ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

255 / 263
やっと書けました……。また時間かかってしまいました……。


ハート・メルトダウン、エンドヴィル・ジョロキア

「ルクスリア・ワン? インウィディア・ツー?」

 

 一誠は聞き覚えの無い言葉に疑問符を浮かべるが、新は(しば)し考えた後、言葉を絞り出す。

 

「……ルクスリア、インウィディア。確かラテン語で前者は色欲、後者は嫉妬を意味する―――七つの大罪……」

 

 “七つの大罪”―――それはキリスト教に()いて罪の根源とされる7つの悪しき感情、欲望を意味する言葉である。

 

 傲慢(ごうまん)嫉妬(しっと)憤怒(ふんぬ)色欲(しきよく)強欲(ごうよく)暴食(ぼうしょく)怠惰(たいだ)―――。その中でハートは色欲、エンドヴィルは嫉妬の名を冠する。

 

 新は唐突に嫌な予感を頭に(よぎ)らせ、憎々しげにキリヒコを問い詰めた。

 

「まさかとは思うが……あと5人もこんな奴らがいるんじゃねぇだろうな?」

 

 その言葉に皆の視線がハート、エンドヴィル、キリヒコに集中し、キリヒコは嫌味タップリの含み笑いを見せて答えた。

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)、勿論いますよ。……()()()()、ね」

 

「これから、だと……っ?」

 

Oui(ウィ)、これから始まるのですよ。新しき深淵の時代が」

 

 キリヒコの言葉に新を含め、一誠達は戦慄せざるを得なかった。新は音が鳴る程に奥歯を噛み締める。

 

Monsieur(ムッシュ) ハート、Monsieur(ムッシュ) エンドヴィル、ウォーミングアップも済んだ事ですし……彼らと遊んで差し上げては如何(いかが)でしょうか?」

 

「おおっ、そうだな。実を言うとさっきから試してみたくてウズウズしていたんだ。特に赤いヤツ―――赤龍帝(せきりゅうてい)だったか? 何故か無性にヤツと戦いたい気分になっている」

 

 『色欲の喰闇(ルクスリア・ワン)』―――ハートが一誠の方を向き、ワッシワッシと腕や肩を回しながら言う。

 

赤龍帝(せきりゅうてい)、お前の力を俺に見せて見ろ」

 

 自信満々に宣戦布告してくるハート。一誠は先のグレンデルとの戦いで肉体を(いた)めているが、ここで退()くわけにはいかない……。

 

「……良いぜ、見せてやるよ!」

 

 一誠は背中のブーストを最大限にまで噴かし、ハートに向かって突っ込んでいく。力を倍増させ、握り締めた拳を突き出した!

 

 それに対し、ハートは―――まるで“受けてやる”と言わんばかりに両手を広げていた。一誠は憤慨しながらも拳を叩き込んでいく!

 

 一誠の拳打はハートの腹部に突き刺さり、衝撃が辺り一帯に広がる。無防備とも言えるハートに強烈な一撃を食らわせた一誠だが―――。

 

「なかなか良いパンチだな。先程のドラゴンには劣るかもしれないが、芯のこもった一撃だ」

 

「な……っ⁉」

 

 ハートは平然とした様子で一誠の拳打を好評価していた……っ。一誠は愕然とするが、すぐに二撃め、三撃めの拳打を繰り出す。ハートの顔面やボディに何度も何度も打ち込み、豪快な打突音と衝撃が鳴り響く。

 

 一誠は更に倍加の音声を鳴らし、右腕をソリッド・インパクト仕様に肥大化させ―――力の限り撃ち込んだ!

 

Change(チェンジ) Solid(ソリッド) Impact(インパクト)!!!!』

 

 ドデカく、鈍く、重い一撃がハートに炸裂し、衝撃がフィールド全体を揺らす! さすがにこれだけの攻撃をまともに受ければ無事では済まないだろう……。

 

 そう思っていた矢先―――。

 

「……良いっ。やはり良いパンチだ。この威力、この気迫、どれを取っても俺好みの素晴らしいモノだ!」

 

「―――っ⁉」

 

 もはや言葉も出なかった……。グレンデルとの戦いで消耗しているとは言え、紅の鎧と化した一誠の攻撃をまともに受けて―――ピンピンしている……っ!

 

 口元から多少の血を流しているものの、ハートは倒れるどころか後退すらしなかった。グレンデル以上に驚異的な防御力……っ。ハートは歓喜した様子で叫ぶ。

 

「これが赤龍帝(せきりゅうてい)か……! 対峙したばかりだが、分かるぞ! 幾多(いくた)の修羅場を乗り越えてきた強者の重みだ! しかも、まだ伸び(しろ)があると見た! 震える……震えるぞ……ッ! この強さを受け止めて―――俺も強くなるッッ!」

 

 ハートの体が赤熱(せきねつ)し始め、彼の周りの空間が熱によって(ゆが)んでいく……っ。やがて、ハートの全身が赤い熱に染まり―――その姿をも変えていった!

