ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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 また時間掛かってしまいました……。


兵藤一誠と幽神正義、2人を合わせれば迷コンビ、『イッセーギ』の誕生だッ!?(中編①)

「……青い空っ、白い雲っ、眩しい太陽っ。俺は今モーレツに幸せdゴッビャァッッッ!? いきなり顔面キックは無いだろっ!」

 

「黙れ。24時間、365日、不眠不休で欲情しているド変態(貴様)の顔を蹴って何の問題がある?」

 

「ホントお前は言葉というか、罵倒のエッジが掛かり過ぎてるなぁっ!?」

 

 親睦会早々、一誠の顔面を文字通り一蹴する正義。まあ、それも無理はない。青い空(青ビキニのお姉さん)白い雲(白ビキニお姉さんの巨乳)眩しい太陽(赤ビキニお姉さんのお尻)を変態顔で眺めていた一誠がとても不愉快に見えたのだから(笑)。一歩間違えば通報されるだろう。

 

 そんな彼らはオーソドックスなバミューダパンツを穿()いて、室内プールゾーンに足を踏み入れた。人気のレジャースポットである為か、多くの人で賑わっており、一誠が言うように一般の女性客も楽しんでいた。

 

 幽神正義は女性に対する免疫が低いせいでまともに見る事など出来ず、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。弟の悪堵は幾分かマシだが、それでも刺激が強すぎる……。顔を逸らせ目を泳がせていた。一誠が鼻息を鳴らして言う。

 

「ここに先生がいないだけマシじゃないか。あのヒトがいたら絶対に良からぬ事を起こされて、お前らのストレスが爆上がりしてたと思うぞ。そう考えたら、招待されたのが俺達で良かったと思わないか?」

 

「……チッ、貴様の口から正論を聞かされるとは。俺もヤキが回ったものだ」

 

「あとは罵倒をマイルドにしてくれれば良いんだけどな!? それより、そんな調子で大丈夫かよ。もう既に鼻血噴射5秒前の状態なのに、プールに入れるのか?」

 

 一誠の言葉を受けて、正義は「あまり俺を舐めるなよ」と前置きをしてから、腰に巻いた防水仕様のウエストポーチを開く。中から取り出したのは―――液体入りの注射器だった。それを見た一誠が進言する。

 

「……幽神、早まるな。今すぐ自首すれば、まだ罪は軽くて済む筈だ。やっと芽吹きそうな人生を自分から捨てる気か……?」

 

「何を勘違いしてるか知らんが、哀れみの視線を向けるな」

 

「だってソレっ、どう見たって危ない薬か何かを打とうとしてるじゃねえか!?」

 

「違う、コイツはグリゴリから支給された抑制剤だ。精神を安定させつつ、過度な興奮を抑制する事で余分な出血を抑える働きがある。謂わば興奮剤とは真逆のような物だ」

 

「グリゴリって元々は先生がトップ張ってた組織だよな? イマイチ……と言うか、かなり信憑性が薄いように感じると思うのは気のせいか……?」

 

 “ゲラゲラ笑う悪徳堕天使(アザゼル)”の顔が一誠の脳裏に浮かび、冷や汗を流す。正義はそんな反応など(つゆ)知らず、抑制剤(?)を左腕に打ち込んでいく。

 

「……ッ。あぁ、効くぅ……ッ。まるで体中の汚れた血が全て入れ替わるような心地良さだ……ッ」

 

「本当に危ない薬じゃないんだよなっ!? 今の言動からスッゲェ不安なんだけど!」

 

 危惧する一誠だったが、実は正義が打っている抑制剤とやらは真っ赤な偽物―――本当はただの栄養剤である(笑)。アザゼルがプラシーボ効果(面白半分)で栄養剤を抑制剤と(いつわ)って、幽神正義に渡すよう部下に伝えていたのだ。そこから正義は定期的に抑制剤(と言う名の栄養剤)を支給するようになった。

 

 現時点ではバレていないが、バレた時は再び般若面(はんにゃめん)の鬼が降臨するだろう……っ。

 

「イッセーさ〜ん、お待たせしました〜っ」

 

