ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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 やっと投稿出来ました……ッ。まさか、ここまで時間を掛けてしまうとは思いませんでした……。ただ、その分長めに書いたので楽しんでいただけたら幸いです!


聖☆お嬢さん聖地へ!

―――さん、―――さん

 

『……結局、俺は過去の腐れ(えん)―――いや、腐りきった縁からは逃げられねぇのか……。バサラ(しか)り、ヴァルブルガ然り……』

 

―――さん、―――さん

 

『ここ最近は俺にとって嫌な過去でしかない連中が関わり過ぎている。もはや不吉を通り越してやがるな……っ。これ以上、面倒事が起きたりしたら―――』

 

「新さんっ?」

 

 朱乃が覗き込むように顔を近付けると、虚を突かれた新は「んぉっ⁉」と素っ頓狂な声を上げてしまう。腐れ縁と言うか因果と言うのか、自分の嫌な過去を思い起こし(ふけ)っていたので

 

「……んにゃ、泳ぐにゃ……」

 

 黒歌は寝ぼけながらも起きる。フラフラとプールの飛び込み台に移動るすると、着物を大胆に脱いでしまい、全裸でプールに入っていく。脱いだ拍子にブルルンッと弾むおっぱいは魅了の一言に尽きる。

 

『つーか、あいつ着物の下は何も付けてないのよ』

 

「小猫の姉はいなくなったのだな。ちょうど良い。はぁはぁ」

 

 息を上げながら登場したのは―――競泳水着姿のゼノヴィア。イリナとの勝負を終えたのか、新達のもとに足を運んできた。

 

「新、失礼するぞ」

 

 そんな事を言うと―――ゼノヴィアが新の膝上に座り、新の足にゼノヴィアの柔らかな太ももとお尻の感触が伝わってくる。膝上に座るゼノヴィアは濡れた髪をいじりながら言う。

 

「イリナと勝負で賭けていたんだ。水泳で勝った方が新の膝上に座るとな」

 

「そんな賭け事をしていたのかよ。しかも、俺の意思は無視かいっ」

 

 同じく競泳水着姿のイリナが涙目で登場して、水泳キャップを外す。長い髪がファサッと現れた。いつものツインテールも良いが、縛ってない長髪のイリナもまた乙なものである。

 

「良いな良いな! 私も新くんのお膝の上に座りたいな!」

 

 などと心底羨ましそうにイリナが言う。何故か最近、新の膝上が人気になってきている……。小猫、レイヴェルに続いてゼノヴィアやイリナまで求めてきた(笑)。

 

 ―――すると、イリナが新の背後に回り「えいっ!」と掛け声と共に後ろから抱きつく。むにゅんっと新の背中にイリナのおっぱいが形を歪ませる。

 

「背中は私がゲットよ、ゼノヴィア!」

 

「むぅ、やるな、イリナ」

 

 何かよく分からない勝ち負けにこだわるバカ2人、可愛らしい(笑)。一方、アーシアは一誠と仲良く談笑していたりする。傍から見れば既に夫婦と言っても良いだろう。この3人はいつだって仲良し。そんな彼女達に関して“とあるエピソード”があったりする―――。

 

 

 ――――――――――――

 

 

「え? イッセーくんへのプレゼント?」

 

 昼食のサンドイッチを手にするイリナ。彼女は真剣な表情で切り出してきた友人2人の意見を聞いていた。

 

「はい。人づてに耳にしたんです。イッセーさんが今とても欲しい物があると」

 

「アーシアが買いに行きたいと言うから、私も付き合おうと思うんだ。アーシア1人で遠出は厳しそうだからね」

 

 サラサラの金髪美少女―――アーシアがモジモジしながらそう口にして、大きな弁当をがっついているゼノヴィアがそう言う。

 

「今度の休日、新の欲しい物を買いに行こうと思うんだが、イリナも一緒にどうかな?」

 

 ゼノヴィアのお誘いにイリナは「ええ、是非ともご一緒させて! 楽しそう!」と二つ返事で了承した。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 次の休日。イリナとゼノヴィアは朝食を済ませて、一休みしてから下宿先たる新の家を出てアーシアを迎えに行った。今回は皆、私服を決め込んでいる。アーシアはベージュ色の可愛らしいワンピース。ゼノヴィアはジャケットにジーンズと格好良く決め、イリナはシャツにスカート風のレースショートパンツと言う出で立ち。

 

 行き先は東京で、そこじゃないと今回の目的の物が手に入らないらしい。

 

「それで新くんの欲しい物は何なの?」

 

 最寄りの駅まで歩く最中、イリナはゼノヴィアに訊く。

 

「どうやら、『えろげ』と言うものらしい。何かの略称かもしれないね」

 

「へー、『えろげ』ねー。どういうものかしら?」

 

 イリナは想像で色々な物を思い浮かべるが、答えには辿り着かない。それもその筈、『えろげ』とは『エロゲー』―――つまり『エロいゲーム』の略称なのだから……。その方面に(うと)い彼女達が知らないのも無理はなかった。ゼノヴィアがメモ書きを見ながら言う。

 

「ちなみにその『えろげ』の中で新は『小悪魔お姉さまとの聖生活3』と言うものが欲しいようだ。イッセーも同じ物が欲しいらしい。あと、『ラブ姫夢想(むそう)・三国統一伝』なる『えろげ』も新は揃えたいと言っていた」

 

「……映像作品なのでしょうか? 映画? DVD?」

 

 可愛く首を(かし)げるアーシア。ゼノヴィアが目元をキラリと光らせながら推理する。

 

「うん。小悪魔と聖生活と言うタイトルがポイントだと私は感じているんだ。小悪魔とはおそらく、悪魔に関連したものだろう。聖生活とは教会の儀式だと思う。しかもナンバリングが付いている。映像作品か何かなのは確かだろう。これらから推理すると、新とイッセーは悪魔に取り憑かれた姉を教会の儀式にて(はら)うエクソシストの映像資料集、その3番目が欲しいと言う事になる」

 

「「おぉ……」」

 

 イリナとアーシアはゼノヴィアの見事(?)な推理に感嘆の息を漏らした。

 

『す、凄いわ、ゼノヴィア! 僅かな情報からここまで引き出せるなんて……っ。私とコンビを組んでいた時は力任せに事を運ぶやんちゃガールだったけれど、(しばら)く見ない間にこんなにも立派になって……!』

 

 感動しているが実際は『エロゲー』に対して間違った見識、間違った推理を辿っているだけである(笑)。

 

