ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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リアス一行、ルーマニアへ発つ

 吸血鬼の来客があってから、数日が経過した。

 

 深夜にリアスが日本を()つ予定の日で、目的地はルーマニアの山奥らしい。

 

 その日、学校を終えた新はリアスの準備が(ととの)うまで、自宅の地下にあるトレーニングルームで筋トレをしようと足を運ばせていた。

 

 リアスの準備は女性陣がやっているので、男子の新は手持ち無沙汰(ぶさた)になってしまう。

 

 しかも、他の皆とやっている合同練習は吸血鬼との会談があってから休止状態。魔法使いとの書類選考も進めづらくなってしまった。

 

 昼間も学業があるのでスケジュールは過密。そんな中でも体が(なま)らぬよう、空いた時間に筋トレだけでもしておこうと言うことだ。

 

 新がトレーニングルームを開くと―――黒歌(くろか)とルフェイが先に入っていた。2人して床に座り、難しそうな分厚い本を広げている。

 

「何だ、お前ら来てたのか」

 

 新がそう謂う。

 

 あれ以来、彼女達はたまに(おとず)れるようになっていた。特に黒歌は勝手に冷蔵庫を開けて牛乳を飲んだり、ストックしていたチーズを食べたりしているらしい……。

 

 黒歌が勝手をする(たび)にルフェイが必死に頭を下げて謝る事になる……。

 

「お邪魔してます」

 

「にゃはは、お邪魔してるにゃん」

 

 キチンと挨拶するルフェイと、いつもの如く悪びれる様子も見せない黒歌。

 

 新が2人に近付き、開いている本を確認すると―――人体の図式と手から発するオーラのような絵が添えてあった。

 

 新が「何だこれ?」と訊くと、黒歌がにんまりしながら言う。

 

「生命に関する本にゃ。オーラとか仙術(せんじゅつ)とか闘気(とうき)の事とかのね」

 

「仙術に闘気か……。ん? 黒歌はそういう(たぐい)は得意じゃなかったか?」

 

 (たず)ねる新にルフェイが小さく笑いながら言う。

 

「妹さんにどうやったらよく教えられるか、本を見て研究されているんですよ」

 

 どうやら、ちゃんと姉として頑張っているようだ。黒歌が本の表紙をなぞりながら言う。

 

「仙術の基本は(おのれ)と他者と自然の気のあり方を把握する事。とにもかくにもまずは精神集中、静かに座禅を組んで己の気を緩やかにたゆたえて、周囲の気も認識する。基礎中の基礎だけど、これが成長するのに一番にゃ。なのでまずは座禅させてるんだけどねー」

 

「お前の事だから、わけの分からんものでもやらせるのかと思ったが……案外まともにやるんだな」

 

 新がからかうと黒歌は不満そうに口を尖らせる。

 

「ぶー、失礼にゃー。やるときゃやる女よ、私は」

 

「よく言うぜ。前は俺や小猫を毒霧で殺そうとしていたくせに」

 

 新のツッコミに対し、黒歌はウインクして可愛く回避しようとしていた。

 

「あれはほら、白音(しろね)に再会できた嬉しさでヤンチャしちゃったの♪ てへぺろにゃん♪ ほらほら、(あく)どいキャラがふとした優しさを見せるとコロッといくって言うでしょ? ねねね、リューくんも私にグッときたんじゃにゃいの~?」

 

「否定はしないが、お前が悪猫(わるねこ)なのは確かだろうが。……いつか小猫と本当に復縁しろよ」

 

 新の言葉に黒歌は瞳に(うれ)いを乗せる。

 

「そうねぇ……。けど、無理かもね。あの子の為を思ってやった事でも結果的に白音は私のせいで追い詰められたんだしさ」

 

 黒歌の言うように、彼女が元(あるじ)を殺したから……姉の罪を小猫が一身に浴びてしまった。挙げ句、処分まで検討された……。

 

 魔王サーゼクスが小猫を庇ったお陰で事なきを得たが……その後、精神的ダメージから復調して普通に生活を送れるようになるまで時間が掛かってしまった。

 

