ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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お待たせしました! カオス回が多数出る予定の15巻編です!


第19章 日常暗躍のサービスとエヴォル・スターク
魔法少女リーア☆マジか⁉ 前編


 魔法使いの集団に襲撃されて数日後。新は自宅の自室でルーマニアに()ったリアスからの吉報を待ちながら契約相手の魔法使いについて選抜を進めていた。

 

「―――と言う風に、この方は―――のようになってまして―――敢えて付け加えるとしたら―――」

 

 隣でレイヴェルが書類を見ながら新に説明をしてくれるが……正直なところ、気になる事が多くてレイヴェルの声が(ほとん)ど耳に入ってなかった。

 

 リアスの方はヴラディ家との会談が進んでいると報告を受けた為、特に心配は無く、何かあれば直ぐにでも駆けつける所存だ。

 

 懸念すべき問題は……ユーグリット・ルキフグス。先日の魔法使いによる襲撃の主犯がその者だ。ルキフグス、滅んだ筈のグレイフィアの身内、しかも実の弟だ。冥界の悪魔側上層部はそいつの登場に騒然となったらしい。

 

 何せ前ルシファー直属の配下であるルキフグス家の生き残りがグレイフィア以外に存在していたのだから。現在、グレイフィアはユーグリットの生存について査問に掛けられているらしい。つまり、グレイフィアがあの男の生死を(いつわ)ったのではないかと上層部が疑ったからだろう。

 

 サーゼクスがグレイフィアを疑う筈は無い……が、他の上役は別だ。不安を抱いて査問を開いたのだろう。旧魔王に関する事柄に対して悪魔側上層部は過敏なほど反応する。『ルシファー』に関連したものは新旧問わず冥界でも別格の扱いらしい。

 

 前ルシファーの末裔(まつえい)たるヴァーリが白龍皇(はくりゅうこう)だったり、悪魔最強の存在と称される現ルシファーのサーゼクス(しか)り。そこに前ルシファーに最も近かったルキフグスの生き残りがグレイフィア以外に存在しており、その上テロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』の一員となっていたのだから、上役が慌てふためくのも必然と言えよう。過去の内戦、後の旧魔王側への扱い、その延長線上に先日の魔獣騒動があるので、悪魔の内部構造が孕んだ根深いものなのだろう。

 

 朱乃がグレイフィアにユーグリットが吐いた台詞を伝えたそうだが、グレイフィアの狼狽(うろた)え方は半端じゃなかったそうだ。完全に予想もしていなかったのだろう……。それだけグレイフィアは生死不明の実弟が死んでいるものだと思っていたのだ。

 

 何故ユーグリットは今頃になって現れたのか? 旧魔王派のような思想ではないのは何となく分かる。一誠(いわ)く、シャルバが全身に漂わせていた怨恨(えんこん)、憎悪のオーラをユーグリットは感じさせてなかった。恨みと言うよりは確固たる野望を持っている者の目をしていた―――。

 

 少しだけ上の空だった新にレイヴェルが怪訝そうに話しかけてくる。

 

「……グレイフィアさまの事をお考えですか?」

 

 マネージャーになってもらってから、そんなに日が経っていない筈なのに、顔色だけで何を考えているか分かるようだ。……単に新が顔に出やすいタイプなのかもしれないが……。

 

「分かるか?」

 

「マネージャーですもの」

 

 胸を張ってそう言うレイヴェル、末恐ろしい限りだ。レイヴェルは息を一度吐くと改まって言う。

 

「正直言って、これは政治に関するお話になります。私達が口を挟める事柄ではありませんわ。ただ、前政府に関係するお話はデリケートな部分ですので、上は相当慌てていると思います」

 

「だろうな。確かにこの手の話は向こうで進展が無い限り、考えても仕方ねぇか。スマン、話を切り替えるぞ」

 

 政治は新にとって専門外。基本的にリアス・グレモリーの眷属悪魔と言うだけで、普段は悪魔稼業を続けていかねばならない。頭の中を切り替え、魔法使いの選抜に専念する。

 

 レイヴェル的には今回の選考で目ぼしい者がいなかった場合、全て断る方向も思慮している。つまり、次回の選考に持ち越しと言う事だ。

 

「レイヴェル、今回はどうなんだ?」

 

 新が此度(こたび)の書類選考について問うと、レイヴェルは可愛い顔を渋くさせていた。

 

「正直申し上げますと……次回に持ち越しても良いのではないかと思い始めております。と言うのも、新さまを選ばれた魔法使いの方々の大半が私からの太鼓判を押せない者ばかりなのです。……書類選考後の試験などで詳しく調べてみないと分からない部分もありますが、書面で記された経歴、習得技術からですと、『闇皇(やみおう)』のパートナーとして相応(ふさわ)しい人物は見当たりませんわね」

 

 つぶさに調べていたレイヴェルが言うのだから、その評価は(おおむ)ね合っているのだろう。彼女が新の事をだいぶ買ってくれているところもあるが、それでも「長期的な相手」として見ると不満なところがあるのだろう。

 

