ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっと書けました……。長引かせたせいかお陰か、長めかつ期待以上に仕上がったと思います。笑っていただけたら嬉しいです(笑)。


魔法少女リーア☆マジか!? 後編

『……いつも余裕をかましてるキリヒコが、今回は逆に追い詰められてやがる……っ。こんな状況、初めて見た……! そして―――マジでミルたんって何者なんだ……っ⁉』

 

 アーシアの治療を受けている新が心中でそうツッコミを入れる。それもその筈、キリヒコと対峙しているのは一般人である筈(おとこ)()ミルたんで、あのキリヒコに片膝をつかせたのだから……っ。

 

 一般人に片膝をつかされたせいか、全身から邪悪なオーラを解き放つキリヒコ。それは今までに見た事が無いほど凶悪に満ちていた。一方、ミルたんは本調子のままで―――。

 

「魔法少女☆ミルたんのミルキーパゥワーは、悪の邪神なんかに負けないにょ!」

 

Ferme(フェルメ) ta() gueule(ギョール)‼‼ あなたの言動は何一つ理解できない。いや……だからこそ、これ程までに苛立つのでしょうか……っ。ハッハッハッ、Je vois(ジュヴォワ)……! グレモリー眷属も私を相手にしている時、このような感じだったんですね……。なかなか良い勉強になりましたよ……!」

 

 キリヒコは薄気味悪い哄笑と共にくぐもった声音で自分に対する皮肉を吐く。罵詈雑言らしきフランス語を吐き、ミルたんに対して完全に敵意を超えた殺意を孕む。右腕の装置(デバイス)―――『時戒器(ツヴァイト・ギア)』を操作し、銃口を向けて光弾を連続で発射する。しかし、ミルたんは飛んでくる光弾を拳や蹴りで打ち返していく。

 

「効かないにょ! 正義のミルキーパゥワーを纏ったミルたんは無敵だにょ!」

 

 相変わらずブッ飛んだ持論で常識を破壊していくミルたん(笑)。ミルたんのミルキーパゥワーでキリヒコが撃ち放った光弾は全て弾き飛ばされ、距離を詰められる。

 

「ミルキィィィィィィィィィ・ダイナマァァァァァァァァイト・ラブリィィィィィィィプゥゥアァァァァァァァァンチィァァッ!」

 

 周りを震撼させる程の勢いを乗せた拳が(くう)を走り、キリヒコの腹部に突き刺さる! その衝撃も凄まじく、両者の間の地面に亀裂が生じる程のものだった………。

 

 またしても剛拳を食らったキリヒコは吐血し、後方に飛び退いてしまう。腹を押さえ、苦悶に歪む呻き声を絞り出す。ミルたんは再度『ミルキー・ダイナマイト・ラブリーパンチ』を突き出していく! ダメージが溜まっているせいで逃げられないであろうキリヒコに、ミルたんの剛拳が迫り来る………ッ!

 

 ガゴォォンッ! ―――と大きく響き渡る音……。再びミルたんの剛拳がキリヒコの芯を捉えたかと思ったが―――。

 

 ブシュゥゥ……ッ! ミルたんの右腕から血が噴き出し、ミルたんの彫りの深い顔が苦痛に歪む。

 

「……ッ! とっても硬いにょ……っ!」

 

 堪らず後退(あとずさ)るミルたん。ミルキーパゥワー(笑)に満ちた拳を打ち込まれた筈のキリヒコが、くぐもった声音で不敵に笑う。その姿は何処かで見た事があるような光沢感を出していた。

 

「ポーズだけがクロノスの能力(ちから)だと思いましたか?」

 

「―――ッ!? お前、まさか……っ!」

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)。勿論、他の能力も使用できますよ。たとえば……こんなものとか」

 

 そう言ってキリヒコは右腕の『時戒器(ツヴァイト・ギア)』を操作すると、次は大きく身体が脈動し、鬼気迫るオーラが噴出される。そう、これはシド・ヴァルディが得意とする自身の身体強化を(ほどこ)す錬成能力そのもの……ッ。

 

唯一違う点があるとすれば、2つ以上の強化能力を同時に発動するのが出来ない事である。キリヒコ(いわ)く、「そこまでの再現はさすがに出来なかった」らしい。

 

 しかし、1つずつしか使えないと言えど……ただでさえ時間停止能力を持つユナイト・クロノス・キリヒコが身体強化の錬成能力まで使うとなれば、鬼に金棒どころの話じゃない……。

 

 キリヒコはズンズンと足跡を刻みながら歩み、ミルたんに近付いていく。一方、ミルたんは自前のスティックを構えて迎え撃つ体勢を取った。

 

「ミルキィィィィィィィィィ・マァジカルゥゥゥゥゥゥゥゥ・コメットォォォォォォォォォォ・スゥィィィィィィィィィィングァァァアッッ!」

 

 (くう)を斬り裂きそうな勢いでスティックを振るうミルたん。キリヒコは右腕に邪悪なオーラを纏わせ、迎え撃つ。特大の衝撃波が周囲に吹き荒れ、キリヒコとミルたんの間にバチバチと火花が飛び交う。

 

 直後、ミルたん自前のスティックが弾き飛ばされ、ミルたんの巨躯(きょく)が大きく後退させられた。滑るように地面を(えぐ)りながら後退し、踏ん張りを利かせるミルたん。彫りの深い顔が真剣な面持ちと化す。

 

「これが悪の邪神の邪悪パゥワー……ッ。禍々(まがまが)しくて、とても強いにょ……っ。でも、それでもミルたんは負けないにょ! 愛と勇気が詰まった正義のミルキーパゥワーは何が遭っても不滅だにょっ!」

 

「いい加減あなたの妄言(もうげん)には付き合いきれませんね。次で終わらせてあげましょう」

 

Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』

 

 必殺の音声が鳴り、キリヒコの全身から揺らめいているオーラが更に邪悪さを増していく。一般人たるミルたんに対して容赦の無い念押し。それ程までにキリヒコの苛立ちは募っていたのだろう……。ミルたんは相変わらず自分のミルキーパゥワーを信じ、筋骨隆々の肉体を脈動させ―――地鳴りと共に飛び出していった!