 そうこうしてる内にアーシアがユキノ達と一緒にやって来た。遂に待ちに待った女性陣の水着がお披露目となる。

 

 トコトコとやって来るアーシアはピンクを基調にした、上下ともに白いフリルが付いたビキニ。可憐で清楚な様相だが、ビキニと言う少しの大胆さが加わる事でいつも以上に魅力が増す。本人の可愛らしさと見事にマッチし、一誠は『YESッッ!』と心中でガッツポーズした。

 

「こう言った場所は初めてですので、少し緊張しますね」

 

「おやおやぁ、ユキノォ? 緊張してるならワタシが揉みほぐしてあげるゾォ♪」

 

 次は姉妹枠、ユキノとソラノ。ユキノの水着は鮮やかなグリーンのビキニ。控えめな性格の彼女に明るい色合いのビキニがよく映え、普段とは違った色気を醸し出す。ソラノは色違いの白いビキニで妹とお揃いのコーディネート。と言っても、普段の衣装とあまり変わらない気もするが……そこら辺は割愛。

 

 人目も(はばか)らず(ソラノ)(ユキノ)にセクハラ。ユキノの豊満なバストを揉みまくり、太腿(ふともも)にも手を伸ばす。そのやり取りを見て一誠は鼻の下が伸びる―――が、幽神正義から降り注がれる怨念の視線に気付き、慌ててソラノを(たしな)めに入った。

 

『ちょっ、ソラノさん。今はストップ。それ以上セクハラを続けたら、(俺から)血の雨が降る事に……っ』

 

『え〜? ワタシ達姉妹のスキンシップだゾ?』

 

『頼むよ! じゃないと、また般若面の鬼が……ッ! せっかくのプールを血の海にしたくないんだ! お願いしますッ!』

 

『もうっ、分かったゾ』

 

 ソラノは渋々と言った感じでセクハラを中断。ユキノも解放され、一誠も取り敢えず身の危険を回避できた事に安堵する。……あと一瞬でも遅れていれば正義は般若面を被り、文字通り鬼と化していただろう。

 

「まあ、たまにはこういう和気藹々(わきあいあい)とした親睦会も良いんじゃない?」

 

「そうね。命の洗濯ってヤツだな」

 

 悪戯(いたずら)な笑みを浮かべるチェルシーは水色を基調としたビキニだが、下はスカートタイプ。小悪魔めいた彼女は出るところも出ているので良く似合っていた。

 

 ディマリアは踊り子のようなアラビアンテイストのビキニで、抜群のスタイルをより強調させる物だった。動く度にヒラヒラとはためく金色の装飾が妖艶さをアピールする。

 

 アーシア、ユキノ、ソラノ、チェルシー、ディマリア―――合計5人の美女美少女達の水着姿に一誠は感無量、幸福度も鰻登り。出来る事なら狂喜乱舞でヒャッハーしたいところだろう。

 

 しかし、今だけは何とか耐える。般若面の鬼(幽神正義)から逃れる為、せっかくの親睦会を血の海に沈めない為に……。―――と言っても、そうは問屋が(おろ)してくれないのが非情なる現実。

 

 その戦犯(せんぱん)になったのは―――チェルシーだった。

 

「と・こ・ろ・でっ。イッセーはどの()の水着が一番好みなのかしら?」

 

「ゑッ!? チェルシーさん、いきなり何を―――」

 

「いや~、健全な男の子として誰の水着がお気に入りなのかな〜っと思っちゃって♪」

 

「おっ、それは確かに気になるゾ。さあさあ、誰が好みなのか白状するんだゾ?」

 

 先程、一誠に窘められた筈のソラノもチェルシーの悪ノリに便乗。2人は悪戯な笑みを浮かべて前(かが)みの体勢となる。ソラノの豊満なおっぱいが揺れ、チェルシーのジャストサイズな美乳も主張してくる。美女美少女に答えを迫られた一誠は、懸命に脳を回転させて適切な回答を絞り出そうとする。

 

「そ、そりゃあ勿論! アーシアも、ユキノさんも、ソラノさんも、チェルシーさんも、ディマリアも、み~んな素敵ですよ! 水着=個性! それぞれの個性に順位を付けるなんて寧ろ失礼でしょう!」