「しかし、さすが新だ。普段はスケベだが、意外にも勤勉だったんだな。体のトレーニングだけではなく、頭の鍛錬にも力を注ぐとは……。私も見習うべきところが多いよ」

 

 ウンウンと(うなず)きながらゼノヴィアは尊敬の眼差しになっていた。

 

「はい。イッセーさんも立派な悪魔になるため、1日1日を懸命に修行しています。さ、さすが私の大好きなイッセーさんです……」

 

 アーシアは顔を真っ赤にして、目も乙女モードに輝いていた。ゼノヴィアも頬を赤く染めて新に想いを馳せる。

 

「それで、何処に行くの? 教会関連の場所で売っているのかしら? それなら私が行けば事が済みそうだけれど……」

 

 イリナの問いにゼノヴィアは答える。

 

「いや、それは教会でも手に入らない逸品(いっぴん)らしい。『聖地』と呼ばれる場所にあるそうなんだ」

 

「日本にも聖地があるのね。それで何処なの、ゼノヴィア?」

 

「秋葉原だ」

 

 こうしてイリナ達は最寄りの駅から秋葉原―――通称『アキバ』へと向かう事となった。

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 電車で揺られること1時間。教会トリオは電気街口と言う場所から外に出たが、3人共に外の風景に圧倒された。立ち並ぶ電気屋の数々。アニメを宣伝する看板。道に停まっているアニメ絵が描かれた車。知らない者から見れば、様々な要素が異様に混じり合った風景だと思うだろう。

 

「……め、冥界の都市部も凄いと思ったが……これは別世界だな」

 

「は、はい! す、すごいです! 見渡す限り電気屋さんばかりです!」

 

 ゼノヴィアは目を見開いて驚き、アーシアは既に目を回しそうな程に狼狽(ろうばい)している。

 

「噂には聞いていたけれど、想像以上に凄いところだわ。これが秋葉原……。私がイギリスで聖なるお仕事をしている間にも日本はグングン高度成長していたのね……」

 

 イリナもそんな風に口にしていた。彼女は幼少時に日本からイギリスへ渡ってしまったので、日本の都市部を見た事が無かったのだ。周囲を歩く人々を見て、ゼノヴィアが真剣な面持(おもも)ちになる。

 

「聖地か。歩いている彼らは巡礼者と言う事になるな。私達も教会に関係した者として、毅然(きぜん)たる態度で動かないと恥をかくぞ」

 

「は、はい!」

 

 ゼノヴィアの言葉にアーシアも改めて背筋を伸ばす。イリナも立ち振る舞いに気を付けながら(うなず)いた。

 

「そうね。私もミカエルさまの使徒として、堂々と歩いてみせるわ」

 

「とりあえず、聖地を歩く前に天に祈ろうか」

 

 ゼノヴィアの提案に勿論アーシアとイリナは応じて、「「「ああ、主よ!」」」とその場でお祈りを済ませる。アーシアとゼノヴィアは現在悪魔だが、天界からの特例で天に祈る事が出来る。

 

 ゼノヴィアは(ふところ)からメモ書きを取り出す。

 

「―――と、実は秋葉原に買い物に行くと言ったら、新のご両親と朱乃副部長と小猫がついでに買ってきて欲しい物があるとメモ書きを渡してきたんだった」

 

「あ、私もお父さんとお母さんから買ってきて欲しい物があるって言われてましたっ」

 

 アーシアもイソイソとメモ書きを取り出す。アーシアは一誠の家に住み、一誠の両親を本当の父と母のように感じているので、2人の娘として生きていくと天に誓った。その話を聞いた時、イリナは感泣(かんきゅう)したそうだ。

 

 アーシアとゼノヴィアがメモ書きを確認すると、アーシアの方は『テレビのケーブル』で、ゼノヴィアの方は『ポータブル式のDVDプレーヤー』だった。形式はメモ書きを店員に見せれば分かる代物。

 

「それではあの電気屋さんに行きましょうか!」

 

 イリナがそう言うと、教会トリオは駅から出てすぐに目にした大きな電気屋を指で指し示した。

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

「……こ、これが経済大国日本の電気屋か」

 

 ゼノヴィアが(ひたい)に汗をかきながら呟いた。店に入り、店内を一周してきたところでイリナ達は最上階のベンチで休んでいた。全員が電気屋の未知の風景に驚き、絶句し、頭がパンク寸前になっていた……。

 

 彼女達は幼い頃から教会で育成されてきたので、機械的な物とは縁遠い世界で生きてきた。教会でもパソコンやテレビぐらいは使っているものの、最新鋭の家電が揃う東京の電気屋に比べれば一目瞭然。一店舗めで彼女達は凄まじいカルチャーショックを受けている。

 

「デ、デ、デ、デーンキ、デンキ・ホーテ……」

 

 アーシアは目を回しながら、店舗で流れてる歌を口ずさんでいた……。

 

「アーシア、しっかりしろ! まだ初戦だぞ! いきなりやられてどうする! 私達はまだ買い物を終えてすらいないんだ!」

 

 ゼノヴィアがアーシアの肩を揺すって、気を確かに戻そうとしていたが……そう簡単には戻らない。

 

「……デンペンくん、可愛いですねぇ〜。デンペンく〜ん……」

 

「アーシア! うぅぅ! そんな、アーシアがぁぁぁっ!」

 

 キャパオーバーしてるアーシアと狼狽(ろうばい)するゼノヴィア。イリナは近くの自販機でジュースを購入して、2人に手渡した。

 

「とりあえず、冷たいものを飲んでから気合を入れ直しましょう」

 

 アーシアもジュースを飲んで落ち着いたのか、改めて話し始めた。

 

「お父さんのお買い物だけでも済まして、次に向かわないと身が()ちませんね」

 

「……アーシアさんの言う事は確かね。私やゼノヴィア、アーシアさんのように教会育ちにとって、この聖地はまだ早い場所かもしれないわ。手早く動かないとこの地に宿る不思議な力に捕らわれてしまいそう……っ」

 

 気を取り直したイリナ達は再び下の階に降りて、まずは一誠の父親の買い物を済ませる為、テレビがたくさん置いてある場所へ向かった。メモ書きを店員に見せて無事に買い物を1つクリア。次に同じ階のDVDコーナーに行き、メモ書きを店員に見せて『DVDプレーヤー』を購入。何とか2つめの買い物もクリアした。

 

 その後、更に下の階に降りて、各々(おのおの)緊張しながらも興味深そうに未知なる機械に目を配らせていった。そこで―――とあるコーナーを見学していたゼノヴィアがイリナとアーシアを呼ぶ。

