ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっと書けました……っ。


ロリっ()死神(グリム・リッパー)、略してロリム・リッパーだ!

 夕方―――オカルト研究部と生徒会のメンバーは旧校舎に(つど)っていた。生徒会『僧侶(ビショップ)草下憐耶(くさかれや)だけは情報を同盟スタッフと相互連絡できるよう別室で待機している。

 

 生徒会副会長の真羅椿姫(しんらつばき)が皆に報告した。

 

「学園の破損箇所はこれより修復します。全校生徒は全て下校させました。侵入してきた者達については、この地で活動されている三大勢力のスタッフの方々が追っています」

 

 椿姫に続いて会長のソーナ・シトリーも口を開く。

 

「……アザゼル先生が置いていかれた生徒の記憶を(つかさど)る装置が役に立ちました。魔法使いに襲撃されたと言う生徒達の記憶を『変質者が校内に侵入して、学校が臨時休校となった』と言うものに置き換えてあります」

 

 堕天使は一般人が異能、異形に関与した際に記憶を消し去る技術を有しており、今回も堕天使特有の機械で記憶を改竄(かいざん)させている。

 

 ただし、あまり多用すると記憶に悪影響が出てしまうので、本来限定条件を付けてやった方が良いらしく……今回は「変質者が校内に侵入した」と言う設定に塗り替えた。

 

「破壊された場所についての記憶は?」

 

 ゼノヴィアがソーナに問う。

 

「それは緊急の補修作業が同じ日に重なったと言うものに生徒達の記憶を変換しています。……あのような騒ぎがあったのに、学校から抜け出した者がいなくて(さいわ)いでした。携帯機器などで記録したであろうものについても三大勢力のバックアップで何とかなりそうです」

 

 つまり、未然に異形の正体―――この学園の裏の顔はバレずに済んだと言う事だ。しかし……副会長の椿姫は悔しそうにする。

 

「ですが、今回の事でショックを受けた生徒の心は完全には消せません。『何か怖いものに遭遇した』と言う記憶だけは永遠に残り続けると思います。それが何なのか、分からぬままに今後過ごすかと思うと……許せないわ、襲撃してきた者達が……っ!」

 

 人質にされた1年生女子……。魔法使いの記憶は変換されたが、怖い者に襲われたトラウマは心に残り続けるかもしれない。しかも、それが何なのか分からないまま、不安を抱えて一生を過ごす……。

 

『……こんな事になっちまったのは魔法使いのせいであると同時に、俺達のせいでもあるんだよな……。』

 

 新も先程、桐生達を巻き込んでしまった事を思い返し、自責の念に駆られる。それは一誠も同じだった。

 

 ―――そもそも、この学園自体が―――

 

 そう思った刹那、心中を察した匙が一誠の肩に手を置き、首を横に振った。

 

「兵藤。この学園が一般人に(いつわ)って運営していること自体が―――って思ってないか? 気持ちは分かるが、今はそれよりもさらわれた塔城小猫(とうじょうこねこ)さん達の方が気がかりだ。そうだろう?」

 

「ああ、分かってる」

 

 そう、今は魔法使い達に捕まった小猫、ギャスパー、レイヴェルを助けるのが最優先だ―――と言えど、やはり衝撃は隠せない……。

 

 安全圏だと思っていた昼の駒王学園(くおうがくえん)。普段の学校生活でテロを受けるとは思いも寄らなかった事態。……1歩間違えれば、一般の生徒が犠牲になっていたかもしれない。

 

 悪魔である新や一誠達と関わる以上、その危険性と隣り合わせだった事を今更ながらに思い知らされる……。だからこそ、改めて駒王学園の存在を考えてしまう……。

 

 新の横でゼノヴィアが言う。

 

「襲撃犯は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と共にフェニックス関係者を狙う『はぐれ魔法使い』か?」

 

「でしょうね」

 

 イリナがそう続けた。その辺りは大体の見当が付く。

 

「ロスヴァイセ、お前はどう思う?」

 

 新が魔法の使い手でもあるロスヴァイセに意見を求める。

 