 

「むっ、そう来たか。まあ、素直に褒めてくれただけでも良しとしましょうか」

 

「ワタシ的には物足りないが、仕方無しだゾ。ちなみにワタシの推しはユキノ一択だゾ」

 

 チェルシーとソラノは渋々ながらも納得し、ディマリアはフフンとドヤ顔。アーシアやユキノも一誠に褒めてもらえたのが嬉しかったのか、頬を赤く染めて照れる。何とか危機的状況を脱した一誠だが……次なる刺客達(眼福)がやって来た。

 

「ふ~ん、なかなか良い場所じゃない。ほら、ウェンディも早く来なさいよ」

 

「ま、待ってよシャルル〜っ」

 

 姿を見せたのはウェンディ&シャルルのヴァサーゴ姉妹。腰に手を当て、堂々と(たたず)む白髪の美少女シャルル。その後ろには藍色のツインテールを揺らし、浮き輪を持ってトテトテと小走りするウェンディ。

 

 シャルルは黒のスク水で小柄な身体の利点を最大限に活用していた。一方、ウェンディは……大胆にも緑と白のチェック模様が入ったビキニだった。まだ青い果実でありながら背伸びしてみたいと言う気持ちの表れが、可憐な少女の可愛らしさと(はかな)さを存分に主張してくる。ヴァサーゴ姉妹の水着センスに一誠は再び心中で狂喜乱舞してしまう(笑)。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? ロリっ()に黒のスク水と言う王道の組み合わせは言うまでもないが……片方はまさかのビキニッ! まだまだ青い果実―――成長途中のロリおっぱいに大人っぽさを魅せるビキニを合わせるとは……ッ! これが、これが噂に聞くギャップ萌えってヤツなのか……ッ!』

 

「うっひゃ〜。自分、こんな娯楽施設をお目にかかれるとは感謝感激っスねぇ」

 

 一誠がニヤケ面を浮かべていると、更にやって来る女性陣。次に現れたのはリント・セルゼン。彼女のは競泳用とも言えるスポーティな水着で、スタイルの良さも相まって活発な印象がより引き立てられる。その様相に一誠は更に興奮せざるを得ない。

 

『フヒョホォォォォォォォオォッ! 健康的な肢体を包む競泳用のピッチピチ水着ッ! ただでさえ出るところは出ているのに、密着率が高いから余計にエロく見えるッ!』

 

「水遊びなんて何年ぶりかしら」

 

「教団にいた頃は沐浴(もくよく)ぐらいしか娯楽が無かったものね」

 

 リントの後を追うように現れたのは、かつて過激派教団の一員だった女性―――ヒメガミ・フブキとフローラ・コスモス。彼女達の水着姿もまた映えるものだった。

 

 まずヒメガミはセパレートタイプの黒いビキニだが、ビキニトップのフロント部分をリボンで()めるタイプのもので、穿()いているボトムも両サイドをリボンで結わえていた。

 

 次いでフローラの水着は一風変わっており、ヒメガミと同じくセパレートタイプだが、ビキニトップは黄色でボトムは緑と色分かれしている。まるで花弁と茎のカラーリングをそのまま水着に転用し、自分自身を一輪の花と表現したように言える様相だった。何より―――両者ともビキニのお陰で豊満なバストが更に強調され、そんな2人の水着姿に一誠は鼻の下を伸ばしたアヘ顔で大興奮(笑)。

 

『イィィィィャッハッフォォォォォォゥッ! やっぱり今日は人生で最高の役得日和だァァァァァッ! こんな状況で狂喜乱舞するなって言う方が無理だ! たとえ死んでもっ、この素晴らしい光景だけは脳内の紳士フォルダに焼き付けてみせるッ!』

 

『……そうか、じゃあ死ねッッッッ!』

 

『ホヮァッ!!?!!?!!?!!?!!?』

 