 

「見ろ、アーシア、イリナ!」

 

 ゼノヴィアはワナワナと全身を震わせて、小さな機械の箱らしき物を見ていた。

 

「ど、どうしたの、ゼノヴィア?」

 

 駆け寄るイリナとアーシアが(いぶか)しげに訊くと、ゼノヴィアは生唾を飲み込んだ後に言った。

 

「こ、これを見ろ……。この小さな箱1つで……パンが作れるらしい!」

 

「「――――っ!」」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナとアーシアは言葉を失った。彼女達にとってはにわかに信じられない事だろう……。しかし、経済大国日本の技術力を舐めてはいけない。

 

「そ、そんな……(かま)も使わずにこれ1つでパンが作れるなんて……。パン屋さんが失業してしまいます……」

 

 アーシアが口元を手で押さえながら声を震わせていた。彼女達がそこまでの衝撃を受ける機械の名は……『ホームベーカリー』。

 

「ホームベーカリー! 直訳するとお家のパン屋さん! 日本の食にこだわる姿はここまで……!」

 

「ざ、材料を入れるだけで生成するそうですよ!」

 

「これでどれだけの迷える子羊が救われると言うんだ……。こ、これが最先端を行く日本の技術力か……ッ! 錬金術師の技術を遥かに超越しているではないか!」

 

 イリナ、アーシア、ゼノヴィアの3人はその場で手を合わせた。

 

「「「ああ、主よ! これ1つでたくさんの信徒が救われます!」」」

 

 そこまで大げさじゃない(笑)。むしろ、錬金術師の方が凄い。

 

「これ、欲しいな。値段は……ぬぅ」

 

 目を爛々(らんらん)と輝かせるゼノヴィアだったが、値札を見て(うな)った。値段は約3万円……高校生にとっては手が伸びにくい。天使および悪魔と言えど、基本的には高校生。給料は1ヶ月分のアルバイト代と大差無い。それぞれの財布の中身を確認し、全員難しい表情になっていた。

 

「……こ、この間、新しいお洋服と少女コミックを数冊まとめて買ってしまいましたし、何よりそこまでお金は持っていなくて……」

 

「私もつい最近、トレーニング用のグッズ一式を購入したばかりだ……むぅ」

 

 アーシアとゼノヴィアの財布の中身中身は心許ないようだ。イリナも2人と状況は変わらず、天界の新グッズを実費で購入。部屋に飾る小物も買っていたら一気に金欠になってしまったそうだ……。

 

「ハッ! そ、そうだわ! もしかしたら!」

 

 その時、イリナの頭に素晴らしい(?)閃きが降りてきた!

 

「これ、天界の経費で落とせるかもしれないわ! 迷える子羊を1人でも多く救えるとするなら、ミカエルさまもお許しになられると思うの!」

 

 イリナは素早くケータイで天界へ直通の電話を入れる。担当のヒトと二、三の問答を経てから―――イリナは2人にピースサインを向けた。

 

「天界のクレジットカードを特別に使用しても良いですって!」

 

 その報告にゼノヴィアもアーシアも涙した!

 

「そんな事が可能なのか!?」

 

「ミカエルさまのご慈悲ですね!」

 

 天界が持つ専用のクレジットカードは本当に必要な物を買う時にしか使えないのだが、今回は特例と言う事で使用許可が出た。イリナは涙を流して天へ、そしてミカエルへ感謝の祈りを捧げた。

 

「ミカエルさま、見ていてください! このホームベーカリーでたくさんパンを作って、迷える子羊達を救ってみせます!」

 

 その後、天界から「パンの材料費はそちら持ちでお願いします」と言うちょっと厳しい連絡が届いた。……信仰の道は険しい(笑)。

 

 

 ――――――――――

 

 

「さて、次は朱乃副部長の買い物だ」

 

 ゼノヴィアはホームベーカリーの大きな荷物を楽々持ちながら、メモ書きを見ていた。こういう時に力持ちがいると、突然の買い物でも対応できるので心強い。

 

「うん。どうにもコスプレ衣装のようだ」

 

「コスプレ? 朱乃さん、最近コスプレに()っているのかしら?」

 

 ゼノヴィアの言葉に首を(ひね)るイリナ。通行人に尋ねながら、イリナ達はコスプレ衣装を売っている店を見つけた。いざ行かんと思った矢先、その店の前で見知った女性達が話し込んでいるのが目に映る。

 

「ほら、ウェンディ。早く来なさいよ。アンタ1人で外で待つ気?」

 

「だ、だって、こういうお店って……ちょっと恥ずかしい……っ」

 

「私だって躊躇(ためら)うわ、こんなの。ちょっと元凶のお姉さん? アンタが言い出しっぺなんだから責任持って先陣を切ってもらいたいんだけど」

 

「ジュビアも恥ずかしい……っ」

 

「いやいやっ、普段から露骨に『正義さま〜!』ってアピールかましてるヒトが今更カマトトぶらないでよねっ!?」

 

「本来のジュビアは奥ゆかしいんです! ただ、正義さまの前だとジュビアの欲望が全面的に、そして開放的に押し出されてしまうだけですのでっ!」

 

「言い訳の端々(はしばし)から奥ゆかしさが微塵も感じられないんだけどぉっ!?」

 

 忙しくツッコミを入れるのは長い白髪に黒猫型の髪留め、猫耳のような跳ねっ毛が特徴の美少女。その(かたわ)らでシャルルを(なだ)めようとしているのは藍色の髪をツインテールに結わえ、緑色の菱形(ひしがた)模様が施されたエスニック風なデザインの肩出しワンピースと―――『さっきまで恥ずかしいと言っていたのはどうした?』と言わんばかりのオシャレに攻めた衣服を着た美少女。そして、もう1人は水色に近い青髪にゆるふわのウェーブをかけ、深いスリットが入れられた紺碧(こんぺき)のコートを着こなした美女。その顔触れにアーシアは見覚えがあった。

 

 それもその筈。青髪の美女は以前アスタロト家―――トレミスとの一件で会ったディオドラ・アスタロトの姉―――ジュビア・アスタロト。藍色の髪と白髪の美少女2人はアスタロト家と繋がりのあるヴァサーゴ家の息女にして姉妹、ウェンディ・ヴァサーゴとシャルル・ヴァサーゴ。人間界の街、しかも秋葉原に彼女達が来てるとは予想だにしていなかっただろう。彼女達もアーシア達と同じくコスプレ衣装を売っているこの店が目的のようだが、なかなか踏み出せずにいる。そこへアーシアが彼女達に声を掛けた。

 

「あ、あのっ。ジュビアさん、でしたよね? お久しぶりです」

 

 呼び掛けられたジュビアは「ジュビッ?」と謎の効果音を発しながら、アーシアの方へ視線を移す。ジュビアはアーシアの顔を覗き込むように見つめ、(しばら)くするとジュビアの脳内に落雷が落ちるような衝撃が走った……ッ!

