ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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書き溜めしてたので早めに更新できました。遂に……遂に禁断の対決が実現してしまいます……!


魔法少女リーア☆マジか!? 中編

 二次試験の会場は場所を変え、広いフロアの一室だった。身内の女子は全員合格してそこに行ってしまったので、新と祐斗と匙は気付かれぬようフロアの扉を少し開けて中の様子を(うかが)っていた。

 

 選考員+数名のスタッフが長テーブルの席についており、対面するように参加者がパイプ椅子に座っている。

 

 先程の唐突な合格によってここまで来られたのはグレモリー&シトリーの眷属女子、セラフォルー、ミルたんを含めて30名程度。……半分以上がコスプレ魔法少女と言う異様な光景だった。プロデューサーが言う。

 

「えー、合格おめでとうございます。皆さんの合格理由は我々の映画に対するコンセプトとマッチしていたのです。そうですね、東海林先生?」

 

 プロデューサーから振られた脚本家はロン毛を手で払いながら、キザな口調で言う。

 

「その通り。僕と監督は今回、今までにないミルキーを作りたいと思っているんだ。そう、普通のキャストを求めちゃいない。過激で! 華麗で! 比類なき才能を発掘して、僕らと共に新たなミルキーを作り上げていきたいんだよ。ね、監督?」

 

 今度は監督に振られる。監督は不機嫌そうに腕を組み、チョビヒゲの口元を動かした。

 

「いいね~」

 

 その一言の意味も分からず、試験がスタートする。どうやら二次試験は自己アピール―――面接のようだ。

 

 呼ばれた女の子がスタッフの前に立ち、質問に応じながら自分をアピールしていく。

 

 普通にアピールしていく一般の女の子達とシトリー眷属の女子。そして、グレモリー眷属の女子+イリナはと言うと……。

 

 

 プロデューサー「特技は?」

 

 ゼノヴィア「悪魔(ばら)いと斬る事だ。剣さばきには自信がある」

 

 監督「いいね~」

 

 

 プロデューサー「どうして魔法少女になりたいと思いましたか?」

 

 ロスヴァイセ「それはどうして魔法を覚えたか、と言う事ですか? そうてすね。ヴァルハラと言う所への就職に有効でしたし、あちらの業界では魔法がステータスなので必修として覚えました。北欧式は勿論、最近は黒魔術と白魔術、召喚魔法にも手を伸ばし始めてます。魔法には自信があります」

 

 脚本家「設定から作ってきたんだね。鎧まで着てくるなんて、役に入っているね。うんうん」

 

 

 プロデューサー「魔法少女の衣装に輪っかと翼! 天使の魔法少女とは珍しいですね」

 

 イリナ「いえ、私、天使ですし」

 

 プロデューサー「おおっと、自称で『天使』と言っちゃうなんて自信満々ですね~」

 

 イリナ「いえいえ、本当に天使なんですよ。ほら、手の甲にA(エース)って記されているでしょう? これって、天界にいる天使長ミカエルさまのA(エース)って事なんですよ~」

 

 監督「いいね!」

 

 

 ……と、こんな感じでムチャクチャでした(笑)。

 

 一般人に話してはいけない事まで話している……。(さいわ)いにも、ここにいる人達は一切誰も信じていなかったが、今日に限って身内の女子達のテンションが変な方向に迷走している気がしてならない……。

 

「今日は個性的な女の子が集まっていますね~」

 

「いいねぇ」

 

 プロデューサーも監督も楽しそうにしている。そして、何故か賑やかしキャラのパン・ダビットソンもフロア内で待機―――と言うより、身振り手振りで応援していた(?)。

 

『……ここには変なスタッフしかいねぇのか……?』

 

 新は心中でツッコむ。朱乃やアーシア、小猫は何とか普通に受け答えしてくれたので、そこは一安心。

 

 そして、セラフォルーに順番が回ってきた。セラフォルーはスタッフの前に出ると、クルクルと可愛く回ってウインクを向ける。

 

「レヴィアたんです☆ ミルキーが大好きで、今日来ちゃいました! よろしくお願いしまーす♪ ブイ☆」

 

「そうですね。書類にも並々ならぬ想いが書かれておりました」

 

「はい、その通りでーす、プロデューサーさん! 私とミルキーの出会いは―――」

 

 セラフォルーは目を爛々(らんらん)に輝かせながら、無垢な一般ファンの少女のようにミルキーの素晴らしさを語り始めたのだった。どう見てもミルキーの熱狂的なファンによる作品語りなのだが、監督も脚本家もうんうんと興味深そうに聞いていた。

 

 セラフォルーのアピールも好印象で終わる。

 

「それでは次にミルたんさん、どうぞ」

 

 プロデューサーの呼ぶ声と同時に参加者席から言い知れない覇気が放たれ始めた……。

 

 ヌゥッと巨大なシルエットがゆっくりと立ち上がる。寒気すら感じる闘気(とうき)を纏いながらスタッフの前に立ったのは―――巨躯(きょく)(おとこ)()、ミルたん……ッ!