 確かに新も書類に一通り目を通したが、ピンと来る者はいなかったそうだ。逆に短期間(数ヵ月から1年程度)での契約となると、契約しても良いと言える相手はいる。その辺はレイヴェルも認識しており、他のグレモリー眷属に関しても「とりあえず短期間で契約を結んでみようかな」と言う考えを持つ者が少なくない。

 

 短期間の契約でノウハウを積みたいのだろう。魔法使いの方も短期のパートナーで利益を得たい者もいると言う事だ。

 

「やっぱり最初は短期契約で取ってみるか?」

 

 新が首を(ひね)りながらレイヴェルに問う。レイヴェルもそればかりは大きく否定せず、可愛らしい顔を難しくさせていた。

 

「……短期で結んで、新人ゆえのうっかりミスで変な評価を(いだ)かれてしまい、あちらの業界にいらぬ噂を流されるとそれはそれで厄介極まりないと言いますか……。次の相手を探す時に契約相手ゼロと言うのはマネージャー的にも悲し過ぎますわ」

 

 2人して「ううーん……」と(うな)り続けていると、不意に部屋のドアが開かれる。入ってきたのはお茶を運んできてくれた朱乃だった。

 

「あらあら、お話は進んでいるのかしら?」

 

「おっ、悪いな―――って!」

 

 新は朱乃の後ろから現れた人物に間抜けな声を上げて驚く。それもその筈、朱乃の後ろから現れたのは―――ソーナだったのだ。

 

「お邪魔しています」

 

「ソーナじゃないか、珍しいな。今日はどうしたんだ?」

 

 新が問うとソーナはメガネの(ふち)をクイッと上げる。ソーナの冬の私服姿は淡い水色のレースブラウスにデニムと言う格好で、紺色のコートを手に持っていた。いつもは制服姿しか見てないので私服姿はなかなか貴重な(よそお)いだ。ソーナと朱乃は新達と同様カーペットに置かれたクッションに座る。

 

「ええ、今後について朱乃達とお話ししようと思っているのですよ。あとで椿姫(つばき)もここに来ます。お邪魔かもしれませんが、少しの間だけお話をさせてくださいね」

 

≪あっしもお邪魔させてもらってますぜ≫

 

 そのような声が天井から聞こえてくる。見上げれば天井に魔法陣が展開しており、そこから逆さまの体勢で小柄な死神(グリム・リッパー)が頭を出していた。

 

 彼女はシトリーの新しい眷属、ベンニーアである。

 

「ごめんなさい、新くん。この()もどうしてもあなたのお家に来たいと言っていたので連れてきてしまいました」

 

 謝るソーナの横に死神少女ベンニーアが天井からヒラリと上手く着地する。そのままソーナの隣に鎮座(ちんざ)した。

 

≪オッパイザーの自宅……これはあっしにとっちゃ桃源郷に等しいですぜ≫

 

 目を爛々と輝かせながら新の自室を見回すベンニーア。新は「気にするな、(むし)ろ大歓迎だ」と言ってカラカラと笑う。

 

 ここでカーペットの上に広げていた書類の数々に、ソーナが視線を配らせる。

 

「うちの眷属達もちょうど選考しているところです。今日は私と椿姫以外が集まって苦慮しているところでしょう。私もアドバイスしていますが、出来る限り自分で決めて欲しいと思っています」

 

 シトリー眷属も魔法使いの契約相手選別に絶賛苦戦中、しかもグレモリーよりも自主性の傾向が強いようだ。ここで新は最近感じていた疑問を訊いてみる事にした。

 

「今更だが、魔法使いとの契約で1番の利益は何なんだ?」

 

 新の問いに対し、ソーナは朱乃から受け取った紅茶をひと口飲んだ後に言う。

 

「魔法の研究成果です。魔力は悪魔の力であり、魔法はその悪魔の力を解析して人間が扱えるようにしたものです。それ以外にも精霊魔法、北欧式の魔法など、多種多様な術式の魔法があり、中には神々が生み出したものもありますが、一般的な術者が使う魔法の大半は大魔法使いマーリン・アンブロジウスの流れを汲むものだと言われています」

 

「あー、それは何か聞いた事があるな」

 

「その魔法は既に悪魔のもとを離れて独自の進化、変貌を遂げていて、中には悪魔では出来ない力も生まれました。それは未だに変化し続けていて、底が見えない領域です。そして、その魔法は冥界の技術発展に貢献する事もあるのです」

 

 ソーナは自身のメガネを指差す。

 

「これも実は魔法の研究によって誕生した特別なメガネです。大した力はありませんが」

 

「それ、ただのメガネじゃなかったのか……?」

 

「人間界では大した魔法ではなくても悪魔にとっては画期的な特性と言う事があるのです。そう言う魔法は価値が高く、取り引きとしても充分に成立します。我々は魔法使いの才能を買うと言って良いでしょうね。その為、魔法使いへの先行投資に近いものがあります。だからこそ、選考はキチンとしなければなりません。損する事も大いにある事柄ですから」

 