 心に傷を負った小猫は「姉に裏切られて、大勢の大人に責められた」と思っているだろうから、それは半分当たっている。

 

「確かに難しい事かもしれないな。……だが、その時が来たら俺もよりを取り戻すのに協力する。お前と小猫はこの世にたった2人の姉妹だからな」

 

 こう言う事情を聞いてしまえば、新は力を貸す事を惜しまない。小猫にも笑顔でいて欲しいから……。

 

 新の言葉に黒歌は一瞬目を丸くし、直後におかしそうに笑い出した。

 

「にゃははは。うんうん、にゃるほどねぇ。分かった気がするにゃ。そりゃ、みーんな惚れるわ。リューくんはイケメン以上のイケメンで魅力的よ?」

 

「そりゃどうも」

 

 ここでルフェイが話題を変えるように訊いてくる。

 

「魔法使いさん達との交渉はどうですか?」

 

「まあ、ボチボチだな。何せ人数が多いから書類選考でバンバン落としていってる」

 

「蝙蝠皇帝さまは大人気だそうですからね」

 

 そう言われるが、実際はリアスが一番大変そうにしていた。普段の仕事に加えて学業、『(キング)』としての役割をこなしながら魔法使いの事や吸血鬼絡みの事にも手を向けている。

 

 上級悪魔かつ『(キング)』になる事は―――眷属の事も全て抱えるのと同義。

 

 いずれなるかもしれない上級悪魔と『(キング)』の世界に一抹の不安を抱えながらも、今はリアスを支えて前に突き進むしかない。

 

 ふと、新はこんな事をルフェイに訊いてみる。

 

「なあ、俺がルフェイに魔法を習いたいと言ったら習得できるのか?」

 

 魔法使いと付き合っていくのであれば、少しは知識を(たくわ)えた方が有意義になるだろう。

 

 質問に対してルフェイが(うなず)く。

 

「どのような魔法を使いたいのか分かりませんが、悪魔の方でしたら、常人の方よりも異能に対して基本が作りやすいので、習得は努力次第で可能だと思います。ところで基本的な事ですが、魔力と魔法の違いはご存じですよね?」

 

「ああ、魔力はイメージしたものを発現するもの。魔法は術式で超常(ちょうじょう)現象を発動させるもの、だったな?」

 

「簡単に分けると、その通りです。魔力はイメージ力―――想像力と創造力が必要で、センスが問われます。魔法は術式を扱うだけの知識、頭の回転と計算力が必要になりますので、似ているようで全く違うものですね」

 

「知識と計算か……。頭の悪い俺じゃ厳しそうだな」

 

 「計算があまり必要ないものでしたら、習得は可能だと思います。たとえば、冷めたコーヒーを温かくする魔法や、簡単な透視の魔法などでしょうか」

 

 “透視の魔法”と聞こえた瞬間、新の目がキュピーン!と光る。彼にとってはタイヘンキョウミガそそられる話だ(笑)

 

 透視の話に頭が塗り替えられた新に、黒歌が説明を補足してくれる。

 

「つまりね。魔法ってのは『どうすれば、そうなるのか』と言う計算と知識がキチンと無いとダメって事にゃ。私にだって分からない現象があるし、そういうのは魔法で再現できないにゃ。よく解明されてないのに、センスと才能だけでそういうのをやれてしまう術者もいるけどね。それはチョーが頭に10個は付く非凡の類にゃ」

 

 ロスヴァイセが魔力よりも魔法を優先するのは、イメージするよりも計算した方が早いと言う事だ。覚えられるのはモノにもよる。

 

 使いこなす事は出来ないかもしれないが、基本的な魔法を1つか2つなら覚えられるかもしれない。

 

『今度ロスヴァイセやルフェイに聞いて、魔法を覚えるのも悪くないな』

 

 そう思った矢先、トレーニングルームにゼノヴィアが入ってきた。

 

「新、リアス部長がもう日本を発つそうだ」

 

「―――っ。予想よりも早いな。まだ夕方だぞ?」

 

「うん。天候が回復して、小型ジェットが飛べるようになったから早めに行くそうだ」

 