 

「愛とぉっ! 勇気とぉっ! 正義のミルキーパゥワーッ! ミルたんに力をくださいにょぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっっ! ミルキィィィィィィィィィィィ・ゴッド・シャァァァァァイニングゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・クロスチョォォォォォォオォォォォッップゥァァァァァァアアアッッ!」

 

 巨木のような両腕を交差させ、ミサイルのような速度でキリヒコに向かっていくミルたん。キリヒコも邪悪なオーラを全開にして、足元に時計盤の幻影を出現させる!

 

The() End(エンド) Of(オブ) Crews-aid(クルセイド)……!!!!』

 

 幻影時計盤の針が回転する動作に合わせて、キリヒコの蹴りが走り―――ミルたんのクロスチョップと正面衝突……ッッ! 極大の爆発と爆風が発生し、余波がリアス達にも襲い掛かる!

 

 リアス達は直ぐに防御魔法陣を張り巡らせるが、予想以上に衝撃の余波が強かったせいか―――防御魔法陣は(はかな)い音を立てて割れてしまい、吹き飛ばされてしまう……っ。

 

「うぅ……っ、なんて威力……っ」

 

 リアスが痛む体を起こして、皆の安否を確認。(さいわ)いにも大きな負傷を負った者はいなかった。少しして爆煙が晴れると―――キリヒコとミルたんの姿が見えてくる。

 

 ミルたんは苦悶に顔を歪ませ、両腕からは血を流し、筋骨隆々の全身が傷だらけとなっていた。一方、キリヒコは足から血を流しているものの、他に目立った外傷は無し。どうやら必殺技の衝突はキリヒコの方に軍配が上がったようだ。キリヒコが大きく息を吐いて言う。

 

「本当にバカげた存在ですね、あなたは。……Sale fils(サルフィス) de(ドゥ) pute(ピュット)!! しかし、ようやくダメージを受けてくれましたね。ここまで手こずらせてくれた礼です。完膚(かんぷ)無きまでにトドメを刺してあげますよ……ッ!」

 

Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』

 

 なんと、キリヒコは再び必殺技の音声を鳴らせて、全身から邪悪なオーラを噴出させ始めた! 新や一誠でさえ死にかけたような技をミルたん相手に連続で発動。どうやら本気で殺るつもりだ……っ。邪悪なオーラが今度はキリヒコの足に集束していく。

 

Va(ヴァ) te(トゥ) faire(フェール) enculer(アンキュレ)!!!!」

 

The() End(エンド) Of(オブ) Explosion(エクスプロージョン)……!!!!』

 

 フランス語で罵倒らしき言葉を吐き散らし、キリヒコは高速で飛ぶように水平移動を開始。その勢いを利用した回転蹴りがミルたんのボディに食い込む! ミルたんは筋肉をパンプアップさせて防御しようとしたが……敵う筈も無く、極大の衝撃と共に後方へ吹き飛ばされてしまった!

 

 しかし、これだけでは終わらない……。ミルたんの背後に時計盤の幻影と同じ様な紋様が描かれた立方体(キューブ)らしき物体が出現し、ミルたんを閉じ込めるように捕縛。そこから(ワン)(ツー)(スリー)(フォー)とカウントが始まる……。カウントの速度が速くなり、幻影の針が(トゥエルブ)を差した刹那―――ミルたんを閉じ込めたキューブが大爆発を起こした!

 

 情けや容赦など微塵も無いオーバーキルな所業に、新もリアス達も言葉を失ってしまう……。爆炎の中からミルたんがドサッと地面に落下。全身はズタボロの血まみれ、もはや立ち上がる事すら出来ないだろう……。しかし、それでもミルたんは―――ッ!

 

「……ミ、ミルたんは……魔法……少女、だ……にょ……っ」

 

 (みずか)らの手を天に向けて矜持(きょうじ)、諦めないと言う意思を掲げるが……次第に意識を失い、上げていた手がパタリと地に落ちる。どうやら完全に意識を断たれてしまったようだ。

 

「まさか、あれだけの攻撃を受けても死なないとは……未知のバケモノですか、アレは? まあ、これで少しは溜飲(りゅういん)が下がりましたよ。貴重な体験も出来ました。―――Merci(メルシィ)

 

 皮肉をタップリ混ぜた礼を告げるキリヒコ。あとはトドメを刺すだけと言わんばかりに再び『時戒器(ツヴァイト・ギア)』を操作し、砲門に邪悪なオーラが集束していく。

 

 それを見て危険だと判断したリアス達は直ぐにキリヒコへ攻撃を仕掛けようとした。ロスヴァイセが魔法で出した着替えを着用し、全員が手を向けるが―――キリヒコは既に読んでいた。

 

「鬱陶しいんですよ―――Ma puce(マピュース)……!!」

 

Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Judgement(ジャッジメント)……!!!!』

 

 キリヒコは即座に振り返り、邪悪なオーラに満ちた砲撃をリアス達に見舞った。砲撃は複数に分裂し、リアス達を残らず殲滅するべく襲来してくる。先程と同じように防御魔法陣を展開するリアス達だが、耐えられる筈も無い……。防御魔法陣の壁が撃ち破られた、その刹那―――。

 

「本邦初公開! レヴィア・バリアーッ!」

 

 セラフォルーが自前のスティックを振るうと、リアス達の身体が輝きを纏い始めた。直後にキリヒコの放った砲撃を受け、吹き飛ばされたものの、リアス達は奇跡的に無傷で済んだ。この不可思議現象を目の当たりにしたキリヒコは再び怒りを表す。

 

Zut(ズィット)……! 今のはかなり本気で撃ちましたよ……? なのに、何故無傷でいられるのですか……⁉」

 

「それが私、魔法少女マジカル☆レヴィアたんのミルキーパワーだからよ!」

 

「またソレですか……っ。バカのひとつ覚えのように意味不明な力を発揮して、私を怒らせたいようですね」

 

 キリヒコは『時戒器(ツヴァイト・ギア)』を操作し、分身能力を発動。キリヒコが3人に分裂する。

 

『『『Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』』』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Sacrifice(サクリファイス)……!!!!』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Judgement(ジャッジメント)……!!!!』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Explosion(エクスプロージョン)……!!!!』

 

 三者同時に必殺の音声を響かせ、邪悪なオーラが全身から噴出される。キリヒコ(分身А)が刃を向けた『時戒器(ツヴァイト・ギア)』を振り下ろし、巨大な丸鋸(まるのこ)状の斬撃を放つ。解き放たれた斬撃は地面を削りながらセラフォルーに向かっていく。

 

 それとほぼ同じタイミングで『時戒器(ツヴァイト・ギア)』の銃口を向けたキリヒコ(分身B)が邪悪なオーラに満ちた砲撃を撃ち放った。双方から迫り来る斬撃と砲撃。セラフォルーは自前のスティックに魔力を流して構える。

 

「ミルキー・スパイラル・レヴィアビィィィィィムッ!」

 

 セラフォルーの杖から(ほし)マーク、(ハート)マークが連なった螺旋状の魔力が放たれ、キリヒコ(分身)が放った斬撃と砲撃と衝突!