 

「お願いしますにょ」

 

 圧倒的な存在感にスタッフも気圧(けお)されている様子だった。それもその筈、どの角度から見ても今日この場にいてはならない部類の生物にしか見えないのだから……っ。

 

「……な、何だ、あの生き物は……」

 

 新と一緒に部屋の様子を見ていた匙がそう(つぶや)く。

 

「匙、アレは一誠(いわ)く―――地上最強の漢の娘、だそうだ……。俺も一誠から聞いた程度でしか知らないが、現白龍皇(はくりゅうこう)に気配すら感じさせずに近付けるらしく、一誠のお得意様でもあるらしい……」

 

「マジかよ! 『漢の娘』なんて単語、生まれて初めて耳にしたぞ。何だよ、その絶対に出会っちゃいけない系の単語はよ……。人間か?」

 

 そんなやり取りをしている中、ミルたんの面接は進む。

 

「……一応、お聞きしましょう。と、特技は?」

 

「精霊と交信していろんな魔術が使えますにょ」

 

「なるほど。しかし、それでは他の参加者と同じですよ?」

 

 などと脚本家は言うが、そういう問題ではない(笑)。

 

「じゃあ、ミルたんの魔法力を見せてあげるにょ」

 

 そう言うとミルたんは余ったパイプ椅子を持ち上げた。すると、全身の筋肉が盛り上がり始める!

 

 腕や背中がいっそう隆起して巨大に膨れ上がる中、ミルたんはパイプ椅子を易々(やすやす)と折り曲げ、ひしゃげ、形を変えていく。

 

 ベキン! バキッ!

 

 映画のオーディションでは絶対に聞こえてはいけない怪音が会場に響き渡る……!

 

 隠れて見ている新も会場の人達も驚き、ミルたんはパイプ椅子を圧縮し続けていく。

 

 次第に小さく形を変えていくパイプ椅子は最終的にミルたんの大きな両手にスッポリ収まる程にまで変形していった!

 

 ぎゅぅぅぅぅぅぅ……っと、おむすびを力強く握る要領でミルたんの手の中に生まれたのは―――圧縮され過ぎたパイプ椅子の成れの果て。(いびつ)な鉄の球体と化していた。

 

 ミルたんはそれを満面の笑みでスタッフに見せつける。

 

「パイプ椅子を鉄球に変える魔法にょ。魔法力、感じてくれたにょ?」

 

『魔法力じゃねぇよ! それ、ただの腕力だろ⁉』

 

「ミルたんの希望は癒し系にょ」

 

『癒し系どころか嫌死(いやし)系、または壊し系じゃねぇか!』

 

「いいね!」

 

『良いね、じゃねぇだろクソ監督ゥゥゥゥッ! なんでノリノリ⁉ お前らの目はビー玉か⁉ このオーディション壊れてやがる!』

 

 新はもう頭を(かか)えて、心中のツッコミに疲れ果てていた。ミルたんのアピールも終わり、次の人の名前が呼ばれる。

 

「じゃあ、次はリアス・グレモリーさん」

 

 遂にやって来たリアスの番。リアスの方へ視線を向ければ―――顔を真っ赤にして体を震わせていた。

 

 彼女が震えているのには理由がある。一次試験合格後、こちらの会場に向かう途中でリアスは言った。

 

「……わ、私、レヴィアタンさまにもし試験を1つでも合格できたら、アピールタイムの時、レヴィアタンさまの言う通りのアピールをしますって言ってしまったの……」

 

 セラフォルーはアピールタイムに備えて、リアスとソーナの分のアピール台本を用意していたらしく、リアスもソーナもそんな簡単にオーディションを進めるわけが無いと踏んで軽く約束してしまったのだ。

 

 それが現実に叶ってしまい、リアスは極限状態に追い込まれてしまっていた。見ればソーナの方も極度の緊張で、顔が強張(こわば)っている……。

 

 リアスがセラフォルーの方を振り返ると、セラフォルーは期待に満ちた表情かつ無垢な眼差しでリアスを見つめている。純粋に楽しみなのだろう。リアスが自分の決めた魔法少女アピールをする事が……!