 魔法使いの研究が悪魔にとってプラスになる事もある―――と言う事だ。悪魔の能力を解析して生まれた魔法が、別の形で冥界に関わると因果(いんが)めいたものを感じる。ソーナは人差し指を立てて(さと)すように言う。

 

「けれど、これだけは忘れてはいけません。魔法使いとの契約は悪魔としての活動の1つです。それが全てと言うわけではありません。人間との契約、魔法使いとの契約、レーティングゲーム、冥界での事業、悪魔として上を目指すのであればやるべき事はたくさんあると言う事です」

 

 ソーナの言う通り、永い悪魔の一生は1つを極めるだけでは足りない。複数をこなしてこそ上級悪魔なのだろう。転生悪魔は目標が多い方が良いらしく、それに見合った生き方も必要と言う事だ。

 

 その点は今後リアスやレイヴェルと話し合いながら気長にやっていけば良い。まずはソーナとの会話に戻る。

 

「そう言えば、ソーナが俺の家に来るのって、あまり無いよな。……確か2回ぐらいだったか?」

 

「そうですね。以前、ここに来て兵藤くん達とテレビゲームをしましたね。あとは……まあ、姉と……」

 

 1回目は新が一誠とアーシアを呼んで、更にゼノヴィアとイリナを交えてゲームしている時に、リアスと朱乃と共にソーナが新の部屋に顔を出し、そのままゲーム大会になった。その時のソーナのゲームさばきは凄まじく、プレイした事の無いゲームを短時間で覚え、やり込んでいる新や一誠を圧倒していたそうだ。

 

 レースゲーム、格闘ゲーム、最新作のマ○オパーティ、挙げ句にはリメイク版の『ポ○モン・金剛石&真珠』で何度も対戦したが、戦略を(ことごと)く読まれ―――ソーナにボロ負けしたとか。

 

 新(いわ)く、『マジで泣きそうになった』らしい……。

 

 そして、2回目は―――と、ここで唐突に朱乃が小さく笑い、ソーナが隣で怪訝な表情を浮かべていた。

 

「朱乃、どうしたのですか?」

 

「うふふ、そういえばソーナったら、魔法使いの一件で大変な目に遭ったなーって思って。セラフォルーさまがあのオーディションで―――」

 

 その話を聞いて、途端に顔を紅潮させるソーナ。新もちょうど思い出していたところで、それはソーナが「姉と……」と口をつぐんだ事にも起因する出来事だ。

 

 そう、あれは―――温泉旅行から帰って数日後だった。

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

「魔法少女リーア! きらめく魔法で極悪怪人をまとめて滅殺(めっさつ)しちゃうぞ☆」

 

 眼前で紅髪(べにがみ)のお姉さまが魔法少女の格好をして、可愛くポージングを決めていた。紅髪のお姉さまとは無論―――リアスの事である。

 

 あの華麗で高貴な雰囲気の漂う姫君(ひめぎみ)が魔法少女のコスプレをしつつ、紅髪をツインテールに纏め、手には魔法のスティック(玩具)と言う出で立ちだった。

 

 一部の男にとっては大いにアリだろう。……しかし、(はた)から見ると魔法少女としては少し年齢と背格好が高すぎる……。

 

「…………ナニコノカオス……」

 

 何故こんな事になっているのか……? 発端は“とある休日”に(さかのぼ)る。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 とある休日、珍しい組み合わせの2人が新の家を訪れてきた。1人は駒王学園(くおうがくえん)の生徒会長であるソーナ・シトリー。

 

 そして、もう1人は―――。

 

「魔法少女ミルキーの映画に出たいのよ☆」

 

 そんな突拍子も無い事を言って新達のもとに現れたのは四大魔王の1人―――セラフォルー・レヴィアタンだった。……開口一番からして嫌な予感しかしない(笑)

 

 竜崎家の広い居間で改めて話を(うかが)う。

 

「……ま、魔法少女のオーディションですか……」

 

 反応に困っているリアスがそう言うとセラフォルーは大きく(うなず)き、手元のスティックをクルクル回して天井高く掲げた。

 

「そうなのよ! 実写映画版『魔法少女ミルキー』のオーディション! 出演者を芸能人だけじゃなくて、一般からも広く公募しているのよ☆ 合格すればミルキーとして映画の主役になれるの!」

 

 目を爛々と輝かせてセラフォルーは笑顔を全開にしていた。……セラフォルーは魔法少女に憧れており、特に人間界のアニメ番組『魔法少女ミルキー』シリーズに夢中らしく、普段の格好も魔法少女の衣装を着ていた。

 

 元々美少女なので似合っていると言えば似合っているのだが、天真爛漫な性格も手伝って周りの者はどう反応して良いか分からない事が多い。新と一誠(いわ)く「魔王少女」らしい……。

 

 更に冥界でも特撮番組「魔法少女マジカル☆レヴィアたん」を制作し、主役も張っているらしい。セラフォルーの魔法少女愛は人間界の魔法少女業界にも介入する足取りを見せ始めてしまった……。

 

 その隣でセラフォルーの妹―――ソーナが顔を真っ赤にさせながら、「……ゴメンなさい、このような姉で……」とリアスと朱乃に謝っていた。苦労が計り知れない……。

 

 四大魔王はフリーダムで奇抜な者が多く、逆に身内は真面目な者が多い。リアスとソーナの家系が良い例である。

 

「それで、ここに来たのはどういった理由なんだ?」

 

 新が率直に訊く。オーディションに参加したい熱意は分かったが、ソーナと共に新の家を(おとず)れたのはどのような理由があったのだろうか?