 新は黒歌とルフェイに「ちょっと出てくる」と言ってその場を離れた。

 

 

――――――――――――――

 

 

 地下にある巨大な転移魔法陣。そこにオカルト研究部のメンバーとソーナ会長が(つど)っていた。リアスと祐斗、アザゼルを見送る為である。

 

 吸血鬼―――ヴラディ家を訪問するには、まず日本―――ここから何度も魔法陣を介してヨーロッパまで飛ばねばならない。そこから専用の小型ジェット機をチャーターする。

 

 吸血鬼は独自の結界を張っており、いくつかの移動手段を駆使しないと彼らの王国に入国できないらしい。

 

 話では、ヨーロッパ―――ルーマニアまで魔法陣、そこから小型ジェット、更に車に乗り換えて山道を登るそうだ。よほど辺鄙(へんぴ)なところにあるのだろう。

 

 出発時間が早まったのは、あちらの天候が荒れていて小型ジェットが飛べなくなっていたのが、先程回復したからだ。予想よりも早く回復したので、今の内に飛んでしまおうと言う事になった。

 

 直ぐに飛べる魔法陣と違い、航空機は天気との勝負。移動の都合が小型ジェット優先なのは仕方がない事だ。

 

 荷物を持ち、魔法陣の中央に向かうリアス、祐斗、アザゼル。ヴラディ家を直接訪問するのはリアスと祐斗。アザゼルはカーミラ側に一度接触してからヴラディ家に向かう。

 

 リアスはギャスパーの事を抱き締める。

 

「……あなたの事は私が守ってあげるから、何も心配しなくて良いわ。ヴラディ家との事も私がキチンと話をつけてくるから」

 

「はい、部長……」

 

 リアスの抱擁に甘えるギャスパー。……リアスの母性が炸裂している。

 

 リアスは朱乃に顔を向ける。

 

「朱乃、あとは頼むわね」

 

「はい、リアス」

 

 一方で、一誠は祐斗と拳を打ち付け合う。

 

「部長の事、頼むぞ」

 

「勿論だよ」

 

 祐斗が居れば問題ないだろう。あちらで面倒事に巻き込まれたとしても……リアスの事を必ず守ってくれる。

 

 アザゼルの方はと言うと、ソーナ会長とロスヴァイセに笑みを向けていた。

 

「じゃ、学校の方、あとは頼むわ。ソーナ会長♪ ロスヴァイセ先生♪」

 

「「忙しいので早く帰ってきてください」」

 

「んだよ、つれない反応だ」

 

 2人の素っ気ない返事にアザゼルは不満げだった。

 

 もうすぐ年末なので、学校のスケジュールも既に年末進行。そんな時期に教師が1人いなくなるのだから、学校に深く関わっている2人にとってアザゼルの外交は素直に送り出せないものだろう。

 

 それにアザゼルの性格上、向こうで外遊なんて事もあり得る……。

 

 アザゼルが皆に伝えてくる。

 

「例のフェニックス関係者を狙っているって魔法使いどもが不気味だ。気を付けろよ」

 

『はい!』

 

 返事をする新達。その後、リアス、祐斗、アザゼルの3人は皆と最終確認と別れを述べて、遂に旅立つ事に―――。

 

 最後に新とリアスが視線を交わし、リアスが新のもとに歩み寄る。

 

「……行ってくるわね」

 

「ああ、良い報せを待ってる。何か遭ったら必ず駆け付けるからな」

 

「うん。分かってるわ」

 

 お互いに見つめ合い、手を取り、数秒だけ別れを惜しむ。

 

 3人は転移魔法陣の中央に並び、魔法陣の輝きが増してきた。

 

 朱乃が魔法陣の術式を最後に確認した後、転移の光が室内に広がり―――次に目を開けると、リアス達の姿は無かった。

 

 リアス、祐斗、アザゼルがいない間、残された新達は留守を守る。

 

 

―――――――――――――

 

 

「…………」

 

 その日の就寝時間、新は少し広くなったベッドの上で寝付けずに居た。

 