 

 火花が散り、衝撃の余波が地を(えぐ)り、セラフォルーの腕にも痺れが走る。

 

「うぅ……っ。さすが時戒神(じかいしん)クロノス・デ・キチーク……なんて凄まじい攻撃なの……っ! でもっ、マジカル☆レヴィアたんは負けないもんっ! ミルキーへの愛と勇気! そして、ソーナちゃん達を守りたい想い! それがマジカル☆レヴィアたんに無限大の力を与えてくれるのよ! ミルキーパワー全開ッッ!」

 

 セラフォルーの放った魔力が一層勢いを増し、徐々に斬撃と砲撃を押していく。セラフォルーのマジカル砲撃が双方の攻撃を完全に押し退け、2体のキリヒコ(分身)は()(すべ)無く散っていった。

 

 肩で大きく息をするセラフォルー。何とか押し返したが……まだ本体の攻撃が残っている……!

 

「終わらせましょうか―――Ma puce(マピュース)!!!!」

 

 爆煙の中から邪悪なオーラを纏ったキリヒコが飛び出し、先程と同じように高速の水平移動で距離を詰めていく。邪悪なオーラが右に集まり、セラフォルーに必殺の蹴りを見舞うべく迫り来る……!

 

 セラフォルーも負けじと自前のスティックに膨大な魔力を流し、☆マークと❤マークがセラフォルーを囲うように飛び交う。セラフォルーがスティックを突き出して叫ぶ。

 

「ミルキー・ラブアンドピース・レヴィアアタァァァァックッ!」

 

 セラフォルーの強大なマジカルスティック攻撃とキリヒコの邪悪極まる必殺キックが激突し、特大の衝撃波と火花が辺り一面に散らばるっ! 2人の力はほぼ互角……と言いたいところだが、キリヒコの方が若干()しつつあった。

 

「うぅ……っ! ミルキーパワーは絶対に負けないもん……っ!」

 

「そのふざけた力もどうやらネタ切れのようですね。腹立たしかったですが、なかなか面白くもありましたよ。それでは……永遠にAdieu(アデュー)!」

 

 キリヒコがトドメを刺そうと()えた刹那、燃え盛る炎と(ほとばし)(いかずち)を纏った新が横から割り込み、強烈な一撃をキリヒコに繰り出した!

 

 雷炎モードの新はキリヒコの蹴り足に雷炎を纏わせた拳打を叩き込み、キリヒコの体勢を崩した。横槍を入れられたせいでキリヒコはセラフォルーのマジカル攻撃もまともに受けてしまい、後方に吹き飛ばされる。

 

 その一瞬の隙を見逃さず、新は兜の口部分を開いて魔力をチャージ。セラフォルーも「新くん! 一緒にいくわよー!」と自前のスティックを(かざ)した。

 

「―――『雷炎竜の咆哮(ライトニング・ブラスト)』ォォォォォォォォォオオオオッッ!」

 

「レヴィアビィィィィィィムッ!」

 

 雷炎が迸る砲撃と膨大なマジカル砲撃が同時に発射されるが、キリヒコは余裕を崩さない。何故ならヤツには時間停止能力があるから……。キリヒコはバカ正直に食らうつもりは無いとばかりに時間停止能力を発動させる。

 

Pause(ポーズ)……Pause(ポーズ)……PauPauPauPau(ポゥポゥポゥポゥ)―――Error(エラー)……!!』

 

「――――っ⁉ 何故発動しない⁉ まさか、あの珍妙な生物の攻撃を食らったせいで不具合が起きた……!?」

 

 まさかの事態発生! なんとキリヒコの『時戒器(ツヴァイト・ギア)』からエラーの音声が流れ、時間停止能力が発動しなかった! ミルたんの攻撃がヤツの装置(デバイス)に不調を起こさせたのだ。

 

 特大の二重砲撃は目前。急遽変更して錬成能力を発動し、全身を鋼鉄化。防御力を高めたキリヒコが二重砲撃に呑み込まれる……!

 

 砲撃が止み、爆煙の中からキリヒコが姿を現す。全身からは煙を噴き、血も流している。先程とは打って変わって疲弊した様子を見せるキリヒコ。しかし、それでもヤツはくぐもった声で不敵に笑う。

 

「……フッフッフッフッフッフッ。Trés bien(トレビアン)……! まさか、ここまで予想外の事態に(おちい)るとは思ってませんでしたよ……っ。火遊びのつもりでしたが、手痛い火傷を負わされましたね。このまま続けてもよろしいのですが、美味しいところは最後まで取っておくとしましょう。今回はこの辺で失礼させていただきます」

 

「……お前にしては珍しい弱腰発言じゃねぇか。さすがにキツかったか?」

 

Non(ノン) Non(ノン) Non(ノン)、私はまだ負けたとは思ってませんよ? あくまで楽しみが増えそうだと言っているのです。実に有意義かつ興味深いデータを(いただ)けましたので、謝礼として退()くとしましょう。では―――Salut(サリュー)

 

 そう言うとキリヒコは装置(デバイス)から黒いモヤを噴かして自身を包み込み、晴れると同時に姿を消した。キリヒコが去った事で一気に緊迫感が抜け、新達は安堵の息を漏らす。

 

「……ふぅっ。今回は散々だったな、いろんな意味で……おっと」

 

 フラつく新をリアスが支える。一方でセラフォルーは泣き顔になっていた。何故なら先程のバトルで自前のスティックが破損してしまったから……。ボロボロのスティックを(かか)えて涙を流すセラフォルー。

 

