ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっと書けた……っ。気づけば5ヶ月経っていました……。これはイカン……っ。


グレモリー&シトリー VS 造魔(ゾーマ)幹部衆!

「そうだっ、僕とブラッドマンは顔合わせしてるから良いけどさぁ。他のヒト達はまだでしょ? せっかくなんだし、自己紹介しちゃえば~?」

 

「……そうですね。こうやって顔見せするのは初めてですので、まずは名乗るとしましょう」

 

 シドに(うなが)されて1歩前に出るのは―――軍服のような衣装に身を包み、腰に刀を(たずさ)えた女性。新達を見据えて名乗りを上げる。

 

「初めまして。私は造魔(ゾーマ)の『拾弐の魔凶(ツヴェルフ・テラーズ)』が1人、カグラ・イザヨイと申します。 以後、お見知り置きを」

 

 カグラ・イザヨイが簡素に名乗った直後、三國志のような鎧と兜を着込んだ異形も前に出てくる。

 

 右拳を左の(てのひら)で包む中国武術の礼儀作法―――抱拳礼(ほうけんれい)(おこな)ってから口を開く。

 

「我が名はスメラギ・リュウゲン。同じく造魔(ゾーマ)拾弐の魔凶(ツヴェルフ・テラーズ)』に属し、武の極みを(こころざ)す者だ」

 

 最後に漆黒の鎧武者が前に出て、高々と名乗りを上げる。

 

(それがし)牙鬼高虎之進斬月(きばおにたかとらのしんざんげつ)! 貴殿ら()しき魔の者どもに(けが)された日の本を救うべく、造魔(ゾーマ)(つか)()せ参じた者なり!」

 

 いきなり謂われようの無い言い掛かりを付けられた新達。ちなみに“日の本”と言うのは“日本”の美称である。

 

「お、俺達が日本を(けが)した? どういう事だ?」

 

 突然の難癖に当惑する一誠、他の皆もザワつく。そんな中、牙鬼斬月は握り拳をブルブルと震わせる。

 

「この期に及んで自覚無しとは許し(がた)い……っ! 貴殿らのような(やから)に由緒正しき日の本は毒され、軟弱な思想に(まみ)れた社会へと成り果ててしまった……っ! その悪行(あくぎょう)神仏(しんぶつ)が許しても(それがし)が許さん!」

 

「だから何なんだよ、その悪行ってのは?」

 

 新がそう突っ込むと……牙鬼斬月はビシッと指を突きつける。その指先はソーナに向けられていた。

 

「そこの女子(おなご)、音に聞くシトリー家の淑女(しゅくじょ)に相違ござらぬか?」

 

「ええ、ソーナ・シトリーは私ですが」

 

「まずは貴殿に物申す」

 

 一瞬流れる静寂……。刹那、牙鬼斬月は叫んだ。

 

「……何なのだっ、その破廉恥(はれんち)極まる装束はッッ!」

 

「…………え?」

 

 それは誰もが疑問符を浮かべる叫びだった……。キョトンとするソーナに対し、牙鬼斬月は語り続ける。

 

淑女(しゅくじょ)たる者が、そのように脚を見せるような(みだ)らな召し物を着て何とする⁉ 特に腰の布地! 明らかに短すぎるではないか! そのような物で日の本を(たぶら)かし、国民を(かどわ)かし、汚れた我欲に染め上げてきたのであろう! 何たる外道! 何たる破廉恥! 誇り高き日の本を“はいから”な異文化に染めおって……っ! それだけにあらず、異端な文化を取り入れて他国に媚び(へつら)い、わけの分からぬ食物(しょくもつ)と流行りものに(うつつ)を抜かすとは……! 何が“たぴおかみるくてぃー”だ! 何が“いんすた映え”だ! 日の本に生まれたならお茶を飲むべし! 煎茶、日本茶、緑茶、ほうじ茶、梅こぶ茶! 茶道は日の本を映す(かがみ)! その鑑を(けが)したのも貴殿らの差し金と見たぁっ! この牙鬼斬月が日の本に代わって成敗してくれる!」

 

『酷い濡れ衣だっっ!』

 

 新達は口々にそう叫んだ……。いつの間にか日本を汚した重罪人のように扱われている……。

 

 それでも牙鬼斬月の追及(?)は止まらない……。

 

「無論、貴殿だけではない。……そこの2人! 黒い召し物の女子(おなご)!」

 

「ん? 私か?」

 

「わ、私も?」

 

 突如、指名されたのは戦闘服姿のゼノヴィアとイリナ。牙鬼斬月は再び怒号を交えて語り出す。

 

「そこの女子(おなご)2人に至っては破廉恥どころではない! 何なのだっ、その装束は⁉ ただの薄い布地(ぬのじ)ではないか⁉ 体の線が浮き彫りになっていて、もはや変態としか言いようが無いぞ!」

 

「へ、変態⁉ 私達がっ⁉」

 

 牙鬼斬月のメチャクチャな暴論にビックリするイリナ。ゼノヴィアは自身の戦闘服を見て、牙鬼斬月に視線を移し直す。

 

「変態と言われるのは心外だな。これは教会から支給された正規の戦闘服だ。何処が破廉恥なんだ? ……いや、これを着ると下着が穿()けないからな。その点だけがネックか」

 

 ゼノヴィアの発言に牙鬼斬月は再び衝撃を受け、ワナワナと震え始める。

 

「―――ッッ! 何だと……? 下穿(したば)きを着けてない……っ⁉ 日の本の女子(おなご)は……大和撫子(やまとなでしこ)の誇りと魂を捨てたと言うのか……っ⁉ おのれ、既にそこまで貴殿らの悪行が日の本を(むしば)んでいたのか……っっ! もはや成敗など生ぬるい! 神魔必滅(しんまひつめつ)見敵必殺(けんてきひっさつ)ッ! 我が天下五剣(てんがごけん)にて、貴殿らを魂ごと斬り伏せてくれるわァァァァァァァァァッ!」

 

 牙鬼斬月から鬼気迫るオーラが放出され、その場の空気が震撼するが……憤慨の理由があまりにも理不尽とも言えるので、新達は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

 

 怒り心頭の牙鬼斬月に対し、シドはカラカラと笑う。

 

「斬月ってさぁ、今どき珍しいと言うか……感性が古いよねぇ(笑)」

 