 

 蒸気を噴出しながら現れたのは……大柄の異形の姿へと変貌を遂げたハートだった。血の如く赤い体色(たいしょく)、頭部から伸びた大きな2本の角。剥き出しとなった心臓に、ヒトの頭蓋骨(ずがいこつ)のように露出した口元。

 

 先程の好青年とは似ても似つかぬ不気味な様相だった……っ。姿が変わった途端、プレッシャーが跳ね上がり、ハートはゆっくりと足を進める。

 

「さあ、今度は俺の攻撃を受けてもらうぞ。嫌とは言わないよな? 赤龍帝(せきりゅうてい)

 

 グレンデルを吹っ飛ばした時と同じように右腕が赤熱し始め、ハートはズンズンと歩みの速度を速める。

 

 ハートの赤熱を帯びた拳が突き出され、一誠はそれをソリッド・インパクト仕様の腕で迎え撃とうとした。拳同士が衝突した瞬間、ジュウゥゥゥゥゥッと焼けるような音が聞こえてくる……!

 

「―――ッッ! ぐあぁぁぁぁぁあああああっ!」

 

 一誠の口から絶叫が漏れ、反射的に飛び退く。それもその筈……肥大化させた籠手が飴のように溶かされ、手を焼かれていたからだ!

 

 紅の鎧をあっという間に溶かす規格外の熱量に驚く一同。ハートは赤熱現象を止め、再び一誠に向かって歩みを進めていく。

 

「どうだ、俺の拳の威力は? なかなかのモノだろう? ただ、今は調整段階だから乱用し過ぎると暴走するかもしれんのでな。暴走すると俺自身が(まい)ってしまう。そうならないようにする為、俺はもっともっと強くなりたい。だから―――もっと打ち込んで来い! 俺はそれを受けきって、更に強くなるッッ!」

 

 アピールするかのように両手を広げ、攻撃を(うなが)してくるハート。硬派な言動とは裏腹に、末恐ろしい力を見せつけてくる……っ。

 

 さすがの新も呆気に取られ、ハートの底知れぬ強さに戦慄する……。しかし、敵は1人だけではない。

 

「何ボケ~ッとしてやがる? テメェはオレの相手をしてくれよぉ」

 

 言うや(いな)や銃撃をかましてくる異形―――エンドヴィル・ジョロキア。我に返った新はすぐに雷炎(らいえん)モードを発現し、エンドヴィルの銃撃を全て弾き返した。

 

「そうだったな、悪かったよ。こっちも出し惜しみは無しだ」

 

「やっとヤル気になったかよ。ハァ……頭が(いて)ぇぜ」

 

 気怠(けだる)そうに言いながらも、銃撃を再開するエンドヴィル。苛烈な弾幕射撃を新は(かわ)し、または弾き返しながら距離を詰めていく。

 

 雷を帯びた火竜を両手から撃ち放って、飛んでくる銃弾を焼き払う。それを見たエンドヴィルはすぐに得物を変形させる。銃身を起こすと銃口から刃が伸び、1本の剣と化した。

 

 襲い掛かってくる2匹の火竜を、エンドヴィルはそれぞれ真っ二つに切り裂く。両断された火竜はそのまま跡形も残らず消え去る……。

 

 新は間髪入れず全身から雷炎を噴かして、エンドヴィルに突っ込んでいく! 雷炎を纏わせた拳や蹴りをエンドヴィルの顔面、ボディとあらゆる場所に叩き込んだ。

 

 攻撃を打ち込まれたエンドヴィルは「チィ……ッ!」と舌打ち。剣を握る手に力が入り、下からの斬り上げで新の雷炎の拳を弾き返し、その後も全ての攻撃を素早い剣戟(けんげき)相殺(そうさい)していく。

 

「クソ……ッ! 一撃一撃が重い……っ!」

 

「アァン? オレの攻撃が(おも)てぇってのか? そりゃそうだ。テメェには嫉妬が足りてねぇからな」

 

「……嫉妬だと?」

 

「あぁ、そうさ。オレには分かるぜぇ? テメェからは嫉妬の(にお)いがプンプンしてくんだよ」

 

「俺が誰かに嫉妬してるってのか? ふざけんな! なんで俺が―――。」

 

「自覚ねぇのかぁ? 可哀想な奴だなぁ。でもまぁ、いずれ気付くぜぇ? テメェが誰に嫉妬してんのか。そして、その嫉妬にまみれたテメェの醜い本性さえもなぁ!」

 

 エンドヴィルが振り下ろしてくる怨嗟(えんさ)のオーラが込められた剣戟を、雷炎を纏わせた両手で受け止める新。しかし……それを見越していたエンドヴィルは眼を妖しく光らせる。

 

 ―――刹那、エンドヴィルの両肩から突き出ている鬼の髑髏(どくろ)が新を睨み付け、口を開く。口腔内に禍々(まがまが)しいオーラが溜まり―――放射される……ッ!