「ふぇぇぇぇえええんっ! 私の……私のスティックが壊れちゃったよぉぉぉぉぉお……っ! お気に入りだったのにぃぃぃぃぃぃ……っ!」

 

「お姉さま、仮にも四大魔王なのですから。そんな事で大泣きしないでください」

 

「うえぇぇぇぇぇんっ! ソーたんの意地悪ぅぅぅぅ! 皆を守ろうと頑張ったのにぃぃぃぃぃっ!」

 

 ギャン泣きするセラフォルーに頭を痛めるソーナ。そこへリアスが(なだ)めに掛かる。

 

「セラフォルーさま、それなら私が買って差し上げます。形はどうあれ、新と皆を守ってくださったのですから。お礼をさせてください」

 

「ホント⁉ ありがとね、リアスちゃん☆ それと先に謝っておきまーす、ゴメンね?」

 

「―――っ?」

 

 リアスが疑問を顔に浮かべた途端、ポンッと軽い音がする。今度はロスヴァイセを含めた女性陣の衣服が綺麗サッパリ消え去り、再び全裸祭りと化していた(笑)。

 

「実はさっきのバリアー、どんな攻撃からも守ってくれる代わりに、使用後は魔法少女もののエッチなお約束パターンになっちゃうの。テヘペロ☆」

 

『キャアアアアアアアッ!』

 

 再び悲鳴を上げる女性陣。朱乃とゼノヴィアは先程と同じように「あらあら」「やれやれ」と冷静でいた。リアスも嘆息しつつ手ブラで隠す。一方、2度目はしっかりと巻き込まれたロスヴァイセは涙目になっていた。

 

「うぅ……っ、また新さんに恥ずかしいところを……。これでは本当にお嫁に行けなくなってしまいます……っ」

 

「まあ、そう言うな。いずれ俺が貰う予定なんだから」

 

「―――っ。こんな状況でも新さんはブレませんね。……今の言葉、絶対に忘れないでくださいよ?」

 

 ロスヴァイセは紅潮した顔を(そむ)けつつ、口元を僅かに緩ませる。そこへ小猫が新のもとへ歩み寄ってきた。

 

「……先輩、シャツを貰います」

 

「今度は問答無用で追い剥ぎか⁉ つーか、さっき俺の上着を引っ剥がしていっただろう! それにもうインナーシャツしか残ってねぇんだぞ⁉」

 

「……さっきの攻撃で無くなりました。おとなしくインナーシャツを渡してください」

 

「そう言いつつもヘッドロック掛けるお前の神経に脱帽する痛ダダダダダダダダッ! (きし)む! 頭蓋骨がミシミシ軋むッ!」

 

 小猫の全裸ヘッドロックで締め上げられる新。今の新に身包みを渡さないと言う選択肢は与えられない……。そこへ再びゼノヴィアが参戦。

 

「それじゃあ、私は今度こそ新のズボンを貰うとするか」

 

「ゼノヴィア⁉ 本当に新くんのズボンを穿()くつもりなの⁉」

 

「ああ、穿くぞ? それともイリナが新のズボンを穿くか? いや、その方が良いかもな。私の裸で新の視線を釘付けにしようか」

 

「ええっ⁉ お、男の子のズボンを私が穿いちゃうの⁉ そ、それは天使的にもしてはいけない感が……。でもっ、このままスッポンポンは恥ずかしいし……っ。新くん! 私はいったいどうしたら良いのかな⁉」

 

「とりあえず、俺の頭蓋骨が破裂する前にこのバカ2人の暴走を何とかしろ……っ!」

 

 再び繰り広げられる珍妙なコント(笑)。その代償として新はインナーシャツとズボンを奪われ、パンイチになってしまった……。

 

「今回の新は悲惨ね。ふふっ、笑っては悪いでしょうけれど……っ」

 

「そ、そうですね。でも、一番の原因は私の身内なんですが……」

 

 珍妙な目に遭っている新を見て、笑いを堪えきれないリアスとソーナ。しかし、ソーナの言う通り……今回の元凶はセラフォルーである。当の本人はと言うと、妹ソーナの全裸に興奮し続けていた。

 

「ハフゥぅんっ! ソーナちゃんの生まれたままの姿! お姉ちゃん、今ならどんなお仕事でも余裕で終わらせちゃうわ!」

 

「セラフォルーさま……」

 

「リアス、こんな姉ですみません……」

 

 もはや嘆息するしかないリアスとソーナ。そこへパンイチの新が(しか)めっ面でやって来た。

 

「おいコラ」

 

「きゃっ、新くん。そんな格好で女の子に迫ってくるなんて大胆☆」

 

「元はと言えばアンタが原因だよな⁉ アンタがこんな騒動に巻き込むから俺はパンイチにされる羽目になっちまったんだぞ! いや、そもそもパンイチにされる意味が分からん!」

 

「ん〜、そこは私にも分からないかな。でもでもっ、可愛い女の子達に囲まれるのは男の子から見ればラッキーじゃない?」

 

「俺がパンイチじゃなければな!」

 

「新、もう諦めましょう。セラフォルーさまには何を言っても敵わない気がするわ……」

 

 新を(なだ)めようとリアスが背後から頭を撫でる。背中に当たる柔らかな感触も(あい)まって怒りは徐々に収まるが、それでも納得いかない部分がある……。セラフォルーの独り勝ちのような結果に終わってしまうのだろうか……?

 

 否、世の中そうは問屋が(おろ)さない……!

 

 パァァンッ! 小気味良い音が響くと、セラフォルーの衣装が弾け飛び―――全裸となった。小柄な身体には不釣り合いとも言える豊満なおっぱいがプルンプルンっと揺れ、程良い細さの腰、綺麗な形に整ったお尻が新の眼前に(さら)される。

 

「……あら?」

 

「お姉さまっ!?」

 

 キョトンとするセラフォルー、驚愕するソーナ。一同もソーナと同じような反応を示す。何故このような事態になったのか?

