ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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やっと投稿できました……。しかも、これが新年初投稿ですm(_ _)m


悪党より一般人(パンピー)の方が性質(タチ)が悪い

「竜崎、あのコスプレ独眼竜と知り合いなの?」

 

 桐生が(いぶか)しげに(うかが)い訊いてくるが、新の耳には全く届いてなかった。

 

 今の新は目の前の男―――バサラ・クレイオスの登場に動揺しきっており、心の余裕など無かった。

 

 そんな新を尻目にバサラは1歩、また1歩と近付いてくる……。

 

「相変わらず真っ昼間っから女を(はべ)らせてやがんな、竜の字。そこんところはちっとも変わっちゃいねぇ」

 

「…………っ」

 

「まだまだガキ臭さが抜けてねぇ。だいたいテメェはこんな所で油売ってる暇があんのか? そんな腑抜けてやがるから、こんな風にズカズカと入り込まれるんじゃねぇの?」

 

「…………っ」

 

「おーい、話聞いてんのかー?」

 

 一向に言葉を発しない新に、バサラは眉を寄せてチッと舌打ちをする。そんな中、桐生がバサラに(たず)ねてきた。

 

「ちょっとちょっと、そこの独眼竜コスプレの人」

 

「あ? 俺の事か、何だ?」

 

「あんた、竜崎の知り合いなの? どういう関係?」

 

 興味本位で聞いてきたのだろう。バサラは桐生や村山、片瀬に視線を移し、直ぐに彼女達が何の異能も持たない一般人だと見破る。

 

『……典型的な一般人(パンピー)気質か。何の能力も技術も()ェ。野次馬精神丸出しで絡んできやがる。おまけに戦う(すべ)も知らねぇような体つきだ。……竜の字の周りにはこんな奴らがゴロゴロしてやがんのか』

 

 バサラは心の底から新の生活環境に腹を立て、ポリポリと頭を掻く。どうしてやろうかと思った矢先、新が桐生に告げる。

 

「……桐生、悪いな。ここから先は女の入れる話じゃないんだ。村山と片瀬を連れて体育館に戻っててくれ」

 

 新の真剣な勧告に桐生は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべる。

 

「なになに? いきなりシリアスな顔しちゃって。この独眼竜コスプレと何か遭ったの?」

 

「……頼む。話なら後でいくらでも聞いてやるから」

 

 新は桐生達に頭を下げ、人気(ひとけ)の無い場所まで誘導しようと歩いていく。バサラはその様子を見て口の端を吊り上げ、桐生達に“一応の”警告を(うなが)す。

 

「そういうわけで、ここからは大人の話だ。ガキや女の出る幕じゃねぇってこった。さっさと帰りな」

 

 バサラは(きびす)を返して、新のあとを追っていく。何とかバサラの気を逸らしたのだろうが……それは大きな間違いだった。

 

 何故なら……バサラは既に見破っていたのだ。桐生がこの後、好奇心から自分達を尾行してくるであろう事を……!

 

『弱い奴に限って、面白半分で厄介事に首を突っ込む(やから)が多いんだよ。特に戦う術を持たない野次馬どもがソレだ。あのメガネの女からも同じ匂いがしやがった。しっかし、日和(ひよ)った平和主義者(アホ)どもに弱っちい一般人(パンピー)……こんな連中との暮らしが大事なのかよ、竜の字。俺らみてぇな悪党どもはなぁ、テメェらの都合なんぞに譲歩も妥協もしねぇんだよ』

 

 

――――――――――――

 

 

「うむむ……いつになく真剣な竜崎ね。あの独眼竜コスプレと何かあるのかしら?」

 

「ど、どうする? 桐生さん」

 

「やっぱり、先生に相談した方が……」

 

「い~やっ、こんな怪しさプンプンの雰囲気を見せられて引き下がれるわけないでしょ。勿論、尾行してやるのよ。運が良ければ竜崎の秘密とかもバッチリ聞けそうじゃない?」

 

「「そ、それはそうかもしれないけど……っ」」

 

「はい、決まりっ。それじゃあ完全に見失わない内に、あとを追うわよ」

 

 

――――――――――――

 

 

 新はどうにか校内の敷地、人気(ひとけ)の無い林の中にバサラを引っ張ってきた。到着して早々、新が怒気を孕ませてバサラに問い(ただ)す。

 

