ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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いざ戦場へ

イリナを知り合いの病院に運び終わった新は自宅に戻り、少しばかりの仮眠を取り直ぐに起きた

 

普通ならとっくに寝静まる深夜、新はベッドから体を起こして準備を始める

 

「この異様な気配のお陰で起きれたぜ……コカビエルの野郎が来たか」

 

新の表情が一気に険しくなる

 

相手は堕天使の幹部、しかも歴戦を生き延びてきた強者

 

だが、それでも行かなきゃならない

 

「主と共に、主の町を守るのも『兵士(ポーン)』の務め。一誠達はもう向かってるだろうな」

 

家の中からでも感じる強い力ゆえに、一誠とリアスもコカビエルの存在に気付いている筈

 

新は寝室を出ようとした

 

「ぅぅん……」

 

レイナーレのか細い声

 

カラワーナとミッテルトは熟睡しているようだが、レイナーレだけは時折体を捩らせていた

 

「アラタ……行っちゃうの……?」

 

「えっ?起きてる?いや、寝言か……ヤケにリアルだな」

 

「絶対、生きて帰ってきて……お願い……」

 

レイナーレの目から流れる一筋の涙

 

こんな弱々しい声を聞いたのは初めてだった

 

それだけコカビエルの実力は恐ろしい物なのだろうと新は直感した

 

同じ堕天使だからコカビエルの恐ろしさを知っているのだろうと……

 

「安心しな。俺は死なねぇよ。帰ったら、また皆で酒を飲もうな」

 

新は安心させるため、レイナーレの頬に優しくキスをする

 

すると、さっきまで泣いていたレイナーレの表情が柔らかくなった

 

「よしっ、行くか。コカビエル退治に」

 

新は家を出て自前のバイクを走らせた

 

決戦の地となる駒王学園へ……

 

 

―――――――――

 

 

キキィッ!

 

 

「……っ!誰ですか?ここから先へは通しませんよ」

 

学舎である駒王学園

 

そこにはソーナ・シトリー会長と匙が結界を張っていた

 

新はバイクメットを外して顔を見せる

 

「よっ。ソーナ・シトリー会長」

 

「りゅ、竜崎くん!?」

 

「竜崎!お前バイク持ってたのか!?」

 

「俺は高校生でもバウンティハンターだ。バイクの所持も許可されてんの」

 

バイクを降りてスタンドを立て、メットを引っ掛ける

 

ソーナ・シトリー会長に現状を聞いてみた

 

「んで、ソーナ・シトリー会長。一誠達はこの結界の向こうに?」

 

「はい。堕天使コカビエルの気配に……複数の魔獣とぶつかり合ってる気配もします。恐らく――――――ケルベロス」

 

「ケルベロスって、あの地獄の番犬か?」

 

ケルベロスとはRPG等でも有名な魔獣

 

地獄で死者を喰らう三つ首の犬である

 

「この中にコカビエルやフリード、祐斗にとって仇とも言えるバルパーがいるんだな……会長さん、俺をこの中に入れてくれ」

 

新は闇皇に変異する

 

ソーナ・シトリーは小さく頷き、結界に隙間を開ける

 

「気を付けてください。竜崎くん」

 

「会長さんにそう言われたら、意地でも生き残らねぇとな。さて……行きますかぁっ!」

 

新が隙間から結界内に侵入し、一誠達の所へ走っていく

 

学園は既に敵地と化しているので、『プロモーション』の発動条件は揃っている

 

急ぐため、新は一度『騎士(ナイト)』に昇格して行った

 

 

走り続けてすぐに新は2匹のケルベロスを発見

 

1匹はリアス達と交戦中で、もう1匹は一誠とアーシアを喰らおうとしていた

 

「ハイスピード飛び蹴りィィィィィィィィッ!」

 

バゴォォォンッ!