 そう言いながら両手に赤い紋様と青い紋様を浮かび上がらせ、円を描くように回す。

 

「マックス大・変・身っ!」

 

 渾然一体(こんぜんいったい)となった魔法陣を(くぐ)り、シドが戦闘形態―――『赫と蒼の連撃闘帝(パーフェクト・フォーム)』へと姿を変える。

 

 シドが変貌したのを皮切りに、女性剣士カグラも鞘から刀を抜き、武人スメラギも空を斬るように拳を振るって静かに構えを取る。

 

 斬月は相変わらず勘違いした怒りを(たぎ)らせ、ブラッドマンも新達を見据える。

 

 戦意に満ちた雰囲気が渦巻く中、ソーナが通信を介して告げてきた。

 

「―――では、見せようではありませんか。若手悪魔の力を―――。駒王学園の悪魔を敵に回した事を後悔させてあげましょう」

 

 迫力ある宣言を聞いて、まずはゼノヴィアが飛び出す!

 

 エクス・デュランダルを大振りに振るって聖なるオーラを飛ばし、中衛のロスヴァイセも魔術のフルバーストを撃ち放った。ゼノヴィアとロスヴァイセの連携攻撃に対して造魔(ゾーマ)の陣営は―――。

 

One(ワン)Two(ツー)Three(スリー)Four(フォー)Five(ファイブ)Six(シックス)Seven(セブン)Eight(エイト)Nine(ナイン)Ten(テン)‼』

 

Tenth(テンス) Combo(コンボ)!!!!』

 

 シドが手に持ったハンドサイズの斧―――パラドクス・アックスを銃に変形させ、柄頭を連打する。銃口から青い魔弾が放たれ―――十方向に分散。ロスヴァイセが撃ち放った魔術砲撃の四分の一を相殺(そうさい)した。

 

「術式展開―――竜爪拳(りゅうそうけん)羅針(らしん)の陣……!」

 

 次にスメラギが力強く足を踏み鳴らして構えると……足元から竜の爪のような紋様が広がり、闘気が高められる。向かってきた聖なるオーラを両手の爪を振るう事で引き裂き、霧散させた。

 

十六夜流(いざよいりゅう)剣術、蝶の型―――羽刃斬(はばたき)

 

 カグラは蝶の羽を描くように、手に持った刀を振り回し―――自身に向かってきた魔術の砲撃を全て切り裂く。その姿と刀さばきは敵ながら優雅で流麗なものだった。

 

Blood(ブラッド) Tuning(チューニング) Fang(ファング) Spider(スパイダー)……‼』

 

 最後にブラッドマンからおどろおどろしい音声が鳴り……先程と同じ黒いモヤが背中から噴き出してくる。生物のように(うごめ)き、ブラッドマンの右腕にまとわり付く。すると―――ブラッドマンの右腕は巨大な蜘蛛が張り付いたような禍々(まがまが)しい武器と化した。

 

 ブラッドマンが蜘蛛の形をした凶刃を振るい、残りの魔術砲撃を一閃。ゼノヴィアとロスヴァイセの先制攻撃は雲散霧消(うんさんむしょう)となった。

 

 吹き(すさ)ぶ爆風が止み、造魔(ゾーマ)陣営の姿が見えてくる。

 

「……予想はしていたが、ここまで軽くあしらわれるとはな」

 

 舌打ちする新。他のメンバーも先程の攻撃を見ても冷や汗を流す。それでも、この戦闘は避けられない……。新が通信を介してソーナに言う。

 

「ソーナ、俺だけ作戦から除外させてくれ。単体で止めなきゃいけない相手がいるんだ」

 

『新くん、あなた独りでは荷が重すぎるのでは……? せめて誰か1人でも味方を―――』

 

「いや、広範囲攻撃で巻き込まれたら厄介だ。集中させてくれ。あの中で一番ヤバそうなのは―――死神だ」

 

 新の進言にソーナは(しば)し考え、答える。

 

『……分かりました。死神は新くんに任せましょう。けれど、決して無理はしないでください。私達の目的はあくまでレイヴェルさん達を取り戻す事です』

 

「ああ、分かってる。そっちも気を付けてくれ」

 

 新はそう告げた直後、闇皇(やみおう)の鎧を展開し―――ブラッドマンに狙いを定めて飛び出していった。手元に剣を出現させ、ブラッドマンに斬りかかる。

 

 ブラッドマンは右腕の凶刃で難無く防ぐ。それと同時に両陣営も戦いの火蓋を切った。新はブラッドマンを一誠達から遠ざけるように攻め込んでいく。

 

 ブラッドマンは全身から危険なオーラを滲ませながら、新の剣戟を防いでいく。一見すると新が優勢に思えるだろうが……実は違う。攻撃を加える毎に新の周囲がブラッドマンから発する黒いモヤに覆われていく。

 

『この黒い霧……まるで『初代キング』の闇みたいな感覚だ……。俺の体にまとわりついて、内外から(むしば)もうとしてきやがる……っ』

 

 ブラッドマンから発せられる黒い霧に、新の体が端々からダメージを受けていく。肉が傷み、骨が軋み、内臓や血管が悲鳴を上げる……。まだ数分も経たない内に鼻血が出て、口から血の塊を吐き出す。

 

 それでも新はブラッドマンを止める事に集中力を(つい)やす。ブラッドマンは感心するかのように言う。

 

「ほう、我が体から発せられる“黄泉(よみ)瘴気(しょうき)”を受けてもその程度か。悪魔と言えど、並大抵の者ならば浴びるだけで死に至るモノぞ」

 

生憎(あいにく)、俺は並の悪魔じゃないんでね。それに似たような物を受けた事があるから、少しばかり耐性も付いちまったのさ……!」

 

「それは結構な話だ。では、存分に我が力を振るわせてもらおうぞ!」

 

 ブラッドマンの右腕が黒い霧状に変化し、凶刃を伸ばして攻撃を仕掛けてくる。新は直ぐに飛び退いて回避。しかし、凶刃は蛇のようにしつこく追い回してくる。

 

 新はブラッドマンの凶刃を(かわ)したり、剣で(はじ)いて(しの)ぎつつ、ブラッドマン自身に火竜を撃ち放つ。火竜がブラッドマンの顔に直撃するが……被弾した部分が霧状に変化し、火竜の攻撃は素通りしてしまう。

 

 顔の一部が削られたが、ブラッドマンは平然としている。その姿に新は戦慄を覚える。

 

「残念だが、我が肉体は“黄泉の瘴気”で構成されている。生半可な攻撃など効かない。(ゆえ)に死神―――黄泉の国の番人だ」

 

 ブラッドマンが左手を地に付けると、体から発せられる“黄泉の瘴気”が地に溶けるように行き渡っていく。徐々に範囲を拡げ、新の周りを囲んでいき―――噴き出す!

