「竜崎、あのコスプレ独眼竜と知り合いなの?」
桐生が
今の新は目の前の男―――バサラ・クレイオスの登場に動揺しきっており、心の余裕など無かった。
そんな新を尻目にバサラは1歩、また1歩と近付いてくる……。
「相変わらず真っ昼間っから女を
「…………っ」
「まだまだガキ臭さが抜けてねぇ。だいたいテメェはこんな所で油売ってる暇があんのか? そんな腑抜けてやがるから、こんな風にズカズカと入り込まれるんじゃねぇの?」
「…………っ」
「おーい、話聞いてんのかー?」
一向に言葉を発しない新に、バサラは眉を寄せてチッと舌打ちをする。そんな中、桐生がバサラに
「ちょっとちょっと、そこの独眼竜コスプレの人」
「あ? 俺の事か、何だ?」
「あんた、竜崎の知り合いなの? どういう関係?」
興味本位で聞いてきたのだろう。バサラは桐生や村山、片瀬に視線を移し、直ぐに彼女達が何の異能も持たない一般人だと見破る。
『……典型的な
バサラは心の底から新の生活環境に腹を立て、ポリポリと頭を掻く。どうしてやろうかと思った矢先、新が桐生に告げる。
「……桐生、悪いな。ここから先は女の入れる話じゃないんだ。村山と片瀬を連れて体育館に戻っててくれ」
新の真剣な勧告に桐生は
「なになに? いきなりシリアスな顔しちゃって。この独眼竜コスプレと何か遭ったの?」
「……頼む。話なら後でいくらでも聞いてやるから」
新は桐生達に頭を下げ、
「そういうわけで、ここからは大人の話だ。ガキや女の出る幕じゃねぇってこった。さっさと帰りな」
バサラは
何故なら……バサラは既に見破っていたのだ。桐生がこの後、好奇心から自分達を尾行してくるであろう事を……!
『弱い奴に限って、面白半分で厄介事に首を突っ込む
――――――――――――
「うむむ……いつになく真剣な竜崎ね。あの独眼竜コスプレと何かあるのかしら?」
「ど、どうする? 桐生さん」
「やっぱり、先生に相談した方が……」
「い~やっ、こんな怪しさプンプンの雰囲気を見せられて引き下がれるわけないでしょ。勿論、尾行してやるのよ。運が良ければ竜崎の秘密とかもバッチリ聞けそうじゃない?」
「「そ、それはそうかもしれないけど……っ」」
「はい、決まりっ。それじゃあ完全に見失わない内に、あとを追うわよ」
――――――――――――
新はどうにか校内の敷地、
「……お前、何しに来た? しかも堂々と姿を見せやがって……! この辺りは結界が張られている筈だぞ……っ⁉」
新の言う通り、
バサラが軽く笑い飛ばしながら言う。
「ハッ、あんな薄っぺらい結界は俺にとっちゃザルと同じだ。張ってあろうが無かろうが関係ねぇ」
「チッ……相変わらずの常識ブレイカーめ……っ! とにかく失せろ! ここはお前みたいな奴がホイホイ立ち入って良い場所じゃねぇんだよ!」
「おいおいっ。せっかく良い
「
不機嫌な
しかし、話される内容は驚愕一色に包まれるものだった……っ。
「
「―――――っ⁉」
なんと、あれだけ『
あまりにもデタラメでメチャクチャな
「な……っ⁉ どういう事だ⁉ お前らは『
「珍しいじゃねぇか、竜の字。テメェが俺を当てにするなんてよぉ?」
「いや、そういうわけじゃ……。そもそも、お前ら『
新のもっともな質問に対し、バサラは不敵な笑みを浮かべて答える。
「実はな……以前、テメェらが取引を蹴ったお陰で
「相乗効果?」
「ああ、『
三大勢力の評価を削りつつ依頼の数を増やし、追い込んだ『
わざと逃がし、泳がせておけば『
「勿論、その計画に興味が湧かなかったら三大勢力に売り飛ばせば良い。テメェらも有力な情報は喉から手が出るほど欲しいだろ?」
「散々引っ掻き回した挙げ句、無価値と判断すれば即座にポイ捨て。オマケに三大勢力に“奪った計画”とやらを売り渡す事で、無理矢理貸しを作らせて不穏の火種を撒き散らすのかよ……ゲスいやり方だ……っ!」
「そんなもんだぜ?