 

『こ、この金髪は確か……アーシア・アルジェントさん、でしたよね!? 正義さまが度々(たびたび)視線を走らせていた女性……ッ! それもただの視線ではなく、ジュビアの「正義さまセンサー」が警鐘を発する程の……。そう、恋の視線を……ッッッッ! そこから導き出される答えはただ一つ! この金髪のヒトはズバリ―――恋敵(こいがたき)ッッッッ! どうして恋敵がここに……ジュビーンッ!? まさか、正義さまを誘惑して毒牙に掛ける為の何かが、このお店にある事を知ってやって来たッ!? だとしたら、この恋敵は正義さまを手籠めにしようと……ッッ! 見かけによらず、なんて狡猾で卑劣な……ッ。むしろジュビアが正義さまの手籠めにされたいのにッッ! 以前の件ではトレミーくんを治療してくれたのでお礼を言わせてもらいましたが……正義さまを狙っているのならば話は別です!』

 

 そんな独り勘違い思考を走らせているジュビア(笑)。アーシアはイリナとゼノヴィアにジュビアの紹介を終え、2人がジュビアに声を掛ける。

 

「うちのアーシアがお世話になったようだ。私はゼノヴィアだ、よろしく」

 

「紫藤イリナです! アーシアさんからもお話は聞きました。よろしくお願いします!」

 

 ゼノヴィアとイリナは軽く会釈して挨拶を済ませるが、ジュビアは警戒心MAXで2人を見つめる。

 

『ジュジュビビッ! この2人も、もしや恋敵―――いえ、違いますね。こちらの2人にはジュビアの「正義さまセンサー」が反応してません。よって、恋敵から除外です。やはり油断ならないのは、この金髪恋敵ですか……っ! ジュビア、負けませんッ! 必ずこの恋敵を(くだ)し、正義さまを毒牙から守ってみせますッ!』

 

 瞬時にゼノヴィアとイリナが恋敵でない事を見抜いたジュビアは、口早に「はい、どうもよろしくお願いします。そしてサヨウナラッ」と言い終えて疾風の如くウェンディとシャルルを引っ張って、店の中へ入っていく。行動の速さに呆気に取られる教会トリオ。

 

「……なんか、嵐を呼びそうなヒトね」

 

「は、はい……。でも、とっても良いヒトですよ?」

 

「うむ、アーシアが言うなら間違いないだろう。さて、私達も店に入ろう」

 

 コスプレ衣装を売っている店に入店した面々だが、入って直ぐに圧倒される。あちこちに物珍しい衣装が飾られており、シスターっぽい服もあれば学校の制服らしき物もたくさん飾ってある。皆が興味津々の様子で衣類を見渡していた。

 

 店員に確認しながら、ゼノヴィアが朱乃の欲しい物を見つける。ゼノヴィアが手に取った衣装を見て、アーシアとイリナは勿論、ジュビアとウェンディも顔を真っ赤にした。

 

「……ビキニアーマーと言う衣装らしい。ゲームに登場する女戦士が身に着ける物のようだ」

 

 ゼノヴィアがビキニ風の軽鎧(ライト・アーマー)を手にして、興味深そうに見ていた。

 

『こ、これ……隠す面積がほとんど無い衣装だわ! し、下のパンツも(きわ)どい角度! あ、朱乃さんのバストサイズだと上のアーマー部分も全部覆いきれないでしょうし……。ハッ! それが目的なのね!? はみ出したおっぱいで新くんを魅了すると言う作戦! こんなエッチな衣装で迫ったら、おっぱい大好きな新くんなら喜んで飛びつきそうだわ!』

 

「……女剣士としては、一度着なければいけないような気がする」

 

 何やら目元を光らせて挑戦的な表情になるゼノヴィア。おそらく、この場にいない朱乃へライバル心を燃やしているのだろう。

 

「はい! では、こちらで試着してみては如何(いかが)でしょうか?」

 

 女性店員がノリ気で試着室へ案内し、ゼノヴィアはそのビキニアーマーを手にして、「うん、一度着てみよう」と言って試着室の方へ。

 

「わ、私だって着られます!」

 

 アーシアも顔を真っ赤にしながら、付近にあった(きわ)どい衣装を手にしてゼノヴィアと同じ試着室の中に入り込んでいった。イリナも一度着てみたかった衣装を手に取り、隣の試着室に入って着替えをしていく。ジュビア達も女性店員に後押しされる形で試着室に入り込む。

 

『不思議な材質だが、着心地は悪くないな。これで頑丈な造りならば実際の戦闘でも使用できるかもしれない』

 

 ゼノヴィアの声が聞こえてくる。どうやら先程のビキニアーマーを気に入った様子。

 

『……や、やっぱりゼノヴィアさんのようにグラマーじゃないと、そういう衣装は()えませんよね。私だと少しボリュームが……』

 

 アーシアは衣装を着たものの、自分のスタイルと照らし合わせて満足できない部分があるようだ。

 

『ふふふ、そんな事はないぞ。ほら』

 

『あふぅん!……ゼ、ゼノヴィアさん、急に揉まれると困ります……』

 

『アーシアだって、充分なサイズだと思うぞ? もしや、部長や副部長と比べてそう思っているのかい?』

 

『……だ、だって、イッセーさんは大きいおっぱいが好きですから、私のサイズでは満足してもらえそうになくて……』

 

『そんな事ない。桐生に聞いた。要は感度らしい。揉み心地さえ良ければ男は充分に満足してくれるそうだ。イッセーだって、アーシアが相手ならきっと喜んでくれる』

 

『そ、そうでしょうか……?』

 

『そうだぞ。きっと、こんな風に』

 

『い、いやぁぁぁ。ぁうぅん……』

 

『エッチな吐息を漏らすんだな、アーシアは』

 

『だって、ゼノヴィアさんの指が、そ、そんな風に……。わ、私だって負けません! えい!』

 

『ぁぁん! アーシア……何処でこんな技を……ぃゃぁ……む、胸が変な感じだ……』

 

『ゼノヴィアさんの真似をしたんです! ゼノヴィアさんはこんなにいやらしい指付きで私の体を(もてあそ)んでいたんですよ?』

 