 

「…………ッッ!」

 

 新は咄嗟に体を限界まで反らして砲撃を(かわ)そうとするが、完全には避けられず兜と体の前面を焼かれてしまう……っ。放射された禍々しいオーラはそのまま疑似空間の端まで飛んでいき、空間内を震動させる。

 

 新は直ぐにエンドヴィルの顎に蹴りを食らわせ、そのまま後方へ飛び退いていった。先程の砲撃によって溶かされた兜は端々(はしばし)から壊れ、胸元からも血と焼かれた異臭が(ただよ)う。

 

 壊れた兜の隙間から見える新の苦悶に満ちた表情。エンドヴィルは顎を押さえて首をコキコキ鳴らすと、再度溜め息を吐く。

 

「チッ、(もろ)い空間だな。これじゃあ本気を出す前に崩壊しちまうじゃねぇか。ハァ……頭が(いて)ぇぜ」

 

 理不尽に不満を垂れ流すエンドヴィル。しかし、その強さは本物……っ。ハートも一誠の攻撃を受け続け、それ以上の攻撃で返してくる……!

 

 一誠もハートの恐ろしいまでの打たれ強さと攻撃力に舌を巻く他無く、肉体の疲労度もダメージもピークに達していた。エンドヴィルの横に並び立つハートは、まだまだ余力ありと言った雰囲気を見せている。

 

「くそ……っ! 何なんだよ、コイツのデタラメな強さは……っ⁉」

 

「一誠、そっちも苦戦してるみたいだな。……ったく、こんな奴らがあと5人も控えてんのかよ。さすがに嫌になってくるぜ……」

 

 毒づく新。その通り、キリヒコが率いる戦力―――『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』はこれが全てでは無い。ハートもエンドヴィルもその一部に過ぎない……っ。

 

 一方、ハートは肩や腕を回しながら高揚した様子で言う。

 

「良いぞ、ギアが上がってきた。エンドヴィル、この調子で行けば俺もお前も今以上に力を付けられそうじゃないか?」

 

「だろうな。まあ、こいつらが俺達に対応できればの話だが。ハァ……頭が(いて)ぇぜ」

 

「それなら心配いらんだろう。奴らも俺達同様、まだまだ強くなる。つまり、俺達にも奴らにも伸び代があるって事だ」

 

 ハートは喜びを表すように構え直し、エンドヴィルも剣の切っ先を新に向ける。その直後、すぐ近くで大きな地鳴りが響いてくる。音の正体は……先程ハートに殴り倒された筈のグレンデルだった……!

 

 グレンデルは口元から血を流し、ひしゃげた顔を無理矢理直して新達とハートを睨み付ける。

 

『グハハッ、グハハハハハ……ッ! やってくれたじゃねぇか、クソチビどもがよぉ……っ! 今の攻撃、ムカついたと同時に最高に痛くてイっちまいそうだったぜぇ……っ! 現世にはまだまだ楽しい奴らがワンサカいるってこったなぁ……! 良いぜぇ、こうなりゃトコトンぶっ殺し合いだァァァァァァァッッ!』

 

「おおっ、まだ立てるのか。さすがはドラゴン。そうでなければ張り合い甲斐が無いからな」

 

 グレンデルが凶悪な視線と敵意を向け、ハートも嬉しそうにグレンデルの殺意を受け入れる。エンドヴィルは新達の方に視線と怨嗟の刃を向ける。

 

 三者三様の凶悪なオーラが揺らめき、飛び出す寸前……奴らの動きが止まる。

 

 理由は明白―――グレンデルやハート達の足を黒い影のようなものが包み込み出したからだ。怪訝(けげん)に思って影―――否、闇の発生源に目を向ける。

 

 ……不気味な闇を周囲に生じさせているギャスパーがそこにいた。赤い双眸(そうぼう)を妖しく輝かせて、全身をダラリとしている。

 

 闇が(うごめ)き、グレンデルやハート達に向かおうとしていた。ギャスパーの隠された力は怖々(こわごわ)としたオーラを放っており、闇は更に広がりを見せて、この空間を飲み込もうとすらしようとしていた。

 

『……何だ、ありゃ。まあ良い。あれもやって良いって事か? 良いんだよな!? 強ぇクソガキがいっぱいじゃねぇかッ! 良い時代だッ! 破壊し甲斐があるよなァッ!』

 

 グレンデルはこの状況を嬉々として受け入れようとしていた。……何処までも狂ったバトルマニアである。

 

「クソ! あのバトルマニアがっ! 俺の後輩まで手を出させてたまるかよっ!」

 

 一誠がグレンデルの目標を自分に戻そうと、注意を向けさせようとした時だった。

 

「―――いえ、グレンデル。そこまでにしてください。実験は成功していたようです。本来ならば、木場祐斗もここにいればより良い調査が出来たのですが、充分でしょう」

 

 ローブの男がグレンデルに制止の言葉を投げるが、グレンデルは途端に不満な叫びを発した。

 

『止めんなよ止めんなよッ! こっからだ、こっから! ぶっ殺しってやつぁよッ! まずはお互い最高にハイになるのをぶっ放してからが本番よッ! 潰し合いをやらせてくれよッ! せっかく、あの時の無念を晴らせるんだッ! 今度こそ思う存分、思うがままにいろんなもんを喰らって、喰らわれて、壊して、壊されて、ぶっ殺すんだよッ!』

 

 ……本当に凶暴の一言に尽きる。ここまで戦意と殺意にまみれたドラゴンを見たのは初めてだろう。同じくバトルマニアのヴァーリが可愛く見える程だ。

 

 敵味方見境(みさかい)無しに敵意と殺意を剥き出しにしていた。そのグレンデルにローブの男は冷たく言う。

 

「―――また、(むくろ)と化したいのですか? あなたはまだ調整段階なのです。これ以上無理をすれば……」

 

 それを聞いた途端にグレンデルは舌打ちして、振り上げていた拳を下ろす。

 

『…………チッ、ったく、(かな)わねぇな。それを盾にされたらよ。止めるしかあんめぇよ』

 

 先程までやる気に満ちていたグレンデルが拳を納めた。『(むくろ)』、『調整段階』とはどういう事なのか?