新の毒づきも意に介さず、いけしゃあしゃあと言い切るバサラ。コートのポケットからタバコを1本取り出し、火を点ける。
フーッと煙を吹かした直後、話を続ける。
「まあ、テメェらが俺達との取引を蹴った時点で
「そんな嫌味を言う為だけにワザワザ現れたってのか……⁉」
「いや、肝心なのはここからだ。いま俺が話したのは―――あくまで組織的に俺達との取引を蹴った末の結果。だが……個人的な取引なら話は別だ」
“個人的な取引”と言うワードに新は
「良いか、竜の字? これが本当の意味で最終勧告だ。奴らを一掃したけりゃ―――
「――――っ」
一言一句、的確に
確かにその通り、『
新も、グレモリー眷属も、三大勢力も最近は保守に専念し過ぎている。壁を張っても、相手がそれ以上の力と物量で仕掛けてくれば
敵が流れに乗ってしまう前に、その流れを
掴める距離に居て、掴める
新は唇を噛み締め、迷った……。
「……それでも、それでも俺は……っ」
「…………」
新が迷うこと数秒、バサラはハァと溜め息を吐いてタバコを足元に捨て、そのまま足で踏み潰す。
「それでも譲れないモノがあるってか? なら、この話は無しだ。迷いっぱなしのテメェじゃ答えなんぞ出てきやしねぇ。腕は立つくせにそういうところだけ甘ちゃんに成り下がってんだな、竜の字」
「…………っ」
「良いか、これだけは覚えておけよ? テメェらが守ろうと抜かしてる平穏なんて
バサラはズイッと顔を近付け、新を見据えたまま言い放つ。
「あんな
「……っ。どういう意味だ?」
「さっきテメェが必死こいて庇って逃がした奴ら、ありゃ丸っきり
バサラの無遠慮な言い分に新は青筋を立て始めた……。尚もバサラは非難し続ける。
「それにな、
「……っ! 桐生は……あいつらは異形とか、非日常とは無縁なんだよ! お前らみたいなバカどもが巻き込もうとするから―――」
「だったら、今ここに住み着いているテメェらは何だ? テメェらがここに居座るから俺達みてぇな悪党どもが
またもや痛いところを突かれた新は押し黙ってしまい、バサラが顔を離して数歩距離を取る。
「図星を突かれてダンマリかよ、
バサラはコートのポケットからナイフを取り出し、刃先を新に向ける。
「竜の字、俺は昔から言ってるよな? 意見が
「…………っ」
「必要なのは“力”だ。どの時代でも、どの世界に於いても“力”の無い信念なんざ存在しねぇんだよ。テメェはここまで来てまだ分からねぇのか? 力無き信念は薄っぺらい氷と同じだ。何もしなくても勝手に
――――――――――――――
ここで場面が桐生サイドに変わり、桐生達は十数メートル離れた木陰から新とバサラのやり取りを見ていた。
やはり、好奇心から2人の様子を探っていたのだ。ただならぬ雰囲気に村山と片瀬の表情が
「ね、ねぇ……何かヤバそうな感じじゃない……?」
「だって、あれ……ナイフだよね……? 警察に言った方が良いんじゃあ……」
村山と片瀬の助言を聞きつつも、桐生はカメラモードにしたスマホを向ける。
「ま、まあ、警察を呼んだ方が良いのは分かるとして……こんな特ダネ見逃す手は無いわ。“竜崎とコスプレ独眼竜のワケアリ密会”的な? 思わぬ収穫が出来ると思わない?」
桐生は緊迫した状況を目撃しているにもかかわらず、己の好奇心優先でカメラモードにしたスマホを向け、撮影を開始。
音を出さないように設定し、何枚も写真を撮りまくる。遠目からの写真だけじゃ飽き足らず、ズームアップして新の顔も撮影。
『よしよし、良い感じ。じゃあ、次はコスプレ独眼竜を……』
桐生がバサラの顔にピントを合わせ、ズームアップした……刹那―――バサラの鋭い眼力が桐生を捉えた……!
『――――っ⁉』
突然、バサラと眼が合った事に動揺したのか……桐生は反射的にスマホを下げた。
『……い、今、眼が合った……? 嘘よね……あの距離で普通気付く……?』
何かの間違いよねと言い聞かせ、桐生は再度スマホを向けた。今度は慎重に、バレないようにと静かに一連の動作を
まるで自分達の居場所を見透かしているかのように……っ。
そこまでされて、ようやく桐生は確信した……!