 

 セラフォルーの衣装だけ特別強固な術式を(ほどこ)していたのだが、キリヒコの攻撃が予想以上に強すぎた為、既に許容ダメージを越えていたので、時間差で崩壊してしまったのだ。何とも都合の良いタイミング……。

 

 『……あ、あらら〜っ。遂に私もエッチなハプニングに巻き込まれちゃった……。そう言えば私、新くんに裸まで見られるのは初めてかも……っ。ここはとりあえず、可愛らしさをキープしつつ恥じらう!』

 

 セラフォルーは頬を赤く染め、手ブラで(みずか)らのおっぱいを隠し、ブリっ子の如く片足を上げてポーズを決める。

 

「いやんっ☆」

 

「セラフォルーさま、こんな時にポーズを決めてる場合ですか……」

 

 リアスが嘆息しながら言う。ソーナは慌てた様子でセラフォルーに駆け寄り、遮るようにセラフォルーの前に立つ。

 

「あ、新くん! お姉さまを見てはいけません! それと私の方も見ないでくださいっ!」

 

「どんな要求やねん」

 

 思わず関西弁でツッコむ新。身を挺して姉の裸を死守しようとする(ソーナ)の姿に……セラフォルーは変なスイッチが入り、感極まってしまう。

 

「うぅっ、ソーナちゃんっ! 自分も裸なのにお姉ちゃんを守ってくれるのね⁉ はふぅんっ! 嬉しさと(いと)しさと元気百倍! でも、大丈夫よ! ソーナちゃんにだけ恥ずかしい思いはさせない! お姉ちゃんがソーナちゃんのお洋服になってあげるからっ!」

 

「お、お姉さま⁉ 何をわけの分からない事を―――きゃあぁっ!」

 

 献身的な妹の姿に感極まったセラフォルーは、ソーナを抱き締めるように密着してきた。ソーナの小振りなおっぱいとセラフォルーの豊満なおっぱいがくっつき合い、ムニュムニュと形を歪ませる。ここから更にセラフォルーの暴走が始まる……。

 

「お姉さま! ふざけるのはやめてくださ―――ひゃあぁぁっ! ど、何処を触ってるんですか!?」

 

「ハァハァ☆ ハァハァ☆ ソーナちゃんのスベスベで柔らかいお肌……! お胸……! お尻……! どうしよう、お姉ちゃん変な気持ちになってきちゃった……っ! これはマジカル☆レヴィアたんの闇落ち百合(ゆり)百合フラグ⁉ もしかして、今までの騒動は全て時戒神が仕向けた巧妙な罠だったのかしら……? だとしても、良いっ! むしろ良いっ! お姉ちゃん、百合百合の展開に堕ちちゃうのも辞さないわっ! だって、ソーナちゃんが一緒だもの!」

 

「何を意味不明な事を言ってるんですか! いい加減に―――ぁん……っ! リ、リアスっ! 新くん! 助けてくださいっ! お姉さまの奇行を止め―――にゃぁぁんっ!」

 

「あ、新! セラフォルーさまを止めましょう! このままだとソーナの大切なナニかが色々と失われるわ!」

 

「お、おう。分かった」

 

 新とリアスはセラフォルーの奇行を止めるべく、急ぎ足で向かうが……モミクチャしているセラフォルー、必死に抵抗するソーナ。両者の足が絡み合ったせいで体勢が崩れ、新とリアスもろとも巻き込んで倒れた。

 

「ぶべらっ!」「「きゃあっ!」」「あぁんっ☆」

 

 新は後頭部を打ち、その両隣にリアスとセラフォルーが倒れ込む。そして、ソーナは……新の上に覆い被さるように倒れてしまった。モミクチャに巻き込まれたせいで新の右手はセラフォルーのおっぱいを、左手はリアスのおっぱいをそれぞれ鷲掴(わしづか)みにしていた。

 

「ぅんん……っ。ちょ、ちょっと新……っ」

 

「やんっ☆ 新くんってばぁ♪」

 

 紅潮するリアスと何故か喜ぶセラフォルー。それよりも問題は……ソーナの方だった。新は現在パンイチで仰向け、ソーナは全裸で新の上に覆い被さるように倒れている。

 

 第三者の視点から見れば―――「これ、間違い無く入ってるよね?」と思われるほど危ない体勢になっていた……。自分の現状に気付いたソーナは、顔が一気に赤くなり湯気まで噴き始めてしまった。

 

「ぁ……ぁぁ……っ。ふにゃぁぁ……っ」

 

「ソーナっ!? ソーナが気絶しちゃったわ! 新! あなた、ソーナになんて事を……っ!」

 

「いやいやいや! 俺なにもしてないんだけどぉ⁉」

 

「はぅぅんっ! 新くんに跨がるソーナちゃんも、恥じらい過ぎて気絶しちゃうソーナちゃんも可愛いッ! これはもう永久保存版決定ね! でもでも、新くん! ソーナちゃんの処女はまだあげられないわ! お姉ちゃんたるレヴィアたんの試練をクリアしてからじゃないと!」

 

「アンタもさっきから何を言ってんの⁉ もう嫌だ、こんなカオス! 誰か止めてくれ!」

 

 そんな新の懇願にやって来たのは……ジト目の小猫でした(笑)。小猫は新の髪を掴んで引き剥がし、そのまま捻って自身の方に向かせる。ゴキッと嫌な音がなりつつ、小猫が危険な雰囲気の睨みを利かせる。

 

「……先輩、エロエロな展開で楽しいですか?」

 

「こ、小猫……っ? まずは落ち着け。これに関して俺は何も悪くない筈―――」

 

「……問答無用です」

 

 ブゥゥンッ! 小猫は新を空中へ勢い良く放り投げ、それを追うようにジャンプ。空中で逆さまとなった新の両足を交差させて左手でロック。そのまま背中合わせにたすき掛けして強烈なエビ反りを掛ける形で新の上半身を右脇に捕え、更に顔面を右膝に押し付けるようにして固定する。それはまるで数字の“(ゼロ)”を彷彿させるような体勢だった。

 

 後はそのまま地面へ着弾するのみ……。

 

「小猫っ、お前パーフェクト奥義まで使いこなせるようになったのか!?」

 

「……先輩、ダイヤモンドパワーで耐えてください」

 

「俺にそんな技は使えなグベァァァァアアアアアッッ!」

 

 エロ祭りの代償として、新の背骨と頭蓋骨は(しばら)く死んだ(笑)。

 

 

 ―――――――――――――

 

 

 後日。余談だがオーディションは当然ご破算。監督達一般人の記憶から今回の事件は消して、リアス達が参加した事は無かった事にされた。セラフォルーは凄く落ち込んでいたが……。

 