「ええ、魔法の痕跡などを分析しましたところ―――」

 

 そこまで言いかけた時、室内に携帯電話の着信音が鳴り響く。着信音の先はロスヴァイセだったようだ。

 

「コホン、失礼。もしもし……」

 

 咳払いして応対するロスヴァイセ。誰からの着信かと怪訝(けげん)に思っていると―――。

 

「あ、お祖母(ばあ)ちゃん! どした? 何かあったの?」

 

『……お祖母ちゃん?』

 

 唐突に言葉が(なま)った違和感……。それは気のせいでもなく、ロスヴァイセが方言で話し始める。

 

「んだ、いま大事な会議中だかんな。え? 仕事? 心配すなくとも、わたす、元気にやってっからね。お祖母ちゃんが心配すっことなーんにもないんだってば」

 

 ロスヴァイセの生粋(きっすい)とも言える方言っぷりに会議が中断され、皆が驚きで目を丸くする事態になる……。

 

 如何(いか)にも都会が似合うクールビューティー(百均マニア)だったのに、今度は方言と言う残念属性が出てきたのだから無理もない。

 

「今の仕事先の上司さんは、えんらい良いヒトだから、お給金も前のとこよりいっぺぇ出してくれてんのよ? だっから、そっちさ仕送り出せんだから。ええからええから! 田舎さ何もねぇでしょ? 送った金で何か買って、ぬくくしてくれたら、わたすはそれで充分だかんね?」

 

 目をパチクリさせている新と一誠にアーシアがボソリと言う。

 

「少し前に聞いたんですけれど、ロスヴァイセさんは故郷に仕送りをされているそうでして……」

 

 それにゼノヴィアも続く。

 

「私は、故郷は何も無いド田舎だと聞いたぞ。祖母が一人暮らしをしているから、悪魔の仕事で得たお金を仕送りしているそうだ」

 

 更にイリナまで口にし始める。

 

「ご両親は北欧の神々に仕える戦士なので、お家に帰る事が(まれ)で、(ほとん)どお祖母さんに育てられたって言ってたわ。だからお祖母ちゃんっ子なんですって。田舎に何でも揃うディスカウントストアを建てるのが夢なのよね」

 

「は、初めて知ったな……ロスヴァイセの夢」

 

 新はそう(つぶや)きながらも……百均マニア、方言田舎娘、お祖母ちゃんっ子と、どんどん属性増やしていく元ヴァルキリーに親近感が湧くと同時に不憫(ふびん)さも湧いて仕方なかった。

 

 電話を終えたロスヴァイセが再び咳払いする。

 

「……すみません。まさか、実家からいきなり電話が掛かってくるなんて……。ついでなので、魔法の使い手だった祖母にも強固なセキュリティーを突破できる術式について聞いてみましたが……かなり厳しい見解を口にしていましたね。私もその可能性があると思ってはいたのですが……」

 

「その可能性って何だ?」

 

「―――裏切り者です」

 

 新がロスヴァイセに訊くと、ソーナが代わりに答えた。全員の視線がソーナに集まる。

 

「この地域一帯は三大勢力の同盟関係にあり、私達以外にも数多くのスタッフが在任しています。この学園を中心に町全体に強力な結界が張られ、怪しい者が足を踏み入れると直ぐに誰かが察知できるようになっています。侵入して姿を(くら)まされると察知しにくいと言う点もありますが、ここに入るにはいくつか可能性が絞られるわけです。1つは無理矢理の侵入。これは力があるものであれば可能でしょう。しかし、これは侵入が直ぐに発覚しますので、今回の件とは違うでしょう。2つめにこの町に住む者、またはスタッフの者が結界の外に出かけ、そこで敵対組織に捕らわれてしまい操作されて侵入されるケース。これに関しても今回は今のところ、住民、全校生徒、スタッフに反応が出ていません。となると、裏切り者が仲介をして、学園まで侵入させた事になります」

 

「そんな事が可能なんですか?」

 

 一誠の問いにソーナは眉根を寄せる。どうやら難しい見解のようだ。

 