「……お前、何しに来た? しかも堂々と姿を見せやがって……! この辺りは結界が張られている筈だぞ……っ⁉」

 

 新の言う通り、駒王町(くおうちょう)周辺には以前にも増して強力な結界が張られている。だが……バサラ・クレイオスはそんな理屈や常識が通用する相手ではない。

 

 バサラが軽く笑い飛ばしながら言う。

 

「ハッ、あんな薄っぺらい結界は俺にとっちゃザルと同じだ。張ってあろうが無かろうが関係ねぇ」

 

「チッ……相変わらずの常識ブレイカーめ……っ! とにかく失せろ! ここはお前みたいな奴がホイホイ立ち入って良い場所じゃねぇんだよ!」

 

「おいおいっ。せっかく良い情報(ネタ)を掴んできたから、教えてやろうと思ってワザワザ来てやったんだぜ? 俺を毛嫌いすんのも大概にしとけよ」

 

情報(ネタ)だと? 何の話だ?」

 

 不機嫌な面構(つらがま)えでバサラを睨む新に対し、バサラは欠伸(あくび)をしてから話し始める。

 

 しかし、話される内容は驚愕一色に包まれるものだった……っ。

 

(しばら)くの間、俺達は『禍の団(カスタード・プリンゲート)』どもの討伐を保留する事にしたからよ。良い情報(ネタ)ってのはソレだ」

 

「―――――っ⁉」

 

 なんと、あれだけ『禍の団(カオス・ブリゲード)』の討伐を推奨していたバサラ―――否、造魔(ゾーマ)がいきなり討伐の保留宣言をしてきたのだ……!

 

 あまりにもデタラメでメチャクチャな造魔(ゾーマ)の動向に、新は反射的に声を荒らげた。

 

「な……っ⁉ どういう事だ⁉ お前らは『禍の団(カオス・ブリゲード)』を潰すんじゃなかったのか⁉」

 

「珍しいじゃねぇか、竜の字。テメェが俺を当てにするなんてよぉ?」

 

「いや、そういうわけじゃ……。そもそも、お前ら『造魔(ゾーマ)』は『禍の団(カオス・ブリゲード)』を潰すよう依頼を受けてるんだろう? 依頼人の意に(そむ)くような事をしたら糾弾されるんじゃねぇのか」

 

 新のもっともな質問に対し、バサラは不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「実はな……以前、テメェらが取引を蹴ったお陰で造魔(ウチ)の稼ぎも上がってんだよ。まあ、相乗効果ってヤツだ」

 

「相乗効果?」

 

「ああ、『禍の団(カステラ・ブリ大根)』の残党どもが魔法使いと組んで、各地で不穏な動きを見せてるのは知ってるよな? 俺らが出向いた際、完全には討伐せず―――“敢えて”泳がせておくんだよ。理由は単純、依頼人からの報酬を増やす為だ。テメェら三大勢力よりも先に情報を掴み、奴らが逃亡するまで追い込みを掛ける。そうしておけば、テメェらの無能っぷりを証明し、流れてくる客も新規の依頼も確保できる。もっと欲を言えば、奴らの動向を(さぐ)って横から大元を(かす)め取る。テメェらが出てくれば、奴らを(スケープゴート)にすりゃ良い」

 

 三大勢力の評価を削りつつ依頼の数を増やし、追い込んだ『禍の団(カオス・ブリゲード)』を身代わり役に仕立てる―――要するに、“漁夫の利”商法のようなものだろう。

 

 わざと逃がし、泳がせておけば『禍の団(カオス・ブリゲード)』と魔法使い達の目的を割り出し(やす)くなり、催促するように依頼者からの報酬も増やせる。そして、頃合いを見て『禍の団(カオス・ブリゲード)』の計画を根刮ぎ奪い、自分達が引き継ごうとする。

 

「勿論、その計画に興味が湧かなかったら三大勢力に売り飛ばせば良い。テメェらも有力な情報は喉から手が出るほど欲しいだろ?」

 

「散々引っ掻き回した挙げ句、無価値と判断すれば即座にポイ捨て。オマケに三大勢力に“奪った計画”とやらを売り渡す事で、無理矢理貸しを作らせて不穏の火種を撒き散らすのかよ……ゲスいやり方だ……っ!」

 