 

 ローブの男の耳元に通信用の魔法陣が唐突に出現する。男はその魔法陣に耳を傾け、一度(うなず)いた。

 

「良い報告です、グレンデル。白い方で大分苦戦しているとの事です。今度はそちらに行きましょう」

 

『おほっ! 今度はアルビオンかよッ! たまらねぇなッ!』

 

 ローブの男の言葉を聞き、グレンデルはまた口元を吊り上げていた。“アルビオン”、“白い方”……それはヴァーリの事だろう。黒歌達が家に居なかった理由にも合点がいく。グレンデルが一誠に指を突きつける。

 

『クソのドライグ、根暗のヴリトラ、それに上半身裸の筋肉野郎―――は、何か姿が変わってんな。お前らとの遊びはお開きだ。次だ、次。次はあれだ、殺すよ。3匹まとめて殺すからな? グハハハッ!』

 

 龍門(ドラゴン・ゲート)が開き、魔法陣が深緑色の発光を出しながらグレンデルを包み込んでいく。光が止むと―――そこにグレンデルの姿は無かった。それを確認して、ローブの男はフードを取り払う。

 

 そこにあったのは銀髪の青年―――。その青年の顔には何処となく覚えがあった。新の脳裏に浮かぶのは―――いつもお世話になっている最強の『女王(クイーン)』の顔。

 

 銀髪の男は言う。

 

「私はルキフグス、ユーグリット・ルキフグスです」

 

「……っ! ―――()()()()()だと……っ⁉」

 

 “ルキフグス”の名に驚く新と一誠。確かにユーグリットと名乗る男の顔にはグレイフィアの面影(おもかげ)があった。

 

「あんたがボスってわけじゃないんだろう? じゃあ、いったい誰が『禍の団(カオス・ブリゲード)』の残党を纏め上げたって言うんだ⁉」

 

 匙が訊くと、男―――ユーグリットは目元を細めるだけだった。

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』現トップの正体はいずれ分かりますよ」

 

 ユーグリットの言葉を聞いてソーナは何かを得心した。

 

「……なるほど、この町に侵入し、魔法使いを招き入れたのはあなたですね? グレイフィアさまと同質のオーラを有する者であれば、結界を通過できてもおかしくはないのかもしれません」

 

 それを聞いてユーグリットは冷淡な声音になる。

 

「姉に、グレモリーの従僕(じゅうぼく)に成り下がったグレイフィア・ルキフグスに伝えておいてください。―――あなたがルキフグスの役目を放棄して自由に生きるのであれば、私にもその権利はある、と」

 

 ―――“姉”―――

 

 その言葉から察するに、この男―――ユーグリットはグレイフィアの親族に当たるのだろう……。

 

 ユーグリット・ルキフグスは転移の魔法陣へと消えていき、同時にこのフィールドの端々が役目を終えたように崩れだしていく。ピースが欠けていくように空間が崩壊を始め、次元の狭間特有の万華鏡の中身のような景色が見えだしていた。

 

 もはや数分とも()たないだろう。謎の力を放っていたギャスパーも再び倒れてしまった。しかも、先程までいた筈のキリヒコ、ハート、エンドヴィルも既にこの空間から姿を消していた。

 

「この領域は崩壊するようです! 早く、転移魔法陣で脱出しましょう!」

 

 ソーナの指示のもと、朱乃が地下空間に帰還する為の魔法陣を直ぐに展開する。ギャスパーを回収して、皆が魔法陣の中央に集まった。

 

 すると、レイヴェルが手元に小型魔法陣を発生させて培養カプセルの方に放っていく。カプセルの1つに放った魔法陣が当たり、1度輝いた後に消えていった。

 

「……せめて、これぐらいはさせてもらいますわ」

 

 レイヴェルはそう意味深に(つぶや)いていた。

 

「なるほど。そういう事ですか」

 

 ソーナもそれを見て何かに気付き、同様に小型魔法陣をカプセルの方に投げていった。

 

 2人の行動を(いぶか)しげに感じながらも、新は転移の光に包まれていく中で、今回起きた様々な事象を脳内で反芻(はんすう)する。

 

 グレイフィアの弟を名乗るユーグリット・ルキフグス、滅んだ筈のドラゴン。更にはユナイト・クロノス・キリヒコが(ひき)いる新たな脅威―――『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』。

 

 これから何が起ころうとしているのか……?