 

 オオォォォォォォォォォォォォォオオオン……ッ!

 

 そこから噴き出してきたのは(おびただ)しい数の骸骨……! 人骨や魔獣、ありとあらゆる生物の(むくろ)が新の眼前に現れる……!

 

「マジかよ……⁉」

 

「俺は死神、死した者を()び寄せる。死とは森羅万象(しんらばんしょう)、生きとし生けるもの全てを支配する不変の真理。死神は眼前の咎人(とがびと)に対して、“生きるべきか、死ぬべきか”―――その真理を問う。この言葉はウィリアム・シェイクスピア作、『ハムレット』の第3幕第1場に出てくる有名な台詞だったか」

 

「死神が戯曲(ぎきょく)を語る、か。こんな状況じゃなかったら良かったんだけどな……」

 

 ブラッドマンが左手を前に掲げた刹那、人骨・魔獣を問わない骸の群れが―――怨嗟(えんさ)の声を上げて新に向かっていった。

 

 新とブラッドマンの戦いを遠目から確認した一誠は、ブラッドマンの異様な強さと能力に思わず生唾を飲み込む。

 

『あれが死神ってヤツの力か……⁉ おっかねぇ!』

 

「イッセー先輩、ヒトの心配してる場合なのかな~?」

 

 シドが武器の形態を斧に変形させ、一誠に斬りかかっていく。一誠はシドの攻撃を回避しつつ牽制のドラゴンショットを何度も撃つが、全てシドに防がれてしまう。

 

 撃っては逃げ、撃っては逃げての繰り返し。そんな攻防が続いているとシドが不満げに告げてくる。

 

「ねえ、イッセー先輩。やる気あるの? さっきからショボい攻撃ばっかしてさぁ、そんなので僕に勝てると思ってるの?」

 

「今回はお前に構ってる暇は無いんだよ! 仲間を助けに行かなきゃならねぇんだ!」

 

 この後に控えているであろう敵に備えるべく、ここで力を無駄遣いするわけにはいかない。しかし、相手は造魔(ゾーマ)……そう簡単に突破できないのも事実。シドはそんな一誠の戦い方を嘲笑う。

 

「あ~、縛りプレイってヤツ? お友達を助ける為とか、健気だよね~。でもさぁ、それって自分の実力に自信のあるヒトがやってこそだよ? イッセー先輩にそんな実力あるのぉ? 僕にも勝てないくせにさぁ!」

 

 そう言いながらシドは錬成能力を発動し、2枚の強化メダルを錬成。手持ちの武器を銃に変形させた後―――強化メダルを投入する。

 

Kakusan(拡散) Energy(エナジー)‼』

 

Tsuibi(追尾) Energy(エナジー)‼』

 

「追跡、撲滅、いずれも~っ、マッハってね!」

 

 シドは銃口を宙に向けて魔弾を発射。撃ち上げられた魔弾は一拍置いて数十の魔弾に分散、その全てが一誠を追い掛けるように降り注いでいく。

 

 一誠は背中のブーストを噴かして回避しようとするが、魔弾の群れは意思を持ったかの如く執拗に追跡してくる。更に武器を再び斧に変形させたシドが、赤いオーラの斬撃を何度も放つ。

 

 前方からは斬撃、後方からは魔弾の群れ。普通ならば、この時点でほぼ詰みだろう……。しかし、一誠は速度を上げて斬撃に突っ込んでいく。

 

 乱雑に放たれた斬撃を、身を(よじ)って掻い潜り―――シドの眼前にまで迫る。シドは嬉々として斧に赤いオーラを蓄積させ、一誠に目掛けて振り下ろす……!

 

 その寸前、一誠は急激に方向転換。横に飛ぶようにシドの斧を回避。しかも……シドの視界には先程自分が撃ち放った魔弾の群れが……。

 

「―――っ⁉」

 

 標的を急に失った魔弾の群れは方向転換が間に合わず、全弾漏れる事無くシドに突っ込んでいく。突然の事態に一瞬驚いたシドは、咄嗟にバリアを展開。魔弾の群れを防いだものの―――。

 

「こっちだ、バカ野郎!」

 

 爆煙に紛れて背後に回っていた一誠が、シドの顔面に拳を打ち付ける。続けざまに左の拳打を叩き込み、その勢いを利用した蹴りでシドの斧を弾き飛ばす。更に至近距離からドラゴンショットを撃つ。

 

 ドラゴンショットに呑み込まれるシドだが、直ぐに赤いオーラを爆発させてドラゴンショットを斧で切り裂く。体からプスプスと黒煙を上げても、体勢を崩さないシド。

 

「へえ~、通常の禁手(バランス・ブレイカー)なのにやるねぇ」

 

「当たり前だっ、こっちだって毎日毎日トレーニングを重ねてんだよ! お前らみたいな戦闘狂どもに負けない為になぁ!」

 

「ホント健気だよね~。そんなに頑張っちゃってさぁ。そこまで必死になってるなら……僕もイッセー先輩のやり方に乗ってあげちゃおっかな」

 

 シドは手に持っていた武器をしまい、左手に蒼いオーラ、右手に赤いオーラを集束させる。一誠が「何のつもりだ?」と訊くと、シドはニヒヒッと笑って答えた。

 

「僕も縛りプレイしてあげるよ。武器も強化メダルの錬成も使わない。地力(じりき)で相手してあげるよ」

 

「……っ! 本当にムカつくよな、お前って!」

 

「お互いに制限付きでプレイしなきゃ、フェアじゃないでしょ?」

 

「ああ、そうかい。後悔すんなよっ!」

 

 赤龍帝(イッセー)連撃闘帝(シド)の拳が激突し、極大の衝撃波が巻き起こった―――。

 