 一誠はギリギリで迫りくる危険を察知し、身を(よじ)って(幽神正義)の攻撃を回避。一誠の後方に生えていた観葉植物の幹に無数の包丁が突き刺さる……っ。これぞ幽神正義の秘技―――『どこでも包丁』。しかも、投げ付けられた包丁はワイヤーで繫がっており、幽神正義は直ぐに引き抜いて全ての包丁を回収。この間、僅か1秒の出来事である(笑)。無論、アーシア達は気付いておらず、一誠が皆に聞こえない声で幽神正義に抗議を飛ばす。

 

『おまっ、何処からそんな本数の包丁を出したんだよっ!? てか、なんで俺の思ってる事が分かった!? 心の声が読めるのかよっ!?』

 

『貴様の考えそうな事など、その汚らしいアホ(づら)を見れば容易に想像つく。やはり脳髄まで染み付いたゲス思考は言葉なんぞで抑えられるわけもないか。せめてもの慈悲で選択肢をくれてやる』

 

『せ、選択肢?』

 

『4つのうち、1つを選べ。その①―――目無し。目があるから貴様は変態と化す。ならば、両目を使えなくしてやれば良い。その②―――耳無し。声が聞こえるから下劣な思考を巡らせる。ならば、耳を削ぎ落とすまで。その③―――口無し。口があるから変態発言を繰り返す。だから、口を切り取る。その④―――鼻無し。貴様なら匂いを嗅ぎ分けて変態行為に及ぶ技があってもおかしくない。ゆえに鼻を削ぎ落とす。さあ、どの部分を失いたい?』

 

『どれも嫌じゃボケッ! あと、匂いを嗅いでする変態行為って何だぁっ!? 俺は(しつけ)のなってない犬だとでも言いたいのか!』

 

『貴様、まさか自分が犬畜生よりも格上だと思い込んでいたのか? どれほど能天気な脳ミソが頭蓋の中に入っているんだ。今すぐ全ての犬種に土下座してこい』

 

『もうヤダこの毒づき鬼ッッッッ!』

 

 犬畜生にも劣ると断言された一誠は堪らず涙腺崩壊。その様子に気付いたアーシアが一誠のもとへ駆け寄る。

 

「イッセーさん、どうかしましたか? 泣いてるようですけど……」

 

「ひっぐ、グシュ……ッ。何でもないぞ、アーシア。最近、俺の涙腺が脆くなってるだけだ……ッ」

 

 取り繕えてない一誠を心配するアーシア。幽神正義は一誠に『まだ懲りないか』と言わんばかりの気迫を放とうとしたが、献身的に介抱するアーシアの姿が視界に入る。アーシアの水着姿が眩しい……もとい、今回の親睦会は謂わばアーシアの為にあるようなもの。ここで余計な水を差すわけにはいかない。

 

 正義は(うち)に沸き上がる鬼気を急速に鎮め、腕を組み瞑目。そして、誤魔化すように話題を切り替える。

 

「……ところで、ジュビアはまだ来てないのか?」

 

「ありゃりゃ、おかしいっスね。ジュビア(ねえ)さんがいの一番に飛び出していった筈なんスけど」

 

 リントがキョロキョロと周りを見渡す。他の皆も周囲に視線をやるが、ジュビアの姿は見えない。それもその筈、ジュビアは観葉植物の陰に隠れながら正義との距離を詰めようと絶賛画策中だったのだ。その行動力は感嘆に尽きるもので、未だ正義だけでなく他の面々にも気付かれていない。

 

 (ひそ)かに、そして着実に距離を縮めていくジュビアの鼓動が(たかぶ)る。

 

『はぁ……はぁ……正義さまぁ……ッ。ジュビアはここにいますぅ。さあ、早くこっちを向いてくださいっ♪ 奥ゆかしいジュビアに正義さまの熱い視線を注いでくださいっ。ジュビアはこの日の為にスペシャルな水着を選んできました……ッ!』

 

 ジュビアの水着は紫を基調にしたビキニに白い水玉模様と、同じく白いフリルをビキニトップに(あつら)えた逸品。フロント部分をリボン結びで留め、フリフリとスカートタイプのボトムが(なび)く。雪のように白い柔肌(やわはだ)を持つジュビアの魅力が更に引き立てられていた。

 