 

「それはね。私と一緒に―――」

 

 ウインクしながら説明しようとするセラフォルーを制して、ソーナが口を開く。

 

「お姉さまは黙っていてください。……リアス、お願い。私と一緒に魔法少女のオーディションに参加してください」

 

 あのクールな生徒会長たるソーナが顔を最大にまで真っ赤にさせてそう言ってきた。言われた方のリアスは―――親友からの予想外のお願いだったからか、暫し口をポッカリ開けたまま反応が止まっていた。一拍置いてようやく―――。

 

「え、えーと……。ど、どういうこと、ソーナ……?」

 

 笑顔をひくつかせながら再度訊き直すと、ソーナは切々と語る。

 

 魔王たるセラフォルーが人間界で実写映画版ミルキーのオーディションがある事を知り、何とか取れた僅かなオフを利用して参加したいと無茶ぶりを妹のソーナに懇願してきた。どうにか(いさ)めようとしてもセラフォルーの意志は固く(駄々をこねたとも言う)、このままでは職務にまで影響が出そうな程だった。

 

 意を決したソーナは、自分とシトリー眷属で警護させる事(監視、保護者とも言う)を約束させ、オーディションに付き添う事になったそうだ。

 

 セラフォルーは四大魔王でありVIPでもあるので、人間界での警護はあって当然。オーディションでの護衛は妹のソーナが受け持つ―――と。そこまでは理解できた。

 

 しかし、問題は何故リアスに「一緒にオーディションに出て欲しい」と懇願しに来たのか? あまり関係ないのではと思っていた新だが、ソーナが鞄からスルスルと取り出したモノを見て驚く。

 

 それは―――派手でフリフリな衣服、どう見てもコスプレ衣装だった。ソーナは必死に恥辱に耐えている様子で言う。

 

 「……お、お姉さまが私に用意してくださった……オーディション用の……魔法少女の衣装よ」

 

「――――っ」

 

 何とまあ驚き、ソーナ用のコスプレ衣装。魔法少女成分100%の衣装に身を包むソーナの姿など決して容易(たやす)く見れるものではないが、少し想像するだけでも未知の領域を捉えてしまう。

 

 吹き出しそうになる新を尻目に、ソーナは続ける。

 

「……オーディションを受けるお姉さまを私達シトリー眷属が警護します。そうなると、必然的に身近で護衛しなくてはならなくなるので……お姉さまと一緒に私もオーディションへ参加する事になったのです……」

 

 プルプルと全身を震わせながらソーナはそう言った。

 

 姉たるセラフォルーをすぐ(そば)で警護する為、(みずか)らオーディションに参加する事を決めたようだ。クールビューティーと称されるソーナからしてみれば、魔法少女のオーディションなど(えん)の無い世界―――(むし)ろ、嫌な部類だろう。

 

 そこに身を(てい)して参加するわけだから、その覚悟は凄まじいものを感じる。これも姉を守る為―――否、姉の監視と保護者として。

 

「そう言えばセラフォルーさまを『禍の団(カオス・ブリゲード)』に属する魔法使い達や魔法使いの協会から追放された『はぐれ魔法使い』が狙っていると言う噂も聞いた事がありますわね」

 

 朱乃がそう口にする。要人たる魔王なので狙われるのは当然だが、魔法使い限定と言う点が()せない。新が「何でだ?」と訊くと、ソーナが説明をしてくれた。

 

「……本物の魔法使い、特に魔女からはお姉さまの趣味が嫌悪されているそうなのです。……一言で言うなら『世間に魔法使いと言う存在の間違った認識を与えかねない』と。……姉の、この姿を見れば何となくはご理解いただけると思うのだけれど……」

 

「……あー、なるほど」

 

 新は直ぐに納得した。本物の魔法使い―――魔女からすれば空想の存在『魔法少女』の格好で外交している魔王は迷惑千万どころか、侮辱の領域に入ってしまってもおかしくない。

 

 重鎮である魔王が魔法少女に憧れて、特撮番組まで制作して放送しているので本物の魔法使いの心中は計り知れないだろう。“少し気にし過ぎじゃないか?”と思った矢先、ソーナが息を吐いて続ける。

 

「もしかしたら、その魔法使い達がオーディション会場でお姉さまに襲い掛かってくるかもしれないので私達が警護をするのです。仮に襲われてもお姉さまがそうそうやられるとは思えません。―――が、大暴れして人間界に多大な被害をもたらすかもしれないので、それを抑える役目が私達にはあるのです」

 

「な、なるほど……」

 

 新は“それはあり得る”と直感してしまう。セラフォルーがその気になれば、魔力1つで島などを余裕で消し飛ばしそうだからだ。外交担当が人間界の地図を塗り替えたら大問題は間違いなし。