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

「お二人とも、どうでした? 彼らと一戦を交えた気分は?」

 

「物足りなかったところもあるが、また次の機会にしよう。これからが楽しみだ」

 

「ハァ……オレはまだまだ喰い足りない気分だぜ。せっかく良い具合に嫉妬を孕むヤツを見つけたってのに」

 

「それはさっきまでお前と戦っていた男の事か?」

 

「あぁ、間違いねぇ。ヤツは仲間面(なかまづら)しておきながら、実は知らねぇ内に嫉妬心を(いだ)いてやがる。次に会った時はそこを攻めてやるさ」

 

「そういうやり方、俺はあまり好きじゃないな」

 

「好みなんざどうでも良い。ハート、テメェは赤龍帝(せきりゅうてい)とやらの相手でもしてろ。……それで、キリヒコ。次のヤツが目覚めるのはいつ頃になるんだ?」

 

「もうすぐですよ。それにフェニックスのクローンに関するデータは採取済み。私が密かに採取しておいたレイヴェル・フェニックス―――純血のフェニックスのデータも揃っていますので、もう1人の方も目覚めるのは遅くありません」

 

「なるほどな。で、次に目覚めるのはどんな連中だ?」

 

「憤怒を冠する『憤怒の喰闇(イーラ・スリー)』。そして、強欲を冠する『強欲の喰闇(アワリティア・フォー)』です」

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 朝日が昇ろうとしていた。戦いを終え、レイヴェル達を奪還できた新達は疑似フィールドから帰還。上に戻り、駅内でグッタリとしていた。

 

 一誠は真『女王(クイーン)』などの昇格や先のシド戦、グレンデル戦、更にはキリヒコと共に現れた『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』―――ハート・メルトダウンとの戦いで疲弊しきっており、駅内休憩所の椅子に座っていた。

 

 新もブラッドマン、エンドヴィルとの戦いで蓄積された疲労を抱え、同じように椅子に横たわっていた。ソーナ達は事後報告の為、駅を出てスタッフと話し合っている。ギャスパーは救護班に運ばれ、アーシア達もそれに付き添っている。

 

 ギャスパーは命に別状は無いそうだが……やはり、例の謎の力は不気味だった。彼の身にいったい何が起きているのか?

 

 ……しかし、現時点で問題視しなければならないのはグレンデルの防御力、龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)が効かなかった点である。

 

 ここでソーナが言っていた言葉を思い返す。

 

「……彼らの実験とやらの真意は測りかねますが、あのグレンデルは……龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)に耐えた。防御力が桁違いだったのは間違いありません。―――しかし、何かを付与されているのも間違いないと思います。さすがに(くれない)の鎧を纏った兵藤くんの龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)をまともに受けて、あのダメージは不可解です」

 

 恐らく龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)への耐性を付与したのだろうが……実際にそんな事が可能なのか?

 

 「実験」―――フェニックスの事はあくまでも“ついで”、本当の目的はグレンデルをぶつける事。そして、グレンデルを引っ張ってきたのが―――グレイフィアの弟、ユーグリット・ルキフグス。

 

 確かに顔には面影(おもかげ)があり、フードを払った後に発したオーラも同質のものだった。グレイフィアに近しい質のオーラなら、この町に侵入するのも魔法使いを招き入れる事も出来るだろう。

 

 結局、あのフィールドにあった「偽フェニックスの涙」製造の中身も回収する事は叶わず、捕らえた魔法使い達から情報を引き出すしかない。

 

「……とんでもない事になっちまったな。吸血鬼に魔法使いとの契約、造魔(ゾーマ)も絡んできたってのに……また『禍の団(カオス・ブリゲード)』かよ……っ」

 

 新は天井を(あお)ぐ。旧魔王派の シャルバ、英雄派の曹操。何度も首謀者が入れ替り立ち替り、今度はルキフグスと滅んだ筈のドラゴンが立ち塞がる。それに加えて造魔(ゾーマ)、キリヒコ率いる『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』。またもや難敵が増えていく……。

 

「新さま……お茶を買ってきましたわ」

 

 レイヴェルが自販機で買ってきたであろう缶のお茶を手渡してくる。小猫も隣にいた。新はそれを受け取り、レイヴェルと小猫が新の隣に座る。少しの静寂、その間に新がお茶を飲み干し―――レイヴェルは言った。

 

「……私、許せません」

 

 それはハッキリとした口調だった。先程まではぐれ魔法使い達が作った『工場』の有り様を見て泣いていたレイヴェルとは思えない程、瞳は強く輝いていた。

 

「あんな事、絶対に許せない」

 

 小猫がレイヴェルの手を取る。

 

「……私もだよ。だから、レイヴェル、頑張って」

 

 小猫は笑みを浮かべ、それだけ言い残してここをあとにする。途端にレイヴェルは顔を赤らめた。

 

「……新さま、少しだけ昔話をしても良いですか?」

 

 そして、彼女は意を決したように言った。

 

「私は幼い頃、執事が読んでくれた様々な英雄譚(えいゆうたん)に心を踊らせておりました。こんな英雄を支える女性になりたいと幼心に夢を膨らませていたのです。けれど、大きくなるにつれて、いつの間にか、それを忘れ去っていて……」

 

 レイヴェルは真っ直ぐに新を見つめる。

 