「この結界を問題なく通れる中核メンバークラスであれば可能でしょうね。つまり、グレモリー眷属とイリナさん、レイヴェルさん、私達シトリー眷属、アザゼル先生、それぐらい中核の者でなければこれ程大胆な襲撃を手配できないでしょう」

 

「それって……俺達の中に裏切り者がいるってんですか⁉」

 

 匙が“そんなこと信じられない”と言った表情で叫ぶ。確かに生死を共にした仲間の中に裏切り者がいるなど信じたくない……っ。

 

 ソーナは匙の叫びを聞いて、優しげな表情を浮かべる。

 

「私も裏切り者がいるなんて信じてません。けれど、襲撃犯は油断の出来ない相手です。目的はレイヴェル・フェニックスさんなのかどうかすらも分かりません。しかし、ただで見過ごす程、私達も甘くありません。さて、連れていかれてしまった塔城さん達について―――」

 

「会長!」

 

 そこまで言ったソーナの言葉を(さえぎ)るように『僧侶(ビショップ)』の草下憐耶(くさかれや)が部室に飛び込んでくる。

 

 皆の視線を集める草下は興奮した様子で告げた。

 

「……オカルト研究部の1年生を連れ去った者から、連絡がありました」

 

 

―――――――――――

 

 

 深夜―――。新達オカルト研究部、生徒会メンバーは最寄りの駅に来ていた。

 

 その理由は―――ここに来いと襲撃犯から連絡があったからだ。

 

 奴らからの伝言とは、『塔城小猫、ギャスパー・ヴラディ、レイヴェル・フェニックスを返してほしければ、グレモリー眷属、紫藤イリナ、シトリー眷属のみで地下のホームに来い』と言うものだった。

 

 ちなみに渉と祐希那は外部からの侵入や襲撃に(そな)える為、別行動中である。

 

 地下のホーム、それはこの最寄り駅の地下に(もう)けられている冥界へのルートの事だ。夏休みの折、新達はこの駅の地下にある列車で冥界に入った。

 

 この町には悪魔専用の空間がいくつか存在するのだが、その内の1つを敵に指定されるとは思わなかっただろう。

 

 ソーナが駅のエレベーター前で(つぶや)く。

 

「ここを指定されるとは思いもしませんでしたね。他の悪魔専用の地下空間は既にスタッフの方が調査していますが……いくつかの魔法の痕跡はあったようです。一時的な潜伏先として利用されていた気配があります」

 

「地面を(もぐ)って地下から侵入してきたって事か?」

 

「それか冥界側―――列車のルートから侵入したとか? 次元の狭間を通ったり……」

 

 新と一誠がそう訊くが、ソーナは首を横に振る。

 

「いえ、どちらも違うでしょう。やはり、誰かが知らない間に利用された……? 裏切り者によって侵入を許したとは思えませんが……」

 

 ソーナは難しい顔で深く思慮している様子だった。もし、冥界のグレモリー領などから侵入したと言う事なら、“グレモリーが侵入を許したのでは?”と(どか)められかねないので、また事情がややこしくなる。

 

 エレベーター前に集合する新達一向。ソーナが皆を見渡すように言う。

 

「この駅周辺を天界、冥界のスタッフが囲んでいます。冥界のグレモリー領にある、列車用の次元の穴も封鎖しました。相手は何を考えているか、未だに真意は判明しませんが……あとは指名された私達が直接会いに行くだけです」

 

 可能な限りの逃げ道を封鎖したので、これで相手は袋のネズミ……と言うより、わざわざ指名してきたのだから(むし)ろ逃げる意識は薄いのだろう。

 

「グレモリーの指揮は誰が()る?」

 

 ゼノヴィアがそう訊くと、ソーナがメガネをくいっと上げた。

 

「問題ありません。有事の為、生徒会、オカルト研究部の指揮は私が執ります。リアスにもそのように任されておりますから。『(キング)』不在で当惑する事があるでしょうけれど、私の指示に従ってくれますね?」

 

『はい!』

 

 グレモリー眷属一同は異口同音に応じた。ちりゃくに長けたソーナが指揮を執ってくれるのは実に心強い。

 