 

 献身的な妹にセラフォルーは目元をウルウルと潤ませてソーナに抱き付いた。

 

「うぅぅ、ソーたんはなんてお姉ちゃん思いなのぉぉぉぉっ! 私を心配してくれる上に一緒にオーディションへ参加してくれるなんて! お姉ちゃん感激なのよぉぉぉっ!」

 

「…………そう思うのでしたら、今からでも参加を止めてください」

 

「それはダメ☆ ソーたん用の衣装を用意したんだから、お姉ちゃんと一緒に魔法少女になりましょう♪」

 

 ウインクと可愛いポーズで即否定のセラフォルー。妹に魔法少女の衣装を着せられる状況に嬉々(きき)としている……。

 

「そ、それで、私に一緒に参加してほしいと言うのは?」

 

 リアスが再度訊くと、ソーナはリアスの手を握り、切に言った。

 

「リアス。お願い、恥ずかしいの。……私と一緒にオーディションに参加してちょうだい……。私、このままでは耐えられない……! 友達のあなたにしか頼めないのです……。あなたと一緒なら耐えられると思うのです……!」

 

 ソーナは肩を震わせ、親友に吐露した。リアスは暫し瞑目(めいもく)し、息を1つ吐くとソーナの手を握り直した。

 

「ソーナ。私とあなたは小さな頃からの親友だもの。良いわ。私もオーディションに参加する。テロリスト対策にも協力するから、安心してちょうだい」

 

「……リアス。ありがとう……」

 

 見つめ合うリアスとソーナ。普段クールな生徒会長も今回ばかりは目元をウルウルさせていた。美しい友情である。

 

百合(ゆり)百合だわ! ソーたんとリアスちゃんの百合百合だわ☆」

 

「セラフォルーさま(一応)、アンタはそろそろ自重しなさい。……そうなると、必然的に俺達もオーディション会場に行かなきゃならないのか?」

 

「……ですね」

 

 そんなやり取りを新の膝上に座る小猫としていると―――。

 

「リアスちゃんの衣装も用意してあるのよ☆ ほーら、こんなに可愛いリボンまで!」

 

 そう言ってセラフォルーがリアスの分と思われる派手な衣装まで取り出してきた。それを見て表情を険しくするリアス。

 

「……わ、私も着なければダメなんですよね」

 

「……今更だけれど、このような姉でゴメンなさい、リアス」

 

「良いわよ、私も昔から知っているから……。けれど、この衣装は……」

 

 ノリノリのセラフォルーにリアスもソーナも嘆息していた。

 

「あー、でもよ、オーディションって書類選考とかあるんだろ? 今からじゃあ間に合わない―――」

 

 新が疑問を言い終わる前に、セラフォルーは「じゃっじゃーん♪」と書類を取り出した。

 

「ソーたんとソーたんのところの女の子達、そしてリアスちゃんとリアスちゃんのところの女の子達の書類は既に送っていたりするのよー☆ 皆、可愛い子ばかりだから書類選考は合格を貰っているわ!」

 

「さてはアンタ、最初から巻き込む気満々だったな!?」

 

 新のツッコミに対し、セラフォルーは「テヘペロ☆」と可愛く舌を出していた。もしかしたら、今回のオーディションはセラフォルーの(てのひら)の上にあるのかもしれない……。

 

 こうして、新達はセラフォルーのお願いに付き合う事となった。

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 そんなこんなでオーディション当日を迎え、新達グレモリー眷属とシトリー眷属は都内にある高層ビルのホール会場に集結していた。

 

 オーディションに参加する女の子達が広いホール会場に大勢いた。皆、それぞれ番号を記したプレートを衣服に付けており、約200人程来ているらしい。

 

 逆を言えば200人も書類選考を通過したと言う事であり、ミルキーの根強い人気をヒシヒシと感じてしまう程だ。年齢的には小学校高学年から中学生の女子が中心。

 

「……これ、オーディションに来るのは大半が十代前半の女子ばかりの筈です……。劇中でミルキーの年齢がそれぐらいなので。実写映画だとどうなるか分かりませんが……」

 

 魔法少女の衣装に加え、自前の猫耳と尻尾を出した小猫がそう言う。“猫耳魔法少女”と言う萌え要素満載の可愛さに、新も内心ニヤついてたりする。本当ならベタ褒めしてやりたいところだが、それを言ったら恥ずかしがりながら殴られるので敢えて言わなかった(笑)。

 

 会場には有名な子役の芸能人も参加しており、他のメンツも書類選考を通っただけあって容姿端麗。まだ本日の選考は始まってないので、新達を含んだ保護者や関係者もホール内にいた。

 

 ―――で、その女の子達は奇異な視線をこちらに向けており、中にはクスクスと言う笑い声も聞こえてきている。……その理由は簡単だ。

 

「……これは(おのれ)との戦いね」

 

 フリフリな魔法少女の衣装に身を包んだリアスが恥辱に耐えながら、そう呟いた。長い紅髪(べにがみ)をツインテールにして、可愛らしいリボンで纏めていた。

 