「ですが、ふと(よみがえ)ったんです。(あるじ)を―――好きな女性の為にライザーお兄さまと戦った新さまを見て、幼い頃に(いだ)いていた夢が徐々に蘇って……気付いたら、新さまの事をつぶさなまでに調べていました。優しくて、時々厳しくて、性的で、欲望に忠実だけど、誰よりも仲間想いで、夢にひたすら向かって突き進む。その姿は、私の周囲―――上流階級には無い輝きで満ちていました」

 

「俺が……輝いていた?」

 

「―――新さまの夢を(そば)で見ていたい。本当にふとした切っ掛けで抱いてしまった夢です。私の勝手な幻想……。ここに来たのも私の身勝手な思い上がり……。でも、新さまのマネージャーに任命されたのが本当に嬉しくて……。叶う事ならこれからもおそばでお仕事がしたいって……」

 

「……俺はお前を駒王学園(くおうがくえん)で救えなかった。それだけじゃない。レイヴェルは幼い頃から夢を抱いてたんだろ? 忘れかけていたものの、今は立派にその夢を思い出して、追いかけようとしている。……けどな、俺は違う。……ガキの頃から夢を持とうとさえしなかった。シビアで真っ黒な現実―――裏社会の中でやさぐれて、(すた)れて、夢なんてものは直ぐに覚めちまうと見限っていた。一時凌ぎにしかならない目の前の娯楽で欲を満たし、堕落した日々を塗り潰していった。結局、俺は独りだと夢を持てなかった……。結局、俺は独りだと夢を持つ事すら出来ない―――薄っぺらな見栄だけ張ってるハリボテ男なんだよ……」

 

 レイヴェルの言葉を皮切りに、新も自分の抱いていた心情を吐露し始めた。幼い子は誰だって夢を抱く。それがどんなに途方も無い夢だとしても……。

 

 しかし、新は泥沼とも言える裏社会で生きてきたゆえ―――夢を抱くなんて考えをしなかった。ただ単に前へ進み、目に映る娯楽で気分を盛り上げ、淡い期待など抱かずに生きていく。人生はドラマや映画、ミュージカル等とは違う。夢を叶えられる者は僅か一握り。他は全て忘れるか、諦めるか……そんな人種しかいない。新はそう割り切っていた。

 

 しかし、レイヴェルは違った。

 

「助けに来てくれましたわ。新さまは、あの不気味な怪物と戦ってまで、私達を助けに来てくれましたわ。私は無事です。生きてます。―――信じてました」

 

 レイヴェルが新の手を取り、輝くような笑顔を見せる。

 

「―――私のヒーローが必ず助けに来てくれるって信じてました。とても嬉しかったんです。それだけはお伝えしたくて……」

 

「……っ」

 

 新は心の底から嬉しさを感じた。彼女がマネージャーでいてくれたら、どんなに心強いか。新は改めて言った。

 

「―――レイヴェル、俺はもっと強くなる。相手が誰であろうと強くなる。―――お前さえ良かったら、今後も俺のマネージャーをしてくれないか?」

 

「共に盛り上げていきたいと言う野望も抱いてますわ!」

 

「ああ、ありがたい。俺の足りない部分の補佐をしてくれると助かる。よし、今はフェニックスを(ないがし)ろにした奴らをぶちのめす。あんな『工場』なんて物はあるべきじゃねぇからな」

 

「はい! 私もただでは起き上がりません!」

 

 レイヴェルが(ふところ)から1枚のメモ用紙を取り出した。そこには魔法陣と魔術文字が複数描かれていた。

 

「これはあのフィールドにあったカプセルやあそこにあった機器に記されていた魔術文字と、彼らが私を調べた時に展開した魔法陣の形式と紋様ですわ。小猫さんとも確認していましたから、間違いありません」

 

 事細かに術式の魔術文字の詳細が描かれている。レイヴェルはたった1度見ただけでここまで記憶していたのだ。レイヴェルは強気な笑みを見せて述べる。

 

「この魔術文字と魔法陣は既にここに常駐(じょうちゅう)されている冥界、天界スタッフの方々にもお伝えしましたわ。フェニックス家にも転送する予定です。これらの情報だけでもかなりの事が分かりますわ。彼らが偽の『涙』で何をするのか、私達フェニックス家は徹底的に追及します! それに、もしかしたらフィールド崩壊後、あそこにあったカプセル等が次元の狭間に(ただよ)っているかもしれません。最後に私とソーナさまの魔力でマーキングしましたので、もし存在しているのなら、私とシトリーの魔力を頼りに次元の狭間を探索すれば痕跡が見つかると思いますわ。これに関しても冥界の調査班にお伝えします。時間が多少かかろうとと彼らの情報は出来うる限り回収します。―――私を捕らえたのが運の尽きだと思い知らせてあげますわ!」

 

 あのフィールドから転送する寸前に放ったレイヴェルとソーナの小型魔法陣は、どうやらマーキングの役目があったようだ。ギリギリの状況まで抜け目が無い。

 

 『禍の団(カオス・ブリゲード)』と『はぐれ』の魔法使い達は(あなど)っていた……。彼女は不死身のフェニックス―――。

 

 その精神まで不死の如く、強くなろうとしている事を―――。レイヴェルを捕まえた事が逆に裏目に出る事を、いずれ思い知らされるだろう……。

 