 

 ―――――――――――

 

 

「はぁ……はぁ……っ、くそっ!」

 

 疲弊した様子で舌打ちする匙。近くにいる仁村と由良も苦い表情をしていた。彼らを苦戦させているのは―――武人スメラギ・リュウゲン。

 

「フン、五大龍王(ごだいりゅうおう)神器(セイクリッド・ギア)を有する者と聞いていたが……この程度とは。片腹(かたはら)どころか両腹(りょうはら)痛いな」

 

 スメラギが嘆息しながら毒づく。匙は解呪(かいじゅ)が難しい黒い炎―――『邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)』を放つ。更に四方から黒い炎が出現して、壁のようにスメラギを囲んでいく。

 

 ヴリトラ系神器(セイクリッド・ギア)の1つ、『龍の牢獄(シャドウ・プリズン)』―――。その中ではヴリトラの呪いの炎が渦巻き、動きを封じられる。

 

 炎の熱が徐々に捕縛した者を苦しめ、更にそこに『漆黒の領域(デリート・フィールド)』も付加されて、相手の力を削ぎ落としていく。更に匙は『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』を幾重にも飛ばして、黒炎の牢獄に捕らえたスメラギに繋げようとするが……。

 

「無駄だ」

 

 牢獄の中から一言聞こえた刹那、黒炎の牢獄が内側から切り裂かれ―――スメラギが姿を現す。体に焦げ目こそ付いているが、目立ったダメージは無し。飛んできた複数のラインも闘気を溜めた両手で切り裂く。

 

 その手はまるで本物の竜の爪の如し……。

 

「何なんだよ、こいつ……っ! 俺の黒炎をあんな簡単に切り裂くなんて……っ!」

 

竜爪拳(りゅうそうけん)―――それは文字通り、竜の爪を形にした拳法。我が手は竜の爪と同じ。空を切り、大地を(えぐ)り、肉も骨も断ち、魔獣の頭蓋骨(ずがいこつ)さえも卵の如く握り潰せる」

 

 スメラギは全身に闘気を巡らせ、竜の爪に見立てた両手を構える。

 

竜爪拳(りゅうそうけん)空式(くうしき)―――烈空閃(れっくうせん)ッッ!」

 

 スメラギがその場で闘気を纏わせた拳を何度も打つと、幾重もの衝撃波が飛んでいく。匙は前方に炎の壁を出し、由良も人工神器(セイクリッド・ギア)―――『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』を輝かせ、巨大な光の盾を作り上げる。

 

 しかし、黒炎の壁と光の盾に拳打の痕が無数に刻まれ……凄まじい拳圧(けんあつ)によって容易(たやす)く破壊され、後方に吹き飛ばされてしまう。

 

 悠々と歩みを進めるスメラギ。

 

「我が竜爪拳(りゅうそうけん)に掛かれば、大気をも拳と化す。お前達のような未熟者に防げはしない」

 

「―――っ! 未熟者だと……っ? 俺達の事を言ってんのか⁉」

 

「正確には五大龍王の神器(セイクリッド・ギア)を宿す“お前”が未熟者だ。(おのれ)と力を一体化できておらず、ただ複数の神器(セイクリッド・ギア)を寄せ集め、それに頼りきっているだけに過ぎん。仮にもドラゴンの名を冠する神器(セイクリッド・ギア)を有した身ならば、それに恥じない実力を身に付けるべきだ」

 

 スメラギの力強い物言いに匙は何も言い返せず、痛めた体に鞭を打って立ち上がろうとする。再び『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』を飛ばしてスメラギを捕縛しようとするも、逆に掴まれ―――全てのラインを引き千切られてしまう。

 

 それでも攻撃の手を緩めず、『邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)』と『龍の牢獄(シャドウ・プリズン)』でスメラギの行く手を阻もうとする。

 

 スメラギは「何度やろうと無駄だ」と言いつつ、竜の爪と化した手で匙の放った黒炎を掻き消す。しかし、この黒炎はあくまで囮―――。由良と仁村がスメラギの両サイドから攻め入ろうとしていた。

 

 仁村は脚甲(きゃっこう)型の人工神器(セイクリッド・ギア)―――『玉兎と嫦娥(プロセラルム・ファントム)』を展開した蹴りを、由良は『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』から炎と雷を噴出させ、ヨーヨーの如く回転させながら放った。

 

 眼前の匙に集中させ、死角となる両サイドからの挟撃。これならば一矢(いっし)(むく)いる事も出来るだろう。そう思った矢先―――。

 

 ボゴッ!

 

 スメラギの両肩から“何か”が勢い良く飛び出し、仁村と由良の挟撃を防いだ。スメラギの両肩から出現したのは―――なんとドラゴンの頭部……っ!

 

 右肩から伸びた紅いドラゴンが仁村の蹴りを止め、左肩から伸びた蒼いドラゴンの首が由良の放った盾を弾き返す。突然出てきたドラゴンの首に匙達は驚きを隠せなかった。

 

「な、何だ、ありゃ⁉ ドラゴンの頭……っ⁉ しかも、それぞれ別の動きをしてんのか⁉」

 

「我が両肩に巣食う蒼竜(そうりゅう)紅竜(こうりゅう)、この2つは“ある男”を倒すべく後天的に手に入れた神器(セイクリッド・ギア)―――『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』とやらを亜種(あしゅ)に昇華させた物だ。無論、己の意思もある」

 

 仁村が紅竜の牙から逃れて体勢を立て直す。スメラギの両肩から伸びる蒼竜と紅竜が匙達に敵意の視線を向ける。

 

「私は(かつ)て“ある男”に破れた。ただの1度も負けた事が無い私に完璧な敗北を与えた。そして、私は誓ったのだ。(おのれ)の納得がいく強さに達するまで、2度と敗北の二文字を背負わない―――と。その為に私は造魔(ゾーマ)に入り、己の技を錬磨(れんま)し続けた。竜爪拳(りゅうそうけん)に磨きを掛け、ありふれた神器(セイクリッド・ギア)たる『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』を亜種へと進化させた。今やこの2つは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』にあらず」

 

 スメラギが両手を宙に泳がせると、蒼竜と紅竜も同じように頭身をくねらせ、主のスメラギと共に流麗な円舞を披露する。その洗練された動作に匙達は言葉を失う。

 