 本来ならメチャクチャ可愛いと褒め倒したいところだが、周囲の参加者から比べると若干年齢が上だろう。さすがに高校3年生での魔法少女はなかなか無理があるらしく、(はた)から見ても旬を過ぎた感は(ぬぐ)えない……。

 

 おっぱいが大きいのも違和感に拍車を掛けている。何故なら……魔法少女は基本的にはツルペタな娘が多いイメージが根付いているからだ。

 

「まあ、俺はその辺にこだわりが無いから良いけどな」

 

 しかし、好奇な視線はその年齢から来る無理な姿ではなく、魔法少女の衣装その物を着込んでいるサマにある。他の参加者は普通の可愛らしい服装―――(すなわ)ち私服であり、魔法少女の衣装でコスプレしているのはセラフォルー、グレモリーとシトリーの女子だけなのだ。

 

 それそれは会場で浮きまくり、気合を入れたレぺルを通り越して熱狂的な信者に見えてしまう。

 

「まあ、今日は頑張りましょう、リアス。うふふ」

 

 リアスの隣で巫女服姿の朱乃が若干楽しげに言う。普段持っている巫女服とは違い、随分とデザイン的な特徴が目立つ衣装だった。なんでも“和風魔法少女”と言うスタンスでセラフォルーが制作したらしい。

 

 衣類の面積が少なく、(はかま)も短くて胸元もかなり開いている。手にはお祓いなどでよく見る大麻(おおぬさ)が握られていた。

 

「朱乃はやっぱりエロいな。それに似合っている」

 

「……こ、このような姿、実家の者に見られたら私は死ぬしか無いわ……」

 

 新がニヤニヤ眺めていると、魔法少女の衣装に着替え終えたソーナも会場に姿を現し、全身を震わせながら開口一番にそう呟いていた。胸元に大きなリボンを付け、クールなイメージとはかけ離れたプリティな衣装だ。

 

 その姿を見た匙は「ぐはっ!」と鼻血を噴き出して倒れた(笑)。

 

 新は「どうした、(鼻血マン)」と珍妙なアダ名で匙をイジり、匙は過呼吸に(おちい)りながらも幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

「……はぁはぁ……か、会長の魔法少女……。も、萌える……。萌え死ぬ……。りゅ、竜崎……お、俺、もう死んでも良いかなって……」

 

 ソーナ・LOVEの匙には、魔法少女の姿がクリティカルヒットだったらしい(笑)。新は匙の顔をペチペチと叩きながら言う。

 

「しっかりしろ、匙。こんなところで死ぬな。オーディションが始まってもいない内に死なれたら……俺の負担が増えるだろうが! ただでさえ一誠が風邪で来られなくなったってのに……!」

 

 新の言う通り、一誠はこの日に限って風邪を引いてしまったらしく、会場に来ていないのだ。一誠は這いつくばってでも行こうとしたのだが、やはり無理だった。

 

 そんな一誠から連絡を貰った新は、電話越しに遺言(?)を託された。

 

『新……お、俺の分まで……部長やアーシア、皆の魔法少女姿を目に焼き付けて……帰ったら事細かに教えてくれ……。金ならいくらでも出す……っ』

 

 弱々しくも力強い遺志(まだ死んでない)を託された新は溜め息混じりに「……分かったよ」と了承するしかなかったそうだ。

 

『…………あ、あと、ツッコミ役もよろしく……。多分、そのオーディション荒れると思うから……』

 

 普段ツッコミ役(?)を背負わされている一誠がいない今、その役目は新に託されてしまったのだ。せっかくのオーディションなのにあまり乗り気じゃないのは、そのせいである。新が心中でイラつく最中、匙は震える声を絞り出す。

 

「……メ、メガネっ子の魔法少女だぞ……? か、会長は俺をピンポイントで殺しに来ている……。……女子高生でその格好は無理があるのも分かる……。それでも俺にとっちゃマジカルでラジカルなクリティカルヒットなんだぜ……?

 

「お前、メガネ属性だったのか。……まあ、確かにリアスも珍しく恥辱に耐えている姿はグッと来るモノがあるな。童貞鼻血マンのお前には荷が重すぎたか」

 

「悪かったわね……、高校生の私が魔法少女の格好をしていて」

 

 ペチンと新の頭を叩くリアス。そんなやり取りをしていると、後ろで祐斗が「やれやれ」と苦笑していた。

 

 会場の女の子達から「あの人かっこいい!」「芸能人かな!」と熱い視線と黄色い声を貰っている。新も見た目は良いので「あの人も素敵!」「ワイルドな感じが堪らない!」と同じように熱い視線と黄色い声を貰っていた。

 

 ロックミュージシャン風の私服なので、良い意味でも悪い意味でも目立つ(笑)。

 

「ふむ、この格好も動きやすいか」

 

「うーん、天使が魔女だなんて……」

 

「魔法少女ですよ、イリナさん。でも、ちょっと恥ずかしいですね……」

 