 

新は『騎士(ナイト)』のスピードを活かした蹴りをケルベロスの腹に叩き込んだ

 

ケルベロスは血が混じった吐瀉物(としゃぶつ)を吐きながら、地面を転がる

 

スッキリした新は『プロモーション』を解除して『兵士(ポーン)』に戻る

 

「――――っ!?新!」「新さん!」

 

「よう!一誠、アーシア。皆も無事みたいだな」

 

「遅いわよ新!今まで何してたの!」

 

「グッスリ寝てました(笑)」

 

ドンッ!

 

リアスの放った小さい魔力弾が新にぶつけられた

 

「痛ぇ!鎧を着けてても痛ぇ!いくらなんでもあんまりだ!」

 

「私達が必死になってる時にふざけてるからよ」

 

「いや、ガチで寝てたんだけど」

 

ドンドンドンッ!

 

今度は3発ぶつけられた……

 

「リアス部長?これは酷すぎませんか……?」

 

「ショボクレてないで、早くケルベロスを倒しなさい!」

 

「へい……さ〜て、ぶつけられた鬱憤を晴らさせてもらうぜワン公!」

 

ガァオァァァアアッ!

 

新に蹴られたケルベロスが咆哮をあげて突っ込んできた

 

新は両腕に赤い魔力を集中させる

 

3つの首が新を噛み砕こうとするが、それより早く新は両の拳でケルベロスの歯を1本ずつ折っていく

 

「オラァッ!クソ犬コラァッ!テメェのせいでリアス部長から魔力くらっちまったんだぞ!歯ァ全部折ってやるから覚悟しとけやぁっ!」

 

「新……完全に八つ当たりじゃないか……」

 

「なんだか、ケルベロスの方が可哀想に見えてきました……」

 

一誠とアーシアはケルベロスに同情の目を向けた

 

新に八つ当たりされてるケルベロスは、折られたり引っこ抜かれたりで一気に歯を全部失った

 

キュゥゥゥゥ……キュゥゥゥゥ……

 

満身創痍のケルベロスは弱々しく鳴き始めた

 

しかし、新は追撃の手を―――――否、足を緩めない

 

「こいつはツケだ。受け取れや」

 

右足を上げ、そのまま中央の首にカカトを落とす

 

肉の潰れる音が発され、中央の首は完全に死んだ

 

更に新は剣を手に持ち、魔力を込めて残り2つの首を刺した

 

あまりにも残虐な八つ当たりだったため、一誠とアーシアは目を背けるしかなかった……

 

「はぁ〜。スッ…………………………………………キリした」

 

「タメが長ぇ!」

 

突っ込む一誠に新は肩をグルグル回す

 

「加勢に来たのだが、先を越されてしまったみたいだな」

 

「ゼノヴィア、丁度良いところに来てくれたな。クソ犬の死体は邪魔になるから消してくれねぇか?」

 

「やれやれ。出番を奪われた上に片付けを押し付けられるとは」

 

ゼノヴィアはエクスカリバーで死体となったケルベロスの胴体を突く

 

聖剣の一撃は魔物などの存在に絶大なダメージを与えるので、たったひと突きでケルベロスは塵となって消えた

 

そして一誠も溜めた力をリアスと朱乃に譲渡する

 

「朱乃!」

 

「はい!天雷よ!鳴り響け!」

 

朱乃が天に指を(かざ)し、雷を支配する

 

ケルベロスは逃げようとしたが、現れた『騎士(ナイト)』祐斗の『魔剣創造(ソード・バース)』が四肢を貫き動きを止める

 

身動き出来なくなったケルベロスに雷が注がれ、魔物は消滅していった

 

「くらいなさい!コカビエル!」

 

赤龍帝の力を譲渡されたリアスは、巨大な魔力の塊をコカビエルに向かって撃つ

 

コカビエルは片手を前に突き出して巨大な一撃を防ぎ、軌道をずらした

 