 暫くして、ライザーが駆け付けたりした。

 

「レイヴェル! 無事か⁉ こちらに来るのにだいぶ手間取ったが、眷属を率いて加勢に来たぞ……って、何⁉ も、もう終わっただと⁉」

 

 報告を受けてレイヴェルが心配だったようだ。ライザーは妹思いの良き兄でした(笑)

 

 

 ―――――――――――――

 

 

 吸血鬼の領域。そこにアザゼルは入国していた。ルーマニアに入ったアザゼル達は車を借りて、山の道無き道を進んでいた。舗装されていない道はデコボコなので車体が何度も跳ねる。しかも、道中は濃い霧に包まれていた。

 

 同情しているリアス達とは途中で別れる予定である。アザゼルはカーミラの所へ。リアスと祐斗はヴラディ家へ行く。そこまでは共に移動し、アザゼルはカーミラとの話し合いがついたら合流するらしい。

 

『イッセーや新達をこちらに呼ぶような(こじ)れた事態にならなきゃ良いが……』

 

 頭を悩ませていると、ルームミラーを覗くと考え事をしている様子のリアスが映り込んでいた。アザゼルは後部座席に座るリアスに話し掛ける。

 

「やっぱり、日本に残してきた彼氏が気になるか?」

 

「……気にならないと言えば嘘になるわ。彼……いえ、彼を愛する子達は私以上に大胆なアプローチをするものね」

 

「お前の旦那はこれからも波乱を呼び込みそうだな」

 

「覚悟しているわよ。でも、あのヒトを愛すると決めた以上、全て受け入れるわ」

 

 アザゼルのからかいに対し、リアスは平然と答えるだけだった。

 

「……あと15分ほどで吸血鬼側の現地スタッフと落ち合う場所に出そうですね」

 

 助手席に座る祐斗は地図を広げて、悪魔専用の方位磁石を見ていた。不意にリアスが訊いてくる。

 

「曹操はどうなったの? 昨日、何か連絡があったのでしょう?」

 

 リアスの言う通り、帝釈天(たいしゃくてん)から昨夜アザゼルに事後報告が届いた。

 

「英雄派の曹操、ゲオルク、レオナルド、神滅具(ロンギヌス)所有者は全員インドラが処罰したそうだが、インドラ(いわ)く、槍だけ没収して、ハーデスの所に送ったってよ」

 

 聖槍(せいそう)は三大勢力側に渡らず、絶霧(ディメンション・ロスト)魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)も帝釈天が所持しているだろう。体裁的には英雄派にトドメを刺したのはインドラと言う事になる。

 

 (みずか)ら英雄派に手を貸しておきながら最後まで利用した挙げ句、神滅具(ロンギヌス)を所持する口実も得た。

 

 『英雄派を処罰した帝釈天なら、一時的に神滅具(ロンギヌス)を持っていても仕方無いのか』と絶妙な言い訳を手に入れたので、アザゼルも文句を言いづらい雰囲気だ。

 

 一応、捕らえたヘラクレスとジャンヌから帝釈天との繋がりを聴取しているが……あざとい天帝(てんてい)に何処まで通じるのやら……。

 

「……異形の毒を目指した彼が冥府行きとは」

 

 祐斗はそう漏らしていた。アザゼルの脳裏に、曹操の事を語っていたインドラの声が(よみがえ)る。

 

『HAHAHA、あの坊主は何になりたいか、それをハッキリと決めずに動きまくったから、いけねェのさ。人間のまま強者を極めてェんなら、メデューサの眼なんかに頼らなければ良かったンだ。中途半端に英雄を(かた)ろうとしたから、裏目に出た。結果、あの眼が命取りになっちまった。笑えるだろう? 笑っとけ。あいつは最後で道化になった』

 

 確かにその通り。人間を貫き通せば聖槍も曹操の意思に答えて力を貸したであろう。聖槍に宿る『聖書の神の遺志』に『宿主の野望を叶えるぐらいなら、悪魔でドラゴンな赤龍帝(せきりゅうてい)闇皇(やみおう)の夢の方がマシ』と判断された。その時点で負けが確定したのだ。

 

『―――怪物退治すンのは、人間の英雄だ。人間を逸して俗物に転じたクソガキくんじゃ、どうしようもねェよ』 それに関してはその通りだが、新や一誠と同様に曹操には若さがあった。何者かになりたいと思うのも若さゆえの(あやま)ち。

 

『天帝さまよ、その若者に英雄願望を焚き付けたのはお前なんじゃないのか?』

 

 更に天帝は続けざまに通信でアザゼルにこう言った。

 

『ま、俺にしてみれば、悪魔なのにヒーロー騙ってる「おっぱいドラゴン」も「オッパイザー」も相当な道化だと思うけどよ? 悪魔が英雄やってどうするよ。悪魔は人間(だま)くらかして裏で支配すンのが本懐だろう? どんなキレイごと並べて生きてたってよ、アザ(ぼう)ンところの若手悪魔軍団も人間利用して生きる邪悪で陰湿な「悪魔」なンだぜ? 何処までいったって、ヒーローなんてもんには程遠い。―――ただのごっこだ』

 