「そんなもんだぜ? 今時(いまどき)の悪党なんてものはよぉ」

 

 新の毒づきも意に介さず、いけしゃあしゃあと言い切るバサラ。コートのポケットからタバコを1本取り出し、火を点ける。

 

 フーッと煙を吹かした直後、話を続ける。

 

「まあ、テメェらが俺達との取引を蹴った時点で後手(ごて)戦法しか取れなくなったって事だ。要するにテメェらはチャンスをドブに捨てた、それだけの話だ」

 

「そんな嫌味を言う為だけにワザワザ現れたってのか……⁉」

 

「いや、肝心なのはここからだ。いま俺が話したのは―――あくまで組織的に俺達との取引を蹴った末の結果。だが……個人的な取引なら話は別だ」

 

 “個人的な取引”と言うワードに新は(いぶか)しげに目を細め、バサラが再びタバコの煙を吹かす。

 

「良いか、竜の字? これが本当の意味で最終勧告だ。奴らを一掃したけりゃ―――造魔(こっち)に来い。俺がケツ持って兵隊も貸してやる。テメェらが縄張りを、この町を守りてぇと抜かすなら“本物の力”を手に入れろ。チンケな小悪党なんざ数秒で握り潰せる―――かつて俺と同じ釜の飯を食ったテメェなら分かる筈だ。いつの時代にも勘違いで調子付いた小悪党は腐るほど出てきやがる。そんな奴らを抹消するには徹頭徹尾()るしかねぇんだ。テメェらの信念は何もかも半端過ぎるんだよ。生かすなら最期まで生かせ、()るなら徹底的に()れ。恨まれようが、(さげす)まれようが、憎まれようが関係ねぇ。火消しと同じだ。いくら水をぶっかけようが火元を消さねぇ限り―――炎は絶えず燃え続ける。竜の字、テメェは守りたがってるモノを小悪党なんぞの放った火で焼き尽くされてぇのか?」

 

「――――っ」

 

 一言一句、的確に(マト)を射ているバサラの言葉に新は反論できなかった……っ。

 

 確かにその通り、『禍の団(カオス・ブリゲード)』は消滅しておらず、未だに活動を続けている。はぐれの魔法使いとも組み始め、不穏な動きも見せてきている。

 

 後手(ごて)に回りっぱなしでは、いずれ足元を(すく)われ―――最悪寝首を掻かれる事になるかもしれない……。

 

 新も、グレモリー眷属も、三大勢力も最近は保守に専念し過ぎている。壁を張っても、相手がそれ以上の力と物量で仕掛けてくれば容易(たやす)く崩壊する。

 

 敵が流れに乗ってしまう前に、その流れを()き止めるのがベストだろう。新は今まさにそのベストな選択を掴める距離に居るのだ。

 

 掴める距離に居て、掴める手綱(たづな)が目の前まで来ている……。そこで取らない等と言う選択肢は普通ならば到底考えられない。

 

 新は唇を噛み締め、迷った……。

 

「……それでも、それでも俺は……っ」

 

「…………」

 

 新が迷うこと数秒、バサラはハァと溜め息を吐いてタバコを足元に捨て、そのまま足で踏み潰す。

 

「それでも譲れないモノがあるってか? なら、この話は無しだ。迷いっぱなしのテメェじゃ答えなんぞ出てきやしねぇ。腕は立つくせにそういうところだけ甘ちゃんに成り下がってんだな、竜の字」

 

「…………っ」

 

「良いか、これだけは覚えておけよ? テメェらが守ろうと抜かしてる平穏なんて(まが)い物は決して永遠じゃねぇ。いつかは終わりが来る 。リンゴが木から落ちるのと一緒だ。切っ掛けも無く唐突に終わりがやって来る。その時になって後悔すんのは誰でもねぇ、ノホホンと生きてるテメェらだ。そもそも―――」

 

 バサラはズイッと顔を近付け、新を見据えたまま言い放つ。

 

「あんな一般人(パンピー)どもを守って何になるんだ?」

 

「……っ。どういう意味だ?」

 

「さっきテメェが必死こいて庇って逃がした奴ら、ありゃ丸っきり素人(しろうと)の匂いだ。裏の事を全く知らねぇ典型的な一般人(パンピー)。異能どころか腕っ節すら立たねぇ、そんな連中を庇って何の意味があるんだっつってんだよ」