 ゼノヴィア、イリナ、アーシアの教会トリオも魔法少女の姿で登場。ゼノヴィアは模造の刀剣を帯刀し、頭にはラブリーなリボンを付けていた。イリナも魔法少女の格好にプラスして自前の天使の輪と白い翼を展開していた。

 

 そして、アーシアはピンク色メインのフリフリ衣装に身を包んで、肩には小ドラゴンのラッセー(精巧なぬいぐるみと言う設定らしい)を乗せていた。手にもマジカルなスティックを持ち、グリーンの瞳に金髪も合わさり―――その姿はまさに魔法少女そのものだった。

 

「……やはり、小猫ちゃんか、アーシアさん辺りがそういうの似合うんでしょうね」

 

 ロスヴァイセの声。振り返ってみるとヴァルキリーの装備になっているロスヴァイセの姿があった。

 

「ロスヴァイセは魔法少女の衣装を着なかったのか?」

 

 新が問うと、ロスヴァイセは息を吐く。

 

「あーいうのを着るぐらいなら、着慣れたこちらの方にします。……さすがに私だけ普通の格好では申し訳無いので。これでご容赦願いたいところです」

 

「義理堅いな。……まあ、ロスヴァイセの魔法少女姿も見たかったな」

 

「新さん、あなたはどれだけ私に恥ずかしい思いをさせたいのですか……?」

 

「いや、そんなつもりはねぇよ? 純粋に見たかったってだけで」

 

 屈託の無い感想にロスヴァイセは若干頬を赤く染める。そこもまた可愛らしい。

 

「せ、先輩……」

 

 続いてギャスパーの声も後方から聞こえてくる。振り替えるとそこには―――魔法少女の衣装を着た後輩男子がモジモジしながら立っていた。

 

「……ナニシテンノ? オマエハオトコダロ?」

 

 あまりのインパクトに片言で問い(ただ)す新。ギャスパーは赤面しながら言う。

 

「……レ、レヴィアタンさまが僕の分まで書類を出していたそうで……。つ、通過しちゃっていたんですぅ……」

 

 何という事でしょう。女装男子がまさかの書類選考合格……! 性別を偽った? 否、素で通過しました(笑)。……グレモリー眷属は新と祐斗、病欠の一誠以外全員参加と言う形になった。

 

「……は、恥ずかしいわ。シトリーの『女王(クイーン)』たる私がこのような……うむむ、竜崎くんも見ていると言うのに……っ!」

 

「こ、これも会長の為ですよ!」

 

「そう思い込まないとやってられないし……」

 

 横では着替え終わったシトリー眷属の女子達も匙のもとに集まり出していた。匙は相変わらずソーナの魔法少女姿に鼻の下を伸ばしている……。後で八つ当たりしてやろうかと考えていると―――。

 

「……その気配、悪魔さんと同じにょ?」

 

 突然投げ掛けられた野太い声。恐る恐るそちらへ視線を向ける新。

 

「………………カハッ」

 

 ―――――以前、一誠から聞かされた事を思い出した。

 

『俺のお得意様には、魔法少女に憧れる(けが)れの無い(おとこ)()がいる。今度お前にも紹介しておくよ。もしかしたら、何処かで会うかもしれないから(笑)』

 

 そう言って見せられたのは―――眼前にいるのと同じく、巨木のように太い上腕、明らかにサイズの合わないマジカルな衣装を張り裂かんばかりの分厚い胸板。

 

 フリフリのスカートから姿を現す女性の腰回りよりも太い足。頭部の猫耳。指の1本1本がゴツくて太く、握るマジカルスティックがあまりに小さく見えてしまう。

 

 そして、彫りが深く濃すぎる顔……。ソレを見せられた当初、新は壊れた哄笑を上げながら一誠を半殺しにした(笑)。そして―――「こんな魑魅魍魎(ちみもうりょう)もマッハで逃げ出すような人外魔境(じんがいまきょう)に出会ってたまるか!」と吐き捨てた。

 

 しかし、その願いは敢えなく打ち砕かれた……。

 

「……ア、アンタが噂の……ミルたん……っ?」

 

「そうだにょ。ミルたんにょ。ミルキーになる為に来たんだにょ」

 

 おかしい……!

 

 絶対におかしい……ッ!

 

 新は頭を押さえて天を(あお)ぐしかなかった!

 

 ここにいると言う事は……彼も書類選考を通った事を示す……っ。性別どころか人種さえ疑わしい筋肉の(かたまり)が何故に通る⁉ 明らかに魔法と程遠い存在感を放出していた!