 先程見送ったばかりなのに、既にホームシックのような気持ちが押し寄せていた。

 

 ……と言うのも無理はない。リアスは毎日のように新と一緒に寝ていたので、居ないと分かった途端に寂しく感じてしまう。

 

 久しぶりにレイナーレ達をベッドに呼ぼうかと思った矢先、ドアがノックされた。

 

 ドアに視線を向ける新。すると、ドアを開けて入ってきたのは―――透け透けネグリジェ姿の朱乃だった。

 

「うふふ、今夜からしばらくお世話になりますわ」

 

「おお、朱乃。どうしたんだ?」

 

「リアスの代わりをしようと思って、ここに来ましたわ。では、早速―――」

 

 朱乃はベッドに歩み寄り、スルスルっとネグリジェを脱いでいく。

 

「……ひ、久しぶりですから、や、優しくお願いしますわ……。あと、明かりも消してもらえると嬉しいかも……」

 

 全裸となった朱乃は顔を真っ赤にして、情事OKとも取れる台詞を口に出していた。

 

 新はやや暴走気味の朱乃を(なだめ)めようとする。

 

「朱乃、落ち着け。気持ちはスッゲェ嬉しいけど、無理して俺を(なぐさ)めようとしなくても良いんだよ」

 

「え? だって、今夜からリアスの代わりをするのですもの……違うの? リアスと毎晩エッチしてるのかと……」

 

「ま、まあ、そう思われるのも分かるけどさ……俺達は結構平和に寝てるぞ?」

 

 新がそう言った途端に朱乃は当惑気味の表情となる。どこまで覚悟をしていたのだろうか……?

 

「あらあら、困りましたわ。私、覚悟と準備を整えて今日に臨みましたのに……てっきり、激しくされるのかと思ってしまいましたわ」

 

 そう言うと朱乃は全裸のまま、ベッドの中に入り込み―――手を広げて新を迎え入れる格好となる。

 

「じゃあ、普通に寝ましょうか♪」

 

「今さっきまで普通に寝ようとしてなかったよな? ……まあ、良いか」

 

 朱乃は楽しそうに新の手を取り、自身の胸に誘導させていった。

 

 モッチリと柔らかなおっぱいに手が吸い付き、リアスとは違う感触に手が喜ぶ。

 

 新は次第に朱乃に覆い被さり、手だけでなく顔も朱乃のおっぱいに(うず)めていく。

 

 新が朱乃と視線を合わせると、途端に朱乃は(はかな)げな色を瞳に浮かべた。

 

「……あなたが死んだと思った時、私は全てが終わったと感じましたわ。頭が真っ白になって……記憶の中の新さんをずっとずっと思い返して、現実から逃げていたの……」

 

 新もその時の様子は聞いており、相当酷い状態だった。

 

 リアス以上に心の均衡が崩壊し、父親のバラキエルが駆け付けなかったら意識を戻す事も出来なかったそうだ。

 

『……俺が死んだかもしれない、それだけで朱乃をそこまで悲しませちまったんだよな』

 

 新はアザゼルから言われた言葉を思い出す。

 

『お姉さまって偽りの仮面を脱ぐと、朱乃の本質は男への「依存(いぞん)」だな。父親のバラキエル(しか)り、お前然り。2人の身に危険が及べば、あいつはまた意気消沈するだろう。だが、逆を言えば焚き付けてテンションを上げる事も出来る。なーに、甲斐性を見せてやれば良いんだ。お前ならどう言えば良いか、分かるだろ?』

 

 新は決意を固めた表情で朱乃に呼び掛ける。

 

「朱乃」

 

「―――っ。は、はい」

 

「俺は絶対に死なない。たとえ死にそうな目に遭っても……必ず、お前のもとに帰ってくる。だから、俺を信じろ。そして……リアスと俺の為に生きてくれ」

 

 新は体を起こし、朱乃を引き寄せて真剣に見つめる。

 

「俺と共に強くなろう。俺達と一緒に生きていこう」

 

 弱い部分があるのなら、一緒に強くなって乗り越えるしかない。新自身も……まだまだ弱いところがある。

 

 だからこそ、仲間と共に強く生きていく……!