「なるほど。赤龍帝の力があれば、ここまでリアス・グレモリーの力が引き上がるか。その上、全ての魔族の敵とも言える『闇皇(やみおう)の鎧』も飼っている――――――面白い。これは酷く面白いぞ」

 

コカビエルが空中で笑う中、強い光が発された

 

見てみると、校庭の真ん中にある四4本のエクスカリバーが重なり、1本に戻っていった

 

「エクスカリバーが1本になった光で、下の術式も完成した。あと20分もしない内にこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない」

 

「なんだとっ!?」

 

新は絶句した

 

あと20分で町が壊される

 

自宅だけでなく行き付けの酒場も、何もかも壊されてしまう……

 

新はギリリと歯を噛み締めた

 

「フリード!」

 

「はいな、ボス」

 

「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。4本の力を得たエクスカリバーで戦ってみろ」

 

「へいへい。まーったく、俺のボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも!チョー素敵仕様になったエクスなカリバーちゃんを使えるなんて光栄の極み、みたいな?ウヘへ!ちょっくら、悪魔でもチョッパーしますかね!」

 

暗闇から出てきたフリードがエクスカリバーを握った

 

聖剣を使える因子をバルパーから貰ったので、難なく使う事が出来るらしい

 

「ほらほら!剣護の旦那も、素敵に改造された聖剣ちゃんでクソ悪魔どもをチョンパしましょうぜ!」

 

「な……け、剣護……さん?今、あいつは誰を……」

 

暗闇からもう一人、『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』の使い手―――――神代剣護が歩いてきた

 

ゼノヴィアはとても信じられなかった

 

自分の憧れていた上司が堕天使側にいる現状に……

 

「久しいな。ゼノヴィア」

 

「何故だ……何故だ剣護さん!何故、あなたがコカビエルやフリードと一緒にいるんですか!」

 

狼狽するゼノヴィアの問いに、剣護はハァッと溜め息を吐きながらゼノヴィアを見る

 

「その訳を聞きたいか?聞きたいなら、フリードのエクスカリバーを砕いてみろ。それが出来たら話してやる―――――出来たらな」

 

剣護は肩に邪聖剣を乗せたまま、地面に座る

 

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺された身だ。悪魔に転生した事で生き永らえている」

 

「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。こんな極東の国で会う事になろうとは。縁を感じるな」

 

ふふふと嫌な笑いをするバルパーは聖剣計画に至った経緯を打ち明け始めた

 

「―――私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ夢にまで見る程に。幼少の頃、エクスカリバーの伝記に心を躍らせたからなのだろうな。だからこそ、自分に聖剣使いの適性が無いと知った時の絶望と言ったらなかった。自分では使えないからこそ、使える者に憧れを抱いた。その想いは高まり、聖剣を使える者を人工的に創り出す研究に没頭する様になったのだよ。そして完成した。君達のお陰だ」

 

「なに?完成?僕達を失敗作だと断じて処分したじゃないか」

 

祐斗の言葉にバルパーは首を横に振った

 

「聖剣を使うのに必要な因子がある事に気付いた私は、その因子の数値で適性を調べた。被験者の少年少女、ほぼ全員に因子はあるものの、どれもこれもエクスカリバーを扱える数値に満たなかったのだ。そこで私はひとつの結論に至った。ならば『因子だけを抽出し、集める事は出来ないか?』―――――とな」

 

「なるほどな。聖剣使いを人工的に創る為には、犠牲が必要不可欠って事か」

 

新の出した答えにバルパーは"その通りだ"と言って、(ふところ)から光り輝く球体を取り出した

 

「――――同志達を殺して、聖剣適性の因子を抜いたのか?」

 

祐斗が殺気を込めてバルパーに問う

 

「そうだ。この球体はその時の物だぞ?3つほどフリードに使ったがね。これは最後のひとつだ」

 