『先日アキハバラなる町へお出かけした時、ジュビアの花嫁衣装を見繕っていただいた店員さんと共に、数時間かけて選びに選び抜いた……この可愛らしい勝負水着をッ! その可愛らしい水着を身に着けたジュビアをッ! 正義さまの熱い視線で仕上げてくださいっ!』

 

『―――ッ。何だ、この邪心に満ちた気配と視線は……ッ?』

 

 正義の嫌な予感センサーが過剰に反応し、背筋に悪寒が走る。気配の居所(いどころ)を探るべく背後に視線をやると―――ようやくジュビアの姿を捉えた。正義の視線が自身に注がれた事でジュビアは感極まる。

 

『ジュビビィーッ! 見ましたーッ! 正義さまの視線がジュビアに釘付けーッ! さあっ、そのままジュビアに視線をっ! 愛に満ちた熱々の視線を注ぎ続けてくださいっ! そしてっ! 2人はやがてリゾートと言う名のハネムーンへ身を委ねるのですぅーッ!』

 

 ジュビアの脳内妄想が暴走し始めたと同時に、正義が訊ねるように口を開く。

 

「ジュビア」

 

「ハァイ!」

 

「その水着―――」

 

「ハァイッ!」

 

「―――値札が付いたままだぞ?」

 

「……ジュビッ?」

 

 素っ頓狂な声を上げるジュビア。よーく見てみると、確かに彼女の水着には値札がぶら下がっていた……。一番大事なところで失敗してしまったジュビアは「ジュビガーンッ!」とショックに打ちのめされ、膝から崩れ落ちる。

 

「ガクッ……ジュビアは修行が足りませんでしたぁァァ……っ」

 

「お前は何の修行をしていたんだ? とりあえず、これで全員揃ったか」

 

 やっと全員が揃い、親睦会が始まりそうだ。スタートから疲労が溜まりそうな場面はあったが……。ジュビアは直ぐに気持ちを切り替えて当初の目的を果たそうと動く。

 

「ではではっ、ジュビアはアーシアさんと秘密のガールズトークがありますので。少しの間、皆さんとは別行動になります。お話が終わり次第、合流しますので。それでは行きましょうっ、アーシアさんっ!」

 

「えっ、あ……はいっ」

 

 押され気味に迫られたアーシアは断る事など出来ず、ジュビアに手を引っ張られて同行していく。まるで突風のようなやり取りに一誠、正義、他の面子(メンツ)もただ呆然と見送るしかなかった。リントがパンッと手を叩いて注目を集める。

 

「はいはいっ、思考ストップはおしまいっスよ。せっかく来たんスから、目一杯楽しんでいきやしょ〜っ」

 

 リントの仕切りで親睦会がようやく始まりを迎える。こんな日は何も起こらないで欲しいと願うばかりだが、そうは問屋がおろさない……。

 

 何故なら―――良からぬ気配を持つ者達が(ひそ)かに、そして着々(ちゃくちゃく)と悪巧みを進めていたからだ。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 室内プールに並び立つ観葉植物等の遮蔽物。そこに潜むのは悪意と野心を(たぎ)らせ、向上心と出世欲に溺れた複数の人影……。数は5つ。その人影が1か所に集結し、悪巧みのプランを練り始める。

 

「ようやく、おバカな獲物が網に掛かったわよぉっぉっぉ〜ん。ここからあたし達の大出世劇が始まるわぁ♪」

 

 最初に声を発したのはオカマ口調の男。身長も凡そ190cm前後と高めで、ガッシリとした筋肉を纏った肉体。虹の如く七色に彩られた髪を逆立て、白く塗られた顔には星や三日月のマークを書き込んでいた。個性が際立っており、一目で見れば誰もがピエロだと分かる様相。

 

 オカマピエロこと―――ジョルジョ・ピエール・オッカマスは腰だけでなく全身をくねらせ、これから始めようとする大出世劇の結末を想像する。

 

「んだ、んだぁ。オデ達にやっとこさ巡ってきだチャンスだぞ。あいづら仕留めぢまえば、造魔(ゾーマ)のヒト達がら好評価を得で、オデ達を側近にしでぐれるにちげぇねぇ」

 