 

 新の言葉を聞いて、朱乃はボロボロと涙を流した。

 

「……うん。うん、大丈夫だよ。私、新とリアス、そして皆の為に生きるから。私、新と強くなる。ずっと一緒に生きるから……!」

 

 普段はお姉さまの朱乃だが、お姉さまの声音と態度を崩して普通の女の子の反応になると……殺人的な可愛さが発揮される。

 

 そして、アザゼルがその後に言った事も思い出す。

 

『でもな、言ったら最後まで責任持てよ? 朱乃は繊細で病み気味だから、一度そんな事言ったらずーっと(かたく)なだぞ? お前が死んだら、たぶん今度こそダメになるだろう。だから、絶対に死ぬなよ? 死んだら大変だぞ? だが、お前が死ななきゃ朱乃は今まで以上に強くなるさ』

 

 ……責任重大、絶対に死ぬような場面が許されない……っ。

 

 自分の首を絞めただけのように思えるが……決めた以上、やるしかない。

 

 朱乃は涙を(ぬぐ)い、いつもの笑顔と調子に戻った。その状態でこう言い放つ。

 

「はい。じゃあ、あとは私の体を新さんにお任せしますわ♪」

 

 またも魅惑の言葉を言い放った朱乃。そんな事を聞かされては男として引き下がるわけにもいかない。

 

 どのように楽しもうかと思った矢先、またドアが開けられた。

 

「……こんばんは」

 

 今度は小猫が登場。上に白ワイシャツだけと言うマニアックな状態だった。

 

「小猫、どうしたんだ?」

 

「……新先輩達と一緒に寝ます」

 

 小猫はツカツカと近寄り、新に抱き付いてきた。

 

「……新先輩の膝上をレイヴェルに取られてしまったので、先輩の抱っこだけは死守します」

 

 (リアス)が居ない間に、小猫まで大胆な事を言い出した……っ。

 

「あらあら、小猫ちゃんも大胆になりましたわね♪」

 

「……にゃ」

 

 小猫の甘えボイスにグッと来る中、今度はゼノヴィアとイリナが現れた。

 

「リアス部長が居ない隙にと思ったのだが……」

 

「わ、私はゼノヴィアに無理矢理連れてこられたのよ! こ、こんな夜這いだなんて主はお許しになられないわ!」

 

「いや、イリナ! リアス部長が居ない間に何とやらだ!」

 

 パジャマ姿の2人はドアの前に立ち、戦隊ヒーローのようなポーズを取っていた。

 

 リアスが出張に行った途端に皆が新の部屋に集結。普段からこういう傾向はあったが、『(キング)』たるリアスが居ない分、制御が利かなくなっている。

 

 さすがに暴走気味の娘達全員を相手には出来ないので、新は何とか会話を繋げようと考察する。

 

 そこで以前から疑問に感じている事を訊いてみた。

 

「前々から思っていたんだが、天使は堕天しないでどうやって人間との間に子供を作るんだ? 天使とのハーフは居るんだろう?」

 

 堕天使と人間の間に子供が生まれるように、天使と人間の間にも子供を生む事が出来る。その際に天使は堕天せず、生まれた子供も堕天使ではない。

 

 しかし、天使は肉欲に駆られると堕天してしまう。度々(たびたび)堕天しそうになるイリナや他の天使を見て不思議に思っていたのだ。

 

 ゼノヴィアとイリナは顔を見合わせ、ゼノヴィアが口を開いたと同時にパジャマの上着を脱いでいく。

 

「ああ、物凄く数は少ないが天使のハーフはいる事はいる」

 

「うん、いるわね。私も会った事あるよ」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナもノリでパジャマを脱ぎ始めた。

 

「だが、天使の子作りは制約が多かった筈だ。だろう?」

 

 パジャマの下も脱いだゼノヴィアがイリナに再度確認する。イリナも言いながらパジャマを完全に脱ぎきった。

 