 ソーナがゼノヴィアに訊く。

 

「まず、ゼノヴィアさん。あなたは聖剣の8つの能力の内、いくつ使えるのかしら?」

 

「破壊の方は問題無しだ。それに訓練のおかげで擬態と透過と天閃(てんせん)はいける。だが、使いこなせているレベルではない。夢幻(むげん)と祝福は能力的に相性が悪くて(つら)いな。一番の難易度を持つ支配は特に難しい。全く他者を支配できない。灼熱も同じくらいだ」

 

「今回、町の地下と言う事で戦いによる制限があります。大きな破壊は崩落、地盤沈下の影響が出てしまいます。極力、派手な攻撃を避けねばなりません。……状況は違いますが、シトリー対グレモリーのゲームのようなものです。破壊は出来うる限り回避しなければなりません。必要以上の威力は控えてください。必須となったら、私が指示します」

 

 確かにソーナの言う通り。地下のホームを破壊するわけにはいかないので、度が過ぎた攻撃は出来ない。

 

 ソーナはその後、グレモリー眷属の様子について訊いていく。どうやら即興の戦術を考案するようだ。

 

 ―――と、ここで気になる点が1つ。シトリー側に見知らぬ巨躯(きょく)の男が1人立っていた。

 

 灰色の髪をしていて前髪が長く、目元が隠れている。サイラオーグと同じくらい体格も良い。

 

 一誠が恐る恐る副会長の真羅椿姫(しんらつばき)に問う。

 

「あ、あの、そちらの大柄な男性は……?」

 

「ええ、こちらの男性は駒王学園大学部に在籍する大学生の方で―――シトリーの新しい『戦車(ルーク)』です」

 

 なんと、その男はシトリー眷属の新しい『戦車(ルーク)』だった。唐突な発覚に驚きを隠せない。

 

 男は無骨そうな反応と言葉少なに「……ルー・ガルーと呼んでくれ」と呟き、真羅椿姫が続ける。

 

「私達はルガールさんと呼んでいます。竜崎くんと兵藤くんもそのように呼んであげてください。ルガールさん、今回は外でのバックアップをお願いします」

 

「……ああ」

 

 シトリー眷属の新入り『戦車(ルーク)』―――ルガールはそのままこの場を離れていく。今回、彼は外回り担当のようだ。

 

『……ルー・ガルー……? 何となく正体が分かりそうな名前だな』

 

 新はルガールの本名―――“ルー・ガルー”に思慮を巡らせるが、今はそれどころではない。

 

≪マスター、周辺の準備は整ったようですぜ≫

 

 突然、聞き覚えの無い声がしてくる。グレモリー眷属が声の主を探して視線をあちらこちらに飛ばしていると―――駅の天井に行き着いた。

 

 駅の天井からシトリーの魔法陣が出現し、そこから逆さに頭が飛び出してくる。

 

 しかも、出てきたのは髑髏(どくろ)の仮面を被った小柄な者―――死神(グリム・リッパー)だった!

 

「……っ⁉ 死神(グリム・リッパー)⁉」

 

 新が叫ぶと、ソーナが言う。

 

「こちらは私の新しい『騎士(ナイト)』―――」

 

≪……あっしはベンニーアと申します。……元死神(グリム・リッパー)であります≫

 

 天井から小柄な死神(グリム・リッパー)が降りてきて、下に上手く着地。それと同時に死神(グリム・リッパー)は仮面を外す。

 

 そこにあったのは中学生ぐらいの女の子の顔だった。

 

 眠たそうな目をした可愛い女の子で、深い紫色の長髪に金色の瞳。手に持つ死神(グリム・リッパー)の印―――鎌には可愛いドクロの装飾が(ほどこ)されていた。

 

「ロ、ロリっ子の死神(グリム・リッパー)ぁぁぁっ⁉」

 

≪イエスイエス、ロリ死神(グリム・リッパー)。略してロリム・リッパーですぜ≫

 

「そこは略さなくても良いだろ」

 

 驚く一誠とツッコミを入れる新に、ソーナは(うなず)く。

 