 

 リアスが一度交わした約束を(たが)える筈も無く―――。リアスが席を立ち、スタッフの前に進んでいく。

 

 そして、深呼吸を1つすると―――声色(こわいろ)まで可愛くして、リアスが叫ぶ。

 

「魔法少女リーア! きらめく魔法で極悪怪人をまとめて滅殺(めっさつ)しちゃうぞ☆」

 

 このように冒頭へ戻るのであった……。

 

「魔法少女ソーナ! まばゆい魔法で凶悪魔人をたくさん消滅させちゃうもん☆」

 

 続くソーナの無茶したアピールを見て、セラフォルーと匙が鼻血を噴いて狂喜乱舞(きょうきらんぶ)していた。

 

 結局、リアス、ソーナ、セラフォルー、ミルたんを含む数名が合格して、三次試験へと進む事になってしまった……。

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 午後からはバスで移動して、試験場所を変える。

 

「……死にたいわ」

 

「……ええ、私もです」

 

 新達はバスの中で落ち込むリアスとソーナを励ましていた。……この2人は本当に頑張っていた(笑)。しかし、それでも何かが間違っているオーディションはまだ続く。

 

 バスで到着したのは撮影現場の1つとされる港近くの廃工場だった。ここで撮影形式の演技をチェックするらしい。撮影現場で試験とは、かなり力が入っている。

 

 などと思っていたら、物陰から黒いローブを着込んだ怪しげな女性が複数出現する。新達―――悪魔へ敵意と殺意を放ち、眼前に立つ。

 

「私達は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の一派―――『ニルレム』に属する魔法使いだ。我ら魔法の使い手を侮辱せし魔王レヴィアタンに抗議をしに来た」

 

 なんと姿を見せてきたのは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の魔法使い。例のセラフォルーを狙っている連中だった。ここに来てまさかの襲撃……。

 

「おや? ドッキリ?」

 

 プロデューサー達は状況を理解していない様子。ここで一般人を巻き込むのはマズイ……。緊迫する中、他の参加者とスタッフ達の体がよろめきだした。

 

「あれ……眠気が……」

 

 パタリと1人、また1人とその場で倒れていく。

 

「さすがに巻き込んだら可哀想だから、眠らせたのよ☆」

 

 セラフォルーが指に魔力を光らせながらウインクをくれた。指先1つで一般人全員を瞬時に眠らせる辺り、流石(さすが)である。

 

「新、皆、無関係の人間を安全な場所に運んでちょうだい!」

 

「ああ、分かった」

 

 新達はリアスの指示のもと、路面に倒れたスタッフを離れた場所に抱えて運んでいく。

 

「さーて、ソーナちゃん、リアスちゃん!魔法少女対魔法少女なのよ! 魔法をきらめかせましょう! 良い? 昨夜、練習した魔法の掛け声でいくの!」

 

 襲撃を受けているこの状況でもセラフォルーは無茶ぶりをリアスとソーナに言う。無論、2人も驚いていた。

 

「ええっ⁉ こんなところでですか⁉」

 

「お、お姉さま! 時と場所を考えてください! 相手はテロリストなのですよ!」

 

 若干(じゃっかん)、怒り気味のソーナに言われてもセラフォルーは「うふふ」と不敵な笑みを止めない。

 

「2人が着ている魔法少女の衣装は、一度着てしまうと昨夜練習した方法でしか魔力を放てなくなる特別な作りなのよ! さあ、一緒にマジカル☆魔力を撃ちましょう!」

 

「そ、そんな! この服にそのような効果を(ほどこ)していたのですか⁉」

 

「お姉さま! もう! どうして、そんな事ばかり!」

 

 不満を漏らすリアスとソーナだが、それでも相手は待ってくれない。

 

「女の魔術師を舐めるな!」

 

「死ぬが良い、悪魔ども!」

 

 魔法陣を展開し、炎、雷、水と様々な属性魔法を放ってくる魔女達。新達はそれを(かわ)しながらリアス達の指示を待つ。

 

「悪の魔法使いは許さないにょ!」

 

 ミルたんが近くのドラム缶を持ち上げ、魔女に向かって放り投げる。新は「……んんっ⁉」と一誠並みの顔芸で驚愕し、目の前の光景に視線を向けた。

 

「ミルキィィィィィィィィ・スパイラルゥゥゥゥゥ・ボォォォムァァッ!」

 

 野太い声と共に、ミルたんは魔女が撃ち出した魔法の火球や氷の槍を拳で破壊していく!

 

「ミルキィィィィィ・サンダァァァァァァ・クラッシャァァァァァァァッッ!」

 

 更にアスファルトを(えぐ)る程の(するど)い蹴りで、複数人の魔女を一気に弾き飛ばす!