 

 バサラの無遠慮な言い分に新は青筋を立て始めた……。尚もバサラは非難し続ける。

 

「それにな、一般人(パンピー)ってのは俺達以上に性質(タチ)が悪い連中だって知らねぇのか? 物珍しいものには直ぐに食い付き、無責任な好奇心でちょっかい出してきやがる。蜂の巣を突っつくガキどもと同じだ。面白半分で(あぶ)ねぇ遊びに首を突っ込み、何か起これば自分は被害者ですと開き直る始末。自分(テメェ)(こうむ)った被害の責任を他人に押し付ける……それがテメェらの守りたがってる“日常”とかに住み着く寄生虫どもの本質だ」

 

「……っ! 桐生は……あいつらは異形とか、非日常とは無縁なんだよ! お前らみたいなバカどもが巻き込もうとするから―――」

 

「だったら、今ここに住み着いているテメェらは何だ? テメェらがここに居座るから俺達みてぇな悪党どもが(むら)がって来る羽目になるんじゃねぇのか? こうなる発端がテメェらにある事を棚に上げて、俺達を責め立てるってのは見当違いも(はなは)だしいんじゃねぇのか?」

 

 またもや痛いところを突かれた新は押し黙ってしまい、バサラが顔を離して数歩距離を取る。

 

「図星を突かれてダンマリかよ、形無(かたな)しだな」

 

 バサラはコートのポケットからナイフを取り出し、刃先を新に向ける。

 

「竜の字、俺は昔から言ってるよな? 意見が(たが)う場合、自分(テメェ)の我を通すにはどうすれば良いか。自分(テメェ)の信念を掲げるには何が必要か」

 

「…………っ」

 

「必要なのは“力”だ。どの時代でも、どの世界に於いても“力”の無い信念なんざ存在しねぇんだよ。テメェはここまで来てまだ分からねぇのか? 力無き信念は薄っぺらい氷と同じだ。何もしなくても勝手に()けて、少しの力で呆気なく割れる。そんなもん、クソの役にも立たねぇよ」

 

 

――――――――――――――

 

 

 ここで場面が桐生サイドに変わり、桐生達は十数メートル離れた木陰から新とバサラのやり取りを見ていた。

 

 やはり、好奇心から2人の様子を探っていたのだ。ただならぬ雰囲気に村山と片瀬の表情が強張(こわば)る。

 

 「ね、ねぇ……何かヤバそうな感じじゃない……?」

 

「だって、あれ……ナイフだよね……? 警察に言った方が良いんじゃあ……」

 

 村山と片瀬の助言を聞きつつも、桐生はカメラモードにしたスマホを向ける。

 

「ま、まあ、警察を呼んだ方が良いのは分かるとして……こんな特ダネ見逃す手は無いわ。“竜崎とコスプレ独眼竜のワケアリ密会”的な? 思わぬ収穫が出来ると思わない?」

 

 桐生は緊迫した状況を目撃しているにもかかわらず、己の好奇心優先でカメラモードにしたスマホを向け、撮影を開始。

 

 音を出さないように設定し、何枚も写真を撮りまくる。遠目からの写真だけじゃ飽き足らず、ズームアップして新の顔も撮影。

 

『よしよし、良い感じ。じゃあ、次はコスプレ独眼竜を……』

 

 桐生がバサラの顔にピントを合わせ、ズームアップした……刹那―――バサラの鋭い眼力が桐生を捉えた……!

 

『――――っ⁉』

 

 突然、バサラと眼が合った事に動揺したのか……桐生は反射的にスマホを下げた。

 

『……い、今、眼が合った……? 嘘よね……あの距離で普通気付く……?』

 

 何かの間違いよねと言い聞かせ、桐生は再度スマホを向けた。今度は慎重に、バレないようにと静かに一連の動作を(おこな)うが……ズームアップした途端、再びバサラの眼が桐生の方を睨んできた。

 

 まるで自分達の居場所を見透かしているかのように……っ。

 

 そこまでされて、ようやく桐生は確信した……!