「ええ、ベンニーアは死神(グリム・リッパー)です。と言っても半神です。死神(グリム・リッパー)と人間のハーフ」

 

「最上級死神(グリム・リッパー)の一角―――オルクスの娘なんだってさ。な、驚きだろう?」

 

 匙が追加情報をくれるが、いきなり過ぎる死神(グリム・リッパー)の加入には誰だって度肝を抜かれてしまうだろう……。

 

「……新しい『騎士(ナイト)』と『戦車(ルーク)』の当てがあると聞いてましたが、まさか死神(グリム・リッパー)とは……」

 

 ロスヴァイセも小柄な少女死神(グリム・リッパー)の登場に目を丸くさせていた。

 

 そこで真羅椿姫が首を横に振る。

 

「いえ、『騎士(ナイト)』の当ては本来他のヒトだったのです。しかし、その方と都合が付かなくなりました。そこに彼女が現れまして―――」

 

≪ハーデスさまのやり方についていけなくなったのでこっちに寝返る事にしやした。あっしを眷属にしてみませんかね?≫―――と、交渉してきたらしい。

 

 一瞬ハーデス側のスパイじゃないかと思ったそうだが、こんなに大胆なスパイもあるのだろうかとソーナは首を(ひね)りに捻ったと言う。

 

「怪しさは凄まじいものでしたが、ある一点で信頼する事にしました」

 

「ある一点?」

 

 新がソーナに聞き返すと、死神(グリム・リッパー)ベンニーアは新に色紙を突き出す。

 

≪オッパイザーの旦那。あっし、旦那の大ファンですぜ。ほら、マントの裏はオッパイザーの刺繍(ししゅう)って具合です。サインを1つお願いできませんかね?≫

 

「あ、本当だ。しかも、鎧姿の俺の刺繍もある!」

 

≪へい。オッパイザーとおっぱいドラゴンのコラボ刺繍ですぜ≫

 

 ベンニーアはフリフリとマントの裏を見せつけ、新は渡された色紙にサインを書きながら訊く。

 

「まさか死神(グリム・リッパー)のファンが出来るとはな……」

 

≪ええ、それにプラスしてクソ親父とハーデスさまのやり方が気に入らなかったんで家を飛び出してきたですよ≫

 

「『騎士(ナイト)』の駒1つで足りて(さいわ)いでした」

 

 ソーナがそう言う。確かに半神とはいえ、駒1つで死神(グリム・リッパー)を眷属に出来たのはお買い得である。

 

≪あっし、母方の人間の血が濃いんで、大した事ありませんぜ≫

 

 ベンニーア本人はそう漏らすが……キャラと能力の両方でクセは強そうだ。ソーナがベンニーアに言う。

 

「ベンニーアもルガール同様、外でのバックアップをお願いできますか?」

 

≪イエッサーですぜ、マスター。同期の大柄あんちゃんと共に外で待機してやす≫

 

 そう言うなり、ロリ死神(グリム・リッパー)―――ベンニーアは足下に魔法陣を展開させて、スポッと潜って消えていった。ソーナが小さく息を吐く。

 

「大事な作戦前に眷属の紹介になってしまって、申し訳ありませんでした……。こういうのは重なるものですね」

 

「いや、何か作戦前に緊張が(ほぐ)れて良かった」

 

 正体不明の敵を相手に後輩達を奪還しなければならなくて余裕が無い状態だったが、シトリーの追加メンバーの紹介で多少ではあるが緊張が(やわ)らいだのも事実。ちなみにこれでシトリーの残った駒は未使用の『兵士(ポーン)』3つとなった。

 

 ソーナが新に訊いてくる。

 

「さて、新くん。また新しい能力を発現したと聞いたのですが……どんな具合ですか?」

 

「……レーティングゲームみたいな制限付きの戦闘では丸っきり使えない。パワーとスピードが爆発的に跳ね上がるが……制御するのも難しい上に、多量の血を流さなきゃならないんだ。正直言って、今回の破壊制限を(もう)けられた戦闘に()いて俺は役立たずになっちまうだろう」

 