『……そ、そうだったのか……。やる方とやられる方では天と地ほどの差が……ぁ、ぁ、ぃぁん……! アーシア、私の体はどんどん変になっていくぞ……』

 

 いったい試着室で何をやっているのやら……。この場に一誠がいれば間違い無く鼻血をダラダラ垂らしながらゲへ顔を披露していただろう(笑)。そんなわけで着替え終わったイリナ達は試着室から出てみる。

 

 ちょうど店内で衣装を物色していた他の女性客達がイリナ達を見て『おおっ』と感嘆の息を漏らしていた。ゼノヴィアは例のビキニアーマーを見事に着こなし、その場で模造の西洋剣を巧みにヒュンヒュンと動かす。アーシアは露出の多い踊り子らしき衣装。恥ずかしそうにしているが、神秘的な美しさが見える。体のラインも綺麗なので踊り子の衣装がよく似合う。イリナは小悪魔のような衣装を着ていた。真っ黒で背中に小さな悪魔の翼が生えており、お尻の部分には尻尾まである。2人に比べると派手ではないが、ヘソ出しがポイントだ。

 

 すると、別の試着室付近から感嘆の声が上がるのが聞こえ、その方向に視線を移す。視界に映ったのはヴァサーゴ姉妹―――妖精のような衣装を着たウェンディとシャルルだった。中央部分を露出させた背中には小さな羽があり、フリフリのスカートをあしらった可愛さ満載のドレス。如何(いか)にもファンタジー作品に出てくる妖精そのものを体現していた。お揃いのコーディネートと言う点も加算されてイリナ達以上の盛り上がりを見せる。

 

「わぁ……こうして見るとスッゴい可愛いっ」

 

「まさに双子妖精って感じがするな」

 

「はい、凄く似合ってます」

 

 イリナ、ゼノヴィア、アーシアが各々(おのおの)の感想を述べ、それを聞いてシャルルはフフンと得意げな表情で腰に手を当てる。

 

「なかなか悪くないじゃない」

 

「で、でも……ちょっと恥ずかしい……っ」

 

 ウェンディは顔を赤くして恥じらっていたが、そこへ2人の着付けを担当していた女性店員が(まく)し立てる。

 

「やはり……やはり私の見立ては間違っていなかったっ! 日本人離れした可愛さを、色違いのお揃い衣装でコーディネートッ! 元々の魅力が相乗効果(そうじょうこうか)で更にアップしましたよッ! お陰で私のファッション魂に火が点いてきました……ッ。さあっ、どんどん着替えさせてあげましょうッ!」

 

「な、何この店員、目がイッてるんだけど……」

 

「す、凄い迫力に満ちてますぅ……っ」

 

 尋常ならざる迫力の女性店員にたじろぐウェンディとシャルルだが、女性店員の勢いは止まらない(笑)。様々な衣装と共に試着室へ連行され、女性店員の独壇場が開幕される。

 

「まずはド定番! アニメに出てくる制服!」

 

「これは……可愛いですね」

 

「なんで私まで?」

 

 ―――お着替え中―――

 

「次なるお題はコレ! へそ出しノースリーブ!」

 

「ビックリするほど似合いませんね……」

 

「だから、なんで私まで?」

 

 ―――お着替え中―――

 

「夜はちょっと大胆に! 大人のパーティードレス!」

 

「これも似合いませんね……」

 

「ちょっ、これサイズ自体合ってないんだけど……」

 

 ―――お着替え中―――

 

「白衣でお注射されたい! ミニスカナース!」

 

「あのぉ……っ」

 

「なんか、どんどん嗜好(しこう)(かたよ)ってきてない?」

 

 ―――お着替え中―――

 

「女王様とお呼び! セクシーボンテージ!」

 

「これはダメですぅぅぅぅぅぅっ!」

 

「ちょっと、この店員問題あり過ぎよっ!?」

 

 もはや完全に店員のオモチャにされているウェンディとシャルル……。アーシアとイリナが「はわわ……っ」と言った様子で当惑する中、ゼノヴィアは「ふむぅ、あの衣装も動きやすさを重点的に仕立てているのか。今度着てみよう」などとボンテージ衣装の性能を褒めていた(笑)。

 

 女性店員はハァハァと危険な息を荒立てて、意気揚々と更なるお披露目に移る。

 

「ここまではただの前菜ッ! そして、ここからがメインディッシュッ! 真の切り札ッ! 私が今日まで築き上げてきたコーディネート人生の集大成なのですッ! 双子の姉妹さん以上に逸材を感じさせる青髪ゆるふわウェーブのお姉さんッッ! 見た瞬間に私のイマジネーションと美的センスがビビビッと来ましたッ! 一見おとなしそうに見えながらも実は肉食系を超えた超肉食系女子ッッ! そんな彼女にピッタリのコーディネートがコチラァッッッ!」

 

 女性店員が息巻いて試着室のカーテンを勢い良く開ける。その中から現れたのはジュビアだが……。

 

「「「おぉぉぉぉぉぉ……ッッッ」」」

 

 先程以上に感嘆の声が店内に小さく響く。それもその筈、ただでさえ抜群のプロポーションが着ている衣装によって更に際立っているのだ。……問題なのはその衣装、明らかに店員の趣味嗜好が露見するような組み合わせだったのだ。

 

 各所にフリルが付いた真っ白なビキニ、結婚式などでよく見られるベールには女性用(かんむり)のティアラも乗せられている。まさに清楚(間違った方向)を体現したコーディネートを施されたジュビアは一挙に注目の視線を浴びた。これにはイリナ達も思わず息を呑んでしまい、女性店員が狂喜乱舞する。

 

「フゥォォッハァッハァッハァァァァァッッ! 如何(いかが)でしょうかッ!? これぞ名付けて――――ウェディング・ビキニッッッ! 清楚・清廉を表す白ビキニに全女性の憧れとも言うべきウェディングドレスの要素を(あつら)えた至極の逸品ッッ! これさえ着れば意中の相手を射止める事も間違い無しですっ!」

 

「ジュビーンッ!? そ、そうなんですか? つまり、これは花嫁衣装と言っても過言ではないのですねッ!?」

 

「はいっ! むしろ必殺必中! どんな堅物男性でも(またた)く間に骨抜きイチコロですよぉ!」

 