『ヤバい……っ、バレてるわ、これ……っ!』
一刻も早く逃げようと考えを
「
バサラが大声を上げ、付近の石を拾って
そのせいでバサラだけでなく、新にも気付かれてしまった……っ。同じく新も桐生達の姿を見て気が動転する。
「―――っ⁉ 桐生っ⁉ お前ら、
「だから言ったろ、竜の字? テメェらが守りたがってる
口の端を吊り上げ、鋭い眼力で桐生達を睨むバサラ。桐生達は蛇に睨まれた蛙のように動けなかった……。
『ちょっ、どうしよう……っ。足が震えて動かないんだけど……』
桐生だけでなく村山と片瀬も動けず、悲鳴を上げる事すら出来ない……。そんな状態の3人にもバサラは一切の容赦を与えない。
「こんな時、テメェならどうする? 竜の字」
そう言った矢先、バサラは持っていたナイフを桐生達に向かって投げつけた……!
新は目を見開き、考えるよりも先に足を動かした。投擲されたナイフは桐生の眼前にまで迫る……!
刹那―――新の伸ばした右手にナイフが突き刺さり、桐生達は無傷で済んだ。しかし……代償として衝撃的な現場を目撃されてしまった……っ。
「「「―――――っ!」」」
ショックのあまり村山と片瀬はその場でヘタリ込んでしまい、桐生はただ愕然と固まるのみ……。
新は右手を貫通したナイフを抜き取り、それをバサラに向かって投げ返すが、バサラは難無くキャッチする。
「……なに考えてんだ、お前は……っ!」
新が怒気を
「そいつらは出歯亀してたんだぜ? テメェらの立場でメディアとかにバレんのはマズいんじゃねぇのか? だから、テメェの代わりに始末しといてやろうと思ったまでだ。しかも、俺が親切に忠告してやったってのに……見事に無視しやがった。それが
「たとえ、そうだとしても……ここまでするのかっ⁉」
「前にも言ったよな、
新とバサラのやり取りに、桐生は視線を交互に泳がせる。
『これ、何がどうなってんの……? 巻き添えとか、死ぬとか、かなり危険な言葉が飛び交ってるんだけど……っ』
未だに状況が理解できず、頭が混乱する桐生。新は
『本当にコイツは何処までも
バサラの放つ
そんな事を考える中、更に最悪の事態が……っ。
「おー、いたいた。あれが
突然、割って入ってきた声の方向に視線を向けると―――そこには魔法使いのローブのような物を着込んだ男が複数人いた。しかも敵意を
ただでさえマズい状況が、より最悪の方向へ落ちる……っ。
魔法使い達の登場に新は激しく動揺し、桐生は更に混乱する。
『――――っ! 魔法使いだと⁉ どうやってここに⁉ しかも、こんな時に最悪だ……っ!』
『今度は魔法使いのコスプレ? 何なの、竜崎ってコスプレイヤーに恨まれてるの……?』
混迷する状況の中、新はとにかく桐生達の安全を最優先させた。桐生に耳打ちする。
『……桐生、村山と片瀬を連れて逃げろ。ここを離れて何処かに隠れてろ。あいつらは俺に用事があるみたいだからな』
『え? やっぱ何か遭ったの? あのコスプレ軍団と』
『さっきも言った通り、女の入れる話じゃないんだ。……こんな事に巻き込んで悪かった。
新の真剣な表情と勧告に桐生は
彼女達が逃げるまで新はバサラ及び魔法使い達を睨み付け、自分に意識を向けさせる。
「仲間を庇うか、
「ハハッ! 報告通りだっ! 甘っちょろいんだな!」
「だが、協会が出した若手悪魔のパワーでのランクはSS! 破格なんてもんじゃない!」
嘲笑うように喋ってくる魔法使い達に新が訊く。
「お前ら、はぐれ魔法使いか。いったい何をしに来た?」
「俺達を追放したメフィスト理事の協会がお前達若手悪魔にランク付けをしたんだよ。だから、作戦ついでにどんなもんか試したくなったのさ」
「作戦だと?」
新校舎で誰が魔法使いの相手になっているのか……?
新達のクラスは男女共に体育、男子はグラウンドで女子は体育館。3年の朱乃か、教諭のロスヴァイセ、もしくは生徒会の面々か……。
そこまで考えた時、嫌な予感に行き当たる……!
新校舎にあるのは1年生の教室……。最近聞かされたフェニックス関係者を狙う魔法使い……。奴らの語った作戦……。
「――――ッ! まさか、レイヴェルが目的かッ!」
新の叫びに魔法使い達はゲラゲラとせせら笑う。
「ま、そういう事で」
「キミはとりあえず、ここで足止めついでに俺達の相手でもしてちょーだいな」
魔法使いの1人が手元に魔法陣を展開させ、新に炎の一撃を繰り出してくる。新は直ぐに鎧を発現させ、飛んできた炎を殴って霧散させる。
「ふざけんなよ……っ、クソどもが……っ!」
憤怒にまみれた新が前方へ飛び出し、魔法使いの1人に殴りかかるが―――その際、横から氷の
もう1人の魔法使いが展開した魔法陣から出てきた氷の礫が、新の全身に重く突き当たってくる。
しかし、新はそんな事など意に介さなかった。冷静さを失ってるゆえか……。
止まらない新の勢いに魔法使いは驚き、防御魔法陣を展開するが―――バリンッと
新はその勢いのまま、魔法使いの1人を顔面から殴り飛ばし、魔法使いは後方に大きく吹っ飛んで木に叩き付けられた。
未だに新校舎から炸裂音が響いてくる……。時間は掛けていられない……!