「うん。その(おこな)いをする為に前もって準備しなきゃいけないものが結構あるわ。場所は特殊な結界で覆い、前夜に身を清めてお祈りをしなければならないし、(よこしま)な感情を(いだ)くのは勿論NG。常に信仰心を忘れず、聖人に等しい精神状態で臨まなければならないの。一度でも欲望に駆られてしまうとアウトよ。そして何より無償の愛を抱かないとダメ!」

 

 聞けば聞く程、たとえ新でも無理な状況だ……。人間側だろうと天使側だろうと、美女・美少女と子作り出来るとなれば堕天は必至。

 

 そうこうしてる間にゼノヴィアとイリナは遂に下着姿となった。真面目な話をしながらシュールな光景である……。

 

「……愛を抱くのに性欲無し、更に聖人のような精神で子作りって……無理ゲー過ぎないか?」

 

 新が渋い顔付きでそう(つぶや)くと、ゼノヴィアが(うなず)く。

 

「だからこそ、選ばれた者しか天使と交わる事が出来ない。同様に天使も欲に駆られず行為を完遂しないとダメだ。欲に溺れた時点で堕天する」

 

 要約すれば難易度高めのエッチ。新は勿論だが、イリナも難しそうな条件である。

 

 彼女も性的な場面に出くわすと、よく堕天の危機に(おちい)ってしまう。―――その割には下着姿になっているが……。

 

「イリナには無理かな?」

 

 ゼノヴィアが新の心中を代弁するようにイリナに言うと、イリナは口をへの字に曲げていた。

 

「……お、幼馴染みだから、越えられる壁ってあると思うもん!」

 

「ああ、そうだったな。そう言えば幼馴染みだったか」

 

「もう、ゼノヴィアったら! 私は天使の限界に挑戦する事にしたの!」

 

「だいたいお前はどうして新に言い寄る? 私は三大勢力の和平会談以降、相手はコイツのみだと心に決めた。いや、それ以前からだ。私を守る為に剣護(けんご)さんの前に立ちはだかる! 並の男子では出来ない事だぞ?」

 

「わ、私は……っ!」

 

「イリナ、ノリと勢いで好きになった感は(いな)めないな?」

 

「ち、違うもん! 格好良いからだよ!」

 

「動機が弱いな! 友達の相手を好きになったようにしか思えん!」

 

「最近、思い出したのよ! ちっちゃい頃、新くんが約束してくれたの!」

 

 イリナにそう言われて「(ハテナ)」状態の新。小さい頃に何を約束したのだろうか……?

 

「とにかくだ、イリナ。今回は私と新の背後で光力を発揮していてくれ! 私は右の乳を見せたら、左の乳も見せる気構えで臨むぞッ!」

 

「ゼノヴィアのバカ! 私は電球じゃないもんッ! 修学旅行の時とは違うの!」

 

 また2人の低レベル合戦が始まってしまった……。

 

「うふふ、私は悪魔で堕天使ですもの。何も心配ありませんわ」

 

 朱乃は再び新の手を掴んで、自分の胸元に持っていこうとする。辛抱(しんぼう)たまらない状況だ……。

 

「小猫さん! やっぱり、ここにいましたのね!」

 

 遂にはレイヴェルまで現れた。怒りを感じる足取りでベッドに向かってくる。

 

 レイヴェルは「……失礼致しますわ!」と言って、ベッドの片隅に横たわる。

 

「……ふつつか者ですが、ベッドの隅にいさせてもらいます! マネージャーですもの! 新さまの事を猫からお守りしますわ!」

 

 頬をプクーっと膨らませて小猫を威嚇するレイヴェル。対抗するように火花を散らす小猫。

 

「……鳥娘」

 

「……何よ、泥棒猫さん」

 

 もはやカオス、子作りどころではない……。

 

 朱乃もこの事態に諦めたのか、新の手をおっぱいから放す。

 

「あらあら、新さんのベッドは満員御礼状態ですわ。これでは、浮気は当面無理そうですわね」

 

「ああ、そうみたいだな……」

 

 新も苦笑いしてそう言った直後、バーンと部屋のクローゼットが豪快に開かれた。

 

 中から出てきたのは―――レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトこと堕天使3人娘だ。

 

「堕天使・イン・クローゼット~っ!」

 

 キャミソール姿のミッテルトが自信満々に言う。いつから隠れていたのだろうか?