 女性店員の言葉にジュビアの脳内妄想力がフルスロットル! いま彼女の脳内に浮かび上がっているのは……祝福の鐘が鳴り響く我が家、盛大な拍手を贈る人々、そして……正装に身を包み、『ジュビア、結婚しよう』といつまでも繰り返し続ける幽神正義(笑)。ジュビアの手を握り、本人のキャラに似合わないほど爽やかな笑顔を振り撒き、延々とジュビアに結婚宣言をする姿は―――まともな人が見れば『……ナニコレっ?』としか言葉が出てこないようなイメージである……。

 

 しかし、妄想暴走力を発揮したジュビアは口元からヨダレを垂らしながらトリップしていた……。そのまま妄想の濁流に呑み込まれた彼女が、このカオスな空気に更なる拍車を掛ける。

 

「店員さんッッ! 他にはどんな花嫁衣装がありますかッッ!? ジュビアに教えて下さいッッ!」

 

「もちろんっ、喜んでッッ! お客さまの為にも今宵は時間外勤務上等! サービス残業だって受け入れカモンですよぉッッ!」

 

 店員の狂ったハイテンションぶりにウェンディとシャルルはついて行けず、当惑するしかなかった。非常に危険な巻き込まれ展開が来る事を察したのか……ヴァサーゴ姉妹はその場から逃げる事を決め、ソロリソロリと忍び足を始める。

 

 しかし、妄想で暴走したジュビアと最初から暴走していた女性店員からは逃れる事など出来ず、あっという間に先回り&確保されてしまった……。ジュビアと女性店員の目が怪しく光る。

 

「お二人とも、何処へ行こうとしてるのですか?」

 

「逃しませんよ、お客様ぁ?」

 

「い、いえ……その、私達はそろそろ帰ろうと思いまして……」

 

「そ、そうよねっ。ほ、ほらっ、子供が夜遅くまで出歩くのは色々と危ないって言うじゃない? ウェンディも私もまだ子供だから」

 

 ジュビアの両手がウェンディとシャルルの肩に置かれる。

 

「シャルルはともかく、ウェンディは違いますよね? いつも大人の女性に憧れているじゃないですか。そういう意味ではコレも大人の女性になる為の良い経験です。さあ、2人とも。素敵な大人の女性に近付きましょう……っ?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ! ジュビアさん、目が怖くなってますぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

「ちょっ!? 私はともかく、ウェンディは見逃して! まだ(けが)れを知らない年頃だから―――って、なんでこんなに力が強いのよっ!?」

 

「さあっ、お客様ぁッッ! 私がデザインした花嫁衣装はまだまだありますっ! 清楚系、小悪魔系、セクシー系、女王さま系と各ジャンルが選り取り見取りッッッ! 今宵は寝かせませんよぉォォォォオォッッッッ!?」

 

 捕獲者1号(女性店員)2号(ジュビア)に捕まり、連行されていくウェンディとシャルル。彼女達の悲痛な叫び声は店内に哀しく響き渡り、周りの人達も「くわばら、くわばら」とせめて無事で帰って来られるのを祈るしか無かった……。

 

「……じゃあ、私達はお会計を済ませて行きましょうか」

 

「そ、そうですね……」

 

 イリナとアーシアは女性店員とジュビアの迫力に圧倒され、そそくさとレジへ向かった。一方でゼノヴィアは―――。

 

「私もついて行った方が良いかもしれんな。着れば、どんな敵でも倒せる花嫁衣装とやらに俄然(がぜん)興味が()いてきたぞ」

 

 明後日の方向に解釈して、女性店員とジュビアの後を追おうとしていた……。

 

 

 ―――――――――――

 

 

「お母さんが欲しがっていた本も買えました!」

 

 アーシアが公園のベンチで収穫を喜んでいた。秋葉原の大きな書店で一誠の母が欲しかった本も買い、残すは小猫の注文と本命である一誠へのプレゼントだけとなった。そこで小休止として、偶然見つけた公園にて体を休めていた。

 

「見慣れない土地だと疲れるものだな」

 

 ゼノヴィアは想像以上に疲れていたようで、ベンチに座りながら首をコキコキと鳴らしていた。その割には近くのハンバーガーショップで買ったハンバーガーを豪快に食べていたそうだ……。

 

「そ、そうですね。歩いても歩いても知らないところですから、一旦大きな道から離れてしまうと全然分からなくなってしまいます」

 

 アーシアは紅茶をストローでチューッと飲みながら一息ついている。2人の言い分はもっともで、見知らぬ土地での行動はやはり体に(こた)える。イリナとゼノヴィアは任務として知らない土地で行動する事に慣れているが、それは戦闘を前提にしたもので今の状況とは全く違う。

 

 聖地秋葉原は思いのほか複雑な部分も含め、何処が何の店かも分からない事が多い。小猫の注文と新、一誠のプレゼントを買う場所はゼノヴィアが分かっているようなので問題は無いが、この土地が落ち着かないのは確かだ。

 

『弱音を吐いていてはダメよ、イリナ! 私は天使長ミカエルさまの直属の天使! こんな事くらいで弱っていては天界に顔向けできないわ!』

 

 イリナは「パンッ!」と頬を叩くと、気合を入れ直す。

 

「さあ、ゼノヴィア、アーシアさん! 次の買い物に行きましょう!」

 

「うん!」「はい!」

 

 2人もイリナの元気っぷりに一瞬唖然とするが、直ぐに笑顔で(うなず)く。そう3人で気合を入れ直しているところに―――。

 

「ねーねー、キミたちぃ、今ヒマ?」

 

 三人組の若い男性がイリナ達に声をかけてきた。髪を染めていたり、ピアスをしていたりと―――如何(いか)にもチャラ男と言った感じの派手な服装だった。

 

「って、皆、外国の子じゃないか? 言葉通じねーかも」

 

「いや、言葉なら分かるぞ」

 

 ゼノヴィアがそう答える。それを聞いてチャラ男達は喜んでいた。ちなみに悪魔や天使はどんな言語でも対応できるらしい。

 

「なら、話は早いや。どう、俺達とこれから遊ばない?」

 

 イリナは初めて経験するナンパに少々感動を覚え、アーシアはゼノヴィアの後ろに恥ずかしそうに隠れ、困っている様子だった。

 

「金髪の子、マジ、か、可愛い!」

 

「やべぇな! 凄い純情そうだぜ!」

 

 その行動はチャラ男達に大ウケしたようだ。しかし、アーシアとしては一誠以外の男と接するのは難易度が高いものだろう。後ろに隠れたアーシアをゼ確認し、ゼノヴィアが一言(つぶや)く。

 

「私は私よりも強い男にしか(なび)かん。よって、私を倒せたら一緒に遊んでやろう」

 