 確かに新が発現した新しいモード―――“赩雷炎竜(かくらいえんりゅう)”は破壊力と速度が増す代わりに長時間()たない。更に多量の出血が必須条件な為、(みずか)らを窮地に追いやらなければならない。つまり、今回のように派手な攻撃が出来ない場面では全く使えない……。

 

 それは一誠も同じ。2人はグレモリー眷属の攻撃の(かなめ)だが……パワー寄りなので繊細な技術がまだ足りない。いざと言う時に自分達の力を存分に発揮できないのは痛手であり、面目無い事だ。

 

 気落ちする2人にソーナは微笑(ほほえ)む。

 

「あなた達が謝る事なんて1つも無いわ、新くん、兵藤くん。あなた達は冥界を救った英雄です。2人が無理できない分、私達がフォローすれば良いだけよ。それにね、あなた達は短期間に頑張り過ぎた。本当、私達の力不足が申し訳ないと感じる程に」

 

 ソーナだけじゃなく、シトリー眷属の皆がウンウンと(うなず)いていた。

 

「たまには俺達も頼れよ、兵藤、竜崎。ゲームじゃライバルだ。だが、実戦じゃ仲間じゃねぇか。俺達だって冥界や駒王学園を守りたいんだよ」

 

 匙も励ましの言葉を言ってくれる。その通り、足りない分は(おぎな)い合えば良い。それが仲間である。

 

 ソーナが新と一誠の手を取る。

 

「だから、今日は私があなた達を導きます。リアスではないけれど、今だけは私の力を信じてください」

 

『はい、もちろんです!』

 

 グレモリー眷属の全員が改めて応じたところで、ソーナが再度訊いてくる。

 

「ところで、兵藤くん。譲渡はどれくらい()つのかしら?」

 

「倍加の具合によって変動しますが、20回ぐらいまでなら余裕でいけます」

 

 それを聞き、ソーナはフムフムと考え込んだ後、作戦が伝えられ―――皆が駅のエレベーターから地下に降りていく事になる―――。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 地下に降りた全員は冥界行きの列車用に建設されたホームを進んでいく。広い空間を抜けて、右に左に通路を進んでいくと―――。

 

 途端に不穏な気配を察知する。この通路を抜けた先に敵が待ち構えているのだろう。

 

 全員が無言で視線にて確認し合い、突入の陣形を作り出す。

 

 オフェンス―――前衛は新、ゼノヴィア、イリナ、匙、『騎士(ナイト)巡巴柄(めぐりともえ)、『戦車(ルーク)由良翼紗(ゆらつばさ)

 

 中衛は一誠、朱乃、ロスヴァイセ、『女王(クイーン)真羅椿姫(しんらつばき)、『兵士(ポーン)仁村留流子(にむらるるこ)

 

 後衛はソーナ、アーシア、『僧侶(ビショップ)花戒桃(はなかいもも)草下憐耶(くさかれや)

 

 構成は近接タイプを前衛、遠距離からの攻撃メンバーを中衛に、後衛は指示を中心としたサポート要員だ。

 

 新と一誠はリアスの承認無しでも昇格できるので通常の『女王(クイーン)』へ。匙と仁村もソーナの承認のもと、『女王(クイーン)』となった。

 

 チームの形が整った後、全員が耳に通信用の冥界アイテムを入れていく。インカムの代わりになる物で、主にレーティングゲームなどでも活躍している。

 

 最終確認を目で合図し合った後に通路を抜けていく―――。そこは初めて足を踏み入れる地下の(ひら)けた空間だった。地下のホーム以上に広大な場所で、天井もいっそう高い。

 

 前方に視線を向けると、魔法使いの集団が視界に映る。全員が魔術師用のローブを着込んでいた。

 

 新達は距離を置いて、彼らと対峙する。パッと見ただけでも100人以上は居る。召喚したであろう魔物もかなりの数だった。

 

 一誠が指を突きつけて言う。

 

「来てやったぜ? 俺達の後輩は何処だ?」

 

 一誠の声が地下に響く。魔法使いの連中は嘲笑(あざわら)ったり、肩を(すく)めるだけだ。実にナメた反応である。

 