 

 その光景を見た新は「……コイツ、何者ォ⁉」とビックリ仰天するしかなかった。それもその筈。セラフォルーの魔力が効かない上に、魔女の魔法を拳と蹴りで破壊しているのだから……。

 

「何だ、この……何だ、こいつは⁉」

 

「新手の冥界生物か⁉」

 

 無論、魔女も驚愕していた。遂には例のスティックで魔女の魔法を打ち消し始めた……。何度も言うが、ミルたんは一般人(?)かつ魔法少女に憧れる(けが)れの無い(おとこ)()です(笑)。

 

 リアスはプルプルと全身を震わせ、目元に涙を溜めながらヤケクソ気味に大きく叫んだ。

 

「グレモリースティィィィィィィック!」

 

 胸の飾りからラブリーなエフェクトを放ちつつ、魔法のスティックが出現する。

 

「シトリースティィィィィィィック!」

 

 同様に恥辱の涙を流しながら、ソーナが魔法のスティックを出した。セラフォルーも自前のスティックを取り出して、リアスとソーナ、そして両眷属の女性陣に掛け声をかける。

 

「さあ、行くわよ、皆! レヴィアビィィィィムッ!」

 

「リーア・シャイニング・ラブ・ファイヤァァァァァッ!」

 

「ソーナ・ライトニング・アクア・ジャスティィィィィスッ!」

 

 セラフォルーを筆頭にリアス、ソーナの強烈なマジカル攻撃(笑)。更にはグレモリー、シトリー眷属の女子達の追撃も加わり、膨大な魔力が撮影現場で()ぜていく!

 

 リアスとソーナの魔力が発動する瞬間、可愛らしい(ほし)マークや(ハート)マークが撒き散らされていた……。

 

「きゃぁぁぁあああああっ!」

 

 その威力に本物の魔法使いも太刀打ちできない様子だった。テロリストの魔女達がコスプレ悪魔のマジカル攻撃によって倒されていく―――何とも珍妙な光景だ……。

 

 新も倒れた一般人を匙と祐斗に任せておき、どさくさに(まぎ)れて―――。

 

「脱がしの呼吸、(いち)の型―――全裸一閃(ぜんらいっせん)

 

「きゃぁぁぁあああああっ!」

 

「続いて()の型、乳揉味(ちちもみ)

 

「や、やめ……アッ、ぁん……っ。ィヤァン……っ」

 

 魔女の衣類を斬り裂き、裸体とおっぱいの感触を堪能していた。そこにベチンッと新の背中に小猫のツッコミによるチョップが軽く飛んできた。

 

「おうっ……小猫、いつの間に……」

 

「……エロエロは禁止です」

 

 新が突っ込まれている間にも戦闘は終了していた。まあ、最強の女性悪魔と称される魔王セラフォルーがいるのだから、そう簡単には負けない。

 

「……もう、こういうのは懲りごりだわ」

 

「……そうね。巻き込んで申し訳ないわ、リアス」

 

 恥辱に耐えて、息を吐くリアスとソーナだったが―――ポンッと言う軽い音がする。

 

 セラフォルーとロスヴァイセを除いたリアスとソーナ、そして魔法少女のコスプレをしていた女子達の衣装が綺麗サッパリ消え去り、全裸となった……。

 

「あれれ、戦闘をした拍子(ひょうし)に衣装に施した特殊加工の術式が解けたのかしら?」

 

 セラフォルーは首を(かし)げながら言うが、女性陣の多くが手で体を隠して「キャアアアアアアアアッ!」と悲鳴を上げた。朱乃とゼノヴィアは裸になっても「あらあら」「おっ?」と冷静を崩さず、リアスも感覚が麻痺しているせいか、多少顔を赤く染める程度の具合で手ブラをする。

 

「ふぇぇぇぇぇんっ! なんで僕までぇぇぇぇぇっ⁉」

 

 何故かギャスパーの衣装も煙のように消え、ギャスパーは悲鳴を上げて体を隠す。その際、新は「死ねっ」と毒づいた。

 

 目の前で繰り広げられる裸祭りに新の視線は釘付け。役得とばかりに女子達の裸体を見ていると、裸の小猫が袖を掴み―――。

 

「……新先輩。いつものように上着を貸してください」

 

「小猫、既に俺から上着を奪おうとしているし、俺より強い力で追い剥ぎするのは止めてくれるか?」

 

 そう言ってる間にも新は上着を奪われ、小猫が新から奪い取った上着を羽織って裸体を隠す。そこへイリナもやって来て―――。

 

「あ、新くん! シャツを貸してぇぇぇぇ!」

 

「イリナ、お前も追い剥ぎに来たのk―――って、コラァ! 小猫! なんでシャツまで奪い取るんだぁ⁉」

 