 そんな挑戦的な物言いに苦笑するチャラ男達。普通に見れば線の細いゼノヴィアだから、か弱いと思うのかもしれない。……しかし、ゼノヴィアの線の細さは鍛え上げられた為だ。しかも悪魔となっているので、普通の男性では太刀打ちできない程の腕力だろう。

 

「まあまあ、そう言わずに――――」

 

 チャラ男の手が伸びた瞬間、ゼノヴィアはその腕を軽やかに(かわ)し、足を引っ掛けて転ばせる。間髪入れずに倒れたチャラ男の顔面に鋭い蹴りを――――寸止めで放った。

 

「私に勝てそうか?」

 

「「「ゴメンなさいぃぃぃぃっ!」」」

 

 冷淡な一言にチャラ男全員が震え上がって退散していった。ゼノヴィアは「アーシア、もう大丈夫だ」と安心させるように微笑む。

 

「はい! でも、あの方々に悪い事をしたようで……」

 

 アーシアは先程のチャラ男達を心配していた。なんて優しいのでしょう……っ。ゼノヴィアはアーシアの頭を撫でて言う。

 

「いいや、今日私はイッセーの代わりにアーシアを守る役目がある。多少の無茶をしてでもアーシアを守るよ」

 

「ゼノヴィアさん!」

 

 抱き合うアーシアとゼノヴィア。教会トリオの友情は美しく(とうと)い……。と、そんなこんながあった後に向かった先はアニメショップだった。小猫の注文は『ネオねこねこパラダイス』と言うアニメ作品のグッズ。小猫はいろんな物を見て知っており、アニメやドラマだけでなく、歌にお笑い番組とその趣味は多岐に渡っている。

 

 そんな中で最近小猫がお気に入りなのは可愛い猫の亜人が事件を解決していくアニメ番組―――今回のお目当てたる『ネオねこねこパラダイス』である。

 

「あ、これ、『エデンの緑龍(でってぃぅ)』です! 私の好きな少女コミックなんです。空中都市で食いしん坊なドラゴンさんがいろんな事件を解決していくんですよ」

 

 アーシアは好きな作品をアニメショップの漫画コーナーで見つけて、はしゃいでいた。ゼノヴィアも漫画コーナーで何かを探している様子だが、「うーん。私の好きな作品が無いな」と少し残念そうに唸っていた。「何が無いの?」とイリナが話しかけると、ゼノヴィアが答える。

 

「うん。私は『生徒会の一撃』と言う漫画が好きなんだ。全校生徒の投票によって選ばれた屈強な5人の戦士が、狭い生徒会室でナンバーワンを決めるまで戦い続ける作品なんだ。ちょうど今、副会長が書紀の毒手をくらって戦死してな、新しい副会長となる(おとこ)が出てきそうなんだ。良いところなんだ。もしかしたら、会長が巨躯(きょく)を利用した新技を繰り出すかもしれない」

 

 ゼノヴィアは戦闘ものの漫画が好きなようだ。2人とも漫画を楽しみつつ、日本語を勉強しているそうだ。そこで偶然にも目に()めたのが小猫の注文らしき作品だった。本と共にグッズも置かれており、その作品だけで1つのコーナーになっていた。

 

「ねえ、ゼノヴィア、アーシアさん。これじゃない?」

 

 イリナの声に2人が集まり、確認。ゼノヴィアが(うなず)いた。

 

「これに間違いない。小猫は画像付きでメモをくれたが、このグッズで間違いないぞ」

 

 ゼノヴィアが手にしたのは執事服を着た目の大きい猫の人形だった。

 

「よし、日程的に午後三時までには秋葉原を出て帰路につかねばならないだろうから、これを買って一通り見たら、この店を出よう」

 

 今日のゼノヴィアはいつもと違ってリーダーシップを発揮している。おそらく、新やリアス、一誠がいないから「自分がアーシアを守らないといけない!」と思っているのだろう。意外と責任感が強い(笑)。

 

「しかし、この聖地に来てからホームベーカリーに目を輝かせたり、本屋で本を買ったり、ここでもまた漫画を買いそうだ……。主よ、私はなんと欲深くて金遣いの荒い女なのでしょうか……」

 

 ゼノヴィアの悩みグセもまだまだ直りそうにない……。

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 買い物袋も多くなってきたところで最後の買い物。新と一誠へのプレゼントを買う為、イリナ達は大通りを外れて裏道を歩いていた。ゼノヴィアが地図を見ながら先導しているが、何度も右往左往しており、イリナもアーシアも不安を(つの)らせていく。ここでゼノヴィアの歩みがピタリと止まり、右手側の雑居ビルに視線を向けた。

 

「ゼ、ゼノヴィアさん。、こんな裏の裏にお店があるのですか?」

 

 不安げなアーシアがそう訊く。

 

「新とイッセーの欲しがる『えろげ』は普通の店舗では、私達が買えないものらしいんだ」

 

「あら? そんなに表へ出せないものなの?」

 

 イリナが(いぶか)しげに訊くと、ゼノヴィアもよく分からない様子だった。

 

「うーん、桐生から聞いた事だからな」

 

 桐生とは、イリナ達と同じクラスメイトのメガネ女子―――桐生藍華(きりゅうあいか)。物事をハッキリ言う女子でスケベ知識が豊富である。最近では新でさえも手を焼いているらしい。

 

 しかし、アーシアとゼノヴィアは桐生の意見を真剣に聞いている事も多い。特にアーシアは一誠の為にエロ知識を増やしているようだが、それで良いのだろうか……?

 

「このビルにあるお店なら、私達にも『えろげ』を売ってくれると言うんだ。桐生の紹介だと言えば良いらしい。狭そうだから、私が代表して行って来ようかな」

 

 向かおうとするゼノヴィアだが、アーシアが引き留める。

 

「いえ、私が行ってきます! イ、イッセーさんへのプレゼントですから……わ、私が……」

 

 いつにも増して気合の入っているアーシアだが、やはりもじもじと顔を真っ赤にしている。しかし、一誠への恋心を全開にした彼女の姿は健気の一言に尽きる……ッ! ゼノヴィアもアーシアの真剣な想いに微笑んだ。

 

「分かった。けど、無茶だけはしてはダメだぞ?」

 

 ゼノヴィアはメモ用紙をアーシアに手渡して、髪を撫でる。

 

「はい! アーシア・アルジェント、行ってきます!」

 

 アーシアは元気良く気合を入れて、雑居ビルの階段を上がっていった。イリナ、ゼノヴィアの2人が待つこと数分――――。

 

 ドドドドドッッッ!