 次に口を開いたのは……田舎者のように(なま)りが激しく、カエルとキノコが合わさったような異形―――エルゲロッペ・ドイナカン。快適な温度に設定された室内プールにいるにもかかわらず、粘液のような汗をタラタラと流していた。粘液特有の光沢具合が反射によって強くテカり、オカマピエロのニヤついた顔を小さく映す。

 

「しかも〜、あそこにいるのは赤龍帝(せきりゅうてい)とか言う超〜ドスケベ変態くんでしょぉ? それならアタシのハニートラップ作戦で即死即殺ぶっ殺しENDじゃん。ラッキー楽勝〜♪」

 

 3人目は露出過多のビキニを纏った褐色肌の女性。頭部には角、臀部(でんぶ)に尻尾を生やしており、スタイルも良くて如何(いか)にも淫乱な雰囲気を出していた。物騒な言葉で捲し立てる悪女―――サキュバッチは勝利を確信した笑みを浮かべる。

 

「むぅんっ! これだから貴様は分かっておらんっ! 拳と拳、筋肉と筋肉のぶつかり合いこそ、我が掲げる暗殺の信条なり! 色仕掛けで骨抜きにしてからアッサリ殺すなど! まさに! 愚の極みで(しか)り!」

 

 無駄に声を荒らげる4人目の指摘にサキュバッチは「はぁ? 絞り殺すよ?」と怒り剥き出しで威嚇する。4つの眼をギョロリと動かし、無数の傷が勲章のように刻まれた筋骨隆々のスキンヘッド男―――マッチョル・ガチムーティは荒々しく鼻息を出し、自慢の筋肉を主張しながら「貴様など我が足下にも及ばん!」とばかりに睨み返す。

 

 一触即発の空気の中、最後の1人が「……やめとけ」と小さく制止する。ボロボロのマントで顔や身体を隠し、マントの中から垣間見える手足は小枝のように細い。しかし、彼が纏う雰囲気は油断ならないほど濃密な物だった。恐らく、この集団のリーダー格なのだろう。―――ジィミスンギ・テ・キヅガレンが悪巧みプランに話を戻す。

 

「……やる気があるのは充分に理解した。……今回のプランは我ら暗殺団『アンサツファイブ』にとって千載一遇の好機。……だから、確実に成功させる。……そうすれば、我らは勝ち組。……造魔(ゾーマ)のお眼鏡に叶い、劣等扱いから下剋上。……今まで馬鹿にしてきた奴らに思い知らせてやるんだ」

 

 彼ら―――『アンサツファイブ』はお世辞にも有名と言えず、実力も「ソコソコあるんじゃない?」と(ささや)かれる程度のモノで、無駄な行動や迂闊さが多い事から同業者ならびに一流の実力を持つ者達からは鼻で笑われる。そのせいで界隈でも雑な扱いを受けてきたのだ。

 

 リーダー格の発言にオカマピエロが同調する。

 

「ええっ、その通りよぉっぉっぉ〜ん! あたし達だって実力は確かなのに、陰でコソコソと『ネタ集団乙ww』とか『ワンパターン芸プギャァww』とか、ふざけんじゃないわよって話よ! と・く・に! 四獄(よんごく)同盟の連中は露骨に侮辱してくるし、ムカつくったらありゃしない!」

 

「んだ、んだ! あいづらの強さがおかしいだげなんだでよ! それを棚上げしやがっで! パワーバランス差別だど!」

 

「アンタらの事情は知らないけど〜、アタシも見下されるのだけは勘弁ならないしぃ〜。この作戦が成功して出世したら、見下してきた奴ら全員をグッチャグチャに踏みつけてやるし〜♪」

 

「我もあやつらの傲慢は許すまじ! 我が向上の為に手合わせを提案しても鼻で嘲笑う始末! あれ程の侮辱! 何度も(はらわた)が煮えくり返された所存! もはや許容も無し!」

 

「……俺もだ。……事あるごとに『あれ、お前いたの? てか誰?』とお家芸みたくイジられ、一兵卒の奴からも『何か枯れそうだから水を掛けてあげますね』と哀れみの視線を受け続ける。……俺は枯木ではない……ッ!」

 