 

 新が彼女達に問い(ただ)す。

 

「お前ら、いつからそこにいた?」

 

「最初からよ。私を()け者に出来ると思わない事ね」

 

「しかし、この状況では夜這いも難しいですね」

 

「まあ、良いわ。普通に寝てあげるわよ」

 

 大胆なビスチェ姿のレイナーレとカラワーナ、ミッテルトの3人も夜這い目的で来ていたようだ。

 

 ―――と言いつつ、今夜は平和に寝るしかない。

 

 

――――――――――――――

 

 

 リアスが日本を()って数日経った頃、新は駒王学園(くおうがくえん)でいつもと変わらぬ学校生活を送っていた。

 

 現在リアス達は無事にルーマニアに到着し、目的地まで移動しているのだが―――人里離れた場所に吸血鬼の住む領域があるので、そこまで移動するのが大変困難らしい。

 

 それだけでだいぶ時間がかかりそうだと定期連絡を貰った。今はリアス達を信じて吉報(きっぽう)を待つしかない。

 

 この時間、これから体育の授業があるので新はジャージに着替えてグラウンドに移動するところだった。ちなみに一誠は先に松田や元浜と共に向かっている。

 

 外は冬なので、グラウンドでの運動もキツくなってきた時期だ。いっそサボってしまおうかと悪い考えを(よぎ)らせた時だった。

 

「あっ、いたいた。竜崎~っ」

 

 新に声をかけてくるのはジャージ姿のクラスメイト―――桐生藍華(きりゅうあいか)

 

 彼女の後ろには同じくクラスメイトの村山仁美(むらやまひとみ)片瀬奈緒(かたせなお)もいた。

 

 体育の授業、男子はグラウンドで女子は体育館に割り振られている筈なのだが……。

 

「桐生? なんでここにいるんだよ? 女子は体育館で授業の筈だろ」

 

「いやいや、竜崎。この前の話についてまだ真相を聞かせてもらってないからね。このまま逃げられるのも(しゃく)だから、ちょっと強硬手段に出たってわけ」

 

 桐生がメガネをキラリと輝かせ、新に詰め寄っていく。新は逃げ道を探ろうとするが……村山と片瀬に行く手を(はば)まれてしまう。

 

 「さすがのアンタも、迫ってくる女子を無理矢理振り切るなんて真似は出来ないでしょ? さあ、洗いざらい吐いてもらうわよ」

 

「チッ……そう来たか。だがな、俺がそう簡単に口を割ると思ったら大間違いだ。こう見えて俺は口の堅い男だからな」

 

「ふっふっふっ、いつまでそんな強がりを言えるかしら?」

 

 桐生が何かを(たくら)んでいるかのような含み笑いを見せる。そして……こう切り出す。

 

「話してくれるなら―――この場でエロエロな事をしてあげても良いんだけどね~?」

 

「「「――――っ⁉」」」

 

 桐生の発言に新だけじゃなく、村山と片瀬も一緒に驚いていた。

 

 戸惑う村山と片瀬を尻目に桐生は話を続ける。

 

「さあ、どうするの? 洗いざらい話してエロエロな事をするか、それとも話さずに諦めるか」

 

「桐生……お前、案外汚い真似をしやがるな」

 

「竜崎相手に普通の追及なんか通用しないのは分かってんのよ。だったら、女の武器を使って聞き出すしかないじゃん?」

 

 桐生は悪戯な笑みを浮かべたまま、村山に近付いていき―――彼女の体を撫で回す。

 

「きゃあっ! き、桐生さん……っ⁉」

 

「ほらほら~、見てみなさいよ。村山っちの肉付き豊かなボディを。特にこのデカパイっ。こんなエロエロな巨乳で○○○○(ピー!)してもらったら男冥利に尽きるものじゃない?」

 