「……私達の裸を見たんですから、等価交換です」

 

「こんな時に等価交換を持ち出すな! って、ゼノヴィア⁉ なんでお前は俺のズボンを奪おうとするんだ⁉」

 

「小猫が新の上着を着て、イリナが新のシャツを着ているから、私は新のズボンを穿()くしかないだろう?」

 

「その理屈はおかしい! お前らは俺をパンイチにする気か⁉」

 

「良いじゃないか。私達も裸で、新も裸になればお揃いだぞ?」

 

「そんなお揃いは御免(ごめん)だ!」

 

 小猫とイリナが新の上着とシャツを着て、裸のゼノヴィアが新からズボンを奪おうとしている……。そんな珍妙な光景にリアスは思わず苦笑する。

 

「ふふっ、新も大変ね」

 

「リアス、ロスヴァイセ先生が魔法で着替えを出してくれましたから。早く着ましょう」

 

「ソーナ、あなたも見ておいたら? 新がアタフタしている姿って結構レアなのよ?」

 

「そう言えば、そうですね。ふふっ」

 

 ソーナも珍しく意地悪な笑みを浮かべていた。見物もそこそこに、ロスヴァイセが魔法で出した着替えを着ようとした、刹那―――。

 

 ドドドォォォォンッ!

 

 突如、けたたましい爆音が鳴り響き、全員の視線がそこに集中する。視線の先に映る爆煙(ばくえん)。その中から2つの人影が放り出される。

 

「―――っ⁉ 祐斗⁉」

 

「―――っ! サジ⁉」

 

 リアスとソーナが驚く。彼女達の言う通り、爆煙の中から放り出されたのは祐斗と匙だった。しかし、彼らは何故かボロボロで血まみれの姿で倒れていた。

 

 匙は既に白目を剥いて意識を失っており、祐斗も虫の息だった……。

 

「ぶ、部長……すみません……っ。油断して―――がはっ!」

 

 何者かに背中を踏みつけられた祐斗は意識を絶たれ、地に突っ伏す。いったい誰が……⁉ そんな考えを(よぎ)らせたのも(つか)の間、謎の攻撃は更に―――。

 

 漆黒の閃光が一直線に(くう)を走り―――新の右足を(つらぬ)く……っ!

 

「―――っ⁉ アァァァァァァアアアッ!」

 

「新⁉ 新ァッ!」

 

 右足に風穴を開けられた新は崩れるように膝をつき、傷口から血が流れる。直ぐに皆が攻撃の発生源に視線を向けると、そこにいたのは―――。

 

「―――っ。パ、パン・ダビットソンくん……⁉」

 

 セラフォルーがショックを受けた表情でその名を呼ぶ。そう、攻撃の主は先程までコミカルな動きとポージングで場を賑やかしていた着ぐるみ―――パン・ダビットソンだったのだ。

 

 何故あのふざけた着ぐるみウサギが新達に攻撃を仕掛けてきたのか……? その答えを知るのは遅くなかった……。パン・ダビットソンが軽やかにステップを踏みながら移動し、挨拶をする。

 

「ボ~ン、Bonjour(ボンジュール)。お加減は如何(いかが)でしょうか?」

 

 その口振りは忘れたくても忘れやしない……。パン・ダビットソンが頭部の被り物を(はず)す。その下から現れたのは―――見覚えがあり過ぎる顔だった……。

 

「―――ッ! キリヒコ……ッ⁉」

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)、“人生とは思いがけない事が得てして起こる”―――。誰が言ったのかは知りませんが、妙に納得できる言葉ですよね。何せ……奇抜な着ぐるみキャラが出入りしても怪しまれないどころか、出演依頼を持ち掛けてくる奇特な人種までいるのですから。潜入の為とは言え、当初はくだらないと考えていましたが……やってみると案外楽しいものですね」

 

 キリヒコは取り外したパン・ダビットソンの被り物をクルクルと回し、宙に浮かせてからキャッチ。キリヒコの登場により、新達は一気に警戒態勢を強めた。リアスが憎々しげにキリヒコを睨み付ける。

 

「その口振りからすると、私達がここに来る以前から潜伏していたようね。私も驚いたわ。まさか外道の権化とも言えるような悪党が着ぐるみで変装しているなんて、思いも寄らなかったもの」

 

Oh(オー) la() la()、それに関してはノーコメントでS'il vous plâit(シルブプレ)。返す言葉もありませんので」

 

「あら、随分と素直ね? そのまま大人しく滅んでもらえると嬉しいのだけれど」

 

Non(ノン)、それは丁重にお断りさせていただきます。仮に私が滅びても……あなた方を道連れに―――いや、あなたの方が大きなダメージを受けると思いますよ?」

 

 キリヒコは右腕に出現させた装置(デバイス)を掲げ、宙に何かの映像を映し出す。それを見たリアスは次第に顔面蒼白となり、ワナワナと震え始めた……。

 

『魔法少女リーア! きらめく魔法で極悪怪人をまとめて滅殺(めっさつ)しちゃうぞ☆』

 

 映し出されたのは―――先程のアピールタイム時に披露したリアスの姿だった……!