 この反応だけでも怒り心頭な一誠だが、冷静にならねばならない。彼の欠点は仲間の機器に冷静になれずに突貫してしまう事だ。

 

 魔法使いの1人が前に出てきた。

 

「これはこれは、悪魔の皆さん。『若手四王(ルーキーズ・フォー)』のグレモリー、シトリーの皆さんが俺達の為に来てくれるなんて、光栄の限りだ」

 

 ソーナが訊く。

 

「あなた達の目的は何ですか? フェニックス? それとも私達でしょうか?」

 

「どっちもですな。ま、フェニックスのお嬢さんは大事に(あつか)っているんで。そうしろと、リーダーの命令なんですよ」

 

 どうやら魔法使いの連中はその“リーダー”とやらの指示で動いているらしい。魔法使いはそのまま続ける。

 

「フェニックスの件はOKなんで、あとはあなた達との件だ。―――気になって仕方ないんですよ。メフィストのクソ理事とクソ協会が評価したって言うあなた達の力がね。この思い、理解できます? 出来ないですよね? ま、強い若手悪魔がいたら試したくなるでしょ? 魔法を乱暴に使う俺達ならね」

 

 その魔法使いが指を鳴らした刹那、この場にいる魔法使い全員が攻撃魔法の魔法陣を展開し始めた!

 

「やろうぜッ! 悪魔さん達! 魔力と魔法の超決戦ってやつをよ!」

 

 それが開戦の合図となった!

 

 怒濤(どとう)の如く炎、水、氷、雷、風、光、闇とあらゆる属性の魔法が新達に向けて放たれ、使役している魔物の群れも突っ込んでいく!

 

 無数とも思える激しい魔法の雨が降り注ごうとした―――その時、思わぬ事態が……っ!

 

 ブオオオォォォォン……ッ!

 

 突如、両陣営の間に巨大な黒いモヤが出現し……降り注いでくる魔法の雨を全て飲み込んでいった……ッ!

 

 その黒いモヤは魔法だけでなく、魔法使いの連中が使役していた魔物の群れも1匹残さず飲み込み、消し去った……。

 

 この異常時態に新達は勿論、魔法使いの連中も驚愕の色を隠せなかった。

 

「な、何だ今のはっ⁉」

 

「俺達の魔法が一瞬で消された……⁉」

 

 動揺と混乱が支配する中、巨大な黒いモヤは次第に小さくなり―――5つに分裂する。

 

 分裂した黒いモヤ……その内の4つから何者かが飛び出していき、魔法使い達の方に突っ込んでいく。

 

 その刹那、強大な破砕音と爆煙、衝撃が地下に響き渡り、魔法使い達の悲鳴が木霊(こだま)する……っ。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐわぁぁぁぁああああっ!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!」

 

 鈍い打撃音、飛び散る血飛沫(ちしぶき)、地下は一気に阿鼻叫喚(あびきょうかん)の間と化した……っ。

 

「な、何だよ……ッ。いったい何が起きてんだッ⁉」

 

 慌てふためく一誠、ソーナも何が起きているのか分からず当惑するばかり……。

 

 僅かな時間で敵の魔法使い全員が地に倒れ、壊滅状態となっていた……。

 

 爆煙が晴れると、そこには見覚えのある人物が見えた。

 

「ヤッホー、イッセー先輩♪ 元気~?」

 

 この飄々とした口調に、人を喰ったような態度。それは忘れたくても忘れられない……ッ。

 

 一誠は目を見開いて“その者”の名を叫んだ。

 

「お前……シド……ッ⁉」

 

 そう、現れたのは造魔(ゾーマ)の一員―――シド・ヴァルディ。何度もグレモリーとシトリーに煮え湯を飲ませてきた男である。

 

 新が目を細めて訊く。

 

「お前、何しに来た? なんで、魔法使いの連中を……」

 

「アハハッ、乱入バトルは格ゲーの華って言うじゃない? だから、乱入してみたんだよね~♪」

 

「ふざけんな! 今はお前なんかと遊んでる暇は無いんだよっ!」

 