 ミルたんはキリヒコの攻撃によって重傷を負っていた筈だったが、いつの間にか姿を消していた。本当に謎だらけの(おとこ)()である。セラフォルーもミルたんを見ていて―――。

 

「あの娘、力強く清い瞳を持っていたわ。きっと、私と同等かそれ以上のミルキーパワーを有した魔女っ子なのよ。私、駒がまだ余っているし、ぜひぜひ眷属にスカウトしたいぐらいだわ☆」

 

 ツッコミどころ満載だったが、新は「一誠、あのミルたんとか言うバケモノをお前の眷属にしろ。あれはキリヒコを倒せる切り札になるぞ」と更に斜め上の進言を一誠にしたそうな……。無論、速攻で「絶対に嫌だボケ!」と拒否されてしまったが。

 

 更にセラフォルーは魔法陣から何かを取り出す。

 

「あ、そうだっ。聞いて聞いて。実はね、『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』特別ストーリー編の制作が決まったの! タイトルは『魔法少女マジカル☆レヴィアたん VS 時戒神(じかいしん)クロノス・デ・キチーク! “(とき)をも操る邪神の軍団”』よ! 今回の一件でビビッと来ちゃった! レヴィアたんに足りないもの……それは『強大な敵キャラ』! 人気急上昇中の二大番組『おっぱいドラゴン』と『オッパイザー』に対抗するには、悪の大ボスが必要だと気付いちゃったの! あの造魔(ゾーマ)のヒトはまさに打って付け! 敵でありながら特撮心(とくさつごころ)をくすぐるデザイン! 悪の大ボスにピッタリの強さと悪さ! 敵ながら見事としか言えなかったわ……っ」

 

 セラフォルーが取り出したのは『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』の番組ポスター。それには先程言ったタイトルが大きく掲載されており、クロノス化したキリヒコがレヴィアたんの敵としてそのまま掲載されていた。既に1話が放映され、その視聴率は従来以上の数字を叩き出したらしい……。

 

 『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』の監督にクロノス化したキリヒコのキャラクター案を持っていったところ、即座に「良いね、それ!」と採用されたとか(笑)。制作陣も今までに無かった前衛的なアイデアに刺激を受け、特別長編の制作が決定した。

 

「更に更に! それに合わせて『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』のフィギュアも作っちゃったの! しかも、3万個に1つの確率でシークレットフィギュアが当たるのよ! 監督にお願いして私だけ先取りしちゃった! 見て見て☆」

 

 セラフォルーが高々と掲げたのは勿論――――クロノス化したキリヒコを模したシークレットフィギュア。細かいところまで再現したシークレットフィギュアは完成度が無駄に高く、ファンの心を(ことごと)く刺激したそうだ(笑)。セラフォルーはフフンと得意気に宣言する。

 

「今まで私達は利用されてきたんだもの! だったら、こっちも思う存分利用してあげるわ! これでレヴィアたんの人気と冥界経済もウナギ登りよ☆」

 

 もはや、何からツッコんで良いのか分からない……。

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

「……Pardon(パルドン)? 私がシークレットフィギュアに?」

 

 無論、そんな情報が造魔(ゾーマ)のもとに入ってこないわけが無い。執政官のシルバーがタブレットで映像を見せ、レビィがシークレットフィギュアの画像を見せる。

 

「もう、冥界全土はこの情報で持ち切りだって。コメントも『時戒神マジカッケー!』とか『レヴィアたん頑張れ!』、『クロノスのデザインはまさに神www』って書かれてるの」

 

「完璧にナメてますね、奴らは。こんなバカみたいな商業に利用されるあなたもマヌケですが、セラフォルー・レヴィアタンはそれ以上に大バカ極まりない。こんな事で造魔(ゾーマ)が怯むとでも思っているのですか」

 

 シルバーが不快そうに吐き捨てる中、キリヒコはタブレットの映像とシークレットフィギュアの画像を見た後、「ふむぅ……」と考え込む。

 

「……いよいよ私もレア物扱いですか」

 

「「えっ?」」

 

「……フッ、フフッ。……フッフッフッフッフッフッ、フッフッフッフッフッフッ」

 

 キリヒコは不敵な含み笑いをしながら、その場を離れていった。その様子を見て、レビィは思った。

 

「……もしかして、満更でもない?」

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 ―――とまあ、こんな事がありました(笑)。

 

 新達は場所を自室から移して、竜崎家に増設された地下プール場のプールサイドに(もう)けてあるテーブル席で会話を続けていた。魔法使いの書類とにらめっこ中だったが、休憩を挟もうと言う事でこのプールに来ている。時期も冬なので温水仕様かつ一誠やアーシア達もお邪魔していた。

 

 新と一誠は海パン一丁。レイヴェルは泳がないのか、水着の上にTシャツを着ている。しかし、服の上からでもボリュームのある胸部が(うかが)えて眼福ものである。朱乃は肌色成分多めのビキニで、こちらも目の保養となる。

 

 ソーナは柄の可愛いワンピースタイプの水着。生徒会長の水着姿なんて早々に見られないレアものだった。

 

「家族以外の男性に水着姿を見せたのは新くんが初めてかもしれませんね」

 

「おっ、意外だな。まあ、私服姿もそうだが……水着も見れたのは確かにラッキーだな」

 

「とは言え、新くんにはもっと恥ずかしい姿を見られてますけど……」

 

「あー、裸とか、あの時の姉妹サンドとか?」

 

「―――っ! だから、そういう事を平然と言わないでください! 本当に恥ずかしかったんですから………っ」

 

 ソーナはオーディション時の騒動を思い出したせいか、顔を真っ赤にして目を逸らす。あの時はセラフォルーが主な原因だったので、ハチャメチャかつエロい展開になってしまったから無理もない。

 

「……いつか本当に責任取ってもらいますよ」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「な、何でもありませんっ。とにかく、破廉恥な言動は控えめにしてくださいね?」

 

 ソーナに釘を刺される新だが、人に言われて控えるような男ではない(笑)。一方、死神っ()のベンニーアは水着に着替える事も無くテーブルの下に(もぐ)っており、新達の足下でお茶を飲んでいた。

 

≪あっしはここが一番落ち着くんですぜ≫

 

「変なヤツだな……。せっかく来たんだし、少しぐらい泳げば良いのに」

 