 

 そう、キリヒコはパン・ダビットソンとして会場に居た。その時に抜かり無く録画していたのだ。キリヒコは底冷えさせるような含み笑いをする。

 

「それにしても……フフフッ、面白いですねコレは。名高いグレモリー眷属の『(キング)』に、このようなお茶目な嗜好があるとは思いませんでしたよ。今の刺激的な格好もそうですが、こちらの方がよりインパクトありますね」

 

『魔法少女リーア! きらめく魔法で極悪怪人をまとめて滅殺(めっさつ)しちゃうぞ☆』

 

「や、止めなさい! それ以上は……!」

 

『魔法少女リーア! きらめく魔法で極悪怪人をまとめて滅殺(めっさつ)しちゃうぞ☆』

 

「本当にやめてっ、お願い……っ」

 

『魔法少女リーア! きらめく魔法で極悪怪人をまとめて滅殺(めっさつ)しちゃうぞ☆』

 

「もう、これ以上―――っ」

 

『魔法少女リーア!』『魔法少女リーア!』『魔法少女リーア!』『魔法少女リーア!』『魔法少女リーア!』『魔法少女リーア!』

 

「……うわぁぁぁぁぁぁああんっ! もう嫌ァァァァァァァァッ!」

 

 キリヒコの執拗なメンタルブレイク攻撃に耐えきれなくなったリアスは両手で顔を覆い隠し、泣き崩れてしまった……っ。そのやり口に新も他の皆もドン引き、ソーナが「リアス! しっかり!」と言ってリアスの背中を(さす)る。

 

「なんてヒトなの……。リアスから話は聞いていたけど、ここまで非道な(おこな)いを平然とする者は初めて見ました……っ」

 

「私だって心苦しいですよ(笑)。笑いを堪えるのにどれだけ苦労した事か」

 

 キリヒコは続けて“ある映像”を宙に投影し始めた。それは―――同じく先程のアピールタイム時に披露したソーナの姿……。

 

『魔法少女ソーナ! まばゆい魔法で凶悪魔人をたくさん消滅させちゃうもん☆』

 

「グフゥッ!」

 

 黒歴史映像を投影されたソーナは血を吐くような音を口から出し、リアスと同じように玉砕(ぎょくさい)、メンタルブレイクされてしまった……。

 

 新が負傷した足を引きずりながら、リアスとソーナのもとに歩み寄る。しかし、彼女達の眼からは生気が失われていた……。

 

「新……私、(けが)されたわ……。出来る事なら今すぐにでも死にたい……っ」

 

「しっかりしろ、リアス! 傷は決して浅くないが、ヤツのペースに乗せられるな!」

 

「新くん……もし、生まれ変われるとしたら……私は物言わぬ貝になりたいです……。そうすれば海の底で静かに暮らせます……っ」

 

「なんてこった……っ! あの2人がここまでバグっちまうとは……!」

 

 新はリアスとソーナの介護に追われる羽目になってしまい、眷属の皆もリアスとソーナを懸命に励ます。しかし、それでも外道(キリヒコ)追撃(メンタルブレイク)は終わらない……っ。

 

「せっかくですから、この貴重(笑)な映像を三大勢力間に流してみましょうか。これで彼女達の人気もウナギ登りに―――」

 

「やめろ。マジでやめろ! そんな事をしたらリアスとソーナが死ぬ! いろんな意味で死ぬ!」

 

「そう言われましてもねぇ」

 

 鬼畜過ぎるキリヒコの所業になす(すべ)は無いのか……と思った矢先、勇猛果敢に立ち向かう1人の魔法少女―――否、魔王少女がいた。

 

「あなたの思い通りにはさせないわ! これ以上、私の大事な大事なソーナちゃんをイジメるヒトは魔法少女マジカル☆レヴィアたんが滅ぼしちゃうわよ!」

 

 自前のスティックをクルクルと回し、ポーズを決めるセラフォルー。それを見てキリヒコは紳士風に挨拶する。

 

Bonjour(ボンジュール)Mademoiselle(マドモアゼル)。あなたが四大魔王の1人、セラフォルー・レヴィアタンですね? このような酔狂な場でお会いできた事を光栄に思います。私はユナイト・クロノス・キリヒコ、造魔(ゾーマ)の―――」