「左肩の蒼竜は―――『蒼竜の左頭(トゥワイス・ブルー)』。右肩の紅竜は―――『紅竜の右頭(トゥワイス・クリムゾン)』。それぞれが意思を持つドラゴンであり、我が手足も同然。これが己と力を一体化させた神器(セイクリッド・ギア)の姿だ」

 

 これこそ、スメラギが“双竜(そうりゅう)の武人”と呼ばれる所以(ゆえん)である。自身の両肩に巣食うドラゴンの首はそれぞれが意思を持ち、異なる動きも容易にこなす事が出来る。

 

 つまり、スメラギを相手にするには当人だけでなく、この2体のドラゴンとも同時に戦わなければならないと言う事……。

 

「ただでさえ強いのに、ドラゴン2体って……っ」

 

「これが造魔(ゾーマ)の幹部なのか……っ」

 

 仁村と由良は萎縮してしまい、匙もスメラギの規格外の強さに震えが止まらなくなる。それでもスメラギは微塵の猶予も与えない。

 

「悔やむが良い。己の未熟さ、我々に牙を剥いた浅はかさを。兵器に頼れきればヒトは(おとろ)え、力無き者は消え去るのが世の道理だ。それを理解しない(やから)に―――我が竜爪拳(りゅうそうけん)は砕けやしないっ!」

 

 スメラギの力強い言葉と共に、両肩のドラゴンが吼える―――。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

「由緒ある日の本を(けが)した罪、我が天下五剣(てんがごけん)にて成敗してくれるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「だから、汚してないってば! もうっ、全く話が通じないわ! まるで昔のゼノヴィアみたいなヒトね!」

 

「おい、イリナ。それは心外だぞ。私だってたまには冷静になる時もある」

 

「あのっ、今そんな口論してる場合じゃないと思うんですけど⁉」

 

 ゼノヴィア、イリナ、(めぐり)が相手にしているのは天下五剣を操る鎧武者―――牙鬼斬月(きばおにざんげつ)。やはり、ゼノヴィア達を日本の怨敵(おんてき)認識(勘違い)しており、傍迷惑(はためいわく)な怒号を撒き散らしていた。斬月は両腕を頭上に掲げる。

 

天下五剣(てんがごけん)、壱の太刀―――鬼斬(おにきり)ィィィィィィィィィィッッ!」

 

 交差させるように両腕を振り下ろすと、X型の斬撃がゼノヴィア達に向かっていく。その威力は凄まじく、斬撃の余波だけで床や壁まで(えぐ)り取る勢いだった。

 

 唯一の救いは斬撃の軌道が直線的なので、回避しやすいと言う点だ。それでも斬撃の余波が皮膚を切り裂こうとするが……直撃するよりはマシだろう。

 

 ゼノヴィア、イリナ、巡もそれぞれの得物を構えて斬月に斬りかかっていく。斬月は刀と化した両腕で応戦する。左腕で巡の刀を受け止め、右腕でイリナの量産型聖魔剣を防ぐ。残るゼノヴィアのエクス・デュランダルは―――兜で受け止めた。

 

 斬月の足が床にめり込むものの、堅牢な兜にデュランダルが阻まれる。

 

「く……っ! なんて硬さだ! 破壊と天閃(てんせん)も上乗せしているのに……っ!」

 

愚問(ぐもん)っ! 日の本を汚した不義な貴殿らの剣では、我が身体(からだ)に傷を付ける事など出来ぬわぁっ! 天下五剣(てんがごけん)(さん)の太刀―――三日月(みかづき)ィィィィィィィィィィッッ!」

 

 刀と化した斬月の両腕が鈍い輝きを発した刹那、無数の小さな斬撃が縦横無尽に飛び出す。周囲を飛び交う幾重もの斬撃にゼノヴィア達は身を(ひるがえ)して避け、何とか直撃だけは(まぬが)れた。

 

 距離を取って着地する3人だが、斬撃を(かわ)すだけでも手一杯だった。斬月は刀剣状態の両腕を打ち付け合って火花を散らし、その切っ先をゼノヴィア達に向ける。

 

(それがし)の目が黒い内は、貴殿ら()しき(やから)の好き勝手にはさせぬぅっ! 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)悪鬼滅殺(あっきめっさつ)! 日の本を破廉恥な異文化に染め上げた事を懺悔(ざんげ)し、悔い改めよっ!」

 

 斬月がそう叫ぶと、先程放たれた無数の三日月型の斬撃が意思を持つかのように宙を自在に動き回る。ゼノヴィアがそれらを斬ろうとするが……全て避けられてしまう。トリッキーな攻撃はゼノヴィアが苦手なタイプだ。

 

 すると、ゼノヴィアにソーナの指示が届く。

 

『ゼノヴィアさん、支配の力を使いなさい』

 

「だが、会長。私は支配の能力を上手く発動できない。それに相手は造魔(ゾーマ)の幹部だ。操ろうにも操れないぞ?」

 

『いいえ、違います。支配とは、何も生物を操れば良いと言うわけでもありません』

 

 縦横無尽に動き回る斬撃に襲い掛かられそうなゼノヴィアにソーナは強く言う。

 

『ゼノヴィアさん! その放たれた斬撃に支配の能力を向けなさい! 強く念じるのです。斬撃を止めたい―――と! 私の考えが当たっていれば、あなたの剣はもうひと段階、様相を変えます!』

 

「―――ッ!」

 

 ゼノヴィアはソーナからの指示通り、顔を難しくして、何かに集中し始めた。すると、デュランダルがそれに呼応するように光り輝く!

 

 次の瞬間にはゼノヴィアに向かっていた斬撃の群れが直撃を止めて、その場に(とど)まりだした。支配の聖剣の力なのか、斬撃を支配して止めた!