≪お誘い感謝致しますぜ、オッパイザーの旦那。でも、あっしはこう見えてインドア派なんで勘弁してくださいな。その代わりと言っちゃなんですが、あっしに関する小粋な情報を1つ≫

 

「何だ?」

 

≪あっしはノーパン・ノーブラ解放主義ですぜ≫

 

「ぶっふぅっ!?」

 

 唐突なベンニーアのノーパン&ノーブラ宣言に、新は飲もうとしていたお茶を噴き出してしまった。新はゲホゲホと()せ、ソーナがベンニーアを(たしな)める。

 

「ベンニーア! こんな場所でそういう事を言うのは止めなさい!」

 

≪いやいや、マスター。これはお詫びの意味も兼ねた重要な事ですぜ。実際、世の男性の大半がノーパン・ノーブラにときめくらしいじゃねぇですか≫

 

「間違った知識を鵜呑みにしてはいけません!」

 

≪おや、アテがハズレちまいましたかね?≫

 

 クスクスと笑うベンニーアに、赤くなった顔で注意するソーナ。新はようやく落ち着きを取り戻してハァッと深く息を吐く。

 

「イリナには負けん!」

 

「ゼノヴィアには負けないわ!」

 

 100メートルもある地下プールで泳ぐのはゼノヴィアとイリナ。壮絶な水泳対決の真っ只中であり、物凄い勢いの水音と共に水飛沫(みずしぶき)を立てていた。

 

「どちらも負けないでくださーい!」

 

 プールサイドで2人を応援しているのはスク水姿のアーシア。そのすぐ近くでプールに入っているのは黄金の変態―――ファーブニル。

 

『アーシアたんのスク水。俺様、アーシアたんの浸かったプールの水を飲み干したい』

 

 相変わらずのド変態ぶり……。その頭部にはオーフィスが鎮座しており、更にオーフィスの頭上にも小さなドラゴン―――ラッセーが乗っかっていた。これぞ……ドラゴンの3段重ねである(笑)。

 

「我、この三体合体なら、グレートレッドに挑戦できる、と思う」

 

『合体してねぇよ、ただの鏡餅体勢じゃねぇか……』

 

 そう心中でツッコむ新は、一誠とドライグに「あのパンツドラゴン、そろそろヤキ入れとかねぇか?」と進言するも―――。

 

『俺様、何も見えない』

 

「俺様も、ナニもミエナイ」

 

 一誠とドライグは既に壊れていた……それもファーブニルの口調を真似する程に……。ファーブニルが加わって以降、疲れが溜まっているのが目に見えるようだ。

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』のニルレムってヤツが、以前襲ってきた連中なのか?」

 

「魔法使いの集まりは結構ありますものね」

 

 新の質問に朱乃が(うなず)く。魔法使いの協会は、朱乃が言うように他にもある。現在悪魔と深く関わり合いを持つのはメフィスト・フェレスが理事を務めている組織のみ。正式名称は『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』と言い、新達に書類を出してきた組織でもある。

 

 他にもルシファー眷属の『僧侶(ビショップ)』マグレガー・メイザーズが創設メンバーの1人でもある『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』も近代魔術を扱う組織として有名らしい。

 

 あとは人間からの転生悪魔でありながら、最上級悪魔にまで上り詰めたリュディガー・ローゼンクロイツが過去に在籍していたと言う『薔薇十字団(ローゼン・クロイツァー)』も有名な魔術結社である。

 

 悪魔と魔法使いの関係はかなり密で、改めて魔法使いの各組織を頭の中で巡らせていると……この地下プール場を訪れる者が居た。

 

「にゃー。疲れたわ」

 

 やってきたのは黒い着物を纏った女性―――黒歌(くろか)だった。気だるそうな様子でプールサイドに堂々と入り込んでくる。ルフェイも後ろからついてきて「ど、どうも」と丁寧に頭を下げていた。ソーナや朱乃が顔を若干険しくしているのは、未だ黒歌に思うところがあるからだろう。

 

「ただいまにゃー」

 

 黒歌が不意に新に近付いて抱き着く。着崩れた着物からきめ細やかで白い肌のおっぱいがこれでもかと主張し、もにゅんと柔らかな感触を与え、新の頬に自分の頬を擦り付けてくる。

 

「にゃはは〜、リューく〜ん♪ ちかれたんで癒やしてほしいのよねー」

 

 ファサッと掛かる黒髪から(ただよ)う良い匂い。年上のお姉さんの色香は脳内が(とろ)けてしまうほど危険なものだ。新の家に居候(いそうろう)するようになってからは、明らかに密着度を高めてきている。

 

 朱乃が不安げな表情で見つめる。彼女は身内以外の女性が新に近付くと、年上の女性とは思えないぐらい不安がってしまうのだ。

 

「黒歌。お前、ヴァーリに呼ばれて向こうに行ってたんだろう?」

 

 新が頬擦りしてくる黒歌にそう問い掛ける。小猫、ギャスパー、レイヴェルを助けるべく魔法使いの集団(実際は造魔(ゾーマ))と戦った時、彼女達は新達のもとを離れてヴァーリの所に戻っていた。向こうで何か起こっていたのは確実。黒歌が息を吐きながら言う。

 

「そうなのよー。もうさー、アジ・ダハーカが襲ってきてねー」

 

『――――ッ!?』

 

 この場にいる全員(新、一誠、朱乃、レイヴェル、ソーナ)が黒歌の言葉に驚いた。それもその筈、アジ・ダハーカとは以前、アザゼルが話していた滅んだ邪龍の1体……。

 

「……滅んだ伝説の邪龍の1匹ですわ。確か、凶悪なドラゴンの1匹だと……」

 

 レイヴェルがそう言って、ソーナが続く。

 

「千の魔法を操り、ゾロアスターの善神の軍勢に牙を剥いた邪悪なドラゴン。英雄スラエータオナが封印に近い形で滅ぼしたと伝えられていますね。……そのドラゴンもグレンデル同様に現世に(よみがえ)ったと言うのなら、これは……」

 

 どうやら予想以上に事が大きくなっているようだ……。『禍の団(カオス・ブリゲード)』―――グレイフィアの弟であるユーグリット・ルキフグスは滅んだ邪龍を復活させている。グレンデルでさえ凶暴性と頑丈さが桁外れだった。それよりも凶悪と言われているアジ・ダハーカ……。

