉強をしてもらいます」
「おろ?俺はそれなりに振る舞えてるつもりですけど?」
「その様ですけど、まだまだぎこちなかったり、雑な部分もあったりしますわ」
その時、リアスがテーブルを叩いて立ち上がっていた
「お父様!お母様!先程から黙って聞いていれば、私を置いて話を進めるなんてどういう事なのでしょうか!?」
リアスの意見を物ともせず、ヴェネラナは目を細めて強い気迫を解き放つ
そこには先程温かく迎え入れてくれた彼女の姿は無かった……
「お黙りなさいリアス。あなたは1度ライザーとの婚約を解消しているのよ?それを私達が許しただけでも破格の待遇だとお思いなさい。お父様とサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔の方々へ根回ししたと思っているの?一部の貴族には『わがまま娘が伝説のドラゴンと全魔族の天敵を使って婚約を解消した』と言われているのですよ?いくら魔王の妹とはいえ、限度があります」
言葉からライザーとの婚約パーティの事を思い返す新と一誠
派手に扉をぶち壊して乱入した挙げ句、ライザーをぶっ飛ばしてリアスを奪還したのだが……2人は勝手な事をしたのかなと不安顔になり、冷や汗を垂らす
考えてる間に少しの言い合いが続いたが軍配はリアス母に上がり、リアスは納得出来ないような様子で腰を下ろした
「リアスの眷属さん達にお見苦しいところを見せてしまいましたわね。話は戻しますがここへ滞在中、新さんと一誠さんには特別な訓練をしてもらいます。少しでも上流階級、貴族の世界に触れてもらわないといけませんから」
「あ、あの、どうして俺逹なのでしょうか?」
「俺達が平民とバウンティハンターの出だから?」
2人が訊くとヴェネラナは真面目な表情で言い放った
「あなた逹は次期当主たる娘の最後のわがままですもの。親としては最後まで責任を持ちますわ」