 

『ヤバい……っ、バレてるわ、これ……っ!』

 

 一刻も早く逃げようと考えを(よぎ)らせ、その場を離れようとした刹那―――

 

出歯亀(でばがめ)たぁ、良い度胸してるよなぁっ!」

 

 バサラが大声を上げ、付近の石を拾って投擲(とうてき)。投げた石は桐生の足に直撃し、桐生は「痛っ!」と苦痛に満ちた声を上げてしまう。

 

 そのせいでバサラだけでなく、新にも気付かれてしまった……っ。同じく新も桐生達の姿を見て気が動転する。

 

「―――っ⁉ 桐生っ⁉ お前ら、()けてたのかっ⁉」

 

「だから言ったろ、竜の字? テメェらが守りたがってる一般人(パンピー)どもは俺達以上に性質(タチ)が悪いってなぁ」

 

 口の端を吊り上げ、鋭い眼力で桐生達を睨むバサラ。桐生達は蛇に睨まれた蛙のように動けなかった……。

 

『ちょっ、どうしよう……っ。足が震えて動かないんだけど……』

 

 桐生だけでなく村山と片瀬も動けず、悲鳴を上げる事すら出来ない……。そんな状態の3人にもバサラは一切の容赦を与えない。

 

「こんな時、テメェならどうする? 竜の字」

 

 そう言った矢先、バサラは持っていたナイフを桐生達に向かって投げつけた……!

 

 新は目を見開き、考えるよりも先に足を動かした。投擲されたナイフは桐生の眼前にまで迫る……!

 

 刹那―――新の伸ばした右手にナイフが突き刺さり、桐生達は無傷で済んだ。しかし……代償として衝撃的な現場を目撃されてしまった……っ。

 

「「「―――――っ!」」」

 

 ショックのあまり村山と片瀬はその場でヘタリ込んでしまい、桐生はただ愕然と固まるのみ……。

 

 新は右手を貫通したナイフを抜き取り、それをバサラに向かって投げ返すが、バサラは難無くキャッチする。

 

「……なに考えてんだ、お前は……っ!」

 

 新が怒気を(はら)んで問い(ただ)すと、バサラはナイフをクルクル回しながら答えた。

 

「そいつらは出歯亀してたんだぜ? テメェらの立場でメディアとかにバレんのはマズいんじゃねぇのか? だから、テメェの代わりに始末しといてやろうと思ったまでだ。しかも、俺が親切に忠告してやったってのに……見事に無視しやがった。それが一般人(パンピー)どもの本性なんだよ」

 

「たとえ、そうだとしても……ここまでするのかっ⁉」

 

「前にも言ったよな、一般人(パンピー)どもの都合なんざ考慮すんな。あいつらはくだらねぇ好奇心で他人様の事情に首を突っ込むクソどもだ。俺達のような悪党以上に無遠慮で無粋な連中、そんな(やから)の1人や2人―――巻き添え食って死んだところで自業自得だろうが」

 

 新とバサラのやり取りに、桐生は視線を交互に泳がせる。

 

『これ、何がどうなってんの……? 巻き添えとか、死ぬとか、かなり危険な言葉が飛び交ってるんだけど……っ』

 

 未だに状況が理解できず、頭が混乱する桐生。新は歯軋(はぎし)りしてバサラを睨み付ける。

 

『本当にコイツは何処までも(かん)(さわ)る言動をしやがる……っ!』

 

 度重(たびかさ)なる腹立たしさ、それはまるで金属やガラスを爪で引っ掻かれるような不快感と同じだった……。生理的に受け付けられない言動。

 

 バサラの放つ一言一句(いちごんいっく)が新から冷静さを失わせる……。しかし、桐生達だけは何としても安全圏に逃がさなければならない……。

 

 そんな事を考える中、更に最悪の事態が……っ。

 

 「おー、いたいた。あれが紫炎(しえん)(あね)さんが言ってたヤツか」

 

 突然、割って入ってきた声の方向に視線を向けると―――そこには魔法使いのローブのような物を着込んだ男が複数人いた。しかも敵意を(はら)んでいる。

 

 ただでさえマズい状況が、より最悪の方向へ落ちる……っ。

 

 魔法使い達の登場に新は激しく動揺し、桐生は更に混乱する。

 

『――――っ! 魔法使いだと⁉ どうやってここに⁉ しかも、こんな時に最悪だ……っ!』

 

『今度は魔法使いのコスプレ? 何なの、竜崎ってコスプレイヤーに恨まれてるの……?』

 

 混迷する状況の中、新はとにかく桐生達の安全を最優先させた。桐生に耳打ちする。

 