「ヒャハハハハ!俺以外の奴らは途中で因子に体がついていけなくなって死んじまったけどな!うーん、そう考えると俺様はスペシャルだねぇ」

 

「……バルパー・ガリレイ。自分の研究、自分の欲望のために、どれだけの命を(もてあそ)んだんだ……」

 

「ふん。それだけ言うのならば、この因子の結晶を貴様にくれてやる。環境が整えば、後で量産出来る段階まで研究はきている。まずはこの町をコカビエルと共に破壊しよう。後は世界の各地で保管されている伝説の聖剣をかき集めようか。そして聖剣使いを量産し、統合されたエクスカリバーを用いて、ミカエルとヴァチカンに戦争を仕掛けてくれる。私を断罪した愚かな天使どもと信徒どもに私の研究を見せ付けてやるのだよ」

 

バルパーは持っていた因子の結晶を放り投げた

 

投げられたソレは、祐斗の足元に行き着き拾われる

 

結晶を哀しそうに、愛しそうに、懐かしそうに撫でる祐斗の目から涙が流れた

 

すると、結晶が淡く光り始める

 

徐々に広がっていき、校庭を包み込んだ

 

地面から光が浮いてきて形を成していく

 

祐斗を囲うように、光が人の形に形成されていった

 

「何だこれは?どうなってやがんだ?」

 

「きっと、この戦場に漂う様々な力が因子の球体から魂を解き放ったのです」

 

把握出来てない新に朱乃が答える

 

今この場には魔剣、聖剣、邪聖剣、悪魔、堕天使に闇人の鎧と強力な力が集合している

 

そんな事が起きてもおかしくない

 

そして形を成した光、あれは―――――聖剣計画の犠牲となった者達だと理解出来た

 

「皆!僕は……僕は!……ずっと……ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていて良いのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごして良いのかって……」

 

霊魂の少年の1人が微笑みながら、祐斗に何かを伝えた

 

新や一誠は霊魂が何を喋っているか分からない

 

すると、朱乃が代わりに話してくれる

 

「……『自分達の事はもういい。キミだけでも生きてくれ』。彼らはそう言ったのです」

 

霊魂の言葉が伝わったのか、祐斗の目から涙が溢れてくる

 

魂の少年少女達が口をリズミカルに同調させる

 

「―――――聖歌」

 

アーシアが呟く

 

そう、彼らは聖歌を歌っている

 

祐斗も涙を溢れさせながら聖歌を口ずさみ出した

 

少年少女達の魂が青白く輝き、祐斗を中心に眩しくなっていく

 

『僕らは1人ではダメだった』

 

『私達は聖剣を扱える因子が足りなかった。けど』

 

『皆が集まれば、きっと大丈夫』

 

先程まで聞こえなかった声が聞こえてきた

 

本来、聖歌を聴けば悪魔は苦しむのだが……新達は一切苦しみを感じない

 

寧ろ友を、同志を想う温かさを感じた

 

新もいつの間にか涙を流していた

 

『聖剣を受け入れるんだ』

 

『怖くなんてない』

 

『たとえ、神がいなくても』

 

『神が見ていなくても』

 

『僕達の心はいつだって』

 

『―――――ひとつだ』

 

魂が天に上り、ひとつの大きな光となって祐斗を包み込む

 

『相棒』

 

「ん?誰だこの声?一誠か?」

 

一誠の籠手から流れる声は、宿りし赤龍帝ドライグ

 

新は知らなかったため、少しばかり驚いた

 

『あの「騎士(ナイト)」は至った。神器(セイクリッド・ギア)は所有者の想いを糧に変化と進化をしながら強くなっていく。だが、それとは別の領域がある。所有者の想いが、願いが、この世界に漂う「流れ」に逆らう程の劇的な転じ方をした時、神器(セイクリッド・ギア)は至る』

 

「まさか、それがアレ――――――禁手(バランス・ブレイカー)……」

 

神々しい光が闇夜を裂いた


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