残った2名の魔法使いが戦意を高めようとした時、彼らの耳元に小型の魔法陣が出現した。
形状からおそらく連絡用の魔法陣だろう。2人の魔法使いは情報に耳を傾け、嫌味な笑みを浮かべて構えを解く。
そのまま倒れた魔法使いを
「待ちやがれ!」
新は追おうとするが、奴らは「また遊んでくれよ!」と不快な言葉を残して、転移の光と共に消えていった。
逃げられた事に苛立つ新。直ぐに高みの見物をしていたバサラをキッと睨み付けるが、バサラは嫌味な笑みを浮かべて言う。
「おいおい、竜の字ィ。今ここで俺に八つ当りしてる暇があんのか? テメェらは
煽るバサラに、新は一層歯軋りを強くする。
「結局テメェはメンタルに関してはその程度なんだよ。目先の敵や感情を優先させて、肝心な部分を見落とす。今もそうだ。さっきの魔法使いども、テメェの連れが目的だったんじゃねぇのか? テメェの落ち度を俺にぶつけてる暇は
何処までも腹立たしい言い草だが、確かにここでバサラに構ってる暇など無い……っ。新は舌打ちをしながらも新校舎の方へ走っていった。
バサラはそんな新の背中を見届け、ハァと溜め息を吐く。
「綺麗事だけでやっていける程、この世界は甘くねぇんだよ。アホが」
―――――――――――――
魔法使い達との戦いを抜けて、お互いに合流した新と一誠。
一誠の方も魔法使いに襲われ、松田と元浜を巻き込まないように人気の無い場所に移動して応戦したようだが……今は新校舎の方が気掛かりだ。
来る途中に確認しただけでもかなりの被害が出ており、校舎のいくつかの場所が破壊されていた。窓際も消し飛び、校庭にも穴が空いている。
嫌な予感しかしない……っ。
新と一誠は1年生の教室―――小猫達のもとに急いだ。
教室前の廊下は激しく破壊され、廊下の窓側が大きく穴を開けられており、外が丸々一望できる程にまで変わり果てていた。外気も容赦なく吹き込んでくる……。
廊下に小猫達のクラスメイトらしき女子が1人ヘタリと座り込んでいた。他の1年生達は教室の扉から
新は廊下に座り込む1年生女子に歩み寄り、話し掛けた。
「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
その女子は世にも恐ろしげな体験をしたかのように呆然として、全身を
……魔法使いに襲撃されて、怖い目に遭えば無理もない。
「一誠さん! 新さん!」
「何よコレ……ヒドッ……!」
隣の教室から飛び出してきたのは渉と祐希那。2人に気付いた一誠は、呆然と座り込んでいる1年生女子を介抱するように言う。
渉と祐希那が1年生女子を介抱している最中、新と一誠は教室に視線を送るが……小猫、ギャスパー、レイヴェルの姿は見当たらない。
意識が
「……変なヒト達に、私捕まって……小猫さんとギャスパーくんとレイヴェルさんが私を助けるために……」
『『――――っ!』』
「小猫ちゃん達、魔法使いみたいな格好したコスプレのヒト達と光に包まれて、急に消えたんです!」
教室の扉から廊下の様子を
どうやら小猫、ギャスパー、レイヴェルはクラスメイトを守る為に行動を起こしたが、先程の女子を人質に取られてしまい―――そのまま連れていかれたようだ……っ。
ガンッ!
一誠は
『……チクショウ……ッ! 俺はリアスの留守も、大事な後輩も守れていなかった……ッ! 全部……
魔法使いの目的とは、いったい何なのか……?
―――――――――――――――
『あ~あっ、イッセー先輩。やっぱ何にも守れてないじゃん? 僕にあれだけ偉そうに言っといてさぁ、結局三流っぽい奴らに出し抜かれてるよ。ザマァないね。本当なら僕があの場で大暴れしても良かったんだけどね~。暴れたら暴れたでうるさいだろうし。でもさぁ、こういう時に限って何も出来ないって情けないよね~♪』