『……桐生、村山と片瀬を連れて逃げろ。ここを離れて何処かに隠れてろ。あいつらは俺に用事があるみたいだからな』

 

『え? やっぱ何か遭ったの? あのコスプレ軍団と』

 

『さっきも言った通り、女の入れる話じゃないんだ。……こんな事に巻き込んで悪かった。(つぐな)いは後でいくらでもするから、今はとにかく逃げてくれ』

 

 新の真剣な表情と勧告に桐生は只事(ただごと)じゃないのを察したのか、コクリと(うなず)いて村山と片瀬を立たせ―――その場から走り去っていく。

 

 彼女達が逃げるまで新はバサラ及び魔法使い達を睨み付け、自分に意識を向けさせる。

 

「仲間を庇うか、闇皇(やみおう)!」

 

「ハハッ! 報告通りだっ! 甘っちょろいんだな!」

 

「だが、協会が出した若手悪魔のパワーでのランクはSS! 破格なんてもんじゃない!」

 

 嘲笑うように喋ってくる魔法使い達に新が訊く。

 

「お前ら、はぐれ魔法使いか。いったい何をしに来た?」

 

「俺達を追放したメフィスト理事の協会がお前達若手悪魔にランク付けをしたんだよ。だから、作戦ついでにどんなもんか試したくなったのさ」

 

「作戦だと?」

 

 (いぶか)しげに思う新の耳に爆音が届いてくる。……新校舎の方からだった。地面も軽く揺れて、規模が大きい事を認識してしまう。

 

 新校舎で誰が魔法使いの相手になっているのか……?

 

 新達のクラスは男女共に体育、男子はグラウンドで女子は体育館。3年の朱乃か、教諭のロスヴァイセ、もしくは生徒会の面々か……。

 

 そこまで考えた時、嫌な予感に行き当たる……!

 

 新校舎にあるのは1年生の教室……。最近聞かされたフェニックス関係者を狙う魔法使い……。奴らの語った作戦……。

 

「――――ッ! まさか、レイヴェルが目的かッ!」

 

 新の叫びに魔法使い達はゲラゲラとせせら笑う。

 

「ま、そういう事で」

 

「キミはとりあえず、ここで足止めついでに俺達の相手でもしてちょーだいな」

 

 魔法使いの1人が手元に魔法陣を展開させ、新に炎の一撃を繰り出してくる。新は直ぐに鎧を発現させ、飛んできた炎を殴って霧散させる。

 

「ふざけんなよ……っ、クソどもが……っ!」

 

 憤怒にまみれた新が前方へ飛び出し、魔法使いの1人に殴りかかるが―――その際、横から氷の(つぶて)を大量に吹き付けられてしまう。

 

 もう1人の魔法使いが展開した魔法陣から出てきた氷の礫が、新の全身に重く突き当たってくる。

 

 しかし、新はそんな事など意に介さなかった。冷静さを失ってるゆえか……。

 

 止まらない新の勢いに魔法使いは驚き、防御魔法陣を展開するが―――バリンッと(はかな)い音を立てて、防御の魔法は新の一撃で粉砕される。

 

 新はその勢いのまま、魔法使いの1人を顔面から殴り飛ばし、魔法使いは後方に大きく吹っ飛んで木に叩き付けられた。

 

 未だに新校舎から炸裂音が響いてくる……。時間は掛けていられない……!

 

 残った2名の魔法使いが戦意を高めようとした時、彼らの耳元に小型の魔法陣が出現した。

 

 形状からおそらく連絡用の魔法陣だろう。2人の魔法使いは情報に耳を傾け、嫌味な笑みを浮かべて構えを解く。

 

 そのまま倒れた魔法使いを(かか)えて、足下に転移魔法陣を展開した。

 

「待ちやがれ!」

 

 新は追おうとするが、奴らは「また遊んでくれよ!」と不快な言葉を残して、転移の光と共に消えていった。

 

 逃げられた事に苛立つ新。直ぐに高みの見物をしていたバサラをキッと睨み付けるが、バサラは嫌味な笑みを浮かべて言う。

 

「おいおい、竜の字ィ。今ここで俺に八つ当りしてる暇があんのか? テメェらは一般人(パンピー)どもや日常、平和とかを守るってほざいてやがったよなぁ? ソイツをガン無視して俺なんかに目くじらを立てて良いのかぁ?」