 

「な……っ! (それがし)の三日月を止めた⁉」

 

 その結果に斬月は勿論、ゼノヴィア本人も驚いていた。

 

「……支配の力にこんな応用が……会長、どういう事だ?」

 

『やはり、そうでしたか。恐らく、その聖剣で支配できるものは何も生物だけではないようですよ。今は斬撃を少しだけ操りましたが、それだけではありません。やりようによっては、如何なる現象をも支配できる筈です。それが難しいと言うのなら、せめて敵の攻撃を操ろうと思いなさい。または味方の攻撃が外れた時にフォローするのも良いでしょう』

 

「……その力で敵の攻撃を乱し、仲間のオフェンスを支えれば良いのか」

 

『そうです。能力をまっすぐ見るのも良いでしょう。しかし、やりようによっては多様な使い方も出てきます。今の支配の力もその一例です』

 

 戦いながらもソーナは新たな手法まで開発してくれる。造魔(ゾーマ)と言う強大な敵がいる戦場の中でも、怯まず頭の中で様々な局面を描いているのだろう。

 

 ゼノヴィアは支配の力で止めた斬撃の群れを全て斬り払い、霧散させた。その所業に斬月は怒気を孕ませたオーラを発する。

 

「日の本を異文化に汚した悪魔が聖剣を使うとは……っ。由々(ゆゆ)しき事態が起こり過ぎている。だが、我が天下五剣(てんがごけん)は決して砕けぬ覚悟の(つるぎ)。貴殿らの(よこしま)な思想などに負けるつもりは毛ほどもござらんッ!」

 

「まだ言うのか、この堅物頭(かたぶつあたま)は」

 

「ゼノヴィア、あなたも少し前まで似たような感じだったのよ?」

 

 ――――――――――――

 

 

「会長や後衛陣をやらせないわ」

 

 『僧侶(ビショップ)』の花戒桃(はなかいもも)が両腕に腕輪を出現させ、青色の力強い結界で後衛のソーナ達を覆った。

 

 結界系人工神器(セイクリッド・ギア)―――『刹那の絶園(アブローズ・ウォール)』。以前よりも力を増しているようだった。更に同じく『僧侶(ビショップ)』の草下憐耶(くさかれや)が展開する仮面型の人工神器(セイクリッド・ギア)―――『怪人達の仮面舞踏会(スカウティング・ペルソナ)』も周囲を(ただよ)い、守りの態勢を整えている。

 

 造魔(ゾーマ)の女性剣士カグラは何度も剣戟を見舞うが、草下の仮面群と花戒の強固な結界に阻まれる。

 

「さすがに硬いですね。ならば―――」

 

 カグラは刀を鞘に収め、静かながらも迫力あるオーラを滲み出させる。

 

十六夜(いざよい)流剣術、蜻蛉(せいれい)の型―――飛翔旋風(ひしょうつむじ)

 

 上方に向けて抜刀した直後、刀から大きな斬撃が放たれ、後衛陣に向かって急転回。更に幾重もの細かな斬撃へと分かれて降り注いでいく。如何に強固な結界と言えど、絶え間無く斬撃が降り続ければ(いず)れ破られるだろう。

 

「あらあら、そうはさせませんわ」

 

 不敵な笑いをしながら、朱乃は降ってくる斬撃の群れに向けて魔力を撃ち放つ―――。

 

 すると、東洋の龍の形をした雷光が激しい稲光(いなびかり)と炸裂音を発生させ、降り注いできた斬撃を全て飲み込んでいく!

 

 指をバチバチ鳴らしながら微笑みを浮かべる朱乃。背中に生やすのは6枚の堕天使の翼。魔術文字が刻まれた黄金の腕輪を両腕に装着していた。

 

「―――雷光龍(らいこうりゅう)。新さんの気をこの身で受け続けていたら、このような特殊な技が出来るようになりましたわ」

 

「やりますね。では、これならどうです?」

 

 カグラは先程と同じく刀を振るって斬撃を放った。ただし、今度は1つで威力に特化させた斬撃。直撃はまずいだろう。

 

 しかし、その心配も杞憂に終わる。朱乃は防御―――魔法を展開して斬撃を防ぐ。しかも、それは魔力による魔法陣ではなく、魔法の紋様と文字が描かれた魔法陣だった。

 

「うふふ、ロスヴァイセさん直伝の防御術式ですわ。『戦車(ルーク)』の特性はこれで強化します」

 

 どうやらロスヴァイセと同じように『戦車(ルーク)』の特性を防御魔法で(おぎな)っていたようだ。通常、『戦車(ルーク)』の悪魔は普段から防御魔力や魔法などで自身の特性を高めている。

 

 朱乃は攻撃魔力の方に長けていた為、今まで強敵との戦いでは防御面で劣勢を()いられてきた。朱乃は『戦車(ルーク)』の特性が苦手で、防御面で不利な事が多かった。

 

 しかし、強敵との戦いが多い為、苦手な部分も克服するべく朱乃は防御型の魔法で強化を図った。つまり、防御魔力のイメージ不足を魔法の術式で補ったのだ。

 

「では、今度はこちらから参りますわ!」

 

 朱乃は炎と氷の魔力を用いて、カグラに攻撃を仕掛けた。その際、炎も氷も龍の形をしており、先程の雷光龍(らいこうりゅう)と同じく意思を持つかのようにうねりながらカグラに向かっていく。

 

 炎と氷の龍が迫り来る中、カグラは握っている刀を逆手に持ち替えて構えた。

 

十六夜(いざよい)流剣術、螳螂(とうろう)の型―――六道(ろくどう)鎌切(かまきり)

 

 逆手に持ち替えた刀を横薙ぎに振るうと、三筋(さんすじ)剣閃(けんせん)が炎と氷の龍を切り裂き―――更に返す勢いで振り下ろすと、再び三筋の剣閃が発生。炎と氷の龍が纏めて切り裂かれる。

 

 合計六筋(ろくすじ)の剣閃が、朱乃の放った炎と氷の龍を(またた)く間に細切れへと変えた。炎と氷の龍が霧散し、カグラが刀を逆手から順手に持ち直す。

 

「情報以上の能力を持っているようですね。特に先程の……雷光龍と言いましたか。それに炎と氷の龍も……」

 

 カグラの視線がブラッドマンと戦い続ける新に移る。

 

『彼女が放った龍は元々彼女の能力ではなく、竜崎新―――彼の影響によって生まれた産物。ドラゴン……ドラゴン……っ』

 

 カグラの視線が新に集中し始め、その目付きが次第に鋭さを増していく。それも……何やら(いきどお)りを(はら)んだかのような視線……。

 

『竜崎新……彼の力もドラゴン……。あの様相、あの波長……。今ここで仕留めるべきかもしれませんね……ッ!』

 

 カグラはグレモリー&シトリーの後衛陣との戦闘を中断、その場を駆け出す。狙いは無論、ブラッドマンと交戦中の新……っ。

 

「―――っ! あの人、新さんを狙って……っ? そうはさせないわっ!」

 

「あなたの相手は私達です!」

 

 朱乃は直ぐに複数の雷光龍を撃ち放ち、更にロスヴァイセも幾重もの魔術砲撃を繰り出した!