 

「知ってるわ。時間を停める能力を持つ諸悪の根源。そして、その能力で(おこな)った悪行の数々……。たとえ天使・堕天使が許しても、このマジカル☆レヴィアたんが許さないっ! あなたはそれ程までに重い罪を犯したのよ!」

 

Oh(オー) la() la()、いったいどのような罪なのでしょうか?」

 

 嫌味な笑みを浮かべてわざとらしく訊ねるキリヒコ。セラフォルーは指を突きつけて答えるが―――その内容は全く違うものだった……。

 

「あなたの罪、それはうちのソーナちゃんを現在進行形でイジメて泣かした事よ! いいえ、それだけじゃないわ。あなたは時間を停める能力を使って、ソーナちゃんの体を隅々(すみずみ)まで舐め回すような視線で見た! ソーナちゃんの可愛いほっぺにチューしたり! ソーナちゃんの控えめで(つつ)ましやかなお胸をツンツンしたりモミモミしたり! ソーナちゃんの小振りなお尻をナデナデしたり! 更には時間を停めているのを良い事に―――ソーナちゃんを脱がしてあんな事やこんな事、そんな事にどんな事まで……きっとそうに違いない! あなたはソーナちゃんがお嫁に行けなくなるぐらいの(はずか)しめを与えたのよ!」

 

 見当違い過ぎる指摘をされたキリヒコは「……ちょっと何言ってるか分かりません」と返すしか無かった。それでもセラフォルーの暴走論理が続く。

 

「そして今も尚、隠し撮りしたソーナちゃんの魔法少女姿を世間に晒すつもりなのね! ダメよっ、ダメダメっ! ソーナちゃんの魔法少女姿はお姉ちゃんだけの永久保存版なのよ! さあ、おとなしくソーナちゃんの可愛い魔法少女姿を撮った映像を渡しなさい! もしくは売ってちょうだい! 今なら言い値で買うから!」

 

「頭から酷い指摘だが、後半は完全に私情が入ってる⁉」

 

 セラフォルーは鼻血を出しながらキリヒコに取引(とも呼べない酷い要求)を持ちかけるが、キリヒコは首を(かし)げて「……本当にこれが四大魔王なのでしょうか?」と一瞬当惑してしまう。しかし、直ぐに元の悪意を孕んだ顔付きに戻り、右腕の装置(デバイス)を向ける。

 

「実に面白いご提案ですが、生憎(あいにく)お金には余裕がありますので。それに……交渉と言うのは自分が有利な状況に居てこそ成り立つものですよ?」

 

Unite(ユナイト) Chronus(クロノス) Chronicle(クロニクル) Breaker(ブレイカー)……!!!!』

 

 右腕の装置(デバイス)―――『時戒器(ツヴァイト・ギア)』から時計盤の幻影が出現し、背後からキリヒコの体を呑み込む。そうして現れたのが……あらゆる(とき)を停める時間の支配者、ユナイト・クロノス・キリヒコ。邪悪なオーラを滲ませ、その場の空気を一変させる……。

 

 さすがのセラフォルーも表情が険しくなった。

 

「……確かに凄い圧を感じるわ。これが時戒神(じかいしん)クロノス・デ・キチークの真の姿なのね……っ」

 

「ユナイト・クロノス・キリヒコです」

 

「それでも私は負けないっ! これ以上ソーナちゃんの純潔を(けが)させない! 魔法少女ミルキーと魔法少女マジカル☆レヴィアたんの名に懸けて、ソーナちゃんの純潔を守り通して見せるわっ!」

 

「ダメだ、この状況! もう俺1人だけじゃ処理しきれねぇよ!」

 

 カオスな展開が続けざまに起こったせいで、新は頭を(かか)えて嘆くしかなかった……。セラフォルーはスティックに膨大な魔力を(たぎ)らせ、特大のマジカル攻撃を撃ち放とうとするが―――。

 

Pause(ポーズ)……‼』

 

 ああ、無情なり。キリヒコは早くも時間停止の能力を発動し、周りの(とき)を停めた。その力の前では新も、リアス達も、セラフォルーさえも無力と化す……。

 

 キリヒコが悠々とした足取りでセラフォルーに近付いていく。

 

Oh(オー) la() la()、四大魔王でさえも私の能力には(あらが)えませんか。期待していただけに残念です。またも私の思惑(おもわく)通りに事が運んでしまうのですね」

 

 キリヒコは右腕の『時戒器(ツヴァイト・ギア)』から飛び出したチェーンソーの刃を回転させ、切っ先をセラフォルーの首元に向ける。

 

「シンプルに首を()ねるか、体を袈裟(けさ)斬りにするか……どちらの方がショックが大きいですかね? 敢えて両方と言うのも良いですね」

 

 不気味な唸り声を上げるチェーンソーの刃。セラフォルーの首を狩り取ろうとした刹那―――。

 

「悪の魔法使いは許さないにょ!」

 

「――――っ⁉」

 

 突然の声にキリヒコが振り向くと、砂煙を上げながら猛烈な勢いで突き進んでくる1人の(おとこ)の娘の姿が視界に映った……。それは言うまでもなく―――ミルたんだった……ッ!