 5人はそれぞれ不平不満を吐き散らし、怒りと共に『この暗殺は絶対に成功させるぞ!』と決意を固める。どうやら相当酷い扱いを受けてきたのだろう……。

 

 オカマピエロが訊く。

 

「で、どういうプランで殺すのかしら? 1人ずつ誘き出して? それとも全員を一挙に?」

 

「……急ぐな、赤龍帝は冥界でも指折りの実力者。……加えて、あの幽神兄弟こと『地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)』もいる。……一筋縄ではいかない。……だから、まずは赤龍帝と幽神兄を仕留める。……この2人を最初に殺せば、残りは容易い。……だが、確実に成功させる為……奴らにも協力を要請した」

 

「「「「奴ら?」」」」

 

「……『名無し(ノーネームド)』の4人だ」

 

「「「「――――ッ!?」」」」

 

 ジィミスンギの発言に4人の目が見開かれる。『名無し(ノーネームド)』とは彼らと同じく暗殺を生業(なりわい)とする戦闘集団で、四獄同盟に不平不満を抱える同志でもある。

 

 何故『名無し』と言う組織名なのか? それは人員全てが孤児など、戸籍を持たない者達で構成された組織だからだ。各地から孤児や捨て子などを集め、戦闘および暗殺に特化した育成を施された―――謂わば『殺人マシーン』に成り果てた者達の集まりでもある。造魔(ゾーマ)の援助も相まって裏事情に精通した富豪や同業他社などのバックアップを得て、莫大な予算や最新の技術、全てを惜しみ無く注ぎ込まれた存在……。

 

 人員の総数は100人以上いるが、今回はその中でも上位4名が駆り出された。ジィミスンギが周囲に視線を移すと、早速『名無し(ノーネームド)』の4人が姿を現す。

 

「ナンバー(よん)、ここに」

 

 ヌルっと木陰から姿を現したのは、全長約3メートル前後の異形。全身を甲冑で覆っているが、その甲冑は武骨さを示す一般的な物ではなく、極限までツルっとした丸みを帯びており、まるで子供が持ってる玩具の人形の如く滑らかなフォルムだった。

 

 無論、それはただの甲冑ではなく―――様々な魔物の皮膚や肉片を加工して作り上げた特注の代物。外側は油断を誘う為の偽装コーティングで、内側には硬い魔物の皮膚と肉を配合している。更に伸縮性も抜群で、ただでさえ長い手足の射程距離を伸ばす事が出来る上に攻撃力、防御力、素早さともに申し分ない性能を誇る。

 

「ナンバー(さん)、参上」

 

 木の上から語りかけてくるのは顔や腕、足など、衣装からはみ出た部分を包帯で覆い隠した男。如何(いか)にも喋りづらそうな様相だが、これには理由がある。

 

 ナンバーⅢは自身の肉体に黒魔術や呪術などの術式および紋様を刻み付けており、普段は特殊な魔術を施した包帯で抑えている。しかし、一度(ひとたび)包帯を解けば強力な呪詛に染まったオーラが周囲に(ただよ)い、耐性の無い者ならば触れただけで死に至る。無数の呪術が刻まれた腕や足に触れても結果は同じ。いずれにせよ、正気の沙汰とは思えない方法だ。

 

「ナンバー()、いま〜すっ」

 

 飄々とした声音を発したのは童顔の青年。割りと身長も低めで、体格には似つかわしくないほど巨大な純白の鎌を(たずさ)え、その大鎌と同じく純白の軽鎧(ライト・アーマー)を身に着けていた。武器・防具ともに芸術品のような美しさを出している。

 

 実は彼が持つ純白の大鎌は対魔法使い用に開発された―――即ち、アンチマジックに特化した武器である。どのような魔術系統にも干渉し、魔法陣を紙のように切り裂く事が可能。つまり、ナンバーⅡは魔法使い及び魔術師を狩るスペシャリストなのだ。勿論、軽鎧(ライト・アーマー)も対魔法使い用の特注品で、大抵の魔術攻撃を無力化する事が出来る。魔法使い、魔術師にとって天敵と呼べよう。

 

 そして『名無し(ノーネームド)』最後の1人―――ナンバー(いち)が無言で姿を現し、「私がナンバーⅠだ」と言わんばかりに人差し指を立てる。

 