 

 迫り来る雷光龍の群れと魔術砲撃に対し、カグラは走りながら刀を水平に掲げた。

 

十六夜(いざよい)流剣術、蜈蚣(ごこう)の型―――百足舞踊剣舞(ひゃくそくぶようけんぶ)ッ!」

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 地を(えぐ)る程の強い踏み込みが幾度も響き渡り、カグラの姿が度々ブレる。四方八方に跳び交うカグラは(かわ)しながら雷光龍と魔術砲撃を刀で斬り払っていく。

 

 朱乃とロスヴァイセの同時攻撃を全く意に介さず、ブラッドマンと交戦中の新を狙うべく突き進み―――遂に剣戟の範囲内に(とら)えた。新はブラッドマンの猛攻を(しの)ぐのに精一杯で、カグラの接近に気付いていない……!

 

「こんな形で申し訳ありませんが……あなたの首、落とさせていただきますっ!」

 

「―――っ! 新さんっ!」

 

 朱乃の叫びにようやく気付いた新だが、カグラの振るった刀が既に首元まで迫っていた……!

 

 “首を斬られる……!” 新も他の誰もがそう思った刹那、カグラの刀が突然何かに阻まれる!

 

 カグラの刀を止めたのは、蜘蛛の形をした凶刃……。つまり―――。

 

「―――っ⁉ ブラッドマン……⁉ 何故止めるのですか⁉」

 

 カグラが驚いた表情でそう叫ぶ。その言葉通り、カグラの刀を防いだのは……なんと同じ造魔(ゾーマ)―――味方である筈のブラッドマンだった……!

 

 ブラッドマンの不可解な行動に造魔(ゾーマ)の他の面子(めんつ)も度肝を抜かれた。ブラッドマンはそのままカグラの刀を弾き返して、カグラの方に視線を移す。

 

「カグラ、お前こそどうした? 何故いきなり()の者を狙った?」

 

「私の質問に答えるのが先です! 何故あなたが敵である筈の彼を庇うのですか⁉ しかも、今まさに交戦中だと言うのに!」

 

「その質問に対する答えはこうだ。―――この男は、この場で殺すべきではない。死神として、そう判断したまでだ」

 

 意味深な言葉を並び立てるブラッドマンに対して、カグラは苛立ちを見せる。

 

「ブラッドマン、あなたの言動は前々から理解に苦しむものばかりでした。仕留めるべき敵を敢えて見逃したり、脅威になり得そうもない者を(ほうむ)ったりと……。死神と呼ばれ恐れられているあなたが、何を選り好みしているのですか⁉」

 

「俺は目の前にいる者が生きるべきか死ぬべきか判断し、その命に審判を下しているまでだ。死神とは文字通り、『死』を(つかさど)り導く者。『死』とは誰しも迎える、(あらが)えぬ運命(さだめ)。その(ことわり)(もと)づき、俺は死神としての責務を(まっと)うしているだけに過ぎない。手前勝手(てまえがって)に命を終わらせるものは死神にあらず」

 

 全く動じず己の意を押し通すブラッドマン。カグラは今すぐにでもヤツを断罪したいのだろうが……相手は死神。そう易々(やすやす)と事を運べる相手ではない。

 

 次にブラッドマンは左手から黒い霧を放ち、周辺に転がっている魔法使い達の死体を包み込む。(しばら)くすると魔法使い達の死体が消え、ブラッドマンが語り始める。

 

「この者達の言葉を借りて、死神が伝えよう。『この先にあんた達の後輩と、今回の襲撃のリーダーがいる。さっさと行けよ。ただし、赤龍帝、闇皇、ヴリトラ、デュランダル使い、雷光(らいこう)巫女(みこ)、癒しの聖女、ヴァルキリー、ミカエルのA(エース)だけは確実に来い』―――との事だ」

 

 ブラッドマンが黒い霧を少し離れた所に向かって放つと、転移型の魔法陣が現れる。ブラッドマンの行動に驚きを隠せない面々。

 

 “何故、魔法使い達の言葉を伝えられるのか?”

 

 ブラッドマンは死した者を取り込めば、その者の記憶や思考を読み取る事が出来る。無論、それは人間・異形を問わずあらゆる生物に対しても可能である。

 

 まさに“死神”の成せる(わざ)……。

 

 その所業に上手く言葉が出せない新達を尻目に、ブラッドマンはヒト1人分(くぐ)れる大きさの黒い霧を展開し、次のように述べた。

 

「死神の名に()いて告ぐ。今宵はお前達の命を冥底(めいてい)に捧げる事無かれ。いずれ、再び相見(あいまみ)える(とき)が来るであろう。我らもその時を待ちて、地の下より去りぬ」

 

「それって……この場から退()き上げるって事ですか⁉」

 

 カグラの解釈にシド、スメラギ、斬月の視線がブラッドマンに集中する。それもその筈、奇襲を仕掛けておいてアッサリ引き上げるなど思いもしなかったであろう。強者ゆえの傲慢か、それとも他に思惑(おもわく)があるのか……?