 ジャージ越しに村山のおっぱいを揉んだ桐生は、次に片瀬の傍まで歩み寄り―――彼女の太ももを撫でる。

 

「片瀬っちは乳のボリュームが劣るけど、その分ムッチリした太ももで男のアレを挟んで○○○○(ピー!)も出来るし、2人揃ってダブルの○○○○○(ピー!)ってのも捨てがたいんじゃない?」

 

「わ、私と仁美で○○○○(ピー!)……っ?」

 

 桐生が連ねる放送禁止用語に村山と片瀬は完全に茹で上がり、顔を真っ赤にする……。

 

 しかし、新はそれでも揺るがない。

 

「ソソソ、ソンナ事で俺が籠絡(ろうらく)スルトデモ思ってるのか? 2人に無理強(むりじ)いサセルノハ感心シネェナ」

 

「声が(うわ)ずってるわよ?」

 

「やかましい! 村山、片瀬。桐生の口車に乗る必要は無いぞ。だいたい外は寒いんだ。こんな寒い場所で出来るわけないだろ?」

 

「「…………構わない」」

 

 先程まで固まっていた村山と片瀬の口から信じられない一言が出てきて、さすがの新も「ファッ?」と間の抜けた声音を発してしまった。

 

 2人は意を決したような表情で告げてくる。

 

「私達も聞きたい……っ! いろいろ聞きたい! 竜崎くんは……リアス先輩が本命なの⁉ それともロスヴァイセちゃんが本命なの⁉」

 

「姫島先輩、ゼノヴィアさん、イリナさん、塔城小猫(とうじょうこねこ)さんにレイヴェルさん! その中で誰が本命なのか教えて! そ、そうしたら……どんなエッチな事でもしてあげる!」

 

 そう叫んだ後……村山が新の右腕を、片瀬が左腕をガシッと掴んでくる。彼女達の決意は梃子(てこ)でも動かないと言わんばかりのものだった。

 

 その様子を見ていた桐生はここぞとばかりに詰め寄ってくる。

 

「竜崎、2人がここまでしてくれてんのよ? エロエロマイスターなアンタが、この据え膳を放置するなんて出来る?」

 

「ぐ……っ!」

 

 桐生の一言に新の抑制心(プライド)が揺らぎ始め、桐生は更に畳み掛けてきた。

 

 ズイッと顔を近付け、(みずか)らジャージのファスナーを下ろそうとする。

 

「今なら村山っちと片瀬っちだけじゃなく、私も参加してあげるんだけどな~? 身体(からだ)には結構自信があるし、ぶっちゃけ興味もあるし。どう?」

 

 思わぬ形で背水の陣とも言える状況に追い込まれてしまった新。女性にここまで言われ、迫られてしまっては男として引き下がるわけにもいかない……。

 

 言いように動かされるのは(しゃく)だが、切り抜ける妙案も思い付かない。

 

 いっそ、このまま流されてやろうかと思った時だった―――。

 

「よぉ、相変わらず女を(たぶら)してやがんな、竜の字ィ」

 

 ……………………。

 

 ……それは、この日常では決して聞こえてはいけない声音だった。

 

 昼間の駒王学園はあくまで普通に通える学舎(まなびや)、そんな場所にまで入り込む筈が無いと思っていた……。

 

 だが、新が密かに(いだ)いていた考えは甘く―――呆気なく打ち砕かれた……っ。

 

 新は硬直し、桐生達が声の主の方に視線を向ける。

 

「え、誰、あの人?」

 

「コスプレの人?」

 

「やたら気合い入ってるわね。独眼竜(どくがんりゅう)的な?」

 

 村山と片瀬が怪訝(けげん)そうな表情を浮かべ、桐生も興味を示すように言う。

 

 新は息をする事さえ忘れ、視線をそちらに移す……。

 

 そこにいたのは紛れもなく、新が最も忌み嫌っている男だった―――っ。

 

「なに面白(おもしれ)ぇ顔してんだ?」

 

 バサラ・クレイオス―――っ。

 

 日常、平和、平穏が容赦無く壊される……っ。




エロエロな展開からの事態急変……。次回はヤバヤバっ⁉

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