 相変わらずなシドの態度にキレる一誠。シドはチッチッチッと指を振って言う。

 

「分かってないな~、先輩は。せっかくゲストをいっぱい連れてきてあげたのに、シラケるような事言わないでよ。ねえ?」

 

 視線を横に向けるシド。爆煙の中から更に3人の人影が姿を見せる。

 

 軍服のような衣装に、刀を(たずさ)えた女性―――カグラ・イザヨイ。

 

 漆黒の鎧に身を固めた鎧武者―――牙鬼斬月(きばおにざんげつ)

 

 三國志のような鎧を着込んだ武人―――スメラギ・リュウゲン。

 

 いずれも猛者(もさ)揃いと言われる造魔(ゾーマ)の幹部……っ。そして、残された黒いモヤから出てきたのは―――。

 

「……悪魔の祈りと(ささや)きは、地の底に届くか(いな)か。魔術の宴は叶うこと(あた)わず、冥底(めいてい)に沈むか否か。その答えは神にも仏にも見出だせず……。」

 

 全身に走る怖気(おぞけ)……っ。最後に出てきたのは……死神(グリム・リッパー)よりも死神と呼ばれるに相応(ふさわ)しい異形……っ。

 

 その名はブラッドマン・クルーガー……っ!

 

「地の底を彷徨(さまよ)いし若気の悪魔よ。(むくろ)の道を辿るか否か、この死神が見定めてやろうぞ」

 

 

――――――――――――――

 

 

 とある空間にて、装飾の()った銀色のローブに身を包む人物に、白衣を着た研究者らしき男性が現時点での経緯を報告していた。

 

「そうですか。造魔(ゾーマ)の連中も侵入していたのですか」

 

「はい、グレモリー眷属とシトリー眷属にけしかける手筈だった魔法使い達は造魔(ゾーマ)によって壊滅状態。最悪の場合、ここにやって来るのも時間の問題かと……。如何(いかが)いたしましょう?」

 

 研究者の疑問にローブの人物は間髪入れずに答える。

 

「放っておいて構いません」

 

「対処されないのですか?」

 

「元々彼らの好奇心と欲求を満たすのは“ついで”ですからね。やられたところで作戦に支障はありません。こちらとしては必要なデータさえ入手できれば良いので」

 

 どうやら先の魔法使い集団は捨て駒として扱われたようで、ローブの人物は全く意に介さない様子だった。その返答に研究者がやれやれと肩を(すく)めて言う。

 

「薄情ですね」

 

「願わくば共倒れしてもらいたいものですが……まあ、どちらが来ようと問題ありません。私はただ作戦を実行するだけです」

 

「……かしこまりました。では、捕らえたレイヴェル・フェニックスの様子見も兼ねて、私はこれで失礼します」

 

「ええ、ご苦労様です」

 

 そう言ってその場から離れた研究者は、レイヴェルの様子を見に―――行かず、別の場所に足を運ぶ。

 

 研究者の眼前には無数の培養カプセルが並んでいた。チューブや機器に繋がれた数多くの培養カプセルの中には……液体に漬かる“何か”が入っていた。

 

 それを見て研究者は口の端を笑ませる……。

 

C'est bon(セボン)C'est si bon(セシボン)Trés bien(トレビアン)。『禍の団(カオス・ブリゲード)』……瓦解しても往生際が悪く、尚も混沌をもたらそうとする組織。ただのTriste(トリスト)な集団かと思いきや、このような興味深いデータを収集してくださっていたとは……。私としても大変Merci(メルシィ)な事です」

 

 その“研究者”は腕から管のような物を複数伸ばし、培養カプセルに繋げる。管が大きく脈動し、研究者の腕に流れていく……。

 

「これだけ大量のデータを集めれば、新たな『深淵の喰闇(ダーク・ロード)』―――『強欲の喰闇(アワリティア・フォー)』の誕生も早まる事でしょう。実に華やかでPassionnant(パッショノン)な展開です。Magnifique(マニフィック)




次回は造魔(ゾーマ)幹部との乱入イベントバトルです!

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