 ……アザゼルは全部を否定しなかった。しかし、悪魔も冥界も変わろうとしている。旧体制の悪魔世界のままでは崩壊しかねなかった。

 

『……いや、英雄願望を焚き付ける、か。俺も同じ事をしているのか……』

 

 リアスが訊いてくる。

 

「帝釈天は何がしたいの? 曹操を泳がせ、ハーデスを間接的に(あお)り、各勢力に混乱をもたらした(いくさ)の神。アザゼルは真意を訊いたの?」

 

「ああ、奴は破壊の神シヴァの野郎に対抗できる人材が欲しいんだとさ。戦乱がより良い強者を作り出すと信じ込んでやがる」

 

 実際、それが何処まで本当かは分からない。……だが、シヴァに勝つ為なら帝釈天ことインドラは何でもするだろうとアザゼルは踏んでいた。

 

 そんな時、アザゼルのもとに通信用魔法陣が届き、耳元で自動で展開した。そこから一方的に連絡が入る。これは定期的な連絡で、後で本格的に相互連絡のやり取りをする。

 

 アザゼルは通信用魔法陣から入ってくる情報に耳を疑った。

 

『―――ッ! ……グレンデル……ルキフグスだと……? ……何だ、何が起こってやがる……? 日本でまたわけの分からねぇ事が起きたってのかよ! グレンデル⁉ 奴は既に滅んだぞ⁉ それに「禍の団(カオス・ブリゲード)」だと?』

 

 アザゼルの頭の中でグルグルと事柄が浮かんでいく。

 

 聖杯を得た吸血鬼、はぐれ魔法使い、再編中の『禍の団(カオス・ブリゲード)』、ヴァーリの調査先に現れる『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員、ルキフグスの生き残り、滅んだ筈の伝説のドラゴンが現世に現れた。

 

『……これらは全て繋がっているんじゃないか? あまりにタイミングが良すぎるだろう。必然として起こったとしか思えない……。全てが1本に繋がるとすると……これ程厄介極まりないものはない……ッ!』

 

 そして、ユーグリット・ルキフグス―――。アザゼルは以前、このルキフグスに関するデータを少しだけ閲覧した事があった。

 

 過去に起きた悪魔の内乱―――旧政府とサーゼクスをエースとした反政府側の内部抗争。その際に生死不明になった筈であるグレイフィアの実弟。それがユーグリット・ルキフグス。公式では死んだ事になっており、グレイフィア自身も弟は生きていないだろうと語っていた。

 

『そいつが生存していて、組織をまとめ上げた……? いや、それだけの能力があったとしてもならず者達を仕切るには―――イカレた連中どもの(かしら)を張るには足りないものがある』

 

 それは……カリスマ性―――。

 

 オーフィスほど高名でなくても、それに相応(ふさわ)しいボスの風格が必要である。

 

『生まれてからトップに立つ者の(かたわ)らで仕えるルキフグスだ。ユーグリットが新しい首領とは思えない。……黒幕は誰だ? この短期間に「禍の団(カオス・ブリゲード)」を纏めやがった中心人物はどいつだ……?』

 

 奪ったオーフィスの力から、新しいオーフィスを作った―――と言う事もあり得るが、そうだとしてもそれを操るだけの強固な存在が必要になる。強固な存在、それが今の黒幕。

 

 ハーデス、帝釈天……この2人はあり得ないだろう。

 

 前者は表立てば今度こそ主神ゼウスに追放されかねない。後者は怪しいが……インドラの目的はあくまで将来のシヴァ戦。両者は陰で暗躍していたとしてもテロリストの頭になるだけのメリットが感じられない。

 

 各陣営からの忌み者が集まり、各勢力から憎悪(ぞうお)(いだ)かれる『禍の団(カオス・ブリゲード)』―――。

 

 そのトップを張るのは傀儡(かいらい)と化す純粋な強者か、それとも常軌を逸した異常者か……。アザゼルはわだかまった思いをぶつけるように自身の膝を叩いた。

 

 『禍の団(カオス・ブリゲード)』―――。各勢力の現体制に不満を持つ(やから)が集まって生まれたテロリスト組織。

 

 実質的に動かしていた頭は何度も変わっている。旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブ、英雄派の曹操。オーフィスを失った今でも、まだ走り続ける―――。

 

 中身が幾度変わろうとも『禍の団(カオス・ブリゲード)』と言う存在そのものが、アザゼル達の前に立ち塞がっていく。何度叩いても組織自体は動き続ける―――。

 

 更には造魔(ゾーマ)の襲撃、ユナイト・クロノス・キリヒコ(ひき)いる『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』の登場。『禍の団(カオス・ブリゲード)』だけでは終わらない、凶悪無比な脅威―――。

 

「リアス、木場、厄介な事になりそうだ」

 

 アザゼルは先の見えない濃霧の中を車を進ませながら、2人に日本で起きた事。そして、これからの対応を話し始めたのだった―――。




次回は15巻編……といきたいところですが、もう少しだけ続きます!ちょっと書きたい場面がありますので。

現在放映中の仮面ライダーリバイス、バイスがもろジ○イアンでヤバイス(笑)

あと、仮面ライダーエビルのダークな感じと厨二成分を孕んだ変身音がクセになります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。