 

 煽るバサラに、新は一層歯軋りを強くする。

 

「結局テメェはメンタルに関してはその程度なんだよ。目先の敵や感情を優先させて、肝心な部分を見落とす。今もそうだ。さっきの魔法使いども、テメェの連れが目的だったんじゃねぇのか? テメェの落ち度を俺にぶつけてる暇は()ぇ筈だろ? 三流ごときに足元を(すく)われてんじゃねぇぞ」

 

 何処までも腹立たしい言い草だが、確かにここでバサラに構ってる暇など無い……っ。新は舌打ちをしながらも新校舎の方へ走っていった。

 

 バサラはそんな新の背中を見届け、ハァと溜め息を吐く。

 

「綺麗事だけでやっていける程、この世界は甘くねぇんだよ。アホが」

 

 

―――――――――――――

 

 

 魔法使い達との戦いを抜けて、お互いに合流した新と一誠。

 

 一誠の方も魔法使いに襲われ、松田と元浜を巻き込まないように人気の無い場所に移動して応戦したようだが……今は新校舎の方が気掛かりだ。

 

 来る途中に確認しただけでもかなりの被害が出ており、校舎のいくつかの場所が破壊されていた。窓際も消し飛び、校庭にも穴が空いている。

 

 嫌な予感しかしない……っ。

 

 新と一誠は1年生の教室―――小猫達のもとに急いだ。

 

 教室前の廊下は激しく破壊され、廊下の窓側が大きく穴を開けられており、外が丸々一望できる程にまで変わり果てていた。外気も容赦なく吹き込んでくる……。

 

 廊下に小猫達のクラスメイトらしき女子が1人ヘタリと座り込んでいた。他の1年生達は教室の扉から怖々(こわごわ)と廊下の様子に目線を送っている。

 

 新は廊下に座り込む1年生女子に歩み寄り、話し掛けた。

 

「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」

 

 その女子は世にも恐ろしげな体験をしたかのように呆然として、全身を強張(こわば)らせていた。新の声も届いていないようだ。

 

 ……魔法使いに襲撃されて、怖い目に遭えば無理もない。

 

「一誠さん! 新さん!」

 

「何よコレ……ヒドッ……!」

 

 隣の教室から飛び出してきたのは渉と祐希那。2人に気付いた一誠は、呆然と座り込んでいる1年生女子を介抱するように言う。

 

 渉と祐希那が1年生女子を介抱している最中、新と一誠は教室に視線を送るが……小猫、ギャスパー、レイヴェルの姿は見当たらない。

 

 意識が(さだ)かではない状態であるものの、1年生女子はボソリと(つぶや)いた。

 

「……変なヒト達に、私捕まって……小猫さんとギャスパーくんとレイヴェルさんが私を助けるために……」

 

『『――――っ!』』

 

「小猫ちゃん達、魔法使いみたいな格好したコスプレのヒト達と光に包まれて、急に消えたんです!」

 

 教室の扉から廊下の様子を(うかが)う生徒が、新と一誠にそう伝えてくれた。

 

 どうやら小猫、ギャスパー、レイヴェルはクラスメイトを守る為に行動を起こしたが、先程の女子を人質に取られてしまい―――そのまま連れていかれたようだ……っ。

 

 ガンッ!

 

 一誠は(わだかま)る思いを抱えたまま、廊下に左拳を打ち付ける。同様に新も怒りと悔しさに体を震わせる。

 

『……チクショウ……ッ! 俺はリアスの留守も、大事な後輩も守れていなかった……ッ! 全部……バサラ(アイツ)の言う通りになっちまってるじゃねぇか……ッ!』

 

 (しばら)くして、眷属の仲間達と生徒会のメンバーが駆け付けてくる。1年生3人組以外は無事だったようだ。

 

 魔法使いの目的とは、いったい何なのか……?

 

 

―――――――――――――――

 

 

『あ~あっ、イッセー先輩。やっぱ何にも守れてないじゃん? 僕にあれだけ偉そうに言っといてさぁ、結局三流っぽい奴らに出し抜かれてるよ。ザマァないね。本当なら僕があの場で大暴れしても良かったんだけどね~。暴れたら暴れたでうるさいだろうし。でもさぁ、こういう時に限って何も出来ないって情けないよね~♪』


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