 

『……ある意味でここが正念場かもしれん。赤龍帝として、な』

 

 ドライグも覚悟を持った声音でそう呟き、一誠も神妙な面持ちとなる。最悪な状況下での邂逅(かいこう)も覚悟しなければならないと言う事だろう……。

 

 黒歌は頬を離して、目元を若干厳しくさせた。

 

「……私達ってさ、その手の強者(つわもの)や隠された神秘を求めて世界の各地を飛び回っているんだけど……紛れもなく、私達が相手をした中で一番強いわ」

 

 黒歌は新のティーカップを勝手に取って、口を付けてから話を続ける。

 

「……あの邪龍は殴っても蹴っても斬っても笑って向かってきたわ。血を全身から噴き出しながらよ? 倒れる気配が全く無かったの。……ありゃ、ダメよ。まともじゃないわね。個人的に戦っちゃいけない部類のモンスターだと思うにゃ。その英雄何たらも封印でやっとってのも納得できる程のしぶとさだったわ」

 

 ドライグが低い声音で言う。

 

『……出来れば戦いたくはないな。恐らく、アルビオンもそう思った筈だ。破壊衝動と自滅願望を(あわ)せ持つ(やから)忌避(きひ)するべきだぞ、相棒』

 

 豪気で剛胆なドライグも邪龍との戦いだけは否定的になるぐらいだ。それほど厄介な部類なのが(うかが)える……。ルフェイが黒歌の話に続いた。

 

「そのあと、もう1体の滅んだドラゴン―――グレンデルとローブを着た男が現れまして……その場でアジ・ダハーカとグレンデルが私達との戦いを巡って争い始めてしまったのです。あまりに混迷したので、私達はそこで一時退散する事にしました」

 

 確かにグレンデルとユーグリットはヴァーリが現れた事を聞き付けていたが、転移した先で仲間割れを起こしていたのは意外だった。……否、邪龍同士には仲間意識すら無いのかもしれない。

 

 “頭のネジがハマってすらいない”―――。このドライグの弁が邪龍を的確に表している事に寒気すら覚える……。

 

「あれとの戦いを喜んで迎えたヴァーリもどうしようもないバカ者だったにゃ」

 

 呆れた口調で黒歌はそう言う。新と一誠も『アイツは戦い以外の事にも興味を抱いた方が良い』と心中で同意した。

 

「あとでその件に関していくつか質問してもよろしいでしょうか?」

 

 ソーナがルフェイに問うと、彼女も「はい」と素直に応じていた。黒歌が新の鼻を摘みながら言う。

 

「リューくん。あんたはあんなドラゴンになっちゃダメよ? きっと、リューくんはリューくんのままでなきゃいけないんだと思うにゃ」

 

「言われなくても、俺はヴァーリのようなバトルバカにも邪龍みたいなイカレた奴にもなるつもりはねぇよ」

 

 新の率直な意見に黒歌も「良い子にゃ」と(うなず)いていた。口ではそう言ってる新だが、心中では『今の俺にそんな理性が残せるだろうか……?』と不安がっていた。

 

 バサラ・クレイオス、ユナイト・クロノス・キリヒコ、エンドヴィル・ジョロキア―――次々と現れる凶敵(きょうてき)どもを目の当たりにし、今までの力が通用するのかと内心焦っていた。無論、邪龍のような理性が崩壊したドラゴンになるつもりは毛頭(もうとう)無いが……現状のままでは奴らに勝つどころか一矢(いっし)(むく)いる事さえ出来ないだろう。

 

 だが、越えてはいけない線を越えなければならない時が来てしまった場合は―――歯を食い縛り、どれだけの罵詈雑言を一身に受けてでも越える……っ。新はその覚悟を取り戻しつつあった。

 

 ここで黒歌が話を切り替えるように訊く。

 

「で、何を話していたのかにゃ?」

 

「魔法使いとその組織の事についてだ」

 

 新がそう言い、レイヴェルが会話の流れを黒歌達に説明してくれた。すると、ルフェイが手を上げて恐る恐る口にした。

 

「実は私、元は『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』に所属していたんです。そこで近代魔術を始め、他の魔術組織で禁止になっている術式を習っていました」

 

 中級悪魔昇格試験の折、冥界で曹操によって空間の中に閉じ込められた時にも彼女の転移魔法が活躍した。珍しい魔法を使えたのも有名どころに所属していたお陰でもある。

 

 レイヴェルが頬を膨らませながら言う。

 

「組織の名前の繋がりですけど、この間、攻めてきた『はぐれ魔法使い』の集団―――『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』! 無法者の名前は絶対に忘れません!」

 

 しかも、『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』と呼ばれる組織に神滅具(ロンギヌス)の1つである『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』の所有者がいるらしく、トップの1人でもあるらしい。荒くれ者の集団のトップに神滅具(ロンギヌス)の所有者……何とも面倒極まる組み合わせだ。

 

 朱乃がうんと1つ頷いて言う。

 

「それらの魔術師組織が有名所ですわね。私達若手悪魔の主な取り引き相手はメフィストさまのところでしょうけれど」

 

 現状では『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』だけ覚えておけば然程(さほど)問題は無い。あとは先日敵対した『はぐれ魔法使い』の集団『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』と『禍の団(カオス・ブリゲード)』の魔法使い一派―――『ニルレム』を重視しておけば良い。

 

『……『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』、か。懐かしくも聞きたくない名前だ』

 

 新が心中で毒づく。実を言うと……新は『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』の名前は昔から知っていた。何故ならバウンティハンター時代によく仕事の邪魔をされたり、依頼によっては一時的な共闘までした程だからだ。新は正直言って金輪際関わるつもりなど無かったのだが……何の因果か、ここに来て再び衝突し合う事になってしまった。

 

 そして、そのトップの1人でもある神滅具(ロンギヌス)所有者も知っている……と言うより、出来れば思い出したくない。それもその筈―――。

 

『また、あの女が絡んでくるだろうな……。先日、最悪の形で会ったばかりだってのに……あの性悪女め……っ!』

 

 ―――話はつい先日まで(さかのぼ)る。




今回はネタが豊富でした(笑)。なるべく早く更新したいのに、なかなか出来なくてもどかしいです……。次回は新の黒歴史が少し分かる回にしたいと思います!

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