 

「ミルキィィィィィィィィィィ・スピニングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・エェルボォォォォォォォォォァァッ!」

 

 巨木のような腕から繰り出される肘打ちがキリヒコを捉え、咄嗟に構えたガードごとキリヒコを吹き飛ばす。キリヒコは倒れはしなかったものの、滑るように地面に(わだち)を刻む。

 

 ようやく止まったかと思えば、またミルたんの追撃が迫り来る……っ。

 

「ミルキィィィィィィィィィィ・シャァァァァイニングゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・スカァイクラッシャァァァァアァァァァアァァァァアッッ!」

 

 凄まじいダッシュからの跳び膝蹴りが再びキリヒコを捉え、今度は直撃。キリヒコはボールのように吹き飛ばされ、何度も地面をバウンドする。

 

 しかし、直ぐに起き上がり体勢を立て直すキリヒコ。

 

Qui tes-vous(キディヴ)……?」

 

「悪の魔法使いを束ねる邪神(じゃしん)は許さないにょ!」

 

「“誰か?”……と(たず)ねたのですが、あなた何者ですか?」

 

「ミルたんは正義の魔法使いだにょ!」

 

「……この停まった刻の中で、何故あなたは動けるのですか? 四大魔王でさえ手も足も出ないと言うのに」

 

「ミルたんのミルキーパワーは悪の魔法なんかに負けないからだにょ!」

 

「何を言ってるのかサッパリ分かりませんが、1つだけ言える事があります。……あなたはあらゆる意味で危険極まりないですね」

 

「正義のミルキーパゥワーッ、受けてみるにょぉぉぉおおおおおおっ! ミルキィィィィィィィィィィ・エクストリィィィィィィィムッ・ハンドレッドプゥァァァァァァァァァァァンチィィィィァァッ!」

 

 ミルたんは異次元の速度で距離を詰め、極太の両腕でパンチを繰り出す。「ミルキィィィィィィィィィィパゥワァァァァァァァァァァァァッッ!」と雄々しい雄叫びを上げながら10発、20発、30発とパンチの連打を浴びせていく。

 

 キリヒコもパンチで応戦するが、予想以上にミルたんのパワーが凄まじく―――次第に体への被弾回数が増えていく。そして……ミルたんの剛腕パンチがキリヒコの腹部に突き刺さり、衝撃が背中を突き抜ける……ッ!

 

 キリヒコは驚愕と共に後方へ後退(あとずさ)り、腹部を押さえて片膝を地に付けてしまう。

 

Restart(リスタート)……‼』

 

 なんと、その衝撃で時間停止能力が強制的に解除され……周りの刻が全て動き出す。ようやく自由を取り戻した新は違和感に気付き、周りを見渡し―――現状に度胆(どきも)を抜かれた。

 

「……んんっ? キリヒコが膝を付いてる……? しかも、相手は―――ウソダロッッ⁉」

 

 驚くのも無理は無い(笑)。一般人(ギリギリ)である筈のミルたんがキリヒコを追い詰めようとしているのだから。リアス達もその光景に驚きを隠せず、絶句するのみ……。一方、セラフォルーは―――。

 

「……あの娘、凄いミルキーパワーを感じるわ……っ」

 

 このように感嘆するだけだった。……何だ、このカオスは?

 

Zut(ズィット)……ッ!」

 

 想定外の存在によほど腹が立ったのか、珍しく苛立ちの言葉を吐き捨てるキリヒコ。しかし、ゆっくりと立ち上がるキリヒコは全身から更に邪悪なオーラを揺らめかせていた。

 

「まさか、三大勢力にこのような隠し(だま)がいるとは思いませんでした。さすがに驚きましたよ……っ。Je vois(ジュヴォヮ)、私も少々本気を出した方が良さそうですね。時間停止が効かないのであれば―――別の方法で(なぶ)り殺しにしてあげましょう。Ma puce(マピュース)……ッ!」

 

 最凶の悪(ユナイト・クロノス・キリヒコ)VS最強の漢の娘(ミルたん)―――予測不可能な戦いが実現した瞬間だった……っ。


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