 

 突然、顔を真っ赤にした男性達が脱兎の如く雑居ビルから降りてくる。何事かと思ったその直後、フラリフラリと体をふらつかせながら、顔面真っ赤っかのアーシアが階段から降りてきた。アーシアはイリナ達のもとに辿り着くと、その場でバタンキューと崩れ落ちる。

 

「アーシア! しっかりしろアーシア!」

 

 ゼノヴィアがアーシアを抱きかかえ、アーシアが震える声で(つぶや)く。

 

「……だ、男性がいっぱい……お、おっぱいがたくさん……ふにゃぁぁぁ……」

 

 それだけ言い残すと、アーシアは目をグルグルな回して気絶してしまった!

 

「男がいっぱいだと!? アーシア! おい、アーシア! クソ! いったい中で何が起こったんだ!?」

 

 雑居ビルを睨むゼノヴィア。その体に薄っすらと戦闘的なオーラが(ほとばし)り始めていた。アーシアがやられた(?)事でゼノヴィアは怒りに打ち震えている。

 

「……私が甘かった。ここは聖地だ。見たところ、様々な宗教の者がこの地を訪れている。彼らからしてみれば私達は異教徒だったんだ……。ここで異教徒弾圧が起こったって何ら不思議ではない。……おのれ、アーシアを宗教弾圧したんだな……。しかも男がたくさんだと? 嫁入り前のアーシアを(はずかし)めたのか!? 許さんぞ、異教徒どもめ……ッ!」

 

「何だか分からないけれど、ゼノヴィアの言っている事は半分ぐらい当たっていると思うの! ここは聖地。私が知る限り歴史上、聖地と呼ばれる場所では異教徒からの攻撃が幾度となくされているわ。それはここも変わらず―――アーシアさんは異教徒の弾圧を受けたのね!」

 

 ゼノヴィアとイリナは間違った解釈のまま、お互いに視線を交わして頷き合う。

 

「行くぞ、イリナ! アーシアの(とむら)い合戦だっ!」

 

「ええっ!」

 

 イリナとゼノヴィアは雑居ビルの奥へと駆け上がっていったが―――。

 

「……まさかのエッチなものばかりでしたっ!」

 

 雑居ビルの一室。そこはエロエロな女子のイラストが全域にわたって展開する店で、入ったイリナ達は面食らって呆然としていた。そこから察するにアーシアはエロいイラストばかりの光景を見て、臨界点突破してしまったのだろう。

 

「あんな清純そうな金髪のお嬢さんが店を訪れたら、うちのお客さま方は恥ずかしくなって出て行ってしまいますって」

 

 ……などと店長にも言われてしまった。雑居ビルから出てきた男性達はアーシアの清純な容姿に魅せられて(よこしま)な気持ちが耐えられなくなったのだろう……。

 

『てっきり、私とゼノヴィアはアーシアさんが聖地で宗教的攻撃を受けたのだと思ってしまったわ。うぅ、自分達の世間知らずな面が恥ずかしくて(たま)らない!』

 

 ゼノヴィアがメモ書きを店員に渡して、目当ての物は何とか買えた。パッケージには『小悪魔お姉さまとの性生活3』と書かれていた。ちなみに新のは無修正版です(笑)。

 

「買い物は終了だ……。帰りの電車に乗るぞ……」

 

「「りょ、了解〜」」

 

 ゼノヴィアのくたびれた言葉に、イリナとアーシアは疲れた声で応じたのだった。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

「今日は楽しかったな」

 

 帰りの電車に揺られながら、ゼノヴィアがイリナにそう(つぶや)いた。ゼノヴィアの肩には疲れて寝てしまったアーシア、スヤスヤと安らかな寝顔。イリナがアーシアのほっぺをつつきながら言う。

 

「ええ、本当に。日本の聖地は不思議がいっぱいだったけれど、楽しい事も多かったわ」

 

「うん。それもそうだけど、イリナやアーシアとの買い物自体がとても楽しかった。私はこんな風に生きて来なかったからな」

 

 遠い目をするゼノヴィア。そう、イリナ達はその才能を買われて、幼い頃から主の為、教会の為にと体を鍛えてきた。今は色々な経緯(けいい)の結果、こうして普通の女の子のように生活できる。それは平凡ではあるが、とても素晴らしい事でもある。

 

 ゼノヴィアの目元が優しげになる。

 

「またこうやって買い物に来よう。女だけの買い物も楽しいと思うんだ」

 

「ええ、勿論。また来ましょう、聖地の秋葉原へ。今度は小猫ちゃんや、リアスさん、朱乃さんにロスヴァイセさんともお買い物したいわね!」

 

「さて、この『えろげ』だが……」

 

 袋から取り出して、箱をマジマジと見ているゼノヴィア。箱の裏側にはエロいイラストが映っており、○○○(ピーッ!)な事をしている男女の絵がズラリとあった。

 

「店員に軽く聞いた。どうやらエッチなゲームのようだ。イッセーの物とは違って、新のは無修正……つまり、何も隠していない姿が(あふ)れているらしい。新め……あれだけ女に囲まれておきながら、まだこういう物を欲すると言うのか。いや、問題はそこではないな」

 

 ゼノヴィアはワナワナと怒りに打ち震える。

 

「……これの内容はお姉さま系らしくてな。お姉さまとの性行為の疑似体験ときている。新の性的欲求が部長と副部長に向けられていると言っても良いだろう。だが、少しは『元教会関係者との子作り』みたいなゲームもやったらどうなんだ! そんなに私は魅力が無いのか!? イッセーもイッセーだ! 私達の自慢の親友とも言えるアーシアの何が不満なのだ!?」

 

 その場で立ち上がり、全身からオーラを(ほとばし)らせるゼノヴィア。あと、『元教会関係者との子作り』等と言ったピンポイント過ぎる内容のエロゲーはありません(笑)。

 

「落ち着いて、ゼノヴィア! 周囲のお客さんが見ているわ!」

 

「帰ったらこれを議題に女子全員で緊急会議だ!」

 

「……イッセーさん……えろげ……買いましたよ……むにゃ……」

 

 燃えるゼノヴィア、慌てふためくイリナを他所に寝言を呟くアーシア。帰ったら孵ったで、新と一誠には苦難が待っている(笑)。




最近は忙しさも相まって執筆および更新の頻度が下がってます……。あまり期間を空け過ぎないよう努めていきます。次回は一誠と幽神兄弟&ジュビア勢との会合回を書こうかなと思考中です! もしかしたら、変更の場合もあります。その時はご容赦くださいm(_ _)m。

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