 暗殺者特有の黒尽くめ衣装に身を包み、片目を隠すように前髪を垂らしている。比較的軽装な見た目だが……実際は4人の中で最も火力が高い。

 

 ―――と言うのも、ナンバーⅠは体内に幾つもの呪われた武器を埋め込んでおり、その全てを自在に使用する事が出来るのだ。無論、これは数多く行われた人体実験が実を結んだ結果によるものである。持つだけでも使用者に災いをもたらす呪いの武器……それを体内に埋め込むなど常軌を逸している……。

 

 そこに至るまでの道程(みちのり)(おぞ)ましく、人体実験の過程では大量の死体が積み上げられた。非適合者は呪いの武器を1つ埋め込むだけでも発狂し、性能を発揮せず死ぬだけ。仮に生き残れたとしても2つめ、3つめの過程で肉体が耐え切れず自壊してしまった者も少なくない。

 

 しかし、この悍ましい人体実験はようやく彼―――ナンバーⅠと言う適合者の発掘に成功した。ナンバーⅠは『呪いの武器と波長が合う』特異体質の持ち主で、そのお陰で複数の呪われた武器を体内へ埋め込む事に成功し、攻守ともに優れた実力者へと変貌を遂げた。前髪で隠した片目にも、実は呪いの成分が強い魔石を埋め込んでおり、いざと言う時の切り札として温存している。

 

 このナンバーⅠだけでなく、他の3人もそれぞれに適した武器を使いこなす事が出来る。組織名の通り、彼らに名前は無く―――数字で呼ばれている。その数字が組織内での実力の高さを表している。

 

 ジィミスンギが改めて作戦を伝えるべく、(ふところ)から2枚の写真を取り出す。写真に映っていたのは―――アーシアとジュビアだった。

 

「……『名無し(ノーネームド)』の4人には、この写真の女どもを捕獲してもらいたい。……コイツらは赤龍帝と幽神兄の女で、奴らのアキレス腱だ。……俺達が赤龍帝と幽神兄を引き付けておく間に捕獲して、奴らの前に引きずり出してやれ。……勿論、死ぬ寸前まで痛め付けても構わない」

 

「たかが女2人相手に4人がかりで? 不満だ。我のみで充分過ぎる」

 

 ナンバーⅣが抗議を唱えるが、ジィミスンギは冷静に説明する。

 

「……文句を言いたい気持ちは分かる。……だが、確実に捕らえるからこそ4人全員に協力を要請した。……お前達も四獄同盟の鼻を明かし、造魔(ゾーマ)の側近に位置付けたい向上心はあるだろう? ……ならば、ここで暗殺を成功させるべきだ。……側近の椅子に一歩でも近付く為にも。……それには女どもの捕獲が必要不可欠。……女どもを餌にして赤龍帝と幽神兄の動きを封殺、耐え(がた)い屈辱と恥辱と苦痛の極みを与え、絶望の底へと突き落とす。……奴らの名誉もプライドもズタズタにして、無様(ぶざま)な死に様を眺める。……どうだ、最高だろう?」

 

「なるほどね〜。虎穴(こけつ)に入らずんば虎子(こじ)を得ずってヤツだね〜。確かに合理的だし、収穫としては申し分ないよね〜」

 

 ナンバーⅡがリターンの大きさを理解した上で代弁する。この作戦を遠回しに賛同したと言って良いだろう。ナンバーⅢも「分かった」と言葉少なに伝え、ナンバーⅠも無言で頷く。ナンバーⅣは「仕方なしか」と言った様子で渋々了承する形に。

 

 ()くして―――『アンサツファイブ』と『名無し(ノーネームド)』、2つの暗殺集団が共闘する形で悪巧みが進行してようとしていた。全ては自らの出世欲と汚い野心を満たす為に。

 

 しかし、彼らは既に計算ミスをしていた。

 

 無慈悲の化身とも言うべき(幽神正義)の理不尽さを……ッ。




 今回は中編①として掲載しましたので、次回は中編②と表記させていただきます。ここから幽神正義の理不尽に拍車が掛かります(笑)。

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