 

 死神(ブラッドマン)の真意が分からぬ中、シドが不満げに言ってくる。

 

「ちょっと、チョットチョットォ。造魔(ゾーマ)はそれぞれ好き勝手に動いて良い組織なんじゃないの? こんなに盛り上がってる中で、そんな事言われたら流石にシラケるんだけどぉ?」

 

「ならば問うぞ。貴様は赤龍帝(せきりゅうてい)との勝敗をここで着けて納得するのか? 今の奴らは本来の力を抑えている状態だ。本来の実力―――真価を発揮した赤龍帝を倒してこそ、貴様の強さの証明になるのではないのか?」

 

 ブラッドマンの指摘にシドは(しば)し考え込むような仕草をした後―――「それもそうだねっ」と納得する。シドはそのままブラッドマンが用意した転移用の黒い霧へ向かっていく。

 

「と言うわけでイッセー先輩、今回の縛りプレイ勝負はここまでにしといてあげる。早くお友達を助けて、邪魔がいなくなった時に思う存分決着をつけようよ。じゃあね~♪」

 

 陽気に言いながら黒い霧の中に消えていくシド。その様子を見たカグラは納得がいかないとばかりに抗議を飛ばす。

 

「ブラッドマン、ここまで出向いておきながら敵を見逃すと言うのですか? あなたに何の権限があるのかは知りませんが、これは違反行為と糾弾されてもおかしくありませんよ! このような身勝手をすれば、指揮官(ディザスター)執政官(シルバー)が黙っていません! 今すぐ撤回してグレモリーとシトリーをこの場で―――」

 

「カグラ、お前が独りで奴らを仕留めたいのならば好きにすると良い。俺もそれを(とが)めはせぬ。しかし、お前が仕留めようとした男はバサラ・クレイオスが定めた好敵手であり、旧知の因縁とも言える者。そんな男を許可も承諾も無しに仕留めたりすれば……それこそバサラから大目玉を食らうのではないのか?」

 

 ブラッドマンの忠告を聞いた途端、カグラは言葉を詰まらせ、苦虫を噛み潰したような表情となる。その後、彼女はゆっくりと刀を鞘に収めた。

 

「……分かりました。ブラッドマン、今回はあなたの進言通り引き下がるとしましょう。……ですが、あまり行き過ぎた言動はしないように。執政官(シルバー)はともかく、指揮官(ディザスター)から叱責を受ける事になっても知りませんよ?」

 

「肝に銘じておこう 」

 

 ブラッドマンが簡素に返答し、カグラは転移用の黒い霧の中へと消えていく。これで造魔(ゾーマ)側は2人が退場した。そこでスメラギも(きびす)を返して、転移用の黒い霧へと歩みを進める。

 

「―――っ⁉ スメラギ殿! 貴殿もこの場から引き上げるつもりか⁉」

 

 声を荒らげる斬月に対して、スメラギも冷静に答える。

 

「確かに今のグレモリーとシトリーは本調子ではないな。そんな奴らを倒したところで私は納得せん。()るなら万全(ばんぜん)磐石(ばんじゃく)。今回は少々の手合わせを出来ただけで良しとしよう。では、失礼する」

 

 そう言ってスメラギも戦線から離脱していった。これで残るは死神ブラッドマンと牙鬼斬月のみとなった……。ただ、斬月は未だに納得がいかない雰囲気を醸し出しており、ブラッドマンに詰め寄る。

 

「死神殿っ! (それがし)は納得いかぬっ! 日の本を異文化に染め、(おとしい)れた元凶を眼前にしておきながら、みすみす見逃すなど!」

 

「早合点するな。別に奴らを見逃すわけではない、別の機会に仕切り直せと言っている。地の下で人知れず葬るよりも、大々的に打ちのめす方がお前にとっても都合が良かろう? その時が来るまで待つだけの話だ」

 

「し、しかし……っ!」

 

「それとも何だ? 貴様が(のたま)大和魂(やまとだましい)とやらは、実力を発揮しきれていない相手を甚振(いたぶ)る為に掲げているのか? それこそ武士(もののふ)として恥ずべきことだと思うが」

 

 低い声音で(いさ)めようとするブラッドマン。痛いところを突かれた斬月は言葉を詰まらせ、刀に変化させていた両腕を元に戻す。そして、転移用の黒い霧の前に立ち、新達の方を向いて叫ぶ。

 

「良いかっ、()しき者どもよ! 某は決して貴殿らを許しはせぬっ! 今だけは死神殿の器量の広さに感謝しておけ! 次に相見(あいまみ)えた時こそ、我が天下五剣(てんがごけん)の錆になると知れっ!」

 

 斬月はそう叫んで消えていき、ブラッドマンも後に続こうとする。その直前、ソーナがブラッドマンを呼び止めた。

 

「……1つ、お聞きしたい事があります。何故あなたは(みずか)ら味方に反感を買われるような真似をするのですか? その点がどうにも理解できません」

 

 ソーナの問いにブラッドマンは背を向けたまま答える。

 

「先程も言った筈だ。俺は死神としての責務を(まっと)うし、お前達の命に審判を下す―――それだけだ。いずれ()たる混沌に満ちた(うたげ)……闇の災禍(さいか)が我々を翻弄するだろう。その時まで、お前達の命を散らすべきではないと判断した」

 

「闇の災禍……? いったい何なのですか?」

 

「それは“死神”の名を持つ俺にも分からない。だが、闇の災禍は近い内に必ず(おとず)れる。その災禍で多くの嘆き、悲しみ、怒り、憎しみ、妬み、恨みが飛び交うだろう。三大勢力、造魔(ゾーマ)、そして―――未だ見ぬ暗き闇。悪魔が照らす光を喰らい、魔が造りし闇をも(しの)ぐやもしれん。いま言える事はそれだけだ」

 

 そう言ってブラッドマンは転移用の黒い霧の中へと消えていき、同時に黒い霧もその場から完全に消え去った。いくつもの不穏な言葉を残して……。

 

 造魔(ゾーマ)との戦いは思わぬ形で中断に終わり、張り詰められた空気が軟化する。

 

「……はぁ……っ、何だか死神の気紛れに救われたって感じだな」

 

「そうだな……」

 

 ガックリと肩を下ろす一誠と、眉を(ひそ)める新。今はとりあえずアーシアの治療による負傷者の回復に取り組む事にした。

 

 しかし、事態はまだ始まったばかりに過ぎない……。




5ヶ月も更新が遅れてしまって申し訳ございませんm(_ _)m

考えに考えて戦闘描写を書き込んだ結果、今まで以上に長いページになったかと思います。また今月中にもう1話更新できそうなので、それに向けて頑張っていきます。

最後に、今回登場した造魔(ゾーマ)幹部達のイメージCVを自分なりに纏めてみました。

シド・ヴァルディ……下野紘

カグラ・イザヨイ……早見沙織

ブラッドマン・クルーガー……中田譲治

スメラギ・リュウゲン……日野聡

牙鬼斬月……保志総一朗

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