 

「……一応、訊いておく。オーディションを間違えてませんか? 格闘技やボディービルの会場はここじゃないんだが……?」

 

 新の問いに対し、ミルたんは彫りの深い顔を笑ませるだけだった。

 

「何を言っているにょ。ミルたん、魔法少女になる為にここに来たにょ」

 

「いや、明らかに魔法よりも拳法(けんぽう)殺法(さっぽう)に特化した肉体だろっ⁉ 溶鉱炉に落とされても秒単位でアイルビーバック出来そうな肉体だぞっ⁉」

 

 “このオーディション、案外ろくでもない選考基準なんじゃないのか……⁉”

 

 そんな事を考えていたら、会場がザワつきだした。何事かと思えば、映画の関係者らしき人達が入ってきた様子だった。

 

「はーいはい、皆さーん。今日はお集まりいただいてありがとうございまーす」

 

 一昔前のプロデューサーの如く肩にセーターを羽織った業界人風の男性が会場にいる新達に向けてそう言う。その男の横には帽子、サングラス、ちょびヒゲと言う出で立ちの少し怖そうな雰囲気の男性とロン毛で線の細い男性の2人が並ぶ。

 

 プロデューサー風の男性がマイクを使い会場全体に発する。

 

「私は『劇場版魔法少女ミルキー』のプロデューサー、酒井でーす。そちらの帽子を被った方が監督の遠山監督、その隣にいる髪の長い方が脚本家の東海林(しょうじ)先生!」

 

「…………」

 

「どーも」

 

 無言の監督と軽い挨拶をする脚本家。

 

「見て見てソーナちゃん! 魔法少女モノと特撮モノに定評のある遠山監督に東海林先生よ! 生で見るのは初めてなのよ☆」

 

 大興奮のセラフォルー。どうやら、そちらの方面では有名な人のようだ。しかし、目を引くのは彼らだけではない。明らかに場違いと言うべき着ぐるみがいる……。

 

 見た目はよくあるウサギの着ぐるみだが、目元、耳、鼻等の配色がパンダと全く同じ。謂わば―――パンダ柄のウサギの着ぐるみである。

 

 コミカルなポーズを続ける着ぐるみを見て、セラフォルーが再び興奮気味で言う。

 

「あーっ! アレは魔法少女モノと特撮モノに時折(ときおり)出てくる謎の賑やかしキャラ、パン・ダビットソンくんよ! まさか……このオーディションで、しかも生で見れる日が来るなんて嬉しいっ☆」

 

「ここはカオスの巣窟か……?」

 

 新が唖然とした様子で見ていると、パンダ柄のウサギ―――パン・ダビットソンが手を振ってくる。新は「あー、はいはい」と投げやりな感じで手を振り返す。

 

 すると、パン・ダビットソンがピョコピョコやって来て、新の手を取って握手する。そこへセラフォルーがやって来て―――。

 

「パン・ダビットソンくーん! 私にも握手して☆」

 

 セラフォルーがビシッと手を差し出すと、パン・ダビットソンは『OK』と言った感じでポーズを決め、セラフォルーの要望に応える。

 

 そんな中、プロデューサーが再度言う。

 

「遠山監督や東海林先生と共に今日は映画に出演するキャストを選んでいきたいと思います。しくよろ~」

 

『よろしくお願いします!』

 

 会場の女の子が一斉に選考員に挨拶すると、監督が眉間にシワを寄せて、会場にいる女の子達をマジマジと見始める。監督はうんうんと頷き、プロデューサーを呼び寄せて耳打ちする。

 

「ふんふん。なるほどなるほど」

 

 プロデューサーは相槌を打ち、書類と照らし合わせながら―――リアスやソーナの方に視線を送る。プロデューサーがコホンと咳払いした後に告げる。

 

「えーと、いきなりですが、今回の一次試験の結果が今ここで決まりました」

 

「は? もう決まったの?」

 

 あまりにも早すぎる展開に新は勿論、会場の女の子達も「ええっ⁉」と驚愕していた。プロデューサーが監督主導のもと、名前を次々とあげていく。

 

「―――さん、リアス・グレモリーさん、ソーナ・シトリーさん、アーシア・アルジェントさん」

 

 その中にはリアスやソーナ、グレモリー眷属+イリナ、シトリー眷属、セラフォルーも含まれており、挙げ句―――。

 

「それと、『ミルたん』さん」

 

 何故かミルたんまで名前を呼ばれていた……!

 

「いま呼ばれた方が一次試験突破です!監督はフィーリングを大切にされる方なので、すみませんがこれにて一次試験終了でーす!」

 

『えぇぇぇぇええええっ⁉』

 

 不満と驚きの声を上げる女の子達。

 

「「ええええええええっ⁉ こんな格好で⁉」」

 

 同様に合格に目が飛び出すほど仰天するリアスとソーナ。実はここに向かう前、リアスは新に「あんな格好をするのだから、まあ、セラフォルーさまを始め、私達は早々に落ちるでしょう。選考ってそんなに甘くはないでしょうし」と苦笑しながら言っていた。

 

 しかし、この選考は糖分タップリと言わんばかりの甘々(あまあま)だった……っ。

 

「やったー☆ やっぱり、分かる人には分かってしまうのね!」

 

 大はしゃぎのセラフォルー。更に合格者の周りをパン・ダビットソンがピョンピョンと跳ね回り、賛辞を表現していた。

 

「……こ、これはただのオーディションじゃないかもしれねぇぞ……っ」

 

 ……波乱に満ちたオーディションの幕開け。この一次試験も、その序章に過ぎなかった……。




この回は前編、中編、後編の三編構成